説明

乳汁中における抗体の形質転換的な産生

【課題】哺乳動物の乳汁中に単クローン抗体を産生する方法を提供すること。
【解決手段】形質転換哺乳動物の乳汁から異種免疫グロブリンを得る方法であって、
a)該免疫グロブリンのタンパク質−コード化配列を有するDNAであって、その5'末端が乳腺上皮細胞における遺伝子の優先的な発現を支持するプロモーター配列と結合されており、その3'末端がポリアデニル化部位を含む配列と結合されているDNAを、該哺乳動物の生殖細胞へ導入する工程、および
b)該哺乳動物から乳汁を得る工程
を含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、乳房上皮細胞において異種の抗体を選択的に発現する形質転換動物の製作による、哺乳動物の乳汁中における単クローン抗体の産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは、通常循環Bリンパ球により合成され、変性され、組み立てられ、分泌されるヘテロ重合性タンパク質(heteropolymeric proteins)である。DNAの組換え技術を用いて、B−リンパ球以外の細胞を免疫グロブリン遺伝子を発現するようにプログラムすることが可能である。この試みの中では、幾つかの以下の因子に由来する困難なことがあった:1)重鎖および軽鎖両方の免疫グロブリンは適切なレベルで同時に発現(co-expressed)しなければならない;2)発生期の免疫グロブリンポリペプチドは翻訳と同時およびその後に様々な変性を受け、かかる変性は異種細胞中において十分な適合度または効率で起こらないかもしれない;3)免疫グロブリンは組み立てのためのアクセサリー・シャペロン・タンパク質(accessory chaperone proteins)を必要とする;4)大量の異種タンパク質を分泌するには、細胞の合成および分泌能力は不十分であるかもしれない;および5)分泌した免疫グロブリンは異種細胞の細胞外環境下において不安定であるかもしれない。
【0003】
免疫グロブリンには数多くの治療用途、診断用途および産業的な用途があるため、これらのタンパク質を、高レベルで、機能的な配置で、容易に採取でき精製できる形態で再現可能に製造できる発現系の必要性が当該分野には存在する。形質転換動物技術(transgenic animal technology)の発達により、大型動物を遺伝的にプログラムされたタンパク質工場として用いる可能性が増大している。特許文献1(公開4/19/90)では、免疫グロブリン発現のための形質転換技術の使用が開示されている。特許文献2(3/19/92)および特許文献3(6/24/93)では、形質転換動物の生殖細胞へ未転位の免疫グロブリン遺伝子を導入することが開示されている。無傷の免疫グロブリン遺伝子(それぞれのプロモーター領域を含む)の使用は、リンパ球におけるそれらの発現や宿主動物の血流への分泌を引き起こすだろう;これでは、宿主の内生免疫グロブリンの発現を抑えることが必要になり、タンパク質の加水分解酵素を含む他の多くのタンパク質を含む血清から免疫グロブリンを精製する問題が起こる。さらに、形質転換的なアプローチを選択する場合、重鎖および軽鎖遺伝子はいずれも、それらの伴行性の発現(comcomittant expression)が可能な方法で、宿主ゲノムへ編入されなければならい。
【0004】
形質転換動物を製作するときの別の方法では、興味のある遺伝子を、宿主内の規定の細胞タイプ内のみで機能する異種転写プロモーターに結合させる。この方法においては、組換え遺伝子の組織−特異的発現がプログラムされ得る。特許文献4(1989年10月10日公開)では、形質転換マウスの乳汁中における組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)の製造が開示されており、そこでTPA遺伝子は乳汁タンパク質カゼインのプロモーターに結合する。同様の方法で発現する他のタンパク質には、嚢胞性線維症膜間コンダクタンスレギュレーター(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)(非特許文献1)、ウロキナーゼ(urokinase)(非特許文献2)、インターロイキン−2(非特許文献3)、および抗血友病性因子IX(非特許文献4)が含まれる。特に、これらのタンパク質は全て、分泌前にマルチメリゼイション(multimerization)または組み立てを必要としない簡単な一本鎖ポリペプチドである。
