説明

乗客コンベアの清掃装置、及び清掃方法

【課題】清掃体のくし板への衝突を生じさせず、また、オイルパンの周囲に位置する機器、機材の清掃に伴う汚損を生じさせずに、オイルパンに堆積したゴミを清掃できる。
【解決手段】本発明は、取り外したステップ1に隣接するステップ1に設けられ、清掃板31が取り付けられるステップ1の前輪軸44と、清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段36と、この清掃運転指示入力手段36の指示信号に応じて、オイルパン2に摺接している清掃板31を、オイルパン2の下部水平部22と上部水平部21との間に形成される移動範囲(ゴミ43の清掃範囲)で往復移動させるように、モータ6の駆動を制御するモータ制御手段を備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルパンに摺接してオイルパン上に堆積した塵埃、油等のゴミを清掃する清掃体を有する乗客コンベアの清掃装置、及びこの清掃装置に適用される清掃方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベア例えばエスカレータのオイルパンに堆積した塵埃、油等のゴミを清掃しないと煙草等のもらい火により発火、発煙に至ってしまう虞がある。したがって、このようなゴミは定期的に清掃し除去する必要がある。しかし、清掃するためには、エスカレータのオイルパンはステップの復路側下方に設置されていることから、ステップ全体の半数を取り外す必要があり、非常に重労働であり、多くの作業時間が必要であった。
【0003】
この問題を解決するために、従来技術として特許文献1に示されるものがある。この従来技術は、環状走行するステップ内に収納され、踏板表面に設けられた穴から突出可能な清掃体と、この清掃体の出し入れを規制する閉塞手段と、この閉塞手段を動作させるステッピングモータと、エスカレータの累積走行時間を積算するタイマと、ステッピングモータの動作回数を数えるカウンタとを備えた構成にしてある。この従来技術は、エスカレータの累積走行時間がタイマに設定された時間になる毎にステッピングモータを動作させ、閉塞手段を開いて清掃体を自重によって降下させてオイルパンに摺接させ、この清掃体によってオイルパンに堆積したゴミを清掃するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−302414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術は、環状走行するステップ内に収納され、踏板表面に設けられた穴から突出可能な清掃体の自重降下によりオイルパンに堆積したゴミを清掃するようになっていることから、清掃を終了した清掃体をステップ内に収納させる際に、油等を含んだゴミによって清掃体が固渋してステップ内に収納することができなくなる懸念がある。このような事態を生じると、清掃体がエスカレータの乗降口に設置されたくし板に衝突して清掃体等を損傷させたり、清掃体ですくい取った油等が踏板表面に付着して踏板表面を清掃する別の煩雑な作業が必要になる。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、清掃体のくし板への衝突を生じさせることなく、また、オイルパンの周囲に位置する機器、機材の清掃に伴う汚損を生じさせることなく、オイルパンに堆積したゴミを清掃することができる乗客コンベアの清掃装置、及び清掃方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る乗客コンベアの清掃装置は、モータによって駆動され、一方の乗降口と他方の乗降口との間で循環走行するステップに取り付けられる清掃体を備え、この清掃体を復路側の前記ステップの下方に設置されたオイルパンに摺接させた状態で、前記モータによって前記ステップを駆動することにより、前記清掃体によって前記オイルパンに堆積したゴミを清掃する乗客コンベアの清掃装置において、前記ステップを取り外した部位に位置し前記ステップの移動に関連して配置され前記清掃体を保持する保持部材と、清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段と、この清掃運転指示入力手段の指示信号に応じて、前記保持部材に保持され前記オイルパンに摺接している前記清掃体を、前記オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させるように、前記モータの駆動を制御するモータ制御手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、オイルパンに堆積したゴミの清掃時には、ステップを例えば1つ取り外した位置に存在するステップの移動に関係する保持部材に清掃体を保持させた状態で、清掃運転指示入力手段を操作し、この清掃運転指示手段から出力される指示信号に応じて、モータ制御手段によってステップを駆動するモータを制御すればよい。これにより、保持部材に保持されオイルパンに摺接している清掃体を、オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させてオイルパン上に堆積したゴミを清掃することができる。清掃体によって清掃したオイルパン上のゴミは、例えばオイルパンの一方の端部側部分、あるいは他方の端部側部分から排出させることができる。また、清掃が終了した際には、清掃体を保持部材から取り外すことがおこなわれる。
