説明

乳汁を介して母親由来抗体を伝達する三価ワクチン

本発明の実施形態は、全般に、新規多価ワクチン及びワクチン接種の方法に関する。一つの実施形態において、本発明は、生まれた仔イヌに初乳を通じて運搬され、保護を与えるのに十分な抗体力価をもたらす、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)、及びイヌ微小ウイルス(MVC)又はその他のイヌパルボウイルス用の三価ワクチンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者
Thomas Gore及びAdrian Mocket
譲受人
Akzo Nobel NV、Arnhem、The Netherlands
本発明は、母親由来抗体の有効量を伝達する三価ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチン接種は、健康な動物を感染性疾患から保護するための重要な獣医学的診療である。ワクチン接種の目的は、標的病原生物に対する健康な動物中の防御的液性及び/又は細胞性免疫反応を刺激することである。ワクチン接種は、6から9週齢の間に開始されるのが通常であるが、早ければ3週齢の時点で最初のワクチン接種を投与することができる。しかしながら、これより幼い年齢においては、ワクチンの効力は、母親由来抗体の存在と濃度に依存する。
【0003】
イヌの場合、適切にワクチン接種された雌イヌでは、経胎盤及び初乳摂取による母親由来抗体の受動伝達がある種の感染性疾患から仔イヌを保護し得ることが、一般に認められている。母親から与えられ、受動的に伝達された抗体は、20週間にもわたって、仔イヌの中を循環し得る。しかし、受動的保護の持続期間は、抗体の半減期及び伝達される抗体の量に依存する。一般に、イヌのIgG抗体の半減期は、11から14日である。イヌヘルペスに起因する疾患からイヌの新生仔を受動的に保護するために、妊娠中の雌イヌにワクチンを接種するという考え方が、最近、商業的に実施されている。
【0004】
しかしながら、出産後に少なくとも一匹の仔イヌに伝達させるために母親由来抗体の免疫学的有効量を惹起させるという具体的な目的のために、雌イヌに多価不活化ワクチンを投与できることは実証されていない。このため、現在のところ、仔イヌ用ワクチンは、早くも4週齢の時点で接種され、その後、20週齢以降のある時点まで、3ないし4週ごとに反復接種されている。しかし、循環する母親由来抗体のレベルが原因で、ワクチン接種は実地でのチャレンジに対して保護を与え得ない状況が存在する。
【0005】
イヌの新生仔は、自身の抗体を実質的に持たずに生まれる。さらに、仔イヌの免疫系が完全な能力を発揮するためには、数ヶ月を要する。出生時には、仔イヌが接触する病原体からの初期の保護は、その母親から受動的に由来した循環抗体の存在によって行われる。
【0006】
出産してから最初の2日間は、母親自身の抗体が母親の乳汁中に高レベルで含有されている。抗体を含んだこの乳汁は、初乳として知られている。その母親から防御抗体を得るために、イヌの新生仔は、出生後最初の24時間の間に初乳を摂取しなければならない。24時間が過ぎると、仔イヌの胃腸管が成熟度を増し、原型の抗体タンパク質分子の吸収が停止する。吸収されない抗体は消化されるため、もはや機能的な分子として吸収され、循環中に移行することはなくなる。吸収される抗体の量は、摂取された初乳の量及び初乳中の母親由来抗体のレベルに依存する。雌イヌ中の循環抗体レベルが高ければ、授乳している仔イヌは、出生後最初の24時間の間に抗体の十分量を取得するであろう。逆に、ワクチン接種の時期が離れているために、又は免疫反応が不良であるために、雌イヌの抗体レベル(低抗体力価)が低ければ、仔イヌは、受動的保護には不十分な抗体のレベルを受け取るであろう。これらの状況は何れも、よい結果と悪い結果をもたらす。母親由来抗体のレベルが低いか、又は仔イヌが初乳の最少量を摂取した場合には、仔イヌに受動的に伝達された抗体は、最初のワクチン接種以前に代謝されてしまうことがあり、疾病に罹患しやすい期間が存在するであろう。これに対して、母親由来の抗体のレベルが最初のワクチン接種の時点で高ければ、仔イヌの能動免疫反応は最小限となるであろう。高い母親由来抗体レベルは、免疫系の刺激を抑えるワクチン抗原を中和するであろう。しかし、時間が経過するにつれて受動抗体のレベルが減少するので、能動免疫反応が仔イヌで開始できるまで、深刻な感染の危険性が増大する。各仔イヌの状況を調べるための唯一の方法は、ワクチン接種の前に抗体力価を決定することである。このような診療は高価であり、容易に利用できない。基本的な経験則として、約4週齢から15週齢まで、仔イヌは十分に保護されていない場合があり、能動免疫が確立できるまで、環境的な曝露を制限するために注意払うべきであると考えられている。
【0007】
