説明

乗用溝切機

【課題】操縦性、作業性等を低下させることなく、適正な深さ・形状の溝を安定して形成することのできる乗用溝切機を提供する。
【解決手段】機体フレーム(20)に、駆動車輪(12)、エンジン(15)を含む走行駆動系、操作用ハンドル(40)、及び作業者が跨乗する着座シート(30)等が設けられるとともに、前記機体フレーム(20)に溝切用のプラウ(50)が連結されている乗用溝切機(10)であって、前記着座シート(30)に跨乗する作業者(P)の体重に関わりなく、溝切作業時に、前記プラウ(50)部分の土壌に加わる重量が常に最適となるように、前記駆動車輪(12)の回転軸線(O)を通る鉛直線(Ca)上に作業者(P)が跨乗するように前記着座シート(30)が配備されるとともに、前記エンジン(15)等の配備位置等が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用溝切機に係り、特に、水田等の圃場において給排水を迅速円滑に行うための溝を形成するのに好適な乗用溝切機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の乗用溝切機においては、本体重量が30Kg程度あるのに対して、作業者の体重は50〜80Kgであるため、作業者の跨乗位置や体重により、プラウ部分の土壌に加わる重量が大きく変化し、それに伴い、形成される溝の深さ・形状も大きくばらついてしまう。
【0003】
そこで、従来においては、例えば、下記特許文献1等に見られるように、機体フレームの前部に駆動車輪を設けるとともに、機体フレームの後部にプラウを設け、また、機体の中央部に固定板を介して作業者が跨乗する着座シートを設けるとともに、該着座シートの前部にハンドルを設け、さらに、前記車輪を駆動するためのエンジンを機体フレームとプラウとの間あたりに配在し、作業者の体重を利用して適正な深さ・形状の溝を形成すべく、前記着座シートを前後方向に長くして作業者の跨乗位置を前後方向に移動可能としたものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−73540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した如くの従来の乗用溝切機では、作業者の跨乗位置を変更することにより、プラウ部分の土壌に加わる重量を変化させるようにされているので、操縦性、作業性等が悪いとともに、実際にはプラウ部分の土壌に加わる重量が安定せず、適正な深さ・形状の溝を形成することが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、操縦性、作業性等を低下させることなく、適正な深さ・形状の溝を安定して形成することのできる乗用溝切機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る乗用溝切機は、基本的には、機体フレームに、駆動車輪、エンジンを含む走行駆動系、操作用ハンドル、及び作業者が跨乗する着座シート等が設けられるとともに、前記機体フレームに溝切用のプラウが連結される。
【0007】
そして、前記着座シートに跨乗する作業者の体重に関わりなく、溝切作業時に、前記プラウ部分の土壌に加わる重量が常に最適となるように、前記機体フレーム、前記駆動車輪、前記エンジンを含む走行駆動系、前記操作用ハンドル、前記着座シート、及び前記プラウ等の配備位置等が設定される。
【0008】
この場合、好ましい態様では、前記駆動車輪の回転軸線を通る鉛直線上に作業者が跨乗するように前記着座シートが配備される。
【0009】
他の好ましい態様では、前部から後部にかけて順次、前記操作用ハンドル、前記着座シート、前記エンジン、及び前記プラウが配備される。
【0010】
より好ましい具体的な態様では、前記プラウ部分の土壌に加わる重量が、12〜20Kgの範囲内の略一定値となるようにされる。
【0011】
他の好ましい態様では、前記機体フレームの後部下側に、連結部材を介して前記プラウが連結されるとともに、前記連結部材に対する前記プラウの前後方向の連結位置が変更可能とされる。
【0012】
