説明

中空シリカ粒子の製造方法

【課題】 緻密なシリカ殻からなり、しかも分散性に優れた、ナノサイズの中空シリカ粒子を簡易に、生産性よく製造することのできる製造方法を提供すること。
【解決手段】 まず、Fe3+水溶液を塩基水溶液に加え、ゲル状Fe(OH)3を生成させる。その後、Fe(OH)3を100℃の下で結晶性ヘマタイト(α−Fe23)に変化させ、核粒子を作製する。この際、種結晶を添加して、その添加量によってヘマタイト一次粒子の粒子径を制御することもできる。次に、アルコール系溶媒に、水に分散させたままのヘマタイト粒子、凝集防止剤、および少量の水を加え、均一に分散させた後、さらにSi(OC25)4などのシリコンアルコキシドと塩基性触媒とを加え、アルコキシドの加水分解によって生じるシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆する。この後、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を希塩酸中に分散させ、ヘマタイトを溶解除去し、中空シリカ粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子の製造方法に関するものであり、より詳しくは、緻密なシリカ殻からなり、しかも分散性に優れた、ナノサイズの中空シリカ粒子を製造することのできる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、殻の内部に空洞が形成された中空粒子が注目されている。中空粒子は、空洞が存在するため、殻を構成する材料の物性とは異なる物性を示す。例えば、中空粒子の空洞内に空気が存在している場合、空気の屈折率、誘電率および密度は小さいので、中空粒子全体としての見かけの屈折率、誘電率および密度は、それぞれ、殻を構成する材料の屈折率、誘電率および密度に比べて小さくなる。これを利用して、殻がシリカからなる中空シリカ粒子は低屈折率材料として実用化されており、例えば、画像表示装置などの反射防止膜を構成する低屈折率材料として用いられている。また、中空シリカ粒子を低誘電率材料や低密度のフィラーなどとして用いることもできる。
【0003】
また、空洞内に別の材料を入れることで、様々な機能をもたせることができる。この場合、中空粒子は極めて微小な容器のように機能する。例えば、医薬品や化粧品の分野では、中空粒子内部に有効成分を内包した徐放性医薬品や徐放性化粧品の開発が行われている。また、中空粒子を、外部物質と接触すると変質して劣化してしまう物質を外界から隔離する保護材や、体内の作用箇所まで医薬品を送り届けるための運搬体(ドラッグデリバリーシステムの担体)などとして活用しようとする研究も行われている。また、製紙分野では、内部に染料やインクを内包したマイクロカプセルが、感圧紙の発色部材として用いられている。
【0004】
中空粒子は上記以外にも様々な用途に応用されることが期待されているが、光学的に透明であることが求められる用途では、中空粒子の粒子径は可視光の波長に比べて十分小さく、ナノサイズであることが求められる。また、ナノサイエンスおよびナノテクノロジーに代表される、極めて微小な材料を対象とする科学技術の発展の中で、中空粒子についてもナノサイズのものが求められている。この場合、ナノ粒子であることの特徴をより効果的に発現させるためには、ナノ粒子が互いに凝集せず、1個1個が単独で存在する、分散性のよいものであることが重要である。
【0005】
なお、本明細書では、1nm〜1μm未満、典型的には十数nm〜数百nm程度の大きさをナノサイズと呼び、ナノサイズの大きさをもつ部材を、例えばナノ粒子というように、接頭辞「ナノ」を付して呼ぶことにする。一方、1μm〜数十μm程度の大きさをミクロンサイズと呼ぶことにする。
【0006】
このような中空粒子の製造方法に関して種々の検討がなされてきており、中空シリカ粒子の製造方法に関してもいくつかの特許出願や研究報告がなされている。
【0007】
例えば、特開平6−91194号公報には、テトラメトキシシランなどの有機ケイ素化合物と発泡材とを混合霧化した後に加熱分解する際、発泡材が気泡となるのを利用して、中空シリカ粉末が得られることが記されている。また、特許第2590428号公報には、テトラエトキシシランにアルコール、水および酸触媒を加えて部分加水分解反応を行わせた後、この反応液にフタル酸ジブチルを添加して油状溶液とし、この溶液を界面活性剤を含んだアンモニア水溶液中に撹拌混合して乳化させ、上記部分加水分解反応の生成物を重合させることにより、中空多孔質シリカ粒子を製造する方法が提案されている。これらの方法は、気泡の気相−液相界面、あるいは油滴の油相−水相における反応を利用して、球形の界面にシリカを生成させる方法であり、得られるシリカ中空粒子の形状は球状となる。しかし、得られるシリカ中空粒子の粒子径は数μm〜数百μmである。
【0008】
そこで、支持体となる核粒子の表面にシリカ層を形成した後、核粒子のみを選択的に除去することによって、中空シリカ粒子を作製する方法が提案されている。この方法では核粒子を空洞の型材(template)として用いるので、ナノサイズの核粒子を用いれば、ナノサイズの空洞を有する中空シリカ粒子を作製することができる。
【0009】
例えば、後述の特許文献1には、シリカ以外の材料からなる支持体(核粒子)上に、ケイ酸アルカリ金属塩の水溶液から、シリカ粒子の核を発生させない特定の条件下で活性シリカを沈着させた後、支持体のみを溶解除去することによって、稠密シリカ殻からなる中空シリカ粒子を得る方法が開示されている。特許文献1には、ケイ酸アルカリ金属塩として、一般的なケイ酸ナトリウムなどがよく、支持体の材料として、酸処理で容易に除去できる炭酸カルシウムや炭酸バリウムなどがよいと説明されている。また、支持体の平均粒径は、20nm〜30μm程度、より好ましくは50nm〜20μm程度であるのがよいとされ、厚さが5nm程度であるシリカ層を形成した実施例が報告されている。
【0010】
また、後述の特許文献2には、低屈折率のシリカ系微粒子として、細孔を有するシリカ殻の内部に空洞を有し、平均粒子径が5〜300nmの球状粒子であって、空洞内に微粒子作製時の溶媒および/または気体を包含しているシリカ系微粒子が提案されている。特許文献2には、その製造方法として、シリカとシリカ以外の無機酸化物との多孔性複合酸化物からなる核粒子を生成させる工程と、この核粒子をシリカ層で被覆する工程と、酸を加えてシリカ以外の無機酸化物を除去する工程とを有する製造方法が提案されている。また、上記無機酸化物として酸化アルミニウムなどが好適であり、シリカ層はケイ酸塩やシリコンアルコキシドを用いて形成するのがよいと説明されている。
