説明

中空糸膜シートの製造方法、中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】中空糸膜の損傷を防止しつつ確実に中空糸膜同士を融着でき、中空糸膜の集積度が高い中空糸膜連続シートを容易に製造できる中空糸膜シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中空糸膜シートの製造方法は、多数本の中空糸膜11を平行になるように引き揃えて、中空糸膜11のシート状物とする引き揃え工程と、前記中空糸膜11のシート状物に、各中空糸膜11の長手方向に対して略垂直な1本以上の切り込みを所定の間隔で形成する切り込み工程と、各中空糸膜11の前記切り込みの周囲を押し潰しながら溶融して、隣接する中空糸膜同士を融着して融着部12を形成する融着工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに使用される中空糸膜シートを製造する方法に関する。また、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、逆浸透膜や限外濾過膜、精密ろ過膜を用いる膜分離技術は、海水またはかん水の脱塩、半導体洗浄用の超純水の製造、食品の分離または濃縮等のような高品位水の製造に適用されてきた。しかし、最近では環境保全の観点から、廃水処理に膜分離技術を適用する研究が進められている。
膜分離に使用する膜としては、中空糸膜を用いた中空糸膜モジュールが知られている。中空糸膜モジュールは、一般的には、中空糸膜を束状にし、これを所定の長さに裁断して容器内に収納し、中空糸膜束の端部をポッティング樹脂等で容器に固定することで製造されている。上記中空糸膜モジュールの製造では、中空糸膜内部へのポッティング樹脂の進入を防止するために、あらかじめ中空糸膜束端部を樹脂等で仮封止した状態で容器に固定し、固定後に固定部分を切断して中空糸膜束端部の中空糸膜を開口させる方法が採用されている。仮封止を行う方法としては、各中空糸膜の端部付近同士を加熱融着させる方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
ところで、中空糸膜モジュールにおいては、膜分離を行う槽内に浸漬する場合、槽内での容積率を高くするために矩形状にすることがある。矩形状の中空糸膜モジュールを製造するためには、中空糸膜をシート状に配列させた中空糸膜シートを作製する必要がある。
中空糸膜シートを製造する方法としては、特許文献2には、中空糸膜の少なくとも両端部を中空糸膜に直交するように鎖編みに織る方法が示されている。
特許文献3には、中空糸膜を平行に配列し、該中空糸膜の長手方向の一部分をこれらにほぼ直交するように粘着テープで固定してシート状物を構成し、芯管に巻き取り、固定部を圧着して固定部の中空糸膜の中空部を閉鎖した後、閉鎖部のほぼ中央部を切断する方法が開示されている。
特許文献4には、中空糸膜を枷枠に並列状態に巻き取り、中空糸膜の長手方向に対して垂直な方向に中空糸膜同士を熱融着させ、その熱融着部分で切断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−118035号公報
【特許文献2】特開昭60−28806号公報
【特許文献3】特開平6−31143号公報
【特許文献4】特開2004−216276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、連続した中空糸膜シートを製造することが困難であった。
特許文献2に記載の方法では、中空糸膜を織物状に加工するため、手間を要する上に、緯糸になる中空糸膜の折り返し箇所にて傷が付きやすいという問題を有していた。
特許文献3に記載の方法では、粘着テープを用いて中空糸膜を固定することで、固定部の体積が大きくなるため、中空糸膜の集積度が高い中空糸膜モジュールを得ることが困難であった。
特許文献4に記載の方法では、中空糸膜同士の融着が不完全になることがあった。
本発明は、中空糸膜の損傷を防止しつつ確実に中空糸膜同士を融着でき、しかも中空糸膜の集積度が高い中空糸膜シートの連続シートを容易に製造できる中空糸膜シートの製造方法を提供することを目的とする。また、中空糸膜の集積度が高い中空糸膜モジュールを容易に製造できる中空糸膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]多数本の中空糸膜を平行になるように引き揃えて、中空糸膜のシート状物とする引き揃え工程と、前記中空糸膜のシート状物に、各中空糸膜の長手方向に対して略垂直な1本以上の切り込みを所定の間隔で形成する切り込み工程と、各中空糸膜の前記切り込みの周囲を押し潰しながら溶融して、隣接する中空糸膜同士を融着する融着工程と、を有することを特徴とする中空糸膜シートの製造方法。
