説明

中空エンジンバルブの製造方法及び製造装置

【課題】軸部を中空とした中空バルブを、極めて容易に、かつ低コストで効率よく製造する。
【解決手段】上方に開口する有底孔を中心部に有する素材を形成する工程と、ダイ9の型孔8に挿入した素材をパンチ12により下方に押し出すとともに、ピン17の下部を型孔の小径孔部8cの上部まで下降させ、素材を、ピン17の下部と小径孔部8cとの間の隙間を介して下方に塑性流動させることにより、軸部2aの上端に拡径頭部2bを有し、かつそれらの内部に中空孔25、26が形成された第1次中間品2を成形する工程とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる中空エンジンバルブの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特に自動車用エンジンに用いられるエンジンバルブ(以下、バルブと略称する)の中には、軽量化してエンジン性能を向上させるために、バルブを中空としたり、熱負荷を軽減させるために、中空とした軸部内に金属ナトリウムを封入したりしたものがある。
このような中空バルブの従来の製造方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、中心に設けた孔に芯材を挿入したバルブ素材を、熱間搾出鍛造等により、軸部の一端に傘部を有するバルブ形状に成形したのち、芯材を引き抜いて軸部を中空とし、この中空孔の開口端を、閉塞部材により閉塞したもの、特許文献2に記載されているように、中心に設けた孔に芯材を挿入したバルブ素材を、加熱鍛縮することにより、軸部の一端に傘部を有するバルブ形状に成形し、芯材を引き抜いて軸部を中空としたのち、この中空孔に金属ナトリウムを挿入し、軸部の開口端を、軸端封止部をもって閉塞したもの、同じく特許文献2に記載されているように、中心に設けた孔に被削性に富む芯材を挿入したバルブ素材を、加熱鍛縮することにより、軸部の一端に傘部を有するバルブ形状に成形し、ガンドリルをもって芯材に孔明け加工を施すことにより、軸部を中空とし、この中空孔に金属ナトリウムを挿入したのち、軸部の開口端に、軸端封止部を溶接もって固着したもの、及び特許文献3に記載されているように、バルブの軸部の中心に、端面側よりガンドリルにより孔を穿設して、軸部を中空としたものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−109205号公報
【特許文献2】特開平7−119421号公報
【特許文献3】特開平4−334708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2に記載の中空バルブの製造方法においては、軸部を中空とするのに、芯材を製作する工程と、バルブ素材に芯材挿入用の孔を形成する工程と、この孔に芯材を挿入する工程と、挿入した芯材を引き抜く工程との、少なくとも4工程を必要とするので、生産性が低く、かつ製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2及び3に記載の中空バルブの製造方法のように、ガンドリルによる孔明け加工により軸部を中空とすると、それに要する加工時間が長く、生産性が低下するとともに、ドリルの寿命も短いので、製造コストが大となる。
特に、排気バルブの素材に多用されているオーステナイト系の耐熱鋼は、硬質で被削性に劣るため、その素材に孔明け加工を施すと、ドリルの寿命はさらに短くなる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、軸部を中空とした中空バルブを、極めて容易に、かつ低コストで効率よく製造しうるようにした中空エンジンバルブの製造方法及び製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中空バルブの製造方法によると、上記課題は、次の各項のようにして解決される。
(1)上方に開口する有底孔を中心部に有する素材を形成する工程と、ダイの型孔に挿入した前記素材を、パンチにより強圧することにより、型孔における漸次下方に向かって縮径する搾出孔部を通過させて、その下方の小径孔部に向かって押し出すとともに、前記有底孔に挿入したピンの下部を、前記小径孔部の上部に進入するまで下降させ、前記素材を、ピンの下部の外周面と小径孔部の内周面との間に形成される環状の隙間を介して下方に塑性流動させることにより、軸部の上端に拡径頭部を有し、かつそれらの内部に上方に開口する中空孔が形成された第1次中間品を成形する工程とを備えるものとする。
