説明

乳腺特異的ヒトエリトロポエチン発現ベクター、これを用いた形質転換動物及びこれを用いたヒトエリトロポエチンの産生方法

乳腺特異的ヒトエリトロポエチン発現ベクター、これを用いた形質転換動物及びこれを用いたヒトエリトロポエチンの産生方法を提供する。
本発明のhEPO発現形質転換動物は、乳腺特異的にエリトロポエチンを発現し、既存の方法に比べて極めて高濃度にて乳汁中にエリトロポエチンを発現する。
また、本発明の形質転換動物から産生されたhEPOタンパク質は市販中の同種タンパク質が示す以上の安定性及び優れた生理活性を示す。
従って、本発明のhEPO発現ベクター及び形質転換動物は既存のhEPOよりも優れた生理活性を有するhEPOタンパク質を産生する上で有効に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳腺特異的ヒトエリトロポエチン(hEPO)発現ベクター、これを用いた形質転換動物及びこれを用いたEPOの産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エリトロポエチン(erythropoietin;EPO)は胎児の肝や成人の腎臓において主として生成される糖タンパク質であって、赤血球生成を促進し、赤血球数を維持するのに重要な役割を果たす造血ホルモンである。
【0003】
天然型ヒトEPOは分子量が約34〜38kdであり、24、38、83番アミノ酸にN-結合型糖鎖結合部位を有しており、且つ、126番アミノ酸にO-結合型糖鎖結合部位を有しているが、これらの糖鎖部分はEPOの生体内活性に欠かせない役割を果たす。
【0004】
EPOは赤血球の形成に欠かせないものであるため、貧血、特に腎臓性貧血の治療に有効であり、HIV−感染患者のAZT治療と関連する貧血、化学治療中の非骨髄癌患者の貧血などの治療にEPOが利用されている。
【0005】
かような医薬分野において経済的な付加価値が高いEPOなどの産生を極大化させるために、細胞培養法によるEPOの量産方法が汎用されてきている。しかしながら、この方法は、動物の血液を培養培地として利用するため生産コストが高くつき、培養技術に関する専門的な知識が要求される。また、培地成分に含有されている動物のEPOと新たに産生されたEPOを完全に分離することが不可能であるため最終的に得られるEPOの純度が低く、該方法により製造された組換えヒトEPOの場合には天然型EPOタンパク質とグリコシル化の状態が同一ではないため生理活性も低いという不都合を有している。
【0006】
これに対し、形質転換動物を用いた目的タンパク質の産生方法は、動物が分泌する体液中に目的タンパク質が含まれるため、既存の細胞培養法に比べて目的タンパク質の分離および精製が容易であり、活性もまた高く維持されることから、この分野に対する関心が急増している。
【0007】
これまでの形質転換動物の産生技術において目的タンパク質を産生する組織は主としてタンパク質の発現率が高いと知られている乳腺組織である。
【0008】
しかしながら、これまで開発された乳腺特異的プロモーターを用いて形質転換された動物のタンパク質の産生効率は実際に極めて低いレベルに留まっており、また、既存に報告された乳腺特異的ベクターの場合に異所性発現を示すなど種々の問題点がある。
大韓民国公開特許第2001−81456号公報は、マウスの乳腺から分離したWAPプロモーター及びヒトのEPOゲノム遺伝子を含むEPO形質転換発現ベクター並びにその形質転換豚について開示している。
【0009】
また、大韓民国公開特許第10−2004−101793号公報は、牛のβ-カゼインプロモーターを用いて乳腺においてヒトエリトロポエチン(hEPO)を発現する形質転換複製牛について開示している。
【0010】
しかしながら、hEPOの乳汁内濃度及び産生されたEPOの活性に対する結果は全くないため、この方法により産生されたhEPOが実用化できるかどうかは全く推察することができない。
【0011】
そこで、本発明者は、乳腺においてのみ特異的にヒトEPOを高効率にて産生する発現ベクターを製作し、これを導入した形質転換動物が高い生理活性を有するヒトEPOを産生することを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】大韓民国公開特許第2001−81456号公報
