説明

乗客コンベアの保全情報収集装置

【課題】適切な動作情報を容易に得ることのできる乗客コンベアの保全情報収集装置を提供すること。
【解決手段】乗客コンベア1の保全情報収集装置40は、記憶部44と、無線通信部48と、を備える。記憶部44は、乗客コンベア1の動作状態が変化するごとに動作状態の情報を記憶すると共に、乗客コンベア1の安全回路22が作動した場合に安全回路22が作動した時間と安全回路22の作動時の動作状態との情報を記憶する。無線通信部48は、無線通信端末60との間で無線通信可能に設けられると共に、記憶部44で記憶した情報を無線通信端末60に送信可能になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアの保全情報収集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアでは、適切な保全作業を行ったり、安全装置の作動時に早期に復旧させたりすることができるように、乗客コンベアの動作情報を制御盤に記憶させているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−324945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗客コンベアの動作情報を、乗客コンベアに設けられる制御盤に記憶させている場合において、安全装置が作動することによって乗客コンベアが停止した場合、安全装置が作動した原因を特定して乗客コンベアを復旧させるために、制御盤の端子部を調査する場合がある。この場合、乗客コンベア内に設けられる機械室に立ち入って制御盤の状態を調査することになるため、保守作業員が復旧作業を行う必要がある。また、この場合には、安全装置が作動する前の乗客コンベアの動作情報は、乗客コンベアの管理者の通常の確認作業によって行うため、正確な情報を得るのが困難な場合がある。これらのため、安全装置が作動した場合に、作動時における乗客コンベアの動作情報を得ることは困難なものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、適切な動作情報を容易に得ることのできる乗客コンベアの保全情報収集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の乗客コンベアの保全情報収集装置は、記憶部と、無線通信部と、を備える。記憶部は、乗客コンベアの動作状態が変化するごとに動作状態の情報を記憶すると共に、乗客コンベアの安全回路が作動した場合に安全回路が作動した時間と安全回路の作動時の動作状態との情報を記憶する。無線通信部は、無線通信端末との間で無線通信可能に設けられると共に、記憶部で記憶した情報を無線通信端末に送信可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、実施形態に係る保全情報収集装置を備える乗客コンベアの概略図である。
【図2】図2は、図1に示す入出力部と回路接続部との接続状態を示す説明図である。
【図3】図3は、実施形態に係る乗客コンベアの保全情報収集装置の処理手順の概略を示すフロー図である。
【図4】図4は、取得する最新状態の一例を示す説明図である。
【図5】図5は、保存する動作履歴の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明に係る乗客コンベアの保全情報収集装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0009】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係る保全情報収集装置を備える乗客コンベアの概略図である。同図に示す乗客コンベア1は、複数のステップ2と、一対の欄干パネル4と、手摺りベルト6とを有して構成されている。このうち、ステップ2は、乗客コンベア1の利用対象である利用者が乗るものであり、トラス(図示省略)により設定された傾斜角度を有して支持されており、駆動装置(図示省略)により、上下方向の両端に位置する乗降口10の間を循環移動する。その際に、ステップ2は、外部に面する状態、即ち、外部から視認できる状態では、大部分が階段状の乗り台の形態となって移動することにより、利用者が乗ることが可能になっている。このように設けられるステップ2は、例えばアルミダイカストにより形成されている。
【0010】
