説明

主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法

【課題】主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法であって、透明性および耐熱性に優れる非晶性耐熱樹脂を得ることができ、かつ、環構造の形成に用いた触媒を失活処理しなくても、得られた樹脂を成形加工する際に生じる発泡を抑制できる製造方法を提供する。
【解決手段】主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の前駆体となる、カルボキシル基または水酸基とエステル基とを分子鎖に有する重合体において、カルボキシル基または水酸基とエステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、前記重合体の主鎖に前記環構造を形成して前記樹脂とする製造方法であって、前記反応の進行に用いる触媒が12族元素の化合物である方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン環に代表される環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法に関する。また本発明は、上記環構造を形成するための触媒としての12族元素の化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性を有する樹脂としてアクリル系樹脂が知られている。アクリル系樹脂は、透明性だけではなく、表面光沢および耐候性に優れ、さらに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスがとれているため、自動車あるいは家電製品などにおける光学関連用途に幅広く使用されている。しかし、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、一般に100℃前後であり、従来、耐熱性が要求される分野でアクリル系樹脂を使用することは困難であった。一方、製品としてのデザインの自由度向上、コンパクト化、高性能化などの要請から、例えば、樹脂を光源に近接して配置する設計が多くなされており、透明性と耐熱性とを兼ね備える樹脂が要望されている。
【0003】
近年、透明性と耐熱性とを兼ね備え、さらに、機械的強度、成形加工性などの各種の特性を備えた非晶性耐熱樹脂として、水酸基またはカルボキシル基とエステル基とを分子鎖に有する重合体を環化縮合反応させて得られる、主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂が提案されている。例えば、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体を環化縮合反応させることにより、主鎖にラクトン環を有する非晶性耐熱樹脂が得られる。また例えば、(メタ)アクリル酸エステル/(メタ)アクリル酸共重合体を環化縮合させることにより、主鎖に無水グルタル酸構造を有する非晶性耐熱樹脂が得られる。これら環化縮合反応は、分子鎖内の水酸基またはカルボキシル基と、エステル基との間に、エステル交換反応の一種である脱アルコール反応が生じることにより進行する。
【0004】
従来、このような脱アルコール環化縮合反応の触媒には、硫酸、p−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒あるいはエステル交換触媒が使用されている。これらの触媒を用いた場合、脱アルコール率を増加させる(環構造の形成を促進させる)ために触媒の使用量を多くすると得られた樹脂が着色し、逆に、触媒の使用量を小さくすると、脱アルコール率が低下することで、未反応の水酸基(またはカルボキシル基)およびエステル基の残留量が多くなり、得られた樹脂を成形加工する際に再び脱アルコール反応が進行して、成形品に泡やシルバーストリークが入るという問題がある。
【0005】
これに対して特許文献1には、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いた、非晶性耐熱樹脂の製造方法が開示されている。触媒として有機リン化合物を用いることにより、得られた樹脂の着色を抑制し、良好な透明性を確保できるとともに、成形加工後の成形品に、泡やシルバーストリークが入ることを抑制できる。しかし、特許文献1に記載の方法により得た樹脂においても、成形加工時の発泡現象の抑制が十分であるとはいえず、依然として、成形品に泡やシルバーストリークが見られることがある。本出願人は、環化縮合反応により得た樹脂を成形加工する際に生じる発泡が、当該樹脂に残留する触媒によって引き起こされることを見出し、特許文献2において、環構造が形成された後に触媒を失活処理することで、上記発泡をさらに抑制する技術を開示している。
【特許文献1】特開2001−151814号公報
【特許文献2】特開2007−262396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、主鎖に環構造、例えばラクトン環構造または無水グルタル酸構造、を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法であって、透明性および耐熱性に優れる非晶性耐熱樹脂を得ることができ、かつ、環構造を形成するために用いた脱アルコール環化縮合反応の触媒(環化触媒)を失活処理しなくても、得られた樹脂を成形加工する際に生じる発泡を抑制できる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法は、主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の前駆体となる、カルボキシル基または水酸基と、エステル基とを分子鎖に有する重合体において、前記カルボキシル基または水酸基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、前記重合体の主鎖に前記環構造を形成して前記樹脂とする方法である。ここで、前記反応の進行に用いる触媒が12族元素の化合物である。
