説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】中空糸膜間の樹脂不浸透、接着固定部のクラックあるいは固定部界面の不均一等を生じることなく、低コストでポッティング成型して製造することが可能な中空糸膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】ポッティング容器の内部に複数の注入孔を設けた分配板を配置し、該分配板と前記中空糸膜束の端面とを接した状態で前記ポッティング樹脂を前記中空糸膜束へ注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの製造方法に関し、ハウジングケース内に中空糸膜束を収納して、遠心ポッティング法により樹脂で接着固定する中空糸膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水等の処理に使用される中空糸膜モジュールは、数百〜数万本の中空糸膜の束を整束し、それを筒状のハウジングケース内に収納して端部を樹脂で接着固定した構成からなる。中空糸膜束とハウジングケースとの接着固定方法としては、遠心力を利用して液状の未硬化樹脂を中空糸膜間に浸透させる遠心ポッティング法と、液状の未硬化樹脂を定量ポンプやヘッドなどにより送液し自然に流動させることにより中空糸膜間に浸透させる静置ポッティング法とがある。
【0003】
後者の静置ポッティング法で中空糸膜モジュールを製造しようとすると、特殊で大型の装置を必要としないため、低コストで中空糸膜モジュールが製造することができるという利点がある。しかし、中空糸膜間へのポッティング樹脂の浸透が不均一となりやすく、中空糸膜の高充填率化が難しいことや、ポッティング樹脂の硬化に伴う発熱を十分に放熱できないことなどの問題点を有する。
【0004】
ポッティング樹脂の浸透の不均一への対策として、例えば特許文献1には、複数個からなる分岐配管を用いてポッティング樹脂の分散・浸透を改良する方法の開示がある。特許文献1に記載の方法では、ポッティング容器内に分岐配管を設け、複数の注入孔からポッティング樹脂を注入することにより、均一なポッティング樹脂の分散・浸透を行っている。
【0005】
これに対し、遠心ポッティング法は、高充填率への対応が比較的容易である点で好ましい。
【0006】
しかしながら、中空糸膜束へのポッティング樹脂の浸透速度に比べてポッティング樹脂の注入速度の方が高くなりやすく、これが顕著になると、ハウジングの端部には遠心されたポッティング樹脂のみが存在し、ポッティング樹脂よりも一般的に低比重である中空糸膜束は、ポッティング樹脂中に充分に浸漬されることなく、未硬化樹脂層上に浮き上がってしまう。この現象は、ポッティング樹脂の不均一な浸透を生じさせるだけでなく、リークの原因にもなる。
【特許文献1】特開2003−62436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1に記載の方法に遠心ポッティング法を適用することにより、ポッティング樹脂をより均一に高充填することが可能となると考えられる。しかし、単に複数箇所に注入孔を設けた分岐板を用いて遠心により樹脂を注入しただけでは、充分にポッティング樹脂の流入速度を減ずることができないため、注入した樹脂による中空糸膜の上述の浮き上がりが頻発し、それに伴い中空糸膜が屈曲するという問題点があった。
【0008】
本発明の課題は、上記問題点を解消せんとするものであり、中空糸膜モジュールにおける、中空糸膜間の樹脂不浸透、接着固定部のクラックあるいは固定部界面の不均一等を生じることなく、低コストでポッティング成型して製造することが可能な中空糸膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0010】
本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、
中空糸膜束をハウジングケース内に収納し、前記中空糸膜束の端部にポッティング容器を装着し、前記ハウジングケースの中心部から端部の方向に遠心加速度を生じさせながら、ポッティング樹脂を前記ポッティング容器に供給し、少なくとも前記ハウジングケースの片端において、前記中空糸膜と前記ハウジングケースとを前記ポッティング樹脂で接着固定する、中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記ポッティング容器の内部に複数の注入孔を設けた分配板を配置し、
該分配板と前記中空糸膜束の端面とを接した状態で前記ポッティング樹脂を前記中空糸膜束へ注入し、
前記注入孔の開孔径は0.5mm以上2mm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、前記分配板の開孔率は10%以上30%以下であるが好ましい。
【0012】
また、遠心加速度が、重力加速度の20倍以上であることが好ましい。