欄干パネル4は、外部に面しているステップ2の移動方向に直交する方向を左右方向とする場合におけるステップ2の左右両側に、複数のステップ2を挟んで対向して設置されている。この欄干パネル4は、例えば透明のガラスやアクリルなどによって形成されている。また、手摺りベルト6は、利用者が手をかけるものであり、欄干パネル4のそれぞれ周縁部に移動可能に巻き付けられ、駆動装置により各ステップ2の移動(移動方向も含む)に同期して移動する。この手摺りベルト6は、ゴムなどによって形成されている。このように設けられる乗客コンベア1は、制御盤(図示省略)に設けられる制御回路20によって動作を制御可能になっており、制御盤は、乗降口10の下方に設けられる機械室に設置されている。
【0011】
また、乗客コンベア1には、作動中の安全性を確保するために、作動している乗客コンベア1を停止させることができる安全回路22が設けられている。乗客コンベア1には、複数の箇所に、作動時における安全度が低減する状態を、その場所に応じた手法で検出する装置である安全装置24が設けられており、安全回路22は、この安全装置24に接続されている。例えば、欄干パネル4の周縁部に沿って移動する手摺りベルト6の引込み口であるベルト引込口8には、ベルト引込口8に利用者の手や異物が挟まった場合に、これらを検出する安全装置24であるベルト引込口安全装置(図示省略)が設けられており、安全回路22は、このベルト引込口安全装置にも接続されている。ベルト引込口安全装置に接続されている安全回路22は、ベルト引込口8に異物等が挟まったことをベルト引込口安全装置で検出した場合には、制御回路20に対して制御信号を送信することにより、制御回路20を介して乗客コンベア1を停止させる。
【0012】
また、乗客コンベア1には、作動時における各種の情報を収集する保全情報収集装置40が備えられている。この保全情報収集装置40は、制御盤等と同様に、乗客コンベア1の通常の使用状態では外部からは視認できないように配設されている。このように設けられる保全情報収集装置40は、入出力部42と、記憶部44と、制御部46と、無線通信部48と、アンテナ50と、電源回路52とを有して構成されている。このうち、入出力部42は、乗客コンベア1の制御回路20や安全回路22における電気的な接続部分である回路接続部26に接続されており、回路接続部26を介して安全回路22や制御回路20との間で電気信号の送受信が可能になっている。
【0013】
また、アンテナ50は、ベルト引込口8の近傍に配設されていると共に無線通信部48に接続されており、無線通信部48は、外部の無線通信端末60との間で無線通信によって、情報の送受信を行うことが可能になっている。また、記憶部44は、回路接続部26を介して入出力部42で受信した安全回路22や制御回路20からの情報や、無線通信部48で受信した無線通信端末60からの情報を記憶することが可能になっている。また、制御部46は、保全情報収集装置40の各部を制御することにより、例えば、入出力部42や無線通信部48での情報の送受信の制御や、記憶部44への情報の記憶、及び記憶部44に記憶された情報の呼び出しの制御を行う。
【0014】
また、電源回路52は、保全情報収集装置40の外部の電源(図示省略)に接続されており、電源から供給された電力を、保全情報収集装置40で使用する電圧や電流に変換して、保全情報収集装置40の各部に供給する。
【0015】
また、無線通信部48との間で無線通信を行う無線通信端末60は、人が携帯できる程度の大きさになっており、人が入力操作を行うことができる入力操作部や、情報を表示することができる表示部を有している。このため、無線通信端末60に対して所定の入力操作を行うことにより、必要に応じて無線通信部48に制御指令等の情報を送信したり、無線通信部48から乗客コンベア1の動作状態等の情報を受信して表示部で表示したりすることが可能になっている。
【0016】
これらのように設けられる保全情報収集装置40は、入出力部42が回路接続部26に接続されることにより、乗客コンベア1の動作状態の情報を取得することが可能になっている。次に、この入出力部42と回路接続部26との接続について説明する。
【0017】
図2は、図1に示す入出力部と回路接続部との接続状態を示す説明図である。入出力部42と回路接続部26とは、電気的な接続が可能な接続コード36によって接続されている。回路接続部26において接続コード36が接続されている部分、即ち、入出力部42と接続されている部分の一例を示すと、接続コード36は、回路接続部26の安全回路端子30や、制御回路端子32、制御回路接点34等に接続されている。
【0018】