【0008】
このような構成によると、バルブの軸部を中空とするのに、従来のように、芯材を用いてそれを引き抜いたり、ガンドリルにより孔明け加工を施したりする必要がなく、素材を押し出して第1次中間品を成形するのと同時に、軸部に中空孔を簡単に形成することができるので、中空バルブを、極めて容易に、かつ低コストで効率よく製造することができる。
また、第1次中間品の軸部に形成された中空孔を、ドリルの下孔(ガイド孔)としても使用しうるので、従来のように、最初からガンドリルにより軸部に中空孔を形成する際に比して、孔明け加工を短時間で容易に行うことができ、生産性が向上するとともに、ドリルに加わる負荷も小さくなるのでその寿命が長くなる。
【0009】
(2)上記(1)項において、パンチにより素材を強圧する前に、ピンの下端を素材の有底孔の下端部まで下降させる。
【0010】
このような構成によると、パンチにより素材を強圧する際に、ピンの下部を速やかに型孔の小径孔部まで下降させうるので、軸部に中空孔を確実に形成することができる。
【0011】
(3)ダイの型孔に挿入した円柱状の素材の上面をピンにより強圧し、前記素材を塑性変形させてピンの下部を素材の内部に進入させることにより、前記素材の中心部に上方に開口する有底孔を形成する工程と、前記素材を、パンチにより強圧することにより、型孔における漸次下方に向かって縮径する搾出孔部を通過させて、その下方の小径孔部に向かって押し出すとともに、前記ピンの下部を、前記小径孔部の上部に進入するまで下降させ、前記素材を、ピンの下部の外周面と小径孔部の内周面との間に形成される環状の隙間を介して下方に塑性流動させることにより、軸部の上端に拡径頭部を有し、かつそれらの内部に上方に開口する中空孔が形成された第1次中間品を成形する工程とを備えるものとする。
【0012】
このような構成によると、上記(1)項に記載の構成と同様の効果が得られるだけでなく、ピンにより素材に有底孔を形成するので、素材に予め有底孔を設ける工程が不要となり、製造コストを削減することができる。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、第1次中間品を成形したのち、その上端をパンチにより押圧したまま、ピンを上昇させる。
【0014】
このような構成によると、第1次中間品の成形後において、それに形成される中空孔より、ピンの下端部を容易に引き抜くことができる。
【0015】
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、第1次中間品の拡径頭部を鍛造することにより、軸部の上端に傘部を連設し、かつこの傘部の内部に、上方に開口する中空孔を有する第2次中間品を成形する工程と、前記傘部の中空孔の開口部を、閉塞部材をもって閉塞する工程とを備えるものとする。
【0016】
このような構成によると、軸部の上端に傘部を有し、かつそれらの内部に密閉された中空孔が形成された中空エンジンバルブを、少ない工程で容易に製造することができる。
【0017】
(6)上記(5)項において、第2次中間品における傘部の中空孔の開口より、軸部の中空孔に金属ナトリウムを挿入したのち、前記傘部の中空孔の開口部を、閉塞部材をもって閉塞する。
【0018】
このような構成によると、軸部の中空孔に金属ナトリウムが封入された中空バルブを、容易に製造することができる。
【0019】
(7)上記(5)または(6)項において、第2次中間品における傘部の中空孔を、上方に向かって漸次拡径するラッパ状とする。
【0020】
このような構成によると、バルブ全体の軽量化が図れるとともに、中空孔に金属ナトリウムを封入した際の放熱面積が増大することにより、傘部が効果的に冷却されるようになる。
また、傘部の中空孔がラッパ状に拡径しているので、軸部の中空孔への金属ナトリウムの挿入作業が容易となる。
【0021】
本発明の中空バルブの製造装置によると、上記課題は、次の各項のようにして解決される。
(8)素材を上方より挿入可能な大径孔部、この大径孔部の下端に連続する漸次下方に向かって縮径する搾出孔部、この搾出孔部の下端に連続する軸部形成用の小径孔部よりなる型孔を有するダイと、前記ダイの上方において昇降するラムと、前記ラムに装着され、前記ダイにおける型孔の大径孔部内に下部が進入可能なパンチと、前記パンチの中心部に設けた上下方向のガイド孔内に、前記ラムまたは他の昇降手段に連係されて上下に昇降しうるように収容され、かつ下降時に、前記型孔の小径孔部より小径とした下部の小径軸部が前記パンチの下方に突出し、下端が前記小径孔部の上部まで進入して停止するようにしたピンとを備えるプレス装置よりなるものとする。
