説明

乗用移植機

【課題】施肥機の給送パイプと干渉することがないと共に、軽量かつ安価な植付部フレームを備えた乗用移植機を提供する。
【解決手段】乗用田植え機1の後方には施肥機6が設けられていると共に、植付部9が昇降リンク7を介して取付けられている。植付部9には構造部材として植付部フレーム17が配設されており、その断面外郭形状は矩形状の前方下部を切欠いた形状をしている。また、植付部フレーム17の前方には施肥機6の給送パイプ19が通っており、植付部フレーム17の切欠き部において後方に湾曲している。また、植付部フレーム17は切欠き部に分割片を取付けることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば乗用田植え機などの乗用移植機に関し、詳しくは機体後部に設けられた植付部のフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植付部に断面略正方形の角パイプからなる植付部フレームを備え、構造部材としての該植付部フレームに、伝動ケースなどの各種部材を取付けた乗用移植機が案出されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3257956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した植付部フレームの外周には、ボルトを取付けるための取付溝が形成されており、断面略正方形の形状と相俟って、その外周面に容易に伝動ケースなどの各種部材を取付けることができるが、図9に示すように、施肥を行う施肥機6を取付けると、肥料を給送する給送ホース19と該植付部フレーム45の角部とが干渉して上記給送ホース19が大きく曲がり、その湾曲部において給送された肥料が詰まってしまうことがあった。
【0004】
また、植付部フレームは、上記給送ホースと干渉する角部近傍のように本来必要のない部分までも上記部材を取付ける取付け面となっており、その分だけ重量が重くなり、コストも高くなってしまっていた。
【0005】
そこで、本発明は、植付部フレームの断面外郭形状を矩形状の前方下部を切欠いた形状とすることによって、上記課題を解決した乗用移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、植付部(9)の伝動ケース(13)を取付ける植付部フレーム(17,30,36,42)を備えた乗用移植機(1)において、
前記植付部フレーム(17,30,36,42)は、全長に亘って同一断面外郭形状からなり、かつ該断面外郭形状は矩形状の前方下部を切欠いた切欠き部(24,31)を有してなる、
ことを特徴とした乗用移植機にある。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記植付部フレーム(17,30,36,42)の切欠き部(24,31)に、分割片(32,33,37,40,43)を固定してなる、
請求項1記載の乗用移植機にある。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記植付部フレーム(17,30,36,42)及び前記分割片(32,33,37,40,43)のどちらか一方に該分割片(32,33,37,40,43)を取付けるための取付け溝(30a)を形成し、他方に該取付け溝(30a)に対応する取付け部(32a,40a)を設け、
該取付け部(32a,40a)を前記取付け溝(30a)に沿ってスライドさせて差し込むことによって、前記植付部フレーム(17,30,36,42)に前記分割片(32,33,37,40,43)を取付けてなる、
請求項2記載の乗用移植機にある。
【0009】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、施肥機を装着した際にその給送ホースと干渉する植付部フレームの前方下部を切欠いた形状とすることによって、給送ホースの曲がりを最小限にし、円滑に肥料を給送することができる。また、植付部フレームを軽量に構成することができ、その製造コストも安くなる。
【0011】
請求項2に係る発明によると、植付部フレームの切欠き部に分割片を追加することによって、軽量かつ高強度の植付部フレームとすることができると共に、取付け面の必要な部分に取付け面を形成したり、植付部フレームの重量バランスを調整したりすることもできる。
【0012】
