説明

乳化組成物

【課題】 耐振動性に優れた乳化組成物及び長期にわたって乳化が安定である飲料の提供。
【解決手段】 1〜60質量%脱金属アラビアガムと、0.01〜30質量%の油性物質と、5〜30質量%のエタノールを含有することを特徴とする乳化組成物。本発明の乳化組成物は優れた耐振動性を有しており、これを添加することにより輸送時等の振動に対しても安定な飲料を提供することができる。本発明は、一般に乳化特性に悪影響を与えるとされる脱金属アラビアガムとエタノールを組み合わせた結果得られた意外性を有する効果である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐振動性に優れた乳化組成物及び該乳化組成物を含有する飲料並びに該乳化組成物を添加することを特徴とする飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料をよりおいしく、かつナチュラル感を高めるために香料が用いられている。飲料に用いられる香料としては水溶性香料(エッセンスなど)が一般に用いられるが、よりマイルドな香りを与え、水に分散したときに特有の白濁を与え、特に果実飲料などに対してボリュームある香りと安定した混濁を与えるために乳化香料が好ましく用いられる(非特許文献1)。そのような乳化香料に要求される特性としては、長期間にわたってクリーミングや油浮きがしないという乳化状態の安定性が第一に挙げられ、その目的のためには例えば油性香料と水溶性大豆多糖類と多価アルコールを含有する乳化組成物(例えば特許文献1)、或いはショ糖酢酸イソ酪酸エステルと柑橘系香料と中鎖脂肪酸トリグリセライドを特定の組成比で含有する乳化物(例えば特許文献2)などが提案されているが、耐振動性の点でいえば未だ満足のいくものではなかった。
【0003】
耐振動性に優れた乳化組成物としては、例えば、(a)可食性油性材料、(b)アラビン酸のアルカリ金属塩類及び(c)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を含有してなることを特徴とする安定な飲食品用乳化液組成物(特許文献1)が提案されているが、効果の点で満足のいくものではなかった。一方、脱金属アラビアガムを用いた乳化については、香料、糖類、水及び脱塩アラビアガムを含む乳化物を乾燥することを特徴とする粉末香料の製造方法(特許文献2)などが知られているが、耐振動性については何ら記載されていない。
【特許文献1】特開昭63−74457号公報 請求項1
【特許文献2】特開2001−64667号公報 請求項2
【非特許文献1】特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第I部 香料一般 第89頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、耐振動性に優れた乳化組成物が無いという点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属類を除去処理したアラビアガム(以下、脱金属アラビアガムと記す)と、油性物質と、エタノールを特定量含有した乳化組成物が上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成させた。すなわち本発明は、
(1)脱金属アラビアガムと、油性物質と、5〜30質量%のエタノールを含有することを特徴とする乳化組成物。
(2)脱金属アラビアガムの含量が1〜60質量%であることを特徴とする(1)に記載の乳化組成物。
(3)油性物質の含有量が0.01〜30質量%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の乳化組成物。
(4)油性物質が、植物性油脂、動物性油脂、ショ糖脂肪酸エステル及び油溶性香料からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の乳化組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の乳化組成物を含有することを特徴とする飲料。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の乳化組成物を添加することを特徴とする飲料の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の乳化組成物は優れた耐振動性を有しており、これを添加することにより輸送時等の振動に対しても安定な飲料を提供することができる。本発明は、一般に乳化特性に悪影響を与えるとされる脱金属アラビアガム(特許文献1 2頁右欄17行目)とエタノールを組み合わせた結果得られる、ユニークな効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる脱金属アラビアガムとは、脱金属処理されたアラビアガムであれば特に限定されない。脱金属処理の方法としては、例えば電気透析膜処理を行うことによっても達成できるが、イオン交換樹脂を用いて処理する方法が簡便であり、その処理はアラビアガムの製造過程、精製過程、或いは乳化剤としての使用直前等、任意の過程で行うことができる。本発明においてアラビアガムを用いる場合、脱金属処理されたものがサンアラビックの名称で市販されており(三栄薬品貿易(株))、好適に用いることができる。脱金属処理されたアラビアガムが乳化組成物の耐振動安定性を向上させる理由は明らかではないが、脱金属過程によってアラビアガムに含まれていた金属、特にナトリウム、カリウム、カルシウムのようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属が著しく減少していることから、これらの金属の除去が、エタノールの組み合わせによって振動による乳化の破壊等を抑制するものと推定される。脱金属アラビアガムの使用量は、使用する乳化組成物の目的などにより適宜に選択することができるが、一般には、乳化組成物中に1〜60質量%、好ましくは15〜40質量%である。
