説明

中空糸膜モジュール

【課題】中空糸膜モジュールにおいて、供給される液体の流れによる中空糸の損傷の発生を抑制する。
【解決手段】中空糸16を保持する流入口側保持部材20の、中空糸16が植設された面と反対側の面に対向するよう、液体の流入口30を配置する。流入口30から流入する液体の流れは、まず流入口側保持部材20にぶつかり、放射状に流れ、流入口側保持部材20の周面を回り込むようにして、筒体24内の空間に送られる。供給される液体の流れが中空糸に直接衝突することがなくなり、中空糸16の損傷の発生が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸の外部から内部へと液体を通し、中空糸を膜として利用して液体を濾過する中空糸膜モジュールに関し、特に複数の中空糸を束ねた中空糸束をケーシングに収めた中空糸膜モジュールの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸の外部から内部へと液体を通し、中空糸を膜として用いて液体を濾過する中空糸膜モジュールが知られている。下記特許文献1においては、束になった中空糸を有底円筒状のケース本体に収め、ケース本体の側面から液体がケース本体内に流入する中空糸膜モジュールが開示されている。
【0003】
下記特許文献2には、中空糸の外部の空間に導入される液体を、中空糸の端部を保持する部材(モールドコンパウンド)の円柱側面に向けて導入する、フィルタ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−2832号公報
【特許文献2】特許第4312277号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体がケース本体の側面から流入する場合、ケース本体内に収められる中空糸の側面に向かって流れる。この流れが中空糸に衝撃を与え、中空糸の寿命を短くすることがある。また、上記特許文献2の場合でも、中空糸への液体の流れが不均一となり、中空糸に与える衝撃が一部の中空糸に集中するので、中空糸の寿命が短くなるという同様の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の中空糸膜モジュールは、ケーシング内に、複数の中空糸からなる中空糸束を収容している。中空糸は、保持部材によって保持され、ケーシングの流入口から流出口に向かう液体の流れに沿うように配置される。保持部材は、流入口側に配置された流入口側保持部材を含む。流入口側保持部材には、その一つの面に中空糸が植え込まれるようにして設けられている。これにより、流入口側保持部材は中空糸を保持し、また中空糸の端を封止している。ケーシングの流入口は、流入口側保持部材の中空糸が植設された面の反対側の面に対向して配置される。流入口より流入する液体は、流入口側保持部材にぶつかり、その後、流入口側保持部材の側面の全周に配置された流路から中空糸の周囲の空間に送られる。
【0007】
また、ケーシングから中空糸と平行に延び、中空糸束を囲むように配列された棒状の複数の支持部材を配置し、この支持部材の先端において流入口側保持部材を支持するようにできる。液体は、流入口側の保持部材の側方から支持部材の間を通過して中空糸周囲の空間へと送られる。この液体の流れの一部を遮るように、前記支持部材の根元付近に板状の部材を設けるようにすることができる。
【発明の効果】
【0008】
流入口から流入する液体が、流入口側保持部材の中空糸が植設された面と反対側の面にぶつかり、その後中空糸の周囲の空間に送られるようにしたので、液体が中空糸に与える衝撃を低減し、また液体の供給の偏りを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の中空糸膜モジュールの断面図である。
【図2】流入口側保持部材の周囲の詳細を示す断面図である。