【0011】
後述の特許文献3は、特許文献2と同じ出願人による出願であり、電解質塩の存在下で上記多孔質複合酸化物核粒子を粒子成長させ、電解質塩の存在下でシリカ以外の無機酸化物を除去し、シリカ系微粒子分散液を常温〜300℃の範囲で熟成する工程と、50〜300℃の範囲で水熱処理する工程とを有することを特徴とする、上記シリカ系微粒子の製造方法が提案されている。
【0012】
また、後述の特許文献4には、緻密なシリカ殻からなり、分散性に優れた、ナノサイズのシリカ中空粒子を作製する製造方法が提案されている。この方法では、核粒子として炭酸カルシウム粒子を用い、アルコール系溶媒中においてシリコンアルコキシドを用いてシリカ層を形成する。
【0013】
図7は、特許文献4に示されている中空シリカ粒子の製造方法を示すフロー図である。この製造方法の特徴の1つは、透過型電子顕微鏡法で測定される一次粒子径が20〜200nmの炭酸カルシウム粒子を水系にて作製した後に、炭酸カルシウムのスラリーを80℃の液温で24時間撹拌し続けるなどの方法によって、静的光散乱法で測定される粒子径が20〜700nmになるまで熟成させることである。ここで、透過型電子顕微鏡法で測定される一次粒子径とは、個々の粒子の粒子径であるのに対して、静的光散乱法で測定される粒子径とは、液相中に分散している分散粒子の粒子径であり、粒子が凝集している場合には、凝集粒子全体としての粒子径である。
【0014】
特許文献4には、熟成に関して次のように説明されている。一次粒子径がナノサイズになると、粒子同士の凝集が顕著になり、熟成していない従来技術では、一次粒子径がナノサイズであっても、実際に分散している粒子は、凝集粒子全体としての粒子径がミクロンサイズの凝集粒子になる。このため、炭酸カルシウムの調製方法についての特段の限定はないが、作製直後の炭酸カルシウム粒子は、一次粒子径が20〜200nmであっても、粒子同士が水溶液中で集合し、粒子径が数μmの凝集粒子を形成しており、このままシリカ層で被覆すると、得られる中空シリカ粒子も粒子径が数μm程度の凝集粒子となる。これに対し、特許文献4の方法では、熟成によって作製直後の凝集状態が解消され、一次粒子径と分散粒子の粒子径との比較からわかるように、液相中において炭酸カルシウム粒子は単独で存在しているか、あるいは、凝集しているとしても、その個数は数個程度に抑えられている。
【0015】
特許文献4で提案されている製造方法の別の特徴は、エタノールなどのアルコール系溶媒中において、テトラエトキシシラン(TEOS)などのシリコンアルコキシドの加水分解反応を用いて上記炭酸カルシウム粒子の表面をシリカ層で被覆する際に、シリコンアルコキシドの量に対するアルコール溶媒の量、塩基性触媒であるアンモニアの量、および水の量を細かに規定していることである。特許文献4には、これによって、細孔のない、平滑で、緻密な膜状のシリカ層が形成されると説明されている。
【0016】
なお、特許文献4の出願人を出願人の一人とする後述の特許文献5では、特許文献4に提案されている製造方法の弱点として、アルコールを主体とするアルコール系溶媒を使用する必要があることを挙げ、水を主体とする水系溶媒を用いて緻密なシリカ層を形成することを提案している。しかしながら、上記公報には、特許文献4の発明で困難であった水系溶媒の使用が、どのようにして、なぜ可能になったのかという説明が全くない。また、実施例1では、コロイド状炭酸カルシウムを分散させたイオン交換水500gに、29%アンモニア水87gとTEOS32gとを添加し、24時間撹拌して、緻密なシリカ殻からなるシリカ中空粒子を得たとされている。しかし、水に不溶のTEOS32gを、アルコールを含まない合計562gの水に添加した場合、必ずTEOSと水は2相に分離してしまい、この界面でシリカが生成する。界面で生成するシリカをどのようにして水相の炭酸カルシウム粒子の表面に均一に堆積させることができたのか、説明する記述が特許文献5には全くない。このように、特許文献5に提案されている発明は、発明の根幹である実施の方法が全く示されておらず、実現の可能性は乏しいと思われる。
【0017】
また、後述の非特許文献1には、核粒子としてヘマタイト粒子を用い、TEOSを用いてヘマタイト粒子の表面をシリカ層で被覆した後、酸を用いてヘマタイト粒子を溶解除去することによって中空シリカ粒子を得る方法が示されている。
【0018】
図8は、非特許文献1に示されている中空シリカ粒子の作製工程を示すフロー図である。
【0019】
この製造方法では、まず、鉄(III)イオンFe3+の酸性水溶液を加水分解させ、ゲル状の水酸化鉄(III)Fe(OH)3を生成させる。この際、鉄(III)イオンに対して配位子として作用する塩化物イオンCl-の量と、鉄(III)イオンに対して配位子として作用しない硝酸イオンNO3-の量との比を変えることによって、粒子径を制御することができる。
【0020】
次に、撹拌しながら100℃の下で7日間還流加熱して、水酸化鉄(III)を結晶性ヘマタイト(α−Fe23)に変化させる。この後、遠心分離、水洗、乾燥の各処理を行い、粉末状のヘマタイト粒子を得る。
【0021】
次に、TEOSを用いた2つのステップによって、ヘマタイト粒子をシリカ層で被覆する。第1のステップでは、まず、上記のヘマタイト粉末を蒸留水に加え、超音波を照射して分散させる。一方、pH=4に保った酸水溶液中でTEOSを部分的に加水分解し、透明なポリケイ酸ゾル水溶液を調製する。このポリケイ酸ゾル水溶液をヘマタイト分散液に加え、ヘマタイト粒子の表面をオリゴケイ酸系化学種で被覆する。最後に、希アンモニア水を加え、ヘマタイト粒子表面に堆積したオリゴケイ酸系化学種を完全に加水分解する。
【0022】
第2のステップでは、まず、上記の工程で表面が改質されたヘマタイト粒子を遠心分離法によって分別して取り出し、エタノール中に分散させる。この分散液にTEOSを滴下した後、アンモニア水を加えてTEOSを加水分解させ、ヘマタイト粒子表面にシリカ層として堆積させる。この後、遠心分離、エタノールによる洗浄、乾燥の各処理を行い、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を得る。
【0023】
次に、上記のシリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を希塩酸中に分散させ、ヘマタイトを溶解除去して、中空シリカ粒子を作製する。この際、ある程度処理が進んだ時点で中空シリカ粒子を遠心分離によって分別し、新しい希塩酸を加えることで、上記工程を3回行い、ヘマタイト粒子を完全に除去する。