このうち、安全回路端子30は、安全回路22が作動する際におけるリレーの作動状態に応じて、流れる電気の状態が変化する端子になっている。同様に、制御回路端子32は、制御回路20が作動する際におけるリレーの作動状態に応じて、流れる電気の状態が変化する端子になっている。また、制御回路接点34は、駆動装置で用いられるモータ(図示省略)に供給する電気の通電と遮断とを切り替えるコンタクタの接点になっており、モータの作動状態に応じて流れる電気の状態が変化する端子になっている。
【0019】
これらのように、入出力部42は、制御回路20や安全回路22の電気経路に割り込む状態で、これらの回路に流れる電気の状態を取得し、制御回路20や安全回路22の作動状態を取得することが可能になっている。
【0020】
この実施形態に係る乗客コンベア1の保全情報収集装置40は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。乗客コンベア1を作動させる場合には、安全装置24での検出状態に基づいて安全回路22によって乗客コンベア1の各部の状態を監視しながら、制御回路20で駆動装置を制御することにより、乗客コンベア1を作動させる。
【0021】
また、このように乗客コンベア1を作動させている場合には、回路接続部26を介して制御回路20や安全回路22に接続されている保全情報収集装置40の入出力部42で、制御回路20や安全回路22からの信号を取得し、この信号に基づいて乗客コンベア1の作動状態の情報を継続的に取得する。さらに、このように取得した作動状態の情報のうち、乗客コンベア1の動作履歴として保存の対象になる情報を、動作履歴として記憶部44に保存する。このように、動作履歴として保存する情報としては、制御回路20で制御する乗客コンベア1の作動状態の情報と、安全回路22の作動状態の情報とを、必要に応じて適宜保存する。
【0022】
乗客コンベア1の運転中は、このように動作履歴が保存されながら作動するが、安全回路22が作動した場合には、動作が停止する場合がある。例えば、ベルト引込口8に設けられる安全装置24であるベルト引込口安全装置が、ベルト引込口8に異物が挟まったことを検知した場合には、この検知状態を安全回路22で取得し、安全回路22から制御回路20に制御信号を伝達することにより、乗客コンベア1を停止させる。この場合には、動作履歴には、安全回路22の信号に基づく情報と、制御回路20の信号に基づく情報とが記憶される。
【0023】
乗客コンベア1が停止した場合には、乗客コンベア1の保守を行う作業者が、停止した原因を究明し、この停止の原因となる事象を取り除いてから乗客コンベア1の再起動を行うが、停止した原因を究明する場合には、保全情報収集装置40の記憶部44に記憶されている動作履歴を確認する。これにより、停止時の乗客コンベア1の作動状態と、安全回路22の作動状態とを把握し、停止した原因を突き止めると共に、停止した原因を取り除き、乗客コンベア1を運転可能な状態にする。
【0024】
乗客コンベア1が停止した場合には、このように動作履歴を確認するが、動作履歴を確認する場合には、無線通信端末60によって行う。つまり、無線通信端末60は、保全情報収集装置40の無線通信部48との間で無線通信を行うことが可能になっているため、動作履歴を確認する場合には、作業者が無線通信端末60に対して、動作履歴を確認する旨の入力操作を行う。これにより、無線通信端末60は、保全情報収集装置40に対して動作履歴を確認する旨の制御信号を無線通信によって送信する。
【0025】
この信号を、アンテナ50を介して無線通信部48で受信した保全情報収集装置40は、制御部46で所定の処理を行うことにより、記憶部44に記憶されている動作履歴を、無線通信部48を介して無線通信端末60に送信する。無線通信端末60では、このように送信された動作履歴を受信し、当該無線通信端末60が有する表示部で表示することにより、作業者が動作履歴を確認することが可能になる。これにより、作業者は、乗客コンベア1の停止時における動作状態の把握が可能になり、再起動を行うための作業を行うことができる。
【0026】
図3は、実施形態に係る乗客コンベアの保全情報収集装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態に係る保全情報収集装置40で乗客コンベア1の動作情報を収集する場合における処理手順の概略について説明する。なお、以下の処理は、保全情報収集装置40で乗客コンベア1の動作情報を収集する際に、所定の期間ごとに呼び出されて実行する。
【0027】