【特許文献2】大韓民国公開特許第10−2004−101793号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】A. Gokana, J.J. Winchenn , A. Ben-Ghanem, A. Ahaded, J.P. Cartron, P. Lambin(1997) Chromatographic separation of recombinant human erythropoietin isoforms, Journal of chromatography, 791, 109-118
【非特許文献2】Parekh RB, et al. (1989) N-glycosylation and in vitro enzymatic activity of human recombinant tissue plasminogen activator expressed in Chinese hamster ovary cells and a murine cell line. Biochemistry 28: 7670-7679
【非特許文献3】Tam RC, et al. (1991) Comparisons of human, rat and mouse erythropoietins by isoelectric focusing: differences between serum and urinary erythropoietins. Br J Haematol 79: 504-511
【非特許文献4】Prather, R. S., et al. 1995. In vitro development of embryos from sinclair miniature pigs: A preliminary report. Theriogenology, 43:1001-1007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、乳腺特異的にヒトエリトロポエチン(hEPO)タンパク質を発現するベクターを提供するところにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、前記ベクターを導入して形質転換された動物の体細胞を提供するところにある。
【0016】
さらに、本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを導入した形質転換動物を提供するところにある。
【0017】
さらに、本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを用いた形質転換動物の産生方法を提供するところにある。
【0018】
さらに、本発明のさらに他の目的は、前記形質転換動物を用いたヒトエリトロポエチンの産生方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、乳腺特異的にヒトエリトロポエチン(hEPO)タンパク質を発現する発現ベクターを提供する。
【0020】
本発明は、乳腺特異的プロモーターであるβ-カゼインプロモーターDNA配列、その3’側にヒトエリトロポエチン(hEPO)をコードするDNA配列及びhEPO遺伝子の3’側にWPRE DNA配列を含むpBC1−hEPO−WPREベクターを提供する。
【0021】
本発明のpBC1−hEPO−WPREベクターにおいて、前記hEPOをコードするDNA配列は、これに制限されるものではないが、例えば、配列番号1のDNA配列であることができる。
【0022】
本発明のpBC1−hEPO−WPREベクターにおいて、前記β-カゼインプロモーターDNA配列は、これに制限されるものではないが、例えば、配列番号2のDNA配列であることができる。
【0023】
本発明のpBC1−hEPO−WPREベクターにおいて、前記WPRE DNA配列は、これに制限されるものではないが、例えば、配列番号3のDNA配列であることができる。
【0024】