仔イヌが感染しやすい状態になる年齢は、主として、曝露時の受動抗体力価によって決定される。血清陰性の雌イヌから生まれた仔イヌは、出生の時点で病気にかかりやすく、抗体力価が低い雌イヌから生まれた仔イヌは、早くも出生後4週から6週の時点で病気にかかりやすい場合があるのに対して、高力価の雌イヌから生まれた仔イヌは、12から16週間、感染に対して免疫され得る
【0008】
保護のレベル及び/又は保護の長さを増加させるために、仔イヌを免疫化することができる。しかし、イヌ及び仔イヌなどのイヌ科の動物にワクチン接種する上で共通の問題は、免疫化の最中に母親由来抗体から干渉を受けることである。母親由来抗体の干渉は、離乳直後の動物へのワクチンが失敗する最も一般的な原因である。母親由来抗体は、ワクチンウイルスを中和し、仔イヌの能動免疫反応を抑制する。この一般的な免疫化における問題は全ての疾病に生じるが、疾病の爆発的な伝搬性のため、及び仔イヌがCPVによって死亡するリスクが最も高いため、CPVの腸炎の場合に特に問題となる。
【0009】
仔イヌは、経胎盤伝達を介してそのCPV母親由来抗体の約10%を受け取り、出生後最初の24時間の間に、初乳の吸収を通じて残りの90%を受け取る。約3日齢の時点で、通常、仔イヌの抗体力価が母イヌの抗体力価と等しくなる。母親由来抗体は能動的に置換されないので、母親由来抗体は予測可能な速度で減少し、仔イヌの力価は概ね10日ごとに半減する。
【0010】
抗体がワクチン接種を干渉している間、仔イヌが疾病から保護された状態を保っていれば、母親由来のCPV抗体の問題はずっと小さいものとなるであろう。しかし、仔イヌが毒性ウイルスに感染しやすくなるまで抗体力価が大幅に減少するにもかかわらず、現ワクチンによる免疫化が奏効しない程に十分に抗体力価が高いという期間が2ないし5週間存在する。この期間の前又はこの期間中に与えられたワクチン接種は、仔イヌに能動免疫を刺激しないであろう
【0011】
さらに、ワクチンに関して生じ得る問題には、適切なワクチン投与計画を選択することが含まれる。あらゆるワクチン投与計画において留意すべきことは、ワクチンの選択である。基本的な問題として、この選択には、一価ワクチンと多価ワクチンが含まれるであろう。一価ワクチンは、動物を単一の疾病に対して免疫化するであろう。多価ワクチンは、複数の疾病に対して免疫することができる。不活化ワクチン、生ワクチン及び弱毒化ワクチン(修飾生)が存在する。様々なワクチンが、様々な方法で作製される。それぞれ、使用されるだけの理由があるとともに、潜在的な問題も抱えている。一価抗体は、複数の疾病を確実に網羅するために、異なるワクチンを複数回注射する必要がある。多価ワクチンは免疫系を制圧し、免疫抑制を引き起こすことができるので、多価ワクチンを投与しなければ発症しない軽微な感染症又は疾病に、仔イヌが罹患しやすくなる。不活化ワクチンは、免疫系を刺激して抗体を作らせる上では有効性が劣るが、修正生(ML)ワクチンは動物の体内で再生し、より高い抗体反応をもたらす。MLワクチンは再生し、便又は尿又は唾液中にウイルスが排出され、動物が感染症を撃退して残存する生物を死滅させることができるまで、細菌も排出されるので、MLワクチンも、動物に疾病を引き起こすことができる。また、MLワクチンは、感染性(毒性)形態へと復帰し、又はさらに毒性の強い形態へと復帰し得る場合さえあるので、野生動物、鳥に感染し、又はヒトにさえ感染するウイルス及び細菌で環境を汚染し得る。ニワトリの卵の中で作られるワクチンは、イヌを卵又はニワトリに対してアレルギー性が高い状態に刺激し得る。ネコの細胞培養中で作製されたワクチンは、初回の使用時には優れているが、イヌがネコの細胞に対する抗体を作ることがあり得るので、二回目の投与時には、重篤な反応を生じ得る。イヌの細胞培養から得られたタンパク質でさえ、仔イヌを刺激して、自己の甲状腺、副腎、血液細胞、神経細胞又は実質的に全ての自己身体組織を攻撃し得る抗体を作らせ、穏やかな程度から命にかかわる程度までの自己免疫疾患をもたらし得る。MLワクチンは、同様に深刻な問題を引き起こすことができる細胞培養物質から得られた未検出ウイルスを含有する可能性がある[Versatility in Poodles社のホームページ(http://web.foothill.net/vipoodle/neoim.htm.)上に記載されている「A Brief Review of Canine Neonatal Immunology」]。
【0012】
しかしながら、これらの問題及び/又は困難が存在するにもかかわらず、ワクチンの接種が推奨される。ワクチン投与計画の選択は、獣医師によって調整されるべきであり、イヌ及び/又はその他の動物の種に基づいて選択を行うべきである。[Versatility in Poodles社のホームページ(http://web.foothill.net/vipoodle/neoim.htm.)上に記載されている「A Brief Review of Canine Neonatal Immunology」]。