乗客コンベア1の動作情報を収集する際には、まず、監視モードであるか否かを判定する(ステップST101)。つまり、乗客コンベア1の点検を行う場合は、作業員が乗客コンベア1を停止させたり、必要に応じて任意で作動させたりするため、安全回路22では乗客コンベア1の動作状態の監視を行わず、点検モードにすることによって安全回路22が作動しないようにする。このように、安全回路22が点検モードの場合には、保全情報収集装置40は乗客コンベア1の動作情報の収集は行わず、安全回路22のモードが、乗客コンベア1の動作状態を監視するモードである監視モードの場合にのみ、情報の収集を行う。なお、この安全回路22のモードは、作業員による安全回路22への入力指示、または、制御回路20への点検の指示入力に対して連動することにより、切り替えられる。
【0028】
保全情報収集装置40では、このように監視モードの場合にのみ情報の収集を行うため、保全情報収集装置40の制御部46では、回路接続部26を介して入出力部42で取得する安全回路22からの情報に基づいて、安全回路22のモードが監視モードであるか否かを判定する。この判定により、安全回路22のモードは監視モードではないと判定された場合(ステップST101、No判定)、即ち、安全回路22のモードは点検モードであると判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
【0029】
これに対し、安全回路22のモードは監視モードであると判定された場合(ステップST101、Yes判定)には、次に、接点は有効であるか否かを判定する(ステップST102)。即ち、制御回路20で乗客コンベア1を作動させたり、安全回路22で監視を行ったりする場合には、制御回路20や安全回路22が有する複数の接点のうち、所望の状態を実現することができる接点を有効にする。制御部46では、このように接点が有効であるか否かの判定を介して、乗客コンベア1を所望の作動状態にすることができるか否かの判定を行う。この判定により、接点は無効であると判定された場合(ステップST102、No判定)には、この処理手順から抜け出る。
【0030】
これに対し、接点は有効であると判定された場合(ステップST102、Yes判定)には、次に、信号は一般であるか否かを判定する(ステップST103)。つまり、保全情報収集装置40では、乗客コンベア1自体の作動時の信号である一般の信号、即ち、制御回路20による信号と、安全回路22の信号との双方の信号を収集することにより、情報を収集する。保全情報収集装置40では、回路接続部26を介して入出力部42によって、これらの信号を受信することにより情報を収集するが、入出力部42で受信する信号は、このように一般の信号と安全回路22の信号とがある。このため、制御部46では、情報を適切に収集するために、受信した信号の種別を判別する。
【0031】
この判定により、受信した信号は一般の信号であると判定した場合(ステップST103、Yes判定)には、次に、接点チェックを行い、最新状態を保存する(ステップST104)。この場合は、受信した信号は、乗客コンベア1自体の作動時の一般の信号であるため、制御回路20の接点の状態をチェックすることにより、乗客コンベア1の作動状態の情報を取得する。
【0032】
ここで、乗客コンベア1の作動状態の情報を取得する際に用いる信号について説明する。図4は、取得する最新状態の一例を示す説明図である。入出力部42で受信する信号は、制御回路20による一般の信号と、安全回路22による信号とに種別が分類されるが、最新状態を保存する場合には、この信号の種別ごとに保存する。
【0033】
制御回路20から出力される信号である一般の信号としては、例えば、乗客コンベア1のステップ2を上り方向に移動させる信号(図4:UP)や、ステップ2を下り方向に移動させる信号(図4:DN)等の、乗客コンベア1の動作に関する信号がある。さらに、制御回路20から出力される信号である一般の信号としては、乗客コンベア1が故障しているか否かを示す故障信号(図4:故障1、故障2)や、乗客コンベア1の作動状態を示す状態信号(図4:状態1)等がある。
【0034】
また、安全回路22から出力される信号としては、乗客コンベア1の各部に設けられる安全装置24からの信号に基づいて、乗客コンベア1の安全状態を示す信号(図4:安全回路1、安全回路2)等がある。
【0035】
また、これらの信号は、回路接続部26において異なる接点から入出力部42に出力されるが、回路接続部26と入出力部42との接点には、接点ごとに[接点No.]が定められている。このため、入出力部42で信号を受信した信号に基づいて最新状態を保存する場合には、信号ごとに、各信号の[接点No.」も併せて保存する。
【0036】
