説明

中枢神経系組織標識用組成物、中枢神経系組織の標識方法、及び中枢神経系組織標識用組成物を用いたスクリーニング方法

【課題】中枢神経系組織を標識する中枢神経系組織標識用組成物であり、又、中枢神経系組織を非侵襲的に標識する方法であり、又、これらの中枢神経系組織標識用組成物を使用したスクリーニング方法の提供。
【解決手段】一般式(1)または(7)で表される化合物のうち何れか少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする生体の中枢神経系組織標識用組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経系組織を明瞭に標識することが可能な標識用組成物、中枢神経系組織標識用組成物を用いた中枢神経系組織の標識方法、及び、中枢神経系組織標識用組成物を用いたスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会が進むにつれ、中枢神経系疾患の患者数も増加傾向にある。代表的な疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、偏頭痛、脊髄小脳変性症、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などが挙げられる。中枢神経系疾患は運動機能の低下や認知機能の低下などを引き起こし、患者の生活の質を著しく損なう。そのため、中枢神経系組織の異常を正確に把握し、早期に疾患を検出して治療または進行を遅らせる手段を施すことが求められている。中枢神経系組織の診断には、コンピュータ断層撮影(CT)や、核磁気共鳴画像装置(MRI)による画像形態評価や、ポジトロン断層法(PET)等を用いた核医学的な画像診断が行われている。
【0003】
脳は神経細胞とグリア細胞とから成り立つ組織であり、細胞間の複雑なネットワークと階層的な構造とを通して高度な機能を発現している。イメージング技術を用いれば、中枢神経系の機能を損なわずに可視化計測できるため、より直感的かつ動的・定量的に調べることが可能である。近年は、上記の画像診断技術だけではなく、蛍光イメージングや近赤外イメージングといった新たな技術の開発が進んでいる。
【0004】
中枢神経系のイメージングにおいては、組織にコントラストをつけて疾患部位を可視化するために様々なプローブを用いた方法が開発されている。例えば、PETや単一光子放射断層撮影法(SPECT)では放射性同位元素で標識した合成化合物(リガンド)を体内に投与し、脳での局所放射能を定量することによってリガンドの体内分布や代謝動態を解析し、機能局在のマッピングを行う方法が使用されている。また、アルツハイマーの診断のために、脳組織に沈着したβアミロイドに特異的に結合する化合物が開示されている(特許文献1、2)。これらの化合物を放射性同位元素で標識したプローブが生体に投与されると脳内のβアミロイドに結合するため、PET装置を用いて当該プローブを検出することにより、βアミロイドが顕著に集積した部位を検出することが可能である。
その他にも、脳のグリア細胞を蛍光標識することが可能な化合物が非特許文献1に開示されている。このような中枢神経系組織への集積性や標識性を有するプローブは、臨床的には疾患状態の可視化による診断として、基礎研究においては疾患の機構解析のツールとして活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−250411号公報
【特許文献2】特開2007−106755号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0193776号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Methods.,1(1)、31−7頁(2004年)
【非特許文献2】Brain Research Bulletin 75,619−628頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来用いられているプローブは、ブドウ糖の取り込みが多い部位への集積性を利用したり、βアミロイドへの特異的な集積性などを利用したりしているため、このような特異的部位を有しない疾患において、脳の特定部位の形態のイメージングには不向きである。また、前記のグリア細胞を染色する化合物は、脳に直接投与するという侵襲性の高い処置が必要であるという課題があった。
【0008】
そもそも、脳への化合物の移行性は血液脳関門(BBB)や、血液脳脊髄液関門(BCSFB)によって制限されており、通常組織であれば組織内に移行する化合物であっても脳内へ移行できないものが多い。また、前記の特許文献3のように、幼若期には脳への移行性の見られる化合物であっても、BBBが機能するようになると脳への移行性が見られなくなることが知られている。
【0009】
また、前記特許文献1、2には、BBBの透過性のあるクマリン系化合物が報告されているが、当該技術ではβアミロイドへの特異的結合性にのみ着眼され、脳内の中枢神経系組織に対する標識性に関しては触れられていない。
以上のことから、BBBやBCSFBの影響を受けずに生体の中枢神経系組織を生きたまま明瞭に標識可能な中枢神経系組織の標識用化合物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、下記一般式(1)、及び(7)で表される色素化合物は、生体の中枢神経系組織を生きたまま標識しうることを見出した。つまり、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体の何れか少なくとも1組織を高感度に標識し、高精度な診断や薬のスクリーニングが可能になる新規な中枢神経系組織標識用組成物を見出して本発明に至った。
また、本発明者らは、生体の中枢神経系組織の標識方法を確立した。更には、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いたスクリーニング方法を開発し、本発明を完成するにいたった。
【0011】
すなわち、本発明の新規な中枢神経系組織標識用組成物は以下のとおりである。
一般式(1)または(7)で表される化合物のうち何れか少なくとも1種を有効成分として含み、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体の何れか少なくとも1組織を標識可能であることを特徴とする中枢神経系組織標識用組成物。
【0012】
【化1】

(一般式(1)中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アラルキル基、または、アリール基を表し、芳香環Aは、後述一般式(2)〜(4)で表される骨格構造を表し、芳香環AとRは結合して、後述一般式(5)〜(6)で表される骨格構造を表す。)
【0013】
【化2】

(一般式(7)中、R21〜R24は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、R21とR22、R22とR23、R23とR24、が互いに結合して環を形成してもよく、R25〜R28は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、Bは酸素原子またはNH基を表し、Qは酸素原子、硫黄原子、N−R29基(R29は、水素原子、または、アルキル基を表す)を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物の提供により、これまで困難であった視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体などの脳組織を選択的に標識することが可能となり、簡便、且つ、高精細に中枢神経系組織の特定部位の形態や細胞状態などを評価・解析することが可能となる。更に、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いたスクリーニング方法は、中枢神経系の研究や創薬に有効な新規なツールとなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2で観察された中枢神経系組織の標識像を示す。
