説明

中空糸膜シート状物の製造方法及び製造装置

【課題】膜の損傷を起しにくく、かつ、容易なシート長の変更を可能にする、中空糸膜シート状物の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】一方の把持手段3Bを用いて中空糸膜列2aを連続的に引き出す引出工程と、固定手段5を中空糸膜列2aを引き出す速度と同じ速度で移動させながら、固定手段5を用いて中空糸膜列2aを一端側で固定する固定工程と、切断手段6を中空糸膜列2aを引き出す速度と同じ速度で移動させながら、切断手段6を用いて中空糸膜列2aの固定部分を切断する切断工程と、切断工程における切断に先立って、他方の把持手段3Aにより中空糸膜列2a同士を他端側で把持して連続的に引き出す引出工程とを有する製造方法で中空糸膜シート状物Sを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理等の固液分離操作に用いられる中空糸膜モジュールを構成する中空糸膜シート状物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、無菌水、飲料水、高度純水の製造、空気の浄化等の数多くの用途で使用されている。中空糸膜モジュールとしては、中空糸膜を束状にした形態、中空糸膜をシート状にしてこれを積層した形態等、各種の形態を有するものが製造されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
中空糸膜シート状物を積層した形態の中空糸膜モジュールは、積層された複数の中空糸膜シート状物をハウジングで固定したものである。ハウジングは、複数の中空糸膜の両端部がハウジングの内部に収容されるように配置されている。一般的に、積層された中空糸膜は、中空糸膜を所望のピッチで並べた状態で所定の長さに切り揃え、かつ、中空糸膜同士を融着や接着することでシート状とした、中空糸膜シート状物を積層することで製造される。
【0004】
中空糸膜シート状物の製造装置としては、ドラムや枷枠上に中空糸膜を隙間なく螺旋状に巻き付けた上で、その少なくとも一部を熱融着させ、この熱融着部分を切断することで、中空糸膜シート状物を製造するもの、ラッセル編機にて中空糸膜シート状物を製造するものが知られている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−310219号公報
【特許文献2】特開平2−160025号公報
【特許文献3】特開2004−216276号公報
【特許文献4】特開2008−196066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の中空糸膜シート状物の製造装置においては、例えば、特許文献3では、枷枠に巻き付けた後に中空糸膜を切断する工程では枷枠を停止させる必要があり、中空糸膜の供給速度を一定に保てないという問題がある。また、特許文献4では、編地端部付近でトラバースを停止し、反対方向へトラバースする為に再度加速する動作を繰り返す為、加速・減速する際に中空糸膜に負荷をかけてしまう問題がある。
【0007】
さらに、中空糸膜シート状物のシート長を変更する必要がある場合には、ドラムの径や枷枠の間隔を変更する必要があるため、変更が容易ではないという問題がある。
【0008】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、膜の損傷を起しにくく、かつ、連続的に製造でき、シート長の変更が容易に行える、中空糸膜シート状物の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決手段として、本発明の請求項1に係る中空糸膜シート状物の製造方法は、中空糸膜モジュールの構成要素として使用される中空糸膜シート状物の製造方法であって、一方の把持手段を用いて複数の中空糸膜を中空糸膜同士を所望のピッチで直線的に一列に並べた状態で把持して連続的に引き出す引出工程と、固定手段を前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動させながら、該固定手段を用いて前記中空糸膜同士を一端側で固定する固定工程と、切断手段を前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動させながら、該切断手段を用いて前記中空糸膜の固定部分を切断する切断工程と、前記切断工程における切断に先立って、他方の把持手段により中空糸膜同士を他端側で把持して連続的に引き出す引出工