本発明に係る乗用溝切機の他の一つは、機体フレームに、駆動車輪、エンジンを含む走行駆動系、操作用ハンドル、及び作業者が跨乗する着座シート等が設けられるとともに、前記機体フレームに溝切用のプラウが連結され、前記機体フレームの後部下側に、複数辺を持つ概略枠状の連結部材を介して前記プラウが連結されるとともに、前記連結部材の一辺が旋回用ハンドルとして使用可能とされていることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る乗用溝切機の別の一つは、機体フレームに、駆動車輪、エンジンを含む走行駆動系、操作用ハンドル、及び作業者が跨乗する着座シート等が設けられるとともに、前記機体フレームに溝切用のプラウが連結され、前記機体フレームの一側部に、支軸部、縦辺部、及び接地辺部を有する概略L字ないしコ字状のスタンドが配備されるとともに、前記接地辺部を旋回用ハンドルとして使用すべく、前記スタンドを、前記支軸部を支点として後方に揺動させた状態において、前記接地辺部が前記着座シートと前記プラウとの間で係止されるように係止部が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
上記の如くの構成とされた本発明に係る乗用溝切機では、例えば、駆動車輪の回転軸線を通る鉛直線上に作業者が跨乗するように着座シートが配備されて、着座シートに跨乗する作業者の体重に関わりなく、溝切作業時に、プラウ部分の土壌に加わる重量が常に最適となるようにされる。
【0015】
ここで、プラウ部分の土壌に加わる重量の最適値は、本願の発明者等による実験により、15Kg前後(12〜20Kg)であることわかったので、作業者が乗車しているか、乗車していないか(空車時)とは無関係に、プラウ部分の土壌に加わる重量が15Kgとなるように、駆動車輪、エンジンを含む走行駆動系、操作用ハンドル、着座シート、及びプラウ等の配備位置等を設定する。
【0016】
このようにされることにより、従来例のように作業者の体重を利用することなく、プラウ部分の土壌に加わる重量が常に最適値とされるので、操縦性、作業性等を低下させることなく、適正な深さ・形状の溝を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の乗用溝切機の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1、本発明に係る乗用溝切機の一実施形態を示す左側面図、図2は、図1に示される乗用溝切機のエンジン等を取り去った状態の平面図である。
【0019】
図示例の乗用溝切機10は、平行二辺等からなる前フレーム21と平面視矩形の後フレーム22等からなる機体フレーム20を備え、前記前フレーム22には、概ね前部から後部にかけて順次、駆動車輪12、操作用ハンドル40、前ハンドル32、作業者が跨乗する着座シート30が配備されている。また、前記後フレーム22上には、エンジン15が搭載され、さらに、この後フレーム22の後部下側に、L形の垂直取付板25、側面視台形枠状の連結部材55及び後面視逆T字状の取付部材52を介してプラウ50が連結されている。
【0020】
また、前記機体フレーム20の右側部には減速機等の走行駆動ユニット18が配備され、前フレーム22の前方及び左右下側には、駆動車輪12の前部側上半分程度を覆うように巻き込み防止板19等が配備されている。また、前記機体フレーム20の左側部には、スタンド48が設けられている。
【0021】
ここで、プラウ50部分の土壌に加わる重量の最適値は、本願の発明者等による実験により、15Kg前後(12〜20Kg)であることわかったので、これに基づき、本実施形態の乗用溝切機10では、着座シート30に跨乗する作業者Pの体重に関わりなく、溝切作業時に、前記プラウ50部分の土壌に加わる重量が常に最適値の15Kg前後となるように、機体フレーム20、駆動車輪12、エンジン15、走行駆動ユニット18、操作用ハンドル40、着座シート30、及びプラウ50等の配備位置等が設定されている。
【0022】
より具体的には、作業者が乗車しているか、乗車していないか(空車時)とは無関係に、前記プラウ50部分の土壌に加わる重量が常に最適値の15Kg前後となるように、前記エンジン15等の配備位置が設定されるとともに、前記着座シート30は、駆動車輪12の回転軸線Oを通る鉛直線Ca上に作業者Pが跨乗するように、その配備位置が設定されている。なお、着座シート30は、より詳細には、前フレーム21の前後左右の4つの垂設辺部24上に水平に取り付けられた台座部材31の略中央部に設けられている。前記台座部材31の前部に操作用ハンドル40や前ハンドル32が配備され、前記エンジン15の後部に後ハンドル34が配備されている。また、操作用ハンドル40の縦柱部41及び水平ハンドル部42に寄り添うように、前記エンジン15のスロットル開度調整用と前記エンジン15から前記駆動車輪12への動力伝達断接用とを兼ねる、手指操作部46を有する操作レバー45が揺動可能に設けられている。
【0023】