【図2】実施例5で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図3】実施例6で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図4】実施例2で観察された中枢神経系組織の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図5】実施例3で観察された中枢神経系組織の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図6】比較例1で観察されたゼブラフィッシュの観察像を示す。
【図7】実施例8で観察された14日胚のゼブラフィッシュの中枢神経系組織の観察像を示す。
【図8】実施例10で観察されたマウスの中枢神経系組織切片の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図9】参考例1で観察されたゼブラフィッシュの観察像を示す。
【図10】実施例12で観察された中枢神経系組織の標識像を示す。
【図11】実施例15で観察された中枢神経系組織の標識像を示す。
【図12】実施例16で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図13】実施例20で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図14】実施例24で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図15】実施例26で観察された3カ月齢のゼブラフィッシュの中枢神経系組織の観察像を示す。
【図16】実施例27で観察されたマウスの中枢神経系組織切片の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図17】実施例29で観察されたゼブラフィッシュ稚魚の脳の冠状断面図。視蓋の標識像を示す。
【図18】実施例29で観察されたゼブラフィッシュ稚魚の脳の冠状断面図。網様体の標識像を示す。
【図19】実施例33で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図20】実施例42で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図21】実施例43で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【図22】実施例45で観察された中枢神経系組織の観察像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いての本発明の実施形態について説明する。なお、個々に開示する実施形態は、本発明の中枢神経系組織標識用組成物、中枢神経系組織の標識方法、及び中枢神経系組織標識用組成物を用いたスクリーニング方法の例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態である中枢神経系組織標識用組成物は、一般式(1)または(7)で表される化合物のうち何れか少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする。
【化3】

【0018】
ここで、一般式(1)中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アラルキル基、または、アリール基を表す。また、芳香環Aは、下記一般式(2)〜(4)で表される骨格構造を表し、芳香環AとRは結合して、下記一般式(5)〜(6)で表される骨格構造を表す。
【0019】
【化4】

【0020】
ここで、一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、アラルキル基、または、アリール基を表す。一般式(3)中、Rは、酸素原子、硫黄原子、または、N―R(Rは、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す)を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、スルホン酸基を表す。一般式(4)中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、または、ヘテロ環基を表す。なお、一般式(2)、(3)、及び(4)中、*は一般式(1)中のNとの結合部位を示す。一般式(5)中、Rは、アルキル基を表し、X及びYは水素原子またはアルキル基を表し、Zは水素原子、または、ハロゲン原子を表し、nは0または1の整数を表す。また、XとYは結合して環を形成してもよい。一般式(6)中、R〜R10は、アルキル基、またはアリール基を表し、R11は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、カルボン酸基、または、スルホン酸基を表す。
【0021】
前記一般式(1)中のR〜Rにおけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基、3−ヘキサニル基が挙げられる。さらに、該基には、式(1)で表わされる化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければさらに置換基を有していてもよい。
〜Rにおけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。また、R〜Rにおけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0022】
前記一般式(2)中のRにおけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。Rにおけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えばベンジル基、フェネチル基が挙げられる。また、Rにおけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
前記一般式(1)及び(2)で表される化合物中、特に、RもしくはRの一方が水素原子、もう一方が、アルキル基、アラルキル基である場合、蛍光性が強く好ましい。Rはメチル基、ブチル基、シクロヘキシル基が合成の容易さから好ましい。
【0023】
前記一般式(3)中のR〜Rにおけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0024】
前記一般式(4)中のRにおけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基が挙げられる。さらに、該基には、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければさらに置換基を有していてもよい。
におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、ピリジル基、ピラジル基、モルホリニル基が挙げられる。
【0025】
前記一般式(5)中のR、X、Yにおけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。さらに、該基には、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければさらに置換基を有していてもよい。
前記一般式(5)中の、Zにおけるハロゲン原子としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、または、ヨウ素原子が挙げられる。
前記一般式(5)中のXとYが結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、シクロペンタン環、ベンゼン環が挙げられる。
前記一般式(6)中のR〜R10におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
