説明

中空無機粒子の製造方法、及び中空無機粒子

【課題】中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子の製造方法及び中空無機粒子を提供する。
【解決手段】中空無機粒子の製造方法は、ポリオルガノシロキサンの重合体が含まれる重合体粒子に、ポリオルガノシロキサン被膜を形成することで被覆重合体粒子を得る被覆工程と、その被覆重合体粒子を焼成する焼成工程とを含む。重合体粒子は、液滴状態の第1重合体を含む第1粒子を形成する第1粒子形成工程と、第1粒子に第2単量体を吸収させた第2粒子を形成する第2粒子形成工程と、第2粒子に吸収させた第2単量体を重合させる重合工程とを通じて製造される。第1粒子形成工程では、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を重合させる。第2粒子形成工程では、第1粒子に対して、ビニル系単量体を含む第2単量体を乳化状態で接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子の製造方法、及び中空無機粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子は、各種樹脂材料のフィラーとして広く用いられている。近年、無機粒子の中でも、光拡散用のフィラーとして用いられる中空無機粒子を合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、外殻部と外殻部に接して中心に向かって凸部を形成する内殻部とを有する中空無機粒子が開示されている。この中空無機粒子は、シリカ複合重合体粒子を焼成することで得られている。シリカ複合重合体粒子は、水性コロイダルシリカを出発原料として、重合性ビニル系モノマー由来の重合体部分を形成し、その後、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーの重合によりポリアルコキシシロキサン部分を形成することで製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2007/037202号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子を、オルガノアルコキシシランを出発原料として製造することができることを見出すことでなされたものである。本発明の目的は、中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子の製造方法及び中空無機粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を重合させることにより、液滴状態の第1重合体を含む第1粒子を形成する第1粒子形成工程と、前記第1粒子に対して、ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体を含む第2単量体を乳化状態で接触させることにより、前記第1粒子に前記第2単量体を吸収させた第2粒子を形成する第2粒子形成工程と、前記第2粒子に吸収させた前記第2単量体を重合させることにより、重合体粒子を形成する重合工程と、ポリオルガノシロキサン被膜を前記重合体粒子に形成することで、被覆重合体粒子を得る被覆工程と、前記被覆重合体粒子を焼成する焼成工程とを含むことを要旨とする。
【0006】
この方法によれば、焼成工程により、被覆重合体粒子に含まれる有機成分が除去される。このとき、ポリオルガノシロキサン被膜から無機成分の外殻が形成される。ここで、第2単量体から生成した重合体には、ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体から生成したビニル系重合体が含まれている。主としてビニル系重合体に含まれる有機成分が、除去されることで、中空部が形成される。またこのとき、中空無機粒子の内部には、第1単量体に由来する無機粒子が形成される。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の中空無機粒子の製造方法において、前記被覆工程が、前記重合体粒子の分散液と前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランとの混合液において前記オルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合させる工程であるとともに、前記重合体粒子の分散液は、前記重合工程において重合反応を行うことで得られた分散液であることを要旨とする。
【0008】
この方法によれば、重合体粒子を重合工程で得られた分散液として被覆工程に供することで、重合体粒子の分散性が維持されやすくなるため、得られる被覆重合体粒子の凝集が抑制されるようになる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の中空無機粒子の製造方法において、前記被覆工程が、前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合させることで、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を生成させるとともに前記重合体粒子の外面に前記オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を付着させる第1段階と、前記縮合を進行させることで前記オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を固化させる第2段階とを含むことを要旨とする。
【0010】
