説明

中空バイオナノ粒子を用いた核酸導入剤および導入法

【課題】特定の細胞で選択的に核酸を機能/発現させる。
【解決手段】細胞内シグナル応答の酵素の基質となるアミノ酸配列と生理的条件下で正電荷を有する官能基を含む親水性高分子と核酸の複合体をB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子に封入してなり、かつ、前記中空バイオナノ粒子が細胞認識部位を有する複合粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空バイオナノ粒子を用いて核酸を細胞で選択的に発現するように導入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療における最も重要な問題の一つである病変細胞特異的な遺伝子送達を達成するべく、近年、本発明者らはガン細胞などで異常亢進が確認されているタンパク質リン酸化酵素の一種であるプロテインキナーゼA(PKA)に応答しDNAを放出する新規高分子(PAK ポリマー)を設計した(特許文献1)。PAKポリマーは主鎖がポリアクリルアミド、側鎖にPKA基質ペプチド(ALRRASLG)を有しており、そのカチオン荷電によりDNAと複合体を形成する。発明者らはこのPAKポリマーを用い培養細胞(in vitro)への評価を試みてきたが、本システムをin vivoにて適用するには、血中滞留性・臓器特性といった解決すべき多くの問題が存在しているため、in vivoにおいて即応用可能なデリバリー技術との融合が急務である。一方で本発明者らは以前、HBVエンベロープよりなる中空バイオナノ粒子を開発し(特許文献2〜8)、in vitro, in vivoにおいて肝細胞特異的にDNAを送達することに成功している。公知のPAK/DNA複合体は、該中空バイオナノ粒子よりも大きいため、この中空バイオナノ粒子を用いてPAK/DNA複合体を導入することは予測できなかった。
【特許文献1】特開2003-033178
【特許文献2】特開2001-316298
【特許文献3】特開2004-175665
【特許文献4】特開2004-081210
【特許文献5】特開2004-002313
【特許文献6】特開2003-286199
【特許文献7】特開2003-286198
【特許文献8】特開2003-286189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、細胞内で核酸を選択的に発現させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
親水性高分子と核酸の複合体は、核酸のサイズが大きいか、或いは複合体が凝集することにより大きくなり、30nm或いはそれ以上の大きさになり得、細胞内に導入するのが困難であった。
【0005】
本発明者は、該複合体をリポソームに封入し、該リポソームと中空バイオナノ粒子を溶液中で混合するだけで、複合体が容易に中空バイオナノ粒子内部に導入され、該複合粒子を細胞に作用させることで、細胞内に該複合体を容易に導入できることを見出した。
【0006】
中空バイオナノ粒子の大きさは、例えばB型肝炎ウイルス表面抗原Lタンパク質を使用した場合、107nmであり、前記複合体を該粒子内に導入することは難しいと考えられたが、意外にも該複合体をリポソームに封入することで、容易に該複合体を粒子内に導入できることを見出した。これは、中空バイオナノ粒子は、球状の脂質膜にB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体が突き刺さったような構造を取っており、リポソームを用いて物質を導入することで、脂質膜が広がり、該粒子と匹敵する、或いは該粒子よりも大きい複合体でさえも粒子内に導入可能であるためと考えられる。例えば図5に示されるように、107nmの中空バイオナノ粒子(BNC)に498nmの核酸(GFPプラスミド)でさえも導入可能であることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の複合粒子、核酸導入剤、核酸導入方法および複合粒子の製造方法を提供するものである。
1. 細胞内シグナル応答の酵素の基質となるアミノ酸配列と生理的条件下で正電荷を有する官能基を含む親水性高分子と核酸の複合体をB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子に封入してなり、かつ、前記中空バイオナノ粒子が細胞認識部位を有する複合粒子。
2. 前記官能基が酵素の基質となるアミノ酸配列の塩基性アミノ酸に由来する項1に記載の複合粒子。
3. 塩基性アミノ酸が、リシン及び/又はアルギニンである項2に記載の複合粒子。
4. 前記官能基が、細胞内シグナル応答の酵素の作用により正電荷を消失するものである項1に記載の複合粒子。
5. 細胞内シグナル応答の酵素が、プロテアーゼである項1〜4のいずれかに記載の複合粒子。
6. プロテアーゼの基質のアミノ酸配列が、XDEVDX(K)(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸を示し、nは、3以上の整数である)で表される項5に記載の複合粒子。
7. 前記官能基の正荷電が、細胞内シグナル応答の酵素の作用によりリン酸化されて正電荷が中和されるものである項1〜4のいずれかに記載の複合粒子。
8. 細胞内シグナル応答の酵素が、タンパクリン酸化シグナルに関与する酵素である項7に記載の複合粒子。
9. ペプチドのアミノ酸配列が、XLRRXSLX(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸である)で表される項8に記載の複合粒子。
10. 親水性高分子が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸又はそれらの誘導体を繰り返し単位として含む高分子である項1〜9のいずれかに記載の複合粒子。
11. 親水性高分子が疎水性基、親水性基およびプロテインキナーゼA(PKA)の基質を有するポリ(メタ)アクリルアミド誘導体である、項1に記載の複合粒子。
12. 前記複合体の平均粒子径が複合体の構成要素である核酸のサイズよりも小さいことを特徴とする項1〜11のいずれかに記載の複合粒子。