乗客コンベア1の最新情報は、このように入出力部42で受信した信号に基づいて保存するが、具体的には、信号の状態(ON/OFF)や、故障しているか否かを示す故障信号においては、故障中であるか正常であるかの状態を保存する。乗客コンベア1の最新情報を保存する場合には、回路接続部26の接点チェックを行い、これらのように、回路接続部26を介して入出力部42で取得することができる制御回路20や安全回路22の信号の情報に基づいて、記憶部44に保存する。
【0037】
最新状態は、このように入出力部42で取得することができる信号に基づいて保存するが、制御回路20に関わる接点チェックを行うことにより最新状態を保存したら(ステップST104)、次に、状態変化があるか否かを判定する(ステップST105)。つまり、乗客コンベア1の状態は継続的に保存されているが、今回保存した最新状態と、最新状態を取得する前に保存された乗客コンベア1の状態とを比較し、状態の差があるか否かを判断することにより、状態変化があるか否かを判定する。この判定により、状態変化はないと判定された場合(ステップST105、No判定)には、この処理手順から抜け出る。
【0038】
これに対し、状態変化があると判定された場合(ステップST105、Yes判定)には、次に、保存した最新状態が履歴保存対象であるか否かを判定する(ステップST106)。つまり、最新状態を保存する場合には、回路接続部26より取得した全ての情報を一旦保存するが、保全情報収集装置40で情報を収集する場合には、乗客コンベア1の保全に関わる情報のみを、動作履歴として保存する。動作履歴として保存する情報は、大まかにはステップ2の移動状態に関する情報や、故障の発生情報等の、乗客コンベア1の動作状態を的確に判断することができる情報になっており、制御部46は、状態変化があると判断された複数の情報について、動作履歴としての保存対象となる情報であるか否かをそれぞれ判定する。
【0039】
この判定により、状態変化があると判断された情報が履歴保存対象ではないと判定された場合(ステップST106、No判定)には、その情報を動作履歴としては保存せずに、この処理手順から抜け出る。
【0040】
これに対し、状態変化があると判断された情報が履歴保存対象であると判定された場合(ステップST106、Yes判定)には、判定された情報を動作履歴として保存する(ステップST107)。このように、履歴保存対象であると判定された情報を動作履歴として保存する場合は、保存対象となる情報を時刻と共に記憶部44に保存する。このように記憶部44に記憶する動作履歴は、状態変化があると判断された情報のうち、履歴保存対象であると判定された情報であるため、換言すると、記憶部44は、乗客コンベア1の動作状態が変化するごと動作状態の情報を記憶する。
【0041】
図5は、保存する動作履歴の一例を示す説明図である。保存対象となる情報を動作履歴として保存する場合には、例えば、図5に示すように、信号の種類を[接点No.」と共に保存し、その信号の変化内容、即ち、その信号はどのように変化したものであるかを、時刻と共に保存する。この場合、ステップ2の移動方向が情報に関係する場合には、直前の方向も保存する。さらに、動作履歴として保存する情報が、安全回路22から出力され、乗客コンベア1の安全状態を示す信号(例えば、図5の安全回路1)である場合には、故障が発生しているか否かの状態を示すフラグの状態も、動作履歴として保存する。
【0042】
このように、保存対象となる情報を動作履歴として保存することにより、乗客コンベア1の保守を行う場合における乗客コンベア1の運転状態の把握に用いる動作履歴を更新したら、この処理手順から抜け出る。
【0043】
これらに対し、受信した信号は一般の信号ではないと判定した場合(ステップST103、No判定)、つまり、受信した信号は安全回路22からのものであると判定した場合には、次に、接点チェックを行い、最新状態を保存する(ステップST108)。この場合は、受信した信号は、安全回路22からの信号であるため、安全回路22の接点の状態をチェックすることにより、安全回路22の作動状態の情報を取得する(図4参照)。
【0044】
次に、安全回路22の動作後、保存タイミングであるか否かを判定する(ステップST109)。つまり、安全回路22は、制御回路20とは異なり、主に乗客コンベア1の運転時に不具合が発生した場合に動作をするので、動作履歴として保存する情報量は、制御回路20から出力される信号に基づく情報量より少なくなっている。このため、安全回路22の動作履歴を保存する処理手順に到達した場合でも、安全回路22は変化していない場合が多くなることが考えられる。従って、安全回路22の情報の一部を動作履歴として保存する場合には、安全回路22が動作し、保存タイミングになったか否かを確認する。これにより、保存する情報が無い状態での動作履歴に関する処理手順の実行を抑制し、処理手順を簡略化する。
