説明

乳化用ポリマーとその使用

本発明は、乳化用ポリマーに関し、特に、水性コンクリート可塑剤中の疎水性添加剤の安定乳化のためのそのポリマーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化用ポリマー、特に、水性コンクリート可塑剤中の疎水性混合物の安定な乳化のためのそのポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレン側鎖を有するα,β不飽和カルボン酸のポリマーは、かなり長期にわたって、その優れた減水効果のためにコンクリート技術における可塑剤として使用されてきた。こうしたポリマーは櫛型構造を有し、組み込むことにより、鉱物建設材料中にかなりの量の空気を導入することができ、それによりコンクリート中に空気孔により空洞を形成し、コンクリートの力学的特性および耐久性の劣化を導く。
【0003】
そのような可塑剤を使用する場合、コンクリート中の空洞の含量を減少させるために、このような可塑剤は一般に脱気剤または消泡剤と共に使用される。そのような消泡剤は、効果的な消泡効果を示し得るためには、水に溶けにくいか非水溶性、すなわち疎水性でなければならない。低水溶性のために、水性コンクリート可塑剤中へ消泡剤を導入した後、経時により相分離が起こり、製品の最終目的の使用において問題が発生する。ポリカルボキシレートおよび疎水性消泡剤に基づく可塑剤混合物は、それ故、十分に保存安定ではない。長期の保存安定性はない。現時点では、例えば、脱泡した製品の保存タンクを撹拌することにより、問題を回避している。
【0004】
国際公開第00/17128号には、高pHのために沈殿しそれによって脱泡効果を示す脱気剤として、ポリカルボキシレートおよびブトキシル化ポリアルキレンポリアミンに基づいた可塑剤混合物が記載されている。しかし、そのような消泡剤は、疎水性の物質よりもコンクリートの脱泡効果が低く、高投入量で用いなければならず、このことは経済的には不利である。
【0005】
ある場合には、水性ポリマーと疎水性消泡剤の安定混合物を達成するのに、界面活性剤が添加される。それ故、例えば、国際公開第2004/056445号では、アミン官能基を有し、水不溶性の消泡剤を溶解する界面活性剤を開示している。米国特許公報第6569924号では、アルコキシル化、カルボキシル化、スルホン化または硫酸化脂肪族炭化水素、ソルビタン、ポリプロピレン、脂肪酸、脂肪族アルコール、およびイソノナノールに基づく界面活性剤を開示している。これらおよびマレイン酸/スチレンコポリマーが水性のポリマー可塑剤中にミセルの形態で疎水性消泡剤を溶解するために用いられている。ミセルは、セメントへ添加した時に破壊され消泡剤が放出される。水性ポリマー溶液に水不溶の物質を溶解するために界面活性剤を使用することには、そのような界面活性剤は、コンクリートに使用された場合、セメントまたは骨材のタイプに依存するが、原則的には、脱空気と空気導入の両方の効果を有するという不利さが伴う。規定された脱泡は、それ故、努力によってのみ達成されるのである。
【0006】
水硬性系に使用するための、水性ポリマー溶液中での水不溶性物質の安定な混合物を調製するための公知の解決法は、それ故、なお改善の価値がある。比較的長期にわたって保存安定な安定混合物を調製できることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/17128号
【特許文献2】国際公開第2004/056445号
【特許文献3】米国特許公報第6569924号
【特許文献4】欧州特許第0056627号
【特許文献5】欧州特許第0840712号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1136508号
【特許文献7】欧州特許第1138697号
【特許文献8】欧州特許出願公開第1348729号
【特許文献9】国際公開第2005/123621号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それ故、本発明の目的は、既存の技術の不利な点を克服し、水性ポリマー溶液に、相分離を引き起こすことなく、疎水性混合物を加えることを可能にする組成物を提供することである。したがって、水性ポリマー溶液中での疎水性消泡剤の長期保存安定性が、本発明に従う組成物の助けを借りて達成し得ることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、請求項1で特許請求されているポリマーPによりこのことが達成できることが今や見出された。本発明に従うポリマーPが、疎水性消泡剤を、保存安定性を与える方法で、水性ポリカルボキシレート可塑剤中に乳化し得ることが、驚くべきことに今や見出された。さらに、本発明に従うポリマーPそれ自体がさらなる水の減量およびそれを用いて調製された水硬性組成物の改善された可塑化へ導く。こうして、本発明に従うポリマーPの使用が、疎水性消泡剤と水性ポリマー溶液の安定混合物の調製を可能とし、それは、比較的長期の間にわたって保存安定であり水硬性系中へ過剰量の空気を持ちこむことなく卓抜した可塑化特性を有する。
【0010】
本発明は、また、水硬性組成物のための可塑剤としての、および水性組成物のための乳化剤としての本発明に従うポリマーPの使用を含む。さらに、本発明は、本発明に従うポリマーP、少なくとも1種の消泡剤Mおよび少なくとも1種の可塑剤Vを含む、水性組成物を含む。本発明のさらなる有利な構成は、従属請求項から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、
(a)少なくとも1種の、イオン性基を含むエチレン性不飽和モノマーAと
(b)少なくとも1種の、親水性オキシアルキレン基を有するエチレン性不飽和モノマーBおよび
(c)少なくとも1種の、ビニル芳香族を有するエチレン性不飽和モノマーCおよび
(d)少なくとも1種の、式(V)の疎水性エチレン性不飽和モノマーD;
および、任意に、
(e)少なくとも1種の、塩基性エチレン性不飽和アミノ化合物E;
および、任意に、
(f)(a)から(d)、および任意に、(e)の成分と重合可能な少なくとも1種のさらなるモノマーW;
との共重合により入手できるポリマーPに関する。
【0012】
「共重合」という用語は、重合反応、好ましくは、フリーラジカル重合を意味すると理解され、その重合では、好ましくは、フリーラジカル開始剤の存在下でモノマーが重合する。フリーラジカル重合は、当業者にはよく知られた標準的なプロセスである。適切なフリーラジカル開始剤は、例えば、過酸化ベンゾイル、もしくは過酸化水素、過硫酸、過エステルなどの無機または有機の過酸化物、または有機アゾ化合物である。重合はまた、レドックス開始剤によっても開始し得る。
【0013】
モノマーAは、不飽和モノもしくはジカルボン酸または不飽和モノもしくはジカルボン酸の類似体、不飽和スルホン酸または不飽和スルホン酸類似体、および不飽和ホスホン酸または不飽和ホスホン酸類似体からなる群から選択される。
【0014】
モノマーAは、特に、式(VII)を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、X1は、CO2、SO3またはPO3であり、R13は、H、CH3、COOMまたはCH2COOMであり、特には、Hであり、またはR13は、Xと共に、-CO-O-CO-を与える環を形成することができ、R14は、H、1〜5個の炭素原子を有するアルキル、COOMまたはCH2COOM、特に、Hであり、R15は、H、CH2COOMまたは1〜5個の炭素原子を有するアルキル、特に、HまたはCH3である。R16は、互いに独立に、フェニレン基または1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキレン基であり、ヘテロ原子を持つ官能基を任意に有してもよい、およびpは0または1の値を有する。R16は、pが0の場合は、存在せず、または例えば、CH2であってもよく、官能基としてアミド、アミン、エステル、エーテルまたはケトン基を有してもよい。
【0017】
Mは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アンモニウム陽イオンまたはそれらの混合物である。Mは、特に、陽イオンであり、特には、H+、Na+、Ca++/2、Mg++/2、NH4+または有機アンモニウムである。当業者には明らかであろうが、多価のイオンの場合、追加の対イオンが存在しなければならず、それはとりわけ、それらのカルボン酸塩でもまたはポリマーPの他の分子でもよい。アンモニウム化合物は特に、テトラアルキルアンモニウムまたはHR3N+であり、上記式中、Rはアルキル基であり、特に、C1〜C6のアルキル基であり、好ましくは、エチルまたはブチルである。アンモニウムイオンは、特に、商業的に入手可能な第3級のアミンでカルボキシル基を中和して得ることができる。
【0018】
適切なモノマーAの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、フマル酸、マレイン酸、マレアミン酸、イタコン酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはビニルホスホン酸、または、例えば、マレイン酸とスルファニル酸とのマレイン酸ヘミアミド、特には、N-(4-スルホフェニル)マレアミドなどの、それらの誘導体もしくは類似体である。モノカルボン酸は特に好ましい。アクリル酸またはメタクリル酸またはその類似体は、特に適している。
【0019】
不飽和モノまたはジカルボン酸の類似体は、例えば、酸の塩、酸ハライドまたは酸無水物である。不飽和スルホン酸またはホスホン酸の類似体は、例えば、酸の塩である。
【0020】
本発明に従って使用される不飽和モノまたはジカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸は、それ故、遊離の酸としてまたは塩としてまたは部分塩として存在してもよく、本明細書の以下では、「塩」という用語は、単に、塩基との中和によって得られるような古典的な塩だけでなく、リガンドとしてカルボン酸イオンまたはカルボキシル基と金属イオンとの間の複合化合物も含む。
【0021】
モノマーBは、親水性のオキシアルキレン基を含み、特に次式(I)、(II)または(III)を有する。
【0022】
【化2A】