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係る中空糸膜シート状物の製造装置は、複数の中空糸膜を中空糸膜同士を所望のピッチで直線的に一列に並べた状態で把持して連続的に引き出す一方の把持手段と、前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記前記中空糸膜同士を固定する固定手段と、前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記中空糸膜の固定部分を切断する切断手段と、前記一方の把持手段とは別に、前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記中空糸膜を把持する他方の把持手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係る中空糸膜シート状物の製造装置は、前記固定手段及び前記切断手段をそれぞれ2つ備え、該固定手段及び前記切断手段が、前記一方及び他方の把持手段に搭載されていることを特徴とする。
本発明の請求項4に係る中空糸膜シート状物の製造装置は、前記固定手段及び前記切断手段が、前記一方の把持手段に搭載されていることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る中空糸膜シート状物の製造装置は、前記把持手段は一対の把持部を備えており、前記固定手段による固定及び前記切断手段による切断は、前記一対の把持部の間でなされることを特徴とする。
本発明の請求項6に係る中空糸膜シート状物の製造装置は、前記複数の中空糸膜同士の間隔は、所望の間隔に溝が形成された間隔調整手段によって揃えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の中空糸膜を連続的に引き出す一方の把持手段と、引き出す速度と同じ速度で移動可能にされた、他方の把持手段とを備える構成とし、連続的に中空糸膜を引き出すことを可能にしたため、中空糸膜シート状物の連続的な製造が可能となる。また、中空糸膜を直線的に並べ、かつ、中空糸膜の引き出す速度を一定に保つことができるため、中空糸膜の膜損傷を最小限に抑えることができる。
さらに、複数の中空糸膜を中空糸膜同士を所望のピッチで一列に並べた状態で把持し、任意の箇所を固定及び切断する構成としたため、中空糸膜シート状物のシート長の変更が容易となる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の中空糸膜シート状物の製造装置を備えた中空糸膜シート状物の製造設備の概略構成図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る中空糸膜シート状物の製造装置を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の中空糸膜シート状物の製造装置を構成する把持ユニットの概略構成を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図4】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の中空糸膜シート状物の製造装置1が適用された中空糸膜シート状物の製造設備100の概略構成図を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
中空糸膜シート状物の製造設備100は、中空糸膜供給部200と、中空糸膜シート状物の製造装置1を主な構成要素としている。この製造設備100は、中空糸膜供給部200から供給される多数本の中空糸膜2を、本発明に係る中空糸膜シート状物の製造装置1によって中空糸膜シート状物Sに加工する設備である。
【0015】
ここで、中空糸膜シート状物Sとは、多数本の中空糸膜2を所望のピッチで一列に並べた状態で中空糸膜2同士を接着し、かつ、所定の長さに切り揃えることでシート状としたものである。
以下、中空糸膜供給部200と、本発明の中空糸膜シート状物の製造装置1について順に説明する。なお、中空糸膜シート状物Sの長さ(シート長)とは、中空糸膜シート状物Sを構成する中空糸膜2の長手方向の長さであり、中空糸膜シート状物Sの幅とは、中空糸膜2の長手方向に直交する方向の幅を示すものである。
【0016】
中空糸膜供給部200は、クリールスタンド201と、ガイドローラー部211とから構成されており、多数本の中空糸膜2を一列に並べた状態で、中空糸膜シート状物の製造装置1に供給する部位である。
