丸ブラシ素子の製造方法
【課題】 丸ブラシ素子における中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きし、かつボスの高さを大きくする。
【解決手段】 加工テーブル6の通し孔6aから糸束2を上に突出させる。突出部を周囲へ放射状に開く。その中心部分に溶着ホーン7の小径棒体7bを差し込んで、通し孔6a内で円筒状の溶着部を形成する。円筒状の溶着部の形成材料を通し孔6a内の糸材2により確保する。
【解決手段】 加工テーブル6の通し孔6aから糸束2を上に突出させる。突出部を周囲へ放射状に開く。その中心部分に溶着ホーン7の小径棒体7bを差し込んで、通し孔6a内で円筒状の溶着部を形成する。円筒状の溶着部の形成材料を通し孔6a内の糸材2により確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状ブラシに使用される丸ブラシ素子の製造方法、及びその方法により製造された丸ブラシ素子、並びにその丸ブラシ素子を用いた円筒型ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシの一種として円筒型歯ブラシがある。これは、特許文献1に示されるように、軸方向に操作される柄の先端部に円筒型のブラシヘッドを取付けたものであり、柄の中心線回りにおいて方向性がないため、従来の歯ブラシにはない数々の特徴を有し、歯科医師の間でも注目を集めている。この円筒型歯ブラシを図16及び図17に示し、これに使用される丸ブラシ素子を図18に示す。また、丸ブラシ素子の製造方法を図19に示す。
【0003】
円筒型歯ブラシは、図16及び図17に示すように、通常の歯ブラシと同様に軸方向に往復操作されるように形成された柄13と、柄13の先端部に形成された小径軸部に嵌め込まれた円筒状のブラシヘッド16とからなる。ブラシヘッド16は複数枚の丸ブラシ素子20を中心軸方向に積層して構成されている。個々の丸ブラシ素子20は、図18に示すように、中心部に貫通孔(中心孔)を有する薄い円板状の溶着部21と、溶着部21の周囲全周から放射状に延出した多数本の糸材からなる刷毛部22とから構成される。
【0004】
この丸ブラシ素子20は、図19に示すように、ナイロン樹脂からなる所定本数の糸材を束ねた糸束2から製造される。具体的には、加工テーブル6に設けた通し孔に下からガイドチューブ18を介して糸束2を通し、加工テーブル6上に所定長さ突出させる。糸束2の突出部の上から超音波方式の溶着ホーン7が下降する。溶着ホーン7は中心部に空気孔を有しており、ここから空気を下方へ吹き下ろすことにより、糸束2の突出部を周囲に広げる。そのまま溶着ホーン7が下降を続けることにより、糸束2の突出部を周囲へ直角に押し倒し、押し広げを完了する。この状態で、押し広げられた糸束2の中心部を溶着ホーン7の平坦な先端面により溶融接合し、薄い円板状の溶着部を形成する。
【0005】
溶着が終わると、溶着ホーン7が退避し、代わってカッター17が加工テーブル6の通し孔上に位置し、下降して、溶着部の中心を円形に切除することにより、中心孔を形成する。また溶着部から糸束2を切り離す。かくして、図18に示すような丸ブラシ素子20が製造される。丸ブラシ素子20を除去された糸束2の先端溶着部は、次の丸ブラシ素子20の製造に備えて切除される。
【0006】
ところで、円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用される丸ブラシ素子20の場合、丸ブラシ素子20の外径D1が15mm以下に制限される。これは、ブラシヘッドを口腔内に入れて操作する必要があるからである。また、放射状の刷毛部22における毛丈Hを確保するために、溶着部21の外径D2は7mm以下に制限される。更に、丸ブラシ素子20の強度を支配する溶着部21の強度確保のために、溶着部21の内径(中心孔径)D3は2.5mm前後より小さくする必要がある。その結果、ガイドチューブ18の内径は2.3mm程度に制限され、その結果として、糸束2を構成する糸材の本数が制限される。具体的には、ガイドチューブ18の内径が2.3mmの場合、糸材の直径が1.2mm(0.09mm)の場合で、その本数は400本(800本)程度に制限される。
【0007】
こうして製造される丸ブラシ素子20を用いて円筒型歯ブラシのブラシヘッドを構成する場合、丸ブラシ素子20を密着させて積層すると、糸材密度が過大になり、このため、図17に示すように、隣接する丸ブラシ素子20,20間にスペーサー19を介在させることが行われる。しかし、丸ブラシ素子20,20・・・の全ての間にスペーサー19を介在させると、丸ブラシ素子20の剛性が低く、使用性が低下する。なぜなら、個々の丸ブラシ素子20においては、糸材の本数が制限されているために、厚みが0.3〜0.5mmと薄く、剛性感に欠けるのである。
【0008】
このため、実際に市販されている歯ブラシでは、2〜3枚の丸ブラシ素子20を一組として、その一組ごとにスペーサー19を介在させている。こうすることにより、丸ブラシ素子20の実質的な剛性が向上すると共に、糸束密度が適正に維持され、使用性は良好となる。しかし、20〜30枚程度の丸ブラシ素子20と10個前後のスペーサー19を、柄13の小径軸部に嵌め込む必要があり、これに要する手間のために、その製品は相当に高価なものとなる。
【0009】
ブラシヘッドにおける糸束密度を減らすため、及び部品点数を減らすために、丸ブラシ素子20の溶着部21の両面又は片面に環状の突起(ボス)を形成することは考えられている。そうすると、スペーサーを使用せずとも、丸ブラシ素子20,20・・の配列ピッチを大きくすることができる。しかしながら、個々の丸ブラシ素子20においては、糸束の本数が制限され、溶着部21の厚みが薄く、溶着部21を構成する材料の量が元々少ないために、ボス高さは制限される。このため、30〜35枚の丸ブラシ素子20が必要であり、部品点数を減らす効果は小さい。また、丸ブラシ素子20の実質的な剛性感は向上しない。このため、使用性の改善効果も小さい。
【0010】
ちなみに、円筒型歯ブラシにおけるブラシヘッドの理想的な構造は、丸ブラシ素子20の外径は大人用で約15mm、小人用で14mm、幼児用で13mm、厚みは1〜1.5mm、隙間は1mm程度、ヘッド長は15mm前後とされている。
【0011】
丸ブラシ素子20における中心孔の直径を大きくすることができるならば、太い糸束2を使用できるが、中心孔を大きくすると、溶着部21の内外径差が小さくなり、溶着部21の強度低下が懸念される。また柄13の先端部に形成される小径軸部を必要以上に太くすることが必要になる。
【0012】