【化2B】

【0023】
ここで、R1は、互いに独立に、モノマーAの場合に規定されたモノまたはジカルボン酸であり、n個のカルボキシル基を除いた後に、式(VII)を通じて特に誘導される。ここで、nは、互いに独立に、モノカルボン酸の場合は1であり、またはジカルボン酸の場合は、1もしくは2である。
【0024】
R2は、互いに独立に、H、1〜20個の炭素原子を有するアルキルまたは7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールである。R2は、特に好ましくは、Hである。また、一端が閉じられているモノマーBが適している。その場合、R2は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、特にメチル、または7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールである。
【0025】
R3は、互いに独立に、両方のカルボキシル基を除いた後に、モノマーAの場合に規定されたジカルボン酸から誘導される構造基であり、特に、
【0026】
【化3A】

【化3B】

【0027】
のいずれかである。
【0028】
R4は、互いに独立に、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールまたはHであり、好ましくは、R4=Hである。
【0029】
Yは、互いに独立に、
【0030】
【化4】

【0031】
のいずれかであり、x、y、zは、互いに独立に、それぞれ0〜250の値を有し、x+y+z=3以上である。好ましくは、x+y+zの和は、少なくとも20であり、特に好ましくは、20〜100である。
【0032】
rは、互いに独立に、0または1の値を有する。
【0033】
Qは、すべてのOH基を除いた後の式Q(OH)q+1のポリアルコールの基である。qは、2〜5、特に、2または3である。
【0034】
式(I)のモノマーBの例としては、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル、特に、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノアリルエーテル、ポリオキシアルキレンブテン酸エステル、ポリオキシアルキレンアクリル酸エステル、ポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルアミン、ポリオキシアルキレンアクリルアミド、ポリオキシアルキレンアリルアミド、またはポリオキシアルキレン-N-(2-ヒドロキシエチル)マレアミドである。
【0035】
特に好ましいモノマーBは、式(I)のものであり、式中、Yは、-O-または-CH2-O-、いわゆる、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、特に、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンメタリルエーテル、ポリオキシアルキレンイソプロペニルエーテル、またはポリオキシアルキレンビニルエーテルである。
【0036】
R1は、特に、
【0037】
【化5】

【0038】
のいずれかであり、R2は、Hまたはメチルであり、nは1、xは0〜100でり、yは0〜100、zは0、x+yは3より大きく、好ましくは、少なくとも20であり、オキシアルキレン基(C2H4O)および(C3H6O)は、どのような順序でもよく、例えば、ランダム、統計的、交互またはブロックでもよい。特に好ましくは、yは0であり、xは20〜60である。このように、モノマーBは、好ましくは、ポリエチレングリコールモノビニルエーテルまたはポリエチレングリコールモノアリルエーテルである。ポリエチレングリコールモノアリルエーテルが特に好ましい。
【0039】
式(II)のモノマーBの例としては、アルコキシル化された、特に、エトキシル化されたアルコールのビニルエーテルまたはアリルエーテルである。適切なアルコールは、例えば、プロパノール、プロパンジオール、ブタノール、ブタンジオール、またはグリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-ペンタントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、またはイソソルバイドなどのアルキルアルコールである。式(II)の好ましいモノマーBは、例えば、エトキシル化されたヒドロキシブチルビニルエーテルまたは3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールである。
【0040】
式(III)のモノマーBは、ジカルボキシイミドを与える、ポリオキシアルキレンアミンとジカルボン酸、特に、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸またはグルタコン酸の反応生成物である。適切なポリオキシアルキレンアミンは、特に、例えば、Huntsman社からJeffamine(登録商標)のMシリーズの名前で売られている、モノアミンである。
【0041】
モノマーCは、ビニル芳香族化合物で、特に式(IV)を有する。
【0042】
【化6】