[2]切り込み工程では、前記中空糸膜のシート状物の一方の面と他方の面とに交互に切り込みを形成することを特徴とする[1]に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[3]切り込み工程では、中空糸膜への切り込みの深さを中空糸膜の外径の1/5以上4/5以下にすることを特徴とする[1]または[2]に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[4]融着工程では、各中空糸膜の切り込みの周囲を押し潰しながら溶融する際に、切り込みを開いた状態にすることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[5]融着工程では、切り込みを押し潰して融着した部分の厚みが最も薄く且つ中空糸膜の外径の1/50以上1/5以下になるように融着することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[6]融着工程後、切り込みを融着した部分に中空糸膜の長手方向に沿った貫通孔を1箇所以上形成する貫通孔形成工程を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[7]中空糸膜として、マルチフィラメントにより構成された1本の糸の丸編体または組紐体からなる中空状の支持体と、該支持体の外周面に設けられた多孔質膜とを有するものを用いることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法により製造した中空糸膜シートを、前記切り込みにて折り返すことで折り畳んで中空糸膜シート積層体を作製する積層体作製工程と、該中空糸膜シート積層体の少なくとも一方の中空糸膜の折り返し部分をハウジングに収納すると共にハウジングの内部にポッティング樹脂を充填する固定工程と、各中空糸膜が開口するようにハウジングごとポッティング樹脂を切断する切断工程と、中空糸膜内部を通過する水を集水する集水部を、切断したハウジングに取り付ける集水部取り付け工程とを有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の中空糸膜シートの製造方法によれば、中空糸膜の損傷を防止しつつ確実に中空糸膜同士を融着でき、しかも中空糸膜の集積度が高い中空糸膜シートの連続シートを容易に製造できる。
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法によれば、中空糸膜の集積度が高い中空糸膜モジュールを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の中空糸膜シートの製造方法により製造される中空糸膜シートの一実施形態であって、(a)は上面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の中空糸膜シートの製造方法の一実施形態における切り込み工程を説明する図であって、(a)は全体図、(b)は拡大図である。
【図3】本発明の中空糸膜シートの製造方法の一実施形態における切り込み工程後の中空糸膜シート状物を示す側面図である。
【図4】本発明の中空糸膜シートの製造方法の一実施形態における融着工程を説明する図である。
【図5】中空糸膜モジュールの一実施形態を示す断面図である。
【図6】折り返した中空糸膜シートの一実施形態を示す図である。
【図7】本発明の中空糸膜モジュールの製造方法の一実施形態を説明する図である。
【図8】本発明の中空糸膜シートの製造方法の一実施形態における切り込み工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(中空糸膜シート)
図1(a)(b)に、本発明の中空糸膜シートの製造方法により製造される中空糸膜シートの一実施形態を示す。この中空糸膜シート10は、長手方向が互いに平行になるように引き揃えられた多数本の中空糸膜11,11・・・を有し、隣接する中空糸膜11,11同士が、所定間隔で融着部12を有して融着されたものである。
中空糸膜シート10においては、融着部12以外の部分では中空糸膜11,11同士が拘束されていない。
【0010】
[中空糸膜]
中空糸膜シート10を構成する中空糸膜11としては、分画レベルが、精密ろ過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、及びナノろ過膜(NF)等のいずれのものであってもよい。また、濾過膜として使用可能のものであれば、孔径、空孔率、膜厚等には特に制限されず、濾過の対象物によって適宜選択される。有機物やウイルスの除去を目的とする場合には、分画分子量数万から数十万の限外濾過膜を用いる場合もある。
