説明

中空糸膜モジュールの製造方法。

【課題】
封止工程を省略し、さらには中空糸膜屑量を低減させることのできる中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】
中空糸膜束が湾曲して筒状ケースに収納され、前記筒状ケースの一方の開口部にポッティングされてなる中空糸膜モジュールの製造方法において、中空糸膜を巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束の一方の湾曲した端部を前記筒状ケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように前記中空糸膜束を前記筒状ケースに挿入して、前記突出した端部突出させた湾曲した端部を前記筒状ケースの開口部にポッティングし、次いで前記突出した端部突出させた湾曲した端部を切断除去することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から水道の蛇口等に取り付けられる浄水器では、図2に示すように多数本の中空糸膜1が、両端が開口した筒状ケース2に挿入されてなる中空糸膜モジュールが使用されている。このモジュールに含まれる中空糸膜1の糸束は、一方の端部がU字状に折り曲げられ、もう一方の端部の中空糸膜1は開口されてなる。筒状ケース2の一方の開口端部では、各中空糸膜1間の透き間および中空糸膜1の糸束と筒状ケース2間の透き間が、ポッティング材7にて封止固定されてなる。図示しない上流工程から中空糸膜モジュールに流れてくる流体L1は、筒状ケース2内に流入された後、微多孔をもつ中空糸膜1表面を通過し濾過されて、中空糸膜開口端面1aから濾過流体L2を流出させる。
【0003】
この中空糸膜モジュールにおいて、濾過流体L2を得るためには、中空糸膜開口端面1aにて各中空糸膜1が連通状態になっていることが必要である。しかし、中空糸膜1の中空部のいずれかにポッティング材7が浸入して不通状態であると、その封止された中空糸膜1は浄水作用に寄与しないため、中空糸膜モジュールとしての浄水機能が低下することになる。したがって、中空糸膜1糸束の筒状ケース2への固定時には、各中空糸膜1の中空部に、ポッティング材7を浸入させない技術が必要である。
【0004】
この中空糸膜モジュールの製造方法として、例えば、図3に示すような方法が特許文献1や特許文献2に開示されている。まず、特許文献1に記載の図4に示す巻取装置にて、図3(a)に示すように中空糸膜1を略楕円状の糸束に巻き取る。略楕円状に巻き取られた中空糸膜1の糸束は、図3(b)に示すように、糸束把持機構3により把持された状態で、その略中央がカッター刃4等にて切断されて、2つの略U字状の中空糸膜1の糸束となる。次に、この略U字状の中空糸膜1の糸束は、図3(c)に示すように、封止工程に必要な長さの中空糸膜1開口部が、筒状ケース2から筒状ケース2の長手方向外側に向けて突出されるように挿入される。そして、例えば、図3(d)に示すように、筒状ケース2から突出させた中空糸膜1の開口端部は、押圧板5等にて機械的手段により力を加えられ、圧潰されることで封止部6が形成される。その後、図3(e)に示すように、中空糸膜1の開口端部が目止された状態で、ポッティング材7が硬化され、中空糸膜1の糸束は筒状ケース2に封止固定される。最後に、図3(f)に示すように、目止めしたポッティング部の不要な部分が切断され、各中空糸膜1の端部、即ち中空糸膜開口端面1aが形成されるという方法が一般的である。
【0005】
この製造工程において、封止工程は必須の工程の1つでもあるにも関わらず、中空糸膜1の封止が不十分であると、ポッティング材7が注入された時に、毛細現象によりポッティング材7が中空糸膜1の中空部に浸入し、不通となってしまう場合がある。よって、この封止技術には、他にも中空糸膜1の糸束開口端部に対してレーザー光を照射して加熱させたり、熱風を当てすることで中空糸膜1を溶融させて開口部を封止させる方法が講じられてきた。(特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、いずれの場合においても封止が不十分な場合には、中空糸膜1中空部にポッティング材7が浸入してしまうポッティング不良の問題があり、その不通糸を検出するための検査技術をも必要とした。
【0007】
また、この製造工程においては、略楕円状の糸束を切断した際に切断面の中空糸膜1がばらばらにさばけてしまう部分Aや、圧潰或いは溶融により封止した部分B、封止に伴い、形状が変質してしまった部分Cといった中空糸膜1が屑処分となってしまうという問題があり、生産性を低下させてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3329620号公報
【特許文献2】特開2003−62433号公報
【特許文献3】特開2001−38160号公報
