説明

主軸装置及びそれを備えた工作機械

【課題】回転軸の前後軸受間スパンを短くすることができ、それにより回転軸の全長を短くして、全体の軸方向寸法の短縮を図る。
【解決手段】主軸装置Mは、回転軸80が前側及び後側軸受25,26,36を介してハウジングHに回転自在に支持されるとともに、回転軸80がビルトインモータ50によって回転駆動される。前側軸受ハウジング20及び後側軸受ハウジング30は、径方向に厚肉の筒状部21と、筒状部21の内径寄りステータ側端部から軸方向に突出する薄肉の円筒突出部22と、をそれぞれ有する。円筒突出部22は、ステータ51のエンドコイル53の内周側に入り込んでおり、且つ、円筒突出部22の内周面には、前側及び後側軸受26,36の外輪26a,36aが部分的に内嵌される。前側及び後側軸受26,36は、その転動体の中心が、径方向から見て、厚肉の筒状部21と重なるようにそれぞれ配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置及びそれを備えた工作機械に関し、より詳細には、門形マシニングセンタの主軸ヘッドに取り付けられる主軸装置及びそれを備えた一般工作機械又は複合加工工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大物ワークと工具との三次元的な相対移動によって、切削、穴あけ等の加工を行なう複合加工工作機械として、例えば、ワークを取り付けたテーブルを直進往復運動させると共に、工具を有する主軸をX軸、Y軸、Z軸方向に制御する門形マシニングセンタが使用されている。
【0003】
門形マシニングセンタでは、2つのコラムによって支持されたクロスレールにサドルが取り付けられ、サドルに対して上下方向に移動するラムの端部に主軸ヘッドが取り付けられ、さらに、この主軸ヘッドの2本の支持アームにブラケットを介してモータビルトイン式の主軸装置が旋回可能に取り付けられる。
【0004】
モータビルトイン式の主軸装置として、図5は、特許文献1に記載の主軸装置の構造を示している。
【0005】
図において、101は外筒ハウジングで、その内部に回転軸102が挿入されている。外筒ハウジング101の前部には前側軸受ハウジング110、外筒ハウジング101の後部には後側軸受ハウジング120がそれぞれ設けられており、前側軸受ハウジング110の内周には、回転軸102の前部を回転自在に支持する前側軸受115、116が配置され、後側軸受ハウジング120の内周には、回転軸102の後部を回転自在に支持する後側軸受125、126が配置されている。
【0006】
そして、前側軸受116と後側軸受125との間のスペースに、ビルトインモータ150の要素であるステータ151とロータ152が、それぞれ外筒ハウジング101と回転軸102に固定された状態で配置されている。
【0007】
【特許文献1】特公平8−22481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ステータ151の軸方向両端部には、エンドコイル153と呼ばれるステータコイルの凸部が突出している。図5の主軸装置では、そのエンドコイル153を避ける形で、前側軸受ハウジング110を形成しており、前後軸受116、125間のスパンが大きくなり、そのため、回転軸102の全長が長くなって、全体寸法が大きくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転軸の前後軸受間スパンを短くすることができ、それにより回転軸の全長を短くして、全体の軸方向寸法の短縮を図るようにした主軸装置及びそれを備えた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転軸が前側及び後側軸受を介してハウジングに回転自在に支持されるとともに、前記回転軸がビルトインモータによって回転駆動される主軸装置であって、
前記ハウジングは、前記ビルトインモータのステータが取付けられる外筒ハウジングと、該外筒ハウジングの前部に設けられ、前記前側軸受の外輪が内嵌される前側軸受ハウジングと、前記外筒ハウジングの後部に設けられ、前記後側軸受の外輪が内嵌される後側軸受ハウジングと、を有し、
前記前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングは、径方向に厚肉の筒状部と、該筒状部の内径寄りステータ側端部から軸方向に突出する薄肉の円筒突出部と、をそれぞれ有し、
前記前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングの前記円筒突出部は、前記ステータのエンドコイルの内周側に入り込んでおり、且つ、前記円筒突出部の内周面には、前記前側及び後側軸受の外輪が部分的に内嵌され、
前記前側及び後側軸受は、その転動体の中心が、径方向から見て、前記厚肉の筒状部と重なるようにそれぞれ配置されることを特徴とする主軸装置。
(2) (1)に記載の主軸装置を備えたことを特徴とする工作機械。