〜R10におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基が挙げられる。さらに、該基には、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければさらに置換基を有していてもよい。
【0026】
11におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
11におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
本発明にかかる一般式(1)〜(6)で表される色素化合物は、市販されており入手可能であるが、公知の方法によって合成することも可能である。
【0027】
一般式(1)で表わされる色素化合物の好ましい具体例(化合物(8)から化合物(14))を次に示すが、以下のものに限定されるわけではない。
【0028】
【化5】

【0029】
次に、一般式(7)について説明する。
【化6】

【0030】
一般式(7)中、R21〜R24は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基またはハロゲン原子を表す。R21とR22、R22とR23、または、R23とR24が互いに結合して環を形成しても良い。R25〜R28は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはハロゲン原子を表す。Bは酸素原子またはNH基を表す。Qは酸素原子、硫黄原子、N−R29基(R29は、水素原子、または、アルキル基を表す)を表す。
【0031】
前記一般式(7)中のR21〜R29におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。R21〜R28におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
21〜R24におけるアミノ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、無置換アミノ基;N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−メチルプロピルアミノ基等のジ置換アミノ基が挙げられる。
【0032】
21〜R28におけるハロゲン原子としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、または、ヨウ素原子が挙げられる。
21とR22、R22とR23、または、R23とR24が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゼン環等の芳香環、シクロヘキサン環等の飽和環、シクロペンテン環等の部分飽和環、ピペリジン環等のヘテロ環が挙げられる。該環には、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければさらに置換基を有していてもよい。
【0033】
前記一般式(7)中、特にR22がアミノ基またはアルコキシ基等の電子供与性置換基の場合は蛍光強度が増すので好ましく、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等のジ置換アミノ基の場合は蛍光強度が強く、最も好ましい。
Qは酸素原子、硫黄原子が標識性の観点から好ましく、特に酸素原子の場合が蛍光強度も強く、特定の部位を効果的に標識することが出来るため、より好ましい。
26がメチル等のアルキル基、クロロ原子等のハロゲン原子を有する時は蛍光強度も強く、特定の部位を効果的に標識することが出来るため好ましい。
【0034】
一般式(7)で表される色素化合物は、市販されており入手可能であるが、公知の方法(例えば、Dyes and pigments,Vol.47(Issues1−2),79−89頁(2000)等)によって合成することも可能である。
一般式(7)で表わされる色素化合物の好ましい具体例(化合物(15)から化合物(28))を次に示すが、以下のものに限定されるわけではない。
【0035】
【化7】

また、次に示す化合物も好ましい具体例に挙げることが出来る。
【0036】
【化8】

【0037】
(化合物について)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、少なくとも一種類以上の中枢神経系組織に存在する細胞を標識可能な化合物を含むことを特徴とする。好ましくは、中枢神経系組織の視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体の少なくともひとつを選択的に標識する化合物を含む。本発明で「選択的に標識」とは、少なくとも前記の細胞または部分が、中枢神経系組織内の他の細胞または部分よりも特異的に標識されることを指す。
【0038】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物に含まれる一般式(1)または(7)で表される色素化合物は、標識の対象となる中枢神経系組織へ移行させることから、低分子化合物であることが好ましく、分子量が2,000以下であるものが選択される。好ましくは分子量が1,000以下の化合物、特に分子量が600以下の化合物であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の中枢神経系組織標識用組成物に含まれる化合物は蛍光性を有する蛍光性化合物であることが好ましい。蛍光性の化合物であれば感度が高いため、低濃度で標識することができ、必要とする化合物の量を相対的に減らすことができる。また、標識部位が異なり、蛍光スペクトルの異なる化合物等の組み合わせを選択すれば、多重標識が可能になるため、一度の観察から得られる情報が増えるため、有用性が高い。
【0040】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、BBBやBCSFBによって阻害されることなく中枢神経系組織に移行することができるため、生きた生物個体の中枢神経系組織、または、中枢神経系組織に連絡する組織を傷つけることなく投与されうる。
【0041】
よって、本発明の第二の実施形態である中枢神経系組織の標識方法によれば、中枢神経系組織、または、中枢神経系組織に連絡する組織を傷つけることなく標識することができる。すなわち、生きた生物個体の中枢神経系組織標識用組成物を、中枢神経の近傍組織の切開や、中枢神経系組織または中枢神経系組織に連絡する神経組織への針刺し等の外科的損傷を与えることなく、標識することができる。なお、本発明は、前記外科的損傷を伴う標識する方法を排除していない。
【0042】
外科的損傷なく標識する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、中枢神経系組織標識用組成物を生物個体の一部または全体に暴露する方法、経口接触による方法、経肺接触による方法、経鼻接触による方法、経消化管接触による方法、経粘膜接触による方法、経体液接触による方法、舌下接触による方法、静脈または動脈等の血管内接触による方法、腹腔内接触による方法、腹膣内、皮下、皮内、膀胱内、気管(気管支)内等への注入方法、噴霧または塗布等の手段による生体内への接触による方法が挙げられる。動物への投与の場合には、その投与形態、投与経路、投与量は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【0043】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物による第三の実施形態である標識状態の可視化による情報の取得方法は、中枢神経系組織標識用組成物を用いて生体の中枢神経系組織を標識し、画像を取得することを特徴とする。つまり、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を何れかの方法で投与した後、一定時間後に、励起波長の光を観察部位に照射し、発生するより長波長の蛍光を観測し画像を形成することを特徴とする。