13. 前記複合体の平均粒子径が50〜100nmである項1〜12のいずれかに記載の複合粒子。
14. 前記親水性高分子が以下の式(I)の繰り返し単位を有するポリアクリルアミド系共重合体である項1〜13のいずれかに記載の複合粒子:
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは同一または異なって水素原子またはメチル基を示す。R1、R2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表すか、或いはR1とR2はそれらが結合している窒素原子と一緒になって含窒素複素環基を表す。R3はポリエーテル基を示す。R4はプロテインキナーゼAの基質となる基を示す。n,m,pは、各々1以上の整数を示す。一般式(I)において、3つの繰り返し単位の順序は問わない。)。
15. 前記核酸が、細胞内で発現可能な遺伝子構築物、発現ベクターまたはsiRNAである項1〜14のいずれかに記載の複合粒子。
16. 前記核酸が細胞傷害性蛋白質をコードする遺伝子を含む、項1〜15のいずれかに記載の複合粒子。
17. 前記核酸の大きさが、中空バイオナノ粒子の0.1倍から約4.65倍である、項1〜16のいずれかに記載の複合粒子。
18. 前記複合体の大きさが、前記核酸の大きさの0.22倍から0.53倍である、項1〜17のいずれかに記載の複合粒子。
19. 前記タンパク質がB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質またはその改変体である、項1〜16のいずれかに記載の複合粒子。
20. 項1〜19のいずれかに記載の複合粒子からなる、核酸導入剤。
21. 項1〜19のいずれかに記載の複合粒子を細胞にin vivoまたはin vitroで作用させることを特徴とする。核酸導入方法。
22. 細胞内シグナル応答の酵素の基質となるアミノ酸配列と生理的条件下で正電荷を有する官能基を含む親水性高分子と核酸の複合体をリポソームに封入し、該複合体を有するリポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子を混合してリポソーム内の該複合体を前記粒子に封入することを特徴とする、親水性高分子と核酸の複合体を封入した複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは高分子/核酸(DNA, RNA)複合体をin vitro或いはin vivoにて細胞内に導入するために、中空バイオナノ粒子への該複合体の封入プロセスを確立した。
【0011】
高分子設計と封入プロセスの改良を経た本手法を利用することで、中空バイオナノ粒子による臓器ターゲティングと高分子による標的部位内での正常・異常細胞の選択といったダブルターゲティングか可能になり、例えばガン特異的な遺伝子送達が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複合粒子は、中空バイオナノ粒子の内部に核酸/親水性高分子複合体を封入したものである。
【0013】
本発明に係る中空バイオナノ粒子は、粒子形成能を有するタンパク質と脂質膜を構成要素とし、例えば粒子形成能を有するタンパク質が球状、楕円体状或いはこれらに類似する形状の脂質膜と複合化した構造を有するものであり、図1に模式的に示されている。
【0014】
本明細書において、複合体を内包する、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子としては、B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質(HBsAg)と脂質膜を構成要素とする粒子などが例示される。なお、HBsAgタンパク質は、B型肝炎ウィルス内部コア抗原タンパク質と組み合わせて粒子を形成してもよい。
【0015】
1つの好ましい実施形態において、本発明で粒子に導入され得る核酸のサイズは、中空バイオナノ粒子の0.1倍以上、0.3倍以上、0.5倍以上、0.7倍以上、1倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上であり、例えば実施例で中空バイオナノ粒子に導入されたGFPプラスミドは中空バイオナノ粒子の約4.65倍(498nm/107nm)であり、少なくとも中空バイオナノ粒子の5倍程度あるいはそれ以上の大きさの核酸は、本発明によれば中空バイオナノ粒子に封入され得る。
【0016】
もう1つの好ましい実施形態において、核酸は、生理的条件下で正電荷を有する本発明の親水性高分子と複合体を形成することで、サイズが縮小され得る。縮小の程度としては、核酸の大きさを100%としたときの複合体のサイズは例えば100%程度以下、90%程度以下、80%程度以下、70%程度以下、60%程度以下、50%程度以下、40%程度以下、30%程度以下、20%程度以下であり得る。例えば実施例、図5では、498nmのサイズのGFPプラスミドが複合体の形成により112〜263nmに大幅にサイズダウンしている。核酸が親水成功分枝と複合体を形成した場合にサイズが大きくなることが予測されるが、本発明ではもとの核酸よりもサイズが縮小し、これが中空バイオナノ粒子への封入とそれによる細胞内への複合体の導入が可能になった要因の1つと考えられる。
【0017】
好ましい実施形態によれば、得られた複合体は、リポソームに封入された後、中空バイオナノ粒子と反応されて、複合体を封入した本発明の複合粒子とすることができる。本発明の複合粒子は、中空バイオナノ粒子よりも大きいが、複合体を封入したリポソームよりも小さくなり得る(図5)。これは、中空バイオナノ粒子が、核酸と親水性高分子の複合体を封入するのに非常に適していることを表している可能性がある。
【0018】
以下、中空バイオナノ粒子を構成するタンパク質として、HBsAgまたはその改変体を使用した場合を例に取り説明するが、B型肝炎ウイルス由来であって粒子形成能を有する他のタンパク質、HBsAgまたはその改変体と他のタンパク質の共発現により中空バイオナノ粒子を得ることもできる。
【0019】
本発明で複合体を内包するための中空バイオナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体を主成分として包含し、該タンパク質は脂質膜に保持されている。
【0020】