【0009】
すなわち、本発明は、清掃を終了した際に清掃体をステップに収納させることがないことから、仮に清掃体が油等によって固渋したとしても、その清掃体がオイルパンの一方の端部側部分、あるいは他方の端部側部分から離れた乗降口に設置されたくし板に衝突する虞がなく、また、オイルパンの周囲に位置する機器、機材に清掃体が接触してこれらの機器、機材に清掃に伴う汚損を生じさせることなく、オイルパンに堆積したゴミを清掃することができる。
【0010】
また本発明は、前記乗客コンベアの清掃装置において、前記モータ制御手段は、前記モータの駆動トルクを指令するトルク指令手段と、前記モータの速度を検出する速度検出手段と、この速度検出手段で検出される前記モータの速度に基づいて前記ステップの移動速度を算出するステップ速度計算手段と、前記速度検出手段で検出される前記モータの速度に基づいて前記ステップの移動距離を算出するステップ移動距離計算手段と、清掃運転時の前記ステップの目標移動速度に相応する信号を出力するものであって、前記オイルパンの前記一方の端部側部分と前記他方の端部側部分との間に形成される前記移動範囲が設定され、前記ステップ移動距離計算手段で算出された移動距離だけ移動した前記清掃体が、前記オイルパンの前記一方の端部側部分または前記他方の端部側部分に至ったと前記移動範囲と前記移動距離に基づいて判断されたときに、前記モータを反転させる前記目標移動速度に相応する信号を出力するとともに、前記清掃体の前記移動範囲における往復回数の増加に伴って前記移動範囲を次第に短縮させる演算を行う清掃運転速度指令手段と、この清掃運転速度指令手段から出力される前記ステップの前記目標移動速度と、前記ステップ速度計算手段から出力される前記ステップの移動速度との速度差を演算し、その速度差に相応する信号を前記トルク指令手段に出力する演算部とを含むことを特徴としている。
【0011】
また本発明は、前記乗客コンベアの清掃装置において、当該乗客コンベアが、平常運転時の前記ステップの目標移動速度に相応する信号を出力する平常運転速度指令手段を備えたエスカレータから成り、前記オイルパンが上部水平部と、下部水平部と、これらの上部水平部と下部水平部のそれぞれに連設される傾斜部とを有し、前記オイルパンの一方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか一方から成り、前記オイルパンの前記他方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか他方から成り、前記モータ制御手段は、前記平常運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置か、前記清掃運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置かのいずれかの切替位置に切り替え可能なスイッチ部と、このスイッチ部を前記清掃運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置に切り替える信号を出力する清掃運転モード切替え手段と、前記トルク指令手段から出力される信号に基づいて前記清掃体の前記往復回数を数えるカウント手段と、予め清掃終了に相応する前記清掃体の前記往復回数が終了回数として設定され、前記カウント手段で数えられた前記往復回数が前記終了回数に至ったと判断したときに、前記清掃運転速度指令手段からの信号の出力を停止させる処理を行う停止手段と、当該エスカレータの前記ステップの枚数を記憶するステップ枚数格納手段とを含み、前記清掃運転速度指令手段は、前記ステップ枚数格納手段に格納された前記ステップの枚数に基づいて前記移動範囲を演算し、その演算された移動範囲を設定する処理を行うことを特徴としている。