【0044】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物による好ましい標識の具体的方法には、蛍光性のプローブや放射性核種で標識されたプローブ等を用いる方法がある。これらのプローブで中枢神経系組織を染色できることで、中枢神経系組織とつながる末梢神経系組織の分布や配向などをイメージングすることができるため、好ましい。
本発明において、中枢神経系組織の細胞形態を染色するとは、中枢神経系組織に存在する細胞を少なくとも1種類以上染色し、1種類毎に細胞形態をたとえば蛍光色等を通じてはっきりと判別することが可能な状態にすることである。
【0045】
(中枢神経系組織の標識による中枢神経系組織観察方法)
本発明の中枢神経系組織の標識による中枢神経系組織観察方法は、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いることを特徴とする。その測定及び検出方法は当業者には公知の方法を用いて行われる。
本発明で用いられる中枢神経系組織の標識による中枢神経系組織観察方法は、中枢神経系組織に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、生物試料の状態及び変化を画像とし捉える方法である。例えば、眼組織に可視光、近赤外光、または赤外光を照射してカメラやCCD等で観察する可視光観察、近赤外光観察、赤外光観察、レーザー顕微鏡観察、または蛍光内視鏡等のように生物試料に対して励起光光源から励起光を照射して、発光している生物試料の蛍光を観察する蛍光観察、蛍光顕微鏡観察、蛍光内視鏡観察、共焦点蛍光顕微鏡観察、多光子励起蛍光顕微鏡観察、狭帯域光観察、または共光干渉断層画像観察(OCT)、更に、軟エックス線顕微鏡による観察が挙げられる。
【0046】
本発明で用いられる励起するための波長は、特に限定されるものではないが、使用する前記一般式(1)で表される色素化合物によって異なり、前記一般式(1)で表される色素化合物が効率よく蛍光を発すれば特に限定されるものではない。通常、200〜1010nm、好ましくは400〜900nm、より好ましくは、480〜800nmである。近赤外領域の光を用いる場合は、通常600〜1000nmで、好ましくは、生体透過性に優れている680〜900nmの波長が用いられる。
【0047】
本発明で用いられる蛍光励起光源としては特に限定されるものではないが、各種レーザー光源を用いることが出来る。例えば、色素レーザー、半導体レーザー、イオンレーザー、ファイバーレーザー、ハロゲンランプ、キセノンランプ、またはタングステンランプが挙げられる。又、各種光学フィルターを用いて、好ましい励起波長を得たり、蛍光のみを検出したりすることが出来る。
このように生物個体に励起光を照射することにより、中枢神経系組織の内部において発光させた状態で中枢神経系組織を撮像すれば発光部位を容易に検出することが出来る。又、可視光を照射して得られた明視野画像と励起光を照射して得られた蛍光画像を画像処理手段で組み合わせることで、より詳細に中枢神経系組織を観察することも出来る。また、共焦点顕微鏡を用いれば、光学的な切片画像を取得することができるため、好ましい。さらに、多光子励起蛍光顕微鏡は、高い深部到達性と空間解像力を持つため、組織内部の観察に好ましく用いられる。
【0048】
(放射線標識)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は放射性核種で標識されたプローブとして用いることも可能である。標識に用いる放射性核種の種類は、特に限定されるものではないが、使用の態様によって適宜選択することが出来る。具体的に、PETによる測定の場合は、例えば、11C、14C、13N、15O、18F、19F、62Cu、68Ga、または78Brの陽電子放出核種を用いることが出来る。好ましくは、11C、13N、15O、または18Fであり、特に好ましくは、11C、または18Fである。また、SPECTによる測定の場合は、例えば、99mTc、111In、67Ga、201Tl、123I、または133Xeのγ線放射核種を用いることが出来る。好ましくは、99mTc、または123Iである。更に、ヒト以外の動物を測定する場合には、例えば、125Iのようなより半減期の長い放射線核種を用いることが出来る。
GREIによる測定の場合は、例えば、131I、85Sr、65Znを用いることが出来る。
【0049】
放射性核種で標識した中枢神経系組織標識用組成物は、例えば、オートラジオグラフィー、陽電子(ポジトロン)放出核種を用いる放射断層撮影法(PET)、様々なガンマ線放出核種を用いる単一光子放射断層撮影法(SPECT)等によって画像化を行うことが出来る。又、フッ素原子核に由来するMR信号や13Cを利用した核磁気共鳴法(MRI)で検出してもよい。更に、次世代分子イメージング装置として複数分子同時イメージングが可能なコンプトンカメラ(GREI)等によって画像化することも可能である。また、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレートを用いて中枢神経系組織用プローブの定量をすることも可能である。
【0050】
また、14C等の放射性同位元素で標識した中枢神経系組織標識用組成物は、加速器質量分析法(AMS)等によって、血液中(または、尿中もしくは糞中)の濃度を測定して、標識化した物質の未変化体や代謝物の薬物動態学的情報(薬物血中濃度−時間曲線下面積(AUC)、血中濃度半減期(T1/2)、最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(Tmax)、分布容積、初回通過効果、生物学的利用率、糞尿中排泄率等)を得ることが可能である。
【0051】
放射線核種の標識の方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている方法で良い。また、一般式(1)または(7)で表わされる化合物を構成する元素の少なくとも一部を放射性核種で置換する形でも、結合する形でも良い。
一般式(1)または(7)で表わされる化合物を放射性核種で標識した場合、1mMあたり、1〜100μCiの放射性を有することが好ましい。
この時、用いる中枢神経系組織標識用組成物の投与量は、影響がなければ特に制限はされず、化合物の種類及び標識に用いた放射性核種の種類により適宜選択される。
【0052】
(生物試料について)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いて中枢神経系組織を標識することが可能な生物種としては、特に限定されるものではないが、例えば、脊椎動物としては、トラフグ、クサフグ、ミドリフグ、メダカ、ゼブラフィッシュ等の硬骨魚類、アフリカツメガエル等の両生類、ニワトリ、ウズラ等の鳥類、ラット、マウス、ハムスター等の小動物、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等の大動物、サル、チンパンジー、ヒトが挙げられる。特に、これらの生物個体の眼内組織を生きたままの状態で標識することが出来る。また、生物試料としては、ヒトを除外してもよい。
【0053】
これらの生物試料の中でも、ゼブラフィッシュを用いることが好ましい。ゼブラフィッシュは3dpf(days post fertilization、3日胚)でBBBのタイト結合の主要な構成タンパク質であるClaudin−5及びZonula Occludens−1が発現する(Brain Research Bulltein 75 (2008) 619−628)。6−7dpfで主要な臓器が形成され、8dpfにはBBBの物質排出を担うP−糖タンパクも発現する。そのため、中枢神経系組織の評価に好適に用いることができる。また、ゼブラフィッシュは1回の産卵で約200個以上の受精卵が得られるため同じ遺伝的背景持ったゼブラフィッシュが得られ、スクリーニングには好都合であるという利点がある。
【0054】