【0022】
このような構成によると、一度のプレス作業で、プレス装置のダイの型孔に挿入した素材を、ラムに装着したパンチにより押し出すのと同時に、パンチの中心部に収容したピンの下部の小径軸部を、ダイの型孔の小径孔部の上部まで下降させて、軸部に中空孔を有する中空バルブを、容易に製造することができる。
【0023】
(9)上記(8)項において、ラムに、パンチを下方に付勢することにより、成形後の第1次中間品を、ピンが上昇し始めるまで下方に押圧しておく押圧手段を設ける。
【0024】
このような構成によると、第1次中間品の成形後において、それに形成される中空孔より、ピンの下部を容易に引き抜くことができる。
【0025】
(10)上記(9)項において、押圧手段を圧縮コイルばねとする。
【0026】
このような構成によると、油圧プレス等の別の押圧手段を設ける必要がないので、中空バルブの製造装置のコストを低減させることができる。
【0027】
(11)上記(8)〜(10)項のいずれかにおいて、プレス装置の近傍に、第1中間品の軸部を挿入可能な軸孔と拡径頭部を挿入可能な上方に向かって漸次ラッパ状に拡径する第2の型孔を有する第2のダイと、この第2のダイの上方において昇降する第2のラムと、この第2のラムの下部に装着され、かつ下端部に、前記第2の型孔に挿入した拡径頭部を、内部に上方に開口する中空孔が形成されるように傘状に塑性変形させる第2のパンチとを備える第2プレス装置を設ける。
【0028】
このような構成によると、二つのプレス装置により、内部に中空孔を有する第1次中間品と第2次中間品とを、連続的に、かつ効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、軸部を中空とした中空バルブを、極めて容易に、かつ低コストで効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の中空バルブの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】中空バルブの第1次中間品を成形する第1プレス装置の要部の中央縦断正面図である。
【図3】同じく、ラムが下降して、パンチの下端が素材の上端に当接した状態の中央縦断正面図である。
【図4】同じく、ラムがさらに下降して、センターピンの下端部が素材の有底孔の下部まで進入した状態の中央縦断正面図である。
【図5】同じく、ラムが下限位置まで下降して、素材を鍛造した状態の中央縦断正面図である。
【図6】同じく、ラムが若干上昇して、センターピンの下端部が第1次中間品の中空孔より離脱した状態の中央縦断正面図である。
【図7】第1次中間品を鍛造して、第2次中間品を成形する第2プレス装置の要部の中央縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1の(a)〜(e)は、本発明の中空バルブの製造方法を工程順に示すもので、(a)は、中空バルブ製造用の素材1、(b)は、中空バルブの第1次中間品2の成形工程、(c)は、同じく第2次中間品3の成形工程、(d)は、第2次中間品3への金属ナトリウム4の挿入工程、(e)は、第2次中間品3の開口部を閉塞部材5をもって閉塞する工程を示している。
【0032】
素材1は、例えばマルテンサイト系またはオーステナイト系の長尺の丸棒状鋼材を所定寸法に切断したのち、中心部に、ドリル等により有底孔6を形成したものよりなっている。この有底孔6は、最下部の小径孔6aと、この小径孔6aに、テーパ孔6bを介して連続する、例えば小径孔6aの内径のほぼ2倍の大きさの大径孔6cとからなっている。
【0033】
図1(b)に示す第1次中間品2は、上記素材1を、図2に示す製造装置、例えばフリクションプレスよりなる第1プレス装置7(主要部のみ図示する)により、前方押し出し加工(熱間搾出鍛造)することにより成形することができる。
【0034】
第1プレス装置7は、図示しないダイホルダにより不動状態に保持された、中心部に型孔8を有するダイ9と、その上方において昇降可能な円筒形のラム10とを備えている。型孔8は、ダイ9の上方に開口する、上記素材1の外径とほぼ同径をなす大径孔部8aと、その下端と連続するとともに、下方に向かって漸次漏斗状に縮径する搾出孔部8bと、この搾出孔部8bの下端と連続するとともに、ダイ9の下方に開口する小径孔部8cとからなっている。
【0035】