【0005】
カゼインプロモーターの制御下で対になった免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を有する形質転換動物を製作すると、かかる動物は乳汁中に分泌される免疫グロブリンを大量に産生することが現在わかっている。本発明のDNA構築物(constructs)を用いると、驚くことに重鎖および軽鎖遺伝子の非常に有効な同時の統合(co-integration)が観察される。本発明の方法および構築を用いると、複合四量体糖タンパク質(complex tetrameric glycoproteins)を産生および集合し、それらを大量に分泌するよう乳房上皮細胞をプログラムすることが初めて可能になる。
【特許文献1】国際公開WO90/04036号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO92/03918号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO93/12227号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4873316号明細書
【非特許文献1】ジツリオ(DiTullio)等、バイオ/テクノロジー10:74、1992
【非特許文献2】メーデ(Meade)等、バイオ/テクノロジー8:443、1990
【非特許文献3】ブーラー(Buhler)等、バイオ/テクノロジー8:140、1990
【非特許文献4】クラーク(Clark)等、バイオ/テクノロジー7:487、1989
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、形質転換哺乳動物の乳汁中において免疫グロブリンを大量に産生するための方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、乳汁中において大量に産生できる合成免疫グロブリンをデザインするための方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、治療学的に有効な抗体を乳汁中に排泄する雌の哺乳動物を製作することにより、かかる抗体を哺乳児に投与するための方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、免疫グロブリン軽鎖および重鎖をコード化するDNAの組換え配列であって、5'末端が哺乳動物特異的プロモーターに結合され、3'末端がポリアデニル化部位を含む配列に結合されている配列を有する生殖細胞および体細胞をもつヒト以外の形質転換哺乳動物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、5'〜3'の順に、
a)ベータカゼイン遺伝子由来の5'プロモーター配列、
b)XhoI制限部位、および
c)ヤギベータカゼイン遺伝子由来の3'未翻訳配列
を含むカゼインプロモーターカセットを提供することを目的とする。
【0011】
本発明の上記目的および他の目的は、本明細書、図面および請求項を見ると当該分野の通常の知識を有する者には明らかだろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの側面によれば、本発明は、形質転換哺乳動物の乳汁から異種免疫グロブリンを得る方法を含む。本発明の別の側面によれば、本発明は、生殖細胞系列に、乳汁−特異的プロモーターに結合した免疫グロブリンcDNAを導入することにより、形質転換哺乳動物を製作する方法を含む。
【0013】
別の側面によれば、本発明は、乳汁−特異的プロモーターに結合した免疫グロブリンcDNAを含むDNAの組換え配列を有する生殖細胞および体細胞をもつ形質転換哺乳動物を含む。
【0014】
さらに別の側面によれば、本発明は、便利なクローニング部位として免疫グロブリンコード化配列に有用な唯一の制限部位によって結合したヤギベータカゼイン遺伝子から誘導される5'および3'非コード化配列を有する発現カセットを含む単離DNAを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書中に引用した全ての特許出願、特許および文献を出典開示して本明細書の一部とみなす。矛盾する場合は本明細書が克服するだろう。
【0016】
