中枢神経を刺激および/または測定する方法およびそのためのプローブ
【課題】対象となる生物のより本来に近い状態で中枢神経を刺激および/または測定できる方法およびそのためのプローブを提供する。
【解決手段】エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法が提供される。
【解決手段】エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経組織を刺激および/または測定する方法およびそのためのプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞レベルで中枢神経系の動態を調べる手法として、神経組織に直接プローブを刺しこんで、電気的および/または光学的な刺激を与えたり、電気信号を検出したり、または、光学像を観察する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ラット等の検体に脳内刺激を与え、その行動を観察することができる行動解析装置が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、マウスの脳組織内の神経細胞に蛍光タンパク質等を発現させて、脳組織内に挿入された微小なレンズを介して、生きたマウスにおける神経細胞を顕微鏡観察する方法が開示されている。
【0005】
このような方法では、対象となる生物の、生命活動を営む本来の姿により近い状態で観察することができる。そのため、組織切片標本や、培養細胞標本等を用いる方法よりも、切片化や部分化に起因する影響を極力排除でき、対象とする細胞や組織の本来の姿を観察および/または測定することができる。
【0006】
このような生存状態にある対象生物の中枢神経等を刺激および/または測定する方法では、その生物が通常の生命活動を営んでいる状態を極力維持することが重要となる。しかしながら、中枢神経組織の穿刺やプローブ等の挿入に起因して、望ましくない反応が当該組織に生じる。
【0007】
1つは神経組織の損傷の問題である。調べようとする細胞は組織表面にあるとは限らず、例えば大脳の下部に位置する海馬といったように、神経組織の深部に位置する場合がある。このような場合、プローブをその部位まで届かせるための経路として神経組織に深い穴を開ける必要がある。穴を開ける工程において、その経路に位置する多数の神経細胞や軸索が損傷を受ける。神経細胞や軸索が損傷すると、それらが担っていた中枢神経系の機能の一部が損なわれることとなる。すなわち、これは本来の中枢神経の機能が損なわれることを意味する。本来の状態を観察するという観点から、神経細胞や軸索の損傷がないことが理想的である。
【0008】
もう1つの問題は、グリア瘢痕の形成である。中枢神経組織が損傷を受けると、数日の内にその損傷部位にグリア瘢痕と呼ばれる組織が形成される。プローブのような異物が中枢神経組織に穿刺、挿入または留置された場合にも、同様のグリア瘢痕がプローブの周囲に形成される。グリア瘢痕は電気抵抗が高いため、電気プローブの周囲にこれが形成された場合、注目部位に電気刺激を与えたり、当該部位から電気信号を検出したりすることが困難となる。従って、特に電気プローブを用いる実験では、グリア瘢痕の形成を抑えることが望ましい。しかしなら、例えば電気プローブの材質、形状または穿刺速度を変えてもグリア瘢痕の形成は抑制されないことが知られている(非特許文献2)。なお、非特許文献2では、グリア瘢痕のことを"sheath"すなわち「鞘」と呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−222105号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Karl Deisseroth et al., The Journal of Neuroscience, 2006, 26(41):10380-10386
【非特許文献2】Vadim S. et al., Journal of Neuroscience Methods, 2005, 148:1-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成を抑制し、それにより、対象となる生物のより本来に近い状態で中枢神経を刺激および/または測定する方法、および、そのような方法に使用することができるプローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施態様によれば、エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法が提供される。
【0013】
また、本発明の別の実施態様によれば、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段とを具備するプローブが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成を抑制することができる結果、対象となる生物のより本来に近い状態で中枢神経を刺激および/または測定できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る方法の一実施態様を示すフローチャート。
【図2】本発明に係る方法の一実施態様を示す図。
【図3】従来の方法を示す図。
【図4】本発明に係るプローブが組織に穿刺された状態を示す図。
【図5】本発明に係るプローブの例を示す図。
【図6】本発明に係るプローブを示す図。
【図7】本発明に係るプローブの断面の一部を示す図。
【図8】本発明に係るプローブを示す図。
【図9】本発明に係るプローブを示す図。
【図10】本発明に係るプローブを示す図および断面図。
【図11】本発明に係るプローブを示す断面図。
【図12】本発明に係るプローブを示す断面図。
【図13】本発明に係る装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる方法は、エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織に穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含む方法である。
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施態様にかかる方法について説明する。
図1は、本発明に係る方法の一実施態様を示すフローチャートである。この方法では、まずラットやマウス等、対象とする生物の頭部の皮膚を剥がし頭蓋骨を露出させる(図1中1−1)。次に、頭蓋骨に穴を開けて脳を露出させる(1−2)。次に、頭蓋骨に開けた穴を介して、露出した脳組織に穿刺する(1−3)。次に、穿刺部位に、有効成分を投与する(1−4)。そして、穿刺した部位にて、エネルギー授受を行う(1−5)。
【0018】
頭蓋骨の露出および頭蓋骨に穴を開ける工程(1−1および1−2)は、当該分野において一般に行われる方法によって行うことができる。例えば、ケタミン等の麻酔剤およびキシラジン等の鎮静剤にてマウスを麻酔した後、頭部を剃毛し、正中線に沿って1−1.5cm程切開し、皮膚を切開部分から広げることで頭蓋骨を露出させることができる。その後、頭蓋骨の対象とする位置に医療用ドリル等で穴を開けることができる。
【0019】
露出した中枢神経を穿刺する工程(1−3)は、主に、その後に挿入されるプローブ等を、極力組織を破壊することなく目的部位まで到達させるために行われる。後に使用するプローブ等の先端が組織に対して十分尖ったものでない場合、それを組織に穿刺すると、破壊の程度がより深刻となることが予想される。これに対し、あらかじめ穿刺して形成した孔に沿ってプローブを挿入することで、更なる組織の破壊を抑制できる。この工程に使用される、中枢神経組織に穿刺しまたは孔を開ける手段(穿刺手段)は、組織を穿刺するために先端が十分に尖った物を使用することができる。例えば、中空の注射針もしくはチューブまたは中心の詰まった針等を使用することができる。その材質も、金属、プラスチックまたはガラス等、組織に穿刺するために十分な剛性を有するものを使用することができる。更に、目的とする部位に到達できるように、長さを適宜設定できる。また、例えば、損傷を与えてはならない特定の部位を回避できるような形状、例えば、湾曲した針状形状等であってもよい。
【0020】
穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与する工程(1−4)は、その後に行う組織への刺激の付与または組織からの情報の検出に阻害となるような生体反応を抑制するために行われる。そのような抑制は、有効成分を中枢神経等の組織に投与することで行われる。中枢神経組織を研究の対象とする場合、このような中枢神経修復効果を有する有効成分としては、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成に起因する問題を回避するために、神経組織の損傷からの回復を促進しおよび/またはグリア瘢痕の形成を抑制するような有効成分であればよい。
【0021】
このような有効成分の投与は、有効成分投与手段を用いて行われる。本発明にいう「有効成分投与手段」とは、後述するような特定の効果を奏する有効成分を中枢神経等の組織に投与するための手段を指す。例えば、有効成分投与手段として、注射針を使用することができる。この場合、注射針は、有効成分供給手段としての注射器等に接続されており、この有効成分供給手段から送り出される有効成分を、穿刺した目的部位に対して排出する。また、有効成分投与手段として、有効成分を塗布したまたは保持させた針または棒等を使用することもできる。この場合、有効成分は、特に針または棒の先端に塗布または保持されており、当該針または棒を、穿刺手段によって穿刺した部分に挿入し、目的部位に拡散させることで有効成分が投与される。また、注射針の内部を通して有効成分を投与させつつ、同時に、当該注射針の組織と接する面に有効成分を保持させ、拡散により投与させることもできる。
【0022】
この工程における投与によれば、有効成分は、直接投与された部位のみならず、拡散および/または自走によりその周辺部位に到達してもよい。「自走」とは、例えば有効成分が細胞である場合に、当該細胞が、直接投与された部位から、周辺部位等に移動することをいう(有効成分および当該細胞の詳細については後述する)。
【0023】
また、この工程にいう「穿刺部位」とは、穿刺手段によって穿刺した部分に限らず、穿刺予定の部位を含む。従って、「穿刺部位に、有効成分を投与する」ことは、穿刺手段による穿刺に先立ち、行われてよい。この場合、穿刺しようとする部位またはその近傍における組織表面に、有効成分を塗布または滴下することで、有効成分は、組織深部に位置する目的部位まで拡散および/または自走により到達する。そのため、本発明における「穿刺する」とは、最終的に刺激または測定のための手段が、対象部位としての細胞や組織の特定領域に対して最小限の侵襲ボリュームでもって刺激または測定可能に侵入する工程を広く意味する。
【0024】