ラム10内の下部には、ダイ9の型孔8の軸線と同軸をなす円筒形のパンチホルダ11が、上下方向に相対移動可能に嵌合され、このパンチホルダ11内には、パンチ12における上半部の大径軸部12aが、上下に移動不能として嵌合されている。パンチ12の下半部の小径軸部12bは、ダイ9の大径孔部8a内に進入可能な、その内径とほぼ等しい外径とされている。
パンチ12の中心には、後記するセンターピン17を上下に摺動可能に案内する大径ガイド孔13aと小径ガイド孔13bとが、互いに上下に連通するようにして貫設されている。
【0036】
パンチホルダ11の上部においてラム10内には、上方に開口する有底円筒状のばね受け14が、下面がパンチホルダ11の上面に当接するようにして、上下に摺動可能に嵌合され、このばね受け14内には、圧縮荷重の大きな圧縮コイルばね15が収容されている。圧縮コイルばね15の上面には、ラム10の上端部に嵌合して固定されたばね押え16の下面が当接し、圧縮コイルばね15は上方に抜け止めされている。
ばね受け14とばね押え16との対向面は、ばね押え16により圧縮コイルばね15を所要量圧縮しうるように離間している。
【0037】
パンチ12の大径ガイド孔13aと小径ガイド孔13bには、それぞれ、センターピン17の上部の大径軸部17aと、それに連続する下部の小径軸部17bとが、上下に摺動可能に嵌合されている。小径軸部17bの外径は、上記素材1の大径孔6cとダイ9の大径部8cに嵌合しうるように、それらの内径とほぼ等しい寸法としてある。
【0038】
小径軸部17bの下端部は、ラム10が上方に位置しているとき、パンチ12の下端より所要寸法突出するとともに、大径軸部17aは、パンチ12に対しセンターピン17が所要ストローク上下方向に移動しうるように、大径ガイド孔13aの下端部より上方に離間している。
【0039】
センターピン17における大径軸部17aの上端部は、ばね受け14の底壁14aの中心に設けたガイド孔18に、上下に摺動可能に嵌合されている。
圧縮コイルばね15内には、円筒形のスペーサ19が、上端部をばね押え16の下面の上向凹孔20に嵌合するとともに、下端がセンターピン17の上端と当接するようにして収容されている。
センターピン17の上端部は、ばね押え16の上方より挿入したボルト21の下端部を、大径軸部17aの上端部に形成しためねじ孔22に螺合することにより、ばね押え16に固定されている。
【0040】
センターピン17の小径軸部17bにおけるパンチ12の下端より突出する先端部(下端部)は、テーパ状の小径軸部23の下端にストレート状の小径軸部24を連設することにより、先細り形状としてある。小径軸部24の下端は、その切損を防止するために、球面としてある。
【0041】
テーパ状の小径軸部23とストレート状の小径軸部24の外径は、それぞれ、ダイ9に設けた型孔8の搾出孔部8bと小径孔部8cの内径よりも若干小とされ、ラム10及びセンターピン17が下限位置まで下降した際に、両小径軸部23、24の外周面と、搾出孔部8bの内周面及び小径孔部8cの上端部の内周面との間に、環状の隙間が形成されるようになっている(図5参照)。
【0042】
図2〜図6は、上記第1プレス装置7により第1次中間品2を成形する工程を示す。
図2に示すように、ラム10を上昇させた状態で、ダイ9の型孔8の大径孔部8a内に、所定温度に加熱された素材1を挿入したのち、ラム10を下降させると、図3に示すように、パンチ12の下端部が素材1の上端に当接するとともに、センターピン17の下端部の小径軸部23、24が素材1の有底孔6内の上部に突入する。
【0043】
この状態で、ラム10がさらに若干下降すると、図4に示すように、ばね押え16も圧縮コイルばね15を圧縮させて下降する。この際、圧縮コイルばね15が圧縮されるまでの間は、パンチ12により素材1が押し出されることはなく、ラム10と実質的に一体をなすセンターピン17のみがさらに下降して、その下端が素材1の有底孔6の下端付近まで進入する。この間、パンチ12には圧縮コイルばね15のばね力が加わることにより、素材1はパンチ12の下端により強く押圧された状態となる。
【0044】
この状態から、ラム10が下限位置までさらに下降すると、図5に示すように、素材1がパンチ12により下方に押し出されると同時に、センターピン17の下端部のテーパ状の小径軸部23が、ダイ9の型孔8における搾出孔部8b付近まで下降するとともに、ストレート状の小径軸部24が、型孔8の小径孔部8cの上部、すなわち小径孔部8cの上端から、ほぼ小径軸部24の長さだけ下方に進入する位置まで下降したところで停止する。