【0043】
ここで、基R5は、互いに独立に、直鎖または分岐の1〜30個の炭素原子を有するアルキル、式-OR6のアルコキシ、式-O-[(C2H4O)X-(C3H6O)y-(C4H8O)Z]-R2のポリオキシアルコキシ、Clもしくはメチルクロリド、Fもしくはメチルフルオライド、Brもしくはメチルブロミド、またはNO2であり、mは0〜5の数、好ましくは、0であり、R6は、互いに独立に、1〜30個の炭素原子を有するアルキルであり、x、y、zは、互いに独立に、それぞれ0〜250の値を有し、x+y+zは3以上であり、R2は、互いに独立に、H、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、または7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールである。
【0044】
適切なモノマーCは、例えば、スチレンまたはアルキル化スチレン、例えばメチルもしくはエチルスチレン、またはオキシアルキレンスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、または塩化ビニルベンジルである。スチレンは、モノマーCとして特に好ましい。
【0045】
モノマーDは、疎水性である、すなわち、水不溶性であり、好ましくは、少なくとも1個の非極性の物質に対する親和性を有する構造基を有している。モノマーDは特に、式(V)を有する。
【0046】
【化7】

【0047】
ここで、R7は、Hまたはメチルであり、R8は、直鎖または分岐の、2〜30個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアルキル、アルケニル、アルキルアリール、7〜20個の炭素原子を有するアラルキル、置換されているかされていないアリール基、または2〜30個の炭素原子を有する二価の基である。Xが
【0048】
【化8】

【0049】
のいずれかである場合、R8は、R9またはR10およびNと一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、その環は、芳香族構造を任意に有し、環内または環上にヘテロ原子を任意に有する。
【0050】
Xは、
【0051】
【化9】

【0052】
のいずれかである。
【0053】
R9は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリール、またはHであり、好ましくは、R9=Hである。R9は、NとR8と一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、環内または環上に任意にヘテロ原子を有する。
【0054】
R10は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリール、または1〜20個の炭素原子を有するアルケニルであり、R10は、NとR8と一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、任意に、環内または環上にヘテロ原子を有する。
【0055】
好ましくは、R7は、Hであり、Xは、
【0056】
【化10】

【0057】
のいずれかであり、R8は、分岐または直鎖の、3〜20個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0058】
ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルプロピルエーテル、アリルブチルエーテルまたはアリルフェニルエーテルなどのビニルエーテルまたはアリルエーテルは特に適している。
【0059】
脂肪酸のビニルエステルまたはアリルエステル、例えば、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸アリル、酪酸アリルまたはラウリン酸ビニルは、特に非常に好ましい。特に適切なものは、脂肪酸のビニルエステルであり、特に、Versatic(登録商標)酸9のビニルエステルである。このエステルは、例えば、Shell社からVeoVa 9(商標)の名前で入手できる。エステル化可能の適切な脂肪酸は、例えば、3〜30個の炭素原子を有するカルボン酸であり、特に、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、パルミチン酸、またはステアリン酸である。
【0060】
モノマーDのさらなる例は、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルまたはアクリル酸ラウリルなどの、アクリル酸のエステルである。また、例えば、3-ブテン酸tert-ブチルなどのブテン酸エステルも適している。
【0061】
例えば、ピバリン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、安息香酸ビニル、N-アリルメチルベンジルアミン、フェニルアクリルアミド、またはアルキルビニルアミドがまた、モノマーDとして適している。
【0062】
疎水性または水不溶性の基をポリマー構造中に導入するモノマーのみが、特に好ましく、モノマーDとして選択される。特に好ましいモノマーDは、それ故、R8として、分岐または直鎖の、少なくとも3個、好ましくは少なくとも4個の炭素原子を有するアルキル基を有するものである。適切な「疎水性モノマー」は、好ましくは、ホモポリマーとして水不溶性のホモポリマーを形成するモノマーである。
【0063】
驚くべきことに、特に、モノマーDは、ポリマーPの卓抜した乳化効果に貢献することが見出された。ポリマーがモノマーDを用いずに調製されると、モノマーDがポリマーPの調製に付加的に使用される場合よりも、調製ステップでのポリマーの発泡の程度は遥かに大きい。
【0064】
任意に、ポリマーPは、少なくとも1種の式(VI)の塩基性エチレン性不飽和のモノマーEを付加的に含む。
【0065】
【化11】