本発明は、形質転換動物の乳汁中に排泄される単クローン抗体の産生方法、およびかかる動物の生産方法に関する。これは、特定の対の免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコード化するDNAセグメントを、乳房上皮細胞にて優先的に発現するプロモーター配列の下流にクローン化させるDNAの構築技術により達成される。その後、プロモーター−結合重鎖および軽鎖遺伝子を含む組換えDNAを同時に着床前の受精卵に注入する。両方の組換え遺伝子の存在について、その子孫を調査する。その後、これらの血筋出身の典型的な雌の乳汁を搾り、その乳汁中の単クローン抗体の存在について分析する。その抗体が存在するためには、重鎖および軽鎖遺伝子両方は同じ細胞内で同時に発現しなければならない。抗体を乳汁から精製してもよく、または免疫グロブリンを含む乳汁自体を用いて抗体をレシピエントに運搬してもよい。このことについては以下で述べる。
【0017】
本発明に有用な免疫グロブリン遺伝子は天然源、例えば、個体のB細胞クローンまたはそれらから誘導されるハイブリドーマから得てよい。代わりに、それらは軽および重鎖の可変領域が単一ポリペプチドの部分として発現する合成一本鎖抗体を含んでよい。さらに、アミノ酸配列が変わるか、または変わらないヌクレオチド置換、配列の付加または削除、またはポリペプチドの異なる領域が異なる源から誘導されるハイブリッド遺伝子の産生により、予期したように変化させた組換え抗体遺伝子を用いてよい。抗体遺伝子は本来かなり多様であり、従って自然に多くの変異に耐性がある。当該分野の当業者は、本発明の方法により抗体を産生するにあたっての制限としては、機能的な配置に組み立てられ、安定な形態で乳汁に分泌されなければならないということだけであることが理解できるであろう。
【0018】
本発明の実施に有用な転写プロモーターは乳房上皮細胞中で優先的に活性化する転写プロモーターであり、乳汁タンパク質、例えば、カゼイン、ベータラクトグロブリン(クラーク(Clark)等、(1989)バイオ/テクノロジー7:487−492)、乳清酸タンパク質(ゴードン(Gordon)等、(1987)バイオ/テクノロジー5:1183−1187)、およびラクトアルブミン(ショウラー(Soulier)等、(1992)エフ・イー・ビー・エス・レッツ(FEBS Letts.)297:13)をコード化する遺伝子を制御するプロモーターが挙げられる。カゼインプロモーターは、いかなる哺乳動物種のアルファ、ベータ、またはカッパーカゼイン遺伝子由来であってよい;ヤギベータカゼイン遺伝子由来のプロモーターが好ましい(ジツリオ(DiTullio)、(1992)バイオ/テクノロジー10:74−77)。
【0019】
本発明の使用にあたっては、唯一のXhoI制限部位をプロモーター配列の3'末端に導入し、免疫グロブリンコード化配列を従来のように挿入する。好ましくは、挿入された免疫グロブリン遺伝子には、乳房−特異的遺伝子由来の同血族のゲノムの配列(cognate genomic sequences)が、その3'側に配置されており、これによってポリアデニル化部位および転写−安定化配列が提供される。イン・ビボにおける構築物の転写の結果、免疫グロブリン遺伝子の翻訳開始コドンの上流にカゼイン−由来5'未翻訳配列、および免疫グロブリン遺伝子の翻訳停止コドンの下流に3'未翻訳配列を含む安定なmRNAが産生する。最終的には、全体のカセット(すなわち、プロモーター−免疫グロブリン−3'領域)には、プロモーター−cDNAカセットを単一断片として容易に切断できる制限部位が配置される。これにより、受精卵への注入前の、望ましくない原核ベクター−由来DNA配列の除去が促進される。
【0020】
その後、プロモーター−結合免疫グロブリン重鎖および軽鎖DNAを、哺乳動物、例えば、メウシ、ヒツジ、ヤギ、マウス、オウシ、ラクダ、またはブタの生殖細胞系列に導入する。ここでは、哺乳動物とは、乳腺を有し、乳汁を生産する、ヒト以外の全ての動物を意味するものとする。長期間にわたって大量に乳汁を生産する哺乳動物種が好ましい。典型的には、DNAを受精卵の前核(pronuclei)に注入し、これをその後、レシピエントとしての雌の子宮に着床し、妊娠させる。出産後、推定上の形質転換動物を、導入したDNAの存在についてテストする。これは、血液細胞または他の入手可能な組織から抽出したDNAのサザーン・ブロット・ハイブリダイゼーションにより容易に行われ、ここでは調査に、レシピエント種のDNAとクロス・ハイブリダイゼーションを全く示さない注入遺伝子のセグメントを用いる。重鎖および軽鎖両方の免疫グロブリン遺伝子の少なくとも1つの複製を明らかに示す子孫を、さらなる分析用に選択する。