【0013】
現在、完全に不活化された多価ワクチンは、市場で販売されていない。努力が為されてきたが、成功を収めていない。多価ワクチンは、全ての成分に対する抗体を等しく作るように免疫系を刺激する完全不活化多価ワクチンを製造するのが極めて困難であることが、従来技術に開示されている[Versatility in Poodles社のホームページ(http://web.foothill.net/vipoodle/neoim.htm.)上に記載されている「A Brief Review of Canine Neonatal Immunolgy」を参照。]。
【0014】
獣医学の専門家のなかには、初めて仔イヌを免疫化した後に、仔イヌが実際に追加免疫を必要とするかどうかを調べるために、イヌの抗体レベル(力価)を調べるように推奨する者もいる。さらなる追加免疫を必要としないイヌも存在するし、複数回の追加免疫を必要とするイヌも存在する。
【0015】
従って、本分野では、上述の説明のように、母親由来抗体から経験される付随的な干渉をもたらさずに仔イヌを保護する有効なワクチンが探索されている。
【0016】
幼い仔イヌに対して特に懸念されるのは、イヌロタウイルス(CRV)、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌ微小ウイルス(MVC)の疾病である。典型的には、仔イヌの免疫系は、出生後最初の2、3ヶ月以内に、これらの疾病に対する保護を成長、発達させるであろう。残念なことに、幼い仔イヌに前記疾病が伝達されると、仔イヌの状態及び/又は発育に対して有害な影響を与える可能性がある。さらに面倒なことに、出産時に仔イヌに伝達される母親由来抗体の量が一定しないこと及び母親由来抗体の伝達の有効性に付随する問題のために、全ての仔イヌが適切な初乳の量を摂取すると仮定した場合でさえ、出産された全ての仔イヌに対して確実なワクチン接種を施すことは困難である。
【0017】
現在では、1978年にイヌ及びイヌ科の野生動物の新しい疾病として認められた病原性CPV−2、及び1970年にBinnによって報告された「イヌ微小ウイルス」(MVC、CPV−1)という2つの異なるパルボウイルス(CPV)が、イヌに感染することが知られている。完全に異なるパルボウイルスであるMVCは、1992年まで、天然疾患とは関連がなかった。MVCは、幼い仔イヌに肺炎、心筋炎及び腸炎を引き起こすことがあり、又は妊娠している母獣に経胎盤感染症を引き起こして、胚吸収と胎児の死をもたらし得る。
【0018】
イヌパルボウイルス(CPV及びCPV−1)に関する情報は、多くの媒体から入手することができる。例えば、ホームページhttp://www.hagen.com/ukには、CPVが、主として幼弱な犬に発生する(発生のピークは、6−20週)、接触伝染性が高い急性胃腸炎であることが記載されている。ウイルスは、このような環境中で長時間生存することができるので、便−経口経路及び感染した便に汚染された無生物を介した伝播がウイルスを広めることができる。症候は、曝露から5ないし10日後に発生する。より高齢の動物は、免疫が低下していなければ、臨床疾患を撃退する傾向がある。しかしながら、幼弱な動物は、病気にひどく冒され得る。
【0019】
イヌロタウイルス(CRV)は、特に12週齢未満の仔イヌにおける下痢の重要な原因であり得る。イヌロタウイルスは、12週齢を超える仔イヌには一般的でない。ロタウイルスは、感染した仔イヌの便から伝播される。最も一般的な症候は下痢である。ほとんど全ての仔イヌが12週齢未満であり、多くが2週齢以下であろう。下痢の症例の多くは、比較的軽微である。しかしながら、症例のなかには致命的なものもある。
【0020】
ほとんどの機関は、イヌロタウイルスを重大な問題と考えていない。イヌロタウイルスに遭遇することは一般的でなく、正常な仔イヌが死亡することは稀だからである。しかしながら、特に2週齢近くであれば、仔イヌに下痢が見られるときには、イヌロタウイルスを検討すべきである。
【0021】
イヌヘルペスウイルスは、主としてさらに低年齢の仔イヌに問題を引き起こす、別の病原ウイルスである。曝露時に1ないし2週齢より高齢であれば、本疾病は、感染したイヌにおいて無症状性であるのが一般的である。CHVによって引き起こされる疾病は、一般に、母獣に由来する免疫を欠くイヌの新生仔では致命的である。本ウイルスは、通常、劣悪な動物の飼育条件又は脱粒によって伝達される。「Carmichael,L. Neonatal Viral Infections of Pups:Canine Herpesvirus and Minute Virus of Canines (Canine Parvovirus−1). In: Carmichael L. (Ed. ),“Recent Advances in Canine Infectious Diseases.” Ithaca : International Veterinary Information Service (www. ivis. org), 1999; document no. A0102.1199」を参照されたい。