本発明において、β-カゼインプロモーターDNA配列、ヒトエリトロポエチン(hEPO)をコードするDNA配列及びWPRE DNA配列は、上述した配列の他にも、これらのDNA配列のうち1以上の塩基が欠失、置換されたり、1以上の塩基がこれらのDNA配列に挿入または付加された、配列同一性を有するこれらの均等物を含む。
【0025】
具体的に、本発明においては、山羊のβ-カゼインプロモーターを含むpBC1発現ベクターに配列番号1のヒトEPO遺伝子を挿入して、EPOの乳腺特異的な発現を可能にする発現ベクターpBC1−hEPOを提供する。
【0026】
本発明の発現ベクターpBC1−hEPOは、必要に応じて、インシュレータ、またはウッドチャック肝炎ウイルス由来の転写後調節領域(WPRE:woodchuck hepatitis virus post-transcriptional regulatory element)、ネオマイシン抵抗性遺伝子などをさらに含むことにより、形質転換細胞株を構築し易くし、目的タンパク質発現量の極大化及び発現の安定性を図ることができる。
【0027】
インシュレータはプロモーターの近くに存在する調節因子の影響を促進し、位置非依存的な発現を促進する因子であり、β-カゼインプロモーターの調節下にタンパク質を安定的に発現できるようにする。
【0028】
WPREは、mRNAの安定化に寄与してタンパク質合成量を増大可能な調節因子であって、β-カゼインプロモーターの調節下にタンパク質を大量に発現できるようにする。WPREの塩基配列は配列番号3に記載の通りである。
【0029】
ネオマイシン抵抗性遺伝子は細胞株の構築時に使用されるG418試薬に対して抵抗性を示す遺伝子であり、β-カゼインプロモーターの調節下にタンパク質を発現する動物細胞株の構築時に効率的な選択的標識遺伝子として働くことができる。ネオマイシン抵抗性遺伝子の塩基配列は配列番号4に記載の通りである。
【0030】
本発明は前記調節因子をさらに含む発現ベクターの好適な例として、WPREを含むpBC1−hEPO−WPREベクター及び前記pBC1−hEPO−WPREベクターにネオマイシン抵抗性遺伝子をさらに含むpBC1/hEPO/NEOベクターを提供する。
【0031】
前記ベクターは本発明のpBC1−hEPOベクター内EPO遺伝子の3’側にWPREを挿入したり、ここにさらにネオマイシン抵抗性遺伝子を挿入することにより製造される。
【0032】
上述した本発明の発現ベクターpBC1/hEPO/NEOは2007年7月26日付けにて韓国生命工学研究院生物資源センターに寄託番号KCTC 11159BPで寄託された。
【0033】
また、本発明の発現ベクターは、必要に応じて、調節因子、すなわち、別のプロモーター、エンハンサー、選択的標識遺伝子、5’非翻訳領域(5’-untranslated region:5’−UTR)、3’非翻訳領域(3’-untranslated region:3’−UTR)、ポリアデニル化信号、リボソーム結合配列、ゲノムの特定部位に挿入可能な塩基配列、またはイントロンを適切な位置にさらに含むことができる。
【0034】
さらに、本発明は、前記発現ベクターを用いて形質転換させた体細胞を提供する。
本発明の一実施例においては、製作された前記形質転換豚の体細胞は2007年7月26日付けにて韓国生命工学研究院生物資源センターに寄託番号KCTC 11160BPで寄託された。
【0035】
さらに、本発明は、前記発現ベクターを用いて形質転換させた体細胞を脱核された卵子に核移殖して製造された受精卵を提供する。
【0036】
さらに、本発明は、前記発現ベクターを用いて形質転換させた動物を提供する。
【0037】
本発明の発現ベクターで形質転換可能な動物は、乳汁を分泌するあらゆる動物、すなわち、豚、マウス、牛、山羊、羊、馬または犬などを含む。
【0038】
本発明の発現ベクターを用いた形質転換動物の生産方法は通常の方法による。
【0039】
例えば、形質転換しようとする動物がマウスである場合、健康な個体から受精卵を採取し、受精卵に本発明の発現ベクターを導入した後、精管結紮マウスを用いて偽妊娠マウスを得、これを代理母として卵管内に受精卵を移殖した後、代理母から得られた子孫のうち形質転換された個体を選別する。
【0040】
