説明

乳化液状栄養食

【課題】蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有し、1mLあたりの熱量が1kcal以上である乳化液状栄養食において、レトルト処理後や保存中のオイルオフを防止する。
【解決手段】上記の乳化液状栄養食に、グルコース含量の低減されたレシチン組成物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有する液状栄養食において、特に乳化安定性に優れた乳化液状栄養食に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する種々のミネラルは、体組織の構成に必要であり、生理機能の調節作用等を有することから、必要量を摂取することが好ましい。このため、例えば、手術前後の患者や高齢者等に供される流動食や介護用食品、あるいは、種々の健康食品等には、ミネラル補給を主目的とした添加剤が配合されている。
【0003】
このようなミネラル補給を主目的として、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛等の2価以上のミネラルを流動食に使用する場合がある。これらのミネラルを摂取することにより、生理機能の調整が可能となるが、流動食等の乳化状食品中では2価以上のミネラルが乳化に悪影響を及ぼし、保存中にオイルオフを発生するなど、商品価値が損なわれる場合があった。
【0004】
乳化状食品のオイルオフを防止する方法のひとつとして、本出願人は、乳化剤としてレシチンおよびリゾレシチンを含み、前記のレシチンとリゾレシチンとの比率が前者95〜50%、後者5〜50%であることを特徴とする滅菌液状乳化食品を発明し、特許出願を行っている(特許文献1)。上記の乳化剤を使用することにより、滅菌後のオイルオフを効果的に防止することが可能である。
【0005】
しかしながら、上記の乳化食品が2価以上のミネラルを含有するときには、滅菌時の乳化状態が顕著に不安定化しやすく、上記の乳化剤を使用した場合であっても、十分にオイルオフを防ぐことができない場合があった。
【特許文献1】特許3381202号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、2価以上のミネラルを含有する場合であっても、製品の保存中に、前記したオイルオフが起こり難い新規な乳化液状栄養食を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、乳化剤としてグルコース含量の少ないレシチン組成物を使用するならば、意外にも、2価以上のミネラルを含有する乳化液状栄養食の保存中のオイルオフを効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有し、1mLあたりの熱量が1kcal以上である乳化液状栄養食において、レシチン組成物を含有し、かつ、レシチン組成物中の含有リン脂質の重量に対する含有グルコースの割合が0.10%以下である、乳化液状栄養食、
(2)レシチン組成物が卵黄レシチン組成物である、(1)の乳化液状栄養食、
(3)2価以上のミネラルが、乳化液状栄養食中に0.1〜1.5mg/mLの濃度で含有される、(1)または(2)の乳化液状栄養食、
(4)容器に密封され、レトルト処理されてなる、(1)乃至(3)の乳化液状栄養食、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳化液状栄養食は、乳化剤としてグルコース含量の少ないレシチン組成物を配合することで、乳化液状栄養食の保存中のオイルオフが防止できることから、乳化液状栄養食の品位を長期間良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
本発明の乳化液状栄養食は、蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有する。
【0011】
蛋白質、脂質、炭水化物の種類については特に限定されるものではないが、蛋白質としては、乳蛋白;乳清蛋白;アルブミン;カゼイン;大豆蛋白等、脂質としては、大豆油;菜種油;中鎖脂肪酸トリグリセライド等、炭水化物としては、デキストリン;乳糖;ブドウ糖等が挙げられる。また、これらの配合量についても特に限定されないが、通常、乳化液状栄養食中に蛋白質を2〜10%、脂質を1〜10%、炭水化物を5〜30%含有する。
【0012】
また、2価以上のミネラルとしては、流動食、経腸栄養剤、胃瘻または腸瘻に適した流動食等の液状栄養食に一般的に用いられるものであれば特に限定されるものではないが、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄、マンガン、リン、モリブデン、クロム等が挙げられる。このような2価以上のミネラルを含有する乳化液状栄養食は、乳化が不安定化しやすい。
【0013】
本発明の乳化液状栄養食において、2価以上のミネラルの濃度を0.1〜1.5mg/mLとすることができる。2価以上のミネラルの濃度が0.1mg/mL以下の場合、乳化液状栄養食中の乳化は比較的安定であるため、本発明の効果を使用する必要性が低い。また、2価以上のミネラルの濃度が1.5mg/mL以上の場合には、乳化液状栄養食の乳化が非常に不安定となり、本発明の効果が十分に発揮されない場合がある。
【0014】