このように、丸ブラシ素子の製造においては、設計上の制約が多い。このため、設計の自由度の大きい製造方法の開発が待望されており、具体的には、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きくでき、かつボス高さを大きくできる技術の開発がまたれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、丸ブラシ素子の製造において設計の自由度を大きくすることにあり、丸ブラシ素子における中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きし、かつボスの高さを大きくするといったことを容易にできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
糸束から丸ブラシ素子を製造するためには、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部分を溶着する必要がある。従来はこれをテーブル上で溶着ホーンの先端面により行い、円板状の溶着部を形成し、その後で溶着部に中心孔を形成していた。本発明者は発想を転換して、テーブルの通し孔内の糸束の中心部に小径棒状の溶着ホーンを差し込み、周囲の糸材を棒体外周面で加熱溶融して、通し孔内の糸束材料にて円筒状の溶着部を形成することを企画した。その結果、太い糸束から、中心軸方向の厚みが大きくて中心孔内径が小さく、かつボス高さが大きい丸ブラシ素子を製造できることが分かった。
【0015】
本発明はこの考えに基づいてなされたものであり、その丸ブラシ素子の製造方法は、所定本数の糸材を束ねた糸束をガイド孔を通してテーブル上へ突出させる工程と、テーブル上へ突出した糸束を周囲へ放射状に開いてテーブル上で成形する工程と、ガイド孔の内径よりも小さい外径の小径棒体を有しその外周面が加熱面とされた超音波式の溶着ホーンを、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に挿入して、ガイド孔内の糸束を棒体外周面により中心側から円筒形状に溶着する工程と、円筒形状の溶着部をテーブル上へ押し出して糸束から切除する工程とを含んでいる。
【0016】
本発明の丸ブラシ素子の製造方法においては、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に小径棒状の溶着ホーンを差し込んで円筒状の溶着部を形成し、溶着部の内側に中心孔を同時形成する。円板状の溶着部の中心部分に中心孔を切開する工程が不要のため、テーブルの通し孔の内径に対する制約がなくなり、多くの本数の糸材からなる太い糸束を使用でき、しかも小さな中心孔を形成できる。多くの本数の糸材からなる太い糸束を使用することにより、丸ブラシ素子の厚みを大きくできる。円筒状の溶着部は、テーブルの通し孔内で糸束により形成され、円板状の溶着部における材料を利用しないので、いくらでも長くでき、短くすることもできる。このためボス高さを広範囲に調節でき、大きくすることも容易である。また円筒状の溶着部の肉厚を増減することも同様に容易である。この肉厚は糸束と挿入する小径棒部の直径差により自在に変更できるのである。
【0017】
通常は、周囲へ放射状に開いた糸束の内周部分を円板状に溶着して、円筒形状の溶着部に連続する円板状の溶着部を、前記内周部分に形成する。
【0018】
太い糸束から形成する円筒状の溶着部は高強度であるため、円筒型歯ブラシにおけるブラシヘッドのように、丸ブラシ素子の溶着部にそれほど大きな強度が要求されない場合は、円板状の溶着部を省略することもできる。円板状の溶着部を省略した丸ブラシ素子は、ブラシ外径を同じとした場合は放射状の刷毛部における毛丈を長くでき、放射状の刷毛部における毛丈を同じとした場合はブラシ外径を小さくできる。円板状の溶着部を形成しない場合でも、円筒状の溶着部を形成する際の熱により、糸束を周囲へ直角に開いた状態に成形固定できる。
【0019】
溶着ホーンは、先端面から突出する小径の棒体部分を有し、棒体部分の外周面により円筒形状の溶着部を形成し、前記先端面により、糸束の突出部を周囲へ放射状に押し開いてテーブルに押し付ける押圧兼用型の構成が好ましい。その場合、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部周囲を、前記先端面にて加熱することができる。これにより、円板状の溶着部を形成することができるし、円板状の溶着部を形成しないまでも、糸束を周囲へ直角に開いた状態に、より確実に成形固定できる。
【0020】
本発明の丸ブラシ素子は、本発明の方法により製造されたものであり、厚みを大きくすることにより剛性感を付与できる。また、中心軸方向に積層する場合の枚数を少なくすることができる。円筒状の溶着部の長さを大きくし、ボスの高さを大きくすることにより、中心軸方向に積層する場合の間隔を大きくでき、積層枚数を少なくすることもできる。
【0021】
本発明の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成される円筒型ブラシは、剛性感及び糸材密度を広範囲に調節でき、研磨用、洗浄用の工業用ブラシに使用して性能向上及び価格低減を図ることができる。円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用する場合は、丸ブラシ素子の枚数が少なく、剛性感があって使用性に優れ、しかも丸ブラシ素子間に充分な隙間を確保でき、使用感及び経済性に優れた理想的なブラシヘッドを構成できる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明の丸ブラシ素子の製造方法は、テーブルの通し孔内の糸束に小径棒状の溶着ホーンを差し込んで、丸ブラシ素子のコアたる溶着部を円筒状に形成することにより、溶着部を含めた丸ブラシ素子全体の設計の自由度を飛躍に向上させることができ、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みが大きく、かつボス高さが大きい丸ブラシ素子なども容易に製造できる。
【0023】
また、本発明の丸ブラシ素子は、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きくでき、かつボス高さを大きくできるために、中心軸方向に積層して円筒型ブラシを構成する場合に積層枚数を少なくでき、そのブラシ製造コストを低減できる。
【0024】
特に、円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用する場合には、ブラシ素子厚が1〜1.5mm、隙間が1mm程度、素子枚数が僅か数枚という、理想的なブラシ設計を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法を実施するための製造装置の全体構成図、図2は同製造装置におけるリールの構造図、図3は同製造装置における糸上げ装置の構造説明図、図4は同糸上げ装置内のチャックの構造説明図、図5は同製造装置におけるテーブルの構造説明図、図6は同製造装置における溶着ホーンの構造説明図、図7は糸材押さえの構造説明図、図8〜図10は同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図、図11は同製造装置により製造された丸ブラシ素子の構造説明図である。
【0026】
