説明

乱視矯正用眼鏡レンズ

【課題】歪曲収差のバランスをとることが可能な乱視矯正用眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】レンズの物体側の面(外面)に乱視矯正面としてのトリック面を形成するとともに、レンズの眼球側の面(内面)にも乱視矯正面としてのトリック面を形成する。そして、これら乱視矯正面では外面の曲率が最大になる方向が、内面の曲率が最大になる方向と一致するようにする。これによって、従来に比べて歪曲収差のバランスがとれた乱視矯正用眼鏡レンズを提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乱視矯正用の眼鏡に使用される乱視矯正用眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
角膜が歪んでいることによって生ずる視覚障害の一つとして乱視がある。乱視とは点光源が、円、楕円あるいは線となって点として結像しないため明視できない状態である。乱視が生じている場合物体が見づらくなったり眼精疲労や頭痛の原因ともなるためごく軽度でない限りこれを矯正することが好ましい。乱視を矯正するためには光軸周りの角度によって度数の異なるレンズ(乱視レンズ)を装用する必要がある。このような乱視を矯正した乱視矯正用レンズではレンズの内面(眼球側)に乱視矯正面を形成するのが一般であった。しかし、近年特に老視矯正のための累進屈折力レンズにおいて、累進屈折面を裏面に設定することに伴い乱視矯正面をレンズの外面(物体側)に設定するようにしたレンズも提案されている。レンズの内面に乱視矯正面を設定した一例として特許文献1を、レンズの外面に乱視矯正面を設定した一例として特許文献2を示す。
【特許文献1】特開2004−309588号公報
【特許文献2】特開2002−311397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これら従来の乱視矯正用眼鏡レンズでは歪曲収差に関して次のような課題が生じている。すなわち、レンズを通して物体を目視した場合では多かれ少なかれ歪曲収差が生じる。ところが、乱視矯正用眼鏡レンズではレンズ表面には一般に乱視矯正のためのトリック面が合成されることから、歪曲収差が90度交差する方向において(例えば縦・横)均等にならずにそのバランスが崩れてしまうこととなっていた。特に、乱視の強い人では乱視度数を大きく設定する必要から歪曲収差のバランスの崩れは従来から大きな問題であった。ところが従来の乱視矯正用眼鏡レンズのように内外いずれかのレンズ面で乱視矯正する場合では歪曲収差のバランスの崩れを十分修正することが困難であるため、乱視度数の強い装用者では違和感を解消するため実際よりも度数を弱くした乱視矯正用眼鏡レンズを使用して対処することが多かった。そのため、歪曲収差のバランスがとれた乱視矯正用眼鏡レンズが要望されていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、歪曲収差のバランスをとることが可能な乱視矯正用眼鏡レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、レンズ体の中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面と同レンズ面の交わりによってできる断面曲線の曲率が同レンズ体中心近傍において断面の方向別に異なるような乱視矯正面を、同レンズ体中心近傍における同各断面曲線の曲率が最大となる方向と最小となる方向を略直交させるとともに最大曲率方向と最小曲率方向の間で曲率を単調に変化させるようにして同レンズ体の物体側の面と眼球側の面の両面に形成し、同両乱視矯正面によって所望の乱視度数を設定するようにしたことをその要旨とする。
また請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、外面の曲率が最大になる方向が、内面の曲率が最大になる方向と略一致するようにしたことをその要旨とする。
また請求項3の発明では、請求項2の発明の構成に加え、外面の曲率が最大になる方向が、内面の曲率が最小になる方向と略一致するようにしたことをその要旨とする。