この方法によれば、第1段階において、ポリオルガノシロキサンの液滴を重合体粒子に付着させることで、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子の生成が抑制される。この状態で第2段階を実施することで、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子の生成を抑制しながら、ポリオルガノシロキサン被膜を形成することができるようになる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の中空無機粒子の製造方法において、前記被覆工程において、前記第1段階における前記塩基性触媒の添加量が、前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランの1モルに対して0.015モル以下とされることを要旨とする。
【0012】
この方法によれば、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子が生成されることを顕著に抑制することができるようになる。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた中空無機粒子であって、中空部に、前記第1単量体に由来する無機粒子が存在してなることを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の中空無機粒子において、外殻により、前記中空部が閉塞されていることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の中空無機粒子において、外殻の外面が、前記中空部に連通する開口を有していることを要旨とする。
【0014】
上記の方法によれば、請求項5から請求項7に記載の中空無機粒子を得ることができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子の製造方法及び中空無機粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】外殻により閉塞されている中空無機粒子を示す光学顕微鏡写真。
【図2】(a)及び(b)は、外殻により閉塞されている中空無機粒子を示す電子顕微鏡写真。
【図3】(a)及び(b)は、外殻により閉塞されている中空無機粒子の断面構造を示す電子顕微鏡写真。
【図4】(a)及び(b)は、外殻により閉塞されている中空無機粒子の断面構造を示す電子顕微鏡写真。
【図5】(a)及び(b)は、外殻に開口を有する中空無機粒子を示す電子顕微鏡写真。
【図6】(a)及び(b)は、外殻により閉塞されている中空無機粒子であって、被覆工程(第1段階)の条件を変更した一例を示す電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の中空無機粒子の製造方法は、重合体粒子に、ポリオルガノシロキサン被膜を形成することで被覆重合体粒子を得る被覆工程と、その被覆重合体粒子を焼成する焼成工程とを含む。
【0018】
重合体粒子は、液滴状態の第1重合体を含む第1粒子を形成する第1粒子形成工程と、第1粒子に第2単量体を吸収させた第2粒子を形成する第2粒子形成工程と、第2粒子に吸収させた第2単量体を重合させる重合工程とを通じて製造される。
【0019】
第1粒子形成工程では、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を重合させる。オルガノアルコキシシランとしては、下記一般式(1)及び一般式(2)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0020】
−Si−(OR4−n ・・・(1)
一般式(1)中、Rは非加水分解性基であって、炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、各ORは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
Si−(OR ・・・(2)
一般式(2)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、各ORは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
第1粒子形成工程では、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を水性溶媒に溶解した後に、塩基性触媒を加えて、水性溶媒中にてオルガノアルコキシシランを加水分解及び縮合させる。
【0023】
水性溶媒としては、水と水混和性有機溶剤との混合溶媒、又は水が挙げられる。水混和性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、単独で水と混合してもよいし、二種以上を組み合わせて水と混合してもよい。
【0024】
加水分解及び縮合のための塩基性触媒としては、アンモニア及びアミンの少なくとも一方が挙げられる。アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。こうした塩基性触媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。触媒の中でも、毒性が少なく、粒子から除去することが容易であり、かつ安価であるという観点から、アンモニアが好適である。
【0025】
塩基性触媒を用いた加水分解及び縮合の反応形態は、混合均一系反応又は二層系反応が挙げられる。混合均一系反応は、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体及び塩基性触媒を水性溶媒に溶解した後に、その溶液を撹拌しながら、加水分解及び縮合を行う反応である。この混合均一系反応において、反応開始時のpHは、好ましくは9.7〜11.7、より好ましくは9.7〜11.2である。そして、反応開始時のpHよりも例えば0.7〜1.5の範囲で低下するまで、反応を進行させる。反応終了時のpHは、例えば9.0〜11.0の範囲である。混合均一系反応における反応温度は、例えばオルガノアルコキシシランの種類に応じて適宜設定されるが、例えば0〜50℃の範囲であることが好適である。