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係る乗客コンベアの清掃方法は、モータによって駆動され、一方の乗降口と他方の乗降口との間で循環走行するステップの移動に伴って移動する清掃体を備え、この清掃体を復路側の前記ステップの下方に設置されたオイルパンに摺接させた状態で、前記モータによって前記ステップを駆動することにより、前記清掃体によって前記オイルパンに堆積したゴミを清掃する乗客コンベアの清掃装置にあって、前記ステップを取り外した部位に位置し前記ステップの移動に関連して配置され前記清掃体を保持する保持部材と、清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段と、この清掃運転指示入力手段の指示信号に応じて、前記保持部材に保持され前記オイルパンに摺接している前記清掃体を、前記オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させるように、前記モータの駆動を制御するモータ制御手段を備えた乗客コンベアの清掃装置に適用される清掃方法であって、前記モータ制御手段によって、前記移動範囲における前記清掃体の往復回数の増加に応じて前記移動範囲を次第に短縮させるように、前記モータの駆動を制御させることを特徴としている。
【0013】
オイルパンに堆積したゴミを清掃体で清掃する際に、清掃体の往復移動に伴う清掃体の反転位置の誤差、すなわち清掃体の移動範囲の誤差によって、清掃体がオイルパンの外方に飛び出し周囲の機器を汚損させてしまう懸念があるが、本発明はモータ制御手段によって、清掃体の往復回数の増加に応じて移動範囲を次第に短縮させるようにしてあり、この移動範囲の短縮によって清掃体の移動範囲の誤差を吸収できる。したがって、このような移動範囲の誤差に伴って生じる不具合、すなわち清掃体がオイルパンの外方に飛び出し周囲の機器、機材を汚損させてしまう不具合を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明は、前記乗客コンベアの清掃方法において、当該乗客コンベアが、下部乗降口側に配置された下部機械室を有するエスカレータから成り、前記オイルパンが上部水平部と、下部水平部と、これらの上部水平部と下部水平部のそれぞれに連設される傾斜部とを有し、前記オイルパンの一方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか一方から成り、前記オイルパンの他方の端部側部分が前記上部水平部及び下部水平部のいずれか他方から成り、前記清掃体によって清掃され、前記オイルパンの前記下部水平部に溜まったゴミを前記下部機械室に排出させるようにしたことを特徴としている。
【0015】
このようにして清掃を行う本発明は、オイルパンに堆積されたゴミを清掃体の往復移動によってオイルパンの下部水平部に集め、この下部水平部のゴミを下部機械室から排出させるようにして能率よく清掃作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ステップを取り外した部位に位置しステップの移動に関連して配置され清掃体を保持する保持部材と、清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段と、この清掃運転指示入力手段の指示信号に応じて、保持部材に保持されオイルパンに摺接している清掃体を、オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させるように、モータの駆動を制御するモータ制御手段を備えた構成にしてある。これに伴って本発明は、保持部材に保持されオイルパンに摺接している清掃体をステップの移動とともに、オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させてオイルパン上に堆積したゴミを清掃することができる。すなわち、本発明は、清掃を終了した際に清掃体をステップに収納させることがないことから、仮に清掃体が油等によって固渋したとしても、その清掃体がオイルパンの一方の端部側部分、あるいは他方の端部側部分から離れた乗降口に設置されたくし板に衝突する虞がなく、また、オイルパンの周囲に位置する機器、機材に清掃体が接触してこれらの機器、機材に清掃に伴う汚損を生じさせることなく、オイルパンに堆積したゴミを清掃することができる。これらにより従来に比べて清掃作業の精度を高め、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る乗客コンベアの清掃装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1に示す乗客コンベアの清掃装置の一実施形態に適用される清掃方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る乗客コンベアの清掃装置、及び清掃方法の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る乗客コンベアの清掃装置の一実施形態の構成を示す図である。