【0066】
R11は、Hまたはメチルであり、Y1は、
【0067】
【化12】

【0068】
のいずれかであり、R12は、Y1
【0069】
【化13】

【0070】
ならば、少なくとも1種の、第1級、第2級または第3級のアミノ基を有する基であり、Y1
【0071】
【化14】

【0072】
ならば、少なくとも1種の、第2級または第3級のアミノ基を有する基である。
【0073】
好ましくは、Y1は、-CH2-である。R12は、例えば、アミノ基、またはヘテロ原子、例えば、ポリエーテルアミノ基を任意に有する、分岐または直鎖のアルキレンアミノ基である。例えば、モノマーEはアリルアミンまたはN-メチルアクリルアミドであってもよい。
【0074】
可能なモノマーEのさらなる例は、アリルグリシジルエーテルとアンモニアまたは少なくとも1種のアミンとの反応生成物である。アミンは、エタノールアミン、ジエタノールアミン、アルキルアミン、アニリン、Jeffamin(登録商標)(例えば、Huntsman GmbH社、HamburgからJeffamine(登録商標)のMシリーズの名前で販売されている)、アミノ酸またはアルキルジアミン、例えば、ブチルジアミン、からなる群から、例えば、選択し得る。アリルグリシジルエーテルとエタノールアミンまたはスルファニル酸の反応生成物は、特に好ましい。
【0075】
アミノ基は、プロトン化されたまたは脱プロトン化された形態で存在してもよい。
【0076】
モノマーEの特に好ましい例は、アリルアミンである。
【0077】
さらなるモノマーWは、モノマーA、B、C、DおよびEと重合可能なエチレン性不飽和モノマーの所望のいかなるものでもよい。例えば、モノマーWは、さらなるアミドまたはエステルモノマーでもよい。例えば、モノマーWは、例えば、モノまたはジカルボン酸とアルキルアルコール、特にC6〜C20のアルキルアルコールとの反応により調製されるエステルモノマーでもよい。
【0078】
ポリマーPの調製のためには、異なるモノマーA、B、CおよびDならびに任意にEおよび/またはWの組合せを、異なる量で用いることができる。例えば、モノマーAの複数を、混合物として、例えば、マレイン酸モノマーとアクリル酸モノマーの混合物を使用し得る。代替として、モノマーBの複数が、例えば、ポリオキシアルキレンアリルエーテルと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステルを共に使用し得る。同様に、異なる置換スチレンも使用し得るし、または異なるモノマーDも使用し得る。
【0079】
ポリマーPは、好ましくは、通常のプロセスに従いフリーラジカル重合で得られる。溶媒中、例えば、トルエン、ベンゼン、水またはそれらの混合物中で、好ましくは、水中で、または溶媒の非存在下で達成できる。ポリマーPを得るためのモノマーの反応は、好ましくは、100℃までの温度で達成できる。ガス流を反応混合物上または中に通し得る。希ガスまたは窒素をガス流として使用し得る。
【0080】
重合反応は、形成されるポリマーが、10〜500、好ましくは、20〜200、特には、25〜60のモノマー構造単位を含むような反応条件下で達成できる。ポリマーPは、好ましくは、2000〜200000g/mol、好ましくは、5000〜100000g/mol、好ましくは、8000〜80000g/mol、特に好ましくは、10000〜50000g/molの分子量Mwを有する。
【0081】
「分子量」という用語は、本発明の文脈では、重量平均分子量Mwを意味すると理解される。
【0082】
連鎖移動剤、例えば、無機もしくは有機硫黄化合物、アルデヒド、蟻酸または無機リン化合物を分子量の制御に使用できる。
【0083】
ポリマーPの調製には、使用されるモノマーA、B、C、D、EおよびWの総モル量に基づいて、それぞれ、モノマーAの好ましい使用量は、5〜90mol%、好ましくは、30〜70mol%、特に好ましくは、55〜65mol%であり、モノマーBの好ましい使用量は、8〜40mol%、好ましくは、10〜20mol%、特に好ましくは、12〜18mol%であり、モノマーCの好ましい使用量は、0.1〜30mol%、好ましくは、10〜20mol%、特に好ましくは、12〜18mol%であり、モノマーDの好ましい使用量は、0.1〜30mol%、好ましくは、6〜10mol%、特に好ましくは、7〜9mol%であり、モノマーEの好ましい使用量は、0〜10mol%、好ましくは、0〜7mol%、特に好ましくは、0.1〜2mol%であり、モノマーWの好ましい使用量は、0〜5mol%、好ましくは、0〜1mol%、特に好ましくは、0〜0.1mol%である。
【0084】
モノマーのモル比、A:Bは、好ましくは、≦10:1、好ましくは、≦8:1、特には、≦3:1である。
【0085】
特に好ましいポリマーPは、モノマーAとして、アクリル酸またはメタクリル酸および任意にマレイン酸と、モノマーBとしてポリエチレングリコールビニルエーテルまたはポリエチレングリコールアリルエーテル、モノマーCとしてスチレン、モノマーDとしてC4〜C20の脂肪酸のビニルエステル、特にVeoVa 9(商標)、および任意に、モノマーEとしてアリルアミンの共重合反応により得られる。
【0086】
好ましいポリマーPは、式(VIII)を有する。
【0087】
【化15】