【特許文献4】特開2009−233512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、かかる封止工程を省略し、さらには中空糸膜屑量を低減させることのできる中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明によれば、中空糸膜束が湾曲して筒状ケースに収納され、前記筒状ケースの一方の開口部にポッティングされてなる中空糸膜モジュールの製造方法において、中空糸膜を巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束の一方の湾曲した端部を前記筒状ケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように前記中空糸膜束を前記筒状ケースに挿入して、前記突出させた湾曲した端部を前記筒状ケースの開口部にポッティングし、次いで前記ポッティングされた前記突出させた湾曲した端部を切断除去する中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記中空糸膜束を、前記筒状ケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入した後、ポッティングする前に、ポッティング処理を施す端部をさばき処理する中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記さばき処理を圧縮空気の噴射により行う中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記さばき処理を金網表面に摩擦接触させて行う中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の別の形態によれば、中空糸膜束がストレート状に筒状ケースに収納され、前記筒状ケースの両端の開口部にポッティングされてなる中空糸膜モジュールの製造方法において、中空糸膜を巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束の湾曲した両端部を前記筒状のケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入して、前記突出させた湾曲した両端部を前記筒状ケースの開口部にポッティングし、次いで前記ポッティングされた前記突出させた湾曲した両端部を切断除去する中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記中空糸膜束を、前記筒状のケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入した後、ポッティングする前に、ポッティング処理を施す両端部をさばき処理する中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記さばき処理を圧縮空気の噴射により行う中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記さばき処理を金網表面に摩擦接触させて行う中空糸膜モジュールの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による中空糸膜モジュールの製造方法によれば、中空糸膜を略楕円状に巻き取ったり、或いは中空糸膜を真円状に巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束を筒状のケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて少なくとも一方の端部が突出されるように挿入し、ポッティング材を注入する工程に進むことができる。その結果、封止工程を省略することができるだけでなく、従来の工程にて屑処分となっていた中空糸膜量を低減させることができるため、生産性および操業性の向上ができ可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一方の中空糸膜端部が開口されてなる中空糸膜モジュールの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、一方の中空糸膜端部が開口されてなる中空糸膜モジュールの概略図である。
【図3(a)】図3(a)は、従来の工程にて略楕円状に巻き取った中空糸膜糸束の概略図である。
【図3(b)】図3(b)は、従来の工程にて略楕円状に巻き取った中空糸膜糸束を略中央にて切断する工程の概略図である。
【図3(c)】図3(c)は、従来の工程にて略U字状の中空糸膜糸束を筒状ケースに挿入させる工程の概略図である。
【図3(d)】図3(d)は、従来の工程にて中空糸膜開口部を機械的な力で圧潰封止する工程の概略図である。
【図3(e)】図3(e)は、従来の工程にて中空糸膜が筒状ケースに挿入され、中空糸膜が封止されたものをポッティングする工程の概略図である。
【図3(f)】図3(f)は、ポッティングした不要な部分を切断し、中空糸膜モジュールを得る工程の概略図である。