【0026】
二層系反応においては、比重(23℃)が1以下であるオルガノアルコキシシランが原料として用いられる。二層系反応は、オルガノアルコキシシランと、塩基性触媒を溶解した水性溶液とから形成される二層の状態を保持しながら、オルガノアルコキシシランと水性溶液との界面においてオルガノアルコキシシランを加水分解及び縮合させる。このとき、二層の状態を維持する範囲で撹拌してもよい。塩基性触媒の添加量は、特に制限はないが、下層のpHが例えば9.0〜12.0の範囲になる添加量とすることが好ましい。こうした二層系反応により、上層のオルガノアルコキシシランが加水分解されて下層に移行し、同下層においてポリオルガノシロキサン微粒子が生成する。二層系反応における反応温度は、例えばオルガノアルコキシシランの種類に応じて適宜設定されるが、例えば0〜50℃の範囲が好適である。
【0027】
以上のように、オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を加水分解及び縮合させることで、第1粒子の分散液が得られる。第1粒子には液滴状態のポリオルガノシロキサンが含まれている。
【0028】
なお、第1単量体には、オルガノアルコキシシラン以外の単量体が含まれていてもよい。オルガノアルコキシシラン以外の単量体としては、例えばビニル系単量体(但し、上記ビニルアルコキシシランを除く。)が挙げられる。
【0029】
第1単量体中におけるオルガノアルコキシシランの含有量は、第1単量体の全体のモル量に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。第1粒子の平均粒子径は、例えば0.1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0030】
第2粒子形成工程では、第1粒子に対して、ビニル系単量体を含む第2単量体を乳化状態で接触させる。こうした第2単量体は、水中油滴型エマルションの油滴を形成することが可能なものである。
【0031】
ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体は、重合工程で重合された後に、焼成工程により大部分が除去されることで、中空無機粒子の中空部を形成する。ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体は、被覆重合体粒子を形成するに際して被膜の基材となる重合体、すなわち固体状の重合体を形成可能であれば特に限定されない。ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体としては、例えば芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、及びビニルエステル系単量体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、アクリル酸エステル系単量体と、メタクリル酸エステル系単量体とを示している。
【0032】
芳香族ビニル系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、及びp−エチルスチレンが挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−アミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、及びγ−ヒドロキシプロピルアクリレート、並びに、これらアクリル酸エステル系単量体に対応するメタクリル酸エステル単量体が挙げられる。
【0034】
上記ビニル系単量体としては、重合体粒子を焼成する焼成工程において、ビニル系単量体を由来とする有機成分を除去しやすいという観点から、単官能のビニル系単量体好ましい。すなわち、多官能のビニル系単量体を用いた場合、重合度の高い重合体が形成されやすくなるため、有機成分の除去が困難となるおそれがある。
【0035】
なお、多官能のビニル系単量体としては、例えば多価アルコールの(メタ)アクリレート類、及びジビニル系単量体が挙げられる。多価アルコールの(メタ)アクリレート類としては、例えばエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、グリセリントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、及びポリエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。ジビニル系単量体としては、例えばジビニルベンゼン、ジビニルキシレン、及びジビニルナフタレンが挙げられる。
【0036】
これらのビニル系単量体は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、第2単量体には、上記ビニル系単量体以外の単量体が含まれていてもよい。ビニル系単量体以外の単量体としては、例えば上記オルガノアルコキシシランが挙げられる。第2単量体中における上記ビニル系単量体の含有量は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0037】
第2単量体の添加量は、特に限定されない。ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体の添加量としては、第1単量体として添加したオルガノアルコキシシラン100質量部に対して、好ましくは0.1〜5000質量部、より好ましくは1〜3000質量部となる範囲である。
【0038】
第2単量体は、乳化剤とともに水性分散媒に分散することで、乳化状態とされる。水性分散媒としては、水と水混和性有機溶剤との混合溶媒、又は水が挙げられる。水混和性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、単独で水と混合してもよいし、二種以上を組み合わせて水と混合してもよい。