【0013】
前記ポッティング樹脂の初期粘度は100〜2,000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0014】
前記ポッティング樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中空糸膜モジュールにおいて中空糸膜間の樹脂不浸透、接着固定部のクラックあるいはポッティング部界面の不均一等を生じることなく、製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、
中空糸膜束をハウジングケース内に収納し、前記中空糸膜束の端部にポッティング容器を装着し、前記ハウジングケースの中心部から端部の方向に遠心加速度を生じさせながら、ポッティング樹脂を前記ポッティング容器に供給し、少なくとも前記ハウジングケースの片端において、前記中空糸膜と前記ハウジングケースとを前記ポッティング樹脂で接着固定する、中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記ポッティング容器の内部に複数の注入孔を設けた分配板を配置し、
該分配板と前記中空糸膜束の端面とを接した状態で前記ポッティング樹脂を前記中空糸膜束へ注入し、
前記注入孔の開孔径は0.5mm以上2mm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る中空糸膜モジュールの製造方法により、中空糸膜間への樹脂浸透に不均一を生じて不浸透を生じることによって、ポッティング完了後の接着固定界面に凹凸を生じる等の問題点がない中空糸膜モジュールの製造方法を提供することができる。
【0018】
(ポッティング樹脂)
ポッティング樹脂は、ハウジングケース内に収納された中空糸膜の片端あるいは両端をハウジングケースに接着固定するために用いられ、本発明では、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。主剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば如何なるものでも使用可能である。例えば、特に限定されるものではないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂などを挙げることができる。本発明は、特にビスフェノール型エポキシ樹脂をポッティング樹脂として使用する場合に有用である。硬化剤としては、例えば脂肪族アミン、芳香族アミン、有機酸無水物系又は変性アミン等を使用できるが、これらの中でも脂肪族ポリアミンが好ましく使用できる。また、反応の進行を抑えるために反応遅延剤を添加してもかまわない。
【0019】
本発明に使用できるエポキシ樹脂の一例を挙げると、例えばハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の「Araldite 2020」(商品名)が挙げられる。主剤(A剤)の粘度は約150mPa・s(23℃)、比重は約1.12である。硬化剤(B剤)の粘度は、約150mPa・s(23℃)、比重は約0.95である。混合物は粘度約150mPa・s(23℃)、比重約1.1である。ポッティング樹脂の硬化時間としては、常温で48時間以内に硬化できるものが好ましく、さらに24時間以内に硬化できるものが生産効率上より好ましい。
【0020】
一般に、エポキシ樹脂は硬化する際に収縮し、その硬化物には歪み(硬化内部歪み)が生じやすい。この硬化物の歪みは、クラッキング等の欠陥の原因となりやすい。
【0021】
ポッティング樹脂は、ハウジングケースの端部において、中空糸膜と中空糸膜との間、及び中空糸膜とハウジングケースとの間を気密にシールする。本発明におけるポッティング樹脂の注入方法は遠心ポッティング法による。
【0022】
遠心ポッティング法を用いて中空糸膜束をハウジングケースに良好にポッティング(接着固化)するには、中空糸膜間に均等にポッティング樹脂を注入し、ポッティング部においてポッティング樹脂が偏在しないようにすることが好ましい。ポッティング樹脂が不均一に注入され偏在すると、樹脂量の多い部分において硬化反応に伴う温度上昇が過剰に起こり、クラッキングが生ずる原因となる場合がある。
【0023】
ポッティング樹脂は、ポッティング樹脂の粘度が高いとポッティング樹脂が中空糸膜束内(中空糸膜と中空糸膜の間)に浸透しにくいので、低粘度であることが好ましい。具体的な粘度としては100〜2,000mPa・sが好ましい。また、ポッティング樹脂の粘度としては、ポッティング部への注入性を損なわない粘度であり、また、中空糸膜の空隙部に浸透できる粘度であることが好ましい。中空糸膜の空隙部とは、中空糸膜の表面と内面間の肉厚部において濾過機能を持たせるために形成された空洞部である。ポッティング樹脂が中空糸膜内の空隙部に浸透することによりアンカー効果が発現し、接着力が強化される。膜内空隙部に浸透する樹脂量が多すぎると、樹脂が中空糸膜を通過して中空部まで到達し、濾過水が流れなくなり、中空糸膜モジュールの透過性能が低下してしまう場合がある。また、浸透しない場合は膜との接着性が低下し、場合によっては膜と樹脂が剥離してしまう場合もある。なお、この空洞部の孔サイズ、孔形成分布によって、透過水量や分離性能が決まってくる。