【0022】
曝露時に2ないし3週齢であれば、仔イヌが死亡することは稀である。イヌの新生仔における病気の持続期間は、1ないし3日である。徴候は、食欲不振、呼吸困難、腹部触診時の痛み、協調運動障害及び多くの場合黄色ないし緑色の軟便からなる。漿液性又は出血性の鼻汁が存在する場合がある。粘膜上に、点状出血が見られるのが一般的である。直腸温は上昇しない。血小板減少症が、死亡した仔イヌで報告されている。CHVは、胎児又は出生後間もない仔イヌを死亡させる子宮内感染を時折引き起こし得る。該ウイルスは、稀に、膣炎、結膜炎及び呼吸疾患を有するイヌからも単離されている。無症候的に感染したイヌ又は子宮内感染に罹患した母獣は潜伏感染した状態を保ち、ウイルスは、約1週間にわたって、鼻からの分泌物又は性器からの分泌物中に排出され、その後、予測不能な間隔で、数ヶ月又は何年にもわたって排出され得る。「Carmichael,document A0102.1199」を参照されたい。仔イヌ中の母親由来抗体が少ないことは、しばしば、仔イヌがウイルスにかかる理由である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本分野では、出産後、仔イヌの免疫系がさらに発達した状態になるまで、イヌ微小ウイルス、イヌヘルペスウイルス及びイヌロタウイルスから仔イヌを保護するワクチン投与計画が探索されている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従って、本発明の実施形態は、イヌロタウイルス(CRV)、イヌヘルペスウイルス(CHV)及び/又はイヌ微小ウイルス(MVC又はCPV−1)などのイヌパルボウイルス(CPV)に対する多価ワクチンに関する。本発明の別の実施形態は、広く、CRV、CHV及び/又はCPVに対してイヌにワクチンを接種する方法に関する。
【0025】
特に好ましい実施形態では、本発明のワクチンの実施形態を用いて、授乳後に仔イヌにワクチンを接種する。このようなワクチンは、仔イヌの免疫系が発達を開始するのに十分な期間、仔イヌを保護する。別の実施形態では、仔イヌのワクチン接種は、CRV、CHV及び/又はCPVから仔イヌを保護する。
【0026】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、仔イヌは、母親由来抗体の伝達によって、CRV、CHV及び/又はCPVに対してワクチン接種される。様々な実施形態が、雌イヌの初乳中の母親由来抗体を伝達する。このような伝達は、高い母親由来抗体力価を仔イヌに運ぶのに十分である。前記抗体力価は、仔イヌの免疫系が発達を開始するまで仔イヌを保護するのに十分である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
本明細書において使用される「初乳」という用語は、最初の且つ最高の栄養補給物を意味し表すものとし、出産が近づいた時点であらゆる哺乳動物の乳腺によって分泌される特殊な液体である。初乳は、免疫因子、成長因子、ビタミン、ミネラル、アミノ酸及び健康に良いその他の成分に富む。
【0028】
本明細書において使用される「ワクチン」という用語は、その投与によって、1又は複数の感染性疾患を予防することができ、及び/又は1又は複数の感染性疾患の重篤度を低下させることができる免疫反応を惹起することが目的される製品を意味し、表す。ワクチンは、細菌、ウイルス若しくは寄生虫の弱毒化された生の調製物、不活化された(死滅された)生物個体、放射線を照射された生きた細胞、未精製画分若しくは精製された免疫原(宿主細胞中の組換えDNAに由来するものを含む。)、成分の共有結合によって形成された包合体、合成抗原、ポリヌクレオチド(プラスミドDNAワクチンなど)、特異的な異種免疫原を発現している、ベクターを付与された生きた細胞、又は免疫原を短時間与えられた細胞であり得る。ワクチンは、上記ワクチンの組み合わせとすることもできる。
【0029】
本明細書において使用される「抗原」という用語は、ウイルス、細菌、ウイルス若しくは細菌の一部、又は動物の免疫系を刺激するように作用する外来タンパク質を意味し、表す。免疫系は、白血球に抗原を攻撃して破壊させるように、又は抗原に付着し、該抗原を死滅させ若しくは該抗原を不活化するタンパク質分子を産生させるように刺激され得る。本明細書において使用される「抗体」という用語は、動物の免疫系が作り、抗原と反応して抗原を不活化させる、タンパク質含有分子を意味し、表す。
【0030】
本発明の実施形態は、広く、動物用の多価ワクチンに関する。