穿刺した部位にて、エネルギー授受を行う工程(1−5)では、エネルギー授受手段を用いて、目的とする部位や細胞に刺激を与えおよび/または目的とする部位や細胞の情報を検出する。本発明において「刺激を与える」とは、細胞または組織の特定の部位に対し、主として、電気的な刺激を与えること、または、光による刺激を与えることを指すが、それらに限定されず、治療、診断、研究等の目的で特定の薬剤(但し、本発明の中枢神経本来の活性を維持するための修復効果を有する薬剤を除く)を穿刺した部位に対し供給することによる刺激や超音波による刺激など、当該分野において細胞や組織に対して行われるあらゆる刺激を与えることを含む。また、本発明において「測定」とは、刺激したり検出することによって最終的に医学的情報を含む情報を得ることを意味し、定性的測定でも定量的測定の何れでもよい。また、本発明において「検出する」とは、主として、細胞や組織にて発生した電気的信号を測定すること、または、細胞や組織に発現させた蛍光タンパク質などの生物学的発光を検出すること指すが、これらに限定されず、当該分野において細胞や組織にて行われるあらゆる検出を含む。従って、本発明において「検出する」という用語は、細胞や組織を「観察する」という意味を含む。また、「エネルギー授受手段」とは、組織や細胞といった対象とする部位に対し光または電気によるエネルギーまたは信号等を与えること、そのような部位からの光または電気によるエネルギーまたは信号等を検出すること、または、それらの両者を行う手段を指す。例えば、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極がこれに該当する。なお、当該分野において、一般に、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極のそれぞれを「プローブ」と称する場合があるが、本発明にて使用される「プローブ」という用語は、このような一般的な使用とは厳密には異なる。すなわち、本発明にて使用される「プローブ」とは、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極といった「エネルギー授受手段」を少なくとも含み、さらに「穿刺手段」および/または「有効成分投与手段」を任意に含むものを指す。従って、本発明にて使用される「プローブ」とは、「エネルギー授受手段」を含み「穿刺手段」および「有効成分投与手段」を含まないものであってもよく、または、「エネルギー授受手段」および「有効成分投与手段」を含み「穿刺手段」を含まないものであってもよく、または、「エネルギー授受手段」、「有効成分投与手段」および「穿刺手段」をすべて含むものであってもよい。本発明において「プローブ」という用語は、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極と同義に使用されず、少なくとも、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極といった「エネルギー授受手段」を構成成分として含むものを指すことに留意される。
【0025】
本発明の効果を図2および図3を用いて説明する。
図3は、従来のプローブを用いた中枢神経の刺激および/または測定方法の代表的例を示す図である。従来の方法では、プローブの挿入前に予め針等を組織に穿刺することなく、図3に示すように、刺激および/または測定用のプローブ10によって中枢神経組織1に対して穿刺が行われる(3−2)。その穿刺によって、神経細胞2の軸索4が切断され、軸索切断部7が生じる(3−2、図中破線で囲まれる部分)。プローブ10が穿刺に適した十分尖った構造をとっていない場合には、中枢神経組織1の損傷の程度は大きくなる。このような損傷に応答して、グリア細胞5は、活性化し(3−3)、プローブ10穿刺部および軸索切断部7を含む損傷部分に集合する(3−4)。集合したグリア細胞5は、(3−5)に示されるように形態変化を起こし(変性したグリア細胞12)、細胞間架橋が形成されグリア細胞同士が接着し、グリア瘢痕13が形成される(3−6)。プローブ10が電極プローブである場合、組織への電気刺激や組織からの電気の検出が、このグリア瘢痕13によって阻害される。また、プローブ10が光学プローブ(即ち、光ファイバーや顕微鏡対物レンズ等)である場合、グリア瘢痕13が介在することで観察自体が妨げられ、また、グリア瘢痕13の形成や軸索の切断により組織中の環境が変化し、本来観察すべき姿を調べることができなくなる。
【0026】
図2には、本発明の一実施態様にかかる方法が記載されている。本発明では、(2−2)に示されるように、穿刺手段6を使用して中枢神経組織1を穿刺する。この穿刺によって、軸索が切断され、軸索切断部7が形成されると考えられる(2−2)。その後、穿刺手段6を中枢神経組織1から抜き取り、有効成分投与手段8が挿入される(2−3)。なお、穿刺手段6と有効成分投与手段8とが一体化している場合(例えば、注射針等を用いる場合)には、穿刺と有効成分投与が一連の工程において行われてもよい。次に、有効成分投与手段8から、有効成分9が投与される(2−3、当該図中、有効成分投与手段8は断面図として表されている)。図示されるように、有効成分9は、投与された部位から、その周辺へと拡散および/または自走する。投与後、有効成分投与手段8は中枢神経組織1から抜き取られ(2−4)、次にプローブ10が挿入される(2−5)。このとき、有効成分の作用により、従来の方法で生じるようなグリア細胞5の集合は抑えられ、その結果グリア瘢痕の形成が抑制される。また、有効成分の作用により切断された軸索が修復される(修復済み軸索11)。これにより、穿刺以前の中枢神経の環境の状態、すなわち本来の中枢神経の環境により近い状態で、プローブ10によって電気刺激の付与または検出や、光学像の検出等を行うことができる。
【0027】
本発明における方法において、対象となる組織は中枢神経組織である。すなわち、中枢神経組織とは、脊椎動物においては脳および脊髄の組織である。中枢神経組織を有する生物であれば、あらゆる生物に対して本発明を使用することができるが、脊椎動物の中枢神経組織を使用することが好ましい。特に、哺乳類動物の中枢神経組織を使用することが好ましい。具体的には、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコおよびブタ等を使用することができる。
【0028】
本発明において、有効成分は、特に、中枢神経修復効果を有する有効成分である。ここで、「中枢神経修復効果」とは、穿刺やプローブ等の挿入によって変化を受けた中枢神経組織を、その生物が正常に生存していた場合における本来の状態へと戻す効果のことをいう。例えば、切断された軸索の修復、グリア細胞、特にアストロサイト(グリア細胞の1種)の活性化の抑制および/またはグリア瘢痕の形成の抑制等を促進する効果である。従って、「中枢神経修復効果」とは、軸索伸長促進効果、アストロサイト活性化抑制効果またはグリア瘢痕形成抑制効果のことであり、または、これら3つの効果の何れかの組み合わせのことをいう。
【0029】
このような効果を示す有効成分としては、当該分野において既知のものを使用することができる。当該有効成分としては、細胞を使用することもでき、また、細胞以外の物質を使用することもできる。
【0030】
本発明に使用することができる中枢神経修復効果を有する有効成分としての細胞の例は、星状細胞限定前駆細胞(特表2006−503543、特開2008−289486)、嗅神経鞘グリア細胞(特表2007−536901)、分娩後由来細胞(胎盤組織由来細胞、臍帯組織由来細胞)(特表2007−521793)、グリア制限前駆細胞(特表2001−525164)または活性未熟アストロサイト(特表平02−501535)を使用することができる。これらの細胞に限らず、上記した文献に記載されるその他の細胞、また、中枢神経修復効果を有するあらゆる細胞を使用することができる。
【0031】
本発明に使用することができる中枢神経修復効果を有する有効成分としての物質の例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体(特開2005−068057)、ノギン(特開2008−255071)、塩酸ファスジル水和物(特開2007−246466)、IL−17F(特表2008−513415)、EphA4受容体アンタゴニスト、EphA4受容体に対する抗体、EphA4受容体に対するアンチセンスRNA、EphA4受容体に対するアンチセンスDNA、EphA4受容体に対するsiRNA、エフリンアンタゴニスト、エフリンに対する抗体、エフリンに対するアンチセンスRNA、エフリンに対するアンチセンスDNA、エフリンに対するsiRNA(EphA4受容体およびエフリンに関して、いずれも特表2008−512394に開示される)、Arg−Gly−Gluであるアミノ酸配列を含む環状ペプチド(特表2007−505145)、p75受容体結合剤(特表2007−505145)、Nogo阻害剤(特表2006−526382)、TNR阻害剤(特表2006−526382)、MAG阻害剤(特表2006−526382)、CD81(特表2005−537779、特表2004−517917)、ホスホジエステラーゼ4型阻害剤(特表2004−532809)、軸索形成因子1(特表平10−505238)、軸索形成因子2(特表平10−505238)または骨形成因子1A型受容体阻害剤(WO06/137377)である。これらの物質に限らず、上記した文献に記載されるその他の物質、また、中枢神経修復効果を有するあらゆる物質を使用することができる。
【0032】
本発明にかかる方法は、上述したとおり、a)組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含むが、これらaからcは、それぞれ独立した工程において行うことができる。すなわち、a)何らかの穿刺手段を用いて穿刺を行い、当該穿刺手段を組織から抜いた後、b)当該穿刺手段とは異なる有効成分投与手段を用いて、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与し、c)穿刺手段および有効成分投与手段とは独立したエネルギー授受手段を用いて、エネルギー授受によって中枢神経組織の特定部位を刺激または測定することができる。例えば、穿刺手段として針、有効成分投与手段として注射針およびエネルギー授受手段として顕微鏡対物レンズをそれぞれ用いることができる。
【0033】
さらに、上記aからcの工程を何れかの組み合わせで、同一の工程または一連の工程として行うことができる。このとき、本発明における「穿刺手段」、「有効成分投与手段」および「エネルギー授受手段」というそれぞれの用語が、独立した1つの物体を指す場合だけでなく、特定の物体の一部を指す場合もある。これは、これらの手段のうちの複数または全てを、1つの物体に兼ね備えさせることができることを意味する。このことを以下に詳述する。
【0034】
本発明において、例えばaおよびbの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば工程aにおいて穿刺手段として注射針を用いて穿刺した後、そのまま工程bとして当該注射針から有効成分を投与することができる。この場合、当該注射針が、有効成分供給手段としての注射器等に始めから連結されているか、または穿刺後投与前に連結されるかは問わない。このような実施態様においては、当該注射針は、穿刺手段と有効成分投与手段とを兼ねているといえる。また別の例として、針の先端およびその周辺部分に有効成分を塗布または保持させたものを用いることができる。そのような針にて穿刺すると同時に、穿刺した瞬間から塗布されていた有効成分が拡散することで投与が行われる。
【0035】
また、本発明において、上記のbおよびcの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブを使用することができる。この場合、穿刺手段によって穿刺して出来る穴に、当該プローブを挿入した後、まず有効成分投与手段により有効成分を穿刺部位に投与し、次に、当該プローブを挿入したまま、エネルギー授受手段により刺激や検出が行われる。また、このように、有効成分の投与の完了を待ってエネルギー授受を行う場合に限らず、有効成分の投与とエネルギー授受とを同時に行うことも可能である。また、有効成分の投与が、エネルギー授受を行いたい部分における修復であることを考えると、プローブを挿入後、まず、有効成分投与手段から有効成分の投与のみを開始し、組織に対して一定の修復効果を及ぼした後、当該投与を続けながらエネルギー授受手段による刺激または検出を開始することが好ましい。有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブの具体的例としては、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等に、有効成分を投与するための注射針やチューブ等を付加したもの、または、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等の一部に有効成分を塗布または保持させたものを使用することができる。これらのプローブについては、後に詳述する。なお、このようなプローブにおいて、注射針や有効成分が塗布または保持された部分を「有効成分投与手段」と、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等の機能を奏する部分を「エネルギー授受手段」と呼ぶことができる。