クリールスタンド201は複数のボビン202とクリール(図示せず)とから構成されている。ボビン202は、中空糸膜シート状物Sを構成する中空糸膜2の本数分用意される。中空糸膜2の本数は、中空糸膜モジュールの使用により決定される中空糸膜シート状物Sの幅に依存して決定される。本実施形態では、例えば、幅360mmのシート幅の中空糸膜シート状物Sを製造するため、直径3mmの中空糸膜2が120本使用される。
【0017】
ボビン202に巻かれた中空糸膜2は、クリール(図示せず)に通された後、ガイドローラー部211に導かれている。全ての中空糸膜2にはクリールによって張力がかけられており、中空糸膜2の他端部が後述する把持ユニット3(把持手段)によって把持されることによって、中空糸膜2には一定の張力が常に作用する。
ガイドローラー部211は、複数のローラー212から構成されており、クリールスタンド201から供給された多数本の中空糸膜2の間隔を徐々に狭めるように上下に間隔を隔てて配置されている。多数本の中空糸膜2は、複数のローラー212から構成されるガイドローラー部211を経ることによって、一列に並べられた状態となる。
【0018】
上述されたような構成の中空糸膜供給部200によって、一列に並べられた多数本の中空糸膜2(以下、中空糸膜列2aと称する)の連続的な供給が可能になる。供給された中空糸膜列2aは、連続的に供給された状態のまま中空糸膜シート状物の製造装置1が備える一方の把持ユニット3に把持される。
【0019】
また、搬送ラインの下方にはベルトコンベア301が設けられている。ベルトコンベア301搬送方向に沿って延在している。加工された中空糸膜シート状物Sは、ベルトコンベア301によって搬送され、箱302に収容される。
【0020】
次に、図2を参照して中空糸膜シート状物の製造装置1(以下、製造装置1と称する)について詳細に説明する。
図2に示すように、搬送ラインに沿ってベルトコンベア301が設けられている。ベルトコンベア301を挟んで両側には、一対の把持ユニット3(把持手段)が移動可能に配置されている。具体的には、ベルトコンベア301に沿って、各々一対のガイドレール22が設けられ、各ガイドレール22間に配置されたボールねじ23をモータ25によって駆動することで、把持ユニット3を移動するようになっている。
【0021】
ガイドレール22の長さ、厳密には把持ユニット3のストロークは、製造される中空糸膜シート状物Sの最大長さと対応している。したがって、製造可能な中空糸膜シート状物Sの長さは、最大長さ以下の範囲であれば、把持ユニット3の移動ストロークを変化させることで自由に設定可能である。
【0022】
図3に示すのは、把持ユニット3の正面図(a)と側面図(b)である。
図3(b)に示すように、把持ユニット3は、ガイドレール22に沿って移動するベース部24と、枠状のメインフレームFと、サブフレームfを備えている。ベース部24には、搬送ラインに直交する方向に一対のサブガイドレール31(図2参照)が設けられている。このサブガイドレール31に沿って、メインフレームFに対して、サブフレームfがベルトコンベア301上に位置する稼働位置と、ベルトコンベア301から待避する待避位置とに移動可能とされている。
【0023】
サブフレームfには、超音波溶着機5(固定手段)が設けられている。超音波溶着機5は、超音波溶着機本体51とホーン52とアンビル53とエアシリンダー54とブラケット55とエアシリンダー56とから構成されている。
エアシリンダー54は、サブフレームfの上部に設けられ、このエアシリンダー54に取り付けられたブラケット55に超音波溶着機本体51が設けられている。この超音波溶着機本体51の先端にはホーン52が設けられている。ホーン52は、中空糸膜シート状物Sの幅方向に延びる部材であり、エアシリンダー54を作動させることによって、ブラケット55を介して上下動可能とされている。隣接した中空糸膜同士の溶着(固定)は、ホーン52と、サブフレームfの下部にエアシリンダー56を介して上下動可能に支持されたアンビル53とで中空糸膜列2aを挟み込むことによってなされる。
【0024】
ホーン52とアンビル53との間には、サブフレームfに支持された超音波カッター6(切断手段)が設けられている。超音波カッター6は、ホーン52とアンビル53との間、すなわち、中空糸膜シート状物Sの幅方向に沿う位置に設けたスライドガイド62を備え、このスライドガイド62に対して、スライド自在に設けられた超音波カッター本体61をエアシリンダー63によって駆動するものである。