また、プラウ50部分の土壌に加わる重量を微調整(圃場の土質や硬さ等に応じた調整)できるように、前記連結部材55に対する前記プラウ50の前後方向の連結位置が三段階に変更可能とされている。具体的には、前記連結部材55の底辺部に等間隔で5個の透孔56(右面側にナット部材58が固着されている)が形成されるとともに、プラウ50の上面に固定された取付部材52の縦辺部52aの前後方向両端近くに通し穴が設けられ、2本のボルト類57、57を、前記5個の透孔56のうちの前部側から2番目と4番目に挿通螺合させることにより、プラウ50は中央位置とされ(図示の状態)、前部側から1番目と3番目に挿通螺合させることにより、プラウ50は前寄り位置とされ、前部側から3番目と5番目に挿通螺合させることにより、プラウ50は後寄り位置とされる。
【0024】
このように、本実施形態の乗用溝切機10では、駆動車輪12の回転軸線Oを通る鉛直線Ca上に作業者Pが跨乗するように着座シート30が配備されて、着座シート30に跨乗する作業者Pの体重に関わりなく、また、作業者が乗車しているか、乗車していないか(空車時)とは無関係に、プラウ50部分の土壌に加わる重量が常に最適値の15Kg前後となるようにされるので、従来例のように作業者の体重を利用することなく、言い換えれば、操縦性、作業性等を低下させることなく、適正な深さ・形状の溝を安定して形成することができる。
【0025】
また、特に本機10全体を持ち上げずに駆動車輪12を中心にプラウ50部分を持ち上げて旋回させる際、後ハンドル34を用いる場合は、把手位置が作業者の胸部より高くなるため、プラウ50を高く持ち上げることが難しいとともに、後ハンドル34は前後方向で見るとプラウ50の前部付近に位置しているので、大きな持ち上げ力を必要とするが、前記台形枠状の連結部材55の斜辺部55aは、前記後ハンドル34より低く、かつ、それより後方の位置にあるので、この斜辺部55aを旋回用ハンドルとして用いることにより、プラウ50を高く持ち上げやすくなるとともに、旋回させる際に必要とされる持ち上げ力が小さくて済むといった利点も得られる。
【0026】
図3、図4は、本発明に係る乗用溝切機の他の実施形態を示し、図3は上記した実施形態を示す図1に対応し、図4は上記した実施形態を示す図2に対応しており、図1、図2に示される各部に対応する部分には同一の符号が付されている。以下においては、前記実施形態との相違点のみを説明する。
【0027】
本実施形態の乗用溝切機10’は、スタンドを旋回用ハンドルとしても用いることができるようにしたものである。すなわち、前記した実施形態のスタンド48に代えて、支軸部71b、縦辺部71a、及び大径部72が設けられた接地辺部71cを有する概略コ字状のスタンド70が配備されている。このスタンド70は、前記機体フレーム20の左側面下側に配設された、前記支軸部71bを抜き差し可能な透孔が設けられた軸受け板78を有する支持部材73に揺動可能に支持されるようになっており、通常のスタンドとして使用する場合には、図3、図4において実線で示される如くに、支軸部71bを前記支持部73に通して、縦辺部71aの上部を、前記支持部材73の横突出板部74に設けられた平面視C形状の係止溝75に嵌め込んで係止する。この通常のスタンドとしての使用時には、前記大径部72を有する接地辺部71cが機体フレーム20の真下に位置し、プラウ50が地面Gから持ち上げられた状態となる。ここで、支軸部71b、縦辺部71a、及び接地辺部71cは互いに直角に折り曲がっており、支軸部71bと接地辺部71cとは平行(互いに水平)となるので、乗用溝切機10’全体が地面Gに対して垂直となる。このため、本機10’を垂直の状態で保管できるので、前記実施形態のスタンド48を用いる場合に比して、プラウ50の変形等を防止でき、所要の性能を維持することができる。
【0028】
一方、スタンド70(の接地辺部71c)を旋回用ハンドルとして使用する際には、支軸部71bを支持部材73から一旦引き抜き、スタンド70(の縦辺部71a)を、図3、図4において二点鎖線で示される如くに、前記支軸部(71b)を支点として後方に揺動させた状態において、支軸部71bを支持部材73に差し込み、縦辺部71aの支軸部71b近くの部位を、前記支持部材73の斜め突出板部76に設けられた下方開口のU形ないしC形状の係止溝77に下から嵌め込んで係止する。これにより、前記接地辺部71cが前記着座シート30と前記プラウ50との間の位置で係止されことになり、このため、前記接地辺部71c(の大径部72)を旋回用ハンドルとして使用することにより、前記台形枠状の連結部材55の斜辺部55aを旋回用ハンドルとして使用する場合と同様に、プラウ50を高く持ち上げやすくなるとともに、旋回させる際に必要とされる持ち上げ力が小さくて済むという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る乗用溝切機の一実施形態を示す左側面図。
