説明

中空糸膜モジュール

【課題】ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、固定用樹脂の剥離等を抑制することができる平型中空糸膜モジュールを提供すること。
【解決手段】本発明の平型中空糸膜モジュール1は、中空糸膜2が細長い矩形状の横断面を有するように束ねられ収束体2と、収束体の端部が挿入され固定保持される細長いハウジング4と、ハウジングの開口に挿入された収束体の各中空糸膜の端部を各中空糸膜の開口端がハウジング内の処理液の通過する内部空間5に向けて開口した状態で互いに且つハウジングの内壁に対して固定するとともに、各中空糸膜の端部相互間の空間および各中空糸膜の端部とハウジングの内壁との間の空間を封止する固定用樹脂部7と、固定用樹脂部の外周面にハウジングの長手方向に沿って延びるように配置された弾性体9とを備え弾性体がハウジングの内壁に接着用樹脂8で接着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関し、詳細には、液体の分離、精製、固液分離などの濾過処理に用いられる平型の中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、中空糸膜を多数本束ねた収束体の端部がハウジングに挿入され、中空糸膜の端部を開口させた状態で中空糸膜とハウジングとの間を樹脂で封止することにより、収束体をハウジング内で支持・固定した構造を有している。
【0003】
このような構造を有する中空糸膜モジュールは、無菌水、飲料水、高度純水の製造や、空気の浄化等の濾過処理用途で使用されている。さらに、中空糸膜モジュールは、近年では、下水処理場における2次処理、3次処理や、浄化槽における固液分離、産業廃水中のSS(懸濁物質)の固液分離などの高汚濁性水濾過にも用いられている。
【0004】
高汚濁性水濾過では、中空糸膜の端部開口に高圧の液体を注入したり、中空糸膜の端部開口から流体を吸引することにより所定の処理水を得たり、中空糸膜の表面を洗浄したりする作業が繰り返される。このため、高汚濁性水濾過に用いられる中空糸膜モジュールには、特に高い耐圧性が要求される。
【0005】
このような高い耐圧性を有する中空糸膜モジュールの一例が、特許文献1、2に開示されている。特許文献1の中空糸膜モジュールでは、中空糸膜の収束体の少なくとも一方の端部における中空糸膜相互間を封止する封止樹脂として、硬度測定における10秒後のショアD硬度が60以上であるポリウレタン系樹脂が使用され、封止樹脂の耐圧性能を向上させている。
【0006】
また、特許文献2には、固定用樹脂部とハウジングの内壁との接合面がハウジングの内部空間に露出した継ぎ目の上に、10秒後のショアA硬度で10〜60度の範囲の接着用樹脂を設けることにより、固定用樹脂とハウジングとの剥離の発生を抑制して耐圧性能を高めた中空糸膜モジュール及びその製造方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−103146号公報
【特許文献2】特開2006−61816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで中空糸膜モジュールは、多数の中空糸膜が横断面が円形となるように束ねられている収束体を使用する円筒型中空糸膜モジュールと、多数の中空糸膜が横断面が細長い矩形となるように束ねられている収束体を使用する平型中空糸膜モジュールとに大別される。
後者の平型中空糸膜モジュールでは、収束体の端部を保持するハウジングが、収束体の横断面形状に合わせられた細長い形状を有しており、この細長いハウジングの長手方向の両端を支持することによって、中空糸膜モジュール全体が支持される。
【0009】
ハウジングは、通常、安価な汎用プラスチック材料で形成されている。このため、長手方向両端で支持されているハウジングに中空糸膜モジュールの自重や外力が加わると、ハウジングが撓んでしまうことがある。具体的には、細長いハウジングの長手方向の中央付近が、支持された両端よりも下方へ変形する。
【0010】
この結果、特許文献1の中空糸膜モジュールのように封止樹脂の種類や量を適当に選択し封止樹脂自体の耐圧性を高めた場合であっても、ハウジングの撓みが大きくなると、収束体をハウジングに保持固定している封止樹脂が割れたり、封止樹脂とハウジングとの間に剥離が発生したりすることがあるという問題がある。
【0011】
