説明

乳熱の予防剤、乳熱の予防用飼料及び乳熱の予防方法

【課題】分娩牛に容易に投与することが可能であり、しかも投与後比較的短時間の内に、血中のカルシウム濃度が上昇して、乳熱を効果的に予防できる手段を提供すること。
【解決手段】サンゴ、特に、天然化石サンゴ由来のサンゴを有効成分とする乳熱の予防剤。サンゴ、特に、天然化石サンゴ由来のサンゴを含有する乳熱の予防のために用いる飼料。分娩牛に、分娩前、及び/または分娩後6時間以内に上記予防剤または飼料を供給することを含む乳熱の予防方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳熱の予防剤、乳熱の予防用飼料及び乳熱の予防方法に関する。特に、本発明は、サンゴを用いた乳熱の予防剤、乳熱の予防用飼料及び乳熱の予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳熱は、産後の乳牛に突発し、体温の低下と神経症状及び運動麻痺を主徴とする疾病である。低カルシウム血症が主原因であるが、上皮小体機能の低下も関係する。初産牛には発生が少なく、5〜6産の高泌乳の牛に多い。本症の発生機構には多くの学説があるが、一般には、貯蔵カルシウムの動員障害と妊娠後期の負のカルシウム平衡の進展による貯蔵カルシウムの欠乏によって生じる低カルシウム血症と考えられている。これに対する治療には、ボログルコン酸カルシウム剤の静脈内注射が行われている(獣医学大辞典、チクサン出版社、2000年9月発行、1144頁、非特許文献1)。
【非特許文献1】獣医学大辞典、チクサン出版社、2000年9月発行、1144頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ボログルコン酸カルシウム剤の多用以外に、乳熱の治療あるいは予防には、リン酸カルシウムを分娩直後に内服させる方法やグルクロン酸カルシウムを熱水に溶解して分娩牛に与える方法などが知られている。しかし、リン酸カルシウムをそのまま用いる方法では、投与された牛の血中リン酸濃度は上がるが、カルシウム濃度は上がりにくく、溶解するには多量の水が必要であり、投与しにくいという問題がある。また、グルクロン酸カルシウムを用いる方法は、グルクロン酸カルシウムの溶解に約3リットルの熱水が必要であり、溶解したグルクロン酸カルシウムを牛に投与しにくいという問題がある。
【0004】
そこで本発明の目的は、分娩牛に容易に投与することが可能であり、しかも投与後比較的短時間の内に、血中のカルシウム濃度が上昇して、乳熱を効果的に予防できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
(1)サンゴを有効成分とする乳熱の予防剤。
(2)前記サンゴが、天然化石サンゴ由来である(1)に記載の予防剤。
(3)サンゴを酸性水に分散した状態で含む(1)または(2)に記載の予防剤。
(4)酸性水がクエン酸水溶液である(1)〜(3)のいずれかに記載の予防剤。
(5)サンゴを含有する乳熱の予防のために用いる飼料。
(6)前記サンゴが、天然化石サンゴ由来である(5)に記載の飼料。
(7)酸性水に分散したサンゴを含有する(5)または(6)に記載の飼料。
(8)酸性水がクエン酸水溶液である(5)〜(7)のいずれかに記載の飼料。
(9)分娩牛に、分娩前、及び/または分娩後6時間以内に(1)〜(4)のいずれかに記載の予防剤または(5)〜(8)のいずれかに記載の飼料を供給することを含む乳熱の予防方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分娩牛に容易に投与することが可能であり、しかも投与後比較的短時間の内に、血中のカルシウム濃度が上昇して、乳熱を効果的に予防できる乳熱の予防剤、乳熱の予防のために用いる飼料、及び乳熱の予防方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、サンゴを有効成分とする乳熱の予防剤に関する。サンゴは、天然化石サンゴ由来であることができる。天然化石サンゴ由来のサンゴは、与那国島において産出する化石化したサンゴであり、カルシウムの他約70種類ものミネラルを含むものである。天然化石サンゴ由来のサンゴであるナグラシは、市販品として入手可能である。また、サンゴは、海底に堆積したサンゴの死骸を回収して水洗したものもでもよく、このようなサンゴも市販品として入手可能である。但し、乳熱の予防効果の点では、サンゴとして天然化石サンゴ由来のサンゴを用いることが好ましい。