また請求項4の発明では請求項2又は3のいずれか発明の構成に加え、外面の曲率が最大になる方向が、マイナスレンズでは眼鏡レンズの透過屈折力がマイナス最強度となる方向と一致し、プラスレンズではプラス最強度となる方向と一致するようにしたことをその要旨とする。
【0005】
また請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかの発明の構成に加え、前記乱視矯正面がレンズの中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面とレンズ面の交わりによってできる断面曲線が円でないものを含むような非トリック面で構成されるようにしたことをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかの発明の構成に加え、前記レンズ体の両面に分離させて、あるいはいずれか一方の面のみに近用部における加入度を付加するための累進屈折面形状を合成したことをその要旨とする。
【0006】
上記のような構成の乱視矯正眼鏡レンズではレンズの物体側の面(レンズ外面)及びレンズの眼球側の面(レンズ内面)の両面に乱視矯正面を設定することで、歪曲収差のバランスをとることを可能としている。乱視矯正面はレンズ体の中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面と同レンズ面の交わりによってできる断面曲線の曲率が同レンズ体中心近傍において断面の方向別に異なっており、そのレンズ体中心近傍における断面曲線の曲率が最大となる方向と最小となる方向が直交し、最大曲率方向と最小曲率方向の間で曲率が単調に変化するものである。このような乱視矯正面として例えばトリック面が挙げられる。トリック面とは円を中心を通らない直線を軸として回転させたときに描かれる曲面であって、「タル型」と「ドーナツ型」の二種類がある。トリック面では縦方向と横(周)方向の曲率が異なるため、所定の縦横の曲率とされたトリック面を設定して乱視の矯正とするものである。ここに、「レンズ体の中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面と同レンズ面の交わりによってできる断面曲線」はレンズ体中心近傍において断面の方向別に異なっており、なおかつ断面曲線の曲率が最大となる方向と最小となる方向が略直交し、最大曲率方向と最小曲率方向の間で曲率が単調に変化すればよい。つまり、レンズ体中心近傍から離れた位置ではこのような条件に合致しない断面曲線であっても構わない。
【0007】
これはつまり、トリック面においては円を回転させてできる面を想定しているが、本発明では円以外の形状を回転させてできる拡張トリック面を使用したり、いわゆる非トリック面を使用することも可能であることを意味している。非トリック面とは非点収差または歪曲収差を軽減したり、レンズの厚さを薄くするため非球面レンズの概念をトリック面に組み合わせたものである。
乱視矯正面において断面曲線の曲率が最小となる方向(つまり乱視軸)と断面曲線の曲率が最大となる方向は直交するよう設計するのが基本である。しかし、実際の装用における乱視矯正能力としては完全に直交していなくとも問題がないため略直交で構わない。より具体的には例えば70〜110度の範囲ならば略直交に含まれ実際の装用には問題がない。また、曲率を単調に変化させるとは曲率の変化を二次以上の関数で示すことができればよい。
【0008】
このような構成であれば従来の乱視矯正用眼鏡レンズにおいて課題とされていた歪曲収差のバランスの崩れを修正することが可能となる。
従来の乱視矯正用眼鏡レンズでは以下のようなレンズ特性から歪曲収差のバランスが崩れてしまっていた。
図5はマイナスレンズ(近視用レンズ、以下同)において外面乱視矯正レンズpと内面乱視矯正レンズqとの形状を比較したものである。また、両レンズにおいてはそれぞれ90度ずれた乱視軸方向と乱視強度方向の2方向におけるレンズ断面をそれぞれ+記号と−記号を付して示す。外面乱視矯正レンズpは内面側が球面とされ、内面乱視矯正レンズqは外面側が球面とされている。これらはレンズの表裏の屈折力の平均値がほぼ同等となるように設定された仮想レンズである。尚、説明の簡略化のために乱視矯正面は単なるトリック面で構成した。
