説明

乗用型苗移植機

【課題】疎植状態で植付装置に不等速回転を付与している田植機において、動力伝達機構のねじれを抑制しつつ、等速回転と不等速回転との切り替えを簡単に実現する。
【解決手段】植付装置は植付け中心軸91に取付けられている。植付け伝動軸87には主動不等速ベベルギア98と主動等速ベベルギア121とが嵌まり、植付け中心軸91には従動不等速ベベルギア99と従動等速ベベルギア117とが嵌まっている。植付け伝動軸87の回転トルクはレバー127でスライドするキー部材123により、主動等速ベベルギア98と主動不等速ベベルギア121とに選択的に伝達される。等速回転と不等速回転との切り替えが動力伝達機構の末端部で行われるため、動力伝達機構にねじれが生じることを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のような乗用型苗移植機に関し、特に、植付装置に対する動力伝達手段に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
乗用型苗移植機の代表として乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)がある。この田植機は、一般に、エンジンが搭載された走行機体とその後ろに配置した植付け部とを有しており、植付け部は走行機体に昇降可能に連結されている。植付け部は、苗マットを載せる苗載せ台やその後ろに配置した植付装置を有している。植付装置は、1つのロータリーケースに2つの掻き取りユニットを設けたタイプが一般的であり、ロータリーケースが1回転すると2つの掻き取りユニットはそれぞれロータリーケースに対して1回転する。すなわち、掻き取りユニットはロータリーケースの軸心回りに公転しながら自転するのであり、掻き取りユニットが姿勢を変えながら上下動することにより、苗マットからの苗の掻き取りと圃場への植付けが行われる。
【0003】
そして、単位面積(一般に3.3m)当たりに苗を何株植えるかは必ずしも一定ではなく、地域やユーザーによって希望する植付け株数が相違している。そこで、走行速度に対する植付装置の動作速度を異ならせて、苗の株と株との間隔(株間)を変えることで、単位面積当たりの植付け株数を変更可能と成している。従前は3.3m当たり60〜85株といった密植が多かったが、苗の植付け密度と収量とは比例せず、植付け密度が低くても収量に違いはなかったり却って増収する事実が見られることから、近年は、例えば3.3m当たり37〜50株といった疎植が増加傾向にあると言える。
【0004】
さて、ロータリー式の植付装置は植付爪を有しており、植付爪は側面視で斜めにした姿勢で苗マットから苗を掻き取り、次いで、植付爪は鉛直に近い姿勢になって圃場に向かい、下降し切ってから上昇に転じる。すなわち、植付爪は閉ループ軌跡を描きながら、苗の掻き取り、圃場(泥土)への苗の差し込み、圃場からの離脱、という動きを行うのであり、植付爪は圃場から素早く逃げるように設計されてはいる。
【0005】
しかし、株間が変わると必然的に単位走行距離当たりの植付装置の動作サイクルが変化するため、例えば密植状態のときに下死点付近で植付爪がほぼ鉛直姿勢になるように設定していると、疎植状態では植付爪が圃場から逃げる速度が遅くなるため、疎植状態では植付けられた苗を植付爪が前に押し倒す現象が生じやすい。逆に、疎植状態のときに下死点付近で鉛直姿勢になるように設定しておくと、密植の状態では植付爪が圃場に入り込んだまま後ずさりするような現象が生じ、泥土がえぐられることで浮き苗が発生し易くなる問題がある。
【0006】
そこで、密植状態を基準にしつつ疎植状態において植付爪を圃場からより迅速に逃げ移動させるべく、疎植状態で、動力伝達機構に不等速ギアを配置することが行われている(例えば特許文献1,2。)。つまり、不等速ギアを設けて、ロータリーケースの1回転中での角速度を変化させることで、植付爪を圃場から素早く逃がすことが行われている。
【0007】
特許文献1では、走行機体に設けた走行ミッションケースの内部に株間変更装置を配置し、この株間変更装置に不等速ギアを組み込んでいる。不等速ギアは、レバーの操作によってトルクを伝える状態とトルクを伝えない状態とに切り替えられる。すなわち、特許文献1では、レバーの操作により、動力伝達機構は等速回転する状態と不等速回転する状態とに切り換わる。他方、特許文献2では、不等速ギアは、植付け部のうち苗載せ台の横送り機構よりも下流側の部位に配置している。特許文献2は切り替え手段を備えておらず、等速回転状態と不等速回転状態との変更はギアの交換によって行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4376154号公報
【特許文献2】特開2003−189712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、株間変更装置から植付爪に至る動力伝達機構はギアや回転軸等の伝達要素で構成されているが、回転軸等の伝達要素は完全な剛体ではなく、負荷(回転トルク)が掛かると僅かながら弾性変形し、負荷が解除されると弾性復元力で戻り変形する。つまり、動力伝達系にその回転によってねじれとねじれ解除とが交互に発生するのであり、これが振動として表れるのである。そして、回転軸等にねじれが生じると、植付爪の動作タイミングがずれてしまって、植付け不良が発生するおそれがある。
【0010】
不等速ギアは回転軸の1回転中で角速度を加減速するものであり、回転を加減速することで回転軸に作用する負荷変動は大きくなるため、疎植状態で不等速ギアを機能させると動力伝達系のねじれは顕著に表れる。そして、負荷変動に起因した振動が動力伝達機構を構成する伝達要素の固有振動数と一致すると共振現象が発生し、植付爪のタイミングのずれが一層顕著に表れると共に、植付装置の耐久性も低下する。また、動力伝達機構が全体として大きく不等速回転すると部材同士の連結箇所にガタが発生しやすくなり、このガタが蓄積して植付けの位相のずれが生じることもあった。