【図4】図4は、特許文献1に記載の連続した中空糸膜の糸束を、カセ軸を回転させることにより略楕円状に巻き取る装置の一実施例の斜視図である。
【図5】図5は、連続した中空糸膜の糸束を、糸条案内ガイドを回動させることにより略楕円状に巻き取る装置の一実施例の斜視図である。
【図6】図6は、本発明に用いる略楕円状に巻き取った中空糸膜糸束の概略図である。
【図7】図7は、両方の中空糸膜端部が開口されてなる中空糸膜モジュールの概略図である。
【図8】図8は、本発明の両方の中空糸膜端部が開口されてなる中空糸膜モジュールの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図9】図9は、湾曲した端部に対して、圧縮空気を筒状ケースの長手方向に噴射させるさばき処理手法の概略図である。
【図10】図10は、湾曲した端部に対して、圧縮空気を湾曲した端部の外周からに中心に向かって噴射させるさばき処理手法の概略図である。
【図11】図11は、中空糸膜モジュールをポッティングする工程の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の望ましい形態について説明する。
【0021】
まず、本発明に用いる中空糸膜1の糸束は、図6に示すように略楕円形状の中空糸膜束として供給される必要がある。本発明では、略楕円状の中空糸膜束は略中央にて切断せず、そのままの形態で活用するため、その糸束の大きさ、即ちカセ軸間距離Yは従来の手法と比較し、例えば1/2以下程度と短くすることとなる。
【0022】
この中空糸膜1を略楕円状の中空糸膜束として形成させる手法としては、図4に示すように、カセ軸101が固定されたカセ長規制冶具102を、連続する中空糸膜がカセ軸101に掛かるように回転させて中空糸膜1を略楕円状に巻き取る方法や、図5に示すように、カセ長規制冶具102に固定されたカセ軸101に対して、糸条案内ガイド105がそのカセ軸101まわりを一定の速度で回動することにより、中空糸膜1を略楕円状に巻き取る方法など、限定されるものではない。
【0023】
ここで、略楕円状の中空糸膜1の巻取手法については、さらに詳細を説明する。
【0024】
図4に示す巻取手法おいては、カセ長規制冶具102に、少なくとも2個のカセ軸101がカセ長規制冶具102の長手方向に固定され備わっている。このカセ長規制冶具102にはスクロール溝103が備わっており、糸束形状に合わせて、カセ軸101間距離を変更できるものが一般的である。このカセ軸101は、巻き取る中空糸膜束に合わせて形状を変化させてもよく、図4に示す棒状のカセ軸101に限定されるものではない。上流工程より案内され、連続した中空糸膜1は、トラバースロール104を介してカセ軸101に案内され、カセ長規制冶具102が回転することにより、中空糸膜1を略楕円状に巻き取っていく。トラバースロール104は、カセ軸101の軸方向に所定の速度で往復運動し、糸束が凹凸なく均一に巻き取れるようにする。尚、図示しない上流工程から案内される中空糸膜1は、ダンサーロールなどの張力制御機構を介して案内されることで、一定の範囲の張力を保ちながら円滑に巻き取られることが好ましい。中空糸膜1が所定量に巻き取られた後は、異物の混入を防ぐためにも、端糸11が熱により溶融されたり、刃物などで圧潰されることで、中空部が不通状態に切断される。このとき、端糸11は同一側の湾曲部に位置することが好ましい。
【0025】
図5に示す巻取手法においては、上記構成と同様にカセ長規制冶具102に、少なくとも2個のカセ軸101が所定の距離をおいて備わっており、さらにカセ軸101に対応する略円形状のレール枠106がカセ軸101を覆うように構成されている。このレール枠106には、チェーンなどの駆動機構が備わっており、糸条案内ガイド105はレール枠106の全周を所定の速度で回動することが可能である。尚、図4同様にカセ軸101はカセ長規制冶具102にあるスクロール溝103に沿ってカセ軸101間距離を変更することができる。このカセ軸101は、巻き取る中空糸膜束に合わせて形状を変化させてもよく、図4に示す棒状のカセ軸101に限定されるものではない。この巻取手法では、カセ長規制冶具102が円周方向に回動可能となるため、自動的に中空糸膜1の糸束を取り出すことが可能である。上流工程より案内され連続した中空糸膜1は、糸条案内ガイド105を介してカセ軸101に案内され、糸条案内ガイド105がレール枠に沿って回動することにより、中空糸膜1を略楕円状に巻き取っていく。レール枠106は、カセ軸101方向に所定の速度で往復運動するため、中空糸膜1の糸束が凹凸なく均一に巻き取ることができる。この巻取手法においても、図示しない上流工程から案内される中空糸膜1は、ダンサーロールなどの張力制御機構を介して案内されることで、一定の範囲の張力を保ちながら円滑に巻き取られることが好ましい。中空糸膜1が所定量に巻き取られた後は、異物の混入を防ぐためにも、端糸11が熱により溶融されたり、刃物などで圧潰されることで、中空部が不通状態に切断される。このとき、端糸11は同一側の湾曲部に位置することが好ましい。
【0026】