請求項3に係る発明によると、植付部フレーム及び分割片のどちらか一方に形成された付け溝と、他方に形成された取付け部とをスライドさせて取付けることによって、分割片の取付け位置を任意に調整することができ、それにより、各植付部フレームごとに強度や重量バランスなどの微調整をすることができる。また、植付部フレームは軽合金の引抜き加工によって製造されているため、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明に係る乗用移植機について、図面に基づいて説明する。
【0014】
<実施形態1>
図1に示すように、本発明に係る乗用移植機としての乗用田植え機1は、前輪2及び後輪3に支持された走行機体5を有しており、その機体後方には苗の植付と同時に施肥を行う施肥機6が設けられている。また、走行機体5の後方には昇降リンク7を介して植付部9が取付けられており、該昇降リンク7は、植付部9のホルダフレーム10に脱着自在に装着されている。
【0015】
上記植付部9は、マット苗を載置する苗載せ台11から、植付装置12により苗を掻きとって圃場に移植しており、該植付装置12はエンジンからの動力が植付PTO軸14を介して入力されるプランタケース(伝動ケース)13の先端に回転自在に取付けられている。上記プランタケース13の下方には、圃場面を滑走するフロート15が配設されていると共に、フロート15の側方には施肥機6からの肥料を吐出するノズル16が位置している。
【0016】
また、上記昇降リンク7が脱着自在に取付けられているホルダフレーム10にはローリング支軸(不図示)を介して植付部フレーム17が左右に傾斜自在に支持され、該植付部フレーム17の前方(以下、機体を中心に方向を考え、その進行方向を前方とする)には、上述した施肥機6とノズル16とを接続し、粒状、ペースト状、粉状などの肥料を給送する給送ホース19が通っている。
【0017】
更に、植付部フレーム17の外周面(前面、上面、下面、背面)は部材の取付け面となっており、取付ブラケット20を介してプランタケース13が取付けられたり、ローリング支持を取付けるブラケット21(図3(a)参照)や給送ホース19の固定部材22が固設されたり、苗載せ台11の支持ステー23が立ち上がったりしている。なお、植付部フレーム17の外周面にはボルト(固定金具)取付けのための溝25(図2(a)参照)が形成されている。
【0018】
上述した植付部フレーム17は、アルミニウム合金の引き抜き部材から構成され、全長に亘って同一断面形状をしており、その断面外郭形状は、特に図2(a)に示すように、2つの直交する長辺26a,26bと、一方の長辺とは直交し、他方の長辺とは平行な2つの短辺26c,26dとを有し、この2つの短辺間を1つの傾斜辺26eによって連結した5角形をしている。
【0019】
植付部フレーム17は、上記傾斜辺26eが前方下部に位置するように取付けられ、断面矩形状の角パイプの前方下部を面取りした形状をしており、該面取り部分である切欠き部24(該傾斜辺26eからなる傾斜面の下方)には、一定の空間Sが形成されている。
【0020】
上述した給送ホース19は、植付部フレーム17の下部近傍において機体後方に向って湾曲しており、給送ホース19は該湾曲部27において上記空間Sを通ってノズル16と接続している。それにより、給送ホース19は最も曲がりの少ない形で配設され、上記湾曲部27において肥料が詰まりにくい構成となっている。また、上記植付部フレーム17はその内周に中空部を有する中空構造をしており、上記角パイプの前方下部を面取りした形状をしていることと相俟って、その強度を保ちつつ軽量に構成されている。なお、植付部フレーム17の下方には給送ホース19のみならず植付PTO軸14なども配設されている。
【0021】
以下に本実施形態に係る乗用田植え機の作用について説明する。
【0022】
作業者は、施肥機6に肥料を補充すると田植え機1に乗り込んで、植え付け装置12によって圃場面に苗を移植すると同時に施肥機6によって施肥を行う。施肥機6に供給された肥料は、給送ホース19内部を通ってノズル16まで給送され、該ノズル16によって圃場の土中に注入される。
【0023】
上記給送ホース19は、植付部フレーム17の下部近傍において後方に湾曲しているが、該給送ホース19の湾曲部27は上記空間Sを通ってその曲がりを最小限にしており、施肥機6から供給される肥料は該湾曲部27で詰まることなく円滑に流れてノズル16から圃場に吐出される。