【0021】
当該分野の標準的ないずれかの免疫学的技術(例えば、ウエスタン・ブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA)を用いて、形質転換雌を乳汁への免疫グロブリン分泌についてテストすればよい。この分析に用いられる抗−免疫グロブリン抗体は、単離した重鎖、軽鎖、または完全に組み立てられた(H2L2)免疫グロブリンとだけ反応する他のものを検出する多クローンまたは単クローン抗体であってよい。
【0022】
組換え免疫グロブリンは、それらの機能、すなわち結合特異性および特定の抗原との親和力等に関しても特徴付けられる。これは、当該分野の標準的な免疫学的方法、例えば、スカッチャード分析(Scatchard analysis)を用いて、固定化抗原等に結合させて行われる。ある種の乳汁中での免疫グロブリンの安定特性は、動物から回収した後、増加する時間培養した乳汁へ上述の検出方法を適用することによりアッセイされる。
【0023】
本発明の方法により産生した免疫グロブリンは、固定化タンパク質Gへの吸収、カラムクロマトグラフィー、および抗体精製の分野における通常の知識を有するものに既知の方法を用いて、乳汁から精製すればよい。
【0024】
個体の形質転換哺乳動物での組換え免疫グロブリンの産生レベルは、主に受精卵への注入後の組換え遺伝子の統合(integration)の部位および方法により決定される。従って、異なった注入卵由来の形質転換子孫は、このパラメーターに関して変化し得る。それゆえに、乳汁中の組換え免疫グロブリンの量は典型的な子孫で測定され、最も産生量の多い雌が好ましい。
【0025】
当該分野の当業者は、本発明の方法を用いて、天然および合成免疫グロブリンの産生を最適化できることを理解するだろう。形質転換動物を製作する段階、重鎖および軽鎖遺伝子両方の存在をテストする段階、雌の子孫の乳汁中への免疫グロブリンの分泌をアッセイする段階、および最後にその結果得られた抗体の特性を調査する段階を、不適当な実験をすることなく、その後繰り返して、様々な用途に適した好ましい構築物を確立することができる。
【0026】
本発明によれば、組換え免疫グロブリンの性質およびそれらの特定の使用モードは変化させ得る。ある具体例では、本発明には、乳汁から採取され精製され、精製形態で用いられる抗体の高レベルの発現が含まれる。ここで、高レベルの発現とは、約1mg/mlのタンパク質が産生することを意味するものとする。他の具体例では、感染病に対するヒトへの保護を提供する抗体が設計される;そのとき、治療学的投与は乳汁を飲ませることにより為される。さらなる具体例では、授乳動物がそれらの子孫に特に有益な抗体を産生するよう設計され、かかる動物は乳汁を飲むことによって抗体を得る。さらなる具体例では、動物は、乳房の病原体、例えば、乳腺炎を引き起こすバクテリアに対して授乳性哺乳動物自身を保護する抗体を産生する。
【0027】
本発明の方法および構築物を用いた免疫グロブリンの驚くほど多量の発現により、製薬学的および化学的調整法(pharmaceutical and chemical settings)におけるかかる免疫グロブリンの使用も可能になる。以下の例に制限されないが、本発明の方法を用いて、様々な病原体(例えば、E.コリ、サルモネラ、B型肝炎ウイルス)、生物学的に活性なタンパク質(例えば、エリトロポイエティン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ガンマーインターフェロン)および化学反応において用いられる様々な酵素に対する高レベルの四量体抗体を生産することができる。化学反応における遷移状態の分子に結合する単クローン抗体は、工業規模の製造に用いることができる。さらに、単クローン抗体はしばしば、生物製薬学的(biopharmaceuticals)な精製に使用するカラムに固定化される;この場合、抗体の産生において精製コストは有意に低い。本発明の方法により、抗体の低コストでの多量な産生が促進され、上述の用途での使用のために貯蔵される。
【0028】
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は本発明の範囲を制限されるものではない。
【実施例1】
【0029】
乳汁−特異的プロモーターカセットの構築