図3(a)に示すように、スライドガイド62は、ホーン52とアンビル53の稼働範囲から外れた位置に配置され、また、超音波カッター本体61は、ホーン52とアンビル53の幅方向で外れた位置に待避できるようになっている。
【0025】
サブフレームfには、超音波カッター6の配置位置を搬送方向上流側と下流側で挟むようにして、エアシリンダー43a,44aを介して上下方向に移動可能な上ハンド41a,42a(把持部)と、これに対応して下側に設けたエアシリンダー43b,44bを介して上下方向に移動可能な下ハンド41b,42b(把持部)が、中空糸膜列2aを挟むように設けられている。
【0026】
なお、下ハンド41b,42bには、中空糸膜シート状物Sを下側からガイドするピッチ制御用ロール7(間隔調整手段)が各々設けられている。
ピッチ制御用ロール7は円筒状に形成された部材であり、その周方向には、中空糸膜シート状物Sの中空糸膜同士の間隔と同じ間隔で溝が形成されている。本実施形態においては、中空糸膜の直径(2.8mm)及び中空糸膜配列ピッチ(3mm)に対応して、3mmピッチで溝が形成されている。
【0027】
以下、上流側の上ハンド41a、下ハンド41b、エアシリンダー43a、及びエアシリンダー43bで構成されるユニットを、ハンド4A(上流側のハンド4Aともいう)と称する。同様に、下流側の上ハンド42a、下ハンド42b、エアシリンダー44a、及びエアシリンダー44bで構成されるユニットをハンド4B(下流側のハンド4Bともいう)と称する。
【0028】
このようにして構成されたホーン52、アンビル53を備えた超音波溶着機5、及び超音波カッター6がサブフレームfに固定されており、メインフレームFに対してサブフレームfを後退させる待避位置と、メインフレームFに対してサブフレームfをベルトコンベア301側に移動させた稼働位置との間で移動可能となっている。
【0029】
また、図1、図2に示すように、前述したベルトコンベア301は、稼働位置の超音波カッター6や超音波溶着機5の下方に設置されている。ベルトコンベア301の終端部には、箱302が設置されており、ベルトコンベア301から落下した中空糸膜シート状物Sが格納される。
【0030】
次に、図4〜図11を参照して、本発明に係る製造装置1の作用について説明する。
図4〜図11は、製造装置1を図3に示すA方向から見た側面図であって、本発明の実施の形態の製造工程を示す図である。
本発明の製造方法の特徴は、中空糸膜列2aを直線的かつ連続的に引き出しながら加工を行うことである。ただし、製造開始段階においては、中空糸膜供給部200によって一列に並べられた中空糸膜列2aの端部を、人の手によって一方の把持ユニット3に把持させる工程が必要になる。一旦把持させれば、制御装置によって自動的な製造が可能である。
【0031】
また、2つの把持ユニット3は、搬送方向、及び搬送方向とは逆の方向(以下、逆方向と称すこともある)に往復移動を繰り返すが、搬送方向に移動する際は、把持ユニット3は、図2の符号3Aで示すような稼働位置に移動した状態とされる。一方、逆方向に移動する際は、把持ユニット3は、図2の符号3Bで示すような待避位置に移動した状態とされる。このように制御することによって、搬送ライン上で、2つの把持ユニット3のサブフレームfが干渉することを防いでいる。
【0032】
(1)加速工程
まず、中空糸膜列2aの端部を、図4に示す把持ユニット3Bの上流側のハンド4Aに把持させ、一定の引出速度で中空糸膜列2aを引き出させる。なお、中空糸膜列2aの端部は、前工程によって、溶着加工がなされているものとする。
次いで、原点Pより把持ユニット3Aの移動を開始し、前記引出速度まで加速させる。この時点で、把持ユニット3Aは中空糸膜列2aを把持していない。このとき、ベルトコンベア301は引出速度と同じ速度で動作している。
【0033】
(2)等ピッチ制御
把持ユニット3Aを、把持ユニット3Bと同じ速度、つまり引出速度まで加速させる間に、図5に示すように、ピッチ制御用ロール7を上昇させ、中空糸膜列2aの下部に当接させる。これにより、中空糸膜列2aの中空糸膜2同士が所望のピッチで並べられ、かつ、間隔が正確に揃う。
【0034】
(3)把持
図6に示すように、把持ユニット3Aが、引出速度と同じ速度となった時点で、上流側のハンド4A,及び下流側のハンド4Bで中空糸膜列2aを把持する。なお、把持ユニット3Aによって、把持される搬送方向の位置は、中空糸膜シート状物Sのシート長に応じて適宜制御される。つまり、製造すべきシート長が短い場合は、把持ユニット3Bによって把持されている、中空糸膜シート状物Sの一端により近い位置を把持するように制御される。シート長が長い場合は、中空糸膜シート状物Sの一端から遠い位置を把持するように制御される。