【0008】
本発明の予防剤においてサンゴは、粉状であることが、牛への投与の容易性及びカルシウムの溶出性を考慮すると好ましい。しかし、粉状以外に、顆粒状やペレット状であってもよい。さらに、粉状のサンゴをカプセル化したものであってもよい。
【0009】
本発明の予防剤において、サンゴからのカルシウムの溶出を促進して乳熱の予防を高める目的で、サンゴは酸性水に分散した状態で含むことが好ましい。この場合、サンゴ50〜100g当たり、例えば、酸性水を500mlの範囲で使用することが好ましい。また、サンゴからのカルシウムの溶出は、酸性水のpHに依存するので、酸性水のpHは2.0〜4.0の範囲であることが好ましい。また、酸性水は、安全性等を考慮するとクエン酸水溶液であることが好ましい。
【0010】
本発明は、サンゴを含有する乳熱の予防のために用いる飼料も包含する。本発明の飼料に含有されるサンゴは、上記予防剤において説明したものと同様である。本発明の飼料は、サンゴ以外に通常の牛の飼料に含まれる成分を適宜含むことができる。本発明の飼料において、サンゴの含有は、0.5〜2%の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明は、さらに、乳熱の予防方法を包含する。本発明の乳熱の予防方法は、分娩牛に、分娩前、及び/または分娩後6時間以内に本発明の予防剤または本発明の飼料を供給することを含む。分娩後6時間以内に予防剤または飼料を供給すれば、効果的に乳熱を予防することができる。この点は後述する実施例においてデータを示して説明する。予防剤または飼料の供給は、好ましくは、分娩後6時間以内である。
【0012】
また、本発明の予防剤または本発明の飼料を供給した後の血中のカルシウム濃度が上昇を考慮すると、分娩前に予防剤または飼料を供給することもできる。分娩前の供給は、分娩1日前の徴候、即ち、体温が1℃以上下降するか、または仙坐靱帯が3cm以上陥凹してから行うことができる。
【0013】
本発明の予防剤または本発明の飼料の供給量は、サンゴの質量に換算して一頭の牛に50〜100gを1回または複数回(例えば、2〜5回)に分けて供給することが好ましい。 牛への供給方法は、例えば、経口投与であることが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
[分娩牛に対する給与試験]
試験A
方法:
帯広畜産大学畜産フィ−ルド科学センタ−において飼養しているホルスタイン種乳牛を用い、分娩後6時間以内にナグラシを0g,100g,200g,500gを水1000mlに溶解して、経口投薬器により強制投与し、12、24、48、72時間後に採血し、血清中Ca濃度を測定した。
【0015】
結果:
図1に示す。対照群(0g)は24時間後までCa濃度は低水準であるが、48時間後には他群と同水準に上昇した。100g投与群では12時間後は対照群と同水準であるが、24時間後には他投与群と同水準に上昇した。200g,500g投与群では12時間後に対照群および100g投与群に比べ有意に上昇した。
【0016】
試験B
方法:
帯広畜産大学畜産フィ−ルド科学センタ−において飼養しているホルスタイン種乳牛を用い、分娩後6時間以内にナグラシ0g(対照牛)、100gを水500mlに溶解、50gをクエン酸によりpH2.2に調整した水500mlに溶解、50gをクエン酸によりpH3.4に調整した水500mlに溶解して1回投薬ビンにて経口投与し、2時間毎に採血して血清中Ca濃度を測定した。
【0017】
結果:
図2に示す。ナグラシ0g(対照牛)のCa濃度は変動せず、100g投与牛では6mg/dLから経時的に徐々に上昇して8時間後に7.7mg/dLとなったが10時間後には7.2mg/dLとなった。pH3.4溶液投与牛は8.3mg/dLから6時間後には9.3mg/dL,10時間後には9.6mg/dLに上昇した。pH2.2溶液投与牛は6.8mg/dLから2時間後には9.3mg/dLに上昇し、その後9mg/dL以上を維持した。
【0018】
分娩直後の搾乳牛にナグラシ100g,200g,500gを水1000mlに溶解し経口投薬器により強制的に投与し、経時的に血中Ca濃度を測定し、対照牛(0g)と比較した。対照群は24時間後までCa濃度は低水準であったが48時間後には他群と同水準に上昇した。100g投与群では12時間後は対照群と同水準であったが、24時間後には他群と同水準に上昇した。200gおよび500g投与群では12時間後に対照群および100g投与群に比べ有意にCa濃度が上昇した。