このような両レンズp、qにおいてまず、外面乱視矯正レンズpでは特に外面における乱視強度方向のカーブが浅いためこの方向の歪曲収差(この場合は凹レンズであるため縮小方向への収差)がかなり大きく、一方乱視軸方向の歪曲収差はカーブが深くなるのでそれほどではないため結果として縦横の変形比率が大きくなってしまう。結果としてこれら外面乱視矯正レンズpでは内面乱視矯正レンズqよりも歪曲収差による変形度が大きくなってしまう傾向にある。一方、内面乱視矯正レンズqでは内面において乱視強度方向のカーブが深いため外面乱視矯正レンズpのように変形比率が大きくならない点では優れているものの、歪曲収差による変形度を抑制する自由度に欠けるため十分な歪曲バランスをとることができなかった。尚、プラスレンズ(遠視用レンズ、以下同)ではマイナスレンズとは逆の特性となる。
【0009】
一方、本発明では所定の乱視度数をレンズ面に設定するに際して、レンズ体の両面に乱視矯正面を形成するようにしているため、例えば上記のマイナスレンズのケースにおいてはレンズ外面の乱視強度方向側のカーブを深くし、これに追随させてレンズ内面の乱視強度方向カーブも深くすることで所定の乱視度数をレンズ面に設定することが可能となる(プラスレンズのケースにおいても同様である)。イメージとしては、例えば図6(a)及び(b)に示すようなレンズが挙げられる。
図6(a)は本発明をマイナスレンズに応用した場合の斜視図である。水平方向をマイナスの乱視強度方向とし、垂直方向を乱視軸方向とする。乱視強度方向においてレンズ外面のカーブを深く(つまり曲率が大きい)形成するとともに、これに応じてレンズ内面側の乱視強度方向も深く形成されている。一方、乱視軸方向はレンズの内外いずれの面も乱視強度方向よりもカーブが浅く(つまり曲率が小さい)形成されている。
また、図6(b)は本発明をプラスレンズに応用した場合の斜視図である。水平方向をプラスの乱視強度方向とし、垂直方向を乱視軸方向とする。乱視強度方向においてレンズ外面のカーブを深く(つまり曲率が大きい)形成するとともに、これに応じてレンズ内面側の乱視強度方向も深く形成されている。一方、乱視軸方向はレンズの内外いずれの面も乱視強度方向よりもカーブが浅く(つまり曲率が小さい)形成されている。
【0010】
ここに歪曲収差のバランスを図る意味で最も好ましい内外両面の設定は、外面の曲率が最大になる方向と、内面の曲率が最大になる方向とを一致させることである。しかし、歪曲収差のバランスが最もとれていると判断できるのは完全に一致する位相を含むある程度の裕度のある範囲であるため、ここでは略一致で構わない。つまり若干のズレ(±5度程度)を含む概念である。この場合に曲率が最大になる方向が乱視強度方向であるのがもちろん好ましい。
更に、マイナスレンズでは外面の曲率が最大になる方向においてレンズの透過屈折力がマイナス最強度となり、プラスレンズでは外面の曲率が最大になる方向においてレンズの透過屈折力がプラス最強度となることが歪曲収差のバランスを図る意味で好ましい。マイナス最強度とはマイナスレンズにおいて、またプラス最強度とはプラスレンズにおいてそれぞれ絶対値で示される透過屈折力の値が最大である場合をいう。
但し、図6(a)のマイナスレンズのように垂直に乱視軸が設定される場合では、あまり外面強度方向のカーブが深いとレンズの見栄えが悪くなるため、例えば外面の強度方向のカーブを浅くし、内面の強度方向のカーブを深くしつつ乱視の矯正を図るというような設定も可能である。つまり、外面の曲率が最大になる方向を、内面の曲率が最小になる方向と略一致するような設定の可能性もありうる。
【0011】
本発明は特に累進屈折力レンズに応用することに好適である(例えば両面トリックレンズの外面・内面・両面に累進面形状を合成すること)。これは次のような理由による。例えば、遠用度数がプラスで乱視度数を含む処方の人は、累進屈折力レンズの歪み・ユレに慣れにくい人が多い。もともと累進屈折力レンズの下方部分には近用視のための加入度が加わるので、遠用度数がプラスの場合はレンズ全体の度数がプラスよりになって像の倍率が大きくなる効果、乱視の効果で物が歪んで見える効果、加入度のために下方視界の像が拡大される効果が合わせられるためである。
加えて、遠用度数が弱いプラスの人は眼鏡無しでも遠くがよく見えるため、累進屈折力レンズを装用する以前はもともと眼鏡をかけていなかったケースが多い。そのため、初めての眼鏡として累進屈折力レンズを装用する際に、同時に乱視矯正を行うことがままあるからである。