同様に、特許文献2の中空糸膜モジュールのように10秒後のショアA硬度で10〜60度の範囲の接着用樹脂で固定用樹脂をハウジングへ接着することによって固定用樹脂とハウジングとの剥離を抑制した場合であっても、ハウジングの撓みが大きくなると、接着用樹脂が裂けたり、剥離したりすることがあるという問題がある。
【0012】
固定用樹脂部の剥離等を防止するために、硬度が高い固定用樹脂を使用することが考えられるが、硬度が高い固定用樹脂を使用すると、固定用樹脂部が割れやすくなり、また、固定用樹脂部とハウジング内壁の接着界面に作用する応力が大きくなるので固定用樹脂部の剥離を起こしやすい。このため、硬度が高い固定用樹脂を使用することは、固定用樹脂部の剥離等を防止する観点からは好ましくない。
【0013】
そこで、ハウジング自体の曲げ剛性を高めて撓みを抑制することによって封止樹脂あるいは接着樹脂の割れ、剥離を防止すべく、ハウジング自体を、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック、又は繊維強化プラスチックといった高強度材料で形成することが考えられる。しかし、これらの材料は汎用プラスチックに比べて高価であるため、ハウジングをこれらの材料で形成すると、中空糸膜モジュールのコストが上昇してしまうという問題がある。
【0014】
また、汎用プラスチック材料で形成したハウジングの曲げ剛性を高めるために、ハウジング自体の肉厚を厚くしたり、ハウジングにリブを設けたりすることが考えられる。
【0015】
しかし、ハウジングの肉厚を厚くすると、成形時に反りやヒケといった欠陥が発生しやすくなる。さらに、ハウジングにリブを設けると、リブの付け根に応力が集中し、荷重が繰り返しかかることにより亀裂が発生しやすくなる。さらに、リブの部分は肉厚が厚いため、ヒケが発生しやすく、ハウジングの外観が悪くなるおそれがあるといった問題がある。
【0016】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、固定用樹脂の剥離等を抑制することができる平型中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、
平型中空糸膜モジュールであって、
複数の中空糸膜が細長い矩形状の横断面を有するように束ねられ収束体と、
前記収束体の端部が挿入され固定保持される細長い開口を有する細長いハウジングと、
前記ハウジングの開口に挿入された前記収束体の各中空糸膜の端部を、各中空糸膜の開口端が前記ハウジング内の処理液の通過する内部空間に向けて開口した状態で互いに且つ前記ハウジングの内壁に対して固定するとともに、前記各中空糸膜の端部相互間の空間および前記各中空糸膜の端部と前記ハウジングの内壁との間の空間を封止する固定用樹脂部と、
前記固定用樹脂部の外周面に前記ハウジングの長手方向に沿って延びるように配置された弾性体と、を備え、
前記弾性体が前記ハウジングの内壁に接着用樹脂で接着されている、
ことを特徴とする中空糸膜モジュールが提供される。
【0018】
このように構成された本発明の中空糸膜モジュールによれば、固定用樹脂部とハウジングとの間に弾性体が設けられているので、ハウジングが撓んだときに弾性体が変形し、ハウジングの撓みの一部が吸収される。これにより、ハウジングの撓みによるハウジングと固定用樹脂部との剥離等の発生が抑制される。
【0019】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記弾性体は、前記固定用樹脂部を構成する材料より柔らかく、10秒後のショアA硬度が10から80度の範囲である材料から構成されている。
このように、固定用樹脂部よりも硬度の低い弾性体の使用により、固定用樹脂部の剥離等が効果的に抑制される。
【0020】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記弾性体は、前記収束体と前記ハウジングの長手方向の内壁との間で、該内壁に沿って帯状に配置されている。
このように、帯状の形状の弾性体がハウジングの長手方向に沿って配置されることにより、固定用樹脂部の剥離等が効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0021】