【0045】
この判定により、安全回路22の動作後、保存タイミングではないと判定した場合(ステップST109、No判定)には、この処理手順から抜け出る。
【0046】
これに対し、安全回路22の動作後、保存タイミングであると判定した場合(ステップST109、Yes判定)には、保存した最新状態が履歴保存対象であるか否かを判定する(ステップST110)。つまり、制御回路20から出力された一般の信号に基づく最新状態が履歴保存対象であるか否かを判定する場合(ステップST106)と同様に、安全回路22からの信号に基づく最新状態が、動作履歴としての保存対象となる情報であるか否かをそれぞれ判定する。
【0047】
この判定により、安全回路22からの信号に基づく最新状態の情報が履歴保存対象ではないと判定された場合(ステップST110、No判定)には、その情報を動作履歴としては保存せずに、この処理手順から抜け出る。
【0048】
これに対し、安全回路22からの信号に基づく最新状態の情報が履歴保存対象であると判定された場合(ステップST110、Yes判定)には、判定された情報を動作履歴として、時刻と共に記憶部44に保存する(ステップST111)。安全回路22が作動した場合には、記憶部44は、安全回路22の作動時における乗客コンベア1の作動状態の情報のみでなく、作動した時間を含む安全回路22の作動情報も動作履歴として記憶する。このため、換言すると、記憶部44は、安全回路22が作動した場合には、安全回路22が作動した時間と、安全回路22の作動の前後の乗客コンベア1の動作状態との情報を記憶する。つまり、乗客コンベア1の動作状態は、保存対象となる作動状態の情報を継続的に動作履歴として保存するため、安全回路22の作動時には、安全回路22の作動情報のみでなく、安全回路22の作動の前後における乗客コンベア1の動作状態の情報も記憶することになる。
【0049】
乗客コンベア1の運転中に保全情報収集装置40で動作履歴を保存する場合は、このように、継続的に取得する最新情報のうち、履歴として必要な情報を適宜選別して保存をする。
【0050】
作業者は、無線通信端末60と保全情報収集装置40との間で無線通信を行うことにより、この動作履歴を無線通信端末60によって確認するが、無線通信端末60は、保全情報収集装置40に対して任意の指示を行うことも可能になっている。例えば、動作履歴は、回路接続部26を介して取得する乗客コンベア1の最新情報のうち、保存対象になると判断された情報が動作履歴として保存されるが、無線通信端末60は、この保存対象となる情報を設定する、或いは切り替える指示を行うことが可能になっている。
【0051】
また、乗客コンベア1の運転時間が長くなるに従って動作履歴は増加するため、無線通信端末60で確認したら記憶部44に保存されている動作履歴のリセットを行ったり、保全情報収集装置40に設けられ、動作履歴を保存する際に用いられる時計の時間調整を行ったりするなどの初期設定も、無線通信端末60で行うことが可能になっている。換言すると、記憶部44は、無線通信端末60から送信される信号に基づいて、動作状態のうち記憶する情報の切り替え及び初期設定を行うことができるように設けられている。
【0052】
作業者は、このように無線通信端末60を用いて保全情報収集装置40に対して任意の指示を行ったり、保全情報収集装置40から情報を受け取ったりすることにより、制御回路20や安全回路22を直接確認することなく、乗客コンベア1の保守を行う。
【0053】
また、無線通信端末60は、複数の離れた位置に設置される複数の乗客コンベア1の動作状態を管理するサーバー(図示省略)と通信可能になっており、無線通信端末60で取得した動作履歴を、サーバーに伝達することができる。サーバーは、この動作履歴を乗客コンベア1の履歴として保存することができる。また、無線通信端末60は、サーバーと通信してサーバーに保存されている履歴を受け取ることが可能になっているため、作業者が乗客コンベア1の保守作業を行う場合には、サーバーに保存されている履歴も参照して、保守作業を行うことができる。
【0054】
以上の保全情報収集装置40は、乗客コンベア1の安全回路22が作動した場合には、作動した時間の情報と共に、安全回路22の作動時における乗客コンベア1の動作状態の情報を記憶部44で記憶し、記憶部44で記憶した情報を、無線通信部48によって無線通信端末60に送信可能になっている。これにより、安全回路22が作動した場合には、乗降口10の下方の機械室に作業者が入り、機械室に設置されている制御盤等を直接確認することなく、安全回路22の作動時の乗客コンベア1の状態を、無線通信端末60によって取得することができる。この結果、適切な動作情報を容易に得ることができる。