製造装置は、図1及び図8に示すように、ナイロン樹脂からなる所定本数の糸材を束ねて構成された糸束2から丸ブラシ素子を製造するものであり、その製造のために水平な加工テーブル6を備えている。加工テーブル6は、図5に示すように、糸束2が下から上へ通過する糸束2の通し孔6aを有している。糸束2は、ここでは例えば糸径1.2mmの場合に800〜1200本の糸材からなり、従来の2〜3倍の本数である。これに伴って、加工テーブル6の通し孔6aも大きくなっている。
【0027】
加工テーブル6の通し孔6aには、その下方に設置されたリール1からテンションバー3及びチャッキング装置5を介して糸束2が供給される。リール1は、図2に示すように、回転自在なドラムの外側に糸束2を巻き付けた構造である。テンションバー3は糸束2に張力を付加する。チャッキング装置5は、図3に示すように、上側の出口側に、糸束2が通過する円筒状のガイド管5aを有し、内部にゴムからなるチャック5bを有する。チャック5bは、円筒形状であって、内側を糸束2が通過し、空気を出し入れすることにより径方向で収縮、回復を繰り返し、収縮により糸束2を拘束する。このチャッキング5は、上下ロボット4により昇降し、チャック5bで糸束2を掴んだ状態で上昇し、糸束2を離した状態で下降することにより、糸束2を上方のテーブル側へ所定長ずつ供給する。
【0028】
加工テーブル6の上には、超音波式の溶着ホーン7が通し孔6aに対して同心状に設けられている。溶着ホーン7は、図6及び図8に示すように、垂直な円柱形状の本体の中心部に空気孔7cを有し、下向きの先端面7bの中央部に下方へ突出した小径棒体7aを有している。溶着ホーン7の主な溶着面は、本体の先端面7bと小径棒体7aの外周面である。先端面7bの外径は例えば5〜7mm、小径棒体7aの直径は例えば2.3mmである。
【0029】
加工テーブル6の上には、溶着ホーン7と同心円状に糸材押さえ8が設けられると共に、加工テーブル6の表面に沿って糸束2を直角に切断するカッター9が設けられている。糸材押さえ8は、図7に示すように、溶着ホーン7との干渉を回避しつつ、加工テーブル6の通し孔6aを取り囲むように配置されたU字型の部材であり、通し孔6aから加工テーブル6上へ突出した糸束2を周囲へ開いたときに、これを上から加工テーブル6に押し付けて固定する。
【0030】
次に、上記製造装置を使用して丸ブラシ素子を製造する方法について説明する。
【0031】
まず、糸束2を加工テーブル6の上に10mm程度突出させる。このとき、溶着ホーン7及び糸材押さえ8は上方に退避しており、カッター9は側方に退避している。加工テーブル6の上に糸束2が突出すると、図8に示すように、溶着ホーン7が空気孔7cからしたへ空気を吐出しつつ、且つ超音波振動しつつ、下降する。空気孔7cからの空気の吐出により、加工テーブル6の上に突出した糸束2が周囲へ開き始める。そこに溶着ホーン7の先端部が押し込まれ、糸束2は周囲へ更に大きく開く。
【0032】
溶着ホーン7が更に下降を続けると、図9に示すように、溶着ホーン7の先端面7aで糸束2の中心部近傍が加工テーブル6の表面(通し孔6aの周囲)に押し付けられる。同時に、溶着ホーン7の小径棒体7bが、糸束2の中心部に糸材をかき分けて強制的に押し込まれる。また同時に、溶着ホーン7の周囲で糸束2が押さえ8により加工テーブル6の表面に押し付けられる。そして、小径棒体7bにより周囲の糸材が小径棒体7bの外周面と通し孔6aの内周面との間で押圧された状態で加熱されて溶融すると共に、周囲に押し広げられた糸束2の中心部近傍が、溶着ホーン7の先端面7aと加工テーブル6の表面(通し孔6aの周囲)との間で押圧された状態で加熱されて溶融する。また、周囲に押し広げられた糸束2が、その押し広げ状態に成形される。
【0033】
かくして、放射状に広がる環状の刷毛部10bの内側に、中心孔が設けられた円板状の溶着部10aが形成されると共に、溶着部10aの中心孔の周囲に直角な円筒形状の溶着部10cが一体的に形成される(図11参照)。
【0034】
溶着部10a,10cが形成されると、図10に示すように、溶着ホーン7及び糸束押さえ8が共に上方に退避する。溶着ホーン7はナイロン樹脂のような熱可塑性樹脂を成形すると同時に瞬時に剥離可能なため、溶着ホーン7の退避時に形崩れを起こす危険がない。剥離性をより良くするために、溶着ホーン7の少なくとも加工部表面には、ハードクロームメッキハブ(HCR−B)加工がフッ素樹脂加工を行うことが推奨される。
【0035】
溶着ホーン7が退避すると、溶着部10a,10cが加工テーブル6の上に突出するように糸束2を上昇させる。円筒形状の溶着部10cは底が閉じた凹状になっている。そこで、カッター9により、底部の上で溶着部10cを直角に切断する。これにより、図10に示す丸ブラシ素子10が製造される。丸ブラシ素子10が切り離された後の糸束2の先端部には溶着部が残っている。前記底部に対応する部分である。このため、糸束2を僅かに上昇させてこの溶着部を切除し、次の丸ブラシ素子10の製造に備える。
【0036】
必要に応じて、丸ブラシ素子10を糸束2から切り離す前(切り離しのための上昇前)に、放射状に広がる環状の刷毛部10bの外径を揃える切断加工を行ってもよい。
【0037】
丸ブラシ素子10の糸束2からの切り離しにおいては、カッター9による横切りを行うので、カッター9と溶着ホーン7との干渉がなく、カッター9の寿命を長くする延ばすことができる。
【0038】
製造された丸ブラシ素子10は、図11に示すように、糸束2として糸材を従来の2〜3倍も多くした太いものを使用しているので、厚み11aは従来より厚くなり、1〜1.5mmも可能である。円筒形状の溶着部10cは、円板状の溶着部10aから材料を供給するのではなく、加工テーブル6の通し孔6a内の糸束2を別途使用するので、長さを大きくできる。通し孔6aの内径に対応する外径をもつので、その外径を大きくできる。内径11dは、溶着ホーン7の小径棒体7bの外径に支配されるので、2.3mmというような従来と同じレベルを維持できる。結果、円筒形状の溶着部10cの肉厚を大きくすることができる。円板状の溶着部10aの外径11cは、従来通りの寸法を確保できるが、厚くで高強度であるので、小さくすることができる。円板状の溶着部10aの外径11cが小さくなれば、周囲の放射状の刷毛部10bにおける毛丈11bを長くすることができる。毛丈11bを長くする代わりに、丸ブラシ素子10の外径を小さくすることもできる。
【0039】
このような厚肉の丸ブラシ素子10を円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用すれば、剛性があり、優れた使用感を得ることができる。1mmというようなボス高を確保でき、ブラシヘッドにおける糸材密度を適正値まで下げることができる。しかも、丸ブラシ素子10の使用枚数を数枚まで少なくすることでき、ワッシャ、スペーサー類も不要である。すなわち、理想的なブラシ設計の円筒型歯ブラシが、僅かの枚数の丸ブラシ素子10により極めて経済的に製造できるのである。
【0040】