本実施形態に係る清掃装置が備えられる乗客コンベアは、例えばエスカレータである。このエスカレータは、同図1に示すように、一方の乗降口例えば下方乗降口と、他方の乗降口例えば上方乗降口との間で循環走行し、乗客を斜め上方または下方へ運搬可能なステップ1と、復路側のステップ1の直下に設置されたオイルパン2とを備えている。オイルパン2上には、清掃対象物である塵埃、油等を含むゴミ43が堆積する。オイルパン2は、上部水平部21と、下部水平部22と、これらの上部水平部21と下部水平部22とを連設する傾斜部23とを有している。また図1に示すエスカレータは、ステップ1が固定されるステップチェーン3と、このステップチェーン3が巻き掛けられるターミナルギヤ4と、このターミナルギヤ4を駆動する減速機5と、この減速機5を駆動するモータ、すなわちステップ1を駆動するモータ6とを備えている。なお、このエスカレータは、ステップ1に乗客を乗せて走行する際のステップ1の速度を指令する平常運転速度指令手段10を備えている。
【0020】
このようなエスカレータに備えられる本実施形態に係る清掃装置は、下端部分がオイルパン2に摺接するように配置される清掃体、例えば清掃板31を備えている。この清掃板31は、例えばステップ1を1つ取り外した位置に存在するステップ1の移動に関連する保持部材に、例えば取り外したステップ1に隣接するステップ1の前輪軸44に、その上端部分が取り付けられ保持される。また、オイルパン2上に堆積したゴミ43の清掃体31による清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段36と、この清掃運転指示入力手段36の指示信号に応じて、前輪軸44に取り付けられオイルパン2に摺接している清掃板31を、オイルパン2の一方の端部側部分、例えばオイルパン2の下部水平部22と、他方の端部側部分、例えばオイルパン2の上部水平部21との間に形成される移動範囲(清掃範囲)で往復移動させるように、前述したモータ6の駆動を制御するモータ制御手段を備えている。
【0021】
前述したモータ制御手段は、モータ6の駆動トルクを指令するトルク指令手段11と、モータ6の速度を検出する速度検出手段7とを備えている。なお、トルク指令手段11は、近年増加傾向にあるインバータで制御されるエスカレータに装備される。
【0022】
また、モータ制御手段は、速度検出手段7で検出されるモータ6の速度に基づいてステップ1の移動速度を算出するステップ速度計算手段9と、速度検出手段7で検出されるモータ6の速度に基づいてステップ1の移動距離を算出するステップ移動距離計算手段34とを備えている。
【0023】
また、モータ制御手段は、清掃運転時のステップ1の目標移動速度に相応する信号を出力するものであって、オイルパン2の一方の端部側部分すなわち下部水平部22と他方の端部側部分すなわち上部水平部21との間に形成される移動範囲(清掃範囲)が設定され、ステップ移動距離計算手段34で算出された移動距離だけ移動した清掃板31が、オイルパン2の下部水平部22または上部水平部21に至ったと、前述した移動範囲と前述した移動距離に基づいて判断されたときに、モータ6を反転させる目標移動速度に相応する信号を出力するとともに、清掃板31の移動範囲における往復回数の増加に伴って、同図1に示す1往復目の移動範囲、2往復目の移動範囲、・・・n往復目の移動範囲のように、移動範囲を次第に短縮させる演算を行う清掃運転速度指令手段32とを備えている。また、モータ制御手段は、清掃運転速度指令手段32から出力されるステップ1の目標移動速度と、ステップ速度計算手段9から出力されるステップ1の移動速度との速度差を演算し、その速度差に相応する信号をトルク指令手段11に出力する演算部40を含んでいる。
【0024】
さらに、モータ制御手段は、前述した平常運転速度指令手段10と演算部40とを接続する切替位置か、清掃運転速度指令手段32と演算部40とを接続する切替位置かのいずれかの切替位置に切り替え可能なスイッチ部41と、このスイッチ部41を清掃運転速度指令手段32と演算部40とを接続する切替位置に切り替える信号を出力する清掃運転モード切替え手段33とを備えている。
【0025】
また、モータ制御手段は、トルク指令手段11から出力される信号に基づいて清掃板31の往復回数を数えるカウント手段37と、予め清掃終了に相応する清掃板31の往復回数が終了回数として設定され、カウント手段37で数えられた往復回数が終了回数に至った判断したときに、清掃運転速度指令手段32からの信号の出力を停止させる処理を行う停止手段38と、当該エスカレータのステップ1の枚数を記憶するステップ枚数格納手段35とを備えている。前述した清掃運転速度指令手段32は、ステップ枚数格納手段35に格納されたステップ1の枚数に基づいて移動範囲を演算し、その演算された移動範囲を設定する処理を行う。