【0008】
本発明の製造方法に用いる触媒に着目すると、本発明は、カルボキシル基または水酸基と、エステル基と、を分子鎖に有する重合体において、上記カルボキシル基または水酸基と上記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させ、前記重合体の主鎖に環構造を形成するための触媒としての12族元素の化合物の使用、と表現することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、前駆体となる重合体の分子鎖内にあるカルボキシル基または水酸基とエステル基とを脱アルコール環化縮合反応させ、重合体の主鎖に環構造を形成する触媒として、12族元素の化合物を用いる。これにより、透明性および耐熱性に優れる非晶性耐熱樹脂を得ることができ、かつ、環構造が形成された後に当該触媒を失活処理しなくても、得られた樹脂を成形加工する際に生じる発泡を抑制できる。
【0010】
即ち、本発明の製造方法により得られた非晶性耐熱樹脂は、透明性および耐熱性に優れ、かつ、成形加工の際に発泡が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法では、前駆体となる重合体(重合体(A))の分子鎖内にある水酸基またはカルボキシル基と、同じく重合体(A)の分子鎖内にあるエステル基との間に脱アルコール環化縮合反応(以下、単に「環化反応」ともいう)を進行させることにより、重合体(A)の主鎖に環構造を形成して、非晶性耐熱樹脂を形成している。ここで、上記反応の進行に用いる環化触媒が、12族元素の化合物である。
【0012】
[重合体(A)]
重合体(A)は、水酸基またはカルボキシル基とエステル基とを分子鎖内に有し、かつ、環化反応により、主鎖に環構造を有する非晶性樹脂が形成される限り特に限定されない。水酸基、カルボキシル基、およびエステル基は、それぞれ、直接あるいはいくつかの原子を介して、重合体(A)の主鎖に結合していればよく、環化反応により、水酸基およびエステル基の少なくとも一部、あるいはカルボキシル基およびエステル基の少なくとも一部、が縮合環化して、重合体(A)の主鎖に環構造が形成される。なお、重合体(A)は、水酸基およびカルボキシル基の双方を有していてもよい。
【0013】
水酸基およびエステル基を分子鎖に有する重合体(A)では、水酸基とエステル基とが互いに近接して存在することが好ましく、この場合、環構造が形成しやすくなる。
【0014】
同様に、カルボキシル基およびエステル基を分子鎖に有する重合体(A)では、カルボキシル基とエステル基とが互いに近接して存在することが好ましい。
【0015】
水酸基およびエステル基を分子鎖に有する重合体(A)は、例えば、水酸基およびエステル基の双方を有する単量体を重合させたり、水酸基を有する単量体と、エステル基を有する単量体とを共重合させて得ることができる。水酸基およびエステル基の双方を有する単量体と、水酸基を有する単量体および/またはエステル基を有する単量体とを共重合させてもよい。また例えば、重合体(A)は、二重結合を有する重合体に水酸基を付加させたり、エステル基を有する重合体を加水分解したり、カルボキシル基あるいは酸無水物基を有する重合体をエステル化したりして(即ち、重合体に、水酸基またはエステル基を後から導入して)、得ることもできる。
【0016】
カルボキシル基およびエステル基を分子鎖に有する重合体(A)もこれと同様に、例えば、カルボキシル基およびエステル基の双方を有する単量体を重合させたり、カルボキシル基を有する単量体と、エステル基を有する単量体とを共重合させて得ることができる。
【0017】
重合体(A)を得るための単量体(共重合させる場合は「単量体群」)は特に限定されないが、分子内に水酸基(またはカルボキシル基)とエステル基とを有するビニル単量体、あるいは、分子内に水酸基(またはカルボキシル基)を有するビニル単量体と分子内にエステル基を有するビニル単量体との混合物、であることが好ましい。これらの単量体(単量体群)を重合(共重合)させるときには、その他の単量体、典型的にはビニル単量体、を共重合させてもよい。また、環化反応によって得られる樹脂に、紫外線吸収能を賦与することを目的として、紫外線を吸収する作用を有する単量体(UVA単量体)を共重合させてもよい。
【0018】
重合体(A)は、典型的にはアクリル系重合体である。
【0019】
重合体(A)に形成される環構造は、水酸基とエステル基との間の脱アルコール環化縮合反応に基づいて形成される環構造、あるいはカルボキシル基とエステル基との間の脱アルコール環化縮合反応に基づいて形成される環構造、である限り特に限定されず、典型的には、ラクトン環構造または無水グルタル酸構造である。なお、ラクトン環構造は、水酸基とエステル基との間の環化反応により形成される環構造であり、無水グルタル酸構造は、カルボキシル基とエステル基との間の環化反応により形成される環構造である。
【0020】
本発明の製造方法では、重合体(A)が水酸基とエステル基とを分子鎖に有しており、当該重合体(A)において、水酸基とエステル基との間に環化反応を進行させることにより、重合体(A)の主鎖に環構造を形成して非晶性耐熱樹脂としてもよい。
【0021】
このとき、重合体(A)の主鎖に形成される環構造は特に限定されないが、典型的には、ラクトン環構造である。
【0022】
形成されるラクトン環構造の具体的な構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)により示される構造であってもよい。
【0023】
【化1】

【0024】
上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。
【0025】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0026】
無水グルタル酸構造は、以下の式(2)により示される環構造である。
【0027】
【化2】

【0028】
上記式(2)において、R4およびR5は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0029】