【0024】
非特許文献1では、その製造方法の特徴として、ヘマタイト粒子の粒子径を容易に制御することができ、これによって中空シリカ粒子の空洞のサイズを制御できること、および、2つのステップでシリカ層を形成することによって、シリカ層の細孔構造を制御できることが挙げられている。
【0025】
【特許文献1】特許第3419787号公報(第3、4及び6頁)
【特許文献2】特許第4046921号公報(第4−9及び11−13頁、図1)
【特許文献3】特開2006−21938号公報(第6−8及び10頁)
【特許文献4】特開2005−263550号公報(第4−8頁)
【特許文献5】特開2006−256921号公報(第4−7及び11頁)
【非特許文献1】J.Sol.Stat.Chem.,B180,2978-2985(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
ケイ酸塩の加水分解反応を用いて核粒子をシリカ層で被覆する場合、シリカ層は極めて微細な粒子状のシリカが集積して形成されており、その結果、シリカ層には微細な細孔が存在する傾向がある(特許文献4参照。)。このような細孔を有するシリカ層を緻密なシリカ層に改質するには、特許文献3に記載されているような水熱処理が必要となる。
【0027】
シリコンアルコキシドの加水分解反応を用いて核粒子をシリカ層で被覆する場合、本出願人の検討によれば、堆積したシリカによって粒子同士が癒着し、得られる中空シリカ粒子は、粒子径がミクロンサイズの凝集粒子になることがある。実際、非特許文献1に示されている電子顕微鏡観察像を見る限り、非特許文献1の方法で得られた中空シリカ粒子は非常に多数の中空シリカ粒子が凝集した状態にある。特許文献1〜4については電子顕微鏡観察像が示されていないので、得られた中空シリカ粒子の凝集状態は不明である。
【0028】
例えば、このような凝集した中空シリカ粒子を低屈折率材料として用いて反射防止膜を形成した場合、膜表面の平坦性が損なわれ、所望の性能を得ることができない。粒子同士の癒着を防ぐためには、極めて低い粒子濃度で中空シリカ粒子の作製を行うなどの対策が必要であるが、そのようにすると極端に生産性が悪くなる弊害を生じる。
【0029】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、緻密なシリカ殻からなり、しかも分散性に優れた、ナノサイズの中空シリカ粒子を、簡易に、生産性よく製造することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
即ち、本発明は、
第1の溶媒中でシリカ以外の材料からなる核粒子を作製する工程と、
極性有機溶媒を主成分とし、前記第1の溶媒とは異なる第2の溶媒中に前記核粒子を 凝集防止剤とともに分散させる工程と、
前記第2の溶媒にシリコンアルコキシドと塩基性触媒とを加えて混合し、このとき起 こる前記シリコンアルコキシドの加水分解反応によって前記核粒子の表面をシリカ層で 被覆し、前記核粒子と前記シリカ層とからなる複合体粒子を生成させる工程と、
前記複合体粒子から前記核粒子を除去し、前記シリカ層を殻とする中空シリカ粒子を 作製する工程と
を有する、中空シリカ粒子の製造方法に係わるものである。なお、本発明では、シリカは無水物および含水物を含む酸化ケイ素を意味するものとする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、前記の極性有機溶媒を主成分とする第2の溶媒中に前記核粒子を分散させる際に、前記凝集防止剤を添加する。そして、前記凝集防止剤の存在下で、前記シリコンアルコキシドの加水分解反応によって前記核粒子の表面をシリカ層で被覆し、前記核粒子と前記シリカ層とからなる複合体粒子を生成させる工程を行う。このため、前記シリカ層の形成の際に、粒子同士が凝集したり、癒着したりするのが抑えられ、分散性の良好な前記複合体粒子が得られ、ひいては分散性の良好な前記中空シリカ粒子が得られる。また、粒子同士の癒着を防ぐために低い粒子濃度で中空シリカ粒子の作製を行う必要がなく、粒子濃度を高く設定できるので、生産性が高い。
【0032】
また、前記核粒子を作製する際に用いる前記第1の溶媒と、前記核粒子の表面をシリカ層で被覆する際に用いる前記第2の溶媒とを異なる溶媒としている。前記シリコンアルコキシドは無極性で水に溶けにくく、かつ、完全に加水分解するためには4倍の物質量の水を必要とする。従って、前記第2の溶媒は、無極性の前記シリコンアルコキシドとよく親和するとともに、極性の大きな水ともよく親和する極性の大きな有機溶媒、例えば、エタノールなどのアルコール類や、アセトンなどのケトン類を主成分とする溶媒であることが必要である。一方、ヘマタイト粒子などの前記核粒子は、通常、水溶液中で作製される。このように、ヘマタイト粒子などの前記核粒子を作製する際に好適な溶媒と、前記シリコンアルコキシドの加水分解反応を起こさせる際に好適な溶媒とは一般に異なっている。本発明ではそれぞれの工程において最適な溶媒を選択して用いるので、各工程を最良の条件で行うことができる。従って、特許文献5について既述したような問題が本発明で生じることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法において、必要に応じて前記第2の溶媒に水を加えるのがよい。上述したように、前記シリコンアルコキシドは、完全に加水分解するために4倍の物質量の水を必要とする。一方、ヘマタイト粒子などの前記核粒子は、通常、水溶液中で作製されるので、多少の水が前記核粒子とともに前記第2の溶媒中にもちこまれる。この他、前記塩基性触媒としてアンモニアを用いる場合には、アンモニア水に含まれる水が前記第2の溶媒中にもちこまれる。このようにしてもちこまれる水によって前記加水分解反応に必要な水が確保される場合には、あえて水を加える必要はない。これらの水では不足する場合には、必要に応じて前記第2の溶媒に水を加えるのがよい。
【0034】
また、前記凝集防止剤として、非イオン性の界面活性剤、例えば、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種を用いるのがよい。
【0035】