【図2】図1に示される乗用溝切機のエンジン等を取り去った状態の平面図。
【図3】本発明に係る乗用溝切機の他の実施形態を示す左側面図。
【図4】図3に示される乗用溝切機のエンジン等を取り去った状態の平面図。
【符号の説明】
【0030】
10 乗用溝切機
12 駆動車輪
15 エンジン
20 機体フレーム
30 着座シート
40 操作用ハンドル
50 プラウ
55 連結部材
70 スタンド
71a 縦辺部
71b 支軸部
71c 接地辺部
77 係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体フレーム(20)に、駆動車輪(12)、エンジン(15)を含む走行駆動系、操作用ハンドル(40)、及び、作業者が跨乗する着座シート(30)等が設けられるとともに、前記機体フレーム(20)に溝切用のプラウ(50)が連結されている乗用溝切機(10)であって、
前記着座シート(30)に跨乗する作業者(P)の体重に関わりなく、溝切作業時に、前記プラウ(50)部分の土壌に加わる重量が常に最適荷重となるように、前記機体フレーム(20)、前記駆動車輪(12)、前記エンジン(15)を含む走行駆動系、前記操作用ハンドル(40)、前記着座シート(30)、及び前記プラウ(50)等の配備位置等が設定されていることを特徴とする乗用溝切機。
【請求項2】
前記駆動車輪(12)の回転軸線(O)を通る鉛直線(Ca)上に作業者(P)が跨乗するように前記着座シート(30)が配備されていることを特徴とする請求項1に記載の乗用溝切機。
【請求項3】
前部から後部にかけて順次、前記操作用ハンドル(40)、前記着座シート(30)、前記エンジン(15)、及び前記プラウ(50)が配備されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗用溝切機。
【請求項4】
前記プラウ(50)部分の土壌に加わる重量が、12〜20Kgの範囲内の略一定値となるようにされていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乗用溝切機。
【請求項5】
前記機体フレーム(20)の後部下側に、連結部材(55)を介して前記プラウ(50)が連結されるとともに、前記連結部材(55)に対する前記プラウ(50)の前後方向の連結位置が変更可能とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の乗用溝切機。
【請求項6】
機体フレーム(20)に、駆動車輪(12)、エンジン(15)を含む走行駆動系、操作用ハンドル(40)、及び作業者が跨乗する着座シート(30)等が設けられるとともに、前記機体フレーム(20)に溝切用のプラウ(50)が連結されている乗用溝切機(10)であって、
前記機体フレーム(20)の後部下側に、複数辺を持つ概略枠状の連結部材(55)を介して前記プラウ(50)が連結されるとともに、前記連結部材(55)の一辺が旋回用ハンドル(55a)として使用可能とされていることを特徴とする乗用溝切機。
【請求項7】
機体フレーム(20)に、駆動車輪(12)、エンジン(15)を含む走行駆動系、操作用ハンドル(40)、及び作業者が跨乗する着座シート(30)等が設けられるとともに、前記機体フレーム(20)に溝切用のプラウ(50)が連結されている乗用溝切機(10)であって、
前記機体フレーム(20)の一側部に、支軸部(71b)、縦辺部(71a)、及び接地辺部(71c)を有する概略L字ないしコ字状のスタンド(70)が配備されるとともに、前記接地辺部(71c)を旋回用ハンドルとして使用すべく、前記スタンド(70)を、前記支軸部(71b)を支点として後方に揺動させた状態において、前記接地辺部(71c)が前記着座シート(30)と前記プラウ(50)との間で係止されるように係止部(77)が設けられていることを特徴とする乗用溝切機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−28006(P2009−28006A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197389(P2007−197389)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000141990)株式会社共立 (110)
【Fターム(参考)】