本発明はトリック面と非トリック面をレンズの内外面に組み合わせて設定することも可能である。例えば、外面非トリック+内面トリックのように内外面でトリック面と非トリック面を組み合わたレンズを構成してもよい。
またレンズはメニスク形状(外面凸面で内面が凹面)が一般的であるが、プラスレンズであれば、両面が凸となるダブルレンズであっても良い。また、本発明の乱視矯正用眼鏡レンズを台玉として、近方視用の小玉を付加する(いわゆるバイフォーカルレンズ)ことも可能である。
【発明の効果】
【0012】
上記各請求項の発明では、従来に比べて歪曲収差のバランスがとれた乱視矯正用眼鏡レンズを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の乱視矯正用眼鏡レンズの各実施例について歪曲収差をシミュレーションした結果について説明する。
(シミュレーション方法について)
比較レンズと実施例のレンズとを同一の乱視度数となるように設定し、これらレンズの歪曲収差についてシミュレーションした。このシミュレーションでは図7に示すような目視を想定した。眼球中心からレンズ内面頂点までの距離を25mmとし、眼球中心から前方の格子までの直線距離を10mとし、正面から5m(26.6度視線方向)及び10m(45度視線方向)離れた位置の歪曲度を指標とした。格子の間隔は2mとした。従って、歪曲が全くなければ(レンズの素材屈折率が1で、レンズの透過屈折率が0であれば)45度方向の視線は10m位置の格子に一致する。尚、実際にレンズを枠入れして装用する場合ではレンズは10度程度前傾するのであるが、説明を簡単にするためにレンズを眼に対して傾けない状態で行った。
【0014】
シミュレーション1
シミュレーション1では単純な球面とトリック面で構成されるマイナスレンズにおけるシミュレーションを行った。外面を球面に、内面を乱視矯正面に設定した比較レンズ1と、内外面を乱視矯正面に設定した本発明の実施例1A,1Bとを比較した。いずれもレンズの度数はS−4.00D C−1.00D AX90とした。乱視度数としては縦方向の度数を−4.00Dとし、横方向の度数を−5.00Dとした。つまり、縦方向を乱視軸とし、横方向が乱視強度方向となるレンズを作製した。いずれもレンズを構成するガラスの素材屈折率は1.6、レンズの直径は60mm、レンズ中心厚は1mmとした。乱視矯正面はいずれもトリック面とした。
レンズの面屈折力は球面に構成された比較例1のレンズの外面を曲率半径300mmとして、次の計算式に基づいて算出した。
外面の面屈折力=(素材屈折率−空気の屈折率)×1000/曲率半径・・・式(1)
内面の面屈折力=外面の面屈折力/(1−外面の面屈折力×レンズ中心厚(m)/素材屈折率)−乱視度数・・・式(2)
【0015】
(比較例1)
比較例1のレンズの外面を屈折力2.00のカーブの球面とした。上記式(1)に基づけばこのカーブの曲率半径は300mとされる。また、上記式(2)に基づいて比較例1のレンズの内面の面屈折力を縦方向は6.00カーブとし、横方向は7.00カーブのトリック面とした(小数点以下2桁まで四捨五入して表示)。表1に比較例1の屈折力を示す。
(実施例1A)
実施例1Aのレンズの外面では、横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力4.50とした。また、これに伴って上記式(2)より実施例1Aのレンズの内面の横方向のカーブは屈折力9.51とした。これによって乱視強度方向について内外面とも比較例1に対してより深いカーブが形成される。縦方向(乱視軸方向)については比較例1と同じである。表1に実施例1Aの屈折力を示す。
(実施例1B)
実施例1Bのレンズの外面では横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力3.50とした。これに伴って上記式(2)より実施例1Bのレンズの内面の横方向のカーブは屈折力8.51とされる。実施例1Bのレンズは、乱視強度方向において比較例1よりもカーブは深い(面屈折力が大きい)ものの実施例1Aに比べてカーブを抑制した設計となっている。縦方向(乱視軸方向)については比較例1よりもカーブを浅くし外面では屈折力1.00とし、これに併せてと内面では屈折力5.00とした。表1に実施例1Bの屈折力を示す。
・結果