【0031】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、仔イヌは、母親由来抗体の伝達によって、CRV、CHV及び/又はCPVに対してワクチン接種される。様々な実施形態が、雌イヌの初乳中の母親由来抗体を伝達する。このような伝達は、高い母親由来抗体力価を仔イヌに運ぶのに十分である。前記抗体力価は、仔イヌの免疫系が発達を開始するまで仔イヌを保護するのに十分である。
【0032】
様々な実施形態において、本発明の多価ワクチンは、少なくとも3つの抗原、第一の抗原、第二の抗原及び第三の抗原を含む。前記ワクチン及び/又は抗原は、出産前に雌イヌに投与することができる。
【0033】
ある実施形態において、雌イヌのワクチン接種は、出産の4日以内に行われる。別の実施形態において、ワクチン接種は、出産の2日以内に行われる。さらなる実施形態において、ワクチン接種は、出産の前に行われる。
【0034】
このワクチン接種は、少なくとも一匹の仔イヌにワクチンの十分な力価を投与し、これによって、各抗原に対する母親由来抗体の有効量が、授乳時に仔イヌに伝達されて、ウイルスからの保護を与える。ある実施形態において、前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つは、イヌヘルペスウイルス(CHV)である。別の実施形態において、前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つは、イヌロタウイルス(CRV)である。別の実施形態において、前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つは、イヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)である。好ましい実施形態において、前記第一の抗原はCHVであり、前記第二の抗原はCRVであり、前記第三の抗原は、MVC及びCPV−2からなる群から選択されるCPVである。
【0035】
様々な実施形態において、前記第一の抗原、前記第二の抗原及び前記第三の抗原は、生、弱毒生、不活化、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0036】
雌イヌから少なくとも一匹の仔イヌに十分な母親由来抗体が確実に伝達されるようにするために、出産後、24時間以内及び48時間以内から選択される時間内に、少なくとも一匹の仔イヌを授乳させる。
【0037】
授乳後、ある実施形態において、少なくとも一匹の仔イヌにおける、出産から一週後のCHVの力価は、約1:32を超える。別の実施形態において、出産から一週後のCRVの力価は、約1:128を超える。別の実施形態において、出産から一週後のMVCの力価は、約1:32を超える。別の実施形態において、出産から二週後のCHVの力価は約1:32を超え、出産から二週後のCRVの力価は約1:128を超え、出産から二週後のMVCの力価は約1:32を超える。
【0038】
本発明の実施形態は、さらに、方法を想定する。本発明の方法の例には、CHV抗原、CRV抗原及び/又はCPV抗原を含むワクチンを、出産前に雌イヌに投与する段階と、出産から約48時間以内に仔イヌのうち少なくとも1匹に授乳させる段階とを含む、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)、並びにイヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)のうち少なくとも1つに対して仔イヌにワクチンを接種する方法が含まれるが、これに限定されるものではない。さらなる実施形態は、約24時間以内に少なくとも一匹の仔イヌに授乳させることを可能とする。好ましい実施形態では、授乳後に、少なくとも一匹の仔イヌがCHV、CRV及びCPVに対してワクチンを接種される。
【0039】
本発明の方法のさらなる実施形態には、CHVの抗原、CRVの抗原及びCPVの抗原を含むワクチンを、出産前に雌イヌにワクチン接種する段階と、出産から約48時間以内に少なくとも一匹の仔イヌに前記雌イヌの初乳を投与する段階とを含み、CHV、CRV及びCPVによって引き起こされる疾病から前記仔イヌを保護するのに十分高い力価で母体由来抗体が伝達される、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)、並びにイヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)に対して保護するために仔イヌにワクチンを接種する方法が含まれる。さらなる実施形態は、出産後約24時間以内に、仔イヌに初乳を投与することを含む。しかしながら、本発明の他の様々な方法は、本明細書に提示されている教示を組み合わせ、例示の方法は限定を意図するものではない。
【0040】