【0055】
また、このように、乗客コンベア1の動作情報を容易に得ることができるため、安全回路22が作動して乗客コンベア1が停止した場合でも、停止した原因を容易に特定することができる。この結果、乗客コンベア1の停止時に、早期に復旧することができる。
【0056】
また、機械室に入らなくても乗客コンベア1の動作情報を得ることができるため、乗客コンベア1の管理者自身が、無線通信端末60で動作情報を確認することができる。このため、容易に再起動が可能な程度の軽微な事象が原因で乗客コンベア1が停止した場合には、乗客コンベア1の管理者が動作情報を確認することにより、管理者によって乗客コンベア1を再起動することができる。この結果、短時間で乗客コンベア1の運転を再開することができる。
【0057】
また、記憶部44で動作履歴を記憶し、この動作履歴を外部から無線通信端末60で容易に取得することができるため、乗客コンベア1の経時的な動作の状態を、容易に取得することができる。この結果、乗客コンベア1の保全作業時の整備時期を、容易に特定することができる。
【0058】
また、乗客コンベア1の運転時には、保存対象となる情報、即ち、所定の動作状態の情報を動作履歴として継続して記憶部44で記憶することにより、安全回路22が作動した場合における安全回路22の作動の前後の乗客コンベア1の動作状態の情報を記憶するため、安全回路22が作動した場合の乗客コンベア1の動作状態を、より的確に把握することができる。これにより、安全回路22が作動した原因や、再起動させるために必要な手段を、より適切に認識することができる。この結果、乗客コンベア1が停止した場合でも、より短時間で運転を再開させることができる。
【0059】
また、乗客コンベア1の運転時に記憶部44で記憶する情報の切り替えや、初期設定を無線通信端末60によって行うことができるため、作業者が機械室に入って制御盤等に対して入力操作を行うことなく、無線通信端末60を用いて容易に記憶部44の記憶状態を設定することができる。また、無線通信端末60を用いて乗客コンベア1の外部から設定を行うことができるため、乗客コンベア1の運転中でも、運転を停止することなく所望の状態に設定することができる。この結果、乗客コンベア1の利用者による乗客コンベア1を利用する機会の損失を発生させることなく、より適切な所望の動作情報を容易に得ることができる。
【0060】
また、無線通信部48に接続されているアンテナ50は、乗客コンベア1のベルト引込口8の近傍に配設されているため、無線通信部48と無線通信端末60との間で、より確実に情報の送受信を行うことができる。つまり、アンテナ50が機械室など、金属の部材で囲まれている空間内に設置された場合、無線通信部48と無線通信端末60との間で情報の送受信を行う場合における搬送波である電波は、アンテナ50の周囲の金属によって遮断され易くなる。この場合、無線通信部48と無線通信端末60との間での良好な通信状態を確保することが困難になるため、これらの間での送受信が困難になる場合がある。これに対し、ベルト引込口8は樹脂製である場合が多いため、アンテナ50をベルト引込口8の近傍に配設した場合には、無線通信部48と無線通信端末60との間で通信を行う際に用いる電波は、アンテナ50の周囲では遮断され難くなるため、アンテナ50は電波を送受信し易くなる。この結果、無線通信部48と無線通信端末60との間で、より確実に情報の送受信を行うことができ、適切な動作情報を、より確実に得ることができる。
【0061】
また、乗客コンベア1の動作状態を保存する場合には、動作状態のうち履歴保存対象となる動作状態のみ動作履歴として保存するため、保存される動作状態の情報量が多くなり過ぎることを抑制することができる。これにより、安全回路の作動時等に、作業者が乗客コンベア1の動作状態を確認する場合に、動作状態を把握し易くすることができる。この結果、適切な動作情報を、より容易に得ることができる。
【0062】
なお、上述した保全情報収集装置40では、アンテナ50はベルト引込口8の近傍に配設することにより通信性を確保しているが、これ以外の手法によって通信性を確保してもよい。例えば、アンテナ50は、薄いフィルム状等の平面型にして形成してもよい。これにより、欄干パネル4等に密着させてアンテナ50を設置することができるため、外部からの視認時に目立たせることなく、外部に面して通信を行い易い部分に、アンテナ50を設けることができる。また、このように、目立たせることなくアンテナ50を設置することにより、乗客コンベア1の利用者の通行の邪魔にならないように設置することができ、また、いたずら等による破損を防ぐことができる。この結果、乗客コンベア1の外面に設置することに伴う不具合を発生させることなく、通信性を確保することができる。