形質転換しようとする動物が豚である場合、先ず、健康な個体から卵母細胞を採取し、体外成熟用培養液において培養する。また、豚胎児から採取、培養した供与体細胞に本発明の発現ベクターを導入した後、ベクターの導入された体細胞を選別、培養する。前記体外成熟された卵子から核を除去し、この空間に供与細胞を注入した後、電気融合を通じて核移殖が完了した卵子の供与細胞と細胞質を融合させた後に体外培養する。この複製受精卵を過排卵を誘導した受卵豚に移殖した後、受卵豚から得られた子孫のうち形質転換された個体を選別する。
【0041】
この後、形質転換されたことが確認された個体から乳汁を集めた後、目的タンパク質を分離および精製することにより有用タンパク質を産生する(A. Gokana, J.J. Winchenn , A. Ben-Ghanem, A. Ahaded, J.P. Cartron, P. Lambin(1997) Chromatographic separation of recombinant human erythropoietin isoforms, Journal of chromatography, 791, 109-118 )。
【0042】
また、本発明は、形質転換動物から産生された乳汁中に発現されたエリトロポエチンを分離・精製する方法を含むヒトエリトロポエチンの産生方法を提供する。
【0043】
本発明のヒトエリトロポエチンの産生方法において、分離および精製方法としては通常的に使用される方法を使用することができ、具体的には、濾過法またはクロマトグラフィ法などが挙げられる。
【0044】
このようにして製造される本発明の形質転換動物は乳腺特異的にエリトロポエチンを発現し、既存の方法に比べて極めて高濃度にて乳汁中にエリトロポエチンを発現する。なお、特異的に授乳期中の肺胞細胞においてのみEPOタンパク質を発現する。
【0045】
その例として、本発明の発現ベクターpBC1/hEPO/NEOで形質転換されたマウスの場合、200,000IU〜400,000IU/mlレベルの高いEPO発現率を示す。そもそもEPOは胎児の早期死亡を誘発するため発現させ難いタンパク質であるにも関わらず、本願発明の形質転換動物においては既存の乳腺特異的プロモーターを用いて製造された形質転換動物の乳汁内タンパク質発現率に比べて1000倍以上の高い発現率を示す。
【0046】
また、本発明の形質転換動物から産生されたEPOタンパク質は市販中の同種タンパク質が示す以上の安定性及び優れた生理活性を示す。
【0047】
その例として、本発明の発現ベクターpBC1/hEPO/NEOで形質転換されたマウスから得られたEPOはシアル酸を多量含有していて、赤血球(RBC:red blood cells)前駆細胞に作用して優れたタンパク質活性を示す。
【0048】
また、本発明の形質転換動物から産生されたEPOタンパク質を投与時に血液内血小板、赤血球、血色素、ヘマトクリットを増大させるといった作用効果を示す。
【0049】
このため、本発明のEPO発現ベクター及び形質転換動物は既存のEPOよりも優れた生理活性を有するEPOタンパク質を産生する上で有効に使用可能である。
【0050】
以下、本発明への理解に一助となるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、実施例により本発明の内容が限定されることはない。
【発明の効果】
【0051】
本発明のhEPO発現形質転換動物は乳腺特異的にエリトロポエチンを発現し、既存の方法に比べて極めて高濃度にて乳汁中にエリトロポエチンを発現する。
【0052】
また、本発明の形質転換動物から産生されたhEPOタンパク質は市販中の同種タンパク質が示す以上の安定性及び優れた生理活性を示す。
【0053】
さらに、本発明の形質転換動物から産生されたhEPOタンパク質を投与時に血液内血小板、赤血球、血色素、ヘマトクリットを増大させるといった作用効果を示す。このため、本発明のhEPO発現ベクター及び形質転換動物は既存のhEPOよりも優れた生理活性を有するhEPOタンパク質を産生する上で有効に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明のpBC1/hEPO/NEO発現ベクターの構造を示す。
【図2】図2は、本発明のpBC1/hEPO/NEO発現ベクターの構造を示す。
【図3】図3は、本発明のpBC1/hEPO/NEO発現ベクターの構造を確認したPCR結果を示す。