【0011】
不等速回転に起因した軸のねじれを防止又は抑制するには、動力伝達機構を構成する軸の群のうち不等速回転する軸の数をできるだけ減らすのが得策であり、そのためには、不等速ギアのような不等速付与手段を動力伝達機構のできるだけ下流側に配置するのが好ましい。従って、特許文献2のように植付け部に不等速ギアを配置するのは理に叶っていると言える。しかし、特許文献2は等速回転と不等速回転との切り替えに際しては一々ギアを交換せねばならないため、結果として疎植と密植との切り替えが厄介であり、ユーザーフレンドリーとは言い難い。
【0012】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、より改良された苗移植機を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は様々な構成を含んでいる。請求項1の発明は上位概念を成すもので、この発明の苗移植機は、動力源を搭載した走行機体と、前記走行機体に連結された植付け部とを有しており、前記植付け部には、苗を圃場に1株ずつ植え付ける植付装置が配置されており、前記植付装置には、前記動力源から動力伝達機構を介して回転動力が伝達される、という基本構成になっている。
【0014】
そして、請求項1の発明は、上記基本構成において、前記植付け部に、前記動力伝達機構のうち前記植付け部に位置した部位に、前記動力伝達機構を構成する回転軸を等速回転させる等速伝達部材と、前記回転軸を回転数は変えずに不等速回転させる不等速伝達部材と、前記回転軸に前記等速伝達部材から動力伝達される状態と前記不等速伝達部材から動力伝達される状態とに選択的に切り替える操作部材とが設けられている。請求項2の発明は、請求項1において、前記等速伝達部材と不等速伝達部材と操作部材とを前記動力伝達機構の末端部に設けている。
【0015】
請求項3の発明は請求項1又は2を具体化したもので、この発明では、前記動力伝達機構は交差した姿勢の主動軸と従動軸とを有しており、前記等速伝達部材は、前記主動軸に設けた主動等速ベベルギアと前記従動軸に設けた等速従動ベベルギアとで構成されており、前記不等速伝達部材は、前記主動軸に設けた主動不等速ベベルギアと前記従動軸に設けた不等速従動ベベルギアとで構成されている。
【0016】
請求項4の発明は請求項1又は2を具体化したもので、この発明では、前記動力伝達機構は平行に延びる主動軸と従動軸とを有しており、前記等速伝達部材は、前記主動軸に設けた等速主動平ギアと前記従動軸に設けた等速従動平ギアとで構成されている一方、前記不等速伝達部材は、前記主動軸に設けた不等速主動平ギアと前記従動軸に設けた不等速従動平ギアとで構成されている。
【0017】
特許文献1にしても特許文献2にしても、不等速ギアの対は1箇所にしか設けていない。これに対して請求項5の発明では、請求項1〜4のうちのいずれかにおいて、前記走行機体と植付け部との両方に、前記等速伝達部材と不等速伝達部材と操作部材とを設けている。
【発明の効果】
【0018】
本願発明では、植付装置を駆動する回転軸は植付け部において等速回転状態と不等速回転状態とに切り替えられる。従って、動力伝達機構にねじれが生じることを防止又は抑制できるという利点は保持しつつ、ギアの交換作業のような手間を掛けることなく、等速回転状態と不等速回転状態とに簡単に切り替えることができる。このためユーザーフレンドリーであり、使い勝手に優れている。田植機に適用すると、疎植仕様と密植仕様との切り替えをごく簡単に行える。
【0019】
請求項2の構成を採用すると、不等速回転に起因して動力伝達機構にねじれが発生することを防止又は著しく抑制できる。このため特に好適である。請求項3のようにベベルギアを使用した切り替え構造を採用すると、狭い部位に組み込むことができるため、切り替え機構をコンパクト化できる利点がある。請求項4のように平ギアを等速ギア及び不等速ギアに使用することも可能であり、この場合はギアの加工が容易になる。
【0020】
請求項5の構成を採用すると、不等速回転を動力伝達機構に分散させることができるため、不等速回転の度合いが大きくても、特定の回転部材に大きな荷重が作用することを防止できる利点がある。また、走行機体の不等速伝達部材と植付け部の不等速伝達部材とは、両方が機能している状態と両方が機能していない状態と片方だけが機能している状態とに選択できるため、不等速回転の度合いを切り替えることができて、株間の変更により的確に対応できる。
【0021】
特に、走行機体での不等速回転の割合と植付け部での不等速回転の割合とを異ならせておくと、3種類の不等速回転状態を実現できるため、株間の間隔の違いに応じた調整をよきめ細かく実現できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る田植機の平面図である。
【図2】田植機の側面図である。
【図3】田植機の骨組みを示す斜視図である。
【図4】(A)は動力伝達機構の全体を示す斜視図、(B)は植付装置の斜視図である。
【図5】(A)は動力伝達機構の側面図、(B)は植付装置の箇所の側面図、(C)は植付爪の軌跡を示す図である。
【図6】(A)は動力伝達機構を示す平面図、(B)は株間変更装置の外観斜視図、(C)及び(D)は植付け部に設けたセンターケースの外観斜視図である。
【図7】(A)は株間変更装置及びセンターケースにおけるギア群の外観斜視図、(B)はセンターケースにおけるギア群の斜視図、(C)はセンターケースにおけるギア群の背面図である。
【図8】伝動系統図である。
【図9】(A)は植付装置への動力伝達機構を示す平面図である。
【図10】(A)は要部分離平面図、(B)はベベルギアの概略図である。