(中枢神経系組織について)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物が標識できる中枢神経系組織は、例えば、大脳(終脳)、大脳皮質、大脳基底核、中脳、小脳、間脳、後脳(外套)、橋、延髄、脊髄、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体、中隔核、扁桃体、内包、視神経などから構成される中枢神経系組織、これら組織の疾患状態組織、または疾患による新生組織及び癌組織が挙げられる。また、生物種類、発生段階、もしくは発生異常、疾病等によって前記と異なる中枢神経系組織が存在する場合は、それらの組織も含むことが出来る。本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体を特に好ましく標識できる。
【0055】
前記の中枢神経系組織に含まれる細胞としては特に限定されるものではないが、神経細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、プルキンエ細胞、アマクリン細胞、網膜神経節細胞、錐体細胞、星状細胞、顆粒細胞、グリア細胞、またはこれらの腫瘍細胞、これらの未分化状態の細胞(幹細胞)等が挙げられる。
また、本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、視神経をはじめとする脳神経も標識できる。脳神経を染色できることで、中枢神経系組織とつながる末梢神経系組織の分布や配向などをイメージングすることができるため、好ましい。
本発明において、中枢神経系組織、つまり中枢神経系組織の細胞形態、を標識するとは、中枢神経系組織に存在する細胞が少なくとも1種類以上標識され、適切な観察方法を用いれば1種類毎に細胞形態がはっきりと判別することが可能な状態にすることである。
【0056】
(疾患の診断について)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いたイメージングにより診断される中枢神経系疾患は、特に限定されないが、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、運動ニューロン疾患、タウオパシー、皮質基底核変性症、うつ病、てんかん、偏頭痛、脊髄小脳変性症、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞を挙げることができる。
【0057】
(中枢神経系組織標識用組成物の調製)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物に含まれる化合物の濃度は中枢神経系組織を検出することが出来れば特に限定されるものではないが、標的とする部位や使用される化合物によって適宜調節される。通常は0.001ng/mL以上、100μg/mL以下の濃度で用いられ、より好ましくは0.001ng/mL以上、10μg/mL以下、より好ましくは0.001ng/mL以上、5μg/mL以下の濃度で用いられる。
【0058】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、前記一般式(1)または(7)で表される色素化合物の少なくとも1種を適当な溶媒に溶解させて用いる。生体に影響がなければ、特に限定されるものではないが、例えば、生体との親和性が高い水性の液体が好ましい。具体的には、水;生理食塩水;リン酸緩衝液(PBS)、Tris等の緩衝液;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略する)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略する)等の有機溶媒;D−MEM、HBSS等の細胞培養用培地、または乳酸リンゲル液等の輸液が挙げられる。特に水が50%以上含まれていることが好ましい。又、これらの溶媒を2種以上混合して用いることも出来る。
【0059】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物の作製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記のような溶媒に溶解させた化合物の濃厚溶液を希釈して作成しても良い。化合物の水溶性が低い場合には、適当な溶媒に溶解させてから精製水に希釈させて用いることが出来る。溶媒としては、、メタノール、エタノール、DMSOが好ましい。
【0060】
本発明の中枢神経系組織標識用組成物には、生体に適した塩濃度やpH等を制御することが必要であれば添加剤を1種類またはそれ以上組み合わせて添加することが出来る。本発明に用いられる添加剤としては、中枢神経系組織標識用組成物に影響がなければ特に限定されるものではないが、例えば、保湿剤、表面張力調製剤、増粘剤、塩化ナトリウムのような塩類、各種pH調製剤、pH緩衝剤、防腐剤、抗菌剤、甘味剤、または香料が挙げられる。
【0061】
pH調製剤としては、pHを5〜9に調製することが好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、水酸化ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いることにより、中枢神経系の近傍組織の切開や、中枢神経系組織または中枢神経系組織に連絡する神経組織への針刺し等の外科的損傷を与えることなく、中枢神経系組織または中枢神経系組織に連絡する組織を標識することができる。
【0062】
本発明の第四の実施形態であるスクリーニング方法は、中枢神経系組織標識用組成物を用いて、in vivoで中枢神経系組織に作用する化合物を検出することを特徴とする。
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、生物個体、例えば、小型硬骨魚類であるゼブラフィッシュを用いて、生きたままの状態、所謂in vivoで中枢神経系組織の標識性を指標として用いることにより、スクリーニング対象化合物の中枢神経系組織移行性や薬理作用をスクリーニングすることが可能である。更に、生きた生物個体であるゼブラフィッシュを用いているため、スクリーニング対象化合物の安全性についても同時にスクリーニングすることが可能である。
【0063】
ゼブラフィッシュは、米国及び英国では、近年、既にマウス及びラットに続く第3のモデル動物として認知されており、人と比較して全ゲノム配列が80%の相同性、遺伝子数もほぼ同じ、主要臓器・組織の発生・構造も良く似ていることが解明されてきている。各パーツ(心臓、肝臓、腎臓、消化管等の臓器・器官)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できるのが特徴であるため、ゼブラフィッシュをモデル動物としてスクリーニングに用いることは特に好ましい。
【0064】
「中枢神経系組織に作用する化合物を検出すること」とは、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を用いて、調べたい化合物(スクリーニング対象化合物)を当該中枢神経系組織へ作用させた際の標識性の変化を測ることによって、中枢神経系組織に作用する化合物の有無や特性を検出することをいう。具体的に、一例として、スクリーニング対象化合物と本発明の中枢神経系組織標識用組成物、及びゼブラフィッシュを接触させて、スクリーニング対象化合物の存在が、中枢神経系組織標識用組成物による中枢神経系組織の標識状態に及ぼす影響を観察するスクリーニング方法が挙げられる。
【0065】
スクリーニング対象化合物を接触させる方法としては、特に限定されるものではないが、スクリーニング対象化合物が水溶性の場合は、飼育水中にスクリーニング対象化合物を投与する方法、非水溶性の場合は、飼育水中にスクリーニング対象化合物を単独で分散させて投与する方法、または微量の界面活性剤やDMSOと共に投与する方法、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与する方法、または、注射等による非経口投与する方法が挙げられる。好ましくは、容易に出来る飼育水中にスクリーニング対象化合物を投与する方法が挙げられる。
【0066】