既述したように、本発明では、前記核粒子を作製する際の前記第1の溶媒と、前記核粒子の表面をシリカ層で被覆する際の前記第2の溶媒とを異なる溶媒としている。このため、途中で溶媒の交換が必要になるが、この溶媒の交換に際して前記核粒子の凝集が起こるおそれがある。そこで、前記第1の溶媒に分散している前記核粒子を、液体状態で分散している状態を維持したまま、固体又は半固体の状態を経ることなく、前記第2の溶媒に分散させるのがよい。具体的には、遠心分離によって前記核粒子を濃縮して上澄み液と分離することは行うが、特許文献4のように脱水して含水ケーキ状にしたり、非特許文献1のように乾燥させて粉末状にしたりすることは行わない。
【0036】
また、前記第1の溶媒が水を主成分とする水系溶媒であり、前記第2の溶媒がアルコールを主成分とするアルコール系溶媒であるのがよい。上述したように、ヘマタイト粒子などの前記核粒子は、通常、水溶液中で作製されるので、前記第1の溶媒は水を主成分とする水系溶媒であるのがよい。一方、前記第2の溶媒は、前記シリコンアルコキシドとともに水をも溶かし込める溶媒であることが必要であるので、極性の大きな有機溶媒、例えば、アルコール類やケトン類を主成分とする溶媒であるのがよい。アルコール類は同程度の分子量のケトン類よりも蒸気圧が小さいので、安全上、ケトン類よりも好ましい。
【0037】
この際、前記複合体粒子から前記核粒子を除去する工程は、前記第1の溶媒と同様の水系溶媒中で行うのが好ましい。従って、この工程に入る前に再び溶媒の交換が必要になる。この場合も溶媒の交換に際して前記複合体粒子の凝集が起こるおそれがある。そこで、前述したと同様に、前記第2の溶媒に分散している前記複合体粒子を、液体状態で分散している状態を維持したまま、固体又は半固体の状態を経ることなく、前記第1の溶媒と同様の水系溶媒中に分散させるのがよい。具体的には、遠心分離によって前記複合体粒子を濃縮して上澄み液と分離することは行うが、特許文献4のように脱水して含水ケーキ状にしたり、非特許文献1のように乾燥させて粉末状にしたりすることは行わない。
【0038】
また、前記シリコンアルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC25)4を用い、前記塩基性触媒としてアンモニアを用いるのがよい。
【0039】
また、前記核粒子としてヘマタイト(α−Fe23)粒子を作製するのがよい。この他に、前記核粒子として炭酸カルシウム粒子や炭酸バリウム粒子などを作製してもよい。ヘマタイト粒子は、非特許文献1にも述べられているように、粒子サイズを制御しやすい利点がある。
【0040】
この際、前記ヘマタイト粒子を作製するには、ゲル状態の水酸化鉄(III)分散液から生成させるのがよい。この際、前記のゲル状態の水酸化鉄(III)分散液に種結晶を添加して前記ヘマタイト粒子を生成させ、前記種結晶の添加量によって前記ヘマタイト粒子の一次粒子粒子径を制御することができる。
【0041】
具体的には、前記ヘマタイト粒子の粒子濃度が0.1〜10質量%であり、シリコンアルコキシド1molに対する前記ヘマタイト粒子の量を50g以上とし、シリコンアルコキシド1molに対する前記塩基性触媒量の量を2mol以上とするのがよい。また、前記ヘマタイト粒子の一次粒子は球状あるいは擬似立方体状の粒子であり、その直径又は一辺の長さが10〜500nmでありのがよい。
【0042】
このようにして、前記シリカ殻の厚さが5〜50nmであり、屈折率が1.15〜1.4である前記中空シリカ粒子が得られるのがよい。このようであれば、低屈折率材料として好適である。
【0043】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0044】
図1は、本実施の形態に基づく中空シリカ粒子の作製工程を示すフロー図である。本実施の形態では、前記核粒子としてヘマタイト粒子を用い、ヘマタイト粒子を参考文献 Sugimoto et al,Colloids and Surfaces A:Physicochemical and Engineering Aspects,134(1998),p.265-279 に記載されている方法にもとづいて合成する例について説明する。
【0045】
この方法では、まず、塩化鉄(III)などの鉄(III)塩を水に溶かし、Fe3+イオンを含む水溶液を調製する。この水溶液に水酸化ナトリウムNaOH水溶液などの塩基の水溶液を加え、ゲル状の水酸化鉄(III)Fe(OH)3を生成させる。イオン性化合物の溶媒として水は最良の溶媒であるので、前記第1の溶媒として水を用いるのがよい。前記核粒子として炭酸カルシウムを用いる場合も同様である。
【0046】
次に、100℃の下で、例えば、48時間静置し、水酸化鉄(III)を結晶性ヘマタイト(α−Fe23)に変化させる。この際、ゲル状態の水酸化鉄(III)分散液に種結晶を添加してヘマタイト粒子を生成させ、この種結晶の添加量によってヘマタイト粒子の一次粒子の粒子径を制御することができる。
【0047】
この後、反応液中に分散しているヘマタイト粒子を遠心分離によって濃縮し、不純物を含む上澄み液を廃棄し、ヘマタイト粒子の濃縮液に純水を加え洗浄する。この操作は、必要に応じて、繰り返し行う。このようにして、純水に分散しているナノサイズのヘマタイト粒子を得る。
【0048】
次に、純水に分散しているヘマタイト粒子と、前記凝集防止剤であるポリビニルピロリドン(PVP)などと、必要に応じて水とを、エタノールなどのアルコールに加え、撹拌して、均一に分散させる。このようにして、固体状の粉末や半固体状の含水ケーキなどにすることなく、液体状態で分散している状態を維持したまま、ヘマタイト粒子をアルコールに分散させる。
【0049】
次に、テトラエトキシシラン(TEOS)Si(OC25)4などの前記シリコンアルコキシドと、アンモニアなどの前記塩基性触媒とを上記分散液に加えて混合し、TEOSの加水分解反応によって生じるシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆する。この後、遠心分離とエタノールによる洗浄の処理を行い、ヘマタイト粒子とその表面を被覆するシリカ層からなる前記複合体粒子を得る。
【0050】
ここで用いる前記第2の溶媒としては、シリコンアルコキシドとともに水やアンモニアをも溶かし込める溶媒であることが必要であるので、極性の大きな有機溶媒、例えば、アルコール類やケトン類を主成分とする溶媒であるのがよい。アルコール類は同程度の分子量のケトン類よりも蒸気圧が小さいので、安全上、ケトン類よりも好ましい。
【0051】