【0024】
一般に、反応による発熱を抑えて収縮応力を小さくして、硬化後のポッティング樹脂の亀裂発生やケースからの剥離を発生しにくくする目的で、フィラーをポッティング樹脂に混ぜることがあるが、フィラーの脱落が問題となるので好ましくない。
【0025】
(中空糸膜)
中空糸膜としては、特に限定されるものではなく、様々な中空糸膜が使用でき、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン等、各種材料からなる中空糸膜が使用できる。また、中空糸膜表面の微細孔の径を1μm以下、特に0.005〜0.5μmにしたものが好ましい。微粒子や懸濁物質を効率よく除去するほか、細菌やウィルスに対しても高い阻止性能を発揮することができるからである。
【0026】
また、気体等の透過を目的とする場合には、その表面に1μm以下、特に0.005〜0.5μmの径の微細孔を有する中空糸膜が好ましい。例えば、気体透過性能を有する非多孔の均質層を含む2層あるいは3層からなるポリプロピレンやポリエチレン等の気体透過用ポリオレフィン系中空糸膜などが挙げられる。
【0027】
(ポッティング容器)
ポッティング容器は、その内部に分配板が設置されており、ハウジングケースに収納した中空糸膜束に装着可能に構成されている。ポッティング樹脂は、遠心力により樹脂ポットからポッティング容器に供給され、さらに分配板を通って中空糸膜束に注入される。
【0028】
(分配板)
分配板は、ポッティング樹脂を中空糸膜束に均等に注入するためにポッティング容器内に配置される。分配板には複数の注入孔が設けられており、ポッティング樹脂はその複数の注入孔を通って中空糸膜束に均等に注入される。本発明における分配板は、複数の注入孔を有し、所定の開孔径を有するモノであれば、材質は特に限定されるものではない。例えば、プラスチックや金属を用いることができるが、広く流通していることや熱による影響が少ないことからもアルミ合金あるいはステンレスなどの金属製のパンチング板が好ましい。
【0029】
分配板に設けたポッティング樹脂の注入孔は、その開孔径が0.1〜2mmである。また、開孔率としては10〜30%程度のものが好ましい。さらに、同一径の注入孔をほぼ等間隔に均等に分散して設けることが好ましい。なお、開孔率とは、孔を空ける前の分配板の面積(孔が開いていないとした場合の分配板の面積、例えば半径×半径×円周率)に対する開孔部分の面積の割合(%)のことである。
【0030】
開孔径が2mm以下であれば、中空糸膜束へのポッティング樹脂の浸透速度(Vm)よりもポッティング容器への注入速度(Vp)が小さくなり、比重の小さな中空糸膜束を押し上げることもなく、中空糸膜がハウジングケース内部で屈曲し、リークの原因となることがない。
【0031】
開孔径が0.1mm以上であると、VmよりもVpが著しく小さくなりすぎることが無く、樹脂を十分に注入するのに掛かる時間を抑えることができる。さらに分配板を作製する上でも問題なく製造できる範囲である。
【0032】
開孔率が30%以下であると、VmよりもVpを容易に小さくできる傾向にあり、比重の小さな中空糸膜束を押し上げることを抑制できる傾向にある。
【0033】
開孔率が10%以上であると、VmよりもVpが著しく小さくなりすぎることもなく、樹脂を十分に注入するのに掛かる時間を抑えることができる。
【0034】
分配板は、前記ポッティング容器内に設置され、ポッティング容器を中空糸膜束に装着したときに中空糸膜束の端面に接するように配置される。分配板と中空糸膜束との距離が開くと、たとえばポッティング容器への流入配管がポッティング部の中央部に配置された場合、そのモジュール長手方向の直面する箇所からの流入が多くなり、中央部付近で中空糸膜束が陥没するなどの現象が起こり好ましくない。また、中空糸膜束の端面に接する形で分配板を配置することは、樹脂注入する前における中空糸膜束の位置決めの点でも好ましい。
【0035】
また、本発明におけるポッティング容器内部には、特に分配板の注入孔に至る配管を設ける必要はない。ポッティング容器内に前記複数の注入孔を有する分配板を設け、遠心力を利用するだけ、ポッティング樹脂を均等に中空糸膜束に注入可能である。
【0036】
(遠心ポッティング法)
本発明は、遠心ポッティング法を採用するものであるため、ポッティング樹脂を遠心力を利用して樹脂ポットからポッティング容器に供給する構成とすると装置構成が単純化して好ましい。具体的には、例えば、まず、図1に示したような遠心ポッティング装置に中空糸膜束20を収納したハウジングケース30を装着し、中空糸膜束20の端面にポッティング容器32を装着する。