中空糸膜11に用いられる樹脂としては、例えば、フッ素系樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン等)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性に優れることから、フッ素系樹脂が好ましく、フッ素系樹脂の中でも、膜への賦形性と耐薬品性などからフッ化ビニリデリン樹脂がより好ましい。ここで、フッ化ビニリデリン樹脂としては、フッ化ビニリデリンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデリンと、フッ化ビニリデリンと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。上記共重合可能な単量体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどが挙げられる。
中空糸膜11の外径は、0.1〜10mmであることが好ましく、0.5〜5mmであることがより好ましい。
また、中空糸膜11としては、マルチフィラメントより構成された1本の糸の丸編体あるいは組紐体からなる中空状の支持体と、該支持体の外周面に設けられた多孔質膜とを有するものが好ましい。支持体を有すると、機械的強度を高めることができるため、長期使用時における膜破断を防止できる。
支持体の外周面に多孔質膜を形成する方法としては、環状ノズルの中心孔から支持体を送出させ、その支持体の外周面に、環状ノズルの外周から紡出させた製膜原液を塗布し、凝固させる方法が挙げられる。
【0011】
(中空糸膜シートの製造方法)
上記中空糸膜シート10は、引き揃え工程と切り込み工程と融着工程とを有する本発明の中空糸膜シートの製造方法によって製造される。
【0012】
[引き揃え工程]
引き揃え工程は、多数本の中空糸膜11をその長手方向が互いに平行になるように引き揃えて、中空糸膜のシート状物を得る工程である。
中空糸膜11,11同士の間隔は、中空糸膜11,11同士を充分に高い接着強度で接着できることから、中空糸膜11,11同士の間隔をa、中空糸膜11の直径をDとしたときに、0≦a≦(D・π−2D)/4の関係を満たすことが好ましい。前記範囲は、扁平化した中空糸膜の断面の最大長さ(D・π)/2の1/4が重なり合うことを示している。このような範囲では、扁平化した中空糸膜同士が充分に重なり合うから、接着強度が高くなる。
また、中空糸膜11,11同士の間隔aは、中空糸膜モジュール製造時のハンドリング性が良好になり、機械的強度の低下が防止されることから、中空糸膜11の外径の25%以下であることが好ましい。
【0013】
[切り込み工程]
切り込み工程は、中空糸膜のシート状物の各中空糸膜11に、各中空糸膜11の長手方向に対して略垂直な1本以上の切り込みを所定間隔で形成する工程である。ここで、「略垂直」とは、中空糸膜11の長手方向に対して90°±30°の範囲のことである。
本実施形態では、切り込みを形成する方法として、図2(a)(b)に示すように、中空糸膜が潰れない程度に張力を付与しつつローラー19に沿わせた中空糸膜シート状物15を、回転軸方向と平行に周面16aに切り刃16bが設けられた回転刃16を用いて所定深さに切り込む方法が挙げられる。回転刃16を用いる場合には、中空糸膜シート状物15の移送速度と回転刃16の回転速度を調整することにより、切り込みの間隔を調節することができる。
【0014】
切り込み工程では、図3に示すように、中空糸膜シート状物15の一方の面15aと他方の面15bとに交互に切り込み17を形成することが好ましい。中空糸膜シート状物15の一方の面15aと他方の面15bとに交互に切り込み17を形成すれば、後述するように中空糸膜シート積層体を得る際に、中空糸膜シート10を折り返しやすくなる。中空糸膜シート状物15の一方の面15aと他方の面15bとに交互に切り込み17を形成するためには、図2(a)に示すように、中空糸膜シート状物15の一方の面15aと他方の面15bとの各々に接するように回転刃16を配置すればよい。
【0015】
切り込み17の深さは、中空糸膜11の外径の1/5以上4/5以下であることが好ましい。切り込み17の深さが中空糸膜外径の1/5以上であれば、切り込み17の周囲の剛性を充分に低下させることができ、融着工程にて確実に融着させることができる。一方、切り込み17の深さが中空糸膜外径の4/5以下であれば、切り込み形成時の中空糸膜11の不用意な切断を防止すると共に中空糸膜11を折り返した際の破断を防止できる。