【図11】(A)及び(B)はベベルギアの噛み合い状態を示す平面図、(C)(D)はベベルギアの斜視図、(E)はベベルギアの対を並べた対比図である。
【図12】(A)は図9のXIIA-XIIA視断面図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は(A)のC−C視断面図、(D)は別例を示す一部破断斜視図である。
【図13】第2実施形態を示す図で、(A)は要部側面図、(B)は(A)のB−B視図、(C)は切り替え手段を示す一部破断分離側面である。
【図14】第3実施形態を示す図で、(A)は側断面図、(B)は模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本願発明を実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)に適用している。以下の説明では方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、この前後・左右の文言は、田植機の前進方向を前として定義している。正面視方向は前進方向と対向した方向になる。
【0024】
(1).田植機の概要
まず、図1〜図5に基づいて田植機の概要を説明する。図1〜3に示すように、田植機は走行機体1とその後ろに配置された植付け部2とを有している。走行機体1は前後の車輪3,4や操縦座席5、操縦ハンドル6を有しており、一方、植付け部2は苗マットが載る苗載せ台7や植付装置8を有している。本実施形態の田植機は8条植えタイプであり、このため、苗載せ台7には8つの苗マット載置エリアが形成されていると共に、植付け部2の後部には8個の植付装置8が横一列に配置されている。
【0025】
図3に示すように、走行機体1は多数のフレーム材から成る骨組み9を有しており、骨組み9の前部で動力源としてのエンジン10が支持されている。エンジン10の後ろには走行ミッションケース11が配置されている。図4(A)に明示するように、ミッションケース11の左側面には静油圧式無段変速機(HST)12が装着されており、エンジン10の動力はベルト13によって静油圧式無段変速機(HST)12に伝達される。エンジン10はボンネット14で覆われている。また、走行機体1のうちボンネット14を除いた部分は車体カバー15で覆われている。
【0026】
ミッションケース11の左右側面にはフロントアクスル装置が17が取付けられており、フロントアクスル装置17に前輪3が取り付けられている。ミッションケース11の後ろにはリアアクスルケース18が配置されており、リアアクスルケース18から横向きに突出させた後ろ車軸に後輪4が取付けられている。ミッションケース11とリアアクスルケース18とは前後長手のジョイント材19で連結されている。リアアクスルケース18には左右2本のリア支柱20が取付けられており、リア支柱20の上端は、骨組み9の後端部を構成する左右横長のリアフレーム9aに固定されている。
【0027】
左右のリア支柱20には上下のリンク体(トップリンク及びロアリンク)から成るリンク装置21が回動自在に連結されており、リンク装置21の後端に植付け部2が取付けられている。リンク装置21は、ジョイント材19に連結された油圧シリンダ(昇降シリンダ)22によって回動させることができる。従って、油圧シリンダ22を伸縮させることにより、植付け部2が昇降する。
【0028】
図4から容易に理解できるように、ミッションケース11の内部からリアアクスルケース18の内部に後輪ドライブ軸23で動力伝達される。後輪ドライブ軸23の回転はリアアクスルケース18に設けたギア群を介して後輪4に伝達される。本実施形態の田植機は植付け部2に整地ロータ24を設けており、整地ロータ24にはリアアクスルケース18から後ろ向き突出したロータ駆動軸25から動力伝達される。
【0029】
本実施形態ではリアアクスルケース18の右側部に株間変更装置26を取付けており、ミッションケース11から株間変更装置26に植付け用動力伝達軸27で動力伝達される。植付け用動力伝達軸27の回転は株間変更装置26に内蔵したギア群によって変速され、PTO軸29によって植付け部2に伝達される。
【0030】
植付け部2は左右横長のメインフレーム28を有しており、メインフレーム28の略左右中間部にセンターケース30が固定されており、PTO軸29の動力はセンターケース30に内蔵されたギア群に伝達される。メインフレーム28の後面には後ろ向きに延びる4本の支持アーム31が固定されており、支持アーム31の後端部に左右一対ずつの植付装置8が回転自在に取付けられている。
【0031】
支持アーム31の基端部(前端寄り部位)には左右横長の植付け駆動軸32が貫通しており、この植付け駆動軸32の回転によって植付装置8が駆動される(詳細は後述する。)。また、植付け駆動軸32には、センターケース30に内蔵したギア群を介してPTO軸29から動力が伝達される。センターケース30には左右横長の横送り軸33も取付けられており、横送り軸33の回転によって苗載せ台7が1ピッチずつ横移動する。
【0032】
植付け部2は苗マットが載るベルト34の群を有しており、ベルト34は上下一対の 縦送り支軸35に巻き掛けられている。苗載せ台7が左右のいずれか一方に移動し切ると縦送り支軸35は回転し、苗マットが1ピッチだけ下降動する。
【0033】
図4(B)に示すように、各植付装置8は1つのロータリーケース36とその両端部に回転自在に設けた掻き取りユニット37とを有しており、ロータリーケース36が1/2回転するごとに掻き取りユニット37による苗の掻き取りと植付けが行われる。また、PTO軸29が1回転するとロータリーケース36は1/2回転するように設定されている。そして、PTO軸29の回転数は田植機の走行速度に比例しているが、株間変更装置26によって走行速度とPTO軸29の回転数との関係を変えることにより、苗の植付け間隔(株間)を変更することができる。