26.6度視線方向及び45度視線方向の歪曲して目視される位置の実際の距離は表1の通りである。比較例1では図1(a)に示すように、実施例1Aでは図1(b)に示すように、実施例1Bでは図1(c)に示すような歪曲収差が目視がされることとなる。格子の間隔でわかるように、比較例1では横方向が縦方向に比べて間延びするため、縦横の歪曲バランスが崩れてしまっているが、実施例1A,1Bでは比較例1に比べて縦横のバランスがとれている。
【0016】
【表1】

【0017】
シミュレーション2
シミュレーション2では単純な球面とトリック面で構成されるプラスレンズにおけるシミュレーションを行った。外面を球面に、内面を乱視矯正面に設定した比較レンズ1と、内外面を乱視矯正面に設定した本発明の実施例1A,1Bとを比較した。いずれもレンズの度数はS+2.00D C+0.50D AX90とした。乱視度数としては縦方向の度数を+2.00Dとし、横方向の度数を+2.50Dとした。上記同様縦方向を乱視軸とし、横方向が乱視強度方向となるレンズを作製した。いずれもレンズを構成するガラスの素材屈折率は1.6、レンズの直径は60mmとした。レンズ中心厚は比較レンズ2は2.88mm、実施例2Aは2.92mm、実施例2Bは2.91mmとした。乱視矯正面はいずれもトリック面とした。
レンズの面屈折力は上記式(1)及び式(2)に基づいて算出した。
【0018】
(比較例2)
比較例2のレンズの外面は、屈折力3.00のカーブの球面とした。上記式(1)に基づけばこのカーブの曲率半径は200mとされる。また、上記式(2)に基づいて比較例2のレンズの内面の面屈折力は縦は1.02カーブで横は0.52カーブのトリック面とされる(小数点以下2桁まで四捨五入して表示)。表2に比較例2の屈折力を示す。
(実施例2A)
実施例2Aのレンズの外面では、横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力6.50とした。また、これに伴って上記式(2)より実施例2Aのレンズの内面の横方向のカーブを屈折力4.08とした。これによって乱視強度方向について内外面とも比較例2に対してより深いカーブが形成される。縦方向(乱視軸方向)については比較例2と同じである。表2に実施例2Aの屈折力を示す。
(実施例2B)
実施例2Bのレンズの外面では横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力6.00とした。これに伴って上記式(2)より実施例1Bのレンズの内面の横方向のカーブは屈折力3.57とした。実施例2Bのレンズは、乱視強度方向において比較例2よりもカーブは深い(面屈折力が大きい)ものの実施例2Aに比べてカーブを抑制した設計となっている。縦方向(乱視軸方向)については比較例2よりもカーブを浅くし外面では屈折力2.50とし、これに併せてと内面では屈折力0.51とした。表2に実施例2Bの屈折力を示す。
・結果
26.6度視線方向及び45度視線方向の歪曲して目視される位置の実際の距離は表2の通りである。比較例2では図2(a)に示すように、実施例2Aでは図2(b)に示すように、実施例2Bでは図2(c)に示すような歪曲収差の目視がされることとなる。格子の間隔でわかるように、比較例2では縦方向が横方向に比べて縮小するため、縦横の歪曲バランスが崩れてしまっているが、実施例2A,2Bでは比較例2に比べて縦横のバランスがとれている。
【0019】
【表2】

【0020】
シミュレーション3
シミュレーション3では単純な球面とトリック面で構成されるマイナスレンズに非球面設計のマイナスレンズを加えてシミュレーションを行った。外面を球面に、内面を乱視矯正面に設定した比較レンズ3と、内外面を乱視矯正面に設定した本発明の実施例3A,3Bとを比較した。いずれもレンズの度数はS−4.00D C−2.00D AX90とした。乱視度数としては縦方向の度数を−4.00Dとし、横方向の度数を−6.00Dとした。つまり、縦方向を乱視軸とし、横方向が乱視強度方向となるレンズを作製した。いずれもレンズを構成するガラスの素材屈折率は1.6、レンズの直径は60mm、レンズ中心厚は1mmとした。乱視矯正面は比較レンズ3及び実施例3Aはトリック面に設定し、実施例3Bでは外面はトリック面とし内面を非トリック面とした。尚、この実施例3Bでは計算の簡便化を図るため非トリック面において縦方向断面は球面とし、横方向断面のみを非球面に設定した。