本発明には、多くの様々な免疫グロブリン遺伝子が交換可能に挿入できるレシピエントベクター(recipient vector)が含まれる。ベクターはXhoIクローニング部位に配置される5'乳汁−特異的プロモーター配列および3'未翻訳ゲノム配列を含む。このクローニング部位は特有であり、それは、ベクターにたった1つしか存在しないためである。好ましくは、全体の発現カセットには、プロモーター−結合免疫グロブリン遺伝子の切断を容易にする制限部位が配置されるべきである。
【0030】
この実施例では、プロモーターおよび3'ゲノム配列は、ヤギベータカゼイン遺伝子から誘導された。この遺伝子をクローン化し、ロバーツ(Roberts)等、1992、ジーン(Gene)121:255−262で記載されているように特徴付けた。ここで、この文献を出典開示して本発明の一部とみなす。
【0031】
免疫グロブリン遺伝子の挿入前、発現カセットはベータカゼインコード化配列の6.2kb上部翻訳開始部およびベータカゼイン遺伝子の7.1kbゲノム配列下部翻訳終了部を含む。翻訳開始コドンのすぐ上流のTaqI部位はXhoI部位に変換された。この唯一のXhoIクローニング部位は上部配列と下部配列との連結部である。組換え免疫グロブリン遺伝子が挿入されるのは、配列:
【化1】

(配列番号1)
に含まれる上記XhoI部位である(ディー・ツリオ(D. Tullio)、(1992)バイオ/テクノロジー10:74−77)。
【0032】
3'ベータカゼイン領域は、エクソン(Exon)7に見られるPpuMI部位で始まり、7.1kb下部に続く。この配列において含まれるのは、エクソン7の残留18bp、およびエクソン8およびエクソン9の全てである。これらは、ヤギベータカゼイン遺伝子の3'未翻訳領域をコード化し、および末端が配列:
【化2】

(配列番号2)
である。
【0033】
カゼインカセットへ配置する制限部位を設計するために、最初にヤギベータカゼイン制御配列を、NotIおよびSaII部位が配置しているスーパーコスル(SuperCosl)ベクター(#251301、ストラタジーン(Stratagene)、ラ・ジョルA(La JollA)、CA)にクローン化した。その後、NotI部位をSaII部位に変換することにより、このプラスミドを変性させた。これにより、gbc163ベクター内にベータカゼイン発現カセットを含む13.3kbSalI断片が産生した。
【実施例2】
【0034】
プロモーター−結合単クローン抗体遺伝子の構築
この実施例では、結腸癌細胞−表面マーカー(makerer)に対するヒト単クローン抗体をコード化する遺伝子をカゼインプロモーターに結合した。この抗体の重鎖および軽鎖をコード化するcDNAを、抗体−分泌性ハイブリドーマセルラインからpUC19−誘導ベクターへクローン化した。軽鎖および重鎖cDNAはそれぞれ、702bpおよび1416bpのHindIII/EcoRI断片上に存在した。
【0035】
カゼインプロモーターカセットへの挿入に遺伝子を適合させるために、XhoI制限部位を、後述するようにして、それぞれのDNAセグメントの両端に設計した。同じ段階で、免疫グロブリン翻訳開始コドンの上部領域を変性させて、ベータカゼイン遺伝子の類似領域における配列と同様の配列を含むようにした。
【0036】
軽鎖遺伝子:軽鎖cDNA挿入を含むpUC19プラスミドをHindIIIで消化し、DNAポリメラーゼIのクレナウ(Klenow)断片での処理により末端をブラントエンドとし、XhoI認識配列を含むオリゴヌクレオチド(#1030、ニュー・イングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)、ベバリー(Beverly)、MA)へ連結させた。
【0037】
開始ATGのすぐ上部の領域を、配列:
【化3】

(配列番号3)
を有するオリゴヌクレオチドを用いて変異させた。XhoIによる最終プラスミドの消化により、Xhol結合性末端が配置された変性軽鎖cDNAが産生した。
【0038】
その後、軽鎖cDNAを、実施例1で記載のgbc163発現ベクターの唯一のXhoIクローニング部位へ挿入し、プラスミドBc62(図1)を得た。
【0039】
重鎖遺伝子:重鎖cDNAを含むpUC19プラスミドを、配列:
【化4】

(配列番号4)
を有するオリゴヌクレオチドを用いて変異させた。その結果得られたプラスミドは、重鎖翻訳開始コドンの上部でXhoI部位を含む。
【0040】