環化反応によりラクトン環構造が形成される重合体(A1)について説明する。重合体(A1)は、水酸基およびエステル基を分子鎖に有する。
【0030】
重合体(A1)は、以下の式(3)により示されるビニル単量体の重合体であることが好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
式(3)において、R6およびR7は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0033】
式(3)により示される単量体の具体例としては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらのなかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、ラクトン環の形成による耐熱性向上効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。重合体(A1)は、2種以上のこれらの単量体を共重合させた重合体であってもよい。
【0034】
重合体(A1)は、上記式(3)により示される単量体と、エステル基を有する単量体(式(3)により示される単量体を除く)との共重合体であってもよい。エステル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、式(3)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらのなかでも、環化反応によって、優れた耐熱性、透明性を有する樹脂が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0035】
重合体(A1)が、上記式(3)により示される単量体と、上記エステル基を有する単量体との共重合体である場合、当該重合体(A1)を得るための単量体群における、各単量体の含有率の好ましい範囲は以下の通りである。
【0036】
上記式(3)により示される単量体について、5〜90重量%の範囲が好ましく、10〜70重量%の範囲がより好ましく、10〜60重量%の範囲、10〜50重量%の範囲の順にさらに好ましい。上記含有率が過度に小さいと、重合体(A1)を環化反応させたときに形成されるラクトン環の量が少なくなり、得られた樹脂の耐熱性、耐溶剤性、表面硬度などが不十分となることがある。一方、上記含有率が過度に大きくなると、重合体(A1)を環化反応させる際に、ゲルが生じ、得られた樹脂の透明性および成形性が低下することがある。
【0037】
また、エステル基を有する単量体(上記式(3)により示される単量体を除く)について、10〜95重量%の範囲が好ましく、10〜90重量%の範囲がより好ましく、40〜90重量%の範囲、50〜90重量%の範囲の順にさらに好ましい。
【0038】
重合体(A1)は、上記例示した各単量体と、その他の単量体、例えば水酸基を含む各種の単量体、不飽和カルボン酸、以下の式(4)により示される単量体など、との共重合体であってもよい。
【0039】
【化4】

【0040】
上記式(4)において、R8は水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R9基、または−C−O−R10基であり、ここで、Acはアセチル基、R9およびR10は、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0041】
ここで、水酸基を含む各種の単量体としては、式(3)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。
【0042】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらのなかでも、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。
【0043】
式(4)により示される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらのなかでも、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0044】
重合体(A1)が、上記例示した単量体と、上記その他の単量体との共重合体である場合、当該重合体(A1)を得るための単量体群における、上記その他の単量体の含有率は、合計で、0〜30重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%、0〜10重量%の順にさらに好ましい。
【0045】
重合体(A1)は、上記その他の単量体を含む上記例示した単量体と、上述したUVA単量体との共重合体であってもよい。このような重合体(A1)を環化反応させることにより、紫外線吸収能をさらに有する非晶性耐熱樹脂を得ることができる。
【0046】
UVA単量体は特に限定されず、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、またはベンゾフェノン誘導体を用いてもよい。導入する重合性基は適宜選択でき、例えば、上述の式(3)により示される単量体と重合可能な基であればよい。
【0047】
UVA単量体の具体例としては、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(商品名RUVA−93、大塚化学社製)、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メタクリロイルオキシ〕フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、が挙げられる。
【0048】
これとは別のUVA単量体の具体例としては、以下の式(5)、(6)、(7)により示されるトリアジン誘導体(それぞれ、UVA−2、UVA−3、UVA−4とする)、あるいは、以下の式(8)により示されるベンゾトリアゾール誘導体(UVA−5とする)も挙げられる。
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