【0024】
上記のように乗用田植え機を構成したことによって、給送ホース19は湾曲部27において空間部Sを通るため、その曲がりを最小限とすることができ、肥料を詰まらせることなく円滑に給送することができる。
【0025】
また、植付部フレーム17の前方下部を面取りした形状とすることによって、その強度を保ちつつ、軽量化を図ることができる。またその製造コストも安価なものとなる。
【0026】
更に、植付部フレーム17は、アルミニウム合金などの軽合金の引抜き部材によって製造されているため、その製造が容易である。
【0027】
<実施形態2>
図3及び図4は、本発明の実施形態2に係る乗用田植え機を示すものである。この実施の形態は、植付部フレームの切欠き部にフレーム片(以下、分割片という)を取付けられるように構成したものであり、以下に実施形態1の構成と相違する部分について説明する。
【0028】
図3(a),(b)に示すように、植付部フレーム30はアルミ合金の引き抜き部材であり、その断面外郭形状は全長に亘って、矩形状の断面の前方下部を矩形に切欠いたL字型を180度回転させた形状をしている。また、図4(a),(b)に示すように、切欠き部31には、分割片32が取付け可能に構成されており、該分割片32が取付けられた植付部フレーム30の断面外郭形状は、矩形状となっている。
【0029】
上記植付部フレーム30の切欠き部31の周面には分割片32を取付けるための取付け溝であるアリ溝30a,30aが形成されていると共に、分割片32の外周面にはそれと対応する形の取付け部であるアリ32aが形成されており、これらアリ溝30aとアリ32aが嵌合することによって、分割片32が植付部フレーム30に取付けられている。
【0030】
図3(a),(b)に示すように、植付部フレーム30はその切欠き部31が前方下部に位置するように配設されており、該植付部フレーム30の全長よりも短い複数の分割片32が、強度が必要となりかつ、給送ホース19の通らない部分にのみ取付けられている。上記給送ホース19は切欠き部31によって形成された空間Sを通り、湾曲部27においてその曲がりが最も少なくなるように配設されている。
【0031】
上記植付部フレーム30は、分割片32を強度の必要な部分にのみ取付けることによって、強度を保ちつつ軽量に構成することができ、同時に製造コストの削減を図ることもできる。また、切欠き部31によって形成された空間Sにより、給送ホース19を最小限の曲がりで配設することができ、肥料を詰まらせることなく円滑に給送できる。
【0032】
更に、分割片32の取付け部32aを植付部フレーム30の取付け溝30aに沿ってスライドさせて、植付部フレーム30に分割片32を取付けることによって、分割片32を容易に脱着させることができると共に、その位置を任意に調整することもできる。
【0033】
なお、分割片は実施形態1の形状の植付部フレーム17にも取付けることができ、図5に示すように分割片33を連結プレート34を介してボルト35によって取付けたり、実施形態2のように取付け溝に取付け部を嵌挿して取付けたりしてもよい。
【0034】
また、分割片を植付部フレームと同一の部材であるアルミ合金でなく、例えば、鋼鉄などの鉄系の部材で構成することによって、植付部フレームの強度をより高めたり、樹脂などで構成することによって、曲げ方向に対してダンピングなどの効果を得たりすることもできる。
【0035】
次に、別形態の分割片の取付けについて説明をする。
【0036】
<実施形態3>
図6は、実施形態2とは異なる植付部フレーム36への分割片37の取付け形態を示したものであり、該植付部フレーム36の切欠き部38にはボルト穴36aが設けられている。分割片37は、その内部に設けられた貫通孔37aにボルト39を挿通されており、該ボルト39が上記植付部フレーム36のボルト穴36aに螺合することによって植付部フレーム36に取付けられている。
【0037】
上記ボルト穴36aは、植付部フレーム36の重量バランスを調整可能な位置に設けられており、分割片37を植付部フレーム36に取付けることによって、その重量バランスを調整することができる。
【0038】
<実施形態4>
図7は、実施形態2において、分割片40をボルト41によって任意の位置で係止して、重量バランスの乱れを調節することができるように構成したものであり、植付フレーム30の取付け溝30aに分割片40の取付け部40aを嵌合させ、分割片40を該取付け溝30aに沿ってスライドさせることによって取付けている。