【図3】図2中のA−A線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の中空糸膜モジュール10の概略構成を示す断面図である。中空糸膜モジュール10は、中空糸をフィルタの膜として使用する膜エレメント12と、この膜エレメント12を収容するケーシング14を含む。膜エレメント12は、複数の中空糸16が束になった中空糸束18と、中空糸16をケーシング14内の所定位置に保持するための保持部材20,22を含む。ケーシング14は、略筒状、好ましくは略円筒状の筒体24と、筒体の両端の開口を覆うようにそれぞれ配置されるキャップ26,28を含む。筒体24の断面形状は、円以外に、楕円、多角形など適宜採用することができる。キャップ26には、流体が流入する流入口30を規定する流入管32が設けられ、キャップ28には、液体が流出する流出口34を規定する流出管36が設けられている。二つのキャップを区別するために、以降、キャップ26を流入側キャップ26、キャップ28を流出側キャップ28と記す。筒体24の側面には、筒体内部に溜まったエアを抜くためのエア抜きポート38が設けられている。エア抜きポート38は、通常、エア抜き栓40で塞がれ、必要に応じてエア抜き栓40を緩めることでエアを抜く。
【0011】
膜エレメント12は、中空糸束18と、これの両端に位置する保持部材20,22を含み、ケーシング14内に、その筒体24の軸線方向に沿うように中空糸16または中空糸束18が配置されている。これにより、筒体24の内側の空間は、中空糸16によって、中空糸の内側の空間と外側の空間に仕切られた状態となる。以降、筒体24の、中空糸の外側の空間を中空糸外側空間、内側の空間を中空糸内側空間と記す。中空糸束18は、筒体24の内側形状に対応した形状、この中空糸膜モジュール10においては円筒形の束となっている。そして、二つの保持部材20,22は、中空糸束18の端面の形状に対応した形状である円板形となっている。二つの保持部材20,22を区別するために、以降、流入口30側に位置する保持部材を流入口側保持部材20、流出口34側に位置する保持部材を流出口側保持部材22と記す。中空糸16は、流入口側保持部材20に植え込まれるようにして固定されており、また、中空糸16の端の開口は、流入口側保持部材20により塞がれている。一方、流出口側の端においては、中空糸16は、流出口側保持部材22に植え込まれるようにして固定されることは同じであるが、中空糸16の端の開口は、流出口側保持部材22を貫いて開放している。
【0012】
流入口側保持部材20は、その円板形の表裏の両側(図1中の左右の側)が連通するようにケーシング14に支持されている。一方、流出口側では、流出口側保持部材22の両側は封止された状態となっている。具体的には、流出口側保持部材22と流出側キャップ28の間に、Oリング等のシール部材42を挟むことにより封止を行っている。流入口からケーシング14内に流入した液体は、個々の中空糸の周囲の空間、つまり中空糸外側空間に入り、筒体24の軸線に沿って流れる。液体は、筒体24内の中空糸外側空間を流れつつ、中空糸16である膜を通過して中空糸内側空間に入り、中空糸16の流出口側の端に達し、更に流出口34へと流れる。液体が中空糸16を、その外側空間から内側空間に通過する際、濾過が行われる。つまり、中空糸がフィルタとして機能する。
【0013】
図2は、流入口側、特に流入口側保持部材20周囲の詳細な構造を示す部分拡大図である。図3は、図2中のA−A線による断面図である。筒体24の端部は、筒体24より径が大きく、内側の空間に流入口側保持部材20を収容する保持部材収容部44を有する。保持部材収容部44の外周側面には、ねじが形成されており、これが流入側キャップ26の円筒部46内周面に設けられたねじと螺合して、筒体24と流入側キャップ26が一体とされている。流入側キャップ26の保持部材収容部44の端に対応する部分には、溝が形成され、この溝内にOリング等のシール部材48が配置され、流入側キャップ26と筒体24の間の封止が達成されている。流出側キャップ28と筒体24の間にも同様の封止構造が設けられている。筒体24の端には、流入口側保持部材20を支持する支持部材50が設けられている。支持部材50は、筒体24の端部の、保持部材収容部44の内側の空間に、筒体の軸方向に沿って突出して設けられた棒状または針状の部材であり、周方向に複数が配列されている。支持部材50を多数配置すると、全体として櫛形状となり、このとき、一本一本の支持部材50が櫛の歯になっている。支持部材50の先端は、流入口側保持部材20の端面に当接して結合し、これを支持するようにしてよい。また、支持部材50の先端が、流入口側保持部材20に差し込まれて、これを支持するようにしてもよい。
【0014】