【0036】
さらに、本発明において、上記のaからcの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば、穿刺、投与およびエネルギー授受を、1つのプローブによって行うことができる。すなわち、上記したような、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブに、更に、穿刺手段を備えたものを使用することができる。「更に穿刺手段を備える」とは、針や注射針を有効成分投与手段等に並行して備え付けたもの、および、プローブの先端部分を穿刺のために十分に尖った構造としたものを含む。また、中空の注射針状の穿刺手段の内部に、有効成分投与手段およびエネルギー授受手段を収めた構造としたものであってもよい。すなわち、有効成分投与手段およびエネルギー授受手段が、鞘としての穿刺手段に収められている構造をとるプローブを使用してよい。このようなプローブでは、組織に穿刺した後、穿刺手段内部に収められた有効成分投与手段およびエネルギー授受手段を、当該穿刺手段から押し出して目的部位に到達させて、投与およびエネルギー授受を行わせることができる。あるいは、このようなプローブでは、組織に穿刺した後、内部の有効成分投与手段およびエネルギー授受手段のみを残して、穿刺手段のみを組織から部分的に又は完全に引き抜き、その結果有効成分投与手段等が組織に対して露出し、特定の機能を行わせることができる。
【0037】
これらの方法は、中枢神経組織のなかで1箇所を穿刺し、刺激又は測定する場合に限られない。すなわち、中枢神経組織の複数の箇所において、それぞれ上述したような方法を行うことができる。例えば、互いに離れた複数の箇所に対して行うこともでき、または、特定の部位を中心としてその周辺の箇所に対して行うこともできる。例えば、エネルギー授受手段として光学レンズを具備するプローブを用いる場合、その視野の大きさは概ね用いるプローブの直径よりも小さい。したがって、中枢神経組織において複数の観察したい箇所が離れて位置する場合、それらを1つのプローブの視野内におさめることが困難な場合がある。このような場合であっても、上記の方法を複数の箇所に対してそれぞれ適用することで、同時に観察することが可能となる。また、例えばエネルギー授受手段を電極としたプローブを用いる場合、1つの箇所には刺激用の電極を設置し、他の箇所に検出用の電極を設置して、特定の領域への刺激が他方の領域に対してどのような影響を与えるかをみることで、中枢神経組織の複数領域の関連を調べることもできる。更に、光学レンズと電極とを組み合わせて使用することもできる。従来の方法を適用した場合、損傷の蓄積や過度のグリア瘢痕の形成が生じ、適切な検出または観察を行うことは困難であるが、本発明による方法を適用すれば、個々の箇所において損傷が回復されグリア瘢痕の形成が抑制されるため、複数箇所に適用したとしても従来の場合の問題が生じにくく、良好な検出または観察を行うことが出来る。また、観察された画像に基づき、肉眼または画像処理による解析を行うようにしてもよい。
【0038】
本発明は、上記のような方法に使用することができるプローブに関する。
そのような本発明にかかるプローブの一実施態様は、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段とを具備するプローブである。
【0039】
すなわち、当該プローブは、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを一体として備えている。中枢神経組織の刺激または測定の際には、穿刺手段によって予め組織に孔を開け、この孔に当該プローブを挿入し、有効成分投与手段から有効成分を投与した後、あるいは、有効成分投与手段から有効成分を投与しながら、エネルギー授受手段による組織への刺激または組織の測定が行われる。また、当該プローブ自身に、穿刺手段を具備させることもでき、このようなプローブを使用する場合は、予め独立した穿刺手段によって組織を穿刺することを要せず、当該プローブを直接組織に穿刺し、その後の投与および刺激および/または測定を行うことができる。
【0040】
このようなプローブにおける、エネルギー授受手段とは、組織や細胞といった対象とする部位に対し光または電気によるエネルギーまたは信号等を与えること、そのような部位からの光または電気によるエネルギーまたは信号等を検出すること、または、当該与えることおよび検出することの両者を行う手段のことであり、例えば、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極等を使用することができる。
【0041】
また、このようなプローブにおける、有効成分投与手段とは、上記したような中枢神経修復効果を奏する有効成分を中枢神経等の組織に投与するための手段を指す。有効成分投与手段は、穿刺した部位に有効成分を投与しうるものであれば、あらゆる構成とすることができる。例えば、プローブの表面に有効成分を塗布したり、なんらかの構造に有効成分を保持させたりする場合のように、中枢神経組織で拡散するように有効成分を保持する構造とすることができる。あるいは、注射針やチューブのように、有効成分を通過させるための流路、および、前記流路から有効成分を放出するための放出口を有する構造とすることができる。
【0042】
有効成分投与手段を、中枢神経組織で拡散するように有効成分を保持する構造とする場合には、図4に示されるように、プローブ10のうち、組織1に挿入される部分(挿入部14)に有効成分が塗布または保持されることが好ましい。特に有効成分を塗布する場合には、プローブ10のどの部分に塗布するかが留意される。
【0043】
図5(a)に示されるように、プローブを電極プローブ15とする場合には、導電性である先端チップ16および非導電性である非導電部分17のうち、少なくとも先端チップ16に有効成分が塗布される。これにより、組織や細胞への電気刺激を実際に行う部位である先端チップ16の近傍におけるグリア瘢痕の形成が抑制され、組織への電気刺激が妨害されるのを防ぐことができる。好ましくは、先端チップ16だけでなく、非導電部17の一部にも有効成分が塗布され、最も好ましくは、先端チップ16に加えて、非導電部17の組織に接触する全ての面(すなわち、図4に示す挿入部14)に有効成分が塗布される。これによって、グリア瘢痕形成に対する抑制効果に加えて、穿刺によって損傷した軸索の修復が促進され、中枢神経組織全体の機能を穿刺前の状態に近づけることができる。
【0044】
また、図5(b)に示されるように、プローブを光学プローブ18(例えば、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバーを具備し、光学的な刺激を与え又は組織の光学像を検出するもの)とする場合には、光の放射または検出のための測定部20およびその他の部分である非測定部19のうち、少なくとも測定部20に有効成分が塗布される。これにより、測定部20近傍におけるグリア瘢痕の形成が抑制され、測定部20と、対象とする細胞や組織との間の光の遮断を防ぐことが出来る。好ましくは、測定部20だけでなく、非測定部19の一部にも有効成分が塗布され、最も好ましくは、測定部20に加えて、非測定部19の組織に接触する全ての面(すなわち、図4に示す挿入部14)に有効成分が塗布される。これによって、グリア瘢痕形成に対する抑制効果に加えて、穿刺によって損傷した軸索の修復が促進され、中枢神経組織全体の機能を穿刺前の状態に近づけることができる。
【0045】
また、図6に示すように、プローブ10の一部に、有効成分を保持するような構造(即ち、保持構造101)を設けることもできる。このような構造を用いれば、有効成分を表面に塗布する場合よりも、より持続的に、より一定の速度で有効成分を組織内に拡散させることができる。保持構造101は、プローブ10の任意の部位に設けることができるが、組織に挿入される部位に設けることが好ましい。また、保持構造101は、図5に示される先端チップ16や測定部20のように、エネルギー授受に重要な部分の付近に設けることが好ましい。エネルギー授受の妨げとならない限り、エネルギー授受に重要な部分にも設けることができる。また、保持構造101は、プローブ10の表面に形成されてよい。
【0046】
図7に、そのような保持構造101の例を断面図で示す。図7(a)〜(c)は、プローブ10の断面の一部(四角で囲んだ部分)を拡大した図である。(a)のプローブの場合、保持構造101は、プローブ内部102の周囲に形成された有効成分9を吸着するための吸着層21である。当該吸着層は、例えば、有効成分9に対して生物学的親和性を有する構造であってよく、例えば、有効成分9に対する抗体または結合タンパク質が固定された構造であってよい。また、当該吸着層21は、その内部に有効成分分子を保持し得る物質(例えばゼラチンやアルブミン)の膜であっても良い。また、当該吸着層21は、プローブ内部102の周囲に均等に塗布されれば良い。(b)の場合、保持構造101は、プローブ内部102の周囲に形成された有効成分9を保持するための凹凸を有した凹凸層22である。凹凸とすることで、有効成分9が接する面積が増え、保持される量が増大すると考えられる。また、有効成分9が凹凸構造の凹部に保持されることにより、プローブ10の挿入時の摩擦等による有効成分9の脱落が防止され、目的部位に確実に有効成分9を投与することが可能となる。当該凹部の形状は穴状でも溝状でも良い。その寸法は有効成分の分子または細胞の寸法以上である必要がある。例えば有効成分が大きさ30μmの細胞ならば凹部の幅と深さは50〜300μm程度であることが望ましい。凹凸形状の製法は、切削加工等の機械的な手段によっても良いし、エッチング等の化学的な手段によっても良い。(c)の場合、保持構造101は、プローブ内部102の外側に形成された有効成分9を保持するような多数の細孔を有した多孔質層23である。この多数の細孔に、より大量の有効成分9を保持することができ、より持続的に有効成分9を放出することができる。このような多孔質層23の材料としては、リポソーム膜、半透性フィルムまたは多孔性樹脂を使用することができる。これら3つの構造は、プローブ10のその他の部分の材質と異ならせてもよく、または、同じであってもよい。あるいは、プローブ10の表面の部材に、これらの構造を形成してもよい。また、プローブ10の表面の部材自身を、これらの構造を有する部材としてもよい。
【0047】
プローブにおける有効成分投与手段を、有効成分を通過させるための流路、および、前記流路から有効成分を放出するための放出口を有する構造とする場合、例えば、図8に示されるようなプローブ10とすることができる。図10では、エネルギー授受手段28に並行して有効成分投与手段24が接続されている。この場合、有効成分投与手段24は、有効成分9を通過させるための流路25および当該流路25から有効成分9を放出するための放出口26を備える。例えば、有効成分投与手段24は、チューブや注射針とすることができる。有効成分投与手段24の、放出口26と反対の端は、例えば有効成分供給手段27に接続される。有効成分供給手段27は、例えば注射器であり、内部に有効成分9を含んだ溶液を貯蔵している。この場合、注射器のピストンを、手動でまたは機械的に、任意の圧力や速度で押し込むことで、流路25を介して放出口26から有効成分9を組織に対して放出することができる。本発明は、図8のように、1つのエネルギー授受手段28に対して、1つの有効成分投与手段24を設けた場合に限られず、1つのエネルギー授受手段28に対して、複数の有効成分投与手段24を設けてもよい。例えば、複数の有効成分投与手段24は、エネルギー授受手段28の周囲の対称的な位置に、または、エネルギー授受手段28の周囲に等間隔の位置に設けてもよい。
【0048】