重合体(A1)は、当該重合体の形成に用いた単量体に由来する構成単位を有する。重合体(A1)における各構成単位の含有率は、重合体(A1)を得るために重合した単量体群に含まれる各単量体の含有量に応じて決定される。
【0054】
次に、環化反応により無水グルタル酸構造が形成される重合体(A2)について説明する。重合体(A2)は、カルボキシル基およびエステル基を分子鎖に有する。
【0055】
重合体(A2)は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体であればよい。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、重合体(A1)の説明において例示した単量体を用いればよく、(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸あるいはメタクリル酸を用いればよい。
【0057】
重合体(A2)は、当該重合体の形成に用いた単量体に由来する構成単位を有する。重合体(A2)における各構成単位の含有率は、重合体(A2)を得るために重合した単量体群に含まれる各単量体の含有量に応じて決定される。
【0058】
重合体(A)を得る具体的な重合方法は、例えば、特許文献2(特開2007−262396号公報)に開示の方法に従えばよい。一例として、重合体(A)の重合方法は特に限定されないが、重合体(A)を得た後に、続いて重合体(A)の環化反応を実施可能であることから、溶液重合により重合体(A)を得ることが好ましい。なお、特許文献2に記載の方法は、環化反応により主鎖にラクトン環が形成される重合体(A1)の重合方法であるが、重合体(A2)を含むその他の重合体(A)の重合も、当該方法を適用して同様に実施できる。
【0059】
溶液重合により重合体(A)を形成した場合、重合生成物には、重合体(A)以外に、重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも、当該溶媒を除去して重合体(A)を固体として取り出さなくてもよい。上述したように、溶媒を含んだ状態のまま、重合生成物を、続く脱アルコール環化縮合工程に導入できる。もちろん、重合体(A)を固体として取り出した後、重合時に用いた溶媒よりも環化反応の実施に好適な溶媒を改めて加えて、脱アルコール環化縮合工程に導入してもよい。
【0060】
溶液重合により重合体(A)を形成する場合、用いる重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランなど、が挙げられる。なかでも、重合溶媒として芳香族炭化水素、ケトン類を用いることが好ましく、特に、トルエン、メチルイソブチルケトンを用いることが好ましい。
【0061】
重合体(A)の重合時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは、重合条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0062】
また、本発明の製造方法では、重合体(A)の種類によっては(具体的には、重合体(A)を重合形成する条件と、形成した重合体(A)を環化する条件とが重なっている場合には)、重合体(A)の重合形成を進めながら、形成した重合体(A)を同時に環化反応させることも可能である。
【0063】
[環化反応]
本発明の製造方法における環化反応とは、加熱により、重合体(A)の分子鎖に存在する、水酸基およびエステル基の少なくとも一部、あるいはカルボキシル基およびエステル基の少なくとも一部、が環化縮合して、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造などの環構造が重合体(A)の主鎖に形成される反応である。この環化反応はエステル交換反応の一種であり、アルコールが副生する。また、環化反応によって主鎖に環構造が形成されることにより、耐熱性に優れる樹脂を得ることができる。
【0064】
環化反応の反応率(環化反応率)が低いと、得られた樹脂の耐熱性が不十分となる。また、環化反応率が低いと、未反応の基が重合体(A)中に多く残留するため、成形加工時の熱により再び環化反応が進行してアルコールが生成し、生成したアルコールにより発泡が生じて、最終的に得られた成形品に泡やシルバーストリークなどが生じる。
【0065】
特許文献1(特開2001−151814号公報)では、樹脂の着色を防ぎながら、環化反応率を向上できる触媒として、有機リン化合物を用いている。これに対して、本発明の製造方法では、環化反応率を向上させるための触媒として、12族元素の化合物を用いる。触媒として12族元素の化合物(以下、単に「化合物」ともいう)を用いることにより、環化反応を実施した後に当該触媒の失活処理を行わなくても、触媒が樹脂中に残留することに基づく成形加工時のさらなる環化反応が生じにくくなり、得られた樹脂を成形加工する際に生じる発泡を抑制できる。
【0066】
触媒に着目して換言すれば、12族元素の化合物は、水酸基またはカルボキシル基とエステル基とを有する重合体の環化反応を進行させる効果が高く、また、環化反応後の失活処理を行わなくても、得られた樹脂が成形加工時に発泡することを抑制できる、優れた環化触媒であるといえる。
【0067】
本発明の製造方法では、特許文献1の方法に比べて、環化反応の速度を向上できる他、重合体(A)間の環化反応、即ちポリマー間架橋、を抑制でき、得られた樹脂のゲル化を抑制できる。また、重合体(A)がUVA単量体に由来する構成単位を含む場合など、一般に環化が進みにくいと考えられる重合体(A)に対しても、その環化反応を効率よく行うことができる。
【0068】
触媒の種類は、12族元素の化合物である限り特に限定されないが、環化反応を促進させる作用が大きいことから、亜鉛化合物が好ましい。亜鉛化合物の具体的な種類は特に限定されず、例えば、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などの有機亜鉛化合物;酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの無機亜鉛化合物;トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛などのフッ素を含む有機亜鉛化合物;などが挙げられる。