【0034】
(2).株間変更装置の構造
以下、株間変更装置26から植付装置8に至る動力伝達機構の詳細を説明する。まず、株間変更装置26の詳細を、主として図6〜8に基づいて説明する。株間変更装置26は図4(B)に示す前後2つ割り方式の株間ケース40を有しており、その内部に、図6(A)(C)に示すようなギア群が配置されている。
【0035】
株間ケース40の内部には、入力軸41と出力軸42とが配置されており、入力軸41に自在継手を介して植付け用動力伝達軸27の後端が接続されている。入力軸41には同径の第1ギア43と第2ギア44とが固定されている。両ギア43,44は同径ではあるが、歯数は第1ギア43よりも第2ギア44が僅かに少なくなっている。
【0036】
入力軸41と出力軸42とは同心に配置されている。入力軸41には筒型の中間軸45が相対回転可能に嵌まっており、中間軸45は出力軸42と一緒に回転する状態(相対回転不能な状態)で嵌まっている。中間軸45には第3ギア46と第4ギア47とがスプライン嵌合等によってスライド可能で相対回転不能に嵌まっている。更に、中間軸45には第1不等速ギア48が相対回転自在でスライド可能に嵌まっている。
【0037】
出力軸42にはカム式のメインクラッチ49を設けている。メインクラッチ49は固定パーツ49aとスライドパーツ49bとから成っており、スライドパーツ49bはクラッチばね49c(図7(C)参照)で固定パーツ49aに向けて付勢されている。スライドパーツ49bがクラッチばね49cに抗して固定パーツ49aから離反すると入力軸41から出力軸42への動力伝達は遮断される。路上走行時や旋回時のように植付け部2を上昇させている状態ではメインクラッチ49が切れる。メインクラッチ49の切り操作はメインクラッチ操作軸50を下降させることで行われる。
【0038】
株間ケース40の内部には、側面視で入力軸41及び出力軸42と平行に延びるアイドル軸51が回転自在に軸支されており、このアイドル軸51に第1ギア43又は第2ギア44に噛み合い得る第5ギア52がスプライン嵌合等によってスライド可能・相対回転不能に嵌まっている。第5ギア52は第1ギア43又は第2ギア44の2倍程度の歯数であり、第1ギア43に噛合した第1ポジションと、第2ギア44に噛合した第2ポジションとを選択できる。
【0039】
なお、第5ギア52を第1ギア43又は第2ギア44に選択的に噛み合わせることに代えて、第1ギア43に噛合する減速用の第5ギア52の他に、図8に一点鎖線で示すように、第2ギア44に噛合する減速用ギア53を設けて、両減速用ギア52,53のいずれかに動力を伝達する構成を採用することも可能である。
【0040】
第1ギア43と第2ギア44と第5ギア52の歯数の関係は、例えば、第1ギア43に対する第5ギア52の歯数を比率の2.0倍に設定し、第2ギア44に対する第5ギア52の歯数の比率を約2.3倍に設定することができる。
【0041】
アイドル軸51には、第3ギア46に対して噛み合い・離反する第6ギア54と、第4ギア47に噛み合い・離反する第7ギア55、及び、第1不等速ギア48と常に噛み合っている第2不等速ギア56が固定されている。第3ギア46に対する第6ギア54の比率よりも、第4ギア47に対する第7ギア55の歯数の比率が小さくなるように設定している。従って、中間軸45(及び出力軸42)の回転数は、第3ギア46と第6ギア54とが噛み合っている状態よりも、第4ギア47と第7ギア55とが噛み合っている状態の方が低くなっている。具体的な歯数の比率としては、例えば、第3ギア46に対する第6ギア54の歯数の比率を約1:1.94、第4ギア47に対する第7ギア55の歯数の比率を約1:1.41と成すことができる。
【0042】
第1不等速ギア48と第2不等速ギア56とは楕円のような非円形のプロフィールであり、歯数は同じに設定されている。従って、両不等速ギア48,56を介してアイドル軸51の回転が中間軸45及び出力軸42に伝えられている状態では、アイドル軸51と出力軸42との回転数は同じで、かつ、出力軸42はその1回転中で角速度を周期的に変化させた状態で回転する。両不等速ギア48,56は非円形であって噛み合い姿勢が一定に決まっているという特殊性から、常に噛み合い状態に保持されている。
【0043】
第4ギア47と第1不等速ギア48とには、噛み合い・離間自在な中間クラッチ57を設けている。第4ギア47は、図8の状態からいったん第7ギア55と噛合した状態を経て更に右向きにスライドすると、中間クラッチ57が噛み合う。中間クラッチ57が噛み合った状態では、アイドル軸51の動力は不等速ギア56,48を介して出力軸42に伝えられる。中間クラッチ57が噛み合っている状態では第3ギア46と第4ギア47は空転している。従って、中間クラッチ57は中間軸45と第1不等速ギア48との連結を継断する働きをしている。
【0044】
第5ギア52がスライドすることで2段階の切り換えが行われ、中間軸45がスライドすることで3段階の切り換えが行われる。従って、全体として6段階の組み合わせが存在する。例えば、3.3平方m当たりの株数として、37株、43株、50株、60株、70株、85株といった株数に変更できるのであり、このため、疎植・密植の全エリアが殆ど網羅されている。
【0045】
株間ケース40の上部には、入力軸41及び出力軸42と平行に延びる施肥用回転軸58が回転自在に配置されており、この施肥用回転軸58に、第1ギア43と噛合する第8ギア59が相対回転自在に嵌まっている。施肥用回転軸58からはベベルギア61を介して施肥駆動軸62に動力伝達される。
【0046】