次に、上記の複合体粒子を希塩酸中に分散させ、ヘマタイト粒子を溶解除去して、シリカ殻からなる中空シリカ粒子を得る。この工程では、前記第1の溶媒と同様、イオン性化合物の最良の溶媒である水を溶媒として用いるのがよい。従って、この工程に入る前に再び溶媒の交換が必要になる。この場合も溶媒の交換に際して複合体粒子の凝集が起こるおそれがあるので前述したと同様に、アルコールに分散している複合体粒子を、液体状態で分散している状態を維持したまま、固体又は半固体の状態を経ることなく、水中に分散させるのがよい。具体的には、遠心分離によって複合体粒子を濃縮して上澄み液と分離することは行うが、脱水して含水ケーキ状にしたり、乾燥させて粉末状にしたりすることは行わない。
【0052】
本実施の形態による中空シリカ粒子の製造方法では、その特徴として、ポリビニルピロリドンなどの凝集防止剤の存在下で、シリコンアルコキシドの加水分解反応によって生成するシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆する。このため、シリカ層の形成の際に、粒子同士が凝集したり、癒着したりするのが抑えられ、分散性の良好な複合体粒子が得られ、ひいては分散性の良好な中空シリカ粒子が得られる。また、粒子同士の癒着を防ぐために低い粒子濃度で中空シリカ粒子の作製を行う必要がなく、粒子濃度を高く設定できるので、生産性が高い。
【0053】
また、ヘマタイト粒子を作製する際には前記第1の溶媒として水を用い、ヘマタイト粒子の表面をシリカ層で被覆する際には前記第2の溶媒としてアルコールを用い、ヘマタイト粒子を除去する際には溶媒として水を用いている。それぞれの工程において最適な溶媒を選択して用いるので、各工程を最良の条件で行うことができる。しかも、これらの溶媒の交換を、ヘマタイト粒子や複合体粒子を固体状の粉末や半固体状の含水ケーキなどにすることなく、液体状態で分散している状態を維持したまま行うので、溶媒の交換に際して粒子同士が凝集するのを最小限に抑えることができる。
【0054】
本実施の形態では、ヘマタイト粒子の作製工程には凝集防止剤を添加していない。これは、ヘマタイト粒子がゲルネットワーク中で析出するので、粒子の移動が抑制されており、特に凝集防止剤を用いる必要がないからである。しかしながら、別の方法でヘマタイト粒子を作製する場合や、別種の核粒子を作製する場合には、核粒子を作製する工程にも凝集防止剤を添加しておくことが好ましい場合もある。また、遠心分離による濃縮の際にも、凝集防止剤を添加しておくことが有効な場合もある。これらの場合には、各工程において凝集防止剤を添加しておくのがよい。但し、微粒子の表面特性や溶媒が変われば、適切な凝集防止剤も変化する可能性がある。例えば、核粒子の作製の際に用いる凝集防止剤が、シリカ層の形成の際に用いる凝集防止剤として有効とは限らない。核粒子の作製の際に用いた凝集防止剤がシリカ層の形成の前に除去できず、シリカ層の形成に悪影響を及ぼす場合には、このような凝集防止剤を用いることはできない。従って、シリカ層の形成に先行する工程で凝集防止剤を用いる場合には、シリカ層の形成に悪影響を及ぼさないものを慎重に選択する必要がある。
【実施例】
【0055】
本実施例では、実施の形態で説明した方法によって中空シリカ粒子を作製した例について、より具体的に説明する。
【0056】
実施例1
<ヘマタイト粒子の合成>
まず、マグネチックスターラーを用いて激しく撹拌しながら5分間の間に、5.94MNaOH水溶液200mlに、2.0M塩化鉄(III)FeCl3水溶液200mlを滴下した。この混合液をさらに10分間激しく撹拌した後、密栓つきのガラス製反応容器に移し、100℃で48時間静置して、赤橙色のヘマタイト粒子を得た。この反応では反応物質の濃度が粒子サイズを制御する重要な因子になるので、溶媒の蒸発を防ぐために密栓つきの反応容器を用いた。静置するのは、ゲルを攪拌すると粒子サイズの分布が広がる弊害を生じるので、これを防止するためである。
【0057】
この懸濁液に希アンモニア水を加えてpHを約7に調整した後、遠心分離によってヘマタイト粒子を沈降させ、上澄み液を廃棄した。ヘマタイト粒子が濃縮された液に、イオン交換水を蒸留して得られた純水400mlを加え、ヘマタイト粒子を十分に懸濁させた後、再び遠心分離によりヘマタイト粒子を沈降させ、上澄み液を廃棄した。この処理を更に2回、合計4回行った。そして、ヘマタイト粒子が濃縮された液に純水170gを加え、超音波を照射してヘマタイト粒子を分散させ、粒子濃度が16質量%であるヘマタイト粒子の懸濁液を得た。
【0058】
図2は、得られたヘマタイト粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察した観察像である。TEMとしてJEOL JEM-200CX(日本電子社製)を用いた。この観察像をもとに350個からなる粒子群の画像解析を行い、一次粒子径の粒度分布を求めた結果、ヘマタイト粒子の一次粒子径の平均値は109nm、標準偏差は33%であった。一方、粒度分布測定装置としてマイクロトラックUPA(日機装社製)を用いて、ヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液における粒度分布を求めた結果、50%累積径が135nmであった。
【0059】
ここで、透過型電子顕微鏡を用いて測定された一次粒子径は、個々の粒子の粒子径である。これに対し、マイクロトラックUPAを用いて測定される粒子径は、液体中でブラウン運動している粒子の大きさであり、液体中で凝集して存在している凝集体は、1個の粒子とみなして計測される。50%累積径とは、粒子径の累積分布において小さい粒子径の方から勘定した累積分布が50%となる粒子径のことである。2つの異なる測定から得られた、一次粒子径の平均値109nmと、50%累積径135nmとがほとんど一致することから、液相中においてヘマタイト粒子は単独で存在しているか、あるいは、凝集しているとしてもその個数は数個程度に抑えられており、ヘマタイト粒子は水中でほぼ単独で分散していることが判明した。
【0060】
<シリカ層の形成>
次に、上記のヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液3.15g(粒子濃度16wt%)と、ポリビニルピロリドン(平均分子量29000)0.5gと、純水8.62gとをエタノール85.4gに加え、マグネチックスターラーにより20分間撹拌して均一に分散させた。
【0061】
続いて、この分散液にTEOS0.22gを添加し、10分間撹拌した。さらに29質量%アンモニア水2.3gを加え、24時間撹拌し、TEOSの加水分解反応によって生じるシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆した。この場合、ヘマタイト粒子の粒子濃度が0.50質量%であり、TEOS1molに対するヘマタイト粒子の量は480gであり、TEOS1molに対するアンモニアの量は37molである。