また、放出口26の数は図8の場合のように1つに限られず、図9のように複数設けることができる。図9では、放出口26は、プローブ10の側面に複数設けられている。また、図8のように下方向に対して放出口26を設け、さらに図9のように側面にも放出口26を設けることもできる。組織において、特に、エネルギー授受手段28とのエネルギー授受が行われる領域に有効成分9が作用することが好ましいため、その領域の方向に集中的に放出できるよう放出口26があることが好ましく、そのような放出口26に加えて、直接当該領域の方向に放出しないものの、近辺の組織全体に対して有効成分9を放出するような放出口26がさらに設けられることが好ましい。
【0049】
有効成分投与手段を、流路および放出口からなる構造とする場合の別の例は、図10に示される。図10(a)には、プローブ10の概略図が示される。このプローブ10は、組織に挿入される部分(図10(a)では下部)に、側面を囲むように複数の放出口26が設けられている。また、組織には挿入されない部分(図10(a)では上部)に、有効成分供給部に接続される流路25が接続されている。図10(b)は、このプローブ10の断面図である。このプローブ10は、エネルギー授受手段28を外筒29が囲むように固定している。図に示されるように、このプローブ10は、エネルギー授受手段28と外筒29との間に空間があり、この空間が有効成分投与手段の流路25として機能している。有効成分供給部から供給された有効成分9は、この流路25を通過し、放出口26から外部に放出される。図10に示されるプローブ10では、エネルギー授受手段28において、組織とエネルギー授受を行う部分(エネルギー授受領域200とする)は、図10(b)において破線で囲まれた部分である。図示されるように、この例によれば、エネルギー授受領域200は、プローブ10において最も外表面に位置している。このため、この例におけるプローブ10は、エネルギー授受において何ら障害となる構成を有しないという点で有利である。なお、外筒29は、有効成分9を含む溶液に対して耐腐食性であり、組織や細胞にとって有害性の低いものであれば、公知のあらゆる材質とすることができる。例えば、金属としてはステンレス、プラスチックとしてはポリエチレン樹脂やPEEK(polyetheretherketone)樹脂、ガラスとしては鉛フリーガラス等の重金属を含まないものを使用することができる。
【0050】
有効成分投与手段を、流路と放出口とによる構造とする場合のまた別の例は、図11に断面図として示される。図11によるプローブ10は、外筒29の内部にエネルギー授受手段28が収まっている。外筒29は、対象側端を光学窓30によって塞がれている。図11では、対象側端は、プローブ10の下端となる。エネルギー授受手段28、外筒29および光学窓30によって作られる空間は、有効成分投与手段の流路25aとして機能する。そして、光学窓30には複数の孔が開けられており、この孔が有効成分投与手段の放出口26として機能する。外筒29の上部には、有効成分供給手段に向けて、投入口201から流路25bがのびている。流路25bは例えば有効成分供給手段に接続され、有効成分供給手段から供給された有効成分が流路25bを経て、投入口201を通り、流路25aに入り、放出口26から放出される。このプローブ10では、エネルギー授受領域200は、プローブ10の外表面に出ていない。すなわち、エネルギー授受領域200と、外部の組織との間には、有効成分9を含む溶液が満たされた流路25および光学窓30が存在する。この例におけるプローブ10は、エネルギー授受を行う面と、有効成分9を放出する面が同一であり、最もグリア瘢痕の形成を避けたい部位に対して集中的に有効成分9を放出できるという点で有利である。このプローブ10は、光学窓30から有効成分9を放出し、且つ、光学窓30を介してエネルギー授受手段28が組織や細胞とエネルギー授受を行う。このとき、このプローブ10は、有効成分9を放出する1つまたは複数の放出口26を介して、エネルギー授受手段28が組織や細胞との間でエネルギー授受を行っても良いし、光学窓30を構成する光学材料を介して行っても良い。
【0051】
図12には、図11に示すようなプローブ10において、エネルギー授受手段28が、顕微鏡対物レンズ33である場合が示されている。この場合、顕微鏡対物レンズ33による良好な観察を行うために、光学窓30の孔と光の波長との関係が重要となる。光路32に示されるように光はレンズ31を通り、さらに複数の孔を有した光学窓30を介して観察の対象となる細胞や部位に向かい、また、その逆の経路で観察対象から顕微鏡本体へと向かう。従って、光学窓30に存在する孔に起因して光が散乱することを抑えるために、使用される光の波長が、光学窓の孔の直径より大きいことが好ましい。また、有効成分9が当該孔を通って放出されるためには、当然、当該孔の直径が、有効成分9の分子サイズより大きい必要がある。従って、図12のようなプローブ10を使用する場合、〔光の波長〕>〔光学窓の孔の直径〕>〔有効成分の分子サイズ〕であることが好ましい。光の波長は、本発明における方法では一般に400〜700nmのものが使用され、一般的なタンパク質分子の大きさは約1〜20nmであるため、光学窓の孔の直径は、2〜70μm程度であることが好ましい。さらに、用いる有効成分の分子サイズに対してはその2倍以上、用いる光の波長に対してはその1/10以下とすれば、さらに好ましい。また、光学窓30に設ける放出口26は、必ずしも全ての孔の直径をそろえる必要はなく、光学窓30の特定の領域の孔だけ大きくまたは小さくすることができる。例えば、光路32となる領域(例えば光学窓30の中央)の孔は上記条件に合った直径とし、一方、光路32とならない領域(例えば光学窓30の周囲)の孔を当該直径よりも大きいものとすることができる。なお、動物細胞の直径は一般に10〜30μmであり、上記光の波長の数十倍の大きさを有する。したがって光学窓の孔を介して細胞を放出する場合は、その孔を光学窓30の周囲すなわち光路32を避けた位置に設ければ良い。
【0052】
本発明は、上述のようなプローブを1つまたは複数有する、脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するための装置に関する。
このような装置は、少なくとも本発明によるプローブを1つ含み、その他に必要に応じて、エネルギー授受手段を制御するための部分、有効成分投与手段を制御するための部分、穿刺手段を制御するための部分、上記プローブおよび各種手段を対象動物に対して位置決めおよび固定する部分、を含む。エネルギー授受手段を制御するための手段とは、エネルギー授受手段が電極である場合には、たとえば電源や電気信号検出部等であり、エネルギー授受手段が光ファイバーや顕微鏡対物レンズである場合には、照明光源や光検出器や顕微鏡本体等である。有効成分投与手段を制御するための部分とは、例えば有効成分供給手段を注射器とする場合には、当該注射器のピストンを一定の圧力や速度で押し込むことで、投与される有効成分の量や速さを調節するための部分である。穿刺手段を制御するための部分とは、例えばプローブとは独立して穿刺用の針等を用いる場合には、当該針を狙った部位に狙った深さで精密に穿刺できる制御装置を含むような部位である。
【0053】
また、図13には、プローブを複数有した装置が示されている。図13では、マウス35の脳組織に2つのプローブ10が適用されている。プローブ10は、流路25が有効成分投与手段27に連結され、脳組織側の先端に、不図示の小型対物レンズを装着したイメージ光ファイバー36が顕微鏡本体34に接続されている。それぞれのプローブ10によって検出される光学像は、それらが接続されたそれぞれの顕微鏡本体34によって取り込まれる。このような装置とすることで、特定の部位を異なる角度から観察することができ、あるいは、特定の部位と別の部位とを同時に観察して、それらの関連を調べることができる。複数個所に従来の方法を適用した場合、損傷の蓄積や過度のグリア瘢痕の形成が生じ、適切な研究を行うことは困難であるが、本発明による方法を適用すれば、個々の箇所において損傷が回復されグリア瘢痕の形成が抑制されるため、グリア瘢痕が介在することによる各種の電気的障害または光学的障害が解消された状態で継続的に刺激および/または測定(とくに観察)を行える。よって、複数箇所に適用したとしても従来の場合の問題が生じにくく、良好な刺激および/または測定を行うことが出来る。
【符号の説明】
【0054】
1…中枢神経組織、2…神経細胞、3…細胞体、4…軸索、5…グリア細胞、6…穿刺手段、7…軸索切断部、8…有効成分投与手段、9…有効成分、10…プローブ、11…修復済み軸索、12…変性したグリア細胞、13…グリア瘢痕、14…挿入部、15…電極プローブ、16…先端チップ、17…非導電部、18…光学プローブ、19…非測定部、20…測定部、21…吸着層、22…凹凸層、23…多孔質層、24…有効成分投与手段、25…流路、26…放出口、27…注射器、28…エネルギー授受手段、29…外筒、30…光学窓、31…レンズ、32…光路、33…顕微鏡対物レンズ、34…顕微鏡本体、35…マウス、36…光ファイバー、101…保持構造、102…プローブ内部、エネルギー授受領域…200、投入口…201
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経組織を刺激および/または測定する方法およびそのためのプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞レベルで中枢神経系の動態を調べる手法として、神経組織に直接プローブを刺しこんで、電気的および/または光学的な刺激を与えたり、電気信号を検出したり、または、光学像を観察する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ラット等の検体に脳内刺激を与え、その行動を観察することができる行動解析装置が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、マウスの脳組織内の神経細胞に蛍光タンパク質等を発現させて、脳組織内に挿入された微小なレンズを介して、生きたマウスにおける神経細胞を顕微鏡観察する方法が開示されている。
【0005】
このような方法では、対象となる生物の、生命活動を営む本来の姿により近い状態で観察することができる。そのため、組織切片標本や、培養細胞標本等を用いる方法よりも、切片化や部分化に起因する影響を極力排除でき、対象とする細胞や組織の本来の姿を観察および/または測定することができる。
【0006】
このような生存状態にある対象生物の中枢神経等を刺激および/または測定する方法では、その生物が通常の生命活動を営んでいる状態を極力維持することが重要となる。しかしながら、中枢神経組織の穿刺やプローブ等の挿入に起因して、望ましくない反応が当該組織に生じる。
【0007】
1つは神経組織の損傷の問題である。調べようとする細胞は組織表面にあるとは限らず、例えば大脳の下部に位置する海馬といったように、神経組織の深部に位置する場合がある。このような場合、プローブをその部位まで届かせるための経路として神経組織に深い穴を開ける必要がある。穴を開ける工程において、その経路に位置する多数の神経細胞や軸索が損傷を受ける。神経細胞や軸索が損傷すると、それらが担っていた中枢神経系の機能の一部が損なわれることとなる。すなわち、これは本来の中枢神経の機能が損なわれることを意味する。本来の状態を観察するという観点から、神経細胞や軸索の損傷がないことが理想的である。
【0008】
もう1つの問題は、グリア瘢痕の形成である。中枢神経組織が損傷を受けると、数日の内にその損傷部位にグリア瘢痕と呼ばれる組織が形成される。プローブのような異物が中枢神経組織に穿刺、挿入または留置された場合にも、同様のグリア瘢痕がプローブの周囲に形成される。グリア瘢痕は電気抵抗が高いため、電気プローブの周囲にこれが形成された場合、注目部位に電気刺激を与えたり、当該部位から電気信号を検出したりすることが困難となる。従って、特に電気プローブを用いる実験では、グリア瘢痕の形成を抑えることが望ましい。しかしなら、例えば電気プローブの材質、形状または穿刺速度を変えてもグリア瘢痕の形成は抑制されないことが知られている(非特許文献2)。なお、非特許文献2では、グリア瘢痕のことを"sheath"すなわち「鞘」と呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−222105号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Karl Deisseroth et al., The Journal of Neuroscience, 2006, 26(41):10380-10386