【0039】
乳化剤は、第2単量体を水中油滴型エマルションの油相とする乳化剤を、例えばHLB値(親水性親油性バランス値)を指標として適宜選択して用いることができる。乳化剤としては、例えば炭素数6〜30のアルキル基を有するアルキル硫酸塩が好適に使用される。アルキル硫酸塩の塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。乳化剤の配合量は、第1単量体100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50重量部以下である。乳化剤の配合量が単量体100質量部に対して100質量部を超える場合、第1単量体が第1粒子に吸収され難くなるおそれがある。
【0040】
本実施形態では、第2単量体に含まれるビニル系単量体のラジカル重合を開始するラジカル重合開始剤とともに乳化状態とされる。ラジカル重合開始剤の種類は、特に限定されず、例えば2,2′−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物が挙げられる。このラジカル重合開始剤の添加量は、単量体1モルに対して、好ましくは0.001〜20モル、より好ましくは0.01〜10モルの範囲である。
【0041】
第2単量体を乳化状態にするには、例えばホモジナイザー等の撹拌機を用いて第2単量体、水性分散媒、乳化剤、及びラジカル重合開始剤を混合することで得られる。こうして得られた水中油滴型エマルションと第1粒子とを混合することにより、乳化状態の第2単量体を第1粒子に接触させる。
【0042】
このようにして第1粒子に第2単量体が吸収されることで第2粒子が形成される。すなわち、第1粒子がシード粒子となって第2粒子が成長する。得られた第2粒子の分散液では、粒子径測定において、第1粒子よりも粒子径の大きい第2粒子が確認されるようになる。
【0043】
第2粒子形成工程において第2単量体を吸収させる時間は、24時間未満であることが好ましい。吸収させる時間が24時間を超える場合、生産性の低下を招き、かつ、第2粒子の安定性が低下する結果、凝集したり粒度分布が多分散になったりするおそれがある。
【0044】
続いて、重合工程においては、第2粒子の分散液をラジカル重合開始剤の種類に応じて所定の温度まで加熱することでビニル系単量体のラジカル重合反応を開始させる。こうしたラジカル重合反応により、重合体粒子の分散液が得られる。
【0045】
重合体粒子の平均粒子径は、例えば0.1〜200μmの範囲であって、同重合体粒子のCV値は、好ましくは15%以下の範囲である。CV値(粒度分布の変動係数)は、下式により求められる。
【0046】
CV値(%)={[粒子径の標準偏差(μm)]/[平均粒子径(μm)]}×100
被覆工程では、重合体粒子にポリオルガノシロキサン被膜を形成する。ポリオルガノシロキサン被膜は、その原料としてのオルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合により形成することができる。オルガノアルコキシシランとしては、上記一般式(1)及び一般式(2)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。塩基性触媒としては、アンモニア及びアミンの少なくとも一方が挙げられる。アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。こうした塩基性触媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。触媒の中でも、毒性が少なく、粒子から除去することが容易であり、かつ安価であるという観点から、アンモニアが好適である。
【0047】
被覆工程では、重合体粒子、オルガノアルコキシシラン、及び塩基性触媒を水性分散媒中で混合する。被覆工程は、撹拌機を用いて撹拌しながら行うことが好ましい。被覆工程における反応条件は、オルガノアルコキシシランの反応条件に応じて適宜設定される。重合体粒子は、粉体として被覆工程に供されてもよいし、重合体粒子の分散液として被覆工程に供されてもよい。ここで、重合体粒子を上記の重合工程で得られた分散液として供することで、重合体粒子の分散性が維持されやすくなるため、得られる被覆重合体粒子の凝集が抑制されるようになる。
【0048】
こうした被覆工程においては、ポリオルガノシロキサンの一部が、重合体粒子に付着せずに、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子を生成することがある。こうした固体微粒子の生成量が増すと、被覆重合体粒子の歩留まりを低下させたり、被覆重合体粒子の分級操作を煩雑にしたりするおそれがある。この点、被覆工程は、重合体粒子の外面にポリオルガノシロキサンの液滴を付着させる第1段階と、ポリオルガノシロキサンの液滴を固化させる第2段階とを含むことが好ましい。第1段階では、オルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合させることで、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を生成させる。こうした液滴を重合体粒子に付着させることで、第1段階では、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子の生成が抑制される。そして、第2段階において、オルガノアルコキシシラン縮合物の縮合を進行させる。これにより、重合体粒子の外面ではオルガノアルコキシシラン縮合物が固化され、ポリオルガノシロキサン被膜となる。
【0049】