そして、円筒形状の溶着部10cの肉厚が大きく高強度であるので、円板状の溶着部10aの外径11cを円筒形状の溶着部10cの外径と同じまで小さくすることもできる。すなわち、円板状の溶着部10aをなくし、円筒形状の溶着部10cのみとすることもできる(図15参照)。
【0041】
図12は本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0042】
本実施形態では、前述した溶着ホーン7の先端面の小径棒体7bの周囲に環状の凹部7dが設けられている。溶着部7a,7bを形成するとき、材料の一部が凹部7dに流入し、円筒形状の溶着部10cを丸ブラシ素子10の両面側へ突出させることができる。溶着材料が多量に存在するので、凹部7dの側に突出する量も高くすることができる。
【0043】
図13は本発明の更に別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0044】
本実施形態では、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在する丸ブラシ素子10を製造する(図15参照)。この製造のために、溶着ホーン7の本体の先端面の外径が、加工テーブル6の通し孔6aの内径(円筒形状の溶着部10cの外径に対応)と実質的に同一とされている。これにより、溶着部は円筒形状の溶着部10cのみとなる。
【0045】
図14は本発明の更に別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0046】
本実施形態でも、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在する丸ブラシ素子10を製造する(図15参照)。この製造のために、溶着ホーン7の先端部は小径棒体7bみで形成されている。すなわち、溶着ホーン7の先端面は省略されている。
【0047】
いずれの実施形態でも、溶着ホーン7の先端部は細くなるので、使用する糸束押さえ8は、溶着ホーン7の中心線により近い部分で、外側に開いた糸束2を押さえる。
【0048】
製造された丸ブラシ素子10は、図15に示すように、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在するものとなる。円筒形状の溶着部10cが厚肉で強度確保が容易なので、歯ブラシのように大きな機械的強度が要求されない用途では、円板状の溶着部10aがなくても充分に使用可能である。円板状の溶着部10aが存在しないことにより、ブラシ外径を同一とすれば放射状の刷毛部10bにおける毛丈11bが長くなり、刷毛部10bにおける毛丈11bを同じとすればブラシ外径が小さくなる。厚み11aが大きく毛丈11bの長い円筒型歯ブラシは、腰があって歯間に入りやすく歯垢除去能力に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】 本発明の一実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法を実施するための製造装置の全体構成図である。
【図2】 同製造装置におけるリールの構造図である。
【図3】 同製造装置における糸上げ装置の構造説明図である。
【図4】 同糸上げ装置内のチャックの構造説明図である。
【図5】 同製造装置におけるテーブルの構造説明図である。
【図6】 同製造装置における溶着ホーンの構造説明図である。
【図7】 糸材押さえの構造説明図である。
【図8】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図9】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図10】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図11】 同製造装置により製造された丸ブラシ素子の構造説明図である。
【図12】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図13】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図14】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図15】 別の丸ブラシ素子の構造説明図である。
【図16】 従来の円筒型歯ブラシの説明図である。
【図17】 同円筒型歯ブラシの主要部の構造説明図である。
【図18】 同円筒型歯ブラシに使用される丸ブラシ素子の正面図である。
【図19】 同丸ブラシ素子の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 リール
2 糸束
3 テンションバー
4 上下ロボット
5 チャッキング装置
6 テーブル
7 溶着ホーン
8 押さえ板
9 カッター
10 丸ブラシ素子
10a,10c 溶着部
10b 刷毛部
10d 中心孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状ブラシに使用される丸ブラシ素子の製造方法、及びその方法により製造された丸ブラシ素子、並びにその丸ブラシ素子を用いた円筒型ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシの一種として円筒型歯ブラシがある。これは、特許文献1に示されるように、軸方向に操作される柄の先端部に円筒型のブラシヘッドを取付けたものであり、柄の中心線回りにおいて方向性がないため、従来の歯ブラシにはない数々の特徴を有し、歯科医師の間でも注目を集めている。この円筒型歯ブラシを図16及び図17に示し、これに使用される丸ブラシ素子を図18に示す。また、丸ブラシ素子の製造方法を図19に示す。
【0003】
円筒型歯ブラシは、図16及び図17に示すように、通常の歯ブラシと同様に軸方向に往復操作されるように形成された柄13と、柄13の先端部に形成された小径軸部に嵌め込まれた円筒状のブラシヘッド16とからなる。ブラシヘッド16は複数枚の丸ブラシ素子20を中心軸方向に積層して構成されている。個々の丸ブラシ素子20は、図18に示すように、中心部に貫通孔(中心孔)を有する薄い円板状の溶着部21と、溶着部21の周囲全周から放射状に延出した多数本の糸材からなる刷毛部22とから構成される。
【0004】
この丸ブラシ素子20は、図19に示すように、ナイロン樹脂からなる所定本数の糸材を束ねた糸束2から製造される。具体的には、加工テーブル6に設けた通し孔に下からガイドチューブ18を介して糸束2を通し、加工テーブル6上に所定長さ突出させる。糸束2の突出部の上から超音波方式の溶着ホーン7が下降する。溶着ホーン7は中心部に空気孔を有しており、ここから空気を下方へ吹き下ろすことにより、糸束2の突出部を周囲に広げる。そのまま溶着ホーン7が下降を続けることにより、糸束2の突出部を周囲へ直角に押し倒し、押し広げを完了する。この状態で、押し広げられた糸束2の中心部を溶着ホーン7の平坦な先端面により溶融接合し、薄い円板状の溶着部を形成する。