【0019】
分娩直後の搾乳牛にクエン酸によりpH2.2と3.4に調製した水500mlにナグラシ50gを溶解して投与し、対照牛(0g)および100g投与牛と血中Ca濃度の変化を比較した。対照牛ではCa濃度は変動せず、100g投与牛では徐々に上昇したが、正常濃度には至らなかった。pH3.4溶液投与牛では6時間後には9.3mg/dL,10時間後には9.6mg/dLに上昇した。pH2.2溶液投与牛では2時間後に9.3mg/dLに上昇し、その後9.0mg/dL以上を維持した。
【0020】
乳牛における分娩後の低カルシウム血症(乳熱)予防を目的とした応用法としては、分娩直後に200〜500gの経口投与が有効であろうと考えられる。但し、血中Ca濃度が9mg/dL以上に上昇するのに12時間程度が必要であったことから、分娩10時間程前の投与が好ましい場合もある。
【0021】
参考例
酸性水によるCa溶出試験
方法:
水道水にクエン酸を溶解し、pH2.2,3.4,3.9に調製した500ml溶液にナグラシ50gを入れ撹拌後静置し、上清中のCa,Mg,PO4を測定した。
結果:
表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
pH2.2溶液3時間後のCaは610mg/dLであった。pH3.4溶液3時間後のCaは540.5mg/dLで48時間後は547mg/dLであった。PH3.9溶液3時間後のCaは304mg/dL,48時間後は313.5mg/dLであった。対照として水道水に溶解したものでは3時間後5.08mg/dL,48時間後は6.9mg/dLであった。
【0024】
カルシウムは水に溶けたかたちになっていなければ吸収されない。牛にカルシウム剤を与えた場合、第四胃で分泌される塩酸によりイオン化されてから、十二指腸と空腸上部において吸収される。従って、急速かつ効率的に吸収させるためには、カルシウムを溶出させた(イオン化)溶液を投与することが有効であると考えられる。食品添加用クエン酸によりpH2.2に調整した水にナグラシ50gを溶解すると、610mg/dLのCaが溶出した。これを分娩直後の乳牛に投与して2時間後には低カルシウム血症を予防するレベルに血中Caを上げることができ、この応用の可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、畜産業に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験A(ナグラシを水に分散)の結果。
【図2】試験B(ナグラシをクエン酸水溶液に分散)の結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴを有効成分とする乳熱の予防剤。
【請求項2】
前記サンゴが、天然化石サンゴ由来である請求項1に記載の予防剤。
【請求項3】
サンゴを酸性水に分散した状態で含む請求項1または2に記載の予防剤。
【請求項4】
酸性水がクエン酸水溶液である請求項1〜3のいずれか1項に記載の予防剤。
【請求項5】
サンゴを含有する乳熱の予防のために用いる飼料。
【請求項6】
前記サンゴが、天然化石サンゴ由来である請求項5に記載の飼料。
【請求項7】
酸性水に分散したサンゴを含有する請求項5または6に記載の飼料。
【請求項8】
酸性水がクエン酸水溶液である請求項5〜7のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項9】
分娩牛に、分娩前、及び/または分娩後6時間以内に請求項1〜4のいずれか1項に記載の予防剤または請求項5〜8のいずれか1項に記載の飼料を供給することを含む乳熱の予防方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45106(P2006−45106A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227455(P2004−227455)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(504297456)
【Fターム(参考)】