【非特許文献2】Vadim S. et al., Journal of Neuroscience Methods, 2005, 148:1-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特に、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成を抑制し、それにより、対象となる生物のより本来に近い状態で中枢神経を刺激および/または測定する方法、および、そのような方法に使用することができるプローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施態様によれば、エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法が提供される。
【0013】
また、本発明の別の実施態様によれば、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段とを具備するプローブが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成を抑制することができる結果、対象となる生物のより本来に近い状態で中枢神経を刺激および/または測定できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る方法の一実施態様を示すフローチャート。
【図2】本発明に係る方法の一実施態様を示す図。
【図3】従来の方法を示す図。
【図4】本発明に係るプローブが組織に穿刺された状態を示す図。
【図5】本発明に係るプローブの例を示す図。
【図6】本発明に係るプローブを示す図。
【図7】本発明に係るプローブの断面の一部を示す図。
【図8】本発明に係るプローブを示す図。
【図9】本発明に係るプローブを示す図。
【図10】本発明に係るプローブを示す図および断面図。
【図11】本発明に係るプローブを示す断面図。
【図12】本発明に係るプローブを示す断面図。
【図13】本発明に係る装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる方法は、エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、a)前記組織に穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含む方法である。
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施態様にかかる方法について説明する。
図1は、本発明に係る方法の一実施態様を示すフローチャートである。この方法では、まずラットやマウス等、対象とする生物の頭部の皮膚を剥がし頭蓋骨を露出させる(図1中1−1)。次に、頭蓋骨に穴を開けて脳を露出させる(1−2)。次に、頭蓋骨に開けた穴を介して、露出した脳組織に穿刺する(1−3)。次に、穿刺部位に、有効成分を投与する(1−4)。そして、穿刺した部位にて、エネルギー授受を行う(1−5)。
【0018】
頭蓋骨の露出および頭蓋骨に穴を開ける工程(1−1および1−2)は、当該分野において一般に行われる方法によって行うことができる。例えば、ケタミン等の麻酔剤およびキシラジン等の鎮静剤にてマウスを麻酔した後、頭部を剃毛し、正中線に沿って1−1.5cm程切開し、皮膚を切開部分から広げることで頭蓋骨を露出させることができる。その後、頭蓋骨の対象とする位置に医療用ドリル等で穴を開けることができる。
【0019】
露出した中枢神経を穿刺する工程(1−3)は、主に、その後に挿入されるプローブ等を、極力組織を破壊することなく目的部位まで到達させるために行われる。後に使用するプローブ等の先端が組織に対して十分尖ったものでない場合、それを組織に穿刺すると、破壊の程度がより深刻となることが予想される。これに対し、あらかじめ穿刺して形成した孔に沿ってプローブを挿入することで、更なる組織の破壊を抑制できる。この工程に使用される、中枢神経組織に穿刺しまたは孔を開ける手段(穿刺手段)は、組織を穿刺するために先端が十分に尖った物を使用することができる。例えば、中空の注射針もしくはチューブまたは中心の詰まった針等を使用することができる。その材質も、金属、プラスチックまたはガラス等、組織に穿刺するために十分な剛性を有するものを使用することができる。更に、目的とする部位に到達できるように、長さを適宜設定できる。また、例えば、損傷を与えてはならない特定の部位を回避できるような形状、例えば、湾曲した針状形状等であってもよい。
【0020】
穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与する工程(1−4)は、その後に行う組織への刺激の付与または組織からの情報の検出に阻害となるような生体反応を抑制するために行われる。そのような抑制は、有効成分を中枢神経等の組織に投与することで行われる。中枢神経組織を研究の対象とする場合、このような中枢神経修復効果を有する有効成分としては、神経組織の損傷およびグリア瘢痕の形成に起因する問題を回避するために、神経組織の損傷からの回復を促進しおよび/またはグリア瘢痕の形成を抑制するような有効成分であればよい。
【0021】
このような有効成分の投与は、有効成分投与手段を用いて行われる。本発明にいう「有効成分投与手段」とは、後述するような特定の効果を奏する有効成分を中枢神経等の組織に投与するための手段を指す。例えば、有効成分投与手段として、注射針を使用することができる。この場合、注射針は、有効成分供給手段としての注射器等に接続されており、この有効成分供給手段から送り出される有効成分を、穿刺した目的部位に対して排出する。また、有効成分投与手段として、有効成分を塗布したまたは保持させた針または棒等を使用することもできる。この場合、有効成分は、特に針または棒の先端に塗布または保持されており、当該針または棒を、穿刺手段によって穿刺した部分に挿入し、目的部位に拡散させることで有効成分が投与される。また、注射針の内部を通して有効成分を投与させつつ、同時に、当該注射針の組織と接する面に有効成分を保持させ、拡散により投与させることもできる。
【0022】
この工程における投与によれば、有効成分は、直接投与された部位のみならず、拡散および/または自走によりその周辺部位に到達してもよい。「自走」とは、例えば有効成分が細胞である場合に、当該細胞が、直接投与された部位から、周辺部位等に移動することをいう(有効成分および当該細胞の詳細については後述する)。
【0023】
また、この工程にいう「穿刺部位」とは、穿刺手段によって穿刺した部分に限らず、穿刺予定の部位を含む。従って、「穿刺部位に、有効成分を投与する」ことは、穿刺手段による穿刺に先立ち、行われてよい。この場合、穿刺しようとする部位またはその近傍における組織表面に、有効成分を塗布または滴下することで、有効成分は、組織深部に位置する目的部位まで拡散および/または自走により到達する。そのため、本発明における「穿刺する」とは、最終的に刺激または測定のための手段が、対象部位としての細胞や組織の特定領域に対して最小限の侵襲ボリュームでもって刺激または測定可能に侵入する工程を広く意味する。
【0024】
穿刺した部位にて、エネルギー授受を行う工程(1−5)では、エネルギー授受手段を用いて、目的とする部位や細胞に刺激を与えおよび/または目的とする部位や細胞の情報を検出する。本発明において「刺激を与える」とは、細胞または組織の特定の部位に対し、主として、電気的な刺激を与えること、または、光による刺激を与えることを指すが、それらに限定されず、治療、診断、研究等の目的で特定の薬剤(但し、本発明の中枢神経本来の活性を維持するための修復効果を有する薬剤を除く)を穿刺した部位に対し供給することによる刺激や超音波による刺激など、当該分野において細胞や組織に対して行われるあらゆる刺激を与えることを含む。また、本発明において「測定」とは、刺激したり検出することによって最終的に医学的情報を含む情報を得ることを意味し、定性的測定でも定量的測定の何れでもよい。また、本発明において「検出する」とは、主として、細胞や組織にて発生した電気的信号を測定すること、または、細胞や組織に発現させた蛍光タンパク質などの生物学的発光を検出すること指すが、これらに限定されず、当該分野において細胞や組織にて行われるあらゆる検出を含む。従って、本発明において「検出する」という用語は、細胞や組織を「観察する」という意味を含む。また、「エネルギー授受手段」とは、組織や細胞といった対象とする部位に対し光または電気によるエネルギーまたは信号等を与えること、そのような部位からの光または電気によるエネルギーまたは信号等を検出すること、または、それらの両者を行う手段を指す。例えば、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極がこれに該当する。なお、当該分野において、一般に、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極のそれぞれを「プローブ」と称する場合があるが、本発明にて使用される「プローブ」という用語は、このような一般的な使用とは厳密には異なる。すなわち、本発明にて使用される「プローブ」とは、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極といった「エネルギー授受手段」を少なくとも含み、さらに「穿刺手段」および/または「有効成分投与手段」を任意に含むものを指す。従って、本発明にて使用される「プローブ」とは、「エネルギー授受手段」を含み「穿刺手段」および「有効成分投与手段」を含まないものであってもよく、または、「エネルギー授受手段」および「有効成分投与手段」を含み「穿刺手段」を含まないものであってもよく、または、「エネルギー授受手段」、「有効成分投与手段」および「穿刺手段」をすべて含むものであってもよい。本発明において「プローブ」という用語は、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極と同義に使用されず、少なくとも、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極といった「エネルギー授受手段」を構成成分として含むものを指すことに留意される。
【0025】
本発明の効果を図2および図3を用いて説明する。
図3は、従来のプローブを用いた中枢神経の刺激および/または測定方法の代表的例を示す図である。従来の方法では、プローブの挿入前に予め針等を組織に穿刺することなく、図3に示すように、刺激および/または測定用のプローブ10によって中枢神経組織1に対して穿刺が行われる(3−2)。その穿刺によって、神経細胞2の軸索4が切断され、軸索切断部7が生じる(3−2、図中破線で囲まれる部分)。プローブ10が穿刺に適した十分尖った構造をとっていない場合には、中枢神経組織1の損傷の程度は大きくなる。このような損傷に応答して、グリア細胞5は、活性化し(3−3)、プローブ10穿刺部および軸索切断部7を含む損傷部分に集合する(3−4)。集合したグリア細胞5は、(3−5)に示されるように形態変化を起こし(変性したグリア細胞12)、細胞間架橋が形成されグリア細胞同士が接着し、グリア瘢痕13が形成される(3−6)。プローブ10が電極プローブである場合、組織への電気刺激や組織からの電気の検出が、このグリア瘢痕13によって阻害される。また、プローブ10が光学プローブ(即ち、光ファイバーや顕微鏡対物レンズ等)である場合、グリア瘢痕13が介在することで観察自体が妨げられ、また、グリア瘢痕13の形成や軸索の切断により組織中の環境が変化し、本来観察すべき姿を調べることができなくなる。
【0026】