【0045】
これにより、素材1は、その下部の中実部が先に型孔8の搾出孔部8bを通過して、小径孔部8c内に塑性流動することにより、軸部2aの下部は中実軸部2cとなる。引き続いて、素材1の上部が、センターピン17の下端部により、中心部への肉の流れを妨げられつつ、小径軸部23、24の外周面と、搾出孔部8bの内周面及び小径孔部8cの上端部の内周面との間に形成される環状の隙間を通過して、型孔8の小径孔部8cに向かって押し出されることにより、中実軸部2cよりも上方の軸部2a内には、中空孔25が形成される。
【0046】
この一連の押し出し工程により、図1(b)に示すような軸部2aの上端部に拡径頭部2bを有する第1次中間品2が成形され、かつセンターピン17の小径軸部17bにおけるパンチ12の下端よりの突出端部により、中空孔25と連続する、上方に開口する大径の中空孔26が形成される。なお、中空孔25が形成された部分の軸部2aの肉厚は、センターピン17の小径軸部24の外周面と、型孔8における小径孔部8cの内周面との間に形成される隙間とほぼ等しい均一な厚さとなる。
【0047】
図6に示すように、第1次中間品2を成形したのち、ラム10と共にセンターピン17を上昇させると、それらが若干上昇するまでの間は、パンチ12に圧縮コイルばね15の下向き付勢力が加わっているので、第1次中間品2はパンチ12の下端により下方に押圧されている。従って、ラム10が上昇し始めるのと同時に、センターピン17の下端部の小径軸部23、24を、第1次中間品2における拡径頭部2bと軸部2bの中空孔26、25から容易に引き抜くことができる。
【0048】
この状態でラム10を上限位置まで上昇させて、第1次中間品2の軸部2aの下端を図示しないエジェクトピン等をもって押し上げれば、成形された第1次中間品2をダイ9より取り出すことができる。
【0049】
図7は、図1(c)に示す第2次中間品3を成形する製造装置である第2プレス装置27の主要部を示すもので、中心に第1次中間品2の軸部2aよりも大径の貫通孔28が形成されたダイホルダ29の上端部の凹孔30には、第2のダイ31が嵌合され、この第2のダイ31には、上方に向かってラッパ状に拡径する第2の型孔32と、ダイホルダ29の貫通孔28に連通する軸孔33とが形成されている。なお、第2プレス装置27は、上記第1プレス装置7の近傍に並設され、1個のフリクションプレスにより、第1次中間品2と第2次中間品とを、第1、第2プレス装置7、27により同時に成形することができるようになっている。
【0050】
第2のラム34の下端部の上向凹孔35には、下面に第2のダイ31の型孔32とほぼ補形をなす突部36を有する第2のパンチ37が嵌合され、第2のラム34が下限位置まで下降して、第2のダイ31の上面に第2のパンチ37の下面が当接したとき、第2の型孔32と突部36との間に、中空バルブの傘部成形用の空間が形成されるようになっている。
【0051】
第2次中間品3を成形するには、第2のラム34を上限位置まで上昇させた状態で、図6のダイ9より脱型した直後の第1次中間品2を第2のダイ31に上方より挿入し、第2のラム34を下限位置まで下降させる。すると、第1次中間品2の拡径頭部2bが、第2のパンチ37の下面と突部36により塑性変形させられることにより、図1(c)に示すような、軸部3aの上端部に傘部3bを有する中空バルブの第2次中間品3が成形され、かつ傘部3b内には、上方に開口するとともに、上方に向かってラッパ状に漸次拡径する中空孔38が、軸部3aの中空孔25と連通するようにして形成される。
【0052】
第2プレス装置27より取り出した第2次中間品3に所定の熱処理を施したのち、軸部3aの中空孔25に、図1(d)に示すように、バルブ冷却用の金属ナトリウム4を挿入する。
【0053】
軸部3aの中空孔25に金属ナトリウム4の挿入したのち、図1(e)に示すように、第2次中間品3におけるの傘部3bの中空孔38の開口部に閉塞部材5を嵌合し、この閉塞部材5を図示しない溶接装置により固着して、中空孔38の開口部を閉塞する。 これにより、下部を除く軸部3aの内部と傘部3bの内部が中空をなす中空バルブ39が得られる。なお、製造後の中空バルブ39には、仕上加工や軸端部にコッタ溝等の加工が施される。
【0054】
以上説明したように、上記実施形態の中空バルブの製造方法によると、軸部2aを中空とするのに、従来のように、芯材を用いてそれを引き抜いたり、ガンドリルにより孔明け加工を施したりする必要がなく、素材1を押し出して第1次中間品2を成形するのと同時に、軸部2aに中空孔25を簡単に形成することができるので、中空バルブを、極めて容易に、かつ低コストで効率よく製造することができる。