【0062】
この後、上記懸濁液を遠心分離して、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を沈降させ、上澄み液を廃棄した。得られた、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子の濃縮液に、エタノールを40ml加えて粒子を懸濁させた後、遠心分離を行い、ヘマタイト粒子の濃縮液を回収した。この操作を更に一度繰り返した。その後、純水70mlを加えて粒子を懸濁させた。
【0063】
図3は、得られた、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を、透過型電子顕微鏡によって観察した観察像である。観察は前述のヘマタイト粒子の観察と同様に行った。この観察像から、ヘマタイト粒子表面に薄いシリカ層が形成されていることを確認した。
【0064】
<ヘマタイト粒子の溶解除去>
上記シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液に、12M塩酸15mlを加え60℃にて20時間静置した。液中の粒子は赤橙色から無色に変化したため、ヘマタイト粒子が溶解していることを確認した。遠心分離により生成物を濃縮し、上澄み液を廃棄した。続いて濃縮液に1M塩酸50mlを加え、分散後、遠心分離を行った。更に0.1M塩酸50mlを加え、遠心分離を行った。この操作を再度行った後、純水100mlを加え、さらに希アンモニア水を加えて、pHを約7に調整した。遠心分離、濃縮液の回収、純水を添加して分散の操作を3回行い、最後に水5mlを加え、中空シリカ粒子の分散液を得た。
【0065】
図4は、得られた中空シリカ粒子を透過型電子顕微鏡によって観察した観察像である。観察は前述のヘマタイト粒子の観察と同様に行った。この観察像から、複数の空隙を有する粒子は存在せず、分散の良好な粒子であることがわかる。シリカ層の厚さは約8nmであった。
【0066】
<屈折率の測定>
粒子の屈折率は液浸法により測定した。すなわち、中空シリカ粒子を乾燥し粉末の状態にし、種々の屈折率を有する屈折液と混合し、中空シリカ粒子が透明になった時の屈折液の屈折率を粒子の屈折率とした。上記粒子の屈折率は1.18であった。
【0067】
実施例2
実施例2では、請求項11に対応する中空シリカ粒子の製造方法について説明する。
【0068】
<ヘマタイト粒子の合成>
実施例1において得られたヘマタイト粒子を乾燥し、直径3mmのセラミックビーズを用いて粉砕した。続いて0.01MのHClO4溶液を加え、混合液に超音波を照射し分散処理を行った後、上澄み液を回収した。上澄み液中には平均径10nmの微細なヘマタイト粒子が分散していた。このヘマタイト粒子を種結晶として用いる。
【0069】
次に、マグネチックスターラーを用いて激しく撹拌しながら、30秒の間に4.8M水酸化ナトリウムNaOH水溶液20mlに、2.0M塩化鉄(III)FeCl3水溶液20mlを滴下した。この混合液をさらに5分間激しく撹拌した後、上記の種結晶が分散した液を粒子添加量が1.2×10-2gとなるように滴下した。この混合液に純水40mlを加えて撹拌した後、密栓付きガラス製ボトルに封入し、100℃で24時間静置して、赤橙色のヘマタイト粒子を得た。
【0070】
次に、実施例1に示したと同様に、粒子を洗浄し、ヘマタイト粒子分散液を得て、透過型電子顕微鏡によって観察し、一次粒子径を解析した。得られたヘマタイト粒子の一次粒子径の平均値は62nm、標準偏差は15%であった。
【0071】
<シリカ層の形成>
次に、上記のヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液3.33g(粒子濃度15wt%)と、ポリビニルピロリドン(平均分子量29000)0.5gと、純水8.44gとをエタノール85.4gに加え、マグネチックスターラーにより20分間撹拌して均一に分散させた。
【0072】
続いて、この分散液にTEOS0.48gを添加し、10分間撹拌した。さらに29質量%アンモニア水2.3gを加え、24時間撹拌し、TEOSの加水分解反応によって生じるシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆した。この場合、ヘマタイト粒子の粒子濃度が0.50質量%であり、TEOS1molに対するヘマタイト粒子の量は220gであり、TEOS1molに対するアンモニアの量は17molである。
【0073】
この後、上記懸濁液を遠心分離して、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を沈降させ、上澄み液を廃棄した。得られた、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子の濃縮液に、エタノールを40ml加えて粒子を懸濁させた後、遠心分離を行い、ヘマタイト粒子の濃縮液を回収した。この操作を更に一度繰り返した。その後、純水70mlを加えて粒子を懸濁させた。実施例1と同様に、得られた、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を、透過型電子顕微鏡によって観察した結果、ヘマタイト粒子表面に薄いシリカ層が形成されていることを確認した。
【0074】
<ヘマタイト粒子の溶解除去>
前記シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液に、12M塩酸15mlを加え60℃にて20時間静置した。液中の粒子は赤橙色から無色に変化したため、ヘマタイト粒子が溶解していることを確認した。遠心分離により生成物を濃縮し、上澄み液を廃棄した。続いて濃縮液に1M塩酸50mlを加え、分散後、遠心分離を行った。更に0.1M塩酸50mlを加え、遠心分離を行った。この操作を再度行った後、純水100mlを加え、さらに希アンモニア水を加えて、pHを約7に調整した。遠心分離、濃縮液の回収、純水を添加して分散の操作を3回行い、最後に水5mlを加え、中空シリカ粒子の分散液を得た。実施例1と同様に、得られた中空シリカ粒子を透過型電子顕微鏡によって観察した結果、複数の空隙を有する粒子は存在せず、分散の良好な粒子であることがわかる。シリカ層の厚さは約8nmであった。
【0075】
<屈折率の測定>
実施例1と同様に、粒子の屈折率を液浸法により測定したところ、上記の中空シリカ粒子の屈折率は1.25であった。