その具体的な実施形態との関連で本発明を説明してきたが、さらなる修飾が可能であること、並びに、添付の特許請求の範囲は、全体として本発明の原理に則し、本発明が属する分野の公知の習慣又は慣例の範囲に属し、且つ、現存するものであると、将来出現するものであるとを問わず、本明細書に前述された本質的特徴に該当し得る本開示からの逸脱を含む、本発明のあらゆる変更、使用又は改変をも包含するものであることが明らかであろう。さらに、本発明の実施形態は、具体的な規模特性及び/又は測定値とともに記載されているが、本発明の原理から逸脱することなく、これらの実施形態が異なる規模特性及び/又は測定値を使用し得ることが可能であり、添付の特許請求の範囲はこのような差異を包含するものであることが明らかであろう。さらに、本明細書に掲載されている全ての特許、特許出願、論文及びその他の刊行物は、参照により、本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0041】
本発明の様々な実施形態をさらに理解するために、以下の実施例を参照すべきである。
【0042】
(実施例)
I. 目的
妊娠したイヌに対する本研究の目的は、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)及びイヌ微小ウイルス(MVC)を含有する不活化イヌワクチンを接種された雌イヌから仔イヌに、母親由来抗体が伝達されることを実証することであった。血清学的結果に基づけば、この予備研究によって、本実験用不活化ワクチン製剤が開発に使用可能なワクチンの候補であることが確証された。
【0043】
II.材料と方法
A.動物
CHV、CRV及びMVCに対して血清陰性であることが示された4匹の雌の繁殖犬を、民間ブリーダーから購入した。民間ブリーダーの現場で、4匹の雌イヌを2つのグループのうちの1つに割り振った(表1)。交配後、各雌イヌを別々の隔離部屋で飼育した。交配から3週後に、超音波によって妊娠を確かめた。血清陰性状態であることを確認するために、ワクチン接種の前に、それぞれの雌の成犬から血液試料を取得した。一定ウイルス−不定血清ウイルス中和(VN)試験(constant virus−varying serum virus neutralization test)を使用して、MVC(CPV1)、CRV及びCHVに対する抗体について、血清を検査した。グループIに割り振られた2匹の雌イヌには、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)及びイヌ微小ウイルス(MVC)を含有する実験用不活化イヌワクチンを接種した。グループIIに割り振られた雌イヌは、そのまま非ワクチン接種対照とした。出産後、雌イヌ及び仔イヌには、標準的な成長用又は維持用のイヌの餌を与え、水を自由に飲ませた。研究期間を通じて、研究とは無関係の健康問題に対する獣医師の注意と処置を全ての動物に施した。
【0044】
B.ワクチン接種
グループIの妊娠した各雌イヌの首筋に、皮下(SC)経路を通じて、実験用不活化ワクチンの1mL用量を2回与えた。2回のワクチン接種は、3週の間隔を置いて投与された。最初のワクチン接種は、妊娠を確かめた後に(交配から約3週後)行った。
【0045】
II.B.ワクチン接種
【0046】
【表1】

【0047】
C.ワクチン
実験用ワクチンは、デラウェア州、ミルスボロのIntervet R&D施設で調製された。20mMのBEAで24時間不活化された組織培養由来ウイルスを用いて、ワクチンを調製した。このワクチンを作製するために使用したMVC、CRV及びCHV成分は、最大継代レベルで生産された。製造用原株MVCの最大産生レベルは、WRCC細胞上でX+3(X+17)である。製造用原株CRVの最大産生レベルは、MARC145上でX+5(X+4)である。製造用原株CHVの最大産生レベルは、MDCK細胞上でx+5(X+14)である。最終のワクチンは、濃縮されていない原体抗原(bulkantigen)から得られたものであり、10%以上のCPV、20%以上のCRV及び55%以上のCHVを含有していた。CHV、MVC及びCRVに対する母親由来抗体反応を最大化するために、Emulsigen(R)(MVP Laboratories Inc.の製品)を15%含有するように、実験用ワクチンを調合した。本ワクチンの無菌性及び安全性検査は、Quality Controlで実施した。
【0048】
D.血清学
本分野で一般的な方法によって、ワクチン接種前、ワクチン接種時及び最初のワクチン接種から3週後に、雌イヌの抗体力価を測定した。出産後1週及び2週の時点でも、雌イヌ及び仔イヌから血液試料を採取した。各採血日には、それぞれ雌イヌ及び仔イヌから、5mLの血液及び0.5mLの血液を採取した。仔イヌから得られる血清の容量は限られていたため、同じ採血日に採取した幾つかの血清試料をプールした(対照仔イヌ)。抗体反応が惹起されたかどうかを明らかにし、反応の開始を特定するために、全ての血液試料に対して標準的な血清中和試験を行った。