【0055】
また、第1次中間品2に形成された中空孔25を、ドリルの下孔(ガイド孔)としても使用しうるので、従来のように、最初からガンドリルにより軸部に中空孔を形成する際に比して、孔明け加工を短時間で容易に行うことができ、生産性が向上するとともに、ドリルへの負荷も小さくなるので寿命が長くなる。
【0056】
さらに、第1次中間品2の拡径頭部2bを鍛造して第2次中間品3を成形する際に、傘部3bにも、上方にラッパ状に拡径する中空孔38が形成されるので、バルブ全体の軽量化が図れるとともに、バルブ内に金属ナトリウムを封入した際の放熱面積が増大することにより、傘部3bが効果的に冷却されるようになる。
【0057】
傘部3bの中空孔38は、上方に向かってラッパ状に漸次拡径しているので、金属ナトリウム4を中空孔25に挿入する際の作業も容易となる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
上記の製造方法においては、素材1に予め有底孔6を設け、この有底孔6にセンターピン17の下部を挿入しながら、素材1をパンチ12により強圧して下方に塑性流動させるようにしているが、素材1を中実、すなわち円柱状とすることもできる。
この際には、円柱状とした素材1の上面を、ラム10の初期の下降時において、上記実施形態よりも突出寸法を大としたセンターピン17の下部により強圧して塑性変形させ、ピン17の下部を素材1の内部に進入させることにより、素材1の中心部に上方に開口する有底孔を形成したのち、パンチ12により素材1の上面を強圧するとともに、ピン17の下部を、さらに小径孔部8cの上部に進入するまで下降させることにより、上記と同様の第1次中間品を成形することができる。
このようにすると、素材1に予め有底孔6を形成する工程を省略することができる。
【0059】
また、上記の製造方法においては、第2次中間品3を成形したのち、その軸部3aの中空孔25に、バルブ冷却用の金属ナトリウム4を挿入したが、バルブの軽量化のみを目的とする際には、このような金属ナトリウム4の挿入工程は省略することもある。
【0060】
上記の製造装置においては、第1プレス装置7をフリクションプレスとして、そのパンチ12とセンターピン17とを、ラム10と共に昇降するものとしたが、例えば2個の油圧プレスにより、パンチ12とセンターピン17とを時間差を設けて独立して昇降させたり、パンチ12のみをフリクションプレスにより昇降させ、センターピン17を油圧プレスにより時間差を設けて昇降させたりすることもできる。このようにすると、圧縮コイルばね15を省略しうるとともに、パンチ12に対するセンターピン17の昇降タイミングを適宜に設定することにより、型孔8の小径孔部8cへの小径軸部24の進入時期を最適にしたり、第1次中間品2の中空孔25、26より、センターピン17の下部を容易に引き抜いたりすることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 素材
2 第1次中間品
2a軸部
2b拡径頭部
2c中実軸部
3 第2次中間品
3a軸部
3b傘部
4 金属ナトリウム
5 閉塞部材
6 有底孔
6a小径孔
6bテーパ孔
6c大径孔
7 第1プレス装置
8 型孔
8a大径孔部
8b搾出孔部
8c小径孔部
9 ダイ
10 ラム
11 パンチホルダ
12 パンチ
12a大径軸部
12b小径軸部
13a大径ガイド孔
13b小径ガイド孔
14 ばね受け
14a底壁
15 圧縮コイルばね
16 ばね押え
17 センターピン
17a大径軸部
17b小径軸部
18 ガイド孔
19 スペーサ
20 上向凹孔
21 ボルト
22 めねじ孔
23 小径軸部
24 小径軸部
25 中空孔
26 中空孔
27 第2プレス装置
28 貫通孔
29 ダイホルダ
30 凹孔
31 第2のダイ
32 第2の型孔
33 軸孔
34 第2のラム
35 上向凹孔
36 突部
37 第2のパンチ
38 中空孔
39 中空バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開口する有底孔を中心部に有する素材を形成する工程と、