【0039】
上記分割片40には、取付け部40a,40aと対応した位置にボルト41,41が嵌挿されており、該ボルト41を締め付けることによって、分割片40を任意の位置で固定することができる。これにより、分割片40を最適位置で固定することができ、植付部フレーム30の微妙なバランスの調整をすることができる。
【0040】
<実施形態5>
図8は、用途に応じた形状の分割片43を取付けることによって、植付部フレームの共通化を図ったものであり、取付け溝42aと取付け部43aとを嵌合させることによって、5条及び6条兼用の植付部フレーム42に分割片43を取付けて、8条用の植付部フレームを構成している。
【0041】
このように、分割片の形状を用途に応じて変えることによって、植付部フレームの共通化を図ることができ、コストを軽減すことができる。なお、上記実施形態1乃至5の分割片は必ずしも取付け部の断面外郭形状が矩形になるように形成する必要はなく、用途に応じてL字型や、矢印型など様々な形状にしてもよい。
【0042】
また、上述した実施形態1乃至5の植付部フレーム及び分割片の形状は、その実施の形態に限るものではなく、他の実施形態の植付部フレームを相互に利用してもよい。更に、分割片の固定方法もボルト固定の他に、焼き嵌め、圧入、溶接などの様々な方法で固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態1に係る乗用田植え機の側面図。
【図2】(a)本発明の実施形態1の植付部フレームの側面図、(b)本発明の実施形態1に係る植付部の側面図。
【図3】(a)本発明の実施形態2における植付部フレームと給送パイプとの関係を示す正面図、(b)本発明の実施形態2に係る植付部の断面図。
【図4】(a)本発明の実施形態2の植付部フレームと分割片を示す断面図、(b)本発明の実施形態2の植付部フレームに分割片を取付けた状態を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態1の植付部フレームに分割片を取付けた状態を示す断面図。
【図6】(a)本発明の実施形態3の植付部フレームと分割片を示す断面図、(b)本発明の実施形態3の植付部フレームに分割片を取付けた状態を示す断面図。
【図7】(a)本発明の実施形態4の植付部フレームと分割片を示す断面図、(b)本発明の実施形態4の植付部フレームに分割片を取付けた状態を示す断面図。
【図8】(a)本発明の実施形態5の植付部フレームと分割片を示す断面図、(b)本発明の実施形態5の植付部フレームに分割片を取付けた状態を示す断面図。
【図9】施肥機を取付けた、従来の乗用田植え機の側面図。
【符号の説明】
【0044】
1 乗用田植え機(乗用移植機)
9 植付部
13 プランタケース(伝動ケース)
17 植付部フレーム
24 切欠き部
30 植付部フレーム
30a 取付け溝
31 切欠き部
32 分割片
32a 取付け部
33 分割片
36 植付部フレーム
37 分割片
38 切欠き部
40 分割片
40a 取付け部
42 植付部フレーム
43 分割片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付部の伝動ケースを取付ける植付部フレームを備えた乗用移植機において、
前記植付部フレームは、全長に亘って同一断面外郭形状からなり、かつ該断面外郭形状は矩形状の前方下部を切欠いた切欠き部を有してなる、
ことを特徴とした乗用移植機。
【請求項2】
前記植付部フレームの切欠き部に、分割片を固定してなる、
請求項1記載の乗用移植機。
【請求項3】
前記植付部フレーム及び前記分割片のどちらか一方に該分割片を取付けるための取付け溝を形成し、他方に該取付け溝に対応する取付け部を設け、
該取付け部を前記取付け溝に沿ってスライドさせて差し込むことによって、前記植付部フレームに前記分割片を取付けてなる、
請求項2記載の乗用移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−142158(P2009−142158A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319944(P2007−319944)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】