【0069】
環化反応時に触媒として用いる化合物の量は特に限定されないが、好ましくは、重合体(A)の重量に対して、0.005〜0.5重量%であり、0.01〜0.3重量%がより好ましく、0.02〜0.1重量%がさらに好ましい。化合物の使用量が、0.005重量%未満では、環化反応率を十分に向上できない。一方、化合物の使用量が0.5重量%を超えると、得られた樹脂に着色が生じたり、ゲルが生じたりすることがある。
【0070】
なお、重合体(A)の環化反応は加熱により開始させることができるため、触媒を加えるタイミングは特に限定されず、例えば、環化反応前あるいは環化反応の初期段階において加えてもよいし、環化反応が開始した後の任意の時点で加えることもできる。
【0071】
環化反応の条件は特に限定されないが、例えば、反応温度を80℃以上とすることが好ましく、80〜150℃の範囲とすることがより好ましい。反応温度が過度に高くなると、得られた樹脂に着色あるいはゲルが生じることがある。
【0072】
本発明の製造方法では、重合体(A)の環化反応率を90%以上とすることができ、反応条件によっては、さらに95%以上、97%以上とすることもできる。環化反応率が90%未満の場合、得られた樹脂の耐熱性が不十分となったり、成形加工時に再び環化反応が起きることで、発泡が生じたりする。なお、環化反応率(脱アルコール反応率)は、特許文献1に記載されているダイナミックTG法により求めることができる。
【0073】
重合体(A)を環化反応させるための、上述した以外のその他の具体的な方法および条件などは、特許文献1、2に開示の方法など、公知の方法を適用すればよく、例えば、重合体(A)の環化反応を、溶媒の存在下において、脱揮工程を併用しながら進行させてもよい。脱揮工程を併用する方法では、環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮、除去できるため、反応の平衡を生成側に有利にでき、環化反応率をさらに向上できる。また例えば、脱揮工程を併用する環化反応は、反応温度にして、150〜350℃とすることが好ましく、200〜300℃とすることがより好ましい。反応温度が150℃未満の場合、環化反応率が不十分となって、残存する揮発成分が過剰となることがある。一方、反応温度が350℃を超えると、得られた樹脂に着色が生じたり、重合体(A)が分解して、主鎖に環構造を有する樹脂が得られないことがある。ただし、本発明の製造方法では、触媒として有機リン化合物ではなく12族元素の化合物を用いる必要があり、当該触媒を失活させる処理(例えば、失活剤の添加)は省略できる。
【0074】
本発明の製造方法では、耐熱性に優れる樹脂、例えば、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上の樹脂を得ることができる。換言すれば、本発明の製造方法は、Tgが110℃以上の非晶性耐熱樹脂の製造方法である、ともいえる。また、環化反応により形成される環構造の種類、および環化反応率によっては、Tgが115℃以上、さらには120℃以上、125℃以上、130℃以上の樹脂を得ることも可能である。樹脂のTgは、示差走査熱量計(DSC)を用い、ASTM−D−3418の規定に基づき、始点法により求めた値とすればよい。
【0075】
[非晶性耐熱樹脂]
上述した本発明の製造方法により得た非晶性耐熱樹脂(本発明の樹脂)は、主鎖に環構造を有する。環構造としては、例えば、上述したラクトン環構造および無水グルタル酸構造が挙げられ、典型的には、環構造はラクトン環構造である。
【0076】
本発明の樹脂における環構造が占める割合は、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上がさらに好ましい。なお、この割合は、重合体(A)を環化反応させる際の環化反応率によって決定されるが、本発明の製造方法では、上述したように、90%以上の環化反応率を達成できるため、容易に上記割合を満たす樹脂が得られる。なお、上記割合は、特許文献1に記載の方法により求めることができる。
【0077】
本発明の樹脂は、主鎖中の環構造に基づく高い耐熱性を有しており、例えば、そのTgが110℃以上である。環構造の種類、ならびに本発明の樹脂において環構造が占める割合によっては、Tgは115℃以上、さらには120℃以上、125℃以上、130℃以上となる。
【0078】
また本発明の樹脂は、環化反応の触媒に12族元素の化合物を用いているため、成形加工時に発泡が生じにくい。
【0079】
本発明の樹脂の構成(例えば、構成単位の種類とその含有率)は、環構造が形成されていることを除き、基本的に、環化反応前の重合体(A)の構成に準じる。例えば、環化反応前の重合体(A)がアクリル系重合体である場合、本発明の樹脂はアクリル系の樹脂となり、このとき、さらに良好な透明性(非晶性)を実現できる他、表面硬度および耐溶剤性などの諸特性に優れる樹脂とすることができる。
【0080】
本発明の樹脂は、用途に応じて様々な形状に成形できる。成形可能な形状としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ディスク、ブロック、ボール、レンズ、ロッド、ストランド、コードおよびファイバーなどが挙げられる。本発明の樹脂を、これらの形状に成形する方法は、公知の方法に従えばよい。
【0081】
また、本発明の樹脂の用途は特に限定されず、例えば、看板・ディスプレイ、弱電・工業部品、自動車を中心とする車輌部品、建材・店装、コーティング材料、脱塗装用保護フィルム、照明器具、大型水槽、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスク、その他ミラー、文具、テーブルウェアなどの雑貨類と極めて多岐にわたる。本発明の樹脂は透明性および耐熱性に優れ、かつ成形加工時の発泡が少ないことから、本発明の樹脂を、特に、光学レンズ、光学プリズム、光学フィルム、光学ファイバー、光学ディスクなどとして、光学材料用途に用いることが好ましい。
【0082】