レンズの面屈折力は上記式(1)及び式(2)に基づいて算出した。
【0021】
(比較例3)
比較例3のレンズの外面は、屈折力2.00のカーブの球面とした。上記式(1)に基づけばこのカーブの曲率半径は300mとされる。また、上記式(2)に基づいて比較例1のレンズの内面の面屈折力は縦は6.00カーブで横は8.00カーブのトリック面とした(小数点以下2桁まで四捨五入して表示)。表3に比較例3の屈折力を示す。
(実施例3A)
実施例3Aのレンズの外面は、横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力3.00とした。これに伴って上記式(2)より実施例3Aのレンズの内面の横方向のカーブは屈折力9.01とした。これによって乱視強度方向について内外面とも比較例3に対してより深いカーブが形成される。縦方向(乱視軸方向)については比較例2よりもカーブを浅くし外面では屈折力1.00とし、これに併せてと内面では屈折力5.00とした。表3に実施例3Aの屈折力を示す。
(実施例3B)
実施例3Bのレンズの内外面のカーブは実施例3Aと同じ値に設定した。但し、内面は非トリック面としたため(横方向断面が非球面)横方向のフチ厚が薄い。つまり、実施例3Aのそれが5.87mmであるのに対し5.80mmとされている。表3に実施例3Bの屈折力を示す。
・結果
26.6度視線方向及び45度視線方向の歪曲して目視される位置の実際の距離は表3の通りである。比較例3では図3(a)に示すように、実施例3Aでは図3(b)に示すように、実施例3Bでは図3(c)に示すような歪曲収差の目視がされることとなる。格子の間隔でわかるように、比較例3では横方向が縦方向に比べて若干間延びするため、縦横の歪曲バランスが崩れてしまっているが、実施例3A,3Bでは比較例3に比べて縦横のバランスがとれている。特に、実施例3Bでは横方向の歪曲が小さくなって、より歪曲収差のバランスがとれている。
【0022】
【表3】

【0023】
シミュレーション4
シミュレーション4では単純な球面とトリック面で構成されるプラスレンズに非球面設計のプラスレンズを加えてシミュレーションを行った。外面を球面に、内面を乱視矯正面に設定した比較レンズ3と、内外面を乱視矯正面に設定した本発明の実施例3A,3Bとを比較した。
ここでは外面を球面に、内面を乱視矯正面に設定した比較レンズ4と、本発明の実施例4A,4Bとを比較した。いずれもレンズの度数はS+2.00D C+1.00D AX90とした。乱視度数としては縦方向の度数を+2.00Dとし、横方向の度数を+3.00Dとした。つまり、縦方向を乱視軸とし、横方向が乱視強度方向となるレンズを作製した。いずれもレンズを構成するガラスの素材屈折率は1.6、レンズの直径は60mm、レンズ中心厚は比較レンズ4は3.25mm、実施例4Aは3.28mm、実施例4Bは3.16mmとした。乱視矯正面は比較レンズ4及び実施例4Aはトリック面に設定し、実施例4Bでは外面はトリック面とし内面を非トリック面とした。尚、この実施例4Bでも計算の簡便化を図るため非トリック面において横方向断面は球面とし、縦方向断面のみを非球面に設定した。
レンズの面屈折力は上記式(1)及び式(2)に基づいて算出した。
【0024】
(比較例4)
比較例4のレンズの外面は、屈折力3.50のカーブの球面とした。上記式(1)に基づけばこのカーブの曲率半径は約171.4mとされる。また、上記式(2)に基づいて比較例4のレンズの内面の面屈折力は縦は1.53カーブで横は0.53のカーブのトリック面とした(小数点以下2桁まで四捨五入して表示)。表4に比較例4の屈折力を示す。
(実施例4A)
実施例4Aのレンズの外面は、横方向(乱視強度方向)のカーブを屈折力5.50とした。これに伴って上記式(2)より実施例4Aのレンズの内面の横方向のカーブは屈折力2.56とした。これによって乱視強度方向について内外面とも比較例4に対してより深いカーブが形成される。縦方向(乱視軸方向)については比較例4よりもカーブを浅くし外面では屈折力2.50とし、これに併せてと内面では屈折力0.51とした。表4に実施例4Aの屈折力を示す。
(実施例4B)