中空バイオナノ粒子としては、酵母、昆虫細胞あるいはCHO細胞などの哺乳動物細胞を含む真核細胞でB型肝炎ウイルスタンパク質を発現させることにより得られるものが挙げられる。中空バイオナノ粒子の製造法は、特許文献2〜8に記載され、HBsAgの調整法は、Vaccine. 2001 Apr 30;19(23-24):3154-63. Physicochemical and immunological characterization of hepatitis B virus envelope particles exclusively consisting of the entire L (pre-S1 + pre-S2 + S) protein. Yamada T, Iwabuki H, Kanno T, Tanaka H, Kawai T, Fukuda H, Kondo A, Seno M, Tanizawa K, Kuroda S.に記載されている。
【0021】
真核細胞でHBsAgタンパク質を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜蛋白として発現、蓄積され、ナノ粒子として放出されるので、脂質膜を有する構造となる。真核細胞で発現させた中空バイオナノ粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。
【0022】
1つの好ましい実施形態において、中空バイオナノ粒子は、75〜85重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される。本願の実施例で使用されている中空バイオナノ粒子(L粒子)は、HBsAgまたはその改変体約80重量部、糖鎖約10重量部、脂質約10重量部からなる(J Biotechnol. 1992 Nov;26(2-3):155-62. Characterization of two differently glycosylated molecular species of yeast-derived hepatitis B vaccine carrying the pre-S2 region. Kobayashi M, Asano T, Ohfune K, Kato K.)。
【0023】
本発明の中空バイオナノ粒子はタンパク質が多く、硬い(rigid)構造を有している。従って、該中空粒子と同等以上の大きさの複合体を導入するのは難しいと予測された。ところが、該中空バイオナノ粒子と同等程度或いはより大きいサイズの(親水性高分子と核酸の)複合体であっても中空粒子内に封入できる。これは、該複合体を有するリポソームと中空バイオナノ粒子が融合して中空バイオナノ粒子よりもサイズが拡大したためと考えられる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、リポソームと融合した後の、複合体を内包したウイルスナノ粒子部(複合体などの内包された物質以外の構造部分)は、70〜90重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体、5〜40重量部の脂質(リン脂質を含む)、5〜20重量部の糖鎖から構成され得る。
【0025】
複合体を内包した粒子を構成する脂質としては、酵母ないし動物細胞などの真核細胞由来の膜成分(例えばトリグリセリド)、リポソームを構成するリン脂質が挙げられる。糖鎖は、真核細胞において発現される際にタンパク質に導入されるものであるが、細胞認識部位として糖鎖を結合させることも可能である。細胞認識部位として使用可能な糖鎖としては、例えばシアリルルイスXが挙げられる。シアリルルイスXは、炎症を起こしている細胞表面に存在するレクチンタンパク質と相互作用するため、生体内の炎症部位への標的化に使用することができる。シアリルルイスXなどの細胞認識分子としての糖鎖は、複合体の導入前と導入後のいずれの粒子に対して導入してもよい。
【0026】
本明細書において、「中空バイオナノ粒子」、「中空粒子」とは、複合体を内包する前の粒子を意味し、「ナノ粒子」または「バイオナノ粒子」とは、複合体を内包した後の粒子を意味する。「複合粒子」とは、中空バイオナノ粒子に複合体が内包された粒子を指す。
【0027】
HBsAgに包含され、S粒子の構成要素であるSタンパク質(226アミノ酸)は、粒子形成能を有している。S粒子に55アミノ酸からなるPre-S2を付加したのがMタンパク質(M粒子の構成蛋白)であり、M蛋白に108アミノ酸または119アミノ酸からなるPre-S1を付加したものがLタンパク質(L粒子の構成蛋白)である。Lタンパク質、Mタンパク質はSタンパク質と同様に粒子形成能を有している。従って、PreS1およびPreS2の2つの領域は任意に置換、付加、欠失、挿入を行ってもよい。例えばPre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質を用いることで、肝細胞認識能を失った中空粒子を得ることができる。また、PreS2領域にはアルブミンを介して肝細胞を認識する部位が含まれているので、このアルブミン認識部位を欠失させることもできる。一方、S領域(226アミノ酸)は粒子形成能を担っているので、S領域の改変は、粒子形成能を損なわないように行う必要がある。
【0028】
B型肝炎ウイルスタンパク質の改変体としてはウイルス中空ナノ粒子を形成する能力を有する限り種々の改変体が広く包含され、HBsAgを例に取ると、PreS1とPreS2領域に関しては任意の数の置換、欠失、付加、挿入が挙げられ、S領域に関しては、1又は数個もしくは複数個、例えば1〜120個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に1〜5個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されていてもよい。置換、付加、欠失、挿入などの変異を導入する方法としては、該タンパク質をコードするDNAにおいて、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984))などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段(例えばDNA合成機を使用する)(J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981))などが挙げられる。コドンの選択は、宿主のコドンユーセージを考慮して決定できる。