下流のHindIII部位を、配列:
【化5】

(配列番号5)
を有する合成アダプターを用いてXhol部位に変換した。XhoIを有する変性プラスミドの消化により、XhoI結合性末端にはさまれた1.4kb変性重鎖cDNAが産生した。その後、この断片を、gbc163の唯一のXhoIクローニング部位へ挿入し、Bc61(図2)を得た。
【0041】
注入前、プロモーター−結合軽鎖および重鎖遺伝子を、それぞれBc61およびBc62からSalIでの消化により単離した。その後、断片をゲル電気泳動により精製し、さらにCsCl平衡勾配遠心分離により精製した。定量前、DNAを蒸留水に対して広範囲にわたって透析した。
【実施例3】
【0042】
形質転換マウスの生産
実施例2記載の方法で得られた、免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコード化するカゼインプロモーター−結合DNA断片を、ホーガン・ビー(Hogan B.)、コンスタンチニ・エフ(Constantini F.)、およびラセイ・イー(Lacey E.)、マニプレイティング・ザ・マウス・エンブリオ(Manipulating the Mouse Embryo):エイ・ラボラトリー・マニュアル(A Laboratory Manual)、(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリーズ(Cold Spring Harbor Laboratories)、1986)で記載されているような、当該分野で標準的な方法を用いてマウスの受精卵に注入した。その後、その結果得られた子孫を、両方の抗体遺伝子配列の存在について分析した。DNAをテイル生検材料から抽出し、サザーン・ブロット分析を用いて調査した。調査では、ハイブリダイゼーションにおいて、重鎖および軽鎖をコード化するオリジナルのcDNAを用いた。表1で示されるように、ほとんどの第一世代形質転換子孫は両方の組換え遺伝子を有していた。
【0043】
【表1】

【実施例4】
【0044】
乳汁中の組換え免疫グロブリンの分析
実施例3記載の方法で得られた形質転換マウス由来の乳汁サンプルを、ウエスタン・ブロットにより異種免疫グロブリンの存在について分析した。抗体の重鎖を、図3で示されるようにヒトガンマ重鎖に対するホースラディッシュ・ペルオキシド−結合多クローン抗体(抗体#62−8420、ジームト(Zymed)、サウスサンフランシスコ、CA)を用いて検出した。軽鎖を、図4で示されるようにヒトラムダ軽鎖への抗体(抗体#05−4120、ジームト(Zymed)、南サンフランシスコ、CA)を用いて検出した。これらの図より、免疫反応性重鎖および軽鎖は、数種の動物の乳汁中で検出できるが、ネガティブな対照動物CD−1では検出できないことが理解できる。ヒト免疫グロブリンは、ファウンダー1−23、ならびに1−76および1−72ファウンダーの子孫由来の乳汁中で検出できる。これらの動物は第二世代の雌、2−76、2−82、2−92、および2−95である。発現レベルは0.2mg/mlから1mg/mlを越える範囲である(表1)。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、免疫グロブリン軽鎖をコード化するcDNAを含む13.9kb Sal I断片を含み、その5'および3'末端上にヤギベータカゼイン配列が配置されているBc62プラスミドの概略図を示す。
【図2】図2は、免疫グロブリン重鎖をコード化するcDNAを含む14.6kb Sal I断片を含み、その5'および3'末端上にヤギベータカゼイン配列が配置されているBc61プラスミドの概略図を示す。
【図3】図3は、図1および図2で示されたベータカゼインプロモーター−結合免疫グロブリン遺伝子を用いて製作された形質転換マウスの乳汁中におけるヒトの免疫グロブリン重鎖のイムノブロット検出を表す。
【図4】図4は、図1および図2で示されたベータカゼインプロモーター−結合免疫グロブリン遺伝子を用いて製作された形質転換マウスの乳汁中におけるヒトの免疫グロブリン軽鎖のイムノブロット検出を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形質転換哺乳動物の乳汁から異種免疫グロブリンを得る方法であって、
a)該免疫グロブリンのタンパク質−コード化配列を有するDNAであって、その5'末端が乳腺上皮細胞における遺伝子の優先的な発現を支持するプロモーター配列と結合されており、その3'末端がポリアデニル化部位を含む配列と結合されているDNAを、該哺乳動物の生殖細胞へ導入する工程、および