中空糸膜11の長手方向での切り込み17の間隔は、中空糸膜シート10を用いた中空糸膜モジュールの形状や大きさ等に応じて適宜選択されるが、0.1〜10mの範囲内であることが好ましく、0.5〜5mであることがより好ましく、1〜3mであることが特に好ましい。
【0016】
[融着工程]
融着工程は、中空糸膜11の切り込み17の周囲を押し潰しながら溶融して、隣接する中空糸膜11,11同士を融着する工程である。
中空糸膜11,11同士を融着する方法としては、図4に示すように、融着用器具18を用いた融着方法が適用される。融着には熱融着、超音波融着熱があり、熱融着用の器具としては、赤外線ヒータ、温風ヒータ、温度制御エア、あるいは熱媒などの公知の手段を使用することが可能であるが、加熱と同時に容易に押し潰すことができる点では、赤外線ヒータ、温風ヒータが好ましい。
【0017】
中空糸膜11,11同士を融着させた融着部12の、中空糸膜11の長手方向の長さは、1〜100mmにすることが好ましく、5〜50mmにすることがより好ましい。このような長さにすると、融着の際の中空糸膜11の不適切な変形や折損等が発生しにくくなり、中空糸膜11,11同士を充分に接着でき、シート形状を安定に保持できる。
【0018】
融着工程では、融着部12の厚みが最も薄くなり且つ中空糸膜11の外径の1/50以上1/5以下になるように融着することが好ましい。融着部12の厚みが最も薄くなり且つ中空糸膜11の外径の1/5以下であれば、中空糸膜シート10を容易に折り返すことができる。融着部12の厚みが中空糸膜11の外径の1/50以上であれば、中空糸膜シート10の破断を防止できる。
【0019】
融着工程では、融着を容易にするために、切り込み17を開いた状態にすることが好ましい。切り込み17を開いた状態にする方法としては、中空糸膜シート状物15の切り込み17の反対側の部分をローラー19の周面に接触させる方法(図4参照)、切り込み17の反対側の部分から、切り込み17に向かって中空糸膜シート状物を押し上げる方法が挙げられる。
【0020】
[その他の工程]
融着工程後には、融着部12に中空糸膜の長手方向に沿った貫通孔を1つ以上形成することが好ましい。融着部12に貫通孔を形成すると、後述する中空糸膜モジュールの製造において、ハウジング内にポッティング樹脂を充填する際に貫通孔にポッティング樹脂が通過するため、ポッティング樹脂の回り込み性が高くなり、ハウジング内の樹脂の充填性を高めることができる。
また、得られた中空糸膜シート10は、必要に応じて、リール等に巻き回して、巻取り体にしてもよい。
【0021】
[作用効果]
一般に、中空糸膜11は、濾過時の変形を防止するために、剛性が高くされているので、押し潰しに対して変形しにくいものである。しかし、上記中空糸膜シートの製造方法では、切り込み17を形成することで、切り込み17の周囲の中空糸膜11の剛性を低くしている。そのため、切り込み17の周囲を容易に押し潰すことができるので、隣接する中空糸膜11,11同士を容易に融着でき、中空糸膜11の内部を確実に仮封止することができる。
また、上記製造方法では、中空糸膜11を織ってシート化する必要がないから、損傷を防止できる。また、粘着テープ等を用いて中空糸膜11,11同士を接着しないため、折り返した際にその折り返し部分の体積が小さくなり、中空糸膜11の集積度が高い中空糸膜シート10を得ることができる。さらに、この製造方法では、連続シートに切り込み、融着できるため、中空糸膜連続シートを容易に製造できる。
【0022】
(中空糸膜モジュール)
本発明の中空糸膜シートが使用される中空糸膜モジュールの一実施形態例について説明する。
図5に、本実施形態例の中空糸膜モジュールを示す。本実施形態例の中空糸膜モジュール1は、中空糸膜シート10の各端部が、2つのハウジング50内に各々収納されるとともに、中空糸膜11の開口状態を保ったままポッティング樹脂60によってハウジング50に対して固定され、ハウジング50に集水部70が取り付けられたものである。
【0023】
ポッティング樹脂60としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン系充填材、各種ホットメルト樹脂等を用いることができる。
また、硬化前のポッティング樹脂60の粘度は特に限定されないが、23℃で100〜1000mPa・sが好ましく、200〜800mPa・sがより好ましい。ポッティング樹脂の粘度が100mPa・s以上であれば、ポッティング樹脂60が中空糸膜11の内部に進入しにくいため、閉塞を防止でき、1000mPa・s以下であれば、充分な流動性を有するため、容易に充填することができる。