本発明の樹脂は、他の樹脂、あるいは添加剤などと混合して、樹脂組成物として用いてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤が挙げられる。本発明の樹脂を含む樹脂組成物は、上述した様々な用途に用いることができ、また、様々な形状に成形加工が可能である。
【0083】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂から形成した樹脂フィルム(本発明の樹脂フィルム)は、上記本発明の樹脂が有する特性に基づいた各種の特性を有する。例えば、本発明の樹脂フィルムは、透明性および耐熱性に優れ、成形加工により当該フィルムを得る際の発泡が抑制されるため、泡およびシルバーストリークなどの欠点が少ない。
【0084】
また、本発明の樹脂フィルムは、高いTg(例えば110℃以上)を有し、光学材料として用いる場合に、光源に近接して配置することが可能である。
【0085】
本発明の樹脂フィルムは、例えば、本発明の樹脂を公知の手法により成形して製造できる。その方法としては、溶液キャスト法、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法などが例示できる。
【0086】
本発明の樹脂フィルムは、透明性および耐熱性に優れ、泡およびシルバーストリークなどの欠点が少ないことから、光学フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0088】
最初に、本実施例において作製した樹脂の評価方法を示す。
【0089】
[重量平均分子量および分散度]
樹脂の重量平均分子量および分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(システム:東ソー社製、カラム:TSK-Gel Super HZM-M、溶離液:クロロホルム、流量:0.6mL/分、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0090】
[Tg]
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418の規定に従い、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用いて、サンプル質量が約10mg、昇温速度20℃/分、流入ガスである窒素フロー50mL/分の条件で、始点法により評価した。
【0091】
[環化反応開始から2時間経過後の樹脂の熱安定性]
環化反応を開始してから2時間経過した時点で得られた樹脂の熱安定性は、以下のように評価した。環化反応を開始してから2時間経過した時点での重合溶液を、反応装置から取り出して減圧下150℃に加熱し、1時間保持した。加熱前後における重合溶液に含まれる樹脂の重量平均分子量および分散度を、上記のようにして求め、その変化を評価した。
【0092】
[5%重量減少温度]
樹脂の5%重量減少温度(樹脂を一定の速度で昇温したときに、その重量が5%減少した時点の温度)は、示差熱量天秤(リガク社製、DSC−8110)を用いて、サンプル質量が10mg、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下の条件で評価した。
【0093】
[発泡性]
得られた樹脂の成形加工時における発泡性は、以下のように評価した。得られた樹脂(ペレット)を、JIS−K7210に規定のシリンダー内に充填し、成形加工を想定した温度である280℃で20分保持した後、ストランド状に押し出して、得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する泡の発生を、目視により確認した。泡の発生が確認された場合を「×:発泡あり」、確認されなかった場合を「○:発泡なし」とした。
【0094】
[耐熱性]
得られた樹脂(ペレット)を、280℃に加熱して60分間保持し、加熱前後における当該ペレットの重量平均分子量および分散度を、上記のようにして求め、その変化を評価した。
【0095】
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、50重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、200重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、および重合溶媒として250重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.28重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.24重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.56重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0096】
次に、得られた重合溶液に、環化反応の触媒(環化触媒)として0.13重量部の酢酸亜鉛無水物を加え、約85〜110℃の還流下において2時間、環化反応を進行させた。環化反応開始(触媒を加えた時点を環化反応の開始とする)から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は85℃であった。
【0097】
次に、上記のようにして得た重合溶液を、バレル温度250℃、回転速度150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/時間の処理速度で導入し、当該押出機内において、さらに環化反応および脱揮を進めた。その後、押出機から内容物をストランド状に押し出し、ウォーターバスを介した冷却の後、ペレタイザーによりペレット化して、式(1)に示すラクトン環構造(ただし、R1はH、R2はCH3、R3はCH3)を有する、ラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、得られたペレットは、透明であった。
【0098】
(比較例1)