【0088】
置換基、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、Q、X、X1、Y、Y1および指標n、q、r、x、yおよびzは、互いに独立に、それぞれ、モノマーA、B、C、DおよびEに対してすでに記述したのと同じ意味を有する。
【0089】
指標f、g、g'、g''、g'''、g''''、h、i、kは、数字を表し、和f+g+g'+g''+g'''+g''''+h+i+kは、10〜500であり、ここで、f>0、(g+g'+g''+g'''+g'''')>O、h>0、i>0およびk≧0である。
【0090】
文字a、b、b'、b''、b'''、b''''、c、dおよびeは、構造単位を表し、それぞれ対応する他のモノマーと、構造単位aは、モノマーAの重合で形成され、構造単位b、b'、b''、b'''またはb''''は、モノマーBの重合で形成され、構造単位cは、モノマーCの重合で形成され、構造単位dは、モノマーDの重合で形成され、構造単位eは、モノマーEの重合で形成される構造単位を表す。
【0091】
構造構築ブロックa、b、b'、b''、b'''、b''''、c、dおよび任意にeの配列は、交互、統計的、ブロックまたはランダムでもよい。
【0092】
好ましくは、ポリマーPは、ポリマーPの構造単位a、(b+b'+b''+b'''+b'''')、c、dおよびeの全モル量に基づいて、それぞれ、構造単位aを5〜90mol%、構造単位b+b'+b''+b'''+b''''を8〜40mol%、構造単位cを0.1〜30mol%、構造単位dを0.1〜30mol%、構造単位eを0〜10mol%有する。a:(b+b'+b''+b'''+b'''')のモル比は、好ましくは、≦10:1である。
【0093】
ポリマーPは、それぞれの構造単位a、b、c、dおよび任意にeの異なる構造単位の組合せを有していてもよい。例えば、複数の構造単位aが、ポリマーP中の混合物として、例えば、マレイン酸単位とアクリル酸単位の混合物であってもよい。代替として、複数の構造単位b、b'、b''、b'''、b''''またはそれぞれの構造単位b、b'、b''、b'''、b''''の異なる構造単位が混合物としてポリマーP中にあってもよい。スチレン単位cの複数がポリマーP中に存在してもよいし、その場合、例えば、スチレンは異なる様式で置換されていてもよい。同様に、異なる疎水性の構造単位dが、例えば、ビニルエーテルと脂肪酸のビニルエステルとが、ポリマーP中に共にあってもよい。
【0094】
ポリマーP中には、異なる構造単位が、所望のいかなる配列で、例えば、ランダムに、交互でまたはブロックで存在してもよい。
【0095】
使用されるモノマーの量やタイプにより、最終生成物に異なる特性が達成される。それ故、異なるモノマーまたはモノマーの異なる量を用いて、簡便にコスト経済的にテーラーメードの複数の異なるポリマーPを調製し得ることは、本発明に従うポリマーPのさらなる有利さである。これには大きな物流上のおよび経済的な利点がある。
【0096】
ポリマーPはさまざまな領域、特にコンクリートおよびセメント技術において使用される。
【0097】
本発明に従うポリマーPは、親水性だけでなく疎水性の構造単位を含むが、その構造ゆえに、水性組成物のための、特に、水中油の乳化液のための、乳化剤として特に適している。本発明は、それ故、水性組成物のための、特に、水硬性系の混合物のための、乳化剤としての、本発明に従うポリマーPの使用に関する。例えば、本発明に従うポリマーPは、水性の漆喰またはコンクリート可塑剤および疎水性消泡剤を乳化するのに卓抜して適している。
【0098】
さらに、本発明は、少なくとも1種の本発明に従うポリマーPおよび少なくとも1種の消泡剤Mを含む組成物Zに関する。特に適切な消泡剤Mは、例えば、リン酸トリブチル、リン酸トリイソブチル(TIBP)などのリン酸エステル、例えば、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはブチレンオキシドを含むコポリマーなどのポリアルキレングリコール、ミネラルオイルもしくはベジタブルオイル、脂肪酸、脂肪酸のエステル、脂肪族アルコール、アルコキシル化された脂肪酸もしくは脂肪族アルコール、シリコーン、シリコーンのエステル、または疎水性の有機化合物である。
【0099】
典型的には、少なくとも1種のポリマーPおよび少なくとも1種の消泡剤Mを含む組成物Z中のポリマーPの比率は、組成物Zの重量に基づいて、20〜80重量%、特に、30〜49重量%であり、消泡剤Mの比率は、好ましくは、0.1〜20重量%、特に、0.5〜10重量%である。水性組成物Z中の消泡剤Mに対するポリマーPの比は、好ましくは、2:3〜49:1、特に、3:2〜10:1である。好ましくは、組成物Zは、さらに水を含む。
【0100】
さらなる実施形態においては、本発明は、水、少なくとも1種の本発明に従うポリマーP、少なくとも1種の消泡剤Mおよび少なくとも1種の水硬性組成物に対する可塑剤Vを含む、水性組成物Zに関する。好ましい可塑剤Vは、例えば、コンクリート化学において高機能性可塑剤として公知の、ポリカルボキシレート可塑剤である。そのようなポリカルボキシレート可塑剤は、例えば、欧州特許第0056627号、欧州特許第0840712号、欧州特許出願公開第1136508号、欧州特許第1138697号、または欧州特許出願公開第1348729号に記載されている。特に好ましい可塑剤は、例えば、欧州特許第1138697号、または欧州特許出願公開第1348729号に記載されているような、ポリマー類似反応により調製されるものである。リグノスルホネート、スルホン化メラミンまたはナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、ビニル性共重合物またはそれらの混合物もまた、同様に可塑剤Vとして使用し得る。一般に、水硬性組成物のための可塑剤として適切なすべての組成物が、使用できる。しかし、カルボキシレート可塑剤の水性のポリマー混合物は、特に適している。
【0101】
本発明に従うポリマーPを含む組成物Z、特に水性組成物Zの調製のためには、少なくとも1種の本発明に従うポリマーPを消泡剤Mおよび任意に可塑剤Vと混合する。好ましくは、最初、ポリマーPを、好ましくは、水性乳化液として、あらかじめ消泡剤Mと混合し、次いで可塑剤Vの水溶液を任意に加える。本発明に従うポリマーPを消泡剤Mおよび可塑剤Vと共に水中で混合することにより、相分離することなく安定な水性ポリマー混合物Zが得られ、そのポリマー混合物は数カ月にわたる保存で安定である。
【0102】
水性組成物Zは、所望ならば、保護コロイドまたはその他の乾燥補助剤の助けを借りて、例えば、スプレイ乾燥により、使用前に粉末形態に変換できる。粉末形態では、水性混合物Zは保存でき、少なくとも1種の水硬性物質を含む乾燥ブレンドに加えることができる。乾燥ブレンドは比較的長期にわたって保存安定であり、典型的には袋に封入するか容器中に保存される。
【0103】
ポリマーPおよび任意に消泡剤Mは、そのようにして最初調製され、次いで溶融ポリマーとして存在する可塑剤Vに添加される。可塑剤Vを含む溶融ポリマーおよび添加されたポリマーPおよび消泡剤Mが冷却されると、組成物が固体形態、特に、薄片、フレーク、ペレット、またはシート状で得られる。この固体ポリマー組成物は保存され、使用前に水に溶解することができ、本発明の形態に従う水性組成物Zが得られる。
【0104】
水、少なくとも1種のポリマーP、少なくとも1種の消泡剤Mおよび少なくとも1種の可塑剤Vを含む組成物中のポリマーPの比率は、水性組成物Zの重量に基づいて、典型的には、0.04〜10重量%、特には0.05から5重量%である。
【0105】
水性組成物Z中のポリマーPの消泡剤Mに対する比は、好ましくは、2:3〜10:1、特には3:2〜3:1である。水性組成物Zが少なくとも1種の可塑剤Vを含む場合は、可塑剤Vの比率は、水性組成物Zの重量に基づいて、3〜50重量%、特には、20〜40重量%である。
【0106】
水性組成物Zは、さらなる成分を含んでもよい。それらの例は、建設化学においてよく知られているように、溶媒または添加剤であり、特に、界面活性物質、熱および光安定化剤、色素、加速剤、遅延剤、泡形成剤である。
【0107】
ポリマーPは、特に、ポリマーPの調製においてモノマーBのポリオキシアルキレン基を用いることにより親水性効果を得る。
【0108】
疎水性効果は、疎水性のモノマーCおよびDを使用することにより達成できる。それ故、疎水性のモノマーCに加えて、疎水性または水に溶解しにくいまたは撥水性の基をポリマー構造中へ導入するこうしたモノマーDがまた選ばれることは特に有利である。モノマーDの添加により、本発明に従う乳化効果が達成される。
【0109】
ポリマーPそれ自体は、可塑化効果も示すので、水硬性組成物に対して可塑剤としても使用し得る。さらなる実施態様においては、それ故本発明は、本発明に従うポリマーPの、水硬性組成物のための、特にコンクリートおよびモルタルのための可塑剤としての使用に関する。
【0110】
ポリマーPは、乳化剤および追加の可塑剤として同時に作用し得るので、漆喰またはコンクリートにおいて実際の漆喰可塑剤またはコンクリート可塑剤の効果を高め得るし、漆喰またはコンクリートにおいて卓抜した力学的特性を導く。
【0111】
ポリマーPは、好ましくは、水硬性バインダーの重量に基づいて、ポリマー含量または固体の重量で0.005〜5%の量で使用する。所望の効果を達成するために、混合物として複数のポリマーPも使用し得る。
【0112】
原則として、コンクリート分野の当業者に公知の水硬性物質はすべて水硬性系または組成物として使用し得る。これらは、特に、例えば、ポルトランドセメントまたは高アルミナセメントなどの、セメントなどの水硬性バインダー、および/またはそれらのフライアッシュ、シリカフューム、スラグ、ブラストサンドおよび石灰石フィラーとの混合物である。本発明の文脈における水硬性物質の例は、無水石膏、半水和物もしくは二水和物の形態での漆喰または生石灰である。セメントは水硬性組成物として好ましい。さらに、砂、砂利、小石、石英粉末、チョークなどの骨材、および例えば、リグノスルフィネート、スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物またはポリカルボキシレートエーテルなどの、その他のコンクリート可塑剤、加速剤、錆防止剤、遅延剤、収縮抑制剤、消泡剤または空気捕捉剤などの添加物として慣例の成分が可能である。
【0113】
本発明に従うポリマーPは、比較的長期間にわたり保存安定な水性組成物の成分であってもよくまたは水硬性組成物の成分であってもよい。水硬性組成物の成分として、ポリマーPは、慣例の水硬性組成物に水と同時にまたは直前にまたは直後に添加し得る。水溶液または分散物の形態で、特には混合水としてまたは混合水の一部としてのポリマーPの添加は、この目的に特に適していることが見出された。
【0114】
ポリマーPは、水硬性組成物、特にセメント系組成物に対して可塑化性を有する。すなわち、得られる混合物は、セメントおよびコンクリート技術において慣例である水/セメント比で、可塑剤を含まない組成物に比べて顕著に大きな流動性を有する。流動性は、典型的にはスランプを用いることにより測定される。他方、同じ流動性のために、顕著に少ない水しか必要としない混合物を得ることも可能であり、その結果、固化した水硬性組成物の力学的特性は、著しく増強される。特定の使用は、実際の可塑剤Vを含むポリマー混合物の調製において乳化剤としてポリマーPを同時に使用することであり、実際の可塑剤Vの効果を増強する追加の可塑剤として使用することである。
【実施例】
【0115】
1.1 使用する略号
【0116】
【表1】