【0035】
把持ユニット3Aによる把持の完了後、把持ユニット3Bの把持を解除する(図6参照)。解除後、把持ユニット3Bを、待避位置(図2、把持ユニット3B参照)に移動させ、次いで、原点Pまで移動させ、把持ユニット3Bを原点復帰させる。
なお、原点復帰は、即時に完了させる必要はない。原点復帰は、後述する工程(6)において、把持ユニット3Aが中空糸膜シート状物Sを排出する時点で、把持ユニット3Bが把持ユニット3Aと所定の間隔(中空糸膜シート状物Sの長さに依存した間隔)で等しい速度で移動する状態になるのに間に合うように実施されればよい。
把持ユニット3Aは、把持ユニット3Bが中空糸膜列2aを把持、搬送する速度(引出速度)と同じ速度となってから中空糸膜列2aを把持するため、中空糸膜列2aが、搬送ラインを移動する速度(引出速度)は一定のままである。これにより、製造開始時の加速を除けば、中空糸膜列2aに加減速による応力がかかることはない。
また、このとき、中空糸膜シート状物Sの一端は、搬送ラインより下方に垂れ下がるが、ベルトコンベア301が引出速度と同じ速度で動作しているため、床に引きずられたりすることはない。
【0036】
(4)超音波溶着
次に、図7に示すように、超音波溶着機5を動作させる。つまり、ホーン52を下降させるとともに、アンビル53を上昇させて中空糸膜列2aを挟持した後、ホーン52に超音波振動を与えることによって、中空糸膜列2aを構成する中空糸膜2同士を溶着する。ホーン52及びアンビル53は、互いの当接部が中空糸膜シート状物Sの幅よりも十分な長い長尺状であり、かつ、搬送方向に所定の幅を有している。よって、中空糸膜列2aの溶着部は、中空糸膜列2aの全幅を溶着し、かつ、所定の幅を有している。
上述したように、超音波溶着機5を構成するホーン52及びアンビル53は、2つのハンド4の間に配置されていることにより、上流側と下流側のハンド4A,4Bに把持されている箇所の中間が溶着される。
溶着完了後、図8に示すように、超音波溶着機5のホーン52を上昇させ、かつ、アンビル53を下降させることで超音波カッター6の動作範囲から待避させる。
【0037】
(5)超音波切断
次に、図9に示すように、超音波カッター6によって溶着部を切断する。超音波カッター6は、超音波溶着によって溶着された範囲のうち、中空糸膜列2aの幅方向にそって、溶着された範囲の中央部を切断するように構成されている。
【0038】
(6)把持解除
切断後、図10に示すように、下流側のハンド4Bを開状態にし、ベルトコンベア301上に中空糸膜シート状物Sを排出する。その際にベルトコンベア301の速度を引出速度よりも大きくすることで、ベルトコンベア301上への排出がスムーズになる。一方、上流側のハンド4Aは中空糸膜列2aを把持した状態を保つ。
【0039】
(7)把持ユニットの加速・把持
把持ユニット3Aが超音波溶着や切断を行う一方で、工程(3)で原点復帰させた把持ユニット3Bを引き出し速度まで加速させる。そのタイミングは、把持ユニット3Bの加速が完了し、引き出し速度となった段階で、把持ユニット3Aと把持ユニット3Bとの間隔が、中空糸膜シート状物Sの所定の長さと等しくなるように設定される。
本例においては、図9の段階で移動を開始させ、図10の段階で引出速度に達している。図11に示すように、把持ユニット3Aによる把持が完了した段階で、把持ユニット3Bは、把持を解除する。以下、把持ユニット3Bは中空糸膜列2aの溶着、切断を行う。
【0040】
以上の、工程(1)〜(7)を繰り返すことによって、直線的かつ連続的に中空糸膜シート状物Sを製造することが可能となる。ここで連続的とは、中空糸膜列2aの供給を中断することなく、一定の速度で直線的に中空糸膜列2aを供給することを意味する。これにより、供給速度の変化によって、中空糸膜の膜が損傷する危険性が回避される。
また、中空糸膜列2aを湾曲させることなく直線的に搬送することで、中空糸膜列2aを変形させることもない。
また、原点Pからの加速開始タイミングや、加速度を制御することによって、所望のシート長の中空糸膜シート状物Sを製造可能である。
【0041】
なお、ピッチ制御用ロール7は、上流側のハンド4Aの前方、及び下流側のハンド4Bの後方に1つずつ設ける構成としたが、これに限ることはなく上流側のハンド4Aのみ設ける構成としてもよい。また、ハンド4A,4Bとピッチ制御用ロール7はそれぞれ別駆動としてもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、両方の把持ユニット3に溶着手段、切断手段を搭載する構成としたが、これに限ることはなく、片方の把持ユニット3のみに溶着手段、及び切断手段を設ける構成としてもよい。この場合、溶着及び切断は、片方の把持ユニット3のみによって行われるため、製造効率は落ちるものの、設備コストが低く抑えられる。