このような構成を有する本発明によれば、ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、固定用樹脂の剥離等を抑制することができる平型中空糸膜モジュールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の平型中空糸膜モジュール1の構成を説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態の平型中空糸膜モジュール1の構成を示す概略的な斜視図であり、図2は図1のII−II線に沿った部分断面図であり、図3は図1のIII−III線に沿った部分断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の中空糸膜モジュール1は、複数の中空糸膜2を細長い矩形状の横断面を有するように束ねた収束体3と、収束体3の端部が挿入されるための細長い開口を有する箱形のハウジング4とを上下に備えている。
【0024】
図2および図3から明らかなように、ハウジング4の内周には、階段状に寸法が減少する段差部4aが形成されている。図3に示されているように、収束体3の先端部は、収束体3を構成する各中空糸膜2の先端(開口端)が、段差部8aの高さ位置に達するようにハウジング4の開口からハウジング4内に差し込まれている。
尚、図2、図3は、中空糸膜モジュール1の下方側のハウジング4付近の構成を示すが、上方側のハウジング4付近も上下が異なる点を除き同様の構造を有する。
【0025】
中空糸膜2は、濾過膜として使用可能なものであれば、その孔径、空孔率、膜厚、外径等は、特に限定されない。好ましくは、中空糸膜の外径は20〜3000μm、孔径は0.001〜5μm、空孔率は20〜90%、膜厚は5〜300μmの範囲がよい。
【0026】
また、中空糸膜2の材質は、特に限定されるものではない。好ましくは、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。また、これらの樹脂の共重合体や一部に置換基を導入したものであってもよい。さらに、2種以上の樹脂を混合したものであってもよい。
【0027】
本実施形態の中空糸膜モジュールは、平型の中空糸膜モジュールであるので、収束体3の横断面は細長い輪郭形状を有する。また、収束体3における中空糸膜2の配列方向は、特に限定されない。好ましくは、中空糸膜2が、被処理液の流れ方向に対し、概ね平行に配列される。このように配列すれば、中空糸膜2が被処理液の流れの障害とならない。その結果、夾雑物を含む高汚濁液を処理する場合に、夾雑物の中空糸膜2への堆積や絞絡が軽減される。
【0028】
さらに、中空糸膜2の配列方向は、中空糸膜2の長さ方向が縦方向、即ち上下方向であることが好ましい。このように配列すれば、夾雑物を洗浄するエアバブリング洗浄時に発生する被処理液の上昇流方向と中空糸膜2の延在方向とが概ね平行となる。その結果、夾雑物の堆積が防止される。
【0029】
また、本実施形態におけるハウジング4の各部の寸法は、図2と同様の断面図である図4に示されているように、幅Aが30mm、高さBが75mm、段差部4aから上の高さCが45mm、段差部4aから下の高さDが30mm、段差部4aの幅Eが3mmである。また、図3と同様の断面図である図5に示されているように、ハウジング4の長手方向の長さFは1250mm、開口部の長手方向の長さGが1150mm、そして段差部4aの長手方向の幅Hが3mmである。
【0030】
また、ハウジング4の材質としては、中空糸膜モジュールの製造コスト低減の観点から汎用の安価なプラスチックが好ましい。例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリオレフィン、PVC(ポリ塩化ビニル)、アクリル樹脂、ABS樹脂、変成PPE(ポリフェニレンエーテル)が挙げられる。また、使用後に焼却処理が必要な場合には、燃焼により有毒ガスを出さずに、完全燃焼させることのできるポリオレフィン等の炭化水素系の樹脂が好ましい。また、機械的強度及び耐久性を有する材質であることが更に好ましい。
【0031】
先端が段差部4aに達するようにハウジング4内に差し込まれた収束体3の先端部は、段差部4aの高さ位置からハウジング4の開口端まで充填されている固定用樹脂部7によって互いに固定されると共に、ハウジング4の内壁部4bに対しても固定されている。固定用樹脂部7は、ハウジング4内で段差部4aより上方に充填されているので、段差部4aから下方は、固定用樹脂部7とハウジング4の内壁とによって囲まれハウジング4の長手方向に沿って延びる内部空間5とされている。この内部空間5は、ハウジング4の長手方向端部に形成された貫通路6により外部と連通している。
【0032】