【0005】
溶着が終わると、溶着ホーン7が退避し、代わってカッター17が加工テーブル6の通し孔上に位置し、下降して、溶着部の中心を円形に切除することにより、中心孔を形成する。また溶着部から糸束2を切り離す。かくして、図18に示すような丸ブラシ素子20が製造される。丸ブラシ素子20を除去された糸束2の先端溶着部は、次の丸ブラシ素子20の製造に備えて切除される。
【0006】
ところで、円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用される丸ブラシ素子20の場合、丸ブラシ素子20の外径D1が15mm以下に制限される。これは、ブラシヘッドを口腔内に入れて操作する必要があるからである。また、放射状の刷毛部22における毛丈Hを確保するために、溶着部21の外径D2は7mm以下に制限される。更に、丸ブラシ素子20の強度を支配する溶着部21の強度確保のために、溶着部21の内径(中心孔径)D3は2.5mm前後より小さくする必要がある。その結果、ガイドチューブ18の内径は2.3mm程度に制限され、その結果として、糸束2を構成する糸材の本数が制限される。具体的には、ガイドチューブ18の内径が2.3mmの場合、糸材の直径が1.2mm(0.09mm)の場合で、その本数は400本(800本)程度に制限される。
【0007】
こうして製造される丸ブラシ素子20を用いて円筒型歯ブラシのブラシヘッドを構成する場合、丸ブラシ素子20を密着させて積層すると、糸材密度が過大になり、このため、図17に示すように、隣接する丸ブラシ素子20,20間にスペーサー19を介在させることが行われる。しかし、丸ブラシ素子20,20・・・の全ての間にスペーサー19を介在させると、丸ブラシ素子20の剛性が低く、使用性が低下する。なぜなら、個々の丸ブラシ素子20においては、糸材の本数が制限されているために、厚みが0.3〜0.5mmと薄く、剛性感に欠けるのである。
【0008】
このため、実際に市販されている歯ブラシでは、2〜3枚の丸ブラシ素子20を一組として、その一組ごとにスペーサー19を介在させている。こうすることにより、丸ブラシ素子20の実質的な剛性が向上すると共に、糸束密度が適正に維持され、使用性は良好となる。しかし、20〜30枚程度の丸ブラシ素子20と10個前後のスペーサー19を、柄13の小径軸部に嵌め込む必要があり、これに要する手間のために、その製品は相当に高価なものとなる。
【0009】
ブラシヘッドにおける糸束密度を減らすため、及び部品点数を減らすために、丸ブラシ素子20の溶着部21の両面又は片面に環状の突起(ボス)を形成することは考えられている。そうすると、スペーサーを使用せずとも、丸ブラシ素子20,20・・の配列ピッチを大きくすることができる。しかしながら、個々の丸ブラシ素子20においては、糸束の本数が制限され、溶着部21の厚みが薄く、溶着部21を構成する材料の量が元々少ないために、ボス高さは制限される。このため、30〜35枚の丸ブラシ素子20が必要であり、部品点数を減らす効果は小さい。また、丸ブラシ素子20の実質的な剛性感は向上しない。このため、使用性の改善効果も小さい。
【0010】
ちなみに、円筒型歯ブラシにおけるブラシヘッドの理想的な構造は、丸ブラシ素子20の外径は大人用で約15mm、小人用で14mm、幼児用で13mm、厚みは1〜1.5mm、隙間は1mm程度、ヘッド長は15mm前後とされている。
【0011】
丸ブラシ素子20における中心孔の直径を大きくすることができるならば、太い糸束2を使用できるが、中心孔を大きくすると、溶着部21の内外径差が小さくなり、溶着部21の強度低下が懸念される。また柄13の先端部に形成される小径軸部を必要以上に太くすることが必要になる。
【0012】
このように、丸ブラシ素子の製造においては、設計上の制約が多い。このため、設計の自由度の大きい製造方法の開発が待望されており、具体的には、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きくでき、かつボス高さを大きくできる技術の開発がまたれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、丸ブラシ素子の製造において設計の自由度を大きくすることにあり、丸ブラシ素子における中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きし、かつボスの高さを大きくするといったことを容易にできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
糸束から丸ブラシ素子を製造するためには、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部分を溶着する必要がある。従来はこれをテーブル上で溶着ホーンの先端面により行い、円板状の溶着部を形成し、その後で溶着部に中心孔を形成していた。本発明者は発想を転換して、テーブルの通し孔内の糸束の中心部に小径棒状の溶着ホーンを差し込み、周囲の糸材を棒体外周面で加熱溶融して、通し孔内の糸束材料にて円筒状の溶着部を形成することを企画した。その結果、太い糸束から、中心軸方向の厚みが大きくて中心孔内径が小さく、かつボス高さが大きい丸ブラシ素子を製造できることが分かった。
【0015】
本発明はこの考えに基づいてなされたものであり、その丸ブラシ素子の製造方法は、所定本数の糸材を束ねた糸束をガイド孔を通してテーブル上へ突出させる工程と、テーブル上へ突出した糸束を周囲へ放射状に開いてテーブル上で成形する工程と、ガイド孔の内径よりも小さい外径の小径棒体を有しその外周面が加熱面とされた超音波式の溶着ホーンを、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に挿入して、ガイド孔内の糸束を棒体外周面により中心側から円筒形状に溶着する工程と、円筒形状の溶着部をテーブル上へ押し出して糸束から切除する工程とを含んでいる。
【0016】
本発明の丸ブラシ素子の製造方法においては、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に小径棒状の溶着ホーンを差し込んで円筒状の溶着部を形成し、溶着部の内側に中心孔を同時形成する。円板状の溶着部の中心部分に中心孔を切開する工程が不要のため、テーブルの通し孔の内径に対する制約がなくなり、多くの本数の糸材からなる太い糸束を使用でき、しかも小さな中心孔を形成できる。多くの本数の糸材からなる太い糸束を使用することにより、丸ブラシ素子の厚みを大きくできる。円筒状の溶着部は、テーブルの通し孔内で糸束により形成され、円板状の溶着部における材料を利用しないので、いくらでも長くでき、短くすることもできる。このためボス高さを広範囲に調節でき、大きくすることも容易である。また円筒状の溶着部の肉厚を増減することも同様に容易である。この肉厚は糸束と挿入する小径棒部の直径差により自在に変更できるのである。
【0017】