そして、装置を回転させると、樹脂ポット33からポッティング樹脂が送液チューブ34を通り、ポッティング容器32に供給される。ポッティング容器32には分配板35が設置されているため、ポッティング樹脂はその分配板35に設けられた複数の注入孔を通って中空糸膜束20に注入される。遠心ポッティング法を採用することにより、ポッティング樹脂を中空糸膜間に隙間(ポッティング樹脂の不浸透箇所)を生じることなく、高密度に充填することができる。
【0037】
送液チューブ34については、特に限定されないが内径2〜6mmのポリエチレンチューブを用いることが好ましい。このチューブが6mmよりも太すぎると遠心力により樹脂ポット33から送り出される樹脂量が増加するために、孔径で0.5mmよりも微細な分配板を必要とするが加工が難しいため好ましくない。また、内径2mmよりも小内径のチューブも加工が難しいのと強度が低下するために好ましくない。
【0038】
ポッティング樹脂量については、要求される耐圧性に応じて増加させればよいが、あまりにポッティング樹脂量を大きくしすぎると、送液チューブにかかる圧力が高くなり、膜を屈曲させやすい上に発熱量が増加することで硬化時間が短くなるために樹脂が十分に行き渡る前に硬化することがあり、各端面あたり200g以下に抑えることが好ましい。
【0039】
ポッティング時にかける遠心加速度は、重力加速度の20倍以上であることが好ましい。これ未満であると、単位時間あたりの注入されるポッティング樹脂の量が少なくなるため、反応発熱量が小さくなる。また、ポッティング樹脂そのものにかかる重力によりポッティング界面が中空糸膜束の端面に対して平行とならず、ポッティング部に樹脂層の薄い部分を生じ、耐圧的に弱い部分が形成してしまう場合がある。なお、ポッティング界面とは、硬化後のポッティング樹脂層におけるハウジングケースの中空域側の表面のことである。
【0040】
中空糸膜束側のポッティング界面の傾きθ(ポッティング端面に対する角度)は、小さいほど好ましく、10°以下とすることが特に好ましい。その範囲になるように中空糸膜モジュールを作製することで、ポッティング部の内径の20%以上以上のポッティング長差(ポッティング部における厚い部分と薄い部分の差)を生じないようにすることができる。
【0041】
また、遠心加速度G(重力加速度の倍数)の計算は、下記計算式(I)を用いて算出す
る。
【0042】
遠心加速度G=11.18×(N/1000)2×R 計算式(I)
(R:回転半径=回転軸からモジュール末端までの距離(cm)、N:回転数(rpm))
たとえば、全長24cmのハウジングケースの中心部を軸として回転すると、回転半径は12cmとなり、回転数を450rpmとすることにより、27.2Gの遠心加速度を得ることができる。
【0043】
(ハウジングケース)
ハウジングケースケースの材質としては、金属、プラスチック類などの適当な素材のものから適宜選定して使用することができる。例えば、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン(AAS)樹脂又はポリスルホン樹脂などを好ましく使用できる。
【0044】
本発明において、中空糸膜の充填率、すなわち中空糸膜横断面の外輪郭面積の合計が、ケース内壁の横断面積に占める割合として定義される中空糸膜の充填率は、好ましくは45〜65%の範囲にするのが良い。
【0045】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
次に、本発明の好ましい中空糸膜モジュールの製造方法について図1及び2を参照して説明する。
【0046】
まず、ハウジングケース30をトルエンで洗浄し、材質に応じて表面処理・プライマー塗布などを実施する。中空糸膜の準備としては、所定本数の中空糸膜21をそれぞれラッセル編みにより編み状物とし、中空糸膜束20とする。ハウジングケース30に滑らせるように中空糸膜束20をケース30内に挿入し収容する。このとき、各中空糸膜21は接着用固定部材50およびケースハウジング30により拘束された状態にあるので、広がって屈曲するなどのことが防止される。
【0047】
その後、所定長になるように熱処理を施す。これは定長にすることと熱処理により膜挿入時のダメージを軽減する目的がある。挿入時に誤ってつぶしたまま挿入した場合でも加熱することによりその癖を取ることを可能にすることに意味がある。
【0048】
そして、遠心型のポッティング樹脂注入装置(遠心ポッティング装置)に中空糸膜束20を収納したハウジングケース30を装着する。そして、ハウジングケース30内における中空糸膜束20の開口端部側となる端部(開口面)にポッティング容器32を取り付ける。その際、ポッティング容器の内径とほぼ等しい分配板(例えばアルミ製)を中空糸膜束20と接するようにポッティング容器内に配置する。そして、遠心ポッティング装置を稼動させ、遠心力によりポッティング樹脂を中空糸膜束20に注入し、遠心力をかけつつ固化させ、ポッティング部40を形成する。