収束体3を構成する各中空糸膜2の先端の開口端は、この内部空間5に向けて開口するように配置、固定用樹脂部7で互いに固定されている。このような構成により、処理液が、各中空糸膜2の外部から内部を通過し、内部空間5に導入され、さらに、貫通路6を通してモジュール外へ流れて濾過される。
【0033】
また、固定用樹脂部7を構成する樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン系充填材、各種ホットメルト樹脂等を用いることができる。
【0034】
また、固定用樹脂部7は、中空糸膜2の収束体3を担持し、かつ、固定用樹脂が嵌め込まれたハウジング4の剛性を確保して、使用時の耐圧性を発揮する機能を有する。このため、固定用樹脂部7は、所定の範囲の硬度を有することが好ましい。すなわち、固定用樹脂部7の硬度が、10秒後のショアA硬度で80度を下回ると、耐圧性を維持するために、多くの樹脂量が必要となり、中空糸膜モジュール1のコストを高騰させる要因となる。また、固定用樹脂部7の硬度が、10秒後のショアA硬度で99度を上回る場合は、固定用樹脂部7自体が割れ易くなる。したがって、固定用樹脂部7の硬度は、10秒後のショアA硬度で80〜99度であることは好ましい。
【0035】
本実施形態では、ハウジング4内の左右の両段差部4a上に、段差部4aの上方のハウジング内壁に当接してハウジング4の長手方向に延びる板(帯)状の弾性体9が、それぞれ、配置されている。弾性体9は、図3に示されているように、ハウジング4の開口の長手方向ほぼ全長に亘って連続して延び、ハウジング4の内壁部4bに固定用樹脂部7で接着されており、ハウジング4の段差部4aに接着用樹脂部8で接着されている。
【0036】
本実施形態では、この状態で、固定用樹脂が中空糸膜2の先端部相互間の空間ならびに、収束体3とハウジング4の内壁との間の空間内に充填され、これらの空間を封止している。
【0037】
接着用樹脂部8を構成する樹脂の材質は特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂、シリコン樹脂又はアクリル樹脂等の公知の樹脂を用いることができる。そして、接着用樹脂部8の材質は、中空糸膜モジュールの用いられる環境や、通液される液体の種類に応じて選定されることが好ましい。
【0038】
弾性体9の材質の硬度については、特に限定はされないが、中空糸膜モジュールに十分な耐圧性を与えるため、弾性体9の硬度は、10秒後のショアA硬度で10から80度の範囲が好ましい。
【0039】
また、弾性体9の材質は特に限定されものではなく、弾性体9の材質は、中空糸膜モジュールの用いられる環境や、通液される液体の種類に応じて選定され、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、二トリルゴム(NBR)、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム、ブチルゴム等のゴムを用いることができる。又、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、塩ビ系エラストマ、ウレタン系エラストマ、エステル系エラストマ、アミド系エラストマなどの熱可塑性エラストマも用いることができる。
【0040】
このように弾性体9を設けたことにより、固定用樹脂部7とハウジング4の内壁との接着界面に対する応力集中が、弾性体9にも分散される。その結果、接着界面に発生する最大応力を減らして固定用樹脂部7とハウジング4との間の剥離の発生が大幅に低減される。これにより、固定用樹脂部7とハウジング4との接着界面での剥離の進行、固定用樹脂部7の部分的な破壊、更にはこのような破壊に起因するリークの発生が抑制される。
【0041】
これにより、ハウジング4を厚肉化したり、補強リブを設けたりしなくとも、封止樹脂である固定用樹脂部7とハウジング4との間の剥離の発生が抑制されるので、中空糸膜モジュールのコストアップを抑制しつつ、ハウジングおよび中空糸膜モジュールの耐久性を高めることができる。
【0042】
このような構成を有する中空糸膜モジュールを製造する際には、まず、切り揃えた多数(例えば1500本程度)の中空糸膜(外径2800μm)を細長い横断面形状を有するように束ね収束体3を形成する。次いで、図6に示されているように、収束体3の両端部を、細長い矩形の開口を有し内部に弾性体9のシートが配置されたポッティング容器10内に差し込み、ポッティング容器10内に、固定用樹脂を注入する。樹脂を硬化させた後に、ポッティング容器10を取り外し、弾性体9のシートと一体となった固定用樹脂部7を形成した。次いで、固定用樹脂部ハウジング4を取り付け中空糸膜モジュールとする(図7)。