ポッティング樹脂60には、粘度や発熱反応温度を調整するために無機微粒子を添加することができる。
【0024】
集水部70は、中空糸膜11の内側に吸引濾過され、中空糸膜内部を通過した水を集水する部材である。集水部70は、集めた水を導出するための導出管を有している。
集水部70としては、断面円形のものや、断面矩形状のものなどが挙げられ、中空糸膜11を洗浄するための散気を妨げないものが選択される。
集水部70の材質は、機械的強度及び耐久性を有するものであればよく、例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ABS樹脂、変性PPE樹脂、PPS樹脂、耐腐蝕性金属等が挙げられる。これらのうち、ポッティング樹脂60との接着性が高いものがより好ましい。
【0025】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
この中空糸膜モジュールは、以下のように製造される。
すなわち、中空糸膜モジュールの製造では、まず、上記中空糸膜シートをリール等から供給しながら、切り込みで折り返すことにより折り畳んで、図6に示すような中空糸膜シート積層体20を作製する。
次いで、図7に示すように、中空糸膜シート積層体20における一方の折り返し部21を、細長で略矩形状に開口した直方体状の収納部51が形成されたハウジング50の収納部51内に収納する。次いで、中空糸膜シート積層体20およびハウジング50を静止した状態で、収納部51に液状のポッティング樹脂60を充填し、これを硬化させて、中空糸膜シート積層体20の一方の折り返し部21を固定する。また、中空糸膜シート積層体20における他方の折り返し部22についても同様に固定する。次いで、各中空糸膜11が開口するようにハウジング50ごと硬化したポッティング樹脂60を切断する。その後、切断したハウジング50に集水部70を取り付けて、中空糸膜モジュール1を得る。
上記中空糸膜シート10を用いて得た中空糸膜モジュールは中空糸膜の集積度が高い。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、切り込みを形成する方法としては、中空糸膜11を切断することなく所定深さに切り込める方法であれば、回転刃16を用いなくてもよく、例えば、図8に示すように、中空糸膜シート状物15に対して垂直に移動する切り刃116を設けてもよい。切り刃116は、中空糸膜シート状物15の一方の面15aと他方の面15bとに交互に切り込み17を形成するように配置してもよい。
また、中空糸膜モジュールは、中空糸膜シート積層体の一方の折り返し部のみに集水部が取り付けられたものでもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維からなる編紐体の表面に、ポリフッ化ビニリデン製の多孔質中空糸膜(三菱レイヨン(株)製、内径1000μm、外径2800μm)20本を、互いに平行に且つ中空糸膜同士の間隔が中空糸膜外径の25%(700μm)となるように引き揃えて、中空糸膜シート状物を得た。
次いで、中空糸膜シート状物を第1ローラーおよび第2ローラーに供給し、一旦停止して、第1ローラーの最上部および第2ローラーの最下部にて回転丸刃方式のロータリーカッターを中空糸膜シート状物に押し当て、中空糸膜シート状物の一方の面と他方の面とに交互に切り込みを形成した。その際、切り込みの深さは、中空糸膜外径の2/3とした。また、第1ローラーで形成した切り込みと第2ローラーで形成した切り込みの間隔が2mになるようにした。
切り込み形成後、中空糸膜シート状物を移動させずに、ローラーの周面に中空糸膜を接触させることにより切り込みを開いた。次いで、切り込みの周囲を、マイクロヒーターを用いた加熱融着装置を用いて、押し潰しながら溶融し、溶融した樹脂を膨出させて、隣接する中空糸膜同士を融着させた。このとき、融着部が最も薄く且つその厚さが中空糸膜外径の1/20になるようにした。
上記の切り込みおよび融着を、各切り込みおよび融着部が2m間隔になるように行って、中空糸膜シートを得た。さらに、その中空糸膜シートをリールに巻き取って、中空糸膜シートの巻取り体を得た。
次いで、中空糸膜シートの巻取り体から中空糸膜シートを送出し、融着部で折り返して、2mの中空糸膜シートが10層折り重なった中空糸膜シート積層体を得た。
次いで、中空糸膜シート積層体における一方の折り返し部を、細長で略矩形状に開口した直方体状の収納部が形成されたハウジング内に、中空糸膜の集積度が65%になるように収納した。次いで、中空糸膜シート積層体およびハウジングを静止した状態で、収納部に2液硬化型エポキシ樹脂(混合初期粘度600mPa・s)を充填し、約6時間でこれを硬化させて、中空糸膜シートの一方の折り返し部を固定した。また、中空糸膜シート積層体における他方の折り返し部についても同様に固定した。