本実施形態に係る乳化液状栄養食は、さらにレシチン組成物を含有する。レシチン組成物としては、卵黄レシチン組成物、大豆レシチン組成物等が挙げられ、本発明の効果を奏しやすいことから、特に卵黄レシチン組成物であることが好ましい。本発明において、レシチン組成物とは、少なくとも1種のリン脂質を含有するリン脂質を主成分とした組成物であって、リン脂質を少なくとも10%以上、好ましくは15%以上含む組成物である。レシチン組成物は、リン脂質以外の成分として、トリグリセライド、コレステロール等の中性脂質、乳化剤、賦形剤等を含有していてもよい。
【0015】
また、上記のレシチン組成物において、レシチン組成物に含まれるリン脂質含量に対してグルコース含量が0.10%以下であることを特徴とする。上記の卵黄レシチン組成物や大豆レシチン組成物中には、通常、レシチン組成物に含まれるリン脂質含量に対して0.20%以上のグルコースを含有するが、本発明に使用するレシチン組成物は、脱糖処理を施すことにより、グルコース含量を低減していることを特徴とする。上記のようにレシチン組成物中のグルコース含量を低減することにより、乳化液状栄養食に配合した際に乳化安定性が飛躍的に向上する。なお、グルコースの含有率が含有リン脂質の重量に対して0.01%以下のレシチン組成物は、工業的な規模で生産することは難しいため、本発明のレシチン組成物は、含有リン脂質の重量に対する含有グルコースの割合は0.01%を超える。
【0016】
レシチン組成物中のグルコース含量を低減する方法としては、酵母処理法や、細菌処理法、酵素処理法等が挙げられる。これらの処理は、レシチン組成物抽出前に施してもよく、レシチン組成物を水に分散した後に酵母、細菌または酵素を添加して、行うこともできる。これらのグルコース低減処理中に、尿糖試験紙を使用して、反応終了の目安とすることができる。
【0017】
本実施形態に係る乳化液状栄養食中のレシチン組成物の含有量は、リン脂質含量として、0.05〜5%(w/v)であることが好ましく、0.1〜3%(w/v)であることがさらに好ましい。
【0018】
本実施形態に係る乳化液状栄養食には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、ショ糖脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;グリセリン脂肪酸エステル;ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤や、ビタミンA;ビタミンB類;ビタミンC;ビタミンD;ビタミンE;ナイアシン;パントテン酸;葉酸;ビタミンK;ビオチン等のビタミン類、果汁、香料等が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係る乳化液状栄養食の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上述の蛋白質、炭水化物、2価以上のミネラル等に適量の水を添加して溶解し、これに脂質と乳化剤とを添加して混合し、ホモジナイザー等によって乳化させることにより製することができる。
【0020】
本実施形態に係る乳化液状栄養食は、レトルト処理による殺菌を行うことが可能である。具体的には、乳化液状栄養食を容器に充填し、密封した後、105〜130℃で、5〜30分程度の処理を行うことができる。本発明の乳化液状栄養食は、上記のグルコース含量を低減したレシチン組成物を含有することにより、乳化が安定であり、レトルト処理による苛酷な殺菌条件によっても、オイルオフが起こり難い。
【0021】
次に、本発明を実施例、比較例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[調製例1]
割卵して卵白液を除去して得た卵黄液10kgを45℃に加温し、卵黄液1kgに対して、グルコースオキシダーゼ(ノボザイムズ社製グルザイム)を1000ユニット添加し、30%過酸化水素水10mLを加え、撹拌した。テステープA(尿糖検査用試験紙:塩野義製薬(株)製)により残存している糖を測定し、テステープが緑変しなくなるまで約2時間処理を継続した。脱糖処理後、0.3mol/L NaOH水溶液を添加してpH8.0に調整し、これにホスホリパーゼAを20000ユニット添加し、50℃で5時間酵素処理した。次いで、この卵黄液を冷却し、噴霧乾燥によって水分を除去して4.5kgの脱糖乾燥卵黄を得た。この脱糖乾燥卵黄約1kgに95%アルコール9Lを加え、30℃で30分間撹拌した後濾過により抽出液を得た。さらに濾過残渣を95%アルコール1Lで洗浄し、上記の濾液(抽出液)とこの洗浄液とを合わせた後、この混合液から減圧下で溶媒(アルコール)を除去してレシチン組成物を得た。こうして得られたレシチン組成物は、リン脂質含有率が約60%であり、リゾ化率は65%であった。また、この含有リン脂質重量に対する含有グルコースの割合が約0.03%であった。
【0023】
なお、本実施例において、リゾ化率を求める方法は以下のとおりである。つまり、得られたレシチン組成物を、濃度5w/v%になるよう前記混合溶媒に溶解しサンプル液を調製する。次に、サンプル液をクロマロッドに0.8μLチャージし、当該チャージしたクロマロッドを展開溶媒I[クロロホルム/メタノール/水(70/30/3容量比)]で8cm展開した後、更に展開溶媒II[ヘキサン/ジエチルエーテル/蟻酸(90/10/0.1容量比)]で展開する。そして、展開後のクロマロッドをイアトロスキャン法(TLC−FID法)で分析する。具体的には、(株)三菱化学ヤトロン製のイアトロスキャンMK−6sを用いてFID:水素160mL/min、エアー2.0L/minの条件で分析する。