【0026】
図2は図1に示す乗客コンベアの清掃装置の一実施形態に適用される清掃方法の一実施形態を示すフローチャートである。この図2に基づいて、本実施形態に係る清掃方法を以下に説明する。
【0027】
はじめに、下部機械室42において、清掃板31を取り付ける予定部位に位置しているステップ1を1つ取り外し、そのステップ1に隣接しているステップ1の例えば前輪軸44に清掃板31を取り付け、保持させることが行われる(手順S1)。
【0028】
次に、このように清掃板31を取り付けた状態で、清掃板31がオイルパン2の下部水平部22に接するまで、ステップ1を動かすことが行われる(手順S2)。
【0029】
次に、清掃運転モード切替え手段33で、運転モードを平常運転速度指令モードから清掃運転速度指令モードに切り替える操作が行われる。これにより、清掃運転速度指令手段32がスイッチ部41を介して演算部40に接続される(手順S3)。なお、清掃板31のオイルパン2上における1回目の移動範囲は、ステップ枚数格納手段35から出力されるステップ1の枚数に基づいて演算がなされ、その演算値を考慮して設定がなされる。
【0030】
次に、清掃運転指示入力手段36を操作して、清掃運転を開始する。この清掃運転指示入力手段36から出力される信号に基づいて、清掃運転速度指令手段32からスイッチ部41を介して演算部40に清掃運転速度、すなわちステップ1の目標移動速度が出力される。演算部40は、清掃運転速度指令手段32から出力されるステップ1の目標移動速度とステップ速度計算手段9から出力されるステップ1の移動速度との速度差を演算し、その速度差に相応する信号をトルク指令手段11に出力する。このトルク指令手段11から出力される信号によりモータ6が制御され、オイルパン2上に設定された移動範囲内のステップ1の往復移動が開始する(手順S4)。
【0031】
ステップ1の移動に伴って清掃板31がオイルパン2の下部水平部22から上部水平部21まで移動する間は、例えば清掃板31がオイルパン2上のゴミ43を乗り上げるように進み、ステップ1が上部水平部21上の所定の位置に至ったと運転速度指令手段32で判断されたとき、モータ6を反転させる目標移動速度が、この清掃運転速度指令手段32から出力される(手順S5)。
【0032】
モータ6が反転駆動し、ステップ1が上部水平部21から下部水平部22上の所定の位置に至るまで移動する間は、清掃板31の下端部分がオイルパン2上のゴミ43に食い込み、この清掃板31によってオイルパン2上のゴミ43が下方へと排出される(手順S6)。ステップ1が下部水平部22上の所定の位置に至ったと運転速度指令手段32で判断されたとき、モータ6を再び反転させる目標移動速度が、この清掃運転速度指令手段32から出力される。このようにして、オイルパン2上の移動範囲において清掃板31を往復移動させることが行われる。また、このような清掃板31の往復回数の増加に応じて、前述の移動範囲を次第に短縮させる制御が清掃運転速度指令手段32によって実施される。すなわち、図1に示したように、清掃運転速度指令手段32において設定される清掃板31の1回目の移動範囲に比べて、2回目の移動範囲は短く設定され、以後同様に清掃板31の往復回数の増加に応じて移動範囲が短くなるように設定される。
【0033】
なお、清掃板31を上部水平部21から下部水平部22に向かうようにステップ1を駆動する際のトルク指令手段11の指令値は正であり、モータ6は正転する制御がなされ、逆に、清掃板31を下部水平部22から上部水平部21に向かうようにステップ1を駆動する際のトルク指令手段11の指令値は例えば負であり、モータ6は逆転する制御がなされる。
【0034】
清掃板31の往復移動に際しては、必ずトルク指令値は、正と負の一対がトルク指令手段11から出力される。したがって、トルク指令手段11から出力される信号に基づいて、清掃板31の往復回数をカウント手段37で数えることができる。このカウント手段37で数えられる往復回数が、停止手段38で設定される終了回数に至るまで、清掃板31の往復移動による清掃が繰り返され、オイルパン2上のゴミ43がオイルパン2の下部水平部22に集められる(手順S7)。
【0035】
カウント手段37から出力される清掃板31の往復回数が停止手段38で設定された終了回数に至ったことが、停止手段38で判断されると、停止手段38から清掃運転速度指令手段32に停止信号が出力される。これにより清掃運転速度指令手段32からの目標移動速度の出力は停止し、モータ6は停止する(手順S8)。ここでオイルパン2の下部水平部22に集められたゴミ43が下部機械室42に手作業で排出されて、このエスカレータから除去するために集められる(手順S9)。このようにして能率よく清掃作業を行うことができる。例えば、このようなゴミ43の収集後に、下部機械室42において、取り外したステップ1を元の状態に取り付けることが行われ、スイッチ部41が平常運転速度指令手段10と演算部40とを接続するように再び切り替えられる。