環化触媒として、酢酸亜鉛の代わりにリン酸ステアアリル/リン酸ジステアリル混合物0.25重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、環化反応開始から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は90℃であった。
【0099】
(比較例2)
環化触媒として、酢酸亜鉛の代わりにリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物0.25重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、環化反応開始から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は90℃であった。
【0100】
実施例1ならびに比較例1、2の評価結果を、以下の表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1に示すように、比較例1、2では、ラクトン環の形成により、Tgが130℃を超える樹脂が得られたが、その熱安定性は必ずしも良好であるとはいえず、例えば、環化反応を開始してから2時間経過した時点で得られた樹脂を減圧下150℃で1時間保持したところ、ゲル化が生じた。これは、分子間の環化反応が進行したためと考えられる。また、発泡性の評価試験においても、泡の発生が確認された。これは、樹脂に残留する触媒の作用により、成形加工を想定した熱の印加に伴って、さらなる環化反応(脱アルコール反応)が進行したためと考えられる。
【0103】
これに対して実施例1では、比較例1、2と同様に、Tgが130℃を超える樹脂が得られたが、その熱安定性は、比較例1、2に比べて大きく向上した。例えば、環化反応を開始してから2時間経過した時点で得られた樹脂を減圧下150℃で1時間保持しても、当該樹脂のゲル化は起こらず、樹脂の分子量および分散度の変化も僅かであった。また、発泡性の評価試験では、泡が発生しなかった。実施例1におけるこれらの結果は、触媒として亜鉛化合物を用いたことにより、分子間の環化反応が抑制されるとともに、残留触媒によるさらなる環化反応が抑制されたためと考えられる。
【0104】
(実施例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、30重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、202.5重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、UVA単量体として17.5重量部の2−〔2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシ〕エチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(商品名RUVA−93、大塚化学社製)、および重合溶媒として250重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.28重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.24重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.56重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0105】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.13重量部の酢酸亜鉛無水物を加え、約87〜110℃の還流下において2時間、環化反応を進行させた。環化反応開始から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は87℃であった。
【0106】
次に、上記のようにして得た重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/時間の処理速度で導入し、当該押出機内において、さらに環化反応および脱揮を進めた。その後、押出機から内容物をストランド状に押し出し、ウォーターバスを介した冷却の後、ペレタイザーによりペレット化して、式(1)に示すラクトン環構造(ただし、R1はH、R2はCH3、R3はCH3)を有する、UVA単量体由来の構成単位を含むラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、得られたペレットは、透明であった。
【0107】
(比較例3)
環化触媒として、酢酸亜鉛の代わりにリン酸ステアアリル/リン酸ジステアリル混合物0.25重量部を用いた以外は、実施例2と同様にして、UVA単量体由来の構成単位を含むラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、環化反応開始から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は92℃であった。
【0108】
実施例2および比較例3の評価結果を、以下の表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
表2に示すように、比較例3では、ラクトン環の形成により、Tgが120℃を超える樹脂が得られたが、その熱安定性は必ずしも良好であるといえず、環化反応を開始してから2時間経過した時点で得られた樹脂を減圧下150℃で1時間保持したところ、ゲル化こそ起きなかったものの、その分子量および分散度が大きく上昇した。
【0111】
これに対して実施例2では、Tgが125℃以上の樹脂を得ることができた。実施例2および比較例3では、UVA単量体に由来する構成単位を含む重合体を環化反応させており、このような重合体では、当該単位の立体的な障害により、一般に環化反応が進行しにくいと考えられる。環化触媒に亜鉛化合物を用いた実施例2では、有機リン酸化合物を触媒に用いた比較例3に比べて、環化を促進でき、得られた樹脂のTgが高くなったと考えられる。
【0112】