第1段階では、オルガノアルコキシシランの縮合反応の条件を緩和させることで、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を形成する。こうした液滴は、塩基性触媒の添加量を所定量以下に設定することで容易に形成される。第1段階における塩基性触媒の添加量は、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子の生成を抑制するという観点から、ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランの1モルに対して0.015モル以下とされることが好ましい。すなわち、第1段階における塩基性触媒の添加量が前記オルガノアルコキシシランの1モルに対して0.015モルを超える場合には、オルガノアルコキシシランの縮合が短時間で進行しやすくなる結果、重合体粒子の外面に付着せずに、固体微粒子を生成するポリオルガノシロキサンの量が増すことになる。なお、第1段階における塩基性触媒の添加量の下限は、オルガノアルコキシシランの1モルに対して0.0001モル以上とされることが好ましい。
【0050】
第2段階における塩基性触媒の添加量は、特に限定されないが、ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランの1モルに対して、好ましくは0.1〜10.0モルである。第2段階における塩基性触媒の添加量が前記オルガノアルコキシシランの1モルに対して、0.1モル未満の場合、被膜の形成される時間が長くなる傾向にあるため、被覆工程の時間短縮が困難となるおそれがある。一方、第2段階における塩基性触媒の添加量が前記オルガノアルコキシシランの1モルに対して、10.0モルを超える場合、特に製造上には問題はないが、過剰な添加は無駄が生じることになる。
【0051】
得られた被覆重合体粒子は、必要に応じて洗浄される。洗浄工程においては、被覆重合体粒子と分散媒とを分離した後に、その被覆重合体粒子を水性分散媒等により洗浄する。洗浄された被覆重合体粒子は、乾燥されることで粉体とされる。
【0052】
被覆重合体粒子の平均粒子径は、例えば0.1〜200μmの範囲であって、同被覆重合体粒子のCV値は、好ましくは15%以下の範囲である。CV値(粒度分布の変動係数)は、上述した式により求められる。
【0053】
次に、被覆重合体粒子は、焼成工程に供される。焼成工程では、被覆重合体粒子を焼成炉内で焼成することで、被覆重合体粒子に含まれる有機成分を除去する。これにより、中空無機粒子が得られる。中空無機粒子の外殻は、被覆工程で形成したポリオルガノシロキサン被膜から形成される。中空無機粒子の中空部は、第2単量体に含まれていたビニル系単量体に基づく重合体が主として除去されることで形成される。さらに、中空粒子の内部には、第1単量体に由来する無機粒子が形成される。すなわち、第1単量体に含有するオルガノアルコキシシランを由来としてシリカ粒子が形成される。
【0054】
焼成工程において、焼成炉内の雰囲気は、空気下であってもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより酸素濃度を調整した雰囲気であってもよい。焼成の温度は、有機成分の分解温度に応じて、例えば200℃〜1000℃の範囲で設定される。焼成時間は、例えば3〜100時間の範囲で設定される。
【0055】
ここで、上記の被覆工程における条件等を変更することで、中空無機粒子の外殻の状態を変化させることができる。例えば、ポリオルガノシロキサン被膜の厚みを調整することで、外殻により中空部を閉塞させたり、外殻の外面に中空部と連通する開口を形成したりすることもできる。外殻に開口を有する中空無機粒子では、その開口が第1単量体に由来する無機粒子の粒径よりも小さいことで、同無機粒子が中空部において可動な状態で存在する場合であっても同無機粒子は中空部に保持される。また例えば、外殻に開口を有する中空無機粒子において、その開口が第1単量体に由来する無機粒子の粒径よりも大きい場合、同無機粒子が外殻と連結していることで、無機粒子は中空部に保持される。また、被覆工程において撹拌状態等を調整することで、中空部が偏倚した中空無機粒子を得ることもできる。
【0056】
得られた中空無機粒子の平均粒子径は、例えば0.1〜200μmの範囲であって、同中空無機粒子のCV値は、好ましくは15%以下の範囲である。CV値(粒度分布の変動係数)は、上述した式により求められる。
【0057】
このようにして得られた中空無機粒子の用途は、特に限定されない。中空無機粒子は、例えば、液晶表示装置のスペーサ、フィラー、セラミックス原料等として好適に用いられる。中空無機粒子は、樹脂材料に配合されることで、樹脂材料に光拡散性を付与することができるため、光拡散用のフィラーとして好適に用いることができる。中空無機粒子は、中空構造に基づいて、断熱性向上、軽量化、多孔質化、低誘電率化等の機能を発揮させる機能性フィラーとして用いることができる。
【0058】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)ポリオルガノシロキサン被膜を重合体粒子に形成することで、被覆重合体粒子を得る被覆工程と、被覆重合体粒子を焼成する焼成工程とを含むことで、中空部に無機粒子が存在する中空無機粒子を製造することができる。
【0059】
(2)重合体粒子を重合工程で得られた分散液として被覆工程に供することで、重合体粒子の分散性が維持されやすくなるため、得られる被覆重合体粒子の凝集が抑制されるようになる。これにより、中空無機粒子の歩留まりを向上させることが容易となる。
【0060】
(3)被覆工程においては、ポリオルガノシロキサンの一部が、重合体粒子に付着せずに、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子を生成することがある。この点、第1段階において、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を重合体粒子に付着させることで、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子の生成が抑制される。この状態で第2段階を実施することで、上記固体微粒子の生成を抑制しながら、ポリオルガノシロキサン被膜を形成することができるようになる。