【0117】
1.2 ポリマーP8〜P10の調製法A
アンカー撹拌機(IKA(登録商標)撹拌機)、温度センサー、還流凝縮器および2個の別のフィードノズルを備えた反応容器に、ほぼ等量の水およびアリルPEG(Clariant社、バーゼル、スイスから入手可能)およびスチレン(Fluka社、スイスから入手可能)およびVEOVA(登録商標)9(Christ Chemie AG社、スイスから入手可能)を最初Table 2(表2)に記載の量で導入し、85℃にする。85℃に達するとすぐに0.1gの次亜硫酸ナトリウム(Fluka社、スイスから入手可能)を加えた。その後、第1のフィードを経由してアクリル酸および任意にマレイン酸(両者ともFluka社、スイスから入手可能)を、第2のフィードを経由して10%強度の過硫酸ナトリウム溶液(Fluka社、スイスから入手可能)20gを、2時間をかけて同時に計量する。温度を85℃〜95℃に保った。すべてを計量した後、ポスト重合をさらに1時間、90℃で達成した。その後、ポリマー溶液の総重量に基づいて、40重量%の所望のポリマー固体含量になるように、対応する量の水を用いて希釈を達成した。
【0118】
1.3 ポリマーP1〜P7の調製法B
アンカー撹拌機(IKA(登録商標)撹拌機)、温度センサー、還流凝縮器および2個の別のフィードノズルを備えた反応容器に、ほぼ等量の水およびアリルPEG(Clariant社、バーゼル、スイスから入手可能)またはビニルPEG(Clariant社、バーゼル、スイスから入手可能)および任意にアリルアミン(Fluka社、スイスから入手可能)を、最初Table 2(表2)に記載の量で導入し、22℃に冷却する。その後、スチレン(Fluka社、スイスから入手可能)、VEOVA(登録商標)9(Christ Chemie AG社、スイスから入手可能)およびマレイン酸またはイタコン酸を加えた。ビニルエーテルがアリルPEGの代わりに使われるならば、pHを、水酸化ナトリウム溶液によりpH5.5に上げる。少量のFe(II)SO4(0.1g)を加え、次いでアクリル酸またはアクリル酸塩を最初に導入した混合物に移した。
【0119】
撹拌しながら、第1のフィードを経由してRongalit(商標)C(BASF社、ドイツから入手可能)の15%強度の水溶液10gを、第2のフィードを経由して過酸化水素の35%強度の水溶液21g(Fluka社、スイスから入手可能)を、最初に導入した混合物に滴加し、温度を22℃から55℃に上昇させる。第1のフィードを経由してRongalit(商標)C溶液を25分間で、第2のフィードを経由して過酸化水素溶液を35分間で滴加した。最後に、乳化液を水で薄め、ポリマー溶液の総重量に基づいて、所望のポリマー含量の40重量%にした。
【0120】
【表2】

【0121】
2. 水性組成物Zの調製
本発明に従う水性組成物Zの調製のために、最初、本発明に従うポリマーPの40%強度の水性乳化液を調製した。この目的のために、Table 2(表2)に従ってポリマーPの40重量%を60重量%の水と混合した。消泡剤Mを40%強度の水性ポリマー乳化液に加え、実験によるが、Table 3(表3)に記載の量で撹拌下に、この混合物を可塑剤Vの30%強度の水溶液中に加えるかまたは振り混ぜた。可塑剤Vの30%強度の水溶液は30重量%の可塑剤Vに70重量%の水を混合して調製した。
【0122】
ポリマー類似反応に従い調製され、国際公開第2005/123621号のTable 2(表2)にポリマーA4として記載されているポリマーを可塑剤Vとして用いた。Pronal(登録商標)735 S (Toho Chemical Industry Co., Ltdから入手可能)を消泡剤M-1として、平均分子量Mw1200g/molを有するポリプロピレングリコール(Fluka社、スイスから入手可能)をM-2として、リン酸トリブチル(Fluka社、スイスから入手可能)をM-3として、Pluronic(登録商標)PE3100(BASF社、ドイツから入手可能)をM-4として用いた。
【0123】
組成物Z-21の場合は、乳化用ポリマーPの代わりに、既存の界面活性剤Cognis GmbH社(Monheim、ドイツ)からのTexapon NSOを比較のために用いた。この目的のためには、40%強度の乳化液ではなく、市販品Texapon NSOの1.75重量%を用いた。
【0124】
【表3】