【0008】
本発明における油性物質は、油溶性であれば特に限定されるものではないが、飲料用であるので通常は植物性油脂、動物性油脂、ショ糖脂肪酸エステル及び油溶性香料からなる群から選ばれる1種又は2種以上が使用される。植物性油脂としては、例えば、アボカド油、アーモンド油、エゴマ油、オリーブ油、ゴマ油、カカオ脂、キャロット油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、綿実油、落花生油、パーム油、パーム核油などが挙げられ、動物性油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、卵黄油などが挙げられ、ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えばシュークロースジアセテートヘキサイソブチレート(SAIB)が好適に用いられ、油溶性香料としては、油溶性であれば特に限定されることはなく、その目的に応じて任意に調製されるが、好ましくは柑橘系油溶性香料が用いられる。柑橘系油溶性香料は、柑橘油(シトラス類)系の香料であれば、天然香料、調合香料のいずれも好ましく用いられる。柑橘油としては、例えばミカン油、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、ユズ油、夏ミカン油等がある。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組合せても用いてもよい。また、これら柑橘油の一部又は全部のテルペンを除去したものも用いられる。これらの精油の他に、食品添加物として認められている化合物や、溶剤として菜種油、パーム油、パーム核油、大豆油、オリーブ油、ヤシ油、エレミ樹脂、ダンマル樹脂、マスチック樹脂などの植物油を任意に使用した調合香料を使用してもよい。さらに、香料を安定化する目的で任意に酸化防止剤を加えても良い。油性物質の使用量は、使用する乳化組成物の目的などにより適宜に選択することができるが、一般には、乳化組成物中に0.01〜30質量%である。使用量が0.01質量%未満では乳化組成物としての効果が低く、30質量%を超えたときは乳化の安定性が低くなる可能性がある。
【0009】
本発明で用いられるエタノールは、乳化組成物中の含有率が5〜30質量%である必要があり、より好ましくは含有率が5〜25質量%、更に好ましくは5〜20質量%、最も好ましくは5〜15質量%で用いられる。含有率が5質量%未満では耐振動の安定性が急激に低下する。含有率が20質量%を超えると乳化粒子径が粗大になり、25質量%を超えるころから乳化粒子径が粗大化し、30質量%を超えたときは乳化することが急激に困難となるという、臨界的挙動を示すからである。
【0010】
本発明においては、更に多価アルコール類を併用することもできる。そのような多価アルコール類としては、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、デキストリン、還元澱粉糖化物、水飴、ショ糖、オリゴ糖、環状オリゴ糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖、トレハロースが用いられ、特に好ましくはグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、デキストリン、還元澱粉糖化物、オリゴ糖、乳糖、トレハロースなどが用いられる。
【0011】
本発明の乳化組成物が添加される飲料は、特に限定されることはなくあらゆる飲料に添加できるが、例えば、炭酸飲料、果汁飲料、嗜好飲料、茶系飲料、機能性飲料などが例示される。本発明で得られる乳化組成物を飲料に添加する場合、その添加率は対象となる飲料に応じて任意に設定するものであるが、通常は0.0001〜1.0質量%、好ましくは0.0001〜0.5質量%、より好ましくは0.001〜0.5質量%、特に好ましくは0.001〜0.2質量%、最も好ましくは0.01〜0.2質量%で添加される。添加率が0.0001質量%未満であると添加する効果が低くなる可能性があり、1.0質量%を越える場合は乳化組成物の風味が表に立ってくることがあり好ましくない場合がある。添加する時期は、飲料が調製され、消費者が喫食するまでの任意の時期で可能である。次に実施例を挙げ、更に詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
表1の処方によりエタノール含量の異なる乳化組成物を常法により調製した(実施例1〜7、比較例1〜3)。また、乳化特性の指標として乳化直後の粒子径を測定し、併せて表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1から明らかなように、乳化特性はエタノール含量が30質量%を超えたときに急激に悪化することが判る。
【0015】
[試験例1]
実施例1等で調製した乳化組成物について、耐振動性について評価を行った。評価方法は、シェイキング試験機(SHK-COCK2 旭テクノグラス社製)を用い、30分間 振動試験(水平から45°まで傾斜し、180往復/min、室温下)を行った。振動試験後の平均粒子径を測定し、試験前の粒子径に比べてその粗大化率を確認した。結果を図1に示す。
※粗大化率(%)=(振動後の粒子径(μm)/振動前の粒子径(μm))×100%
【0016】
図1の結果から明らかなように、エタノール含量が5質量%未満になったときに耐振動性が急激に悪化することが判る。
【0017】
[試験例2]