【0061】
(4)重合体粒子の外面において、固化途中のポリオルガノシロキサンに、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴が付着すると、その液滴が突状をなして固化されることで、ポリオルガノシロキサン被膜の外面の平滑性が低下すると考えられる。この点、第1及び第2段階を含む被覆工程では、第1段階でオルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を重合体粒子に付着させ、第2段階で、その液滴を固化させている。このため、重合体粒子の外面において液滴の固化がより均一に進行すると推測され、その結果、ポリオルガノシロキサン被膜外面の平滑性を高めることができるようになる。
【0062】
(5)第1段階における塩基性触媒の添加量が、ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランの1モルに対して0.015モル以下とされることで、ポリオルガノシロキサンの固体微粒子が生成されることを顕著に抑制することができるようになる。
【0063】
(6)上記の中空無機粒子の製造方法によれば、外殻により中空部を閉塞させた中空無機粒子、及び外殻の外面に中空部と連通する開口を有する中空無機粒子を得ることができる。
【0064】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・第1単量体又は第2単量体に、分散剤、着色剤等の添加剤を含有させてもよい。すなわち、第1重合体又は第2重合体に、分散剤、着色剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0065】
・被覆工程を複数回繰り返すことで、多層構造のポリオルガノシロキサン被膜を形成してもよい。
・ポリオルガノシロキサン被膜には、着色剤等の添加剤が含有されていてもよい。被覆工程において、着色剤等の添加剤とともにポリオルガノシロキサン被膜を形成させることで、ポリオルガノシロキサン被膜を形成してもよい。
【0066】
・被覆工程において、オルガノアルコキシシランを重合体粒子の分散液に例えば滴下することで、オルガノアルコキシシランの所定量を反応系に徐々に添加してもよい。
・焼成工程において、温度、時間等の条件を調整することで、例えば第2単量体に由来する有機成分を完全に除去せずに有機成分の一部を残留させた中空無機粒子を得ることもできる。
【0067】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)外殻により、中空部が閉塞されているとともに、中空部に無機粒子が存在してなる中空無機粒子。
【0068】
(ロ)前記無機粒子が前記外殻と連結している上記(イ)に記載の中空無機粒子。
(ハ)前記無機粒子が前記中空部で可動な状態で存在する上記(イ)に記載の中空無機粒子。
【0069】
上記の中空無機粒子は、例えば、光拡散性の付与、断熱性向上、軽量化、多孔質化、低誘電率化等の機能を発揮させる機能性フィラーとして用いることができる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1:外殻により閉塞されている中空無機粒子の製造)
<第1粒子形成工程>
1リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水500gを入れた後に、そのセパラブルフラスコを40℃に調整した恒温槽内に設置した。次に、イオン交換水を撹拌羽根により撹拌しながら、オルガノアルコキシシラン(第1単量体)としてのビニルトリメトキシシラン25gを加えて1時間撹拌した。続いて、1規定のアンモニア水5.0mlを塩基性触媒として加えた後に、更に15分間撹拌することにより、第1粒子分散液を得た。なお、第1粒子分散液は、混合均一系反応によって調製されている。
【0071】
<第2粒子形成工程>
第2単量体を乳化状態とした乳化液(O/W型エマルション)を調製した。この乳化液は、2リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水750gを入れた後、アクリル系単量体(第2単量体)としてのメタクリル酸メチル250gに、ラジカル重合開始剤としての2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)2.5gを溶解させた溶液と、乳化剤としての20質量%ドデシル硫酸アンモニウム水溶液7.3gとを加え、ホモジナイザーにて3分間撹拌することにより調製した。次に、乳化液の入った上記セパラブルフラスコを、30℃に調整した恒温槽内に設置した後、乳化液を撹拌羽根により撹拌しながら、同乳化液に上記第1粒子分散液の全量を加えた。これにより、第1粒子にはメタクリル酸メチルが吸収されることで、第1粒子の膨潤とともに第2粒子の形成が開始される。そして恒温槽を30℃に保持した状態で1時間撹拌することにより、第2粒子分散液を得た。
【0072】
<重合工程>
第2粒子分散液の撹拌を継続した状態で、恒温槽を70℃に昇温することにより、第2粒子に含まれるメタクリル酸メチルのラジカル重合反応を開始した。恒温槽を70℃に保持するとともに5時間撹拌を継続することにより、重合体粒子分散液を得た。次に、撹拌を停止するとともに恒温槽による加温を停止することで、ラジカル重合反応を停止した。得られた重合体粒子の平均粒子径をベックマンコールター社製のコールターカウンター、商品名“マルチサイザーIII”にて測定したところ、1.09μmであった。また、得られた重合体粒子のCV値は、10.1%であった。
【0073】
<被覆工程(第1段階)>
2リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水800gを入れた後に、そのセパラブルフラスコを30℃に調整した恒温槽内に設置した。次に、イオン交換水を撹拌羽根により撹拌しながら、メチルトリメトキシシラン100gを加えて3時間撹拌した。続いて、上記重合体粒子分散液200gを加えた後、5分間撹拌して重合体粒子を系中に均一に分散させた。続いて、1規定のアンモニア水1.0mlを塩基性触媒として加えて90分間撹拌することで、重合体粒子の外面に、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を付着させた。
【0074】
<被覆工程(第2段階)>
次に、25質量%のアンモニア水100gとイオン交換水400gの混合溶液を加えて12時間撹拌することで、オルガノアルコキシシラン縮合物の縮合を進行させた。これにより、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を固化することで、被覆重合体粒子の分散液を得た。
【0075】
<洗浄工程>
洗浄工程においては、得られたポリオルガノシロキサン被覆重合体粒子と分散媒とを遠心分離機によって分離した後、上澄みを捨て、さらにメタノールを加えることにより被覆重合体粒子を再分散させた。この操作を3回繰り返すことにより、被覆重合体粒子の洗浄を行い、最後にメタノールを除去した。次に、被覆重合体粒子をオーブンで120℃にて1時間乾燥処理を行うことにより、被覆重合体粒子を粉体として得た。被覆重合体粒子の平均粒子径は1.92μmであり、CV値は6.9%であった。
【0076】
<焼成工程>
得られた被覆重合体粒子を箱形電気炉内に入れ、500℃に昇温した後、32時間保持した。この焼成工程により、被覆重合体粒子中の有機成分を除去した。その後、電気炉内の温度を室温まで降温して中空無機粒子を得た。中空無機粒子の平均粒子径は1.59μmであり、CV値は6.7%であった。
【0077】
<中空無機粒子の顕微鏡観察>
中空無機粒子を光学顕微鏡及び電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)で観察した。図1は、光学顕微鏡写真を示し、図2及び図3は、電子顕微鏡写真を示している。図1の光学顕微鏡写真により、中空無機粒子中に屈折率の異なる部位が存在することが確認された。また、図2(a)及び図2(b)の電子顕微鏡写真により、中空無機粒子の中空部は、外殻により完全に閉塞されていることが確認された。
【0078】
<中空無機粒子の断面観察>
中空無機粒子を未硬化のエポキシ樹脂に分散させた後、硬化剤を加えて硬化させた。これをミクロトームにて切り出し、電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)で中空無機粒子の断面を観察した。図3(a)、図3(b)、図4(a)及び図4(b)は、中空無機粒子の断面の電子顕微鏡写真を示している。図3(a)、図3(b)及び図4(a)から中空部に無機粒子が存在していることが確認された。また、図4(b)から中空部が偏倚して形成されている中空無機粒子の存在が確認された。
【0079】
(実施例2:平均粒子径の異なる中空無機粒子の製造)
実施例2では、実施例1として記載した第1粒子形成工程において、塩基性触媒として添加した1規定のアンモニア水を5.0mlから3.0mlに変更した以外は、実施例1と同様に中空無機粒子を得た。重合工程で得られた重合体粒子の平均粒子径は1.52μmであり、CV値は8.1%であった。また、被覆工程で得られた被覆重合体粒子の平均粒子径は2.67μmであり、CV値は3.9%であった。焼成工程で得られた中空無機粒子の平均粒子径は2.14μmであり、CV値は3.7%であった。
【0080】
(実施例3:開口を有する中空無機粒子の製造)
<第1粒子形成工程>
1リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水100gを入れた後に、そのセパラブルフラスコを30℃に調整した恒温槽内に設置した。次に、イオン交換水を撹拌羽根により撹拌しながら、オルガノアルコキシシラン(第1単量体)としてのビニルトリメトキシシラン20gを加えて1時間撹拌した。続いて、1規定のアンモニア水0.3mlを触媒として加えた後に、更に15分間撹拌することにより、第1粒子分散液を得た。なお、第1粒子分散液は、混合均一系反応によって調製されている。
【0081】
<第2粒子形成工程>
第2単量体を乳化状態とした乳化液(O/W型エマルション)を調製した。この乳化液は、2リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水600gを入れた後、アクリル系単量体(第2単量体)としてのメタクリル酸メチル180gに、ラジカル重合開始剤としての2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)2.0gを溶解させた溶液と、乳化剤としての20質量%ドデシル硫酸アンモニウム水溶液10.0gとを加え、ホモジナイザーにて3分間撹拌することにより調製した。次に、乳化液の入った上記セパラブルフラスコを、30℃に調整した恒温槽内に設置した後、乳化液を撹拌羽根により撹拌しながら、同乳化液に上記第1粒子分散液115gを加えた。これにより、第1粒子にはメタクリル酸メチルが吸収されることで、第1粒子の膨潤とともに第2粒子の形成が開始される。そして恒温槽を30℃に保持した状態で1時間撹拌することにより、第2粒子分散液を得た。
【0082】
<重合工程>
実施例1の重合工程と同様の操作により、重合体粒子分散液を得た。得られた重合体粒子の平均粒子径は4.59μmであり、CV値は3.3%であった。
【0083】
<被覆工程(第1段階)>
7リットル容量のガラス製セパラブルフラスコにイオン交換水4000gを入れた後に、そのセパラブルフラスコを30℃に調整した恒温槽内に設置した。次に、イオン交換水を撹拌羽根により撹拌しながら、メチルトリメトキシシラン500gを加えて3時間撹拌した。続いて、上記重合体粒子分散液1000gを加えた後、5分間撹拌して重合体粒子を系中に均一に分散させた。続いて、1規定のアンモニア水5.0mlを塩基性触媒として加えて120分間撹拌することで、重合体粒子の外面に、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を付着させた。