通常は、周囲へ放射状に開いた糸束の内周部分を円板状に溶着して、円筒形状の溶着部に連続する円板状の溶着部を、前記内周部分に形成する。
【0018】
太い糸束から形成する円筒状の溶着部は高強度であるため、円筒型歯ブラシにおけるブラシヘッドのように、丸ブラシ素子の溶着部にそれほど大きな強度が要求されない場合は、円板状の溶着部を省略することもできる。円板状の溶着部を省略した丸ブラシ素子は、ブラシ外径を同じとした場合は放射状の刷毛部における毛丈を長くでき、放射状の刷毛部における毛丈を同じとした場合はブラシ外径を小さくできる。円板状の溶着部を形成しない場合でも、円筒状の溶着部を形成する際の熱により、糸束を周囲へ直角に開いた状態に成形固定できる。
【0019】
溶着ホーンは、先端面から突出する小径の棒体部分を有し、棒体部分の外周面により円筒形状の溶着部を形成し、前記先端面により、糸束の突出部を周囲へ放射状に押し開いてテーブルに押し付ける押圧兼用型の構成が好ましい。その場合、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部周囲を、前記先端面にて加熱することができる。これにより、円板状の溶着部を形成することができるし、円板状の溶着部を形成しないまでも、糸束を周囲へ直角に開いた状態に、より確実に成形固定できる。
【0020】
本発明の丸ブラシ素子は、本発明の方法により製造されたものであり、厚みを大きくすることにより剛性感を付与できる。また、中心軸方向に積層する場合の枚数を少なくすることができる。円筒状の溶着部の長さを大きくし、ボスの高さを大きくすることにより、中心軸方向に積層する場合の間隔を大きくでき、積層枚数を少なくすることもできる。
【0021】
本発明の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成される円筒型ブラシは、剛性感及び糸材密度を広範囲に調節でき、研磨用、洗浄用の工業用ブラシに使用して性能向上及び価格低減を図ることができる。円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用する場合は、丸ブラシ素子の枚数が少なく、剛性感があって使用性に優れ、しかも丸ブラシ素子間に充分な隙間を確保でき、使用感及び経済性に優れた理想的なブラシヘッドを構成できる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明の丸ブラシ素子の製造方法は、テーブルの通し孔内の糸束に小径棒状の溶着ホーンを差し込んで、丸ブラシ素子のコアたる溶着部を円筒状に形成することにより、溶着部を含めた丸ブラシ素子全体の設計の自由度を飛躍に向上させることができ、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みが大きく、かつボス高さが大きい丸ブラシ素子なども容易に製造できる。
【0023】
また、本発明の丸ブラシ素子は、中心孔の内径を小さく抑制したままで、厚みを大きくでき、かつボス高さを大きくできるために、中心軸方向に積層して円筒型ブラシを構成する場合に積層枚数を少なくでき、そのブラシ製造コストを低減できる。
【0024】
特に、円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用する場合には、ブラシ素子厚が1〜1.5mm、隙間が1mm程度、素子枚数が僅か数枚という、理想的なブラシ設計を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法を実施するための製造装置の全体構成図、図2は同製造装置におけるリールの構造図、図3は同製造装置における糸上げ装置の構造説明図、図4は同糸上げ装置内のチャックの構造説明図、図5は同製造装置におけるテーブルの構造説明図、図6は同製造装置における溶着ホーンの構造説明図、図7は糸材押さえの構造説明図、図8〜図10は同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図、図11は同製造装置により製造された丸ブラシ素子の構造説明図である。
【0026】
製造装置は、図1及び図8に示すように、ナイロン樹脂からなる所定本数の糸材を束ねて構成された糸束2から丸ブラシ素子を製造するものであり、その製造のために水平な加工テーブル6を備えている。加工テーブル6は、図5に示すように、糸束2が下から上へ通過する糸束2の通し孔6aを有している。糸束2は、ここでは例えば糸径1.2mmの場合に800〜1200本の糸材からなり、従来の2〜3倍の本数である。これに伴って、加工テーブル6の通し孔6aも大きくなっている。
【0027】
加工テーブル6の通し孔6aには、その下方に設置されたリール1からテンションバー3及びチャッキング装置5を介して糸束2が供給される。リール1は、図2に示すように、回転自在なドラムの外側に糸束2を巻き付けた構造である。テンションバー3は糸束2に張力を付加する。チャッキング装置5は、図3に示すように、上側の出口側に、糸束2が通過する円筒状のガイド管5aを有し、内部にゴムからなるチャック5bを有する。チャック5bは、円筒形状であって、内側を糸束2が通過し、空気を出し入れすることにより径方向で収縮、回復を繰り返し、収縮により糸束2を拘束する。このチャッキング5は、上下ロボット4により昇降し、チャック5bで糸束2を掴んだ状態で上昇し、糸束2を離した状態で下降することにより、糸束2を上方のテーブル側へ所定長ずつ供給する。
【0028】
加工テーブル6の上には、超音波式の溶着ホーン7が通し孔6aに対して同心状に設けられている。溶着ホーン7は、図6及び図8に示すように、垂直な円柱形状の本体の中心部に空気孔7cを有し、下向きの先端面7bの中央部に下方へ突出した小径棒体7aを有している。溶着ホーン7の主な溶着面は、本体の先端面7bと小径棒体7aの外周面である。先端面7bの外径は例えば5〜7mm、小径棒体7aの直径は例えば2.3mmである。
【0029】
加工テーブル6の上には、溶着ホーン7と同心円状に糸材押さえ8が設けられると共に、加工テーブル6の表面に沿って糸束2を直角に切断するカッター9が設けられている。糸材押さえ8は、図7に示すように、溶着ホーン7との干渉を回避しつつ、加工テーブル6の通し孔6aを取り囲むように配置されたU字型の部材であり、通し孔6aから加工テーブル6上へ突出した糸束2を周囲へ開いたときに、これを上から加工テーブル6に押し付けて固定する。
【0030】
次に、上記製造装置を使用して丸ブラシ素子を製造する方法について説明する。
【0031】
まず、糸束2を加工テーブル6の上に10mm程度突出させる。このとき、溶着ホーン7及び糸材押さえ8は上方に退避しており、カッター9は側方に退避している。加工テーブル6の上に糸束2が突出すると、図8に示すように、溶着ホーン7が空気孔7cからしたへ空気を吐出しつつ、且つ超音波振動しつつ、下降する。空気孔7cからの空気の吐出により、加工テーブル6の上に突出した糸束2が周囲へ開き始める。そこに溶着ホーン7の先端部が押し込まれ、糸束2は周囲へ更に大きく開く。
【0032】