実施例1及び比較例1で調製した乳化組成物について、飲料中での評価を行った。実施例1及び比較例1で得られた乳化組成物を水平から45°まで傾斜し、180往復/min、室温下で5時間シェイキングしたものを、グラニュー糖12g、クエン酸0.2gを含むBx.6、pH3の酸性飲料200mlに添加し、70℃×10分の殺菌を行い、溶液安定性試験機(タービスキャンLab.:Formulaction社製)を用いて透過光を測定した。透過光強度変化率についての結果を図2に示す。
【0018】
図2は、粒子の上昇や粗大化、乳化破壊など、外観の変化に係わる微細な変化を透過光強度変化としてグラフ化している。従って、変化率が小さくなれば安定であると言え、図2から明らかなように、比較例1は乳化が破壊され、溶液中の安定性に大きな差が生じた。グラフの透過光変化率から実施例1は、比較例1の7倍以上の安定性があった。
【0019】
[実施例8]
表2の処方によりアラビアガムの異なる乳化組成物を常法により調製し、(実施例8、比較例4及び5)。耐振動性を評価した。評価方法は、試験例2と同様に粗大化率を測定した。結果を併せて表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2から明らかなように、実施例は粗大化率が100%を維持し、最も変化率が少なく、振動に対してもっとも安定であった、
【0022】
[試験例3]
実施例8で調製した乳化組成物について、飲料中での評価を行った。グラニュー糖120g、クエン酸2gを適量の水に溶解し、全体を2Lとし、Bx.6、pH3の酸性飲料用シロップを調製し、このシロップを200ml毎に分けた。実施例8、比較例4及び5で得られた乳化組成物を各0.2g添加し、殺菌70℃×10分を行い、恒温40℃で24週間保管し外観について目視観察した(振動無し)。また、実施例8、比較例4及び5で得られた乳化組成物を、水平から45°まで傾斜し、180往復/min、室温下で5時間シェイキングしたものを、先に作成したシロップ200mlに各0.2g添加した。その後、殺菌70℃×10分を行い、恒温40℃で24週間保管し外観について目視観察を行った(振動有り)。まとめた結果を表3に示す。なお、表中、−は異常なし、+は僅かにネックリングが見られる、++は明確なネックリングが見られる、+++は激しいネックリングが見られる、↓は僅かに沈殿が生ずることを意味している。
【0023】
【表3】

【0024】
表3から明らかなように、実施例8は比較例4及び5よりも遙かに振動に対する安定性を有している。
【0025】
[試験例4]
アルコール飲料中での乳化組成物の安定性を評価した。評価方法は、市販のアルコール度数35°のホワイトリカーを200mL毎に分け、実施例8、比較例4及び5で得られた乳化組成物を各0.2g添加し、180往復/min、室温下で5時間シェイキング後、40℃恒温×48時間で、外観変化を目視にて観察した。結果を表4に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
表4から明らかなように、実施例8は比較例よりも遙かに振動に対する安定性を有している。
【0028】
[試験例5]
アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン)飲料での安定性を評価した。評価方法は、グラニュー糖40g、クエン酸5g、食塩0.6g、バリン3g、ロイシン6g、イソロイシン3g、アルギニン3g、を適量の水に溶解し、全体を1Lとし、Bx.6、pH3のアミノ酸飲料用シロップを調製した。これを各200mL小分けして、実施例8、比較例4及び5の乳化組成物を各0.2g添加した。これらアミノ酸飲料用シロップを瓶に充填し、殺菌70℃×10minを行い、室温にて1カ月間静置した(振動無し)。また、実施例8、比較例4及び5の乳化組成物をシェイキング(水平から45℃まで傾斜し、180往復/min.室温で5時間シェイキングする)して、同様にアミノ酸飲料用シロップに添加し、1ヶ月後の状態を観察した(振動有り)。結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
表5から明らかなように、実施例8は比較例よりもはるかに振動に対する安定性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の乳化組成物を用いることにより、振動に対して優れた安定性を有する飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】粒子径の粗大化率を示すグラフである。
【図2】飲料中における乳化組成物の安定性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱金属アラビアガムと、油性物質と、5〜30質量%のエタノールを含有することを特徴とする乳化組成物。
【請求項2】
脱金属アラビアガムの含量が1〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
油性物質の含有量が0.01〜30質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
油性物質が、植物性油脂、動物性油脂、ショ糖脂肪酸エステル及び油溶性香料からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の乳化組成物を含有することを特徴とする飲料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の乳化組成物を添加することを特徴とする飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−289124(P2007−289124A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123402(P2006−123402)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】