このいずれかの巻取手法により、略楕円状に効果的に巻き取るには、中空糸膜1は乾湿式紡糸によるものであって、未乾燥状態のもの、更に好ましくは溶剤が残留していて凝固が完全に終了していないものが好ましい。乾湿式紡糸によって、例えば、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等からなる中空糸膜1が製造されているが、これらは何れも未乾燥状態では柔軟であるため、弛むことなく略楕円状に巻き取ることが可能である。従って、中空糸膜1の糸束が略楕円状に形成された状態で乾燥すると、略楕円状に巻き取ったままの形状が記憶されて固定される。即ち、溶剤が残留していて凝固が完了していない状態で中空糸膜1を巻き取り、乾燥させることで略楕円状の糸束形状を維持させ、筒状ケース2に挿入させやすくする。
【0027】
また、巻き取りによる略楕円状の中空糸膜束の形成方法だけでなく、例えば、中空糸膜1を真円状に巻き取り、中空糸膜束を外力により押し畳んで略楕円状の糸束に形成させたり、或いは両端を反対方向に引っ張ることで略楕円状の糸束を形成させたとしても機能を損なうものではなく、略楕円状の中空糸膜束の形成方法は記載した巻取による手法に限定されるものではない。但し、真円状に巻き取った中空糸膜束に外力を作用させ、略楕円状の糸束に形成させる場合には、糸束中に含まれる各糸条がバラバラに崩れやすい。そこで、略楕円状の中空糸膜束とした後には、不織布などで束ねるように包み込み、形状を安定化させる必要ある。
【0028】
次に、いずれかの手法により得られた略楕円状の中空糸膜の糸束は、図2に示すような中空糸膜モジュール、即ち一方の端部のみを開口する中空糸膜モジュールを製造する場合であれば、図1に示すように一方の湾曲部を筒状ケース2から突出させた構成にする。このとき、筒状ケース2から突出させてポッティングする湾曲部は限定される必要はないが、端糸11がはみ出している側の湾曲部をポッティングできるように、筒状ケース2から該湾曲部を突出させた構成にすることが好ましい。また、図7に示すような中空糸膜モジュール、即ち両端部を開口した中空糸膜モジュールを製造する場合には、図8に示すように筒状ケース2の双方の開口部から湾曲部が突出した構成にする。筒状ケース2の材料は限定されないが、樹脂又は金属から構成されているものが一般的である。このような中空糸膜1の糸束と筒状ケース2との組立体は、手作業により組み立てられてもよく、自動組立機械により組み立てられたものであっても本発明により得られる効果を損なうものではない。また、中空糸膜1表面が、筒状ケース2との摩擦により傷ついてしまい、濾過性能が低下する恐れがあるため、略楕円状に巻き取り形成された中空糸膜束についても、不織布などで包んだ状態で筒状ケース2に挿入されることがさらに好ましい。
【0029】
ここで、略楕円状に巻かれた中空糸膜1の湾曲部は、連続した中空糸膜で表面がすべて覆われているため、中空部が開口している中空糸膜1はない。端糸11についても、切断時にその中空部が不通状態となっているため、ポッティング材7が浸入することはない。つまり、図1および図8に示すように、中空糸膜1の端面を開口する必要がある部分に対し、中空糸膜1の糸束の湾曲部が、筒状ケース2から突出されるように挿入されていれば、封止作業を実施する必要がなくなる。その他にも、略楕円状の中空糸膜1の糸束を略中央部にて切断し、中空糸膜1を開口させる必要もないため、結果、従来の工程手法において、図3(b)と図3(d)の工程を省略することができる。
【0030】
また、従来の工程であれば、略楕円状の糸束を切断した際に切断面の中空糸膜1がバラバラにさばけてしまう部分A、圧潰或いは溶融により封止した部分B、封止に伴い、形状が変質してしまった部分Cの中空糸膜1が屑処分となっていた。しかし、本発明である中空糸膜モジュールの製造方法によれば、突出させた湾曲した端部Dの中空糸膜1のみが屑処分となる。従って、中空糸膜束の大きさにより効果の発現程度は異なるが、従来の手法において屑処分となっていた中空糸膜1のうち、35〜50%程度の屑量を低減させることができる。
【0031】
さらには、糸束の長手方向の屑処分となる中空糸膜1長さも短くなる。従って、図3(e)に示す従来のポッティング処理と図9に示す本発明のポッティング処理とで必要なポッティング材7の量を比較したとき、上述した中空糸膜1の屑削減量と同様に中空糸膜束の大きさにより効果の発現程度は異なるが、本発明の製造方法を用いれば、従来の65〜85%程度のポッティング材7の量でポッティング処理が済ませられる。即ち、中空糸膜1のみだけでなく、ポッティング材7の屑量も削減することが可能となるため、生産性の大幅な向上に繋がる。
【0032】
本発明においては、略楕円状に巻かれた中空糸膜1の糸束の湾曲部が、少なくとも一方が突出されているように挿入されていれば、そのままポッティング処理に供してもよい。しかしながら、中空糸膜1同士が局部的に相互接着していると、ポッティング処理時に、ポッティング材7が中空糸膜1間同士の透き間に侵入するのを阻害する。そのため、突出させた湾曲した端部を予めさばき処理を施して開繊させてやることが好ましい。このように予めさばき処理することにより、ポッティング材7が中空糸膜1間同士の透き間に侵入しやすくなり、リークの発生を防止することができる。