また、実施例2の熱安定性は、比較例3に比べて大きく向上し、例えば、環化反応を開始してから2時間経過した時点で得られた樹脂を減圧下150℃で1時間保持したところ、ゲル化は生じず、樹脂の分子量および分散度の変化も、比較例3に比べて小さくなった。実施例2におけるこれらの結果は、亜鉛化合物を環化触媒に用いたことにより、分子間の環化反応が抑制されるとともに、残留触媒によるさらなる環化反応が抑制されたためと考えられる。
【0113】
(実施例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、50重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、200重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、および重合溶媒として250重量部のメチルイソブチルケトンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.15重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.24重量部のメチルイソブチルケトンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.30重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約110〜115℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0114】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.13重量部の酢酸亜鉛無水物を加え、約87〜110℃の還流下において2時間、環化反応を進行させた。環化反応開始から2時間経過した時点における重合溶液の沸点は95℃であった。
【0115】
次に、上記のようにして得た重合溶液を、バレル温度250℃、回転速度150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/時間の処理速度で導入し、当該押出機内において、さらに環化反応および脱揮を進めた。その後、押出機から内容物をストランド状に押し出し、ウォーターバスを介した冷却の後、ペレタイザーによりペレット化して、式(1)に示すラクトン環構造(ただし、R1はH、R2はCH3、R3はCH3)を有する、ラクトン環含有樹脂のペレットを得た。なお、得られたペレットは、透明であった。
【0116】
次に、得られたペレットの発泡性を評価したところ、発泡は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法であって、透明性および耐熱性に優れる非晶性耐熱樹脂を得ることができ、かつ、環構造を形成するために用いた環化触媒を失活処理しなくても、得られた樹脂を成形加工する際に生じる発泡を抑制できる製造方法を提供できる。
【0118】
この製造方法によって得られた非晶性耐熱樹脂は、従来の非晶性耐熱樹脂と同様に、様々な形状に成形加工でき、また、様々な用途に使用できる。当該樹脂は、その特性から、特に光学用途の樹脂フィルム(光学フィルム)としての使用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の前駆体となる、カルボキシル基または水酸基と、エステル基とを分子鎖に有する重合体において、前記カルボキシル基または水酸基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させることにより、前記重合体の主鎖に前記環構造を形成して前記樹脂とする製造方法であって、
前記反応の進行に用いる触媒が、12族元素の化合物である、主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が亜鉛化合物である、請求項1に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体がアクリル系重合体である、請求項1に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記環構造が、ラクトン環構造または無水グルタル酸構造である、請求項1に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記重合体が、水酸基とエステル基とを分子鎖に有し、
前記重合体において、前記水酸基と前記エステル基との間に前記反応を進行させることにより、前記重合体の主鎖に前記環構造を形成して前記樹脂とする、請求項1に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記環構造が、ラクトン環構造である請求項5に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記環構造が、以下の式(1)により示されるラクトン環構造である、請求項6に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【化1】

上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基であり、当該有機残基は酸素を含んでいてもよい。
【請求項8】
ASTM−D−3418の規定に基づき測定した前記樹脂のガラス転移温度が、110℃以上である、請求項1に記載の主鎖に環構造を有する非晶性耐熱樹脂の製造方法。
【請求項9】
カルボキシル基または水酸基と、エステル基と、を分子鎖に有する重合体において、
前記カルボキシル基または水酸基と前記エステル基との間に脱アルコール環化縮合反応を進行させ、前記重合体の主鎖に環構造を形成するための触媒としての12族元素の化合物の使用。

【公開番号】特開2009−144112(P2009−144112A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325507(P2007−325507)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】