【0043】
さらに、ハンド4A,4Bによって把持された部位が損傷する恐れがある場合は、中空糸膜モジュールを製造する際にポッティング樹脂に埋没させる事で、中空糸膜モジュールの機能低下を回避できる。
【0044】
以上の製造方法で得られた中空糸膜シート状物Sを用いて、例えば、固液分離システムの濾過材として用いられる平型中空糸膜モジュールを製造することができる。平型中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜シート状物Sを積層させた上で、中空糸膜2の両端をポッティング樹脂により固定し、それぞれハウジングの内部に収容されるように配置し、ポッティングした中空糸膜端を開口させることにより、製作することができる。
【符号の説明】
【0045】
S 中空糸膜シート状物
1 中空糸膜シート状物の製造装置
2 中空糸膜
2a 中空糸膜列
3,3A,3B 把持ユニット(把持手段)
4,4A,4B ハンド(把持部)
5 超音波溶着機(固定手段)
6 超音波カッター(切断手段)
7 ピッチ制御用ロール(間隔調整手段)
100 中空糸膜シート状物の製造設備
200 中空糸膜供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜モジュールの構成要素として使用される中空糸膜シート状物の製造方法であって、
一方の把持手段を用いて複数の中空糸膜を中空糸膜同士を所望のピッチで直線的に一列に並べた状態で把持して連続的に引き出す引出工程と、
固定手段を前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動させながら、該固定手段を用いて前記中空糸膜同士を一端側で固定する固定工程と、
切断手段を前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動させながら、該切断手段を用いて前記中空糸膜の固定部分を切断する切断工程と、
前記切断工程における切断に先立って、他方の把持手段により中空糸膜同士を他端側で把持して連続的に引き出す引出工程とを有することを特徴とする中空糸膜シート状物の製造方法。
【請求項2】
中空糸膜モジュールの構成要素として使用される中空糸膜シート状物の製造装置であって、
複数の中空糸膜を中空糸膜同士を所望のピッチで直線的に一列に並べた状態で把持して連続的に引き出す一方の把持手段と、
前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記前記中空糸膜同士を固定する固定手段と、
前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記中空糸膜の固定部分を切断する切断手段と、
前記一方の把持手段とは別に、前記中空糸膜を引き出す速度と同じ速度で移動可能にされ、前記中空糸膜を把持する他方の把持手段とを備えることを特徴とする中空糸膜シート状物の製造装置。
【請求項3】
前記固定手段及び前記切断手段をそれぞれ2つ備え、該固定手段及び前記切断手段が、前記一方及び他方の把持手段に搭載されていることを特徴とする請求項2に記載の中空糸膜シート状物の製造装置。
【請求項4】
前記固定手段及び前記切断手段が、前記一方の把持手段に搭載されていることを特徴とする請求項2に記載の中空糸膜シート状物の製造装置。
【請求項5】
前記把持手段は一対の把持部を備えており、前記固定手段による固定及び前記切断手段による切断は、前記一対の把持部の間でなされることを特徴とする請求項3又は4に記載の中空糸膜シート状物の製造装置。
【請求項6】
前記複数の中空糸膜同士の間隔は、所望の間隔に溝が形成された間隔調整手段によって揃えられることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の中空糸膜シート状物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−120984(P2012−120984A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274070(P2010−274070)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】