【0084】
<被覆工程(第2段階)>
次に、25質量%のアンモニア水200gとイオン交換水800gの混合溶液を加えて12時間撹拌することで、オルガノアルコキシシラン縮合物の縮合を進行させた。これにより、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を固化することで、被覆重合体粒子の分散液を得た。
【0085】
<洗浄工程>
実施例1の洗浄工程と同様の操作により、被覆重合体粒子を粉体として得た。被覆重合体粒子の平均粒子径は6.04μmであり、CV値は3.5%であった。
【0086】
<焼成工程>
実施例1の焼成工程と同様の操作により、中空無機粒子を得た。中空無機粒子の平均粒子径は4.82μmであり、CV値は2.6%であった。
【0087】
<中空無機粒子の顕微鏡観察>
中空無機粒子を電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)で観察した。図5(a)及び図5(b)は、中空無機粒子の電子顕微鏡写真を示している。図5(a)及び図5(b)の電子顕微鏡写真から、外殻に開口を有する中空無機粒子の存在が確認された。
【0088】
(実施例1a〜1d)
実施例1a〜1dでは、被覆工程(第1段階)において、塩基性触媒の添加量を表1に示すように変更した以外は、上記実施例1と同様に中空無機粒子を製造した。
【0089】
【表1】

実施例1a及び実施例1bとして製造した中空無機粒子群に含まれる固体微粒子を電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)で観察し、実施例1として製造した中空無機粒子群に含まれる固体微粒子の量と目視で対比した。この結果、実施例1a及び実施例1bについては、実施例1と同程度の量であることが確認された。ここで、図6(a)及び図6(b)は、実施例1cとして製造した中空無機粒子群の電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)写真を示している。これら電子顕微鏡写真から、実施例1cでは実施例1よりも固体微粒子の量が増加していることが確認された。実施例1dについても、中空無機粒子群に含まれる固体微粒子を電子顕微鏡(電解放出形走査電子顕微鏡)で観察した結果、実施例1cと同様に多量の固体微粒子が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノアルコキシシランを含む第1単量体を重合させることにより、液滴状態の第1重合体を含む第1粒子を形成する第1粒子形成工程と、
前記第1粒子に対して、ビニルアルコキシシラン以外のビニル系単量体を含む第2単量体を乳化状態で接触させることにより、前記第1粒子に前記第2単量体を吸収させた第2粒子を形成する第2粒子形成工程と、
前記第2粒子に吸収させた前記第2単量体を重合させることにより、重合体粒子を形成する重合工程と、
ポリオルガノシロキサン被膜を前記重合体粒子に形成することで、被覆重合体粒子を得る被覆工程と、
前記被覆重合体粒子を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする中空無機粒子の製造方法。
【請求項2】
前記被覆工程が、
前記重合体粒子の分散液と前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランとの混合液において前記オルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合させる工程であるとともに、
前記重合体粒子の分散液は、前記重合工程において重合反応を行うことで得られた分散液であることを特徴とする請求項1に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項3】
前記被覆工程が、
前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランを塩基性触媒の存在下で加水分解及び縮合させることで、オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を生成させるとともに前記重合体粒子の外面に前記オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を付着させる第1段階と、前記縮合を進行させることで前記オルガノアルコキシシラン縮合物の液滴を固化させる第2段階とを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項4】
前記被覆工程において、前記第1段階における前記塩基性触媒の添加量が、前記ポリオルガノシロキサン被膜の原料としてのオルガノアルコキシシランの1モルに対して0.015モル以下とされることを特徴とする請求項3に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた中空無機粒子であって、中空部に前記第1単量体に由来する無機粒子が存在してなることを特徴とする中空無機粒子。
【請求項6】
外殻により、前記中空部が閉塞されていることを特徴とする請求項5に記載の中空無機粒子。
【請求項7】
外殻の外面が、前記中空部に連通する開口を有していることを特徴とする請求項5に記載の中空無機粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132087(P2011−132087A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294646(P2009−294646)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】