【0029】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体としてLタンパク質、Mタンパク質などの肝細胞を認識可能なタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合には、細胞認識部位を導入する必要はない。一方、Pre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させた改変タンパク質、或いはPreS1とPreS2の両方の領域を欠失させたタンパク質から構成される中空バイオナノ粒子の場合、そのままでは細胞認識ができないので、細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の任意の細胞を認識させ、前記ポリマー/核酸複合体を種々の標的細胞に導入することができる。このような特定の細胞を認識する細胞認識部位としては、例えば成長因子、サイトカイン等のポリペプチドからなる細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するためのポリペプチド分子、ウィルスおよび微生物に由来するポリペプチド分子、抗体、糖鎖などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL−2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。
【0030】
細胞認識部位がポリペプチドである場合には、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAと細胞認識部位をコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させることにより、任意の標的細胞を認識する中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0031】
細胞認識部位が抗体である場合、B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体をコードするDNAとZZタグをコードするDNAを必要に応じてスペーサーペプチドをコードするDNAを介してインフレームに連結し、これをベクター等に組み込み、真核細胞で発現させ、得られた中空バイオナノ粒子と標的細胞を認識し得る抗体を混合することにより、目的とする、中空バイオナノ粒子を得ることができる。
【0032】
細胞認識部位が糖鎖の場合、糖転移酵素を使用して、細胞認識能を持たない中空バイオナノ粒子にシアリルルイスXなどの細胞を認識可能な糖鎖を連結することにより、得ることができる。
【0033】
HBsAgタンパク質の改変体としては、抗原性(エピトープなどの抗原性に関与する部位を欠失/置換した改変体)、粒子構造の安定性、細胞選択性等を改変した改変体であってもよい。
【0034】
ウイルス中空粒子と複合体を内包するリポソームの融合は、水又は水性媒体中で該リポソームとウイルス粒子を混合し、必要に応じて攪拌ないし振盪することにより容易に実施できる。
【0035】
中空バイオナノ粒子の大きさは、50〜500nm、好ましくは80〜130nm程度である。中空バイオナノ粒子は、特に封入される複合体が大きい場合にはある程度以上の大きさであるのが望ましい。中空バイオナノ粒子を大きくするためには、該粒子を構成するB型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体としてより長いものを使用すればよい。例えば肝細胞を標的化する場合にはL粒子或いは同等程度の大きさの中空バイオナノ粒子が好ましく使用され、S蛋白/M蛋白、或いはPre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれる肝細胞認識部位を欠失させたタンパク質に細胞認識部位を導入して、肝細胞以外の細胞を標的化する中空粒子を得ることができる。
【0036】
ポリマー/核酸を封入したバイオナノ粒子の粒径は、150〜500nm程度、好ましくは200〜400nm程度である。中空ナノ粒子は脂質膜を有するためタンパク質が主成分であるにもかかわらずフレキシブルな構造を取り、リポソームと融合させることで大きな複合体を得ることができる。
【0037】
複合体を導入するのに使用されるリポソームは、多重層リポソーム、一枚膜リポソームのいずれであってもよい。リポソームの大きさは100〜300nm程度、好ましくは100〜200nm程度、特に100〜150nm程度である。リポソームの大きさは、中空バイオナノ粒子の0.5〜2倍程度の大きさであるのが好ましい。リポソームがナノ粒子に対して大きすぎても小さすぎても円滑な複合粒子の形成が妨げられる。
【0038】
リポソームは超音波処理法、逆相蒸発法、凍結融解法、脂質溶解法、噴霧乾燥法などにより製造することができる。
【0039】
リポソームの構成成分としては、リン脂質、コレステロール類、脂肪酸などが挙げられ、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものの他、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質が挙げられる。リン脂質は様々な飽和度を有する脂質を組み合わせて使用するのが望ましい。その他、コレステロール類としては、コレステロール、フィトステロールなどが挙げられ、脂肪酸としてはオレイン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、或いはこれら不飽和脂肪酸を含む脂肪酸混合物が挙げられる。側鎖の小さい不飽和脂肪酸を含むリポソームは曲率の関係から小さいリポソーム作製に有効である。
【0040】
リポソームの製造法の例を具体的に説明すると、例えば前記したリン脂質、コレステロール等を適当な有機溶媒に溶解し、これを適当な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリン脂質膜を形成し、これに複合体を含む水溶液、好ましくは緩衝液を加えて攪拌して、複合体を内包したリポソームを得ることができる。該リポソームを直接、またはいったん凍結乾燥した後に、凍結乾燥処理された本発明のナノ粒子と混合することにより、リポソームとナノ粒子の複合粒子を得ることができる。