【0036】
このようにして清掃を行う本実施形態に係る清掃装置、及び清掃方法によれば、前述のように、オイルパン2に堆積したゴミ43の清掃時には、ステップ1を1つ取り外した位置に存在するステップ1の前輪軸44に清掃板31を保持させた状態で、清掃運転指示入力手段36を操作し、この清掃運転指示入力手段36から出力される指示信号に応じて、モータ制御手段によってステップ1を駆動するモータ6を制御することにより、前輪軸44に保持されオイルパン2に摺接している清掃板31を、オイルパン2の下部水平部22と上部水平部21との間に形成される移動範囲で往復移動させてオイルパン2上に堆積したゴミを清掃することができる。清掃板31によって清掃したオイルパン2上のゴミ43は、例えばオイルパン2の下部水平部22を介して下部機械室42から排出させることができる。また、清掃が終了した際には、清掃板31を保持していた保持部材、すなわち前輪軸44から清掃板31を取り外すことが行われる。
【0037】
すなわち、本実施形態は、清掃を終了した際に清掃板31をステップ1に収納させることがないことから、仮に清掃板31がゴミ43に含まれる油等によって固渋したとしても、その清掃板31がオイルパン2の下部水平部22、あるいは上部水平部21から離れた乗降口に設置されたくし板に衝突する虞がなく、また、オイルパン2の周囲に位置する機器、機材に清掃板31が接触してこれらの機器、機材に清掃に伴う汚損を生じさせることなく、オイルパン2に堆積したゴミ43を清掃することができる。これらにより清掃作業の精度を高め、信頼性を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態は、清掃板31の往復回数の増加に応じて移動範囲を次第に短縮させるようにしてあり、この移動範囲の短縮によって清掃板31の移動範囲の誤差を吸収できる。したがって、このような移動範囲の誤差に伴って生じる不具合、すなわち清掃板31がオイルパン2の外方に飛び出し周囲の機器、機材を汚損させてしまう不具合を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ステップ
2 オイルパン
6 モータ
7 速度検出手段
9 ステップ速度計算手段
10 平常運転速度指令手段
11 トルク指令手段
21 上部水平部
22 下部水平部
31 清掃板(清掃体)
32 清掃運転速度指令手段
33 清掃運転モード切替え手段
34 ステップ移動距離計算手段
35 ステップ枚数格納手段
36 清掃運転指示入力手段
37 カウント手段
38 停止手段
40 演算部
41 スイッチ部
42 下部機械室
43 ゴミ
44 前輪軸(保持部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって駆動され、一方の乗降口と他方の乗降口との間で循環走行するステップの移動に伴って移動する清掃体を備え、この清掃体を復路側の前記ステップの下方に設置されたオイルパンに摺接させた状態で、前記モータによって前記ステップを駆動することにより、前記清掃体によって前記オイルパンに堆積したゴミを清掃する乗客コンベアの清掃装置において、
前記ステップを取り外した部位に位置し前記ステップの移動に関連して配置され前記清掃体を保持する保持部材と、
清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段と、
この清掃運転指示入力手段の指示信号に応じて、前記保持部材に保持され前記オイルパンに摺接している前記清掃体を、前記オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させるように、前記モータの駆動を制御するモータ制御手段を備えたことを特徴とする乗客コンベアの清掃装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアの清掃装置において、
前記モータ制御手段は、
前記モータの駆動トルクを指令するトルク指令手段と、
前記モータの速度を検出する速度検出手段と、
この速度検出手段で検出される前記モータの速度に基づいて前記ステップの移動速度を算出するステップ速度計算手段と、
前記速度検出手段で検出される前記モータの速度に基づいて前記ステップの移動距離を算出するステップ移動距離計算手段と、
清掃運転時の前記ステップの目標移動速度に相応する信号を出力するものであって、前記オイルパンの前記一方の端部側部分と前記他方の端部側部分との間に形成される前記移動範囲が設定され、前記ステップ移動距離計算手段で算出された移動距離だけ移動した前記清掃体が、前記オイルパンの前記一方の端部側部分または前記他方の端部側部分に至ったと前記移動範囲と前記移動距離に基づいて判断されたときに、前記モータを反転させる前記目標移動速度に相応する信号を出力するとともに、前記清掃体の前記移動範囲における往復回数の増加に伴って前記移動範囲を次第に短縮させる演算を行う清掃運転速度指令手段と、