(3) 前記主軸装置がチルト機構に搭載されていることを特徴とする(2)に記載の工作機械。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングは、径方向に厚肉の筒状部と、筒状部の内径寄りステータ側端部から軸方向に突出する薄肉の円筒突出部と、をそれぞれ有し、前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングの円筒突出部は、ステータのエンドコイルの内周側に入り込んでおり、且つ、円筒突出部の内周面には、前側及び後側軸受の外輪が部分的に内嵌される。また、前側及び後側軸受は、その転動体の中心が、径方向から見て、厚肉の筒状部と重なるように配置される。従って、回転軸を支える剛性の低下を最小限に抑えつつ、前後軸受間のスパンを短くすることができ、回転軸の全長の短縮に貢献することができ、それにより、主軸装置の軸方向寸法のコンパクト化と軽量化を図ることができる。また、回転軸の前後軸受間スパンの減少により、軸の固有振動数を高くすることができて、最高回転数をより高速にすることも可能となり、動剛性が高くなることで、振動を小さく抑えることも可能となる。また、回転部のイナーシャ減により、急加速性の向上と電力減による省エネ効果も期待できる。また、チルト機構に搭載する場合は、主軸装置のコンパクト化と軽量化により、チルト機構の構造のコンパクト化も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の主軸装置が適用される門形マシニングセンタの概略図である。
【図2】主軸装置の断面図である。
【図3】主軸装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】主軸装置の変形例の要部を示す拡大断面図である。
【図5】従来の主軸装置の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る主軸装置及び工作機械としての門形マシニングセンタについて図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、門形マシニングセンタ1では、ベッド2の上にテーブル3がX軸方向へ移動可能に支持されており、ベッド2の両側には一対のコラム4が立設されている。コラム4の上端にはクロスレール5が架設されており、クロスレール5には、サドル6がY軸方向へ移動可能に設けられる。また、サドル6には、Z軸方向に昇降可能なラム7が支持されており、ラム7の下端には、本発明の主軸装置MをY軸回り及びZ軸回りに回転割出し駆動可能に保持する主軸ヘッド8が装着されている。主軸ヘッド8の2本の支持アーム8a内には、図示しないチルト機構が設けられており、主軸装置Mは、このチルト機構によってブラケット9を介してY軸回りに回転割出しされる。
【0015】
図2に示すように、主軸装置Mは、モータビルトイン式のものであり、ブラケット9に固定される外筒ハウジング10と、外筒ハウジング10の内部に挿入された回転軸80と、外筒ハウジング10の前部に設けられた前側軸受ハウジング20と、外筒ハウジング10の後部に設けられた後側軸受ハウジング30と、前側軸受ハウジング20と回転軸80の前部との間に配置される前側軸受25、26と、後側軸受ハウジング30と回転軸80の後部との間に配置さる後側軸受36と、前側軸受26と後側軸受36との間のスペースに配置されたビルトインモータ50と、を備えている。なお、外筒ハウジング10、前側軸受ハウジング20及び後側軸受ハウジング30は、本発明のハウジングHを構成している。これにより、回転軸80は、前側軸受25,26及び後側軸受36を介してハウジングHに回転自在に支持されると共に、ビルトインモータ50によって回転駆動される。
【0016】
図2及び図3に示すように、前側軸受25、26は、それぞれ転動体として複数の玉25b,26bを有するアンギュラ玉軸受であり、これらアンギュラ玉軸受25,26が間座27,28を介して背面組み合わせされている。前側軸受25,26の外輪25a,26aは、前側軸受ハウジング20に内嵌され、内輪25c,26cは、回転軸80に外嵌され、回転軸80に形成されたねじ溝80aに軸受固定ナット86を締付けることで、前側軸受25,26には、予圧が付与され、内輪25c、26cが軸方向に固定される。また、後側軸受36は、転動体として複数の円筒ころ36bを備えた円筒ころ軸受であり、この外輪36aは、後側軸受ハウジング30に内嵌され、内輪36cは、回転軸80に外嵌されている。
【0017】
ビルトインモータ50は、外筒ハウジング10の内周に冷却用溝11aを有する冷却筒11を介して固定されたステータ51と、回転軸80の外周に設けられたスリーブ81に焼き嵌めされたロータ52と、を有し、ステータ51の軸方向両端部には、ステータコイルのエンドコイル53が略環状の凸部として突出している。なお、スリーブ81は、回転軸80の外周上に焼バメ締結されている。
【0018】
回転軸80の内径部には、軸方向に延びるドローバー93と、ドローバー93の先端側に設けられるコレット90と、ドローバー93と回転軸80との間に設けられ、コレット90を反工具側に引き込む皿バネ94と、が組み込まれている。また、後側軸受ハウジング30の後方には、回転軸80の内径部に組み込まれた皿バネ94を圧縮して工具ホルダをアンクランプするアンクランプユニット91が取り付けられている。
【0019】
ここで、図2に示すように、前側軸受ハウジング20及び後側軸受ハウジング30は、それぞれ外筒ハウジング10に内嵌されており、外筒ハウジング10にねじ締結されている。前側軸受ハウジング20及び後側軸受ハウジング30は、径方向に厚肉の筒状部21,31と、厚肉の筒状部21,31の内径寄りステータ側端部からステータ51側へ軸方向に突出する、筒状部21より薄肉の円筒突出部22,32と、を有する。これら円筒突出部22,32は、ステータ51の軸方向端部に凸部として突出したエンドコイル53の内周側に入り込んでおり、エンドコイル53と円筒突出部22,32は、軸方向にオーバーラップしている。さらに、ステータ寄りの各軸受26,36の外輪26a,36aは、円筒突出部22,32の内周面に部分的に内嵌、即ち、厚肉の筒状部21,32の内周面と円筒突出部22,32の内周面に跨るように内嵌される。また、外輪26a,36aのステータ側端面は、円筒突出部22,32に内向きに形成される内向き段部22a,32aに突き当てられ、軸方向に位置決めされている。
【0020】