【0041】
リポソーム/中空バイオナノ粒子に封入される複合体は、親水性高分子と核酸を含む。
【0042】
核酸としては、DNA、RNAのいずれでもよい。DNAは、遺伝子を発現可能に含むものが挙げられ、例えばプラスミド、或いはプロモーターに連結された遺伝子を含む遺伝子構築物などが挙げられる。DNAとしては、アンチセンスDNA、酵素阻害剤、細胞毒性ないしアポトーシス誘導作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、転写因子の阻害物質をコードする遺伝子などが挙げられる。RNAとしては、siRNA、アンチセンスRNA、shRNAなどが挙げられる。核酸は、細胞内で発現されたときに細胞毒性、アポトーシス誘導作用などの細胞に障害を与えるか、細胞死を誘導する作用を有するものが挙げられる。核酸の大きさとしては小さくてもよいが、細胞内に導入するのが難しい大きな核酸が好ましく例示され、例えば4〜35kbp程度のものが挙げられる。治療効果を持つほとんどのタンパク質の正常細胞での発現は副作用につながるので、本発明は、癌治療、遺伝子治療において重要な意味を持つ。
【0043】
核酸と複合体を形成し得る親水性高分子は、(i)カチオン性基と(ii)親水性基を含み、好ましくはさらに疎水性基を含む。親水性高分子は、水溶性であるか、少なくとも水で膨潤し、水中で分散可能なものである。親水性高分子の主鎖は、アクリル酸(エステル、アミド)、メタクリル酸(エステル、アミド)、ポリビニルアルコール、ポリリシン、ポリアルギニン、キトサン、アルギン酸エステル、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。該高分子は、全体としてカチオン性であるのが望ましい。また、該高分子の側鎖にはポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどが結合(グラフト)されていてもよい。さらに、該高分子の側鎖には、炭素数2〜10以上、好ましくは炭素数3〜6の炭化水素基(例えばプロピル基、ブチル基)などの疎水性基が例えばエステル又はアミド結合を介して導入されていてもよい。疎水性基を有することで、該複合体の凝集を抑制でき、複合体のコンパクト化が実現できる。
【0044】
本発明の親水性高分子は、特定の細胞で酵素の作用により切断或いは修飾を受け得る基質を有するか、或いは特定の細胞で主鎖が切断され、核酸が遊離/放出されるものである。このような基質に作用する酵素としては、プロテアーゼ(例えば、カスパーゼ、メタロプロテアーゼ、HIV, HCV, HTLVプロテアーゼ、キナーゼ(例えば、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC (PKC), Rho キナーゼ(Rock), Src、MAPキナーゼ(MAPK)、I-kappa-kinase)などの酵素が挙げられる。カスパーゼの基質としては、XDEVDX(K)(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸を示し、nは、3以上の整数である)が挙げられ、キナーゼの基質としては、XLRRXSLX(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸である)で表される基が挙げられる。これらの基が切断ないしリン酸化されると、親水性高分子と核酸の複合体が壊れ、核酸が遊離して細胞に対する生理活性を示す。例えばPKAはcAMP依存性のキナーゼであり、正常細胞よりも癌細胞で活性が高くなっている。このPKAの基質を有する親水性高分子と核酸の複合体を標的化された臓器/組織の細胞に導入すると、癌細胞ではPKAの作用により速やかに核酸(細胞に有害な作用を有する)が遊離され、正常細胞では該複合体が安定に存在し、これにより癌細胞に選択毒性を有する複合体が得られる。
【0045】
本発明の好ましい親水性高分子は、以下の式(I)のものである:
【0046】
【化2】

【0047】
(式中、R、R1、R2、R3、R4、n,m,pは、前記に定義される通りである。)。
【0048】
本発明の親水性高分子の分子量は、例えば100,000〜500,000程度である。
【0049】
本明細書において、R1、R2で表されるアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシルなどの炭素数1〜10,好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4のアルキル基が挙げられる。
【0050】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭素数3〜6のシクロアルキル基が挙げられる。
【0051】
アリール基としては、フェニル、トルイル、キシリル、ナフチルなどが挙げられる。
【0052】
アラルキル基としては、ベンジル、フェネチルなどが挙げられる。
【0053】
R1とR2はそれらが結合している窒素原子と一緒になって含窒素複素環基としては、ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリノ基などが挙げられる。
【0054】
ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、PEO−PPO共重合基などが挙げられる。
【0055】
上記式(I)の高分子を使用することにより、複合体粒子径を小さくすることができる。
【0056】
本発明の1つの好ましい実施形態において、核酸と親水性高分子の複合体は、核酸のみよりもサイズが小さくなっているか、あるいは複合体と核酸自体のサイズは同等程度である。このように、複合体を形成したときに核酸と比較してサイズが拡大しない理由としては、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)の相転移、基質ペプチドによるDNAの凝集などの要因が考えられる。特に、主鎖をアクリルアミドより疎水性が高い NIPAMとし、またPKA基質ペプチドと共に、粒子の非特異的凝集を防ぐためにポリエチレングリコール(PEG)を側鎖に修飾した高分子(NPAK-PEG)とDNAの複合体は平均粒子径が50-100nmと従来の複合体と比較し約半分の粒子径を有することが明らかとなった。このように複合体が小さくなると、中空粒子への封入と細胞内への導入がいずれも効率化できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例、参考例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