【図4】図4は、実験用マウスの乳腺、肝、CHO細胞におけるグリコシル化への関与遺伝子の発現様相を分析した結果を示す。
【図5】図5は、本発明のhEPO発現ベクターで形質転換させたマウスにおけるhEPO発現有無を観察した結果を示す。
【図6】図6は、本発明の形質転換マウスの乳腺組織におけるhEPOタンパク質の発現を観察した結果図である。
【図7】図7は、本発明の形質転換マウスの乳汁から産生されたhEPOタンパク質を分析した結果図である。
【図8】図8は、本発明の形質転換マウスの乳汁から産生されたhEPOと腎不全症患者の血清内EPOの2次元電気泳動ゲル写真である。
【図9】図9は、本発明の形質転換マウスの乳汁から産生されたhEPOとエポエチンαのオリゴ糖分析結果である。
【図10】図10は、本発明の形質転換マウスの乳汁から産生されたhEPOのインビトロ活性測定結果である。
【図11】図11は、本発明の形質転換マウスの乳汁から産生されたhEPOのインビボ活性測定結果である。
【実施例】
【0055】
[実施例1]本発明の最適な乳腺特異的ヒトエリトロポエチン(hEPO)発現ベクターの製作
【0056】
本発明は乳腺においてhEPOを分泌する最適ベクターを構築した。
【0057】
1)pBC1−hEPOベクターの構築
本発明の乳腺特異的発現ベクターを製作するために、山羊のβ-カゼインプロモーターを有しているInvitrogen社製のpBC1を用いて、この制限酵素XhoI位置にヒトエリトロポエチンゲノムDNA(配列番号1)をクローニングした。
【0058】
2)pBC1−hEPO−WPREベクターの構築
hEPOの発現量を増大させるために、前記pBC1−hEPOベクターにWPRE遺伝子を挿入した。
WPRE(woodchuck hepatitis virus post-transcriptional regulatory element)はmRNAの安定化に寄与して、最終タンパク質の合成を増大させるのに関与すると報告された調節因子である。
【0059】
これらのWPRE調節因子をhEPOの直後に連結してEPOの転写時にmRNAが一緒に製造されるようにするために、前記1)のpBC1−hEPOベクターからXhoI制限酵素の位置に挿入した。
【0060】
WPREは肝炎ウイルスから順方向プライマー5’−ACCAGGTTCTGTTCCTGTTAATCAACCTC−3’(配列番号5)と逆方向プライマー5’−CTCGAGGAGCCCGAGGCGAAACAGGCG−3’(配列番号6)を用いて0.6kbの長さのPCR産物を増幅し、これをpGEM T−easyベクターにクローニングした。T−ベクターにクローニングされた0.6kb WPREをSalI及びXhoI制限酵素にて切断して挿入断片部位を準備し、pBC1−hEPOをXho1制限酵素にて切断して準備したベクターとライゲーションして23975bpのpBC1−hEPO−WPREベクターを構築した。
【0061】
3)pBC1/hEPO/NEOベクターの構築
乳腺特異的なβ-カゼインプロモーターの調節下にhEPOの産生を極大化可能なベクターだけを有する細胞を効果的に選択するために、neo遺伝子(neomycin-resistance gene)をクローニングした。
【0062】
G418ドラッグに抵抗可能なneo’遺伝子はpEGFP−N1ベクター(Clontech,Catalog #6085-1)から順方向プライマー5’−GCGGCCGCGCGCGTCAGGTGGCAC−3’(配列番号7)と逆方向プライマー5’−CGATCGGACGCTCAGTGGAACGAAAACTC−3’(配列番号8)を用いて1.9kbのPCR産物を増幅して得、この後、pGEM T−easyベクターにクローニングした。
T−ベクターにクローニングされた1.9kb neo遺伝子はNotIとPvuI制限酵素にて切断して挿入部位を準備した。また、前記2)のpBC1−hEPO−WPREベクターのamp’遺伝子(ampicillin-resistance gene)部位をNotIとPvuI制限酵素にて切断して除去した後にベクター部位を準備した。
【0063】
このようにして準備された挿入断片及びベクター部位をライゲーションすることにより、既存に構築されたpBC1−hEPOベクターにWPRE調節因子とneo遺伝子が挿入されたpBC1/hEPO/NEOベクターを構築した。