【0125】
Table 3(表3)は、ポリマーPが乳化剤として卓抜した特性を有し、可塑剤および消泡剤混合物の安定な水性乳化液を導くということを示している。対照的に、可塑剤と消泡剤の本発明に従う乳化剤を含まない混合物は、安定ではない(組成物Z-23参照)。既存の界面活性剤(例えば、Cognis GmbH社からのTexapon NSO)は、可塑剤と消泡剤の混合物を乳化する能力はなく、相分離が発生する(組成物Z-21参照)。
【0126】
3. 新鮮なモルタル中の空気含量の測定
本発明に従う水性組成物Zの効率について新鮮なモルタルで試験した。
【0127】
【表4】

【0128】
砂、フィラーおよびセメントは、Hobartミキサー中で1分間で乾燥状態でブレンドした。水性組成物Zが溶解される混合水は、30秒間で加えられ、さらに2.5分間混合した。総湿潤混合時間は2.5分である。水性組成物Zは瓶中に入れ、30日間室温で保存した。その後、使用した試料量(5.3g)を瓶の底からピペットにより採取した。
【0129】
モルタルの空気含量を、EN1015-7に従い空気含量試験機を用いて測定した。空気含量が30分後にのみ測定される場合、測定に先立って、モルタル混合物を10秒間、Hobartミキサー中で混合した。
【0130】
【表5】

【0131】
Table 4(表5)は、本発明に従うポリマーP、可塑剤Vおよび消泡剤Mを含む水性組成物が、改善されたモルタルの特性を与え、空気含量が当初および比較的長期にわたっての両方で低く保たれ得ることを示している。ポリマーPの不添加(MM-20のモルタル混合物参照)またはポリマーPの代わりに既存の界面活性剤の添加(MM-21のモルタル混合物参照)では、空気含量はかなり増加し、モルタルの特性は悪い。
【0132】
4. ポリマーPの流動性
セメント混合物の流動性に対するポリマーPの効果を調べるために、スランプ(SLU)を測定した。
【0133】
ポリマーPおよび既存の界面活性剤または既存の可塑剤を使用しない比較実験として、100gのポルトランドセメントタイプI CEM 42.5と33gの水を1分間、混合し(w/c値は0.33である)、次いでミニコーン(内径、上端部で18.5mm、底部で37.5mm、高さ57.2mm)中に、導入した。充てん後すぐにコーンを注意深く上昇させた。次いで、セメントケーキの寸法を、キャリパーを用いて90秒後に測定した。
【0134】
本発明に従うポリマーP-1〜P-10を用いる実験では、水の比率を5%下げた、すなわち、100gのポルトランドセメントタイプI CEM 42.5と31.5gの水(w/c値は0.315である)および本発明に従うポリマーPを用いた40%強度の水性乳化液0.5g(ポリマー固体として0.2gに相当)とを1分間、混合し、次いでミニコーン中へ導入した。
【0135】
比較のために、既存の界面活性剤(Cognis GmbH社からのTexapon NSO)、または既存の可塑剤(Giovanni Bozzetto S.P.A社、イタリアからの、Flube OS 39)を本発明に従うポリマーPの代わりに加えた。
【0136】
【表6】

【0137】
Table 5(表6)は、追加の界面活性剤のない時にも本発明に従うポリマーPが可塑化効果を有すること、および既存の可塑剤と同程度のスランプを与えるということを示している。一方で既存の界面活性剤は、可塑化効果を全く示さない。
【0138】
もちろんのことだが、本発明は、示されたり記載された実施例に限定されるものではない。本発明の上述の特徴は、それぞれの場合に記載した組合せにおいてのみでなくその他の変更、組合せおよび改良においてもまたはそれ自体だけでも本発明の範囲から逸脱することなく使用し得ることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)不飽和モノもしくはジカルボン酸または不飽和モノもしくはジカルボン酸の類似体、不飽和スルホン酸または不飽和スルホン酸類似体、および不飽和ホスホン酸または不飽和ホスホン酸類似体からなる群から選択される少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーA

b)少なくとも1種の、式(I)、(II)または(III)のエチレン性不飽和モノマーB
【化1】

(式中、R1は、互いに独立に、n個のカルボキシル基を除いた後の、(a)で記載のモノまたはジカルボン酸であり、
R2は、互いに独立に、H、1〜20個の炭素原子を有するアルキルまたは7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールであり、
R3は、両方のカルボキシル基を除いた後の、(a)で記載のジカルボン酸であり、
Yは、互いに独立に、
【化2】

のいずれかであり、
R4は、互いに独立に、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールまたはHであり、好ましくは、R4=Hであり、
nは、互いに独立に、1または2であり、
rは、互いに独立に、0または1の値を有し、
x、y、zは、互いに独立に、それぞれが0〜250の値を有し、x+y+zは、3以上であり、
Qは、すべてのOH基を除いた後の式Q(OH)q+1のポリアルコールの基であり、
qは、2〜5であり、特に2または3である)
および
c)少なくとも1種の、式(IV)のエチレン性不飽和モノマーC
【化3】

(式中、R5は、互いに独立に、1〜30個の炭素原子を有するアルキル、式-OR6のアルコキシ、式-O-[(C2H4O)x-(C3H6O)y-(C4H8O)Z]-R2のポリオキシアルコキシ、Cl、F、BrまたはNO2であり、
mは、0〜5の数、好ましくは、0であり、
R6は、互いに独立に、1〜30個の炭素原子を有するアルキルであり、
x、y、zは、互いに独立に、それぞれが0〜250の値を有し、x+y+zは、3以上であり、
R2は、互いに独立に、H、1〜20個の炭素原子を有するアルキルまたは7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールである)
および
d)少なくとも1種の、式(V)のエチレン性不飽和モノマーD
【化4】