【0076】
実施例3
実施例3では、実施例2で作製したものと同じヘマタイト粒子を核粒子として用い、シリカ層を形成する条件を変えて、中空シリカ粒子を作製した。
【0077】
<シリカ層の形成>
次に、上記のヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液20g(粒子濃度15wt%)と、ポリビニルピロリドン(平均分子量29000)3.0gと、純水10gとをエタノール55.97gに加え、マグネチックスターラーにより20分間撹拌して均一に分散させた。
【0078】
続いて、この分散液にTEOS6.25gを添加し、10分間撹拌した。さらに29質量%アンモニア水8.78gを加え、24時間撹拌し、TEOSの加水分解反応によって生じたシリカによって、ヘマタイト粒子の表面を被覆した。この場合、ヘマタイト粒子の粒子濃度が3.1質量%であり、TEOS1molに対するヘマタイト粒子の量は107gであり、TEOS1molに対するアンモニアの量は5.0molである。
【0079】
この後、上記懸濁液を遠心分離して、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を沈降させ、上澄み液を廃棄した。得られた、シリカ層が形成されたヘマタイト粒子の濃縮液に、エタノールを200ml加えて粒子を懸濁させた後、遠心分離を行い、ヘマタイト粒子の濃縮液を回収した。この操作を更に1度繰り返した。その後、純水200mlを加えて粒子を懸濁させた。実施例1と同様に、得られた、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子を透過型電子顕微鏡によって観察した結果、ヘマタイト粒子表面に薄いシリカ層が形成されていることを確認した。
【0080】
<ヘマタイト粒子の溶解除去>
前記シリカ層が形成されたヘマタイト粒子を水に懸濁させた懸濁液に、12M塩酸75mlを加え60℃にて20時間静置した。液中の粒子は赤橙色から無色に変化したため、ヘマタイト粒子が溶解していることを確認した。遠心分離により生成物を濃縮し、上澄み液を廃棄した。続いて濃縮液に1M塩酸100mlを加え、分散後、遠心分離を行った。更に0.1M塩酸100mlを加え、遠心分離を行った。この操作を再度行った後、純水200mlを加え、さらに希アンモニア水を加えて、pHを約7に調整した。遠心分離、濃縮液の回収、純水を添加して分散の操作を3回行い、最後に水20mlを加え、中空シリカ粒子の分散液を得た。実施例1と同様に、得られた中空シリカ粒子を透過型電子顕微鏡によって観察した結果、複数の空隙を有する粒子は存在せず、分散の良好な粒子であることがわかる。シリカ層の厚さは約10nmであった。
【0081】
<屈折率の測定>
実施例1と同様に、粒子の屈折率を液浸法により測定したところ、上記の中空シリカ粒子の屈折率は1.27であった。
【0082】
比較例1
シリカ層の形成の際に、ポリビニルピロリドンを共存させなかったこと以外は実施例1と同様にして、中空シリカ粒子を作製し、透過型電子顕微鏡によって観察した。図5は、得られた中空シリカ粒子を透過型電子顕微鏡によって観察した観察像である。この観察像から、得られた中空シリカ粒子は図5に示すように著しく凝集していた。これは沈着の際に粒子同士が接近し、接触点において接触再結晶あるいは直接溶質であるテトラエトキシシランの加水分解物が析出したためと考えられる。
【0083】
以上のように、本発明によれば、一次粒子の平均粒子径が20〜600nmで、シリカ層の厚みが5〜50nmであり、屈折率が1.15〜1.4の範囲にある中空シリカ粒子であって、更には二次凝集が極めて少ない中空シリカ粒子を得ることが可能である。この中空シリカ粒子は、反射防止コーティング膜用の低屈折率材料として好適である。
【0084】
図6は、本発明の実施例で得られた中空シリカ粒子を用いた、画像表示装置の反射防止膜を模式的に示す断面図である。これは、本発明の中空シリカ粒子を低屈折率層3を構成する低屈折率材料として用いた例である。ここでいう画像表示装置とは、出射光または反射光の光量を制御することによって、文字や図や写真などのデータを画像として表示する装置のことであり、具体的には、液晶表示装置(LCD)、プラズマ表示装置(PDP)、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)、陰極管表示装置(CRT)などの様々な表示装置がある。
【0085】
これらの表示装置の、ユーザー側の前面には、通常、データを表示する光以外の光が表示画面で反射され、ユーザーの目に届くのを防止するための反射防止膜4や、表示画面を構成する基材11の表面に傷がつくのを防止するハードコート層1が設けられている。例えば液晶表示装置の場合、液晶セルのユーザー側前面には偏光板が設けられており、この偏光板は、偏光材料からなる偏光基材と、この偏光基材を挟んで保護する2枚のベース基板で構成されており、ユーザー側のベース基板が基材11に相当する。
【0086】
反射防止膜4は、特開昭59−50401号公報などに示されている反射防止膜で、基材11よりも小さい屈折率を有する低屈折率層3と、基材11および低屈折率層3よりも大きい屈折率を有する高屈折率層2とで構成されている。上記公報には、ポリメチルメタクリレート樹脂(屈折率 1.49)からなる基材に、屈折率1.76、厚さ43nmの高屈折率層と、屈折率1.43、厚さ92nmの低屈折率層を設けた例が示されている。
【0087】
このような反射防止膜4を、トリアセチルセルロース樹脂(屈折率 1.49)またはポリエチレンテレフタラート樹脂(屈折率 1.56)などからなる基材11に設ける場合、高屈折率層2と低屈折率層3との屈折率差が大きいほど、低反射率化が達成されるので、低屈折率層3の材料として屈折率が1.20〜1.45である材料が好ましく、本発明の光学材料を好ましく用いることができる。
【0088】
低屈折率層3は、本実施例で得られた中空シリカ粒子を有機高分子マトリクス中に含有させたものである。低屈折率層3を形成するには、まず、中空シリカ粒子を水に分散させた分散液から遠心分離により中空シリカ粒子を沈降させた後、上澄み液を捨て、所定の有機溶媒を加えることによって、中空シリカ粒子を有機溶媒に分散させる。次に、この分散液と、有機高分子マトリクスを形成する樹脂原料とを混合する。次に、混合液を基材上に塗布した後、有機溶媒を蒸発させる。この後、樹脂原料を重合させ、低屈折率層3を形成する。
【0089】