1種類以上の本発明の中枢神経系組織標識用組成物を有効成分として利用し、スクリーニング対象化合物の中枢神経系組織における効果、副作用、または安全性を、生物個体(例えばゼブラフィッシュ)を用いて、in vivoで生物に及ぼす影響のスクリーニングが可能である。標的部位、目的、検査手段等に応じて、使用する中枢神経系組織標識用組成物は随意に選択することが出来る。更に、中枢神経系組織標識用組成物の標識性から、疾病の高精度な診断や治療法の開発等の応用展開が期待され、診断用組成物として用いることができる。
【0067】
前記スクリーニング対象化合物とは、化学的に作用のある化合物の総称を意味し、特に限定されるものではないが、例えば、医薬品、有機化合物、治療剤、治験薬、農薬、化粧品、環境汚染物質、または内分泌攪乱物質が挙げられる。
ゼブラフィッシュは、スクリーニングの目的に応じ、野生型ゼブラフィッシュに限定されず、各種疾患系モデルのゼブラフィッシュを用いることが出来る。疾患系のモデルを用いた場合には、観察により新薬候補化合物の効果を見出し、疾患治療薬または疾患予防薬のスクリーニングに応用することが出来る。
【0068】
又、本発明のスクリーニング方法は、小型硬骨魚類を用いることが出来る。本発明のスクリーニング方法で用いられる小型硬骨魚類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ゼブラフィッシュ、フグ、金魚、メダカ、またはジャイアント・レリオが挙げられる。小型硬骨魚類は、マウス及びラット等と比較して、スピード面・コスト面で非常に優れているため好ましい。特に、ゼブラフィッシュはゲノムの解読がほぼ完了しており、また飼育及び繁殖が容易で流通価格も安く、受精後48〜72時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がるため、好ましい。
【0069】
(術中診断など)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、例えば、脳外科手術中に疾患の細胞組織や腫瘍と思われる被験物質の部位を特異・選択的に標識し、正常な細胞との違いを見極める手段や、疾患による組織の変化を観測することに用いることが出来る。観測手段としては、脳内視鏡(ファイバースコープ)や、脳外科手術用顕微鏡を用いることができる。
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、生きた生物個体の中枢神経系組織を、中枢神経系組織の露出や中枢神経系組織内または中枢神経系組織と連絡する組織に標識剤を注入するという侵襲性の高い操作を要することなく、中枢神経系組織を標識することが可能である。従って、これらの識別を利用して、診断剤としての応用に用いることが出来る。
診断剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、脳の機能を検査する診断剤や脳疾患の診断剤等に用いることが出来る。
【0070】
(脳機能イメージング・脳機能マッピング)
本発明の中枢神経系組織標識組成物は、脳機能イメージングや脳機能マッピングを行うためのプローブとして用いることが出来る。本発明の中枢神経系組織標識組成物の蛍光特性は、相互作用する生体分子や、溶媒環境により変化する。そのため、この蛍光特性の変化を検出することにより、脳神経細胞の活動状態の変化を検出することが出来る。
【0071】
(増感剤(光線力学療法))
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、光増感剤として用いることもできる。光増感剤は、光活性化する光の照射によって活性化され、その光増感剤を細胞毒性型に転換し、それによって標的細胞が殺傷されるか、またはそれらの増殖能力が減少する化学化合物である。
【0072】
(ヒトへの外挿性について)
本発明の中枢神経系組織標識用組成物は、ヒトへも適用可能である。ヒトへの外挿性は、ヒトと実験動物の中枢神経系組織の類似性、相違点を認識した上で全体的な近似によって確かめられる。以下に数例を示すが、これらに限定されるのではない。
(1)ヒトとヒト以外の生きた生物試料の中枢神経系組織を標識し、類似性を確認する。ヒト以外の生きた生物試料としては、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、豚、猫、サル等の哺乳類動物、ゼブラフィッシュ等の硬骨魚類等が挙げられる。
(2)前記ヒト以外の生きた生物試料の固定化組織切片を用いて、中枢神経系組織の標識性を確認し、生きた生物試料と同様の標識性があることを確認する。
(3)ヒトの固定化組織切片を用いて中枢神経系組織の標識性を確認する。
【0073】
以上の3点を確認することで、ヒトに対しても本発明の中枢神経系組織標識用組成物が適用できることを確認することが出来る。
ヒトへの外挿性確認の別の方法としては、本発明の中枢神経系組織標識用組成物を放射性標識して極微量をヒトの体内へ投与し、中枢神経系組織への局在を確かめることで確認することが出来る。この手法はマイクロドージング試験と呼ばれる。
また別の方法としては、(1)ヒト以外の生物試料の中枢神経系組織で、本発明の中枢神経系組織標識用組成物の標的生体分子または標識機構を同定する。(2)該標的生体分子または標識分子機構に相同なヒト生体分子または標識機構を同定する。(3)ヒト以外の実験動物に遺伝子改変によって該ヒト生体分子または標識機構を導入する。(4)得られた実験動物を用いて、導入した生体分子または標識機構を介して標識されることを確認する。
【0074】
ヒト以外の生物試料としては、特にゼブラフィッシュを好ましく用いることができる。中枢神経系組織の重要な機能である血液脳関門(BBB)はゼブラフィッシュにおいても多くの脊椎動物と同様に機能している。ゼブラフィッシュを用いることで、マウスなどに較べて飼育コストが低く、用いる化合物の量も少量で済むなどの利点が高い。また、形態だけではなく、ヒトと共通の多くの疾患モデルも作製されている。以上のことから、ゼブラフィッシュを用いて本発明の中枢神経系組織標識用組成物のヒト外挿性を確認することが好ましい。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明のより一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。なお、特に表示していない限りは「%」は質量基準である。なお、使用した分析装置は、H核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子(株)製)、LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製)、及びマルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)である。
本発明にかかる一般式(1)〜(7)で表される色素化合物は、市販されており入手可能であるが、公知の方法によって合成することも可能である。
【0076】
(実施例1)
中枢神経系組織標識用組成物による中枢神経系組織の標識
1mg/mLの前記化合物(8)のDMSO溶液に蒸留水を加えて、前記化合物(8)の濃度が1μg/mLである標識液1を得た。24穴マルチプレート(IWAKI製)の任意のウェル中に、1mLの標識液1とゼブラフィッシュ7日胚(7dpf)の稚魚を入れ、1時間放置した。次に、ウェル中の標識液1を除去し、蒸留水1mLで置換する操作を3回行った。次に、ウェルから稚魚を取り出し、スライドガラス上で5%低温融解アガロースゲルに埋没させて動きを制限し、蛍光実体顕微鏡(Leica社製 MZ16FA)を用いてゼブラフィッシュの側面から中枢神経系組織の標識状態の観察を行った。また、共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いて頭頂部から脳神経組織の観察を行った。その結果、ゼブラフィッシュの脳神経組織で蛍光が観察された。脳の標識状態は、部位によって異なり、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体が強く標識されている様子が確認された。
【0077】
(実施例2〜7)