【0064】
この結果として得られた本発明の発現ベクターの構造が図1に示されており、乳腺特異的プロモーターであるβ-カゼインプロモーターの調節下においてhEPOを発現することになる。
【0065】
これをpBC1−5’+WPRE−Rプライマー対及びhEPO3+WPRE−Rプライマー対を用いたPCRを通じて3kb及び1.5kbのPCR産物を得ることにより、pBC1/hEPO/NEOベクターの製作が正常になされたことを確認した(図2及び図3)。
【0066】
上述した本発明の発現ベクターpBC1/hEPO/NEOは2007年7月26日付けにて韓国生命工学研究院に寄託番号KCTC 11159BPで寄託された。
pBC1/hEPO/NEOはWPRE調節因子の導入によりEPOタンパク質合成が格段に増大され、且つ、neo’遺伝子の挿入は細胞株の構築に極めて効率的な選択的標識遺伝子として活用される。
【0067】
[実施例2]hEPO発現形質転換動物の製作及び発現されたhEPOタンパク質の分析
【0068】
本発明の乳腺特異的hEPO発現形質転換マウスの産生による生理活性確認及び安定性評価のために下記の実験を行った。
【0069】
1)マウスの乳腺においてグリコシル化に関与する遺伝子の発現様相分析
【0070】
タンパク質のグリコシル化はタンパク質の翻訳後修飾の一過程であり、タンパク質の機能を強化して決定する上で重要な役割を果たすことが知られている。このようなグリコシル化は大腸菌をはじめとする原核生物、酵母、動物細胞またはマウスなどの実験動物においてタンパク質発現時にそれぞれ異なる様相として現れる。これらの中で、ヒトと進化段階が類似している実験動物から産生されたタンパク質のグリコシル化の度合いがヒト生体内において産生されたタンパク質のグリコシル化の度合いと類似していることが知られている。
【0071】
このため、インビボにて組換えされたヒトEPOタンパク質のグリコシル化に関与するグリコシルトランスフェラーゼの発現をマウスの乳腺、肝及びEPOの産生に有効に利用されているCHO細胞株において確認した(図4)。
【0072】
先ず、マウスの乳腺と肝及びCHO細胞株から全体RNAを分離した後、3種類のグリコシルトランスフェラーゼ(GnT−V、GnT−IIIとFuc−TIV)のプライマー対(表1)を用いてRT−PCRを行った。
【0073】
【表1】

【0074】
その結果、図4に示すように、2種類のグリコシルトランスフェラーゼ(GnT−IIIとGnT−V)は肝とCHO細胞株よりも乳腺(M.G.)において相対的に高く発現されることを確認することができ、他のグリコシルトランスフェラーゼ(Fuc−T)もCHO細胞株よりも乳腺(M.G.)において相対的に高く発現されることを確認することができた。
【0075】
このため、乳腺由来組換えヒトEPOは現在CHO細胞株から産生されて市販されているEPOと比較したときにタンパク質のグリコシル化に優れていて、タンパク質の生理活性だけではなく、質的にも区別されることが分かる。
【0076】
2)形質転換マウスの産生
前記実施例1において構築した乳腺特異的なβ-カゼインプロモーターの調節下にEPOを発現する23kbのpBC1/hEPO/NEO発現ベクター(図1)を用い、微細注入によって形質転換マウスを製作した(韓国Macrogen社製)。
【0077】
形質転換マウスとしてはBDF1(C587BL/6 DBA)を使用し、738個の受精卵にpBC1/hEPO/NEOを注入し、これらの中で700個の受精卵を30匹の代理母に移殖した。数週後に生まれた合計85匹の生存マウスのうち9匹が形質転換されたことをPCRとゲノムサザンブロットの結果を通じて確認した(表2及び図5B)。
【0078】
PCRに使用したプライマーはTGチェック用順方向プライマー5’−CTCCTTGGCAGAAGGAAGCC−3’(配列番号19)とTGチェック用逆方向プライマー5’−CAGCCATGGAAAGGACGTCA−3’(配列番号20)であり、このPCR予想産物のサイズは600bpであった。
【0079】
サザンブロットに使用したプローブはhEPOゲノムDNAであり、配列番号1の配列を含む2.3kb全体遺伝子を使用した。