(式中、R7は、Hまたはメチルであり、
R8は、直鎖もしくは分岐の、2〜30個の炭素原子を有するアルキル基、2〜30個の炭素原子を有するシクロアルキルもしくはアルケニル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリールもしくはアラルキル、置換されているかされていないアリール基、または2〜30個の炭素原子を有する二価の基であり、Xが
【化5】

のいずれかである場合は、R8は、R9またはR10およびNと一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、その環は、芳香族構造を任意に有し、環内または環上にヘテロ原子を任意に有し、
Xは、
【化6A】

【化6B】

のいずれかであり、
R9は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリール、またはHであり、好ましくは、R9=Hであり、R9は、NとR8と一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、環内または環上にヘテロ原子を任意に有し、
R10は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、7〜20個の炭素原子を有するアルキルアリール、または1〜20個の炭素原子を有するアルケニルであり、R10は、NとR8と一緒になって環、特に、5〜8員環を任意に形成し、環内または環上にヘテロ原子を任意に有する)
および任意に、
e)少なくとも1種の、式(VI)のエチレン性不飽和モノマーE
【化7】

(式中、R11は、Hまたはメチルであり、
Y1は、
【化8】

のいずれかであり、
R12は、Y1
【化9】

ならば、少なくとも1種の、第1級、第2級または第3級のアミノ基を有する基であり、Y1
【化10】

ならば、少なくとも1種の、第2級または第3級のアミノ基を有する基である)
および任意に、
f)少なくとも1種のさらなるエチレン性不飽和モノマーW
との共重合により入手し得るポリマーP。
【請求項2】
モノマーAが式(VII)を有することを特徴とする、請求項1に記載のポリマーP
【化11】

(式中、X1は、CO2、SO3、またはPO3であり、
Mは、H、アルカリ金属、アルカリ金属半原子、アンモニウムまたはアンモニウム陽イオンであり、
R13は、H、CH3、COOMまたはCH2COOM、特にHであり、
またはR13は、Xと一緒になって環を形成して-CO-O-CO-を与え、
R14は、H、1〜5個の炭素原子を有するアルキル、COOM、またはCH2COOM、特に、Hであり、
R15は、H、CH2COOM、または1〜5個の炭素原子を有するアルキル、特に、HまたはCH3であり、
R16は、互いに独立に、フェニレン基または1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐のアルキレン基であり、ヘテロ原子を有する官能基を任意に有し、
pは、0または1の値である)。
【請求項3】
不飽和のモノもしくはジカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸の類似体が、塩酸、酸ハライドおよび酸無水物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリマーP。
【請求項4】
モノマーAが、(メタ)アクリル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、またはビニルホスホン酸、好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項5】
共重合がフリーラジカル開始剤の存在下で起こる、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項6】
モノマーBが、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステルまたはポリオキシアルキレンビニルエーテルまたはポリオキシアルキレンアリルエーテルであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項7】
モノマーCがスチレンであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項8】
モノマーDが3〜30個の炭素原子を有する脂肪酸のビニルエステルであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項9】
モノマーEがアリルアミンであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項10】
モノマーEが、アリルグリシジルエーテルとアンモニアまたは少なくとも1種のアミンとの反応により調製されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項11】
ポリマーPの調製に用いるモノマーA、B、C、D、EおよびWの総モル量に基づいて、それぞれ、使用されるモノマーAの量が5〜90mol%、使用されるモノマーBの量が8〜40mol%、使用されるモノマーCの量が0.1〜30mol%、使用されるモノマーDの量が0.1〜30mol%、使用されるモノマーEの量が0〜10mol%、使用されるモノマーWの量が0〜5mol%であり、モノマーA:Bのモル比が≦10:1であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項12】
ポリマーPの調製に用いるモノマーA、B、C、D、EおよびWの総モル量に基づいて、それぞれ、使用されるモノマーAの量が30〜70mol%、使用されるモノマーBの量が10〜20mol%、使用されるモノマーCの量が10〜20mol%、使用されるモノマーDの量が6〜10mol%、使用されるモノマーEの量が0〜7mol%、使用されるモノマーWの量が0〜1mol%であることを特徴とする、請求項11に記載のポリマーP。
【請求項13】
ポリマーPの調製に用いるモノマーA、B、C、D、EおよびWの総モル量に基づいて、それぞれ、使用されるモノマーAの量が55〜65mol%、使用されるモノマーBの量が12〜18mol%、使用されるモノマーCの量が12〜18mol%、使用されるモノマーDの量が7〜9mol%、使用されるモノマーEの量が0.1〜2mol%、使用されるモノマーWの量が0〜0.1mol%であることを特徴とする、請求項12に記載のポリマーP。
【請求項14】
A:Bの比が、≦8:1、好ましくは、≦3:1であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載のポリマーP。
【請求項15】
水硬性組成物、特に、コンクリートおよびモルタルのための可塑剤としての、請求項1から14のいずれか一項に記載のポリマーPの使用。
【請求項16】
乳化剤としての、請求項1から14のいずれか一項に記載のポリマーPの使用。
【請求項17】
少なくとも1種の、請求項1から14のいずれか一項に記載のポリマーPおよび少なくとも1種の消泡剤Mを含む組成物Z。
【請求項18】
消泡剤Mに対するポリマーPの比が、2:3〜49:1、特に、3:2〜4:1であることを特徴とする、請求項17に記載の組成物Z。
【請求項19】
消泡剤Mが、リン酸エステル、ポリアルキレングリコール、脂肪酸、脂肪酸エステルまたはシリコーンであることを特徴とする、請求項17または18に記載の組成物Z。
【請求項20】
さらに水を含むことを特徴とする、請求項17から19のいずれか一項に記載の組成物Z。
【請求項21】
水硬性組成物のための少なくとも1種の可塑剤Vをさらに含むことを特徴とする、請求項20に記載の組成物Z。
【請求項22】
可塑剤Vがポリカルボキシレートであることを特徴とする、請求項21に記載の組成物Z。
【請求項23】
水性組成物Zの重量に基づいて、0.04〜10重量%、特に0.05〜5重量%のポリマーP、0.01〜10重量%、特に0.05〜5重量%の消泡剤M、3〜50重量%、特に20〜40重量%の可塑剤Vを含むことを特徴とする、請求項21または22に記載の水性組成物Z。

【公表番号】特表2010−534760(P2010−534760A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518668(P2010−518668)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060032
【国際公開番号】WO2009/016213
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】