ダイの型孔に挿入した前記素材を、パンチにより強圧することにより、型孔における漸次下方に向かって縮径する搾出孔部を通過させて、その下方の小径孔部に向かって押し出すとともに、前記有底孔に挿入したピンの下部を、前記小径孔部の上部に進入するまで下降させ、前記素材を、ピンの下部の外周面と小径孔部の内周面との間に形成される環状の隙間を介して下方に塑性流動させることにより、軸部の上端に拡径頭部を有し、かつそれらの内部に上方に開口する中空孔が形成された第1次中間品を成形する工程
とを備えることを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項2】
パンチにより素材を強圧する前に、ピンの下端を素材の有底孔の下端部まで下降させることを特徴とする請求項1記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項3】
ダイの型孔に挿入した円柱状の素材の上面をピンにより強圧し、前記素材を塑性変形させてピンの下部を素材の内部に進入させることにより、前記素材の中心部に上方に開口する有底孔を形成する工程と、
前記素材を、パンチにより強圧することにより、型孔における漸次下方に向かって縮径する搾出孔部を通過させて、その下方の小径孔部に向かって押し出すとともに、前記ピンの下部を、前記小径孔部の上部に進入するまで下降させ、前記素材を、ピンの下部の外周面と小径孔部の内周面との間に形成される環状の隙間を介して下方に塑性流動させることにより、軸部の上端に拡径頭部を有し、かつそれらの内部に上方に開口する中空孔が形成された第1次中間品を成形する工程
とを備えることを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項4】
第1次中間品を成形したのち、その上端をパンチにより押圧したまま、ピンを上昇させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項5】
第1次中間品の拡径頭部を鍛造することにより、軸部の上端に傘部を連設し、かつこの傘部の内部に、上方に開口する中空孔を有する第2次中間品を成形する工程と、前記傘部の中空孔の開口部を、閉塞部材をもって閉塞する工程とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項6】
第2次中間品における傘部の中空孔の開口より、軸部の中空孔に金属ナトリウムを挿入したのち、前記傘部の中空孔の開口部を、閉塞部材をもって閉塞することを特徴とする請求項5記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項7】
第2次中間品における傘部の中空孔を、上方に向かって漸次拡径するラッパ状とすることを特徴とする請求項5または6記載の中空エンジンバルブの製造方法。
【請求項8】
素材を上方より挿入可能な大径孔部、この大径孔部の下端に連続する漸次下方に向かって縮径する搾出孔部、この搾出孔部の下端に連続する軸部形成用の小径孔部よりなる型孔を有するダイと、
前記ダイの上方において昇降するラムと、
前記ラムに装着され、前記ダイにおける型孔の大径孔部内に下部が進入可能なパンチと、
前記パンチの中心部に設けた上下方向のガイド孔内に、前記ラムまたは他の昇降手段に連係されて上下に昇降しうるように収容され、かつ下降時に、前記型孔の小径孔部より小径とした下部の小径軸部が前記パンチの下方に突出し、下端が前記小径孔部の上部まで進入して停止するようにしたピン
とを備えるプレス装置よりなることを特徴とする中空エンジンバルブの製造装置。
【請求項9】
ラムに、パンチを下方に付勢することにより、成形後の第1次中間品を、ピンが上昇し始めるまで下方に押圧しておく押圧手段を設けてなる請求項8記載の中空エンジンバルブの製造装置。
【請求項10】
押圧手段を圧縮コイルばねとしてなる請求項9記載の中空エンジンバルブの製造装置。
【請求項11】
プレス装置の近傍に、第1中間品の軸部を挿入可能な軸孔と拡径頭部を挿入可能な上方に向かって漸次ラッパ状に拡径する第2の型孔を有する第2のダイと、この第2のダイの上方において昇降する第2のラムと、この第2のラムの下部に装着され、かつ下端部に、前記第2の型孔に挿入した拡径頭部を、内部に上方に開口する中空孔が形成されるように傘状に塑性変形させる第2のパンチとを備える第2プレス装置を設けてなる特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の中空エンジンバルブの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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