図7(A)に示すように、株間変更装置26は第1操作軸63と第2操作軸64との2本の操作軸を有する。これら操作軸63,64は前後長手の姿勢になっており、株間ケース40の手前に露出している。図6(B)から理解できるように、第1操作軸63は第1レバー65で前後スライド操作することができ、第2操作軸64は第2レバー66で前後スライド操作することができる。第1操作軸63は第5ギア52をスライド操作するためのものであり、第5ギア52をスライドさせるシフターを有している。第2操作軸64は中間軸45をスライド操作するためのものであり、中間軸45に係合するシフターを備えている。
【0047】
(3).センターケースの内部構造
次に、図6〜図8に基づいてセンターケース30の内部構造(すなわち植付け部変速装置)を説明する。センターケース30は左右2つ割り方式のシェル体から成っており、前後長手の入力軸69が回転自在に保持されている。入力軸69の前端とPTO軸29の後端とは自在継手を介して接続されている。
【0048】
センターケース30の内部には左右長手の中間軸70が配置されており、入力軸69の回転は第1ベベルギア71の対によって中間軸70に伝達される。センターケース30の内部には横送り駆動軸72が左右横長の姿勢で配置されており、横送り駆動軸72に横送り軸33が連結されている。
【0049】
横送り駆動軸72には3枚の掻き取り量調節従動ギア73が固定されている一方、中間軸70には、掻き取り量調節従動ギア73に対応して3枚の掻き取り量調節主動ギア74が遊嵌している。3枚の掻き取り量調節主動ギア74のうちいずれか1つのみに、スライドキー76(図8参照)によって中間軸70から選択的に動力伝達される。スライドキー76は、図6(A)(B)に示すスライドレバー77によってスライド操作される。
【0050】
掻き取り量調節ギア73,74の対はそれぞれ歯数の比率が相違しており、掻き取り量調節ギア73,74の組み合わせを変えると、PTO軸29に対する横送り駆動軸72の回転比率が変わる。その結果、苗載せ台7の横送りピッチが変化して苗の掻き取り量が変化する。
【0051】
センターケース30は後ろ下向きに延びる張り出し30aを有しており、この張り出し30aに左右横長の植付け出力軸78が回転自在に保持されており、植付け出力軸78には、中間軸70に固定した第1中継ギア79、横送り駆動軸72に相対回転自在に嵌まった第2中継ギア80、センターケース30にアイドル軸81を介して回転自在に保持された第3中継ギア82、第4中継ギア84を経由して動力伝達される。第4中継ギア84は植付け出力軸78にスリーブ83を介して取付けられている。
【0052】
第1ベベルギア71の対を構成する2つのギアの歯数の比率は1:1の関係にあり、また、第1中継ギア79,第2中継ギア80,第4中継ギア84の歯数は1:1:1の関係にある。従って、PTO軸29と植付け出力軸78との回転数は1:1の関係になっている。なお、第3中継ギア82は単なるアイドルギアなので、その歯数は第4中継ギア84の回転数に影響しない。
【0053】
植付け出力軸78とその隣りに位置した植付け駆動軸32とは、カップリング(スリーブ)86で接続されている。また、左右に隣り合った植付け駆動軸32の間には中継軸78′が配置されており、植付け駆動軸32と中継軸78′もカップリング86で接続されている。従って、各植付け駆動軸32は一体に回転する。植付け駆動軸32は各植付装置8の箇所ごとに分断されており、隣り合った植付け駆動軸32はカップリング86で接続れされている。なお、植付け出力軸78と各植付け駆動軸32と中継軸78′を1本の棒材から成る単一構造体とすることも可能である。
【0054】
なお、図6(A)の下端部に符号86′で示すように、カップリング86をある程度の質量がある構成として、カップリング86にダンパー機能(フライホイール機能)を保持せしめることも可能である。この場合、カップリング86を植付装置8と重心がずれた偏心構成として、植付装置8の回転変動を打ち消すことも可能である。ダンパー手段は、動力伝達機構を構成する他の回転部材に設けてもよい。
【0055】
(4).第1実施形態に係る植付装置の構造・動力伝達構造
次に、植付装置8の構造やこれに対する動力伝達構造を説明する。これらは第1実施形態の要部を成すもので、主として図8〜図10に表示されている(図6(A)も参照)。支持アーム31は中空構造になっており、図8に示すように、その内部に前後長手の植付け伝動軸87が回転自在に保持されている。
【0056】
植付け伝動軸87には植付け駆動軸32から第2ベベルギア88a,88bの対で動力伝達されている。第2ベベルギア88a,88bのうち植付け伝動軸87と同心に回転するベベルギア88bは、植付け伝動軸87に嵌まったトルクリミッタ89に取付けられている。トルクリミッタ89はばね90を有しており、植付け伝動軸87に所定以上の負荷がかかると噛み合いが外れて、動力伝達が遮断される。
【0057】
支持アーム31の後端部(先端部)には、左右一対の軸受け104を介して左右横長の植付け中心軸91が回転自在に保持されている。植付け中心軸91は支持アーム31の左右外側に突出しており、その突出端部にロータリーケース36に内蔵された太陽ギア92が固定されている。詳細は省略するが、ロータリーケース36は支持アーム31の後端部に回転自在に保持されている。
【0058】
ロータリーケース36は左右2つのシェル体を重ね合わせた中空構造になっており、その長手中間部には既述の太陽ギア92が配置され、その外側に中間ギア93が配置され、その外側に遊星ギア94が配置されている。各ギア92,93,94は非円形で偏心しており、このためロータリーケース36は不等速回転する。そして、遊星ギア92に固定されたユニット軸95に掻き取りユニット37が固定されている。
【0059】
図5に明示するように、掻き取りユニット37は植付爪96と突き出しロッド97とを備えており、図5(C)に示すように、植付爪96で苗マットから苗を1株だけ切り取って圃場に移行させ、下死点近傍で突き出しロッド97が植付爪96に対して相対的に前進することで苗は圃場に植付けられる。