【0080】
図5Bは、乳腺特異的にEPOを発現する形質転換マウスのうち代表的な2ラインとして選択されたライン6及びライン37において確認されたEPO遺伝子のPCR及びサザンブロット結果を示す。図5Bの結果から、EPO遺伝子が染色体内に約10〜30コピー挿入され、生殖細胞を通じて次の世代までEPO遺伝子が伝達されることを確認した。
【0081】
【表2】

【0082】
3)形質転換マウスにおけるEPOの乳腺特異的発現確認
前記2)において製作した形質転換マウスにおいてEPO遺伝子が乳腺特異的に発現されるかどうかを確認した。
【0083】
先ず、前記形質転換されたマウスから樹立したライン6及びライン37マウスの種々の組織(乳腺、脳、腎臓、心臓、脾臟、肝、子宮、肺)からそれぞれRNAを抽出した後に当業界における通常的な方法によりRT−PCRとノーザンブロット分析を行った。
【0084】
EPO cDNAを探知するために、RT−PCRにおいては、hEPO特異的プライマーとして順方向プライマー5’−GTAGAAGTCTGGCAGGGCCT−3’(配列番号21)と逆方向プライマー5’−TCATCTGTCCCCTGTCCTGC−3’(配列番号22)を使用した。
【0085】
ノーザンブロット分析に使用したプローブはEPO full genomic DNAであって、サザンブロット分析に使用した2.3kbと同じプローブを使用した。
図5Cを参照すると、RT−PCR結果から、乳腺(mammary gland:M.G.)においては強く発現されるのに対し、腎臓(kidney:K)において極めて弱く発現されるということが確認された。また、図5Dのノーザンブロット分析結果からは、EPO遺伝子が他の組織においては全く発現せず、単に乳腺(M.G.)においてのみ特異的に発現されることを確認した。(図中、B:脳、H:心臓、S:脾臟、L:肝、U:子宮、Lu:肺を意味する。)
【0086】
また、形質転換マウスにおけるEPOタンパク質の発現有無及び発現細胞の種類を調べるために、組織に対して免疫組織化学法を行い、このとき、EPO抗体としては、Anti-human antibody(AB−286−NA、R&Dシステム社製)を使用した。
その結果を図6に示す。
図6Aの対照群マウスの妊娠16日目の乳腺においてはEPOの発現を確認することができなかった。これに対し、形質転換マウスの妊娠16日目(図6B)と分娩後5日目(図6C)においては乳腺肺胞細胞においてEPOが発現することを確認することができ、分娩後16日目(図6D)においては乳腺肺胞細胞が退行してEPOの発現がなくなることを確認した。
【0087】
図6に示すように、本発明のhEPO形質転換マウスにおいては、授乳期中の乳腺肺胞細胞においてのみEPOタンパク質が特異的な発現を示すことを確認することができた。
【0088】
4)発現されるEPOタンパク質の分析及び安定性確認
前記2)において製作した形質転換マウスの乳汁中に発現されるEPOタンパク質及びその濃度を当業界における通常的なウェスタンブロット分析法により確認し、このとき、EPO抗体としては抗ヒト抗体((anti-human antibody)(AB−286−NA,R&Dシステム社製))を使用した。
その結果を図7に示す。
【0089】
図7Aは、形質転換マウスの乳汁を用いたウェスタンブロット分析結果を示すものであり、図中、レーン1と2は陽性対照群であって、GSTが結合されているEPO抗原5ng、10ngを示すものであり、レーン3は対照群マウスの乳汁、レーン4と5はそれぞれ形質転換マウスライン6と37の乳汁内のEPOを示すものである。
【0090】
図7Aから明らかなように、本発明の形質転換マウス乳汁において34KDa分子量を有するタンパク質が発現されることを確認し、これは、全体タンパク質のうち0.7−1.4%を占めている。
【0091】
また、形質転換マウスの乳汁由来EPOのグリコシル化パターンを確認するために、N−グリコシダーゼ−F、またはN−グリコシダーゼ−F及びO−グリコシダーゼにて切断した後、ウェスタンブロットを実施した。
図7B中、レーン1は乳汁由来EPO、レーン2はN−グリコシダーゼ−Fにて切断したEPO、レーン3はN−グリコシダーゼ−FとO−グリコシダーゼにて切断したEPOを示すものである。
【0