【0049】
III.ワクチン接種後の観察
最初のワクチン接種及び二度目のワクチン接種から14日間、全ての雌イヌを毎日調べた。観察期間中、ワクチンに起因する有害反応は全く観察されなかった。さらに、出産後7日間の観察期間中、ワクチンに起因する好ましくない反応は仔イヌにも観察されなかった。ワクチン接種された雌イヌとその仔イヌにワクチン接種後の臨床的な観察が存在しなかったことは、本実験用ワクチンが安全であることを示唆する。
【0050】
IV.結果
本実験は、CHV、CRV及びMVCを含有する実験用三価ワクチンを接種された雌イヌから仔イヌへの母体由来抗体の伝達を実証した。表2及び3に示されているように、ワクチン接種された雌イヌ(雌イヌ#1及び雌イヌ#2)は、2回のワクチン接種のそれぞれに対して、血清学的に応答した。さらに、本研究は、仔イヌへの母体由来抗体が、CRV、CHV及びMVCに対する保護を与え得るレベルで伝達されることを示している。逆に、ワクチン接種されていない2匹の雌イヌ(雌イヌ#3及び雌イヌ#4)とそれらの仔イヌは、研究期間を通じて、CRV、MVC及びCHVに対して抗体陰性であった(表4)。ワクチン接種されていないイヌから得られた血清に伴う非特異的CRV中和のため、1:128以下のCRVは陰性と考えた。これらの結果は、本発明の多価ワクチンを接種された雌イヌから授乳後にそれらの仔イヌに伝達された母親由来抗体のレベルは、このワクチンの使用可能性を確定するのに十分であることを示している。
【0051】
妊娠したイヌに対する本予備的ワクチン接種研究の結果は、イヌロタウイルス、イヌヘルペスウイルス及びイヌ微小ウイルスを含有する実験用不活化イヌワクチンを接種された雌イヌから仔イヌに、母親由来抗体が伝達されることを実証した。血清学的結果に基づいて、本研究は、十分な力価を有する母親由来抗体が初乳を通じて仔イヌに伝達される多価ワクチンを、出産前に雌イヌに投与し得ることを確証する。
【0052】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の抗原、第二の抗原及び第三の抗原を含み、各抗原に対する母体由来抗体の有効量が雌イヌの少なくとも一匹の仔イヌに授乳時に伝達される、出産前に雌イヌに投与することができる多価ワクチン。
【請求項2】
前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つがイヌヘルペスウイルス(CHV)である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つがイヌロタウイルス(CRV)である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
前記第一の抗原、前記第二の抗原又は前記第三の抗原のうち少なくとも1つが、イヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
前記第一の抗原がCHVであり、前記第二の抗原がCRVであり、前記第三の抗原がMVC及びCPV−2からなる群から選択されるCPVである、請求項1に記載のワクチン。
【請求項6】
前記第一の抗原、前記第二の抗原及び前記第三の抗原が、生、弱毒生、不活化及び前記されたものの任意の組み合わせから選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項7】
出産から24時間及び48時間から選択される時間内に前記授乳が行われる、請求項1に記載のワクチン。
【請求項8】
出産から一週後のCHVの力価が約1:32を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項9】
出産から一週後のCRVの力価が約1:128を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項10】
出産から一週後のMVCの力価が約1:32を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項11】
出産から二週後のCHVの力価が約1:32を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項12】
出産から二週後のCRVの力価が約1:128を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項13】
出産から二週後のMVCの力価が約1:32を超える、請求項2に記載のワクチン。
【請求項14】