【0060】
図9に示すように、植付け中心軸91には、不等速伝達部材の一例としての第3不等速ベベルギア98,99の対と、等速伝達部材としての第2等速ベベルギア121,117の対により、植付け伝動軸87の回転動力が選択的に伝達される。第3不等速従動ベベルギア99は植付け中心軸91に相対回転可能に嵌まっており、かつ、第3不等速従動ベベルギア99は可動クラッチ102と噛み合うカム部103を有している。可動クラッチ102には操作リング105が溶接されている。
【0061】
可動クラッチ102は植付け中心軸91にスライド可能で相対回転不能に保持されている。そして、可動クラッチ102は通常はばね106で第3従動ベベルギア99,117に噛み合う状態に押されており、図示しない回転式の操作ロッドを遠隔的に操作すると、可動クラッチ102が植付け中心軸91の軸心に沿って第3不等速従動ベベルギア99から離反し、すると、植付け中心軸91への動力が遮断される。本実施形態では、植付け伝動軸87が主動軸に相当し、植付け中心軸91が従動軸に相当する。
【0062】
例えば畦際での植付け作業において、4対の植付装置8のうち一部は作動させたくない場合があるが、このような場合に可動クラッチ102を操作して、一部の植付装置8の機能を停止させることができる。つまり、植付け条数を減らす条止め機能が発揮される。
【0063】
(5).等速回転・不等速回転の切り替え機構
第3従動ベベルギア99,117は一体に回転するようになっており、第3等速従動ベベルギア117は第3不等速従動ベベルギア99より大径になっている。他方、第3不等速主動ベベルギア98は、植付け伝動軸87に嵌まった先端軸118に形成されている。また、植付け伝動軸87には、先端軸118が嵌まる後ろ向き開口の凹所120を有する先端筒119が嵌まっており、先端筒119に第3等速主動ベベルギア121を設けている。従って、先端軸118と先端筒119とは常に一緒に回転している。
【0064】
図12に示すように、植付け伝動軸87の外周面には外向きキー溝122が先端筒119及び先端軸118の箇所まで延びるように形成されており、この外向キー溝122にキー部材123がスライド自在に嵌まっている。一方、先端筒119及び先端軸118の内周面には、外向きキー溝123に対向した内向きキー溝124が形成されている。そして、キー部材123には内向きキー溝124に嵌合するキー部123aを一体に設けている。
【0065】
従って、キー部材123がスライドしてそのキー部123aが先端筒119の内向きキー溝124と先端軸118の内向きキー溝124とに選択的に嵌合することにより、植付け伝動軸87の回転トルクが第3等速ベベルギア121,117と第3不等速ベベルギア98,99とに選択的に伝達される。これにより、植付け中心軸91は等速回転状態と不等速回転状態とに切り替えられる。
【0066】
キー部材123の前端部は、植付け伝動軸87にスライド自在に嵌まったスライドリング125に一体に固定されている。スライドリング125の外周には環状溝126が形成されている。また、支持アーム31には、操作部材の一例として、スライドリング125を跨ぐような二股部127aを有するレバー127が植付け伝動軸87と直交した軸心回りに回動するように連結されており、レバー127の二股部127aに、スライドリング125の環状溝126にスライド自在に嵌まるピン部127bを突設している。
【0067】
従って、レバー127を回動させることにより、スライドリング125をスライドさせて等速回転と不等速回転とに切り替えることができる。レバー127の上部は支持アーム31の上方に突出しており、レバー127の上端部が支持アーム31に形成したリブ128にピンで連結されている。また、本実施形態ではレバー127はばね129で一方方向に押されており、レバー127はばね129に抗してワイヤー130で引っ張ることができる。ワイヤー130を緩めると、レバー127はばね129の付勢力で回動する。レバー127を駆動する操作手段としては、電磁ソレノイドや油圧シリンダ、電動モータなども使用できる。各レバー127を個別に操作することも可能である。
【0068】
本実施形態のように各支持アーム31にレバー127を設けている場合は、各レバー127はワイヤーやロッド等によって一斉に操作することが可能である。一斉に操作するための集合操作部材は運転座席6の近くに設けてもよいし、植付け部2に設けてもよい。
【0069】
図12(D)に示すように、スライドリング125のスライド手段として回転式の操作軸131を使用することも可能である。つまり、操作軸131の下端には平坦面131aaを形成しており、操作軸131を90°回転させると、平坦面131aがスライドリング125の側面に当たる状態と、外周がスライドリング125の側面に当たる状態とに切り換わり、これにより、スライドリング125がスライドする。
【0070】
スライドリング125のスライド手段としては、スライドリング125に傾斜カム面を形成して、この傾斜カム面に対して上下動式の操作軸を当てることも可能である(すなわち、くさび作用によってスライドリング125をスライドさせることも可能である。)。このように回転式又は上下動式の操作軸を採用すると、シール構造が簡単になる利点がある。なお、回転式又は上下動式の操作軸131を使用する場合は、スライドリング125は一方方向にばねで付勢しておく必要がある。
【0071】
(6).不等速ベベルギアの詳細
図10(B)及び図11に基づいて不等速ベベルギア98,99の詳細を説明する。図11(E)に示すように、第3不等速主動ベベルギア98に多数の歯107を形成するにおいて、各歯107の先端から軸心O1までの距離が少しずつ大きく広がって再び狭まるように設定している。すなわち、各歯107は、軸心O1から先端までの距離が最も狭いピッチ円錐角最小部108と、軸心O1から先端までの距離が最も広いピッチ円錐角最大部109とを有しており、両者の間では間隔は徐々に変化している。