【0049】
そして、ポッティング部40に最終物性を出すためのキュアリングを実施し固化した後、各中空糸膜21の開口端部側となるポッティング部40の端面を切削し、平坦面を形成し、各中空糸膜端部を開口する。これにより、ポッティング材に中空糸膜21の開口端部が塞がれた場合であっても、それが除去され、当該開口端部をケース30の外部に露出させることができる。その後、キャップ13等を取り付け、中空糸膜モジュール10を製造する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明する。本発明は、以下の実施例に特に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(中空糸膜)
中空糸膜の原料には高密度ポリエチレン 「サンテックHD B161」(商品名、旭化成ケミカルズ社製)を用いた。まず、中空糸膜用ノズルを用いて紡糸し、未延伸中空糸を得た。この未延伸中空糸を118℃でアニール処理をし、次いで、23±2℃下で1.25倍延伸し、引き続き100℃の加熱炉中で4.3倍の延伸を行った。さらに、100℃の加熱炉中で0.3倍の緩和工程を設け、最終的に総延伸倍率が4倍になるように成形して、孔径0.05μmの中空糸膜21を得た。
【0052】
(ハウジングケース)
全長215mm、内径74φからなるポリプロピレン(日本ポリプロ 「Wintec WMG03」 MFR30g/10min・210℃)製のハウジングケース30を使用した。ポッティング樹脂と同じ材料であるハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製のエポキシ樹脂「Araldite2020」(商品名)をねじ部31に塗布し、外径φ80―内径φ74からなるアルミ合金製の接着用固定部材50をハウジングケース30の末端から3mmほど離してねじ込み接着固定した。
【0053】
三層構造を有する中空糸膜をラッセル編みにし、中空糸膜束20を作製し、ハウジングケース30内に挿入した。さらに、乾式のインキュベーターで所定長になるように支持層の軟化点以下の100℃で処理を行い、ほぼ弛緩率が0.5%以下となるようにした。その際の中空糸膜の充填率は53%であった。
【0054】
(分配板)
分配板35は、開孔径(直径)1mm、孔中心間距離2mm、板厚1mm、開孔率23%、アルミ合金製のものを用いた。ハウジングケース30の中空糸膜束20に接するように分配板35をポッティング容器32に配置し、さらにそのポッティング容器をハウジングケース30にセットした。
【0055】
(ポッティング樹脂)
ポッティング樹脂にハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製のエポキシ樹脂「Araldite2020」(商品名)を用い、中空糸膜束を接着固化した。
【0056】
(中空糸膜モジュールの製造)
装置は遠心式の膜モジュール製造装置(図1)を用いた。そして、各端部に90gのポッティング樹脂が充填されるように、ハウジングケース30の中央部を中心に回転半径125mm(ポッティング容器20mmを含む)で450rpm(×28g)にて8hr回転させ、ポッティング部を形成した。
【0057】
ポッティング部の固化後、40℃で7hrキュアリングをおこなった。大型のカッターでハウジングケース30の端部を開き、キャップ13を取り付け、中空糸膜モジュールを製造した。
【0058】
(実施例2)
分配板の開孔径を0.5mmにしたこと以外は実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造した。
【0059】
(実施例3)
気体透過性を有する三層気体透過用中空糸膜を用いたこと以外は実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造した。三層気体透過用中空糸膜の製造法としては、支持層にポリプロピレン 「ノバテックPP FY6H」(商品名、日本ポリプロ社製)、気体透過能を有する軟質ポリプロピレン系樹脂「ゼラス7023」(商品名、三菱化学社製)を用い、3層構造用のノズルを用いて紡糸し、未延伸中空糸を得た。この未延伸中空糸を140℃でアニール処理し、次いで、23±2℃下で1.25倍延伸し、引き続き130℃の加熱炉中で3.3倍の延伸を行った。さらに、130℃の加熱炉中で0.3倍の緩和工程を設け、最終的に総延伸倍率が3倍になるように成形した気体透過用中空糸膜を作製した。
【0060】
(比較例1)
分配板を使用しないで製造したこと以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造した。
【0061】
(比較例2)
分配板を使用しないで、かつ、成型時の遠心力を17g(回転数350rpm)にしたこと以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造した。