溶着ホーン7が更に下降を続けると、図9に示すように、溶着ホーン7の先端面7aで糸束2の中心部近傍が加工テーブル6の表面(通し孔6aの周囲)に押し付けられる。同時に、溶着ホーン7の小径棒体7bが、糸束2の中心部に糸材をかき分けて強制的に押し込まれる。また同時に、溶着ホーン7の周囲で糸束2が押さえ8により加工テーブル6の表面に押し付けられる。そして、小径棒体7bにより周囲の糸材が小径棒体7bの外周面と通し孔6aの内周面との間で押圧された状態で加熱されて溶融すると共に、周囲に押し広げられた糸束2の中心部近傍が、溶着ホーン7の先端面7aと加工テーブル6の表面(通し孔6aの周囲)との間で押圧された状態で加熱されて溶融する。また、周囲に押し広げられた糸束2が、その押し広げ状態に成形される。
【0033】
かくして、放射状に広がる環状の刷毛部10bの内側に、中心孔が設けられた円板状の溶着部10aが形成されると共に、溶着部10aの中心孔の周囲に直角な円筒形状の溶着部10cが一体的に形成される(図11参照)。
【0034】
溶着部10a,10cが形成されると、図10に示すように、溶着ホーン7及び糸束押さえ8が共に上方に退避する。溶着ホーン7はナイロン樹脂のような熱可塑性樹脂を成形すると同時に瞬時に剥離可能なため、溶着ホーン7の退避時に形崩れを起こす危険がない。剥離性をより良くするために、溶着ホーン7の少なくとも加工部表面には、ハードクロームメッキハブ(HCR−B)加工がフッ素樹脂加工を行うことが推奨される。
【0035】
溶着ホーン7が退避すると、溶着部10a,10cが加工テーブル6の上に突出するように糸束2を上昇させる。円筒形状の溶着部10cは底が閉じた凹状になっている。そこで、カッター9により、底部の上で溶着部10cを直角に切断する。これにより、図10に示す丸ブラシ素子10が製造される。丸ブラシ素子10が切り離された後の糸束2の先端部には溶着部が残っている。前記底部に対応する部分である。このため、糸束2を僅かに上昇させてこの溶着部を切除し、次の丸ブラシ素子10の製造に備える。
【0036】
必要に応じて、丸ブラシ素子10を糸束2から切り離す前(切り離しのための上昇前)に、放射状に広がる環状の刷毛部10bの外径を揃える切断加工を行ってもよい。
【0037】
丸ブラシ素子10の糸束2からの切り離しにおいては、カッター9による横切りを行うので、カッター9と溶着ホーン7との干渉がなく、カッター9の寿命を長くする延ばすことができる。
【0038】
製造された丸ブラシ素子10は、図11に示すように、糸束2として糸材を従来の2〜3倍も多くした太いものを使用しているので、厚み11aは従来より厚くなり、1〜1.5mmも可能である。円筒形状の溶着部10cは、円板状の溶着部10aから材料を供給するのではなく、加工テーブル6の通し孔6a内の糸束2を別途使用するので、長さを大きくできる。通し孔6aの内径に対応する外径をもつので、その外径を大きくできる。内径11dは、溶着ホーン7の小径棒体7bの外径に支配されるので、2.3mmというような従来と同じレベルを維持できる。結果、円筒形状の溶着部10cの肉厚を大きくすることができる。円板状の溶着部10aの外径11cは、従来通りの寸法を確保できるが、厚くで高強度であるので、小さくすることができる。円板状の溶着部10aの外径11cが小さくなれば、周囲の放射状の刷毛部10bにおける毛丈11bを長くすることができる。毛丈11bを長くする代わりに、丸ブラシ素子10の外径を小さくすることもできる。
【0039】
このような厚肉の丸ブラシ素子10を円筒型歯ブラシのブラシヘッドに使用すれば、剛性があり、優れた使用感を得ることができる。1mmというようなボス高を確保でき、ブラシヘッドにおける糸材密度を適正値まで下げることができる。しかも、丸ブラシ素子10の使用枚数を数枚まで少なくすることでき、ワッシャ、スペーサー類も不要である。すなわち、理想的なブラシ設計の円筒型歯ブラシが、僅かの枚数の丸ブラシ素子10により極めて経済的に製造できるのである。
【0040】
そして、円筒形状の溶着部10cの肉厚が大きく高強度であるので、円板状の溶着部10aの外径11cを円筒形状の溶着部10cの外径と同じまで小さくすることもできる。すなわち、円板状の溶着部10aをなくし、円筒形状の溶着部10cのみとすることもできる(図15参照)。
【0041】
図12は本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0042】
本実施形態では、前述した溶着ホーン7の先端面の小径棒体7bの周囲に環状の凹部7dが設けられている。溶着部7a,7bを形成するとき、材料の一部が凹部7dに流入し、円筒形状の溶着部10cを丸ブラシ素子10の両面側へ突出させることができる。溶着材料が多量に存在するので、凹部7dの側に突出する量も高くすることができる。
【0043】
図13は本発明の更に別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0044】
本実施形態では、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在する丸ブラシ素子10を製造する(図15参照)。この製造のために、溶着ホーン7の本体の先端面の外径が、加工テーブル6の通し孔6aの内径(円筒形状の溶着部10cの外径に対応)と実質的に同一とされている。これにより、溶着部は円筒形状の溶着部10cのみとなる。
【0045】
図14は本発明の更に別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【0046】
本実施形態でも、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在する丸ブラシ素子10を製造する(図15参照)。この製造のために、溶着ホーン7の先端部は小径棒体7bみで形成されている。すなわち、溶着ホーン7の先端面は省略されている。
【0047】
いずれの実施形態でも、溶着ホーン7の先端部は細くなるので、使用する糸束押さえ8は、溶着ホーン7の中心線により近い部分で、外側に開いた糸束2を押さえる。
【0048】
製造された丸ブラシ素子10は、図15に示すように、溶着部として、円板状の溶着部10aがなく、円筒形状の溶着部10cのみが存在するものとなる。円筒形状の溶着部10cが厚肉で強度確保が容易なので、歯ブラシのように大きな機械的強度が要求されない用途では、円板状の溶着部10aがなくても充分に使用可能である。円板状の溶着部10aが存在しないことにより、ブラシ外径を同一とすれば放射状の刷毛部10bにおける毛丈11bが長くなり、刷毛部10bにおける毛丈11bを同じとすればブラシ外径が小さくなる。厚み11aが大きく毛丈11bの長い円筒型歯ブラシは、腰があって歯間に入りやすく歯垢除去能力に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】 本発明の一実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法を実施するための製造装置の全体構成図である。