【0072】
換言すると、図10(B)に示すように、各歯107のピッチ円109は楕円に近い形状でかつ真円に対して偏心している(109′で真円の場合のピッチ円を表示している。)。逆の視点で述べると、通常のベベルギアは、仮想台錘の外周面はどの部位においても軸心に対して同じ角度で傾斜しているが、本実施形態の主動ベベルギア98では、仮想台錘の外周面は、周方向に移行するに従って傾斜角度θ1(図11(A)参照)が徐々に変化している。
【0073】
第3不等速従動ベベルギア99は第3不等速主動ベベルギア98の歯数の2倍の歯112を有している。そして、図11(A)(B)から明瞭に把握できるように、各歯112の軸方向の位置が少しずつずれている。換言すると、ベベルギアを構成する円錐の角度θ2が、円周方向に移行するに従って少しずつ変化している。
【0074】
第3不等速従動ベベルギア99は第3不等速主動ベベルギア98の歯数の2倍の歯数なので、第3不等速主動ベベルギア98は、2つずつのピッチ円錐角最大部113及びピッチ円錐角最小部114を有している。従って、図10(B)に示すように、第3不等速従動ベベルギア99のピッチ円115は略楕円形状になっており、軸心O2を挟んで対称の形状になっている(図10(B)では、真円の場合のピッチ円を符号115′で表示している。)。
【0075】
(7).第1実施形態のまとめ
図5(C)では、3.3平方m当たりの植付け株数と植付爪96の移動軌跡との関係を示している。この図から理解できるように、密植状態では植付爪96は下死点から真上に上昇しても、疎植状態になると植付爪96の逃げが悪くなって苗を押し倒す現象が生じることが理解できる。
【0076】
そして、本実施形態では、株間変更装置26に不等速ギア48,56を設けたことと、支持アーム31の第3不等速ベベルギア98,99を不等速ギアと成したこととにより、ロータリーケース36は植付爪96が下死点付近に位置した当たりで回転速度が速くなるように加速されている。このため、植付爪96は下死点から素早く逃げることになり、その結果、植付爪96で苗を押し倒す現象を防止できる。そして、レバー127の操作により、植付け中心軸91を等速回転状態と不等速回転状態に切り替えできる。
【0077】
本実施形態では、不等速変換手段である不等速ギアを株間変更装置26と支持アーム31の後端とに分離して配置したため、株間変更装置26から第3不等速ベベルギア98,99まで間の部分は従来に比べて不等速回転の割合が少なくなっており、その結果、動力伝達機構を構成する部材(PTO軸29や植付け駆動軸32、植付け伝動軸87等)に発生する撓みを著しく抑制して、植付装置8の円滑な動きを確保できる。
【0078】
また、動力伝達機構に発生するガタも抑制できるため、掻き取りユニット37の動作位相がずれて植付けの位置ずれるといった不具合も防止できる。更に、不等速ベベルギア98,99に過大な負荷がかかることもない。なお、密植状態においても第3不等速ベベルギア98,99からの動力伝達を継続することができる。
【0079】
(8).第2実施形態
次に、図13に示す第2実施形態を説明する。この実施形態では、センターケース30に不等速変換手段を設けている。すなわち、この実施形態では、植付け出力軸78に対して不等速回転と等速回転とを選択的に付与する構成になっている。従って、アイドル軸81が主動軸に相当し、植付け出力軸78が従動軸に相当する。この第3実施形態では、第2中継ギア80からアイドル軸81の第3中継ギア82に動力伝達されるのは第1実施形態と同じである。但し、第3中継ギア82の歯数と第2中継ギア80の歯数とは同じ数に設定されている。
【0080】
そして、この実施形態では、アイドル軸81に第5等速主動中継ギア133と第5不等速主動中継ギア134とが回転可能に嵌まっている一方、植付け出力軸78に設けたスリーブ83に、第5等速従動中継ギア135と第5不等速従動中継ギア136とが固定されている。等速中継ギア133,135は互いに噛み合い、不等速中継ギア134,136とは互いに噛み合っている。敢えて述べるまでもなく、等速中継ギア133,135及び不等速中継ギア134,136は平ギアであり、これらが伝達部材の例である。
【0081】
また、アイドル軸81には第2実施形態の場合と同様に外向きキー溝122が形成されており、この外向きキー溝122に、キー部123aを有するキー部材123がスライド自在に嵌まっている。他方、第5等速主動中継ギア133と第5不等速主動中継ギア134とには内向きキー溝124が形成されている。キー部材123にはスライドリング125が固定されており、スライドリング125はセンターケース30にスライド自在に取付けた操作ロッド138によってスライド操作される。操作ロッド138は操作部材の例である。
【0082】
操作ロッド138はスライドリング125の環状溝126に嵌まる係合部138aを有している。また、操作ロッド138には、2条の係合溝139が形成れており、いずれかの係合溝139にボール140が選択的に嵌まることで操作位置が保持される。ボール140はばね141で押されている。
【0083】
この実施形態では、支持アーム31の内部構造は従来のままでよく、各植付け駆動軸32は一斉に等速回転と不等速回転とに切り替えられる。このため構造が簡単になる。植付け部2に設けた不等速変換手段を等速回転と不等速回転とに切り替える構成とする場合、本実施形態を採用すると、1カ所の切り替えで足りるため特に構造は簡単になる。なお、株間変更装置26に不等速変換手段を有することは第1実施形態と同様である。
【0084】
(9).第3実施形態