実施例4Bのレンズの内外面のカーブは実施例4Aと同じ値に設定した。但し、内面は非トリック面としたため(縦方向断面が非球面)縦方向のフチ厚が薄い。つまり、実施例4Aのそれが1.78mmであるのに対し1.69mmとされている。表4に実施例4Bの屈折力を示す。
・結果
比較例4では図4(a)に示すように、実施例4Aでは図4(b)に示すように、実施例4Bでは図4(c)に示すような歪曲収差の目視がされることとなる。格子の間隔でわかるように、比較例4では横方向が縦方向に比べて若干間延びするため、縦横の歪曲バランスが崩れてしまっているが、実施例4A,4Bでは比較例4に比べて縦横のバランスがとれている。特に、実施例4Bでは横方向の歪曲が小さくなって、より歪曲収差のバランスがとれている。26.6度視線方向及び45度視線方向の歪曲して目視される位置の実際の距離は表4の通りである。
【0025】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の乱視矯正用眼鏡レンズの歪曲収差をシミュレーションした図であって(a)は比較例1、(b)は実施例1A、(c)は実施例1B。
【図2】本発明の乱視矯正用眼鏡レンズの歪曲収差をシミュレーションした図であって(a)は比較例2、(b)は実施例2A、(c)は実施例2B。
【図3】本発明の乱視矯正用眼鏡レンズの歪曲収差をシミュレーションした図であって(a)は比較例3、(b)は実施例3A、(c)は実施例3B。
【図4】本発明の乱視矯正用眼鏡レンズの歪曲収差をシミュレーションした図であって(a)は比較例4、(b)は実施例4A、(c)は実施例4B。
【図5】マイナスレンズにおいて外面側を乱視矯正した場合と内面側を乱視矯正した場合を比較した説明図。
【図6】(a)は本発明の概念を説明したマイナスレンズの斜視図、(b)は同じくプラスレンズの斜視図。
【図7】実施例におけるシミュレーションの方法を説明する説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ体の中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面と同レンズ面の交わりによってできる断面曲線の曲率が同レンズ体中心近傍において断面の方向別に異なるような乱視矯正面を、同レンズ体中心近傍における同各断面曲線の曲率が最大となる方向と最小となる方向を略直交させるとともに最大曲率方向と最小曲率方向の間で曲率を単調に変化させるようにして同レンズ体の物体側の面と眼球側の面の両面に形成し、同両乱視矯正面によって所望の乱視度数を設定するようにしたことを特徴とする乱視矯正用眼鏡レンズ。
【請求項2】
外面の曲率が最大になる方向が、内面の曲率が最大になる方向と略一致することを特徴とする請求項1に記載の乱視矯正用眼鏡レンズ。
【請求項3】
外面の曲率が最大になる方向が、内面の曲率が最小になる方向と略一致することを特徴とする請求項1に記載の乱視矯正用眼鏡レンズ。
【請求項4】
外面の曲率が最大になる方向が、マイナスレンズでは眼鏡レンズの透過屈折力がマイナス最強度となる方向と一致し、プラスレンズではプラス最強度となる方向と一致することを特徴とする請求項2又は3に記載の乱視矯正用眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記乱視矯正面がレンズの中心を含んでレンズ面に垂直に交わる平面とレンズ面の交わりによってできる断面曲線が円でないものを含むような非トリック面で構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乱視矯正用眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記レンズ体の両面に分離させて、あるいはいずれか一方の面のみに近用部における加入度を付加するための累進屈折面形状を合成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乱視矯正用眼鏡レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−178245(P2006−178245A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372496(P2004−372496)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)