この清掃運転速度指令手段から出力される前記ステップの前記目標移動速度と、前記ステップ速度計算手段から出力される前記ステップの移動速度との速度差を演算し、その速度差に相応する信号を前記トルク指令手段に出力する演算部とを含むことを特徴とする乗客コンベアの清掃装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベアの清掃装置において、
当該乗客コンベアが、平常運転時の前記ステップの目標移動速度に相応する信号を出力する平常運転速度指令手段を備えたエスカレータから成り、前記オイルパンが上部水平部と、下部水平部と、これらの上部水平部と下部水平部のそれぞれに連設される傾斜部とを有し、前記オイルパンの一方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか一方から成り、前記オイルパンの前記他方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか他方から成り、
前記モータ制御手段は、
前記平常運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置か、前記清掃運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置かのいずれかの切替位置に切り替え可能なスイッチ部と、
このスイッチ部を前記清掃運転速度指令手段と前記演算部とを接続する切替位置に切り替える信号を出力する清掃運転モード切替え手段と、
前記トルク指令手段から出力される信号に基づいて前記清掃体の前記往復回数を数えるカウント手段と、
予め清掃終了に相応する前記清掃体の前記往復回数が終了回数として設定され、前記カウント手段で数えられた前記往復回数が前記終了回数に至ったと判断したときに、前記清掃運転速度指令手段からの信号の出力を停止させる処理を行う停止手段と、
当該エスカレータの前記ステップの枚数を記憶するステップ枚数格納手段とを含み、
前記清掃運転速度指令手段は、前記ステップ枚数格納手段に格納された前記ステップの枚数に基づいて前記移動範囲を演算し、その演算された移動範囲を設定する処理を行うことを特徴とする乗客コンベアの清掃装置。
【請求項4】
モータによって駆動され、一方の乗降口と他方の乗降口との間で循環走行するステップの移動に伴って移動する清掃体を備え、この清掃体を復路側の前記ステップの下方に設置されたオイルパンに摺接させた状態で、前記モータによって前記ステップを駆動することにより、前記清掃体によって前記オイルパンに堆積したゴミを清掃する乗客コンベアの清掃装置にあって、前記ステップを取り外した部位に位置し前記ステップの移動に関連して配置され前記清掃体を保持する保持部材と、清掃運転の開始を指示する指示信号を出力する清掃運転指示入力手段と、この清掃運転指示入力手段の指示信号に応じて、保持部材に保持され前記オイルパンに摺接している前記清掃体を、前記オイルパンの一方の端部側部分と他方の端部側部分との間に形成される移動範囲で往復移動させるように、前記モータの駆動を制御するモータ制御手段を備えた乗客コンベアの清掃装置に適用される乗客コンベアの清掃方法において、
前記モータ制御手段によって、前記移動範囲における前記清掃体の往復回数の増加に応じて前記移動範囲を次第に短縮させるように、前記モータの駆動を制御させることを特徴とする乗客コンベアの清掃方法。
【請求項5】
請求項4に記載の乗客コンベアの清掃方法において、
当該乗客コンベアが、下部乗降口側に配置された下部機械室を有するエスカレータから成り、前記オイルパンが上部水平部と、下部水平部と、これらの上部水平部と下部水平部のそれぞれに連設される傾斜部とを有し、前記オイルパンの一方の端部側部分が前記上部水平部及び前記下部水平部のいずれか一方から成り、前記オイルパンの他方の端部側部分が前記上部水平部及び下部水平部のいずれか他方から成り、
前記清掃体によって清掃され、前記オイルパンの前記下部水平部に溜まったゴミを前記下部機械室に排出させるようにしたことを特徴とする乗客コンベアの清掃方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101922(P2012−101922A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253153(P2010−253153)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】