図14に示す第3実施形態は、植付け駆動軸32の回転をチェン145で植付け中心軸91に伝達するタイプに適用している。すなわち、この実施形態では、支持アーム31の後端側に左右横長のアイドル軸142を回転自在に配置しており、このアイドル軸142に嵌まった従動スプロケット143に、植付け駆動軸32に設けた主動スプロケット144からチェン145で動力伝達し、更に、アイドル軸142から植付け中心軸91に、主動等速ギア146及び従動等速ギア147の対と、主動不等速ギア148及び従動不等速ギア149の対とで選択的に動力伝達している(チェン145に代えてベルトを使用することも可能である。)。
【0085】
従動等速ギア147及び従動不等速ギア149は植付け中心軸91に固定されている。他方、アイドル軸142には、外周にスプライン歯を形成したスプライン筒150がスライド自在で回転自在に嵌まっている。スプライン筒150は従動スプロケット143と常に噛合していると共に、主動等速ギア146と主動不等速ギア148とに選択的に噛合する(従って、主動等速ギア146と主動不等速ギア148との内周面にはスプライン溝を形成している。)。
【0086】
スプライン筒150はレバー151によってスライド操作できる。そして、既述のとおり、スプライン筒150が主動等速ギア146と主動不等速ギア148とに選択的に噛合することにより、アイドル軸142の回転が従動等速ギア147と従動不等速ギア149とに選択的に動力伝達され、これにより、植付け中心軸91は等速回転と不等速回転とに切り替えられる。この実施形態ではスプライン筒150が主動軸に相当し、植付け中心軸91が従動軸に相当する。また、平ギア148,149,146、150が動力伝達部材に相当する。
【0087】
(10). その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えばベベルギアの箇所で等速回転と不等速回転との切り替えを行い場合、第1ベベルギア71の箇所に等速ベベルギアの対と不等速ベベルギアの対及び操作部材を設けることや、第2ベベルギア88の箇所に等速ベベルギアの対と不等速ベベルギアの対及び操作部材を設けることも可能である。また、動力伝達機構の3カ所以上に等速ギア及び不等速ギア等より成る等速・不等速変換手段を設けることも可能である。
【0088】
また、本願発明は田植機以外の各種の苗移植機に適用できる。株間変更装置はミッションケースに内蔵することも可能であり、この場合は、1つの不等速変換手段をミッションケースに内蔵することになる。走行機体での不等速回転の変換比率を植付け部での変換比率より小さくすることも可能である。走行機体には等速・不等速変換手段を設けずに、植付け部のみに等速・不等速変換手段を設けることも可能である。更に、植付け部に複数の等速・不等変換手段を設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本願発明は田植機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 走行機体
2 植付け部
3,4 車輪
7 苗載せ台
8 植付装置
10 動力源としてのエンジン
11 ミッションケース
26 株間変更装置
27 植付け用動力伝達軸
29 動力伝達機構を構成するPTO軸
31 支持アーム
32 植付け駆動軸
36 ロータリーケース
37 掻き取りユニット
87 植付け伝動軸(主動軸)
91 植付け中心軸(従動軸)
96 植付爪
98 第3不等速主動ベベルギア
99 第3不等速従動ベベルギア
117 第3等速従動ベベルギア
121 第3等速主動ベベルギア
127 操作部材の一例としてのレバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源を搭載した走行機体と、前記走行機体に連結された植付け部とを有しており、前記植付け部には、苗を圃場に1株ずつ植え付ける植付装置が配置されており、前記植付装置には、前記動力源から動力伝達機構を介して回転動力が伝達される構成であって、
前記植付け部に、前記動力伝達機構のうち前記植付け部に位置した部位に、前記動力伝達機構を構成する回転軸を等速回転させる等速伝達部材と、前記回転軸を回転数は変えずに不等速回転させる不等速伝達部材と、前記回転軸に前記等速伝達部材から動力伝達される状態と前記不等速伝達部材から動力伝達される状態とに選択的に切り替える操作部材とが設けられている、
乗用型苗移植機。
【請求項2】
前記等速伝達部材と不等速伝達部材と操作部材とを前記動力伝達機構の末端部に設けている、
請求項1に記載した乗用型苗移植機。
【請求項3】
前記動力伝達機構は交差した姿勢の主動軸と従動軸とを有しており、
前記等速伝達部材は、前記主動軸に設けた主動等速ベベルギアと前記従動軸に設けた等速従動ベベルギアとで構成されており、前記不等速伝達部材は、前記主動軸に設けた主動不等速ベベルギアと前記従動軸に設けた不等速従動ベベルギアとで構成されている、
請求項1又は2に記載した乗用型苗移植機。
【請求項4】
前記動力伝達機構は平行に延びる主動軸と従動軸とを有しており、
前記等速伝達部材は、前記主動軸に設けた等速主動平ギアと前記従動軸に設けた等速従動平ギアとで構成されている一方、前記不等速伝達部材は、前記主動軸に設けた不等速主動平ギアと前記従動軸に設けた不等速従動平ギアとで構成されている、
請求項1又は2に記載した乗用型苗移植機。
【請求項5】
前記走行機体と植付け部との両方に、前記等速伝達部材と不等速伝達部材と操作部材とを設けている、
請求項1〜4のうちのいずれかに記載した乗用型苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−196200(P2012−196200A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247841(P2011−247841)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】