次いで、各中空糸膜が開口するようにハウジングごと硬化したエポキシ樹脂を切断し、切断したハウジングに集水部を取り付けて、中空糸膜モジュールを得た。
実施例1では、中空糸膜シートに切り込みを形成して剛性を弱めた後に融着したので、中空糸膜の封止性を向上させることができ、封止不良によるポッティング樹脂による閉塞を防止できた。また、中空糸膜シートを容易に折り返すことができ、中空糸膜シート積層体を作製する際に、折り返し部分での膨らみや割れは生じず、容易にハウジングに収容することができた。
【0028】
(比較例1)
中空糸膜に切り込みを形成しないことを除いて、実施例1と同様にして中空糸膜シートを融着により封止した。さらに、この中空糸膜シートの融着部の中央で1枚ずつのシートになるように切断し、中空糸膜シートを10層になるように積み重ることにより中空糸膜シート積層体を得た。この中空糸膜シート積層体を用いて、実施例1と同様にして中空糸膜モジュールを作製した。その際、封止不良によるポッティング樹脂による閉塞が7%ほど生じ、有効膜面積が減少した。また、この中空糸膜モジュールでは、中空糸膜の剛性が高すぎて、中空糸膜を加熱しながら押し潰し融着させても中空糸膜の封止性が不充分であった。
【符号の説明】
【0029】
1 中空糸膜モジュール
10 中空糸膜シート
11 中空糸膜
12 融着部
15 中空糸膜シート状物
16 回転刃
17 切り込み
18 融着用器具
19 ローラー
20 中空糸膜シート積層体
50 ハウジング
51 収納部
60 ポッティング樹脂
70 集水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の中空糸膜を平行になるように引き揃えて、中空糸膜のシート状物とする引き揃え工程と、
前記中空糸膜のシート状物に、各中空糸膜の長手方向に対して略垂直な1本以上の切り込みを所定の間隔で形成する切り込み工程と、
各中空糸膜の前記切り込みの周囲を押し潰しながら溶融して、隣接する中空糸膜同士を融着する融着工程と、
を有することを特徴とする中空糸膜シートの製造方法。
【請求項2】
切り込み工程では、前記中空糸膜のシート状物の一方の面と他方の面とに交互に切り込みを形成することを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項3】
切り込み工程では、中空糸膜への切り込みの深さを中空糸膜の外径の1/5以上4/5以下にすることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項4】
融着工程では、各中空糸膜の切り込みの周囲を押し潰しながら溶融する際に、切り込みを開いた状態にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項5】
融着工程では、切り込みを押し潰して融着した部分の厚みが最も薄く且つ中空糸膜の外径の1/50以上1/5以下になるように融着することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項6】
融着工程後、切り込みを融着した部分に貫通孔を1箇所以上形成する貫通孔形成工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項7】
中空糸膜として、マルチフィラメントにより構成された1本の糸の丸編体または組紐体からなる中空状の支持体と、該支持体の外周面に設けられた多孔質膜とを有するものを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空糸膜シートの製造方法により製造した中空糸膜シートを、前記切り込みにて折り返すことで折り畳んで中空糸膜シート積層体を作製する積層体作製工程と、
該中空糸膜シート積層体の少なくとも一方の中空糸膜の折り返し部分をハウジングに収納すると共にハウジングの内部にポッティング樹脂を充填する固定工程と、
各中空糸膜が開口するようにハウジングごとポッティング樹脂を切断する切断工程と、
中空糸膜内部を通過する水を集水する集水部を、切断したハウジングに取り付ける集水部取り付け工程とを有することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−101178(P2012−101178A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251947(P2010−251947)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】