なお、以下において、“BNC”は、Lタンパク質からなるHBsAg粒子を意味する。
【0058】
参考例1:複合体の細胞内への導入
親水性高分子として、図2に示すアクリルアミド、メタクリル酸アミド(ALRRASLG-NH2)の共重合体(PAK)を使用し、核酸としてウミシイタケルシフェラーゼプラスミド(pGL3-control, Promega)を使用した。
【0059】
DNA(ルシフェラーゼプラスミド)と親水性高分子(PAK)を電荷比が1:1、1:2,1:3,1:5で各々混合し、細胞に導入した。また、リポフェクタミン2000(Lipofectamine2000, Invitrogen)を用いて細胞にルシフェラーゼプラスミドを導入した(陽性コントロール)。さらに、DNAのみを細胞に導入した(陰性コントロール)。結果を図3に示す。市販のLipofectamine2000により導入されたDNAが発現していることからアッセイ自体は正常に行われている。しかしPAKで導入されたDNAは殆ど発現しておらず、PKAを活性化させる刺激剤であるforskolin(Fsk)、阻害剤PKIを添加しても発現量に有意な差が確認できなかったことから、PAKのみでは遺伝子を細胞に送達できないことが分かる。
【0060】
比較例1
参考例1で使用したPAK/DNA複合体をセンダイウイルスエンベロープを用いて細胞に導入した。
【0061】
具体的には、8,000個のNIH 3T3細胞を96 well plateに播種し、10%FBSを含むDMEMにて一晩培養した。DNAに対してチャージ比1となるようにPAKを添加し、室温で15分間インキュベートすることで複合体を形成した。HVJ-E溶液を20 μl取り、10,000rpmで5分間遠心し、上澄みを除去した。これに緩衝液を5 μl添加して20〜30回ピペッティングし、各チャージ比の複合体溶液を16 μl添加した後、試薬B(界面活性剤)を2.1μl添加した。再び10,000rpmで5分間遠心した後、上澄みを除去し、緩衝液を12.5 μl添加して20〜30回ピペッティングした。これに試薬C(protamine sulfate)を5 μl添加し、エッペンドルフチューブに2 μl取り、5%FBS含有OPTI-MEMを98 μl添加して2回洗浄しておいたウェルに添加した。CO2インキュベーター内で37℃にて1時間インキュベートした後、新鮮な培地に交換しさらに24時間インキュベートした。その後、細胞をrenilla luciferase lysis buffer(promega)にて溶解し、その発光量(RLU)を測定した。
【0062】
結果を図4に示す。図4に示されるように、センダイウイルスを用いた場合、BNCを用いた場合と比較してDNAの発現量が小さく、例えば自殺遺伝子を癌細胞に導入しても十分な治療効果が得られないことが明らかになった。
【0063】
実施例1:バイオナノカプセルによるDNA/親水性高分子
以下の手順に従い、GFPプラスミド(核酸)と親水性高分子(NPAK-PEG)の複合体を作成し、これをD-liposome(コートソーム-EL-01-D、日本油脂)に常法に従い封入し、さらにLタンパク質からなるHBsAg粒子(BNC)に該複合体を導入して、本発明の複合粒子を得た。GFPプラスミド、NPAK-PEG/ GFPプラスミド複合体、該複合体のD-liposome封入体(NPAK-PEG/ GFPプラスミド/ D-liposome)、さらに本発明の複合粒子(NPAK-PEG/ GFPプラスミド/ D-liposome/BNC)の大きさをゼーターサイザーナノ-ZS(Malvern Instruments)で測定した。結果を図5に示す。
【0064】
実験方法
1. DNA 100 ngに対してNPAK-PEG 320 pmolを添加して、室温で2分間放置し、37℃で15分間反応させる。
2. DNA 100 ngに対してliposome-D 0.3 nmolを加え、室温で15分間放置する。
(liposome-D の1 vialにDNA 334 mgを反応させる。)
3. DNAを含んだliposome-Dとバイオナノカプセルを混ぜて、融合させる。
(liposome-Dとバイオナノカプセルは重量比が1:1になるようにする。)
(liposome-Dの1 vialは1.5 mgである。)
【0065】
図5に示されるように、本発明の複合粒子はGFPプラスミドよりはるかに小さく、NPAK-PEG/ GFPプラスミド複合体、該複合体のD-liposome封入体よりも小さく、複合体が非常にコンパクトに封入されていることが明らかになった。このように、コンパクトに封入できるために、複合体の封入効率が飛躍的に高まったと考えられる。
【0066】
また、細胞内の酵素で分解される基質を有する本発明の親水性高分子(NPAK-PEG)とGFPプラスミドとの複合体は、プラスミドよりもサイズが1/2〜1/4に縮小されており、このことも、HBsAg中空ナノ粒子に高効率で封入されるために重要であると考えられる。
【0067】
さらに、GFPプラスミドはBNCの約4.7倍の大きさであり、GFPプラスミドがBNCに封入されることは考えられないが、本発明ではNPAK-PEGとの複合体を用いることにより、BNCへの封入に成功した。
【0068】
HBsAg中空ナノ粒子は、DNAとカチオン性親水性高分子との複合体の封入に特に適していると考えられる。
【0069】
実施例2