【図2】 同製造装置におけるリールの構造図である。
【図3】 同製造装置における糸上げ装置の構造説明図である。
【図4】 同糸上げ装置内のチャックの構造説明図である。
【図5】 同製造装置におけるテーブルの構造説明図である。
【図6】 同製造装置における溶着ホーンの構造説明図である。
【図7】 糸材押さえの構造説明図である。
【図8】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図9】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図10】 同製造装置による丸ブラシ素子製造方法の工程説明図である。
【図11】 同製造装置により製造された丸ブラシ素子の構造説明図である。
【図12】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図13】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図14】 本発明の別の実施形態に係る丸ブラシ素子製造方法の説明図である。
【図15】 別の丸ブラシ素子の構造説明図である。
【図16】 従来の円筒型歯ブラシの説明図である。
【図17】 同円筒型歯ブラシの主要部の構造説明図である。
【図18】 同円筒型歯ブラシに使用される丸ブラシ素子の正面図である。
【図19】 同丸ブラシ素子の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 リール
2 糸束
3 テンションバー
4 上下ロボット
5 チャッキング装置
6 テーブル
7 溶着ホーン
8 押さえ板
9 カッター
10 丸ブラシ素子
10a,10c 溶着部
10b 刷毛部
10d 中心孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定本数の糸材を束ねた糸束をガイド孔を通してテーブル上へ突出させる工程と、テーブル上へ突出した糸束を周囲へ放射状に開いてテーブル上で成形する工程と、ガイド孔の内径よりも小さい外径の小径棒体を有しその外周面が加熱面とされた超音波式の溶着ホーンを、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に挿入して、ガイド孔内の糸束を棒体外周面により中心側から円筒形状に溶着する工程と、円筒形状の溶着部をテーブル上へ押し出して糸束から切除する工程とを含む丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、周囲へ放射状に開いた糸束の内周部分を円板状に溶着して、円筒形状の溶着部に連続する円板状の溶着部を、前記内周部分に形成する丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、溶着ホーンは、先端面から突出する小径の棒体部分を有し、棒体部分の外周面により円筒形状の溶着部を形成し、前記先端面により、糸束の突出部を周囲へ放射状に押し開いてテーブルに押し付ける丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部周囲を、前記先端面にて加熱する丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの方法により製造された丸ブラシ素子。
【請求項6】
所定本数の糸材を束ねた糸束を周囲へ放射状に開いて形成した丸ブラシ素子であって、中心部に円筒形状の溶着部を有し、その周囲に、溶着部の外周面から直接周囲へ延出した多数本の糸材からなる放射状の刷毛部を有する、円板状の溶着部を有しない丸ブラシ素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成された円筒型ブラシ。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成されたブラシヘッドを先端部に有する円筒型歯ブラシ。
【請求項1】
所定本数の糸材を束ねた糸束をガイド孔を通してテーブル上へ突出させる工程と、テーブル上へ突出した糸束を周囲へ放射状に開いてテーブル上で成形する工程と、ガイド孔の内径よりも小さい外径の小径棒体を有しその外周面が加熱面とされた超音波式の溶着ホーンを、周囲へ放射状に開いた糸束の中心部分に挿入して、ガイド孔内の糸束を棒体外周面により中心側から円筒形状に溶着する工程と、円筒形状の溶着部をテーブル上へ押し出して糸束から切除する工程とを含む丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、周囲へ放射状に開いた糸束の内周部分を円板状に溶着して、円筒形状の溶着部に連続する円板状の溶着部を、前記内周部分に形成する丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、溶着ホーンは、先端面から突出する小径の棒体部分を有し、棒体部分の外周面により円筒形状の溶着部を形成し、前記先端面により、糸束の突出部を周囲へ放射状に押し開いてテーブルに押し付ける丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の丸ブラシ素子の製造方法において、周囲へ放射状に押し開いた糸束の中心部周囲を、前記先端面にて加熱する丸ブラシ素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの方法により製造された丸ブラシ素子。
【請求項6】
所定本数の糸材を束ねた糸束を周囲へ放射状に開いて形成した丸ブラシ素子であって、中心部に円筒形状の溶着部を有し、その周囲に、溶着部の外周面から直接周囲へ延出した多数本の糸材からなる放射状の刷毛部を有する、円板状の溶着部を有しない丸ブラシ素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成された円筒型ブラシ。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の丸ブラシ素子を中心軸方向に積層して構成されたブラシヘッドを先端部に有する円筒型歯ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−136817(P2008−136817A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357005(P2006−357005)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(504078187)
【出願人】(507098623)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(504078187)
【出願人】(507098623)
【Fターム(参考)】
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