CHV抗原、CRV抗原及び/又はCPV抗原を含むワクチンを、出産前に雌イヌに投与する段階と、出産から約48時間以内に仔イヌのうち少なくとも一匹を授乳させる段階とを含み、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)並びにイヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)のうち少なくとも一つに対して仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項15】
前記仔イヌのうち少なくとも一匹が約24時間以内に授乳される、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項16】
前記少なくとも一匹の仔イヌがCHV、CRV及びCPVに対してワクチン接種される、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項17】
出産から一週後のCHVの力価が約1:32を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項18】
出産から一週後のCRVの力価が約1:128を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項19】
出産から一週後のMVCの力価が約1:32を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項20】
出産から二週後のCHVの力価が約1:32を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項21】
出産から二週後のCRVの力価が約1:128を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項22】
出産から二週後のMVCの力価が約1:32を超える、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項23】
前記ワクチンが、生、弱毒生、不活化及び/又はこれらの任意の組み合わせの群から選択されるCHV抗原、CRV抗原及びCPV抗原を含む、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項24】
前記CPV抗原がMCVである、請求項14に記載の仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項25】
CHVの抗原、CRVの抗原及びCPVの抗原を含むワクチンを、出産前に雌イヌにワクチン接種する段階と、出産から約48時間以内に少なくとも一匹の仔イヌに雌イヌの初乳を投与する段階とを含み、CHV、CRV及びCPVによって引き起こされる疾病から前記仔イヌを保護するのに十分高い力価で母体由来抗体が伝達される、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌロタウイルス(CRV)、並びにイヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されるイヌパルボウイルス(CPV)に対して保護するために仔イヌにワクチンを接種する方法。
【請求項26】
出産から約24時間後以内に前記初乳が前記仔イヌに投与される、請求項25に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の抗原、第二の抗原及び第三の抗原を含み、各抗原に対する母体由来抗体の有効量が雌イヌの少なくとも一匹の仔イヌに授乳時に伝達される、前記第一の抗原がイヌヘルペスウイルス(CHV)であり、前記第二の抗原がイヌロタウイルス(CRV)であり、前記第三の抗原がイヌパルボウイルス(CPV)であり、前記第三の抗原がイヌ微小ウイルス(MVC、CPV−1)及びイヌパルボウイルス(CPV−2)からなる群から選択されることを特徴とする、出産前に雌イヌに投与することができる多価ワクチン。
【請求項2】
前記第一の抗原、前記第二の抗原及び前記第三の抗原が、生、弱毒生、不活化及び前記されたものの任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の多価ワクチン。
【請求項3】
3つの抗原が全て不活化されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多価ワクチン。

【公表番号】特表2006−512368(P2006−512368A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562357(P2004−562357)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/040823
【国際公開番号】WO2004/056390
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(394010986)アクゾ・ノベル・エヌ・ベー (31)
【Fターム(参考)】