【0024】
次に、得られたチャートの各脂質成分のピークの面積百分率を用いて、下記数式によりレシチン組成物のリゾ化率を求める。なお、下記の数式において、分母にリゾホスファチジルエタノールアミンを加えている。その理由は、本発明のリゾ化卵黄は、後述するように二重結合が4個以上の高度不飽和脂肪酸が結合したリン脂質が残存したリゾ化卵黄であるため、上記イアトロスキャン法(TLC−FID法)による分析では、ホスファチジルコリンのピークとリゾホスファチジルエタノールアミンのピークが重なる場合があることから、これを補うためである。
[数1]
リゾ化率=(リゾホスファチジルコリンの面積百分率)×100/(ホスファチジルコリンの面積百分率+リゾホスファチジルコリンの面積百分率+リゾホスファチジルエタノールアミンの面積百分率)
【0025】
[調製例2]
調製例1において、グルコースオキシダーゼを使用せず、脱糖処理を省いた以外は調整例1と同様の手順によって、調製例2のレシチン組成物を製した。こうして得られたレシチン組成物は、リン脂質含有率が約60%であり、リゾ化率は65%であった。また、この含有リン脂質重量に対する含有グルコースの割合が約0.5%であった。
【0026】
[試験例]
調製例1および2で得られたレシチン組成物を乳化剤として使用し、配合例1乃至6の乳化液状栄養食を製した。具体的には、表1に記載の原料をミキサーで混合した。これを高圧ホモゲナイザーで処理して、粒子サイズが平均1ミクロンの乳化液状栄養食を得た。これをポリプロピレン製のフレキシブルな袋(縦20センチ、横12センチ)に400g充填し、121℃で15分間レトルト処理を施した。なお、これらの配合例において得られた乳化液状栄養食の比重は、いずれも1.07であった。
【0027】
【表1】

【0028】
上記レトルト処理後の各乳化液状栄養食を25℃3か月間保存して、オイルオフの発生状況を観察した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
上記の結果から、2価以上のミネラルを含有する乳化液状栄養食において、グルコース含量の低いレシチン組成物を使用することにより、特に効果的に乳化を安定に維持できることがわかる。
【0031】
[調製例3]
調製例1において、ホスホリパーゼAを使用せず、リン脂質のリゾ化工程を省いた以外は調整例1と同様の手順によって、調製例3のレシチン組成物を製した。こうして得られたレシチン組成物は、リン脂質含有率が約60%であった。また、この含有リン脂質重量に対する含有グルコースの割合が約0.05%であった。
【0032】
[配合例7]
以下の配合で、配合例1乃至6と同様の方法で配合例7の乳化液状栄養食(比重:1.08)を製した。配合例7の乳化液状栄養食は、レトルト処理後および25℃3か月間保存後にもオイルオフはみられず、良好な乳化状態を保っていた。
【0033】
<配合割合>
大豆タンパク質 1%
脱脂粉乳 4%
MCT 3%
デキストリン 12%
食物繊維 1%
グリセリン脂肪酸エステル 1%
クエン酸第一鉄ナトリウム 0.01%
塩化カルシウム 0.05%
銅酵母 0.1%
調製例1のレシチン組成物 0.25%
調製例3のレシチン組成物 0.25%
ビタミンミックス 0.1%
香料 0.1%
水 残量
―――――――――――――――――――――――――
計 100%
【0034】
[配合例8]
以下の配合で、配合例1乃至6と同様の方法で配合例8の乳化液状栄養食(比重:1.07)を製した。配合例8の乳化液状栄養食は、レトルト処理後および25℃3か月間保存後にもオイルオフはみられず、良好な乳化状態を保っていた。
【0035】
<配合割合>
カゼインナトリウム 2%
脱脂粉乳 2%
大豆油 2%
MCT 2%
デキストリン 6%
ショ糖 6%
クエン酸ナトリウム 0.1%
塩化マグネシウム 0.2%
クエン酸第一鉄ナトリウム 0.05%
グルコン酸亜鉛 0.01%
調製例1のレシチン組成物 0.1%
調製例3のレシチン組成物 0.3%
ビタミンミックス 0.1%
香料 0.1%
水 残量
―――――――――――――――――――――――――
計 100%

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の乳化液状栄養食は、蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有するにもかかわらず、レトルト処理後や保存中にもオイルオフが防止されるため、品質の良好な乳化液状栄養食を提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、脂質、炭水化物および2価以上のミネラルを含有し、1mLあたりの熱量が1kcal以上である乳化液状栄養食において、レシチン組成物を含有し、かつ、レシチン組成物中の含有リン脂質の重量に対する含有グルコースの割合が0.10%以下である、乳化液状栄養食。
【請求項2】
レシチン組成物が卵黄レシチン組成物である、請求項1記載の乳化液状栄養食。
【請求項3】
2価以上のミネラルが、乳化液状栄養食中に0.1〜1.5mg/mLの濃度で含有される、請求項1または2記載の乳化液状栄養食。
【請求項4】
容器に密封され、レトルト処理されてなる、請求項1乃至3記載の乳化液状栄養食。