【0062】
(比較例3)
分配板に開孔径10mm、開孔数12個、開孔率22%のものを使用したこと以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを製造した。
【0063】
(評価方法)
ポッティング部での中空糸膜の屈曲度合いを見るために、ポッティング樹脂層での分配板からの膜の浮き上がり量(mm)(以下、浮き上がり量と略す)を測定した。
【0064】
この評価に当たっては、ハウジングケースに中空糸膜束を入れる際に、ほぼ弛緩を取らない形で入れているために、ポッティング樹脂の特定箇所での流入速度の上昇(流入圧力の増加)は、膜の屈曲を引き起こす。その結果としてその屈曲分だけ膜束の末端をモジュールの長手方向に移動させる。中空糸膜束の屈曲量を簡易的に中空糸膜束の末端と分配番までの距離で表すことが出来る。
【0065】
浮き上がり量(mm)は、図3に示すように、ポッティング樹脂の注入、硬化後における分配板35と中空糸膜21との距離41とする。
【0066】
また、ポッティング界面がハウジングケースの開口面と平行な面に対して平行とならず、ポッティング樹脂の薄い部分を生じているか否かを見るために、ポッティング界面の角度(°)(以下ポッティング界面角度と略す)を測定した。ポッティング界面角度(°)は、図4に示すように、製造した中空糸膜モジュールを遠心軸方向に縦断面に割った際のモジュール内側でのポッティング樹脂が存在する境界線Y−Yとハウジングケースの開口面X−Xとのなす角度42をもってポッティング界面角度(°)とした。
【0067】
各実施例について、中空糸膜の浮き上がり量(mm)及びポッティング界面角度(°)を測定した結果を表1にまとめた。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】遠心ポッティング装置に中空糸膜束を収納したハウジングケースを装着し、中空糸膜束にポッティング容器を取り付けた状態を示す概略図である。
【図2】中空糸膜モジュールの断面図である。
【図3】浮き上がり量(mm)として測定する箇所を示す図である。
【図4】ポッティング界面角度(°)として測定する箇所を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 中空糸膜モジュール
11 処理対象液流入口
12 処理液(濾液)出口
13 キャップ
20 中空糸膜束
21 中空糸膜
22 ねじ加工時の逃げ部
23 開口端
30 ケースハウジング
31 ねじ部
32 ポッティング容器
33 樹脂ポット
34 送液チューブ
35 分配板
36 注入孔
37 ポッティング樹脂の注入方向
40 ポッティング部
41 浮き上がり量(mm)
42 ポッティング界面角度(°)
50 接着用固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜束をハウジングケース内に収納し、前記中空糸膜束の端部にポッティング容器を装着し、前記ハウジングケースの中心部から端部の方向に遠心加速度を生じさせながら、ポッティング樹脂を前記ポッティング容器に供給し、少なくとも前記ハウジングケースの片端において、前記中空糸膜と前記ハウジングケースとを前記ポッティング樹脂で接着固定する、中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記ポッティング容器の内部に複数の注入孔を設けた分配板を配置し、
該分配板と前記中空糸膜束の端面とを接した状態で前記ポッティング樹脂を前記中空糸膜束へ注入し、
前記注入孔の開孔径は0.5mm以上2mm以下であることを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記分配板の開孔率が10%以上30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記遠心加速度が、重力加速度の20倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記ポッティング樹脂の初期粘度が、100〜2,000mPa・sの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記ポッティング樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの請求項に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189903(P2009−189903A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30515(P2008−30515)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】