実施例1において、GFPプラスミドに代えてRlu(Renillaルシフェラーゼ)プラスミドを使用した以外は実施例1と同様に操作し、RluプラスミドとNPAK-PEG複合体を有するD-liposomeとHBsAg中空ナノ粒子(L粒子)を混合して、本発明の複合粒子を得た。得られた複合粒子(NPAK-PEG/ Rluプラスミド/ D-liposome/BNC)をHepG2細胞の培地に添加し、HepG2細胞へNPAK-PEG/ Rluプラスミド複合体を導入した。導入24時間後にFsk+IBMXにて刺激し、30分後に培地交換した。その後さらに24時間インキュベートし、ルシフェラーゼアッセイを行った。 PKA刺激を行うことにより遺伝子発現が6倍程度増加した(図6)。またL粒子を使用しない場合(リポソームまでは使用)遺伝子発現は殆ど確認されなかった(no particles)。一方L粒子を使用することにより従来法と比較し遺伝子発現効率が極めて高くなった。
【0070】
実施例3
HBsAg L粒子(BNC)とGFPプラスミドを用い、実施例1の操作手順に従って、GFPプラスミド/NPAK-PEG複合体をL-粒子に封入した本発明の複合粒子を得、これを肝細胞(HepG2)とWiDr細胞に各々導入した。
【0071】
得られた形質転換細胞(Forskolin (20 mM)刺激)における蛍光顕微鏡写真を図7に示す。
【0072】
また、形質転換されたHepG2について、PKA活性剤であるForskolinの刺激では複合体からDNAが離れて発現したが、PKA抑制剤であるH89を添加した場合にはDNAの発現が見られなかった(図8)。
【0073】
実施例4
HBsAg L粒子(BNC)とGFPプラスミドを用い、実施例1の操作手順に従って、GFPプラスミド/NPAK-PEG複合体をL-粒子に封入した本発明の複合粒子を得、これを肝細胞(NuE)に導入した。
【0074】
得られた形質転換細胞における蛍光顕微鏡写真を図9に示す。形質転換されたNuE細胞は、Forskolin (20 mM)刺激なしでGFPを発現すること、L-粒子に封入していない(D-リポソームに封入された)複合体(NPAK-PEG/GFP-(D)LP)は、複合体が細胞内に導入されないことが明らかになった。
【0075】
実施例5
以下の手順に従い、抗-hEGFR抗体を細胞認識部位として有し、かつ、内部にNPAK-PEG/GFP複合体を封入した複合粒子(NPAK-PEG/ Rluプラスミド/ D-liposome/BNC with anti-hEGFR-antibody)を得た。なおzzタグを有し、肝細胞認識部位(preS2の3-77位)が欠失し、かつ、前記zzタグに抗-hEGFR抗体を結合させたHBsAg中空ナノ粒子は、特許文献3に従い得た。なお、DNAとしてGFPプラスミドを使用した。
【0076】
実験方法
1. DNA 100 ngに対してNPAK-PEG 320 pmolを添加して、室温で2分間放置し、37℃で15分間反応させる。
2. DNA 100 ngに対してliposome-D 0.3 nmolを加え、室温で15分間放置する。
(liposome-D の1 vialにDNA 334 mgを反応させる。)
3. DNAを含んだliposome-Dとバイオナノカプセル(zzタグBNC)を混ぜて、融合させる。
(liposome-Dとバイオナノカプセルは重量比が1:1になるようにする。)
(liposome-Dの1 vialは1.5 mgである。)
4. 複合粒子に抗-hEGFR抗体を添加して、4℃で1時間反応させる。
(複合粒子と抗-hEGFR抗体は重量比が5:1になるようにする。)
【0077】
得られた複合粒子をEGFRを発現しているA431細胞に導入したところ、Forskolinの添加無しでGFPの発現が観察された(図10)。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】核酸と親水性高分子(PAK/NPAK)がDNAと複合体を形成し、これがリポソームを用いて中空バイオナノ粒子(BNC)に封入される様子を模式的に示す図である。
【図2】プロテインキナーゼAの基質(ALRRASLG-NH2)を有するPAKポリマー(NPAK-PEG)の構造と、PAKポリマー/DNA複合体にプロテインキナーゼAが作用した場合に、複合体からDNA が遊離し、DNAが発現する様子を示す。
【図3】DNA/PAKポリマー複合体が、単独では細胞内にほとんど導入されないことを示す。図3中、刺激なし、Fsk、PKIの各々において、左から順に、DNA alone; LipofectAmine2000; PAK charge ratio 1 complex; charge ratio 2 complex; charge ratio 3 complex; charge ratio 5 complexを示す。
【図4】センダイウイルスエンベロープを用いた場合、DNA/PAKポリマー複合体の細胞への導入効率が低いことを示す。
【図5】NPAKポリマー・DNAの複合体のサイズを示す。
【図6】BNCを用いたLuciferaseの活性試験の結果を示す。RLU: Relative luciferase unitNPAK-PEG/DNA複合体をL粒子と混合しHepG2細胞へ導入した。導入24時間後にFsk+IBMXにて刺激し、30分後に培地交換した。その後さらに24時間インキュベートし、ルシフェラーゼアッセイを行った。PKA刺激を行うことにより遺伝子発現が6倍程度増加した。またL粒子を使用しない場合(リポソームまでは使用)遺伝子発現は殆ど確認されなかった(no particles)。一方カプシドを使用することにより従来法と比較し遺伝子発現効率が極めて高くなった。
【図7】蛍光顕微鏡写真の結果(HepG2, WiDr)を示す。Forskolin (20 μM)刺激でNPAK-PEG/DNA複合体をバイオナノ粒子(BNC)が肝細胞のみに選択的に送達した。
【図8】形質転換されたHepG2について、Forskolin刺激とPKA抑制剤(H89)を添加したときの蛍光顕微鏡写真の結果を示す。PKA活性剤であるForskolinの刺激では複合体からDNAが離れて発現したが、PKA抑制剤であるH89を添加した場合にはDNAの発現が見れなかった。
【図9】形質転換された/されていないNuEについての蛍光顕微鏡写真の結果を示す。ヒト肝由来細胞であるNuE細胞にNPAK-PEG/DNA複合体が導入され、発現することが観察された。Forskolinを添加しなくても発現は見れた。