【0033】
このような中空糸膜1の湾曲部のさばき操作には、例えば、突出させた湾曲した端部に圧縮空気噴射ノズル13から圧縮空気14を吹き付けることで簡単に行うことができる。このとき、圧縮空気14は図9に示すように、湾曲した端部に対して、筒状ケース2の長手方向に吹き付ける手法であっても、或いは、図10に示すように、リング状の圧縮空気噴射ノズル13を用いて、湾曲した端部の外周から中心に向かって吹き付ける手法であってもよく、記載した処理方法に限定されるものではない。このとき、圧縮空気14の圧力は0.2MPa以上0.6MPa以下であることが好ましい。この圧力が0.2MPaより小さい場合には、湾曲した端部を十分に開繊させることができず、0.6MPaより大きい場合には、糸束がバラバラに崩れてしまう。
【0034】
他にも湾曲部をブラシによりブラッシングするとか、或いは湾曲部を金網の表面に擦り付けて摩擦接触させて、湾曲した端部に開繊処理を施してもよい。このとき、金網孔の形状や開口率、擦り付ける力など処理方法は限定されるものではなく、湾曲した端部の各糸条同士が接着しない程度に開繊されていればよい。
【0035】
そして、図1および図8に示すように中空糸膜1の糸束が筒状ケース2に挿入された組立体は、ついで図11に示すポッティング処理に供される。図11において、中空糸膜1の糸束が筒状ケース2に挿入された組立体は、図11に示すように突出した湾曲部を下側に向けて直立させ、注型キャップ8を取り付けられた後、ポッティング容器9に差し込まれる。ポッティング容器9は、内壁面が逆円錐台状に形成されており、ポッティング材供給ノズル10から滴下したポッティング材7は、注型キャップ8とポッティング容器9の透き間を通って流入され、次第に液面を上昇していく。この過程でポッティング材7は毛細現象により中空糸膜1の隙間に侵入すると共に上昇し、筒状ケース2の開口部に対してシール状態にポッティングする。このとき、中空糸膜1が筒状ケース2の長手方向に動かないように、位置決めプレート12で中空糸膜1を抑え、中空糸膜1と筒状ケース2上面の高低差を制御してもよい。ポッティング材7は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を主剤にし、これに硬化剤などを配合した組成物が好ましく使用される。ポッティング材7は、ポッティング処理時は液状で流動性を有するが、ポッティング処理後は硬化することにより、中空糸膜1の糸束端部を筒状ケース2の開口に固定してシールする。ポッティング材7が硬化した後は、ポッティング容器9から組立体を取り出し、注型キャップ8を取り外す。そして、組立体から突出している中空糸膜1の湾曲部をポッティング材7とともにカッター刃4などを用いて切断すると、中空糸膜モジュールを得ることができる。尚、図7に示すような中空糸膜モジュールを製造する場合には、もう一方の端部に対して同様のポッティング処理を施すことで、両端部の中空糸膜1が開口した中空糸膜モジュールを得ることができる。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
図5に示す装置を用いて、カセ軸101間の距離が80mm、張力100g、巻取回転速度75rpmの条件にて、外径が460μm、内径が300μmのポリスルホン製中空糸膜を略楕円状に巻き取った。巻き取った中空糸膜束は456本の中空糸膜1からなり、内径が20mmである筒状ケース2に、図1に示すように、端糸11がはみ出している側の湾曲部を筒状ケース2から突出させた形態に挿入した。中空糸膜1の糸束を筒状ケース2に挿入した組立体は、図9に示すように注型キャップ8、ポッティング容器9を取り付けた後、ポリウレタン樹脂を注入して硬化させ、突出している一方の中空糸膜1側を筒状ケース2に固定させた。その後、注型キャップ8、ポッティング容器9を取り外し、筒状ケース2から突出している部分を切断した。
【0037】
組立体のサンプルは50個用意し、同様に中空糸膜モジュールを製作したが、中空糸膜1の中空部が不通となったモジュールは1つもなかった。また、1つの糸束にて、筒状ケース2から突出させた湾曲部のケース方向の中空糸膜1長さは10mmで、屑処分となってしまった中空糸膜1の糸屑長は総計7m程度、ポッティング材7の屑量は9.2gであった。
[比較例1]
実施例1と同じ中空糸膜1および筒状ケース2を用いて、図3(a)〜(f)に示す従来の手法にて中空糸膜モジュールを製造した。尚、ポッティング材7には実施例1と同様にポリウレタン樹脂を用い、中空糸膜1を筒状ケース2に固定した。
実施例1同様、サンプルを50個用意したところ、中空糸膜1の中空部にポッティング材7が侵入し、不通となった中空糸膜1を1つでも含む中空糸膜モジュールは3つあった。また、1つの糸束にて、筒状ケース2から突出したケース方向の中空糸膜1長さは18mmで、屑処分となってしまった中空糸膜1の糸屑長は総計15m程度、ポッティング材7の屑量は13.3gであった。