【0043】
次いで、ポッティングン容器10から取り外した中空糸膜2と一体となった固定用樹脂部7の端面をカットして中空糸膜の先端を開口させる。次に、中空糸膜2の先端が開口された固定用樹脂部7をハウジング4の段差部4aへ接着樹脂8で接着する(図2)。
【0044】
本発明の前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
上記実施形態では、固定用樹脂部を形成するために用いる容器の中に、弾性体を入れた状態で固定用樹脂を容器に注入される構成であったが、固定用樹脂部と弾性体を予め接着することなく、ハウジングへ固定用樹脂と弾性体を別々に入れてから封止用樹脂を流し込んで樹脂部とした中空糸膜モジュールにも適用される。
【0045】
また、図8に示すように、ポッティングン容器から取り外した中空糸膜2と一体となった固定用樹脂部7の端面を刃物Bでカットして中空糸膜の先端を開口させ、図2のように、固定用樹脂部7をハウジング4の段差部4aに接着樹脂で接着する。
【0046】
また、上述した実施形態では、中空糸膜の収束体の両端にそれぞれハウジングを設けた例について説明したが、収束体の一方の端部にのみハウジングを設けた中空糸膜モジュールにも適用される。
【0047】
また、上述した実施形態では、2枚の弾性体が収束体の両側に分かれて配置されているが、収束体の両側にそれぞれ設けた弾性体どうしをハウジングの端部付近で連結し、ハウジングの開口の全周に沿って収束体を囲む構成でもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例では、上記実施形態と同様の構造を有する中空糸膜モジュールを以下のようにして製造した。
【0049】
2000mmの長さに切り揃えたポリフッ化ビニリデン製中空糸膜(外径2800μm)を1500本用意した。次いで、長さ1154mm、幅26mm、深さ55mm、厚さ2mmのポリエチレン製の容器を用意し、容器内壁の下方の両側に、長さ1150mm、幅3mm、高さ30mmのエチレンプロピレン製の弾性体となるゴムシート(硬度:10秒後ショアA硬度70度)を配置した。
【0050】
次に、その容器内に、中空糸膜の収束体の先端部を入れて、更に、固定用樹脂としてのポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403、硬化時硬度:10秒後ショアA硬度97度)を注入し、樹脂を硬化させた。硬化後に容器を取り外し、ゴムシートと一体となった固定用樹脂部を形成した。
【0051】
また、中空糸膜の他端についても同様の作業を行い、ゴムシートと一体となった固定用樹脂部を有する中空糸膜の収束体を作成した。
【0052】
次に、両端の固定用樹脂部を、端部から25mmの長さで切断した。この際に、固定用樹脂部と一体となっていたゴムシート一緒に切断される。その結果、ゴムシートの残存部分が弾性体となる。これにより、弾性体が接着され、かつ、各中空糸膜の端面が開口された樹脂固定部を有する中空糸膜の収束体を得た。
【0053】
次に、この固定用樹脂部を、ダイヤラックEX18Z(UMG ABS(株)社製)のハウジングに配置するに先立ち、ハウジングの開口の段差部に接着用樹脂(ポリウレタン樹脂(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ(株)製、Araldaite 3018B/2023、硬化後硬度:10秒後ショアA硬度40度)を、シリンジを用いて垂れ下がらない程度に定量塗布し、約5分間増粘させた。そして、先の固定用樹脂部を段差部に配置し、約12時間放置した。その後、ウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403)を、ハウジング内、及び中空糸膜間を満たすように注入し、硬化させた。さらに、もう一方の端面についても、同様の作業を行い、固定用樹脂部及び接着樹脂から構成される固定用樹脂部内に弾性体を設けた中空糸膜モジュールを得た。
【0054】
このようにして製造した中空糸膜モジュールのハウジングの両端を支持して、両端を結ぶ線を基準として、ハウジング中央部の下方への撓み量を測定した。その結果、ハウジングの撓み量は、10mmであり、ハウジングと固定用樹脂部に割れや剥離は発生していなかった。
【0055】