図2には、本発明の一実施態様にかかる方法が記載されている。本発明では、(2−2)に示されるように、穿刺手段6を使用して中枢神経組織1を穿刺する。この穿刺によって、軸索が切断され、軸索切断部7が形成されると考えられる(2−2)。その後、穿刺手段6を中枢神経組織1から抜き取り、有効成分投与手段8が挿入される(2−3)。なお、穿刺手段6と有効成分投与手段8とが一体化している場合(例えば、注射針等を用いる場合)には、穿刺と有効成分投与が一連の工程において行われてもよい。次に、有効成分投与手段8から、有効成分9が投与される(2−3、当該図中、有効成分投与手段8は断面図として表されている)。図示されるように、有効成分9は、投与された部位から、その周辺へと拡散および/または自走する。投与後、有効成分投与手段8は中枢神経組織1から抜き取られ(2−4)、次にプローブ10が挿入される(2−5)。このとき、有効成分の作用により、従来の方法で生じるようなグリア細胞5の集合は抑えられ、その結果グリア瘢痕の形成が抑制される。また、有効成分の作用により切断された軸索が修復される(修復済み軸索11)。これにより、穿刺以前の中枢神経の環境の状態、すなわち本来の中枢神経の環境により近い状態で、プローブ10によって電気刺激の付与または検出や、光学像の検出等を行うことができる。
【0027】
本発明における方法において、対象となる組織は中枢神経組織である。すなわち、中枢神経組織とは、脊椎動物においては脳および脊髄の組織である。中枢神経組織を有する生物であれば、あらゆる生物に対して本発明を使用することができるが、脊椎動物の中枢神経組織を使用することが好ましい。特に、哺乳類動物の中枢神経組織を使用することが好ましい。具体的には、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコおよびブタ等を使用することができる。
【0028】
本発明において、有効成分は、特に、中枢神経修復効果を有する有効成分である。ここで、「中枢神経修復効果」とは、穿刺やプローブ等の挿入によって変化を受けた中枢神経組織を、その生物が正常に生存していた場合における本来の状態へと戻す効果のことをいう。例えば、切断された軸索の修復、グリア細胞、特にアストロサイト(グリア細胞の1種)の活性化の抑制および/またはグリア瘢痕の形成の抑制等を促進する効果である。従って、「中枢神経修復効果」とは、軸索伸長促進効果、アストロサイト活性化抑制効果またはグリア瘢痕形成抑制効果のことであり、または、これら3つの効果の何れかの組み合わせのことをいう。
【0029】
このような効果を示す有効成分としては、当該分野において既知のものを使用することができる。当該有効成分としては、細胞を使用することもでき、また、細胞以外の物質を使用することもできる。
【0030】
本発明に使用することができる中枢神経修復効果を有する有効成分としての細胞の例は、星状細胞限定前駆細胞(特表2006−503543、特開2008−289486)、嗅神経鞘グリア細胞(特表2007−536901)、分娩後由来細胞(胎盤組織由来細胞、臍帯組織由来細胞)(特表2007−521793)、グリア制限前駆細胞(特表2001−525164)または活性未熟アストロサイト(特表平02−501535)を使用することができる。これらの細胞に限らず、上記した文献に記載されるその他の細胞、また、中枢神経修復効果を有するあらゆる細胞を使用することができる。
【0031】
本発明に使用することができる中枢神経修復効果を有する有効成分としての物質の例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体(特開2005−068057)、ノギン(特開2008−255071)、塩酸ファスジル水和物(特開2007−246466)、IL−17F(特表2008−513415)、EphA4受容体アンタゴニスト、EphA4受容体に対する抗体、EphA4受容体に対するアンチセンスRNA、EphA4受容体に対するアンチセンスDNA、EphA4受容体に対するsiRNA、エフリンアンタゴニスト、エフリンに対する抗体、エフリンに対するアンチセンスRNA、エフリンに対するアンチセンスDNA、エフリンに対するsiRNA(EphA4受容体およびエフリンに関して、いずれも特表2008−512394に開示される)、Arg−Gly−Gluであるアミノ酸配列を含む環状ペプチド(特表2007−505145)、p75受容体結合剤(特表2007−505145)、Nogo阻害剤(特表2006−526382)、TNR阻害剤(特表2006−526382)、MAG阻害剤(特表2006−526382)、CD81(特表2005−537779、特表2004−517917)、ホスホジエステラーゼ4型阻害剤(特表2004−532809)、軸索形成因子1(特表平10−505238)、軸索形成因子2(特表平10−505238)または骨形成因子1A型受容体阻害剤(WO06/137377)である。これらの物質に限らず、上記した文献に記載されるその他の物質、また、中枢神経修復効果を有するあらゆる物質を使用することができる。
【0032】
本発明にかかる方法は、上述したとおり、a)組織を穿刺すること、b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、c)前記穿刺した部位において、エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うことを含むが、これらaからcは、それぞれ独立した工程において行うことができる。すなわち、a)何らかの穿刺手段を用いて穿刺を行い、当該穿刺手段を組織から抜いた後、b)当該穿刺手段とは異なる有効成分投与手段を用いて、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与し、c)穿刺手段および有効成分投与手段とは独立したエネルギー授受手段を用いて、エネルギー授受によって中枢神経組織の特定部位を刺激または測定することができる。例えば、穿刺手段として針、有効成分投与手段として注射針およびエネルギー授受手段として顕微鏡対物レンズをそれぞれ用いることができる。
【0033】
さらに、上記aからcの工程を何れかの組み合わせで、同一の工程または一連の工程として行うことができる。このとき、本発明における「穿刺手段」、「有効成分投与手段」および「エネルギー授受手段」というそれぞれの用語が、独立した1つの物体を指す場合だけでなく、特定の物体の一部を指す場合もある。これは、これらの手段のうちの複数または全てを、1つの物体に兼ね備えさせることができることを意味する。このことを以下に詳述する。
【0034】
本発明において、例えばaおよびbの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば工程aにおいて穿刺手段として注射針を用いて穿刺した後、そのまま工程bとして当該注射針から有効成分を投与することができる。この場合、当該注射針が、有効成分供給手段としての注射器等に始めから連結されているか、または穿刺後投与前に連結されるかは問わない。このような実施態様においては、当該注射針は、穿刺手段と有効成分投与手段とを兼ねているといえる。また別の例として、針の先端およびその周辺部分に有効成分を塗布または保持させたものを用いることができる。そのような針にて穿刺すると同時に、穿刺した瞬間から塗布されていた有効成分が拡散することで投与が行われる。
【0035】
また、本発明において、上記のbおよびcの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブを使用することができる。この場合、穿刺手段によって穿刺して出来る穴に、当該プローブを挿入した後、まず有効成分投与手段により有効成分を穿刺部位に投与し、次に、当該プローブを挿入したまま、エネルギー授受手段により刺激や検出が行われる。また、このように、有効成分の投与の完了を待ってエネルギー授受を行う場合に限らず、有効成分の投与とエネルギー授受とを同時に行うことも可能である。また、有効成分の投与が、エネルギー授受を行いたい部分における修復であることを考えると、プローブを挿入後、まず、有効成分投与手段から有効成分の投与のみを開始し、組織に対して一定の修復効果を及ぼした後、当該投与を続けながらエネルギー授受手段による刺激または検出を開始することが好ましい。有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブの具体的例としては、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等に、有効成分を投与するための注射針やチューブ等を付加したもの、または、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等の一部に有効成分を塗布または保持させたものを使用することができる。これらのプローブについては、後に詳述する。なお、このようなプローブにおいて、注射針や有効成分が塗布または保持された部分を「有効成分投与手段」と、電極、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバー等の機能を奏する部分を「エネルギー授受手段」と呼ぶことができる。
【0036】
さらに、本発明において、上記のaからcの工程を、同一または一連の工程にて行うことができる。例えば、穿刺、投与およびエネルギー授受を、1つのプローブによって行うことができる。すなわち、上記したような、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを備えたプローブに、更に、穿刺手段を備えたものを使用することができる。「更に穿刺手段を備える」とは、針や注射針を有効成分投与手段等に並行して備え付けたもの、および、プローブの先端部分を穿刺のために十分に尖った構造としたものを含む。また、中空の注射針状の穿刺手段の内部に、有効成分投与手段およびエネルギー授受手段を収めた構造としたものであってもよい。すなわち、有効成分投与手段およびエネルギー授受手段が、鞘としての穿刺手段に収められている構造をとるプローブを使用してよい。このようなプローブでは、組織に穿刺した後、穿刺手段内部に収められた有効成分投与手段およびエネルギー授受手段を、当該穿刺手段から押し出して目的部位に到達させて、投与およびエネルギー授受を行わせることができる。あるいは、このようなプローブでは、組織に穿刺した後、内部の有効成分投与手段およびエネルギー授受手段のみを残して、穿刺手段のみを組織から部分的に又は完全に引き抜き、その結果有効成分投与手段等が組織に対して露出し、特定の機能を行わせることができる。
【0037】
これらの方法は、中枢神経組織のなかで1箇所を穿刺し、刺激又は測定する場合に限られない。すなわち、中枢神経組織の複数の箇所において、それぞれ上述したような方法を行うことができる。例えば、互いに離れた複数の箇所に対して行うこともでき、または、特定の部位を中心としてその周辺の箇所に対して行うこともできる。例えば、エネルギー授受手段として光学レンズを具備するプローブを用いる場合、その視野の大きさは概ね用いるプローブの直径よりも小さい。したがって、中枢神経組織において複数の観察したい箇所が離れて位置する場合、それらを1つのプローブの視野内におさめることが困難な場合がある。このような場合であっても、上記の方法を複数の箇所に対してそれぞれ適用することで、同時に観察することが可能となる。また、例えばエネルギー授受手段を電極としたプローブを用いる場合、1つの箇所には刺激用の電極を設置し、他の箇所に検出用の電極を設置して、特定の領域への刺激が他方の領域に対してどのような影響を与えるかをみることで、中枢神経組織の複数領域の関連を調べることもできる。更に、光学レンズと電極とを組み合わせて使用することもできる。従来の方法を適用した場合、損傷の蓄積や過度のグリア瘢痕の形成が生じ、適切な検出または観察を行うことは困難であるが、本発明による方法を適用すれば、個々の箇所において損傷が回復されグリア瘢痕の形成が抑制されるため、複数箇所に適用したとしても従来の場合の問題が生じにくく、良好な検出または観察を行うことが出来る。また、観察された画像に基づき、肉眼または画像処理による解析を行うようにしてもよい。
【0038】