【0038】
以上のように、本発明による製造方法では封止が不十分であることにより、中空糸膜1が不通となってしまう問題を解消でき、また中空糸膜1およびポッティング材7の屑量を低減させられる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明による製品は中空糸膜型浄水器に限らず、中空糸膜を使用したあらゆる濾過装置の製造に適用することができるが、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0040】
1:中空糸膜
1a:中空糸膜開口端面
2:筒状ケース
3:糸束把持機構
4:カッター刃
5:押圧板
6:封止部
7:ポッティング材
8:注型キャップ
9:ポッティング容器
10:供給ノズル
11:端糸
12:位置決めプレート
13:圧縮空気噴射ノズル
14:圧縮空気
101:カセ軸
102:カセ長規制冶具
103:スクロール溝
104:トラバースロール
105:糸条案内ガイド
106:レール枠
A:糸束を切断することで中空糸膜開口部がさばけてしまう部分
B:圧潰或いは溶融により封止した部分
C:封止に伴い形状が変質してしまった部分
D:本発明の製造方法により屑となる突出させた湾曲した端部
L1:中空糸膜モジュールに流入する流体
L2:濾過流体
X:従来の工程手法におけるカセ軸間距離
Y:本発明におけるカセ軸間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜束が湾曲して筒状ケースに収納され、前記筒状ケースの一方の開口部にポッティングされてなる中空糸膜モジュールの製造方法において、中空糸膜を巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束の一方の湾曲した端部を前記筒状ケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように前記中空糸膜束を前記筒状ケースに挿入して、前記突出させた湾曲した端部を前記筒状ケースの開口部にポッティングし、次いで前記ポッティングされた前記突出させた湾曲した端部を切断除去することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記中空糸膜束を、前記筒状ケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入した後、ポッティングする前に、ポッティング処理を施す端部をさばき処理する請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記さばき処理を圧縮空気の噴射により行う請求項2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記さばき処理を金網表面に摩擦接触させて行う請求項2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
中空糸膜束がストレート状に筒状ケースに収納され、前記筒状ケースの両端の開口部にポッティングされてなる中空糸膜モジュールの製造方法において、中空糸膜を巻き取り、両端部が湾曲している略楕円状の中空糸膜束とした後、該中空糸膜束の湾曲した両端部を前記筒状のケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入して、前記突出させた湾曲した両端部を前記筒状ケースの開口部にポッティングし、次いで前記ポッティングされた前記突出させた湾曲した両端部を切断除去することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記中空糸膜束を、前記筒状のケースから該筒状ケースの長手方向外側に向けて突出させるように挿入した後、ポッティングする前に、ポッティング処理を施す両端部をさばき処理する請求項5に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記さばき処理を圧縮空気の噴射により行う請求項6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記さばき処理を金網表面に摩擦接触させて行う請求項6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図3(e)】
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【図3(f)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−131146(P2011−131146A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292002(P2009−292002)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】