実施例1の色素化合物(8)を表1に記載の色素化合物(9)〜(14)に変更して、標識液2−7を用いた以外は、実施例1と同様の操作で標識および観察を行った。
【0078】
(比較例1)
実施例1の色素化合物(8)をフルオレセインに変更した以外は、実施例1と同様の操作で標識および観察を行った。
【0079】
前記実施例1〜7及び比較例1について、標識性(++:中枢神経系組織が強く標識される、+:中枢神経系組織が弱く標識される、−:標識されない)を評価した。
以上の結果を表1に示す。なお、実施例1〜7、及び比較例1の色素化合物の励起波長および蛍光波長は、10mg/mLのDMSO溶液を精製水に500倍希釈した水溶液を日立ハイテク社製FL4500蛍光分光測定機で測定して求めた。
【0080】
【表1】

【0081】
(実施例8〜9)
実施例6及び7で使用したゼブラフィッシュ7日胚(7dpf)の稚魚をゼブラフィッシュ14日胚(14dpf)の稚魚に変更した以外は実施例6及び7と同様の操作で標識および観察を行った。その結果、14dpfの稚魚においても、脳神経組織で蛍光が観察された。脳の標識状態は、部位によって異なり、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体が強く標識されている様子が確認された。
【0082】
(実施例10)
3ヶ月齢のB10マウスをジエチルエーテル麻酔により屠殺し、脳を採取した。取り出した脳をOCTコンパウンドに包埋して、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。これを−20℃に冷却したクリオスタット中で約10μmの厚さに薄切し、スライドグラスに載せ、乾燥させ、脳組織の切片を作製した。作製した眼組織の切片に、化合物(13)を1ug/mLで溶解したPBS溶液を載せ、1時間インキュベートした。1時間後、スライドグラスをPBST(PBSに0.2%Triton−X100を含む)で3回洗い、カバーガラスで封入した。共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いてスライドグラスを観察したところ、マウスの脳組織切片に対して標識性を有することを確認できた。
【0083】
(実施例11)
化合物(13)を等モル量のNaOH溶液に10mg/mlになるように加え、14krpmで5分遠心した上清を得た。この上清を3ヶ月齢のB10マウスの腹腔に0.2ml単回投与した。1時間後、処置動物をジエチルエーテル麻酔により屠殺し、脳を採取した。取り出した脳をOCTコンパウンドに包埋して、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。これを−20℃に冷却したクリオスタット中で約10μmの厚さに薄切し、スライドグラスに載せ、乾燥させ、脳組織の切片を作製した。作製した脳組織の切片を共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いて観察を行った。その結果、化合物についてマウスの腹腔投与による脳の標識性を確認することができた。
【0084】
(参考例1)
比較例1で使用したゼブラフィッシュ7dpfの稚魚をゼブラフィッシュ3dpfの稚魚に変更した以外は比較例1と同様の操作で標識及び観察を行った。その結果、3dpfの稚魚においても、脳神経組織の染色性は観察されなかった。
【0085】
次に一般式(7)における化合物の典型的な合成例1〜2を示す。
(合成例1)
前記化合物(16)の合成:
2−ヒドロキシ−4−メトキシベンズアルデヒド6.0g(39mmol)のアセトニトリル70mL溶液に、(2−ベンズイミダゾイル)アセトニトリル6g(38mmol)、ピペリジン0.3g(3.5mmol)、酢酸0.2g(3.3mmol)を添加して、加熱還流下8時間攪拌させた。反応終了後、冷却させながら、ゆっくり水50mLを滴下して室温まで冷却した。析出した個体をろ過して、アセトニトリル50mL/水100mLの混合溶液で洗浄し、化合物(16)10.5g(収率98.7%)を得た。目的物であることを前記分析装置により確認した。
【0086】
(合成例2)
前記化合物(20)の合成:
前記化合物(16)1.0g(3.4mmol)のエタノール20mL溶液に、濃塩酸4mL/水4mLの混合溶液を滴下し、加熱還流下4時間攪拌させた。反応終了後、冷却し、析出した固体をろ過してエタノールで洗浄して、化合物(20)の塩酸塩1.0gを得た。さらに、得られた塩酸塩0.88gをクロロホルムに溶解させ、炭酸ナトリウムで中和した。分液した後、クロロホルム層を減圧下濃縮して、化合物(20)を0.47g(塩酸塩からの収率49%)得た。目的物であることを前記分析装置により確認した。
【0087】
(実施例12〜25)
実施例1の色素化合物(8)を表2に記載の前記化合物(15)〜(28)に変更して、標識液12−25を用いた以外は、実施例1と同様の操作で標識および観察を行った。その結果、14dpfの稚魚においても、脳神経組織で蛍光が観察された。脳の標識状態は、部位によって異なり、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体が強く標識されている様子が確認された。
【0088】
前記実施例12〜25及び比較例1について、標識性(++:中枢神経系組織が強く標識される、+:中枢神経系組織が弱く標識される、−:標識されない)、蛍光感度(++:中枢神経系組織が強度に観測される、+:中枢神経系組織が弱度に観測される、−:標識されない)を評価した。
以上の結果を表2に示す。なお、実施例12〜25、及び比較例1の色素化合物の励起波長および蛍光波長は、10mg/mLのDMSO溶液を精製水に500倍希釈した水溶液を日立ハイテク社製FL4500蛍光分光測定機で測定して求めた。
【0089】
【表2】

【0090】
(実施例26)
100mLビーカー中に、実施例20で作製した標識液20を30mL入れ、そこに3カ月齢のゼブラフィッシュを入れて1時間放置した。次に、標識液20を除去し、蒸留水50mLで置換する操作を3回行った。次に、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝溶液でゼブラフィッシュを固定し、5%低温融解アガロースゲルに包埋して、リニアスライサーPRO7(堂阪イーエム社製)を用いて脳を露出した標本を作製した。作製した標本を共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いて観察を行ったところ、3カ月齢の成魚においても脳の染色性が確認され、標識液20が、血液脳関門が機能している個体においても中枢神経系組織の標識性を有していることが確認できた。
【0091】
(実施例27)
3ヶ月齢のB10マウスをジエチルエーテル麻酔により屠殺し、脳を採取した。取り出した脳をOCTコンパウンドに包埋して、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。これを−20℃に冷却したクリオスタット中で約10μmの厚さに薄切りし、スライドグラスに載せ、乾燥させ、脳組織の切片を作製した。作製した眼組織の切片に、化合物(27)を1ug/mLで溶解したPBS溶液を載せ、1時間インキュベートした。1時間後、スライドグラスをPBST(PBSに0.2%Triton−X100を含む)で3回洗い、カバーガラスで封入する。共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いてスライドグラスを観察したところ、マウスの脳組織切片に対して標識性を有することを確認できた。
【0092】
(実施例28)
化合物(27)をクロロホルムに溶解し、撹拌しながら濃塩酸を加え、析出物を減圧濾過により回収した。回収物を真空オーブンで50℃で24時間乾燥し、化合物(27)の塩酸塩を得た。化合物(27)の塩酸塩を1mg/mLになるようにPBSに溶解し、3ヶ月齢のB10マウスの腹腔に0.2ml単回投与した。1時間後、処置動物をジエチルエーテル麻酔により屠殺し、脳を採取した。取り出した脳をOCTコンパウンドに包埋して、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。これを−20℃に冷却したクリオスタット中で約10μmの厚さに薄切りし、スライドグラスに載せ、乾燥させ、脳組織の切片を作製した。作製した脳組織の切片を共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いて観察を行った。その結果、化合物についてマウスの腹腔投与による脳の標識性を確認することができた。