【0063】
また、上述した保全情報収集装置40では、動作履歴として保存をする回数を少なくするために、複数の情報をまとめて保存しているが、1回の保存時における情報量は減らし、保存回数を増加させてもよい。例えば、実施形態に係る保全情報収集装置40では、情報の保存時には直前のステップ2の移動方向も保存しているが、制御回路20及び安全回路22の動作履歴を保存する回数を増加させた場合には、保存されている動作履歴に基づいて直前の状態を把握することができる。このため、この場合は、動作履歴の保存時には、直前の移動方向は保存しなくてもよい。このように、動作履歴の保存形態は、作業者や管理者による任意の形態で保存してもよい。
【0064】
また、上述した保全情報収集装置40は、回路接続部26に保全情報収集装置40の入出力部42を接続するのみで、乗客コンベア1の動作状態の情報を無線通信端末60に送信可能になるため、既存の乗客コンベア1に対して容易に保全情報収集装置40に接続することができる。これにより、既存の乗客コンベア1で、容易に適切な動作情報を得ることを可能にすることができる。
【0065】
また、上述した保全情報収集装置40は、所定の傾斜角度を有する乗客コンベア1に備えられているが、保全情報収集装置40は、これ以外の乗客コンベアに備えられていてもよい。例えば、保全情報収集装置40が備えられる乗客コンベアは、傾斜角度を有しない、いわゆるオートロードであってもよい。保全情報収集装置40は、乗客コンベアの形態に関わらず、安全回路22の作動時の乗客コンベア1の状態を、無線通信端末60によって取得することが可能になっていればよく、このように設けることにより、適切な動作情報を容易に得ることができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 乗客コンベア
2 ステップ
6 手摺りベルト
8 ベルト引込口
20 制御回路
22 安全回路
24 安全装置
26 回路接続部
40 保全情報収集装置
42 入出力部
44 記憶部
46 制御部
48 無線通信部
50 アンテナ
60 無線通信端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの動作状態が変化するごとに前記動作状態の情報を記憶すると共に、前記乗客コンベアの安全回路が作動した場合に前記安全回路が作動した時間と前記安全回路の作動時の前記動作状態との情報を記憶する記憶部と、
無線通信端末との間で無線通信可能に設けられると共に、前記記憶部で記憶した情報を前記無線通信端末に送信可能な無線通信部と、
を備えることを特徴とする乗客コンベアの保全情報収集装置。
【請求項2】
前記記憶部は、所定の前記動作状態の情報を継続して記憶することにより、前記安全回路が作動した場合における前記安全回路の作動の前後の前記動作状態の情報を記憶することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの保全情報収集装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記無線通信端末から送信される信号に基づいて、前記動作状態のうち記憶する情報の切り替え及び初期設定を行うことができるように設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の乗客コンベアの保全情報収集装置。
【請求項4】
前記無線通信部に接続され、前記無線通信端末との間で無線通信を行うアンテナは、前記乗客コンベアの手摺りベルトの引込み口の近傍に配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗客コンベアの保全情報収集装置。
【請求項5】
前記無線通信部に接続され、前記無線通信端末との間で無線通信を行うアンテナは、平面型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗客コンベアの保全情報収集装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−188262(P2012−188262A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54327(P2011−54327)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】