次に、耐圧性の試験のために、製作した中空糸膜モジュールの中空糸膜を、長さ20mmを残して切断し、切断した中空糸膜の膜面、及び端面を、ウレタン樹脂(日本ポリウレタン製、ニッポラン4224/4403)で全て封止した中空糸膜モジュール試験体を作成した。この中空糸膜モジュール試験体では、ハウジングの内部空間が、通路を除いて密閉されている。
【0056】
耐圧性の試験を行うにあたり、ハウジングの内部空間にシリンジで水を充填し、テストポンプ((株)キョーワ製T−100)に接続されたホースを管通路に接続した。そして、テストポンプにより、ハウジングの内部空間に水圧をかけたところ、水圧が1.2MPaとなったときに、ハウジングと固定用樹脂部との間に剥離が生じ破壊した。
【0057】
(比較例)
比較例の中空糸膜モジュールは、ハウジングと収束体で挟まれた空間の固定用樹脂部内に弾性体を設けない点を除いて、実施例で製造した中空糸膜モジュールと同じ構造を有する。
上記実施例と同様にして、比較例の中空糸膜モジュールのハウジングの撓み量を測定したところ、撓み量は、10mmであり、ハウジングと固定用樹脂部との剥離がみられた。
そして、上記の実施例と同様にして、ハウジングの内部空間に水圧をかけたところ、水圧が0.9MPaとなったときに、ハウジングと固定用樹脂部との間に剥離が生じ破壊した。
【0058】
したがって、上記の実施例と比較例との比較から、ハウジング自体の曲げ剛性を高めなくとも、樹脂部に弾性体を設けたことにより、撓みによるハウジングと固定用樹脂の剥離を抑制ならびに封止樹脂自体の破損を防止して、中空糸膜モジュールの耐圧性能を大幅に向上させることができたことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の好ましい実施形態の平型中空糸膜モジュールの構成を示す概略的な斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った部分断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った部分断面図である。
【図4】図1のII−II線に沿ったハウジングの断面図である。
【図5】図1のIII−III線に沿ったハウジング断面図である。
【図6】本実施形態の中空糸膜モジュールの製造方法を説明する図面である。
【図7】本実施形態の中空糸膜モジュールの製造方法を説明する図面である。
【図8】本実施形態の中空糸膜モジュールの他の製造方法を説明する図面である。
【符号の説明】
【0060】
1:中空糸膜モジュール
2:中空糸膜
3:収束体
4:ハウジング
4a:段差部
4b:内壁部
5:内部空間
6:貫通路
7:固定用樹脂部
8:接着用樹脂部
9:弾性体
10:ポッティング容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平型中空糸膜モジュールであって、
複数の中空糸膜が細長い矩形状の横断面を有するように束ねられ収束体と、
前記収束体の端部が挿入され固定保持される細長い開口を有する細長いハウジングと、
前記ハウジングの開口に挿入された前記収束体の各中空糸膜の端部を、各中空糸膜の開口端が前記ハウジング内の処理液の通過する内部空間に向けて開口した状態で互いに且つ前記ハウジングの内壁に対して固定するとともに、前記各中空糸膜の端部相互間の空間および前記各中空糸膜の端部と前記ハウジングの内壁との間の空間を封止する固定用樹脂部と、
前記固定用樹脂部の外周面に前記ハウジングの長手方向に沿って延びるように配置された弾性体と、を備え、
前記弾性体が前記ハウジングの内壁に接着用樹脂で接着されている、
ことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記弾性体は、前記固定用樹脂部を構成する材料より柔らかく、10秒後のショアA硬度が10から80度の範囲である材料から構成されている、
請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記弾性体は、前記収束体と前記ハウジングの長手方向の内壁との間で、該内壁に沿って帯状に配置されている、
請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−195844(P2009−195844A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41561(P2008−41561)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】