b)該哺乳動物から乳汁を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
哺乳動物がマウス、メウシ、ヒツジ、ヤギ、オウシ、ラクダおよびブタからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロモーターがカゼインプロモーター、ベータラクトグロブリンプロモーター、乳清酸タンパク質プロモーター、およびラクトアルブミンプロモーターからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
免疫グロブリンが重鎖および軽鎖を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
免疫グロブリンが一本鎖ポリペプチドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
免疫グロブリンがヒト由来である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
免疫グロブリンが哺乳動物の乳汁から精製される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
全ての生殖細胞および体細胞が、免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコード化する組換えDNA配列であって、5'末端が乳腺上皮細胞における遺伝子の優先的な発現を支持するプロモーター配列と結合されており、3'末端がポリアデニル化部位を含む配列と結合されている配列を含んでいるヒト以外の形質転換哺乳動物。
【請求項9】
哺乳動物がマウス、メウシ、ヒツジ、ヤギ、オウシ、ラクダおよびブタからなる群から選択される、請求項8記載の形質転換哺乳動物。
【請求項10】
プロモーターがカゼインプロモーター、ベータラクトグロブリンプロモーター、乳清酸タンパク質プロモーター、およびラクトアルブミンプロモーターからなる群から選択される、請求項8記載の形質転換哺乳動物。
【請求項11】
免疫グロブリンが重鎖および軽鎖を含む、請求項8記載の形質転換哺乳動物。
【請求項12】
免疫グロブリンが一本鎖ポリペプチドを含む、請求項8記載の形質転換哺乳動物。
【請求項13】
免疫グロブリンがヒト由来である、請求項8記載の形質転換哺乳動物。
【請求項14】
5'〜3'の順に
a)ベータカゼイン遺伝子由来の5'プロモーター配列
b)唯一のXhoI制限部位、および
c)ヤギベータカゼイン遺伝子由来の3'未翻訳配列
を含む、単離した精製DNAであって、a)はヤギベータカゼインのヌクレオチド−6168〜−1を含み、ヌクレオチド1はベータカゼイン翻訳開始コドンの最初のヌクレオチドであり、b)は配列
【化1】

(配列番号1)
を含み、c)は、ベータカゼインcDNA配列のbp648にあるPpuMIで始まり、7.1kb下部で継続し、配列
【化2】

(配列番号2)
で終わる配列を含むDNA。
【請求項15】
免疫グロブリンcDNAがb)に挿入されており、該DNAが形質転換動物において免疫グロブリンの乳腺特異的発現を支配する、請求項14記載のDNA。
【請求項16】
免疫グロブリンが重鎖および軽鎖を含む、請求項15記載のDNA。
【請求項17】
免疫グロブリンが一本鎖ポリペプチドを含む、請求項15記載のDNA。
【請求項18】
免疫グロブリンがヒト由来である、請求項15記載のDNA。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−6900(P2007−6900A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273219(P2006−273219)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【分割の表示】特願平7−517602の分割
【原出願日】平成6年12月20日(1994.12.20)
【出願人】(504267622)ジーティーシー バイオセラピューティックス インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】GTC BIOTHERAPEUTICS, INC.
【Fターム(参考)】