【0093】
(実施例29)
実施例27と同じ操作で稚魚を標識した後、稚魚を4%PFAで固定した。固定した稚魚を5%低温融解アガロースゲルに埋没させて、リニアスライサーPro7(堂阪イーエム社製)で薄切し、切片を作製し、スライドグラスに載せ、共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いて観察を行った。その結果、ゼブラフィッシュ脳の視蓋および網様体が特に強く標識されていることが確認された。
【0094】
ところで、特許文献3には、ゼブラフィッシュを用いた中枢神経系に対する化合物スクリーニングの方法が開示されている。当該文献によれば幼若なゼブラフィッシュはBBBのトランスポーター遺伝子の発現が不完全なため、投与された染料の脳への移行が、エバンスブルーが4dpf、フルオレセインが8dpf、Rhodamine123が5dpfの時点まで確認されるが、10dpfにはBBBが形成されるために、何れの染料でも脳への移行は見られなくなったとの記載がある。
【0095】
しかしながら、本発明者らの検討では、3dpfのゼブラフィッシュを用いてフルオレセインの染色性を確認したところ、染色性は見られなかった(参考例1)。一方、14dpfのゼブラフィッシュ(実施例8〜9)、または3カ月齢のゼブラフィッシュ(実施例26)を用いても本発明の中枢神経系組織標識用組成物は脳組織を染色することができ、その染色状態は7dpfのゼブラフィッシュの時と同様であった。このことから、本発明者らが用いたゼブラフィッシュは3dpfの時点でBBBがすでに機能しており、その上で本発明の中枢神経系組織標識用組成物はBBBが十分形成されているにも係わらず(14dpf以降)中枢神経系組織を標識することができている、ことが理解される。
【0096】
(実施例30〜46)
実施例1の色素化合物(8)を表3に記載の色素化合物(29)〜(45)に変更して、標識液29−45を用いた以外は、実施例1と同様の操作で標識および観察を行った。なお、実施例46で用いた標識液45だけは、化合物の濃度が3μg/mLである標識液を使用した。その結果、7dpfの稚魚において脳神経組織で蛍光が観察された。脳の標識状態は、部位によって異なり、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体が強く標識されている様子が確認された。
【0097】
前記実施例30〜46について、標識性(++:中枢神経系組織が強く標識される、+:中枢神経系組織が弱く標識される、−:標識されない)を評価した。
以上の結果を表3に示す。なお、色素化合物の励起波長および蛍光波長は、実施例30〜34では5μMのクロロホルム溶液、実施例35〜46は5μMのDMSO溶液に調整した色素化合物を、日立ハイテク社製FL4500蛍光分光測定機で測定して求めた。
【0098】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、生きた生物試料の中枢神経系組織を標識でき、中枢神経系組織の細胞の形態を高感度にイメージングすることが可能な中枢神経系組織標識用組成物が提供されるため、中枢神経系領域の研究や中枢神経系組織イメージング技術に必要不可欠な材料となる。又、中枢神経系疾患に関連する創薬開発において、中枢神経系組織の経時的な評価が可能になり、ハイスループットで高精度なスクリーニングを低コストで行うことが出来、新しい疾患の診断法や治療法の開発、更には中枢神経研究を飛躍的に発展させ、産業上及び実用化の上でもきわめて有効な基盤技術となる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)または(7)で表される化合物のうち何れか少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする生体の中枢神経系組織標識用組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R〜Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アラルキル基、または、アリール基を表し、芳香環Aは、下記一般式(2)〜(4)で表される骨格構造を表し、芳香環AとRは結合して、下記一般式(5)〜(6)で表される骨格構造を表す。]
【化2】

(一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、アラルキル基、または、アリール基を表し、
一般式(3)中、Rは、酸素原子、硫黄原子、または、N(R)を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、または、スルホン酸基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表し、
一般式(4)中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、または、ヘテロ環基を表し、
一般式(5)中、Rは、アルキル基を表し、X及びYは水素原子またはアルキル基を表し、Zは水素原子、または、ハロゲン原子を表し、nは0または1の整数を表す。また、XとYは結合して環を形成してもよい。
一般式(6)中、R〜R10は、アルキル基、またはアリール基を表し、R11は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、カルボン酸基、または、スルホン酸基を表す。)
【化3】

(一般式(7)中、R21〜R24は、各々独立して、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、R21とR22、R22とR23、R23とR24、が互いに結合して環を形成してもよく、R25〜R28は、各々独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、Bは酸素原子またはNH基を表し、Qは酸素原子、硫黄原子、N−R29基を表す。R29は、水素原子、または、アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記化合物が、視神経、視索、上丘(視蓋)、脳下垂体、視蓋脊髄(延髄)路、網様体の何れかを少なくとも標識可能な請求項1に記載の中枢神経系組織標識用組成物。
【請求項3】
前記化合物が蛍光性化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の中枢神経系組織標識用組成物
【請求項4】
前記化合物が放射性核種で標識されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の中枢神経系組織標識用組成物
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の中枢神経系組織標識用組成物を用いて生体の中枢神経系組織を標識することを特徴とする中枢神経系組織標識方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の中枢神経系組織標識用組成物を用いて、in vivoで中枢神経系組織に作用する化合物を検出することを特徴とするスクリーニング方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−148794(P2011−148794A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288573(P2010−288573)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】