【図10】zzタグに抗-hEGFR抗体を結合させたHBsAg中空ナノ粒子を用い、A431細胞にGFPプラスミドを導入した結果を示す。(zzBNC-抗体)を用いることで肝細胞以外の目的細胞にNPAK-PEG/DNAが導入できた。 Forskolinの添加無しでGFPの発現が見れた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内シグナル応答の酵素の基質となるアミノ酸配列と生理的条件下で正電荷を有する官能基を含む親水性高分子と核酸の複合体をB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子に封入してなり、かつ、前記中空バイオナノ粒子が細胞認識部位を有する複合粒子。
【請求項2】
前記官能基が酵素の基質となるアミノ酸配列の塩基性アミノ酸に由来する請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
塩基性アミノ酸が、リシン及び/又はアルギニンである請求項2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記官能基が、細胞内シグナル応答の酵素の作用により正電荷を消失するものである請求項1に記載の複合粒子。
【請求項5】
細胞内シグナル応答の酵素が、プロテアーゼである請求項1〜4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項6】
プロテアーゼの基質のアミノ酸配列が、XDEVDX(K)(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸を示し、nは、3以上の整数である)で表される請求項5に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記官能基の正荷電が、細胞内シグナル応答の酵素の作用によりリン酸化されて正電荷が中和されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項8】
細胞内シグナル応答の酵素が、タンパクリン酸化シグナルに関与する酵素である請求項7に記載の複合粒子。
【請求項9】
ペプチドのアミノ酸配列が、XLRRXSLX(X、X、Xはタンパク質を構成する任意のアミノ酸である)で表される請求項8に記載の複合粒子。
【請求項10】
親水性高分子が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸又はそれらの誘導体を繰り返し単位として含む高分子である請求項1〜9のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項11】
親水性高分子が疎水性基、親水性基およびプロテインキナーゼA(PKA)の基質を有するポリ(メタ)アクリルアミド誘導体である、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項12】
前記複合体の平均粒子径が複合体の構成要素である核酸のサイズよりも小さいことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項13】
前記複合体の平均粒子径が50〜100nmである請求項1〜12のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項14】
前記親水性高分子が以下の式(I)の繰り返し単位を有するポリアクリルアミド系共重合体である請求項1〜13のいずれかに記載の複合粒子:
【化1】

(式中、Rは同一または異なって水素原子またはメチル基を示す。R1、R2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表すか、或いはR1とR2はそれらが結合している窒素原子と一緒になって含窒素複素環基を表す。R3はポリエーテル基を示す。R4はプロテインキナーゼAの基質となる基を示す。n,m,pは、各々1以上の整数を示す。一般式(I)において、3つの繰り返し単位の順序は問わない。)。
【請求項15】
前記核酸が、細胞内で発現可能な遺伝子構築物、発現ベクターまたはsiRNAである請求項1〜14のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項16】
前記核酸が細胞傷害性蛋白質をコードする遺伝子を含む、請求項1〜15のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項17】
前記核酸の大きさが、中空バイオナノ粒子の0.1倍から約4.65倍である、請求項1〜16のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項18】
前記複合体の大きさが、前記核酸の大きさの0.22倍から0.53倍である、請求項1〜17のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項19】
前記タンパク質がB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質またはその改変体である、請求項1〜16のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の複合粒子からなる、核酸導入剤。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれかに記載の複合粒子を細胞にin vivoまたはin vitroで作用させることを特徴とする。核酸導入方法。
【請求項22】
細胞内シグナル応答の酵素の基質となるアミノ酸配列と生理的条件下で正電荷を有する官能基を含む親水性高分子と核酸の複合体をリポソームに封入し、該複合体を有するリポソームとB型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を構成要素とする中空バイオナノ粒子を混合してリポソーム内の該複合体を前記粒子に封入することを特徴とする、親水性高分子と核酸の複合体を封入した複合粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−29249(P2008−29249A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205698(P2006−205698)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】