即ち、図3に示すように、前側軸受ハウジング20の円筒突出部22は、エンドコイル53と軸方向に寸法Aだけオーバーラップしている。また、前側軸受26の軸方向位置は、玉26bの中心が、径方向から見て、厚肉の筒状部21と重なるように、つまり、厚肉の筒状部21のステータ側端面21aより寸法Bだけ反ステータ51側に位置するように設定されている。このような配置関係は、後側軸受ハウジング30、エンドコイル53、後側軸受36においても同様である。
【0021】
以上のように、本実施形態の構成の主軸装置Mでは、前側軸受ハウジング20と後側軸受ハウジング30の各円筒突出部22、32は、ステータ51のエンドコイル53の内周側に入り込んでおり、且つ、円筒突出部22、32の内周面には、前側または後側軸受26,36の外輪26a,36aが部分的に内嵌されているので、前後軸受25、26、36をよりステータ51寄りの位置に配置することができる。従って、前後軸受25、26、36間のスパンを短くすることができ、回転軸80の全長の短縮に貢献することができ、それにより、主軸装置Mの軸方向寸法のコンパクト化と軽量化を図ることができる。
【0022】
また、回転軸80の前後軸受25、26、36間スパンの減少により、回転軸80の固有振動数を高くすることができて、最高回転数をより高速にすることも可能となり、動剛性が高くなることで、振動を小さく抑えることも可能となる。また、回転部のイナーシャ減により、急加速性の向上と電力減による省エネ効果も期待できる。また、チルト機構に搭載する場合は、主軸装置Mのコンパクト化と軽量化により、チルト機構の構造のコンパクト化も図れる。
【0023】
また、前側軸受26の軸方向位置を、玉26bの中心が、径方向から見て、厚肉の筒状部21と重なるように配置されることによって、回転軸80を支える剛性の低下を最小限に抑えることができる。
【0024】
なお、本実施形態のような前側軸受26がアンギュラ玉軸受の場合には、図4に示す変形例のように、前側軸受26の軸方向位置を、玉26bの中心が、径方向から見て、円筒突出部22と重なり、又は、アンギュラ玉軸受の接触角の延長線Lは、厚肉の筒状部21のステータ側端面21a及び円筒突出部22の外周面22bと交差せずに、厚肉の筒状部21を通過する(なお、本実施形態では、両方の条件が成立している)。即ち、厚肉の筒状部21のステータ側端面21a及び円筒突出部22の外周面22bとの境界位置と、この境界位置より反ステータ側の延長線Lとの間に、距離Cが確保されている。これにより、回転軸80を支える剛性の低下を最小限に抑えて、前側軸受25、26をよりステータ51寄りの位置に配置することができる。
【0025】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
上述した実施形態は、前側軸受を2列のアンギュラ玉軸受、後側軸受を単列の円筒ころ軸受を使用したが、軸受の種類や数はこれに限定されず、使用状態に応じて適宜設計することができる。
また、上述した実施形態では、本発明の配置関係は、前側軸受ハウジング20、前側軸受26、エンドコイル53の配置関係と、後側軸受ハウジング30、後側軸受36、エンドコイル53の配置関係との両方に適用されているが、いずれか一方に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0026】
M 主軸装置
10 外筒ハウジング
20 前側軸受ハウジング
21 筒状部
22 円筒突出部
25,26 前側軸受
30 後側軸受ハウジング
31 筒状部
32 円筒突出部
36 後側軸受
50 ビルトインモータ
51 ステータ
52 ロータ
53 エンドコイル
80 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が前側及び後側軸受を介してハウジングに回転自在に支持されるとともに、前記回転軸がビルトインモータによって回転駆動される主軸装置であって、
前記ハウジングは、前記ビルトインモータのステータが取付けられる外筒ハウジングと、該外筒ハウジングの前部に設けられ、前記前側軸受の外輪が内嵌される前側軸受ハウジングと、前記外筒ハウジングの後部に設けられ、前記後側軸受の外輪が内嵌される後側軸受ハウジングと、を有し、
前記前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングは、径方向に厚肉の筒状部と、該筒状部の内径寄りステータ側端部から軸方向に突出する薄肉の円筒突出部と、をそれぞれ有し、
前記前側軸受ハウジング及び後側軸受ハウジングの前記円筒突出部は、前記ステータのエンドコイルの内周側に入り込んでおり、且つ、前記円筒突出部の内周面には、前記前側及び後側軸受の外輪が部分的に内嵌され、
前記前側及び後側軸受は、その転動体の中心が、径方向から見て、前記厚肉の筒状部と重なるようにそれぞれ配置されることを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の主軸装置を備えたことを特徴とする工作機械。
【請求項3】
前記主軸装置がチルト機構に搭載されていることを特徴とする請求項2に記載の工作機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−67011(P2013−67011A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−12534(P2013−12534)
【出願日】平成25年1月25日(2013.1.25)
【分割の表示】特願2008−220285(P2008−220285)の分割
【原出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】