上記有機溶媒としては、エタノールやイソプロピルアルコール(2−プロパノール)などのアルコール類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。有機高分子マトリクスを形成する樹脂としては、例えばアクリル樹脂が挙げられる。この場合、塗布膜形成後、紫外線を照射して樹脂原料を重合硬化させ、低屈折率層3を形成する。低屈折率層3の屈折率は、中空シリカ粒子と有機高分子マトリクス樹脂原料との配合比によって決定される。
【0090】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、低屈折率材料や低誘電率材料として有用な高分散中空シリカ粒子を生産性よく製造することができ、中空シリカ粒子を用いた、画像表示装置の反射防止膜などの普及に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態に基づく中空シリカ粒子の作製工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施例1で得られたヘマタイト粒子の、透過型電子顕微鏡による観察像である。
【図3】同、シリカ層で被覆されたヘマタイト粒子の、透過型電子顕微鏡による観察像である。
【図4】同、中空シリカ粒子の、透過型電子顕微鏡による観察像である。
【図5】本発明の比較例1で得られた中空シリカ粒子の、透過型電子顕微鏡による観察像である。
【図6】本発明の実施例で得られた中空シリカ粒子を用いた、画像表示装置の反射防止膜を模式的に示す断面図である。
【図7】特許文献4に示されている中空シリカ粒子の作製工程を示すフロー図である。
【図8】非特許文献1に示されている中空シリカ粒子の作製工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0093】
1…ハードコート層、2…高屈折率層、3…低屈折率層、4…反射防止膜4、11…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溶媒中でシリカ以外の材料からなる核粒子を作製する工程と、
極性有機溶媒を主成分とし、前記第1の溶媒とは異なる第2の溶媒中に前記核粒子を 凝集防止剤とともに分散させる工程と、
前記第2の溶媒にシリコンアルコキシドと塩基性触媒とを加えて混合し、このとき起 こる前記シリコンアルコキシドの加水分解反応によって前記核粒子の表面をシリカ層で 被覆し、前記核粒子と前記シリカ層とからなる複合体粒子を生成させる工程と、
前記複合体粒子から前記核粒子を除去し、前記シリカ層を殻とする中空シリカ粒子を 作製する工程と
を有する、中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
必要に応じて前記第2の溶媒に水を加える、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記凝集防止剤として非イオン性の界面活性剤を用いる、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤として、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種を用いる、請求項3に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の溶媒に分散している前記核粒子を、液体状態で分散している状態を維持したまま、固体又は半固体の状態を経ることなく、前記第2の溶媒に分散させる、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の溶媒が水を主成分とする水系溶媒であり、前記第2の溶媒がアルコールを主成分とするアルコール系溶媒である、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記第2の溶媒に分散している前記複合体粒子を、液体状態で分散している状態を維持したまま、固体又は半固体の状態を経ることなく、前記第1の溶媒と同様の水系溶媒に分散させ、前記複合体粒子から前記核粒子を除去する工程をこの水系溶媒中で行う、請求項6に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記シリコンアルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC25)4を用い、前記塩基性触媒としてアンモニアを用いる、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記核粒子としてヘマタイト(α−Fe23)粒子を作製する、請求項1に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ヘマタイト粒子をゲル状態の水酸化鉄(III)分散液から生成させる、請求項9に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記のゲル状態の水酸化鉄(III)分散液に種結晶を添加して前記ヘマタイト粒子を生成させ、前記種結晶の添加量によって前記ヘマタイト粒子の一次粒子粒子径を制御する、請求項10に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記ヘマタイト粒子の粒子濃度が0.1〜10質量%であり、シリコンアルコキシド1molに対する前記ヘマタイト粒子の量を50g以上とし、シリコンアルコキシド1molに対する前記塩基性触媒量の量を2mol以上とする、請求項9に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記ヘマタイト粒子の一次粒子は球状あるいは擬似立方体状の粒子であり、その直径又は一辺の長さが10〜500nmであり、その標準偏差が35%以下である、請求項9に記載した中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記シリカ殻の厚さが5〜50nmであり、屈折率が1.15〜1.4である前記中空シリカ粒子を製造する、請求項9に記載した中空シリカ粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−30791(P2010−30791A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191649(P2008−191649)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】