流入口側保持部材20は、概略円板形状を有しており、この円板の一方の面、図2において左側の面に、複数の中空糸16が植設さている。流入口側保持部材20の側方部分(または外周部分)の周囲には、保持部材収容部44との間に隙間が設けられている。この隙間が液体の流路となる。また、流入口側保持部材20の周面には、軸線に沿う方向に溝52が設けられている。図3に示すように、この中空糸膜モジュール10においては、8本の溝が、周方向に等間隔で配置されているが、溝の本数、配置される位置については、他の態様を採ることも可能である。この溝52も液体の流れる流路の一部となる。流入口側保持部材20の周面と保持部材収容部44の内周面を密着させ、溝52のみが流路となるようにしてもよい。この場合、流入口側保持部材の側方に、全周にわたって複数の流路が間隔をあけて配列される形態となる。
【0015】
流入口30は、流入口側保持部材20の、中空糸16が植設された面と反対側の面に対向して設けられている。特に、中空糸膜モジュール10において、流入口30は、筒体24と同軸に配置されている。しかし、流入口30は、中空糸膜モジュールの周囲の他機器の構成に合わせて、筒体24の軸線からオフセットした位置に配置されてもよい。櫛状部材を形成する支持部材50の根元に、流路の一部を遮るように板状部材54を設けることができる。板状部材54は、円環形状に配置されてもよい。
【0016】
筒体24の軸線方向に沿って、流入口30から流入した液体は、まず流入口側保持部材20にぶつかり、その後放射状に流れて、流入口側保持部材20の外周に向かう。そして、流入口側保持部材20の周面と保持部材収容部44の内周面との間の隙間を通過し、その後、半径方向内側に向きを変えて、支持部材50の間を通って、筒体24の中空糸外側空間に流れる。板状部材54は、流入口側保持部材20の周面に沿った流れから半径方向内側に向かう方向に向きを変える流れの外周側に位置する。つまり、板状部材54は、この流入口側保持部材20の周部分を回り込むように流れる曲がった流れの速度の速い領域に配置され、流れを邪魔して、筒体24内の空間に流れ込む液体の速度を低下させる。
【0017】
流入口から流れ込む液体が、一旦流入口側保持部材20にぶつかるので、その速度を減じることができ、中空糸に与える衝撃を緩和することができる。また、中空糸束の周囲から液体を中空糸外側空間に供給することにより、液体の流れが一箇所に集中しないようにすることができる。
【0018】
図2に示す流入口側保持部材20は、流入口30に対向する面が段付きの形状となっているが、円錐、または円錐台形状とすることもできる。また、流入口30に対向する面に、放射状に延びる突条を設け、液体が径方向外側に向けて流れやすくするようしてもよい。
【符号の説明】
【0019】
10 中空糸膜モジュール、14 ケーシング、16 中空糸、20 流入口側保持部材、24 筒体、26 流入側キャップ、30 流入口、44 保持部材収容部、46 円筒部、50 支持部材、54 板状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸の外部から内部へと液体を通し、濾過する中空糸膜モジュールであって、
液体が流入する流入口と、液体が流出する流出口とを有するケーシングと、
ケーシングに収めらた複数の中空糸からなる中空糸束と、
流入口から流出口に向かう液体の流れに沿って中空糸が配置されるよう、中空糸を保持する保持部材であって、ケーシング内の流入口側に配置され、中空糸が植設されて、中空糸の端を封止する流入口側保持部材を含む、保持部材と、
を有し、
流入口は、流入口側保持部材の中空糸が植設された面の反対側の面に対向し、流入口から流入した液体が、流入口が対向する前記の面にぶつかり、流入口保持部材の側方の全周に配置された流路から中空糸周囲の空間に送られる、
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の中空糸膜モジュールであって、
ケーシングから中空糸と平行に延び、中空糸束を囲むように配列されて、先端において流入口側保持部材を支持する棒状の複数の支持部材と、
前記支持部材の根元付近に配置された板状部材と、
を有し、
液体は、流入口側保持部材側面から支持部材の間を通過して中空糸周囲の空間に送られ、前記板状部材は、この液体の流れの一部を遮るように配置されている、
中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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