本発明は、上記のような方法に使用することができるプローブに関する。
そのような本発明にかかるプローブの一実施態様は、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段とを具備するプローブである。
【0039】
すなわち、当該プローブは、有効成分投与手段とエネルギー授受手段とを一体として備えている。中枢神経組織の刺激または測定の際には、穿刺手段によって予め組織に孔を開け、この孔に当該プローブを挿入し、有効成分投与手段から有効成分を投与した後、あるいは、有効成分投与手段から有効成分を投与しながら、エネルギー授受手段による組織への刺激または組織の測定が行われる。また、当該プローブ自身に、穿刺手段を具備させることもでき、このようなプローブを使用する場合は、予め独立した穿刺手段によって組織を穿刺することを要せず、当該プローブを直接組織に穿刺し、その後の投与および刺激および/または測定を行うことができる。
【0040】
このようなプローブにおける、エネルギー授受手段とは、組織や細胞といった対象とする部位に対し光または電気によるエネルギーまたは信号等を与えること、そのような部位からの光または電気によるエネルギーまたは信号等を検出すること、または、当該与えることおよび検出することの両者を行う手段のことであり、例えば、光ファイバー、顕微鏡対物レンズまたは電極等を使用することができる。
【0041】
また、このようなプローブにおける、有効成分投与手段とは、上記したような中枢神経修復効果を奏する有効成分を中枢神経等の組織に投与するための手段を指す。有効成分投与手段は、穿刺した部位に有効成分を投与しうるものであれば、あらゆる構成とすることができる。例えば、プローブの表面に有効成分を塗布したり、なんらかの構造に有効成分を保持させたりする場合のように、中枢神経組織で拡散するように有効成分を保持する構造とすることができる。あるいは、注射針やチューブのように、有効成分を通過させるための流路、および、前記流路から有効成分を放出するための放出口を有する構造とすることができる。
【0042】
有効成分投与手段を、中枢神経組織で拡散するように有効成分を保持する構造とする場合には、図4に示されるように、プローブ10のうち、組織1に挿入される部分(挿入部14)に有効成分が塗布または保持されることが好ましい。特に有効成分を塗布する場合には、プローブ10のどの部分に塗布するかが留意される。
【0043】
図5(a)に示されるように、プローブを電極プローブ15とする場合には、導電性である先端チップ16および非導電性である非導電部分17のうち、少なくとも先端チップ16に有効成分が塗布される。これにより、組織や細胞への電気刺激を実際に行う部位である先端チップ16の近傍におけるグリア瘢痕の形成が抑制され、組織への電気刺激が妨害されるのを防ぐことができる。好ましくは、先端チップ16だけでなく、非導電部17の一部にも有効成分が塗布され、最も好ましくは、先端チップ16に加えて、非導電部17の組織に接触する全ての面(すなわち、図4に示す挿入部14)に有効成分が塗布される。これによって、グリア瘢痕形成に対する抑制効果に加えて、穿刺によって損傷した軸索の修復が促進され、中枢神経組織全体の機能を穿刺前の状態に近づけることができる。
【0044】
また、図5(b)に示されるように、プローブを光学プローブ18(例えば、顕微鏡対物レンズまたは光ファイバーを具備し、光学的な刺激を与え又は組織の光学像を検出するもの)とする場合には、光の放射または検出のための測定部20およびその他の部分である非測定部19のうち、少なくとも測定部20に有効成分が塗布される。これにより、測定部20近傍におけるグリア瘢痕の形成が抑制され、測定部20と、対象とする細胞や組織との間の光の遮断を防ぐことが出来る。好ましくは、測定部20だけでなく、非測定部19の一部にも有効成分が塗布され、最も好ましくは、測定部20に加えて、非測定部19の組織に接触する全ての面(すなわち、図4に示す挿入部14)に有効成分が塗布される。これによって、グリア瘢痕形成に対する抑制効果に加えて、穿刺によって損傷した軸索の修復が促進され、中枢神経組織全体の機能を穿刺前の状態に近づけることができる。
【0045】
また、図6に示すように、プローブ10の一部に、有効成分を保持するような構造(即ち、保持構造101)を設けることもできる。このような構造を用いれば、有効成分を表面に塗布する場合よりも、より持続的に、より一定の速度で有効成分を組織内に拡散させることができる。保持構造101は、プローブ10の任意の部位に設けることができるが、組織に挿入される部位に設けることが好ましい。また、保持構造101は、図5に示される先端チップ16や測定部20のように、エネルギー授受に重要な部分の付近に設けることが好ましい。エネルギー授受の妨げとならない限り、エネルギー授受に重要な部分にも設けることができる。また、保持構造101は、プローブ10の表面に形成されてよい。
【0046】
図7に、そのような保持構造101の例を断面図で示す。図7(a)〜(c)は、プローブ10の断面の一部(四角で囲んだ部分)を拡大した図である。(a)のプローブの場合、保持構造101は、プローブ内部102の周囲に形成された有効成分9を吸着するための吸着層21である。当該吸着層は、例えば、有効成分9に対して生物学的親和性を有する構造であってよく、例えば、有効成分9に対する抗体または結合タンパク質が固定された構造であってよい。また、当該吸着層21は、その内部に有効成分分子を保持し得る物質(例えばゼラチンやアルブミン)の膜であっても良い。また、当該吸着層21は、プローブ内部102の周囲に均等に塗布されれば良い。(b)の場合、保持構造101は、プローブ内部102の周囲に形成された有効成分9を保持するための凹凸を有した凹凸層22である。凹凸とすることで、有効成分9が接する面積が増え、保持される量が増大すると考えられる。また、有効成分9が凹凸構造の凹部に保持されることにより、プローブ10の挿入時の摩擦等による有効成分9の脱落が防止され、目的部位に確実に有効成分9を投与することが可能となる。当該凹部の形状は穴状でも溝状でも良い。その寸法は有効成分の分子または細胞の寸法以上である必要がある。例えば有効成分が大きさ30μmの細胞ならば凹部の幅と深さは50〜300μm程度であることが望ましい。凹凸形状の製法は、切削加工等の機械的な手段によっても良いし、エッチング等の化学的な手段によっても良い。(c)の場合、保持構造101は、プローブ内部102の外側に形成された有効成分9を保持するような多数の細孔を有した多孔質層23である。この多数の細孔に、より大量の有効成分9を保持することができ、より持続的に有効成分9を放出することができる。このような多孔質層23の材料としては、リポソーム膜、半透性フィルムまたは多孔性樹脂を使用することができる。これら3つの構造は、プローブ10のその他の部分の材質と異ならせてもよく、または、同じであってもよい。あるいは、プローブ10の表面の部材に、これらの構造を形成してもよい。また、プローブ10の表面の部材自身を、これらの構造を有する部材としてもよい。
【0047】
プローブにおける有効成分投与手段を、有効成分を通過させるための流路、および、前記流路から有効成分を放出するための放出口を有する構造とする場合、例えば、図8に示されるようなプローブ10とすることができる。図10では、エネルギー授受手段28に並行して有効成分投与手段24が接続されている。この場合、有効成分投与手段24は、有効成分9を通過させるための流路25および当該流路25から有効成分9を放出するための放出口26を備える。例えば、有効成分投与手段24は、チューブや注射針とすることができる。有効成分投与手段24の、放出口26と反対の端は、例えば有効成分供給手段27に接続される。有効成分供給手段27は、例えば注射器であり、内部に有効成分9を含んだ溶液を貯蔵している。この場合、注射器のピストンを、手動でまたは機械的に、任意の圧力や速度で押し込むことで、流路25を介して放出口26から有効成分9を組織に対して放出することができる。本発明は、図8のように、1つのエネルギー授受手段28に対して、1つの有効成分投与手段24を設けた場合に限られず、1つのエネルギー授受手段28に対して、複数の有効成分投与手段24を設けてもよい。例えば、複数の有効成分投与手段24は、エネルギー授受手段28の周囲の対称的な位置に、または、エネルギー授受手段28の周囲に等間隔の位置に設けてもよい。
【0048】
また、放出口26の数は図8の場合のように1つに限られず、図9のように複数設けることができる。図9では、放出口26は、プローブ10の側面に複数設けられている。また、図8のように下方向に対して放出口26を設け、さらに図9のように側面にも放出口26を設けることもできる。組織において、特に、エネルギー授受手段28とのエネルギー授受が行われる領域に有効成分9が作用することが好ましいため、その領域の方向に集中的に放出できるよう放出口26があることが好ましく、そのような放出口26に加えて、直接当該領域の方向に放出しないものの、近辺の組織全体に対して有効成分9を放出するような放出口26がさらに設けられることが好ましい。
【0049】
有効成分投与手段を、流路および放出口からなる構造とする場合の別の例は、図10に示される。図10(a)には、プローブ10の概略図が示される。このプローブ10は、組織に挿入される部分(図10(a)では下部)に、側面を囲むように複数の放出口26が設けられている。また、組織には挿入されない部分(図10(a)では上部)に、有効成分供給部に接続される流路25が接続されている。図10(b)は、このプローブ10の断面図である。このプローブ10は、エネルギー授受手段28を外筒29が囲むように固定している。図に示されるように、このプローブ10は、エネルギー授受手段28と外筒29との間に空間があり、この空間が有効成分投与手段の流路25として機能している。有効成分供給部から供給された有効成分9は、この流路25を通過し、放出口26から外部に放出される。図10に示されるプローブ10では、エネルギー授受手段28において、組織とエネルギー授受を行う部分(エネルギー授受領域200とする)は、図10(b)において破線で囲まれた部分である。図示されるように、この例によれば、エネルギー授受領域200は、プローブ10において最も外表面に位置している。このため、この例におけるプローブ10は、エネルギー授受において何ら障害となる構成を有しないという点で有利である。なお、外筒29は、有効成分9を含む溶液に対して耐腐食性であり、組織や細胞にとって有害性の低いものであれば、公知のあらゆる材質とすることができる。例えば、金属としてはステンレス、プラスチックとしてはポリエチレン樹脂やPEEK(polyetheretherketone)樹脂、ガラスとしては鉛フリーガラス等の重金属を含まないものを使用することができる。
【0050】
有効成分投与手段を、流路と放出口とによる構造とする場合のまた別の例は、図11に断面図として示される。図11によるプローブ10は、外筒29の内部にエネルギー授受手段28が収まっている。外筒29は、対象側端を光学窓30によって塞がれている。図11では、対象側端は、プローブ10の下端となる。エネルギー授受手段28、外筒29および光学窓30によって作られる空間は、有効成分投与手段の流路25aとして機能する。そして、光学窓30には複数の孔が開けられており、この孔が有効成分投与手段の放出口26として機能する。外筒29の上部には、有効成分供給手段に向けて、投入口201から流路25bがのびている。流路25bは例えば有効成分供給手段に接続され、有効成分供給手段から供給された有効成分が流路25bを経て、投入口201を通り、流路25aに入り、放出口26から放出される。このプローブ10では、エネルギー授受領域200は、プローブ10の外表面に出ていない。すなわち、エネルギー授受領域200と、外部の組織との間には、有効成分9を含む溶液が満たされた流路25および光学窓30が存在する。この例におけるプローブ10は、エネルギー授受を行う面と、有効成分9を放出する面が同一であり、最もグリア瘢痕の形成を避けたい部位に対して集中的に有効成分9を放出できるという点で有利である。このプローブ10は、光学窓30から有効成分9を放出し、且つ、光学窓30を介してエネルギー授受手段28が組織や細胞とエネルギー授受を行う。このとき、このプローブ10は、有効成分9を放出する1つまたは複数の放出口26を介して、エネルギー授受手段28が組織や細胞との間でエネルギー授受を行っても良いし、光学窓30を構成する光学材料を介して行っても良い。
【0051】
図12には、図11に示すようなプローブ10において、エネルギー授受手段28が、顕微鏡対物レンズ33である場合が示されている。この場合、顕微鏡対物レンズ33による良好な観察を行うために、光学窓30の孔と光の波長との関係が重要となる。光路32に示されるように光はレンズ31を通り、さらに複数の孔を有した光学窓30を介して観察の対象となる細胞や部位に向かい、また、その逆の経路で観察対象から顕微鏡本体へと向かう。従って、光学窓30に存在する孔に起因して光が散乱することを抑えるために、使用される光の波長が、光学窓の孔の直径より大きいことが好ましい。また、有効成分9が当該孔を通って放出されるためには、当然、当該孔の直径が、有効成分9の分子サイズより大きい必要がある。従って、図12のようなプローブ10を使用する場合、〔光の波長〕>〔光学窓の孔の直径〕>〔有効成分の分子サイズ〕であることが好ましい。光の波長は、本発明における方法では一般に400〜700nmのものが使用され、一般的なタンパク質分子の大きさは約1〜20nmであるため、光学窓の孔の直径は、2〜70μm程度であることが好ましい。さらに、用いる有効成分の分子サイズに対してはその2倍以上、用いる光の波長に対してはその1/10以下とすれば、さらに好ましい。また、光学窓30に設ける放出口26は、必ずしも全ての孔の直径をそろえる必要はなく、光学窓30の特定の領域の孔だけ大きくまたは小さくすることができる。例えば、光路32となる領域(例えば光学窓30の中央)の孔は上記条件に合った直径とし、一方、光路32とならない領域(例えば光学窓30の周囲)の孔を当該直径よりも大きいものとすることができる。なお、動物細胞の直径は一般に10〜30μmであり、上記光の波長の数十倍の大きさを有する。したがって光学窓の孔を介して細胞を放出する場合は、その孔を光学窓30の周囲すなわち光路32を避けた位置に設ければ良い。
【0052】
本発明は、上述のようなプローブを1つまたは複数有する、脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するための装置に関する。
このような装置は、少なくとも本発明によるプローブを1つ含み、その他に必要に応じて、エネルギー授受手段を制御するための部分、有効成分投与手段を制御するための部分、穿刺手段を制御するための部分、上記プローブおよび各種手段を対象動物に対して位置決めおよび固定する部分、を含む。エネルギー授受手段を制御するための手段とは、エネルギー授受手段が電極である場合には、たとえば電源や電気信号検出部等であり、エネルギー授受手段が光ファイバーや顕微鏡対物レンズである場合には、照明光源や光検出器や顕微鏡本体等である。有効成分投与手段を制御するための部分とは、例えば有効成分供給手段を注射器とする場合には、当該注射器のピストンを一定の圧力や速度で押し込むことで、投与される有効成分の量や速さを調節するための部分である。穿刺手段を制御するための部分とは、例えばプローブとは独立して穿刺用の針等を用いる場合には、当該針を狙った部位に狙った深さで精密に穿刺できる制御装置を含むような部位である。
【0053】
また、図13には、プローブを複数有した装置が示されている。図13では、マウス35の脳組織に2つのプローブ10が適用されている。プローブ10は、流路25が有効成分投与手段27に連結され、脳組織側の先端に、不図示の小型対物レンズを装着したイメージ光ファイバー36が顕微鏡本体34に接続されている。それぞれのプローブ10によって検出される光学像は、それらが接続されたそれぞれの顕微鏡本体34によって取り込まれる。このような装置とすることで、特定の部位を異なる角度から観察することができ、あるいは、特定の部位と別の部位とを同時に観察して、それらの関連を調べることができる。複数個所に従来の方法を適用した場合、損傷の蓄積や過度のグリア瘢痕の形成が生じ、適切な研究を行うことは困難であるが、本発明による方法を適用すれば、個々の箇所において損傷が回復されグリア瘢痕の形成が抑制されるため、グリア瘢痕が介在することによる各種の電気的障害または光学的障害が解消された状態で継続的に刺激および/または測定(とくに観察)を行える。よって、複数箇所に適用したとしても従来の場合の問題が生じにくく、良好な刺激および/または測定を行うことが出来る。
【符号の説明】
【0054】
1…中枢神経組織、2…神経細胞、3…細胞体、4…軸索、5…グリア細胞、6…穿刺手段、7…軸索切断部、8…有効成分投与手段、9…有効成分、10…プローブ、11…修復済み軸索、12…変性したグリア細胞、13…グリア瘢痕、14…挿入部、15…電極プローブ、16…先端チップ、17…非導電部、18…光学プローブ、19…非測定部、20…測定部、21…吸着層、22…凹凸層、23…多孔質層、24…有効成分投与手段、25…流路、26…放出口、27…注射器、28…エネルギー授受手段、29…外筒、30…光学窓、31…レンズ、32…光路、33…顕微鏡対物レンズ、34…顕微鏡本体、35…マウス、36…光ファイバー、101…保持構造、102…プローブ内部、エネルギー授受領域…200、投入口…201
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、
a)前記組織を穿刺すること、
b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、
c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うこと
を含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記中枢神経修復効果が、軸索伸長促進効果、アストロサイト活性化抑制効果および/またはグリア瘢痕形成抑制効果である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効成分が、星状細胞限定前駆細胞、嗅神経鞘グリア細胞、分娩後由来細胞(胎盤組織由来細胞、臍帯組織由来細胞)、グリア制限前駆細胞および活性未熟アストロサイトから成る群から選択される細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有効成分が、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ノギン、塩酸ファスジル水和物、IL−17F、EphA4受容体アンタゴニスト、EphA4受容体に対する抗体、EphA4受容体に対するアンチセンスRNA、EphA4受容体に対するアンチセンスDNA、EphA4受容体に対するsiRNA、エフリンアンタゴニスト、エフリンに対する抗体、エフリンに対するアンチセンスRNA、エフリンに対するアンチセンスDNA、エフリンに対するsiRNA、Arg−Gly−Gluであるアミノ酸配列を含む環状ペプチド、p75受容体結合剤、Nogo阻害剤、TNR阻害剤、MAG阻害剤、CD81、ホスホジエステラーゼ4型阻害剤、軸索形成因子1、軸索形成因子2および骨形成因子1A型受容体阻害剤から成る群から選択される物質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、
対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、
前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段と
を具備するプローブ。
【請求項6】
更に、前記対象部位に穿刺するための穿刺手段を具備する請求項5に記載のプローブ。
【請求項7】
前記有効成分投与手段が、有効成分を通過させるための流路および有効成分を放出するための放出口から成る手段である、請求項5に記載のプローブ。
【請求項8】
前記流路が、外筒と、前記外筒の対象側端に接続されおよび孔が設けられた光学窓と、前記外筒の内部に収められた前記エネルギー授受手段とによって規定される空間であり、
前記放出口が、前記光学窓に設けられた孔であり、
前記エネルギー授受手段が、前記光学窓を介してエネルギー授受を行う
請求項7に記載のプローブ。
【請求項1】
エネルギー授受手段を用いて、ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定する方法であって、
a)前記組織を穿刺すること、
b)前記穿刺部位に、中枢神経修復効果を有する有効成分を投与すること、
c)前記穿刺した部位において、前記エネルギー授受手段と前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うこと
を含み、前記エネルギー授受が前記有効成分による中枢神経修復効果を得た状態で実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記中枢神経修復効果が、軸索伸長促進効果、アストロサイト活性化抑制効果および/またはグリア瘢痕形成抑制効果である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効成分が、星状細胞限定前駆細胞、嗅神経鞘グリア細胞、分娩後由来細胞(胎盤組織由来細胞、臍帯組織由来細胞)、グリア制限前駆細胞および活性未熟アストロサイトから成る群から選択される細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有効成分が、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ノギン、塩酸ファスジル水和物、IL−17F、EphA4受容体アンタゴニスト、EphA4受容体に対する抗体、EphA4受容体に対するアンチセンスRNA、EphA4受容体に対するアンチセンスDNA、EphA4受容体に対するsiRNA、エフリンアンタゴニスト、エフリンに対する抗体、エフリンに対するアンチセンスRNA、エフリンに対するアンチセンスDNA、エフリンに対するsiRNA、Arg−Gly−Gluであるアミノ酸配列を含む環状ペプチド、p75受容体結合剤、Nogo阻害剤、TNR阻害剤、MAG阻害剤、CD81、ホスホジエステラーゼ4型阻害剤、軸索形成因子1、軸索形成因子2および骨形成因子1A型受容体阻害剤から成る群から選択される物質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
ヒトを除く脊椎動物の中枢神経組織を刺激または測定するためのプローブであって、
対象部位に中枢神経修復効果を有する有効成分を投与するための有効成分投与手段と、
前記対象部位において、前記中枢神経組織との間でエネルギー授受を行うためのエネルギー授受手段と
を具備するプローブ。
【請求項6】
更に、前記対象部位に穿刺するための穿刺手段を具備する請求項5に記載のプローブ。
【請求項7】
前記有効成分投与手段が、有効成分を通過させるための流路および有効成分を放出するための放出口から成る手段である、請求項5に記載のプローブ。
【請求項8】
前記流路が、外筒と、前記外筒の対象側端に接続されおよび孔が設けられた光学窓と、前記外筒の内部に収められた前記エネルギー授受手段とによって規定される空間であり、
前記放出口が、前記光学窓に設けられた孔であり、
前記エネルギー授受手段が、前記光学窓を介してエネルギー授受を行う
請求項7に記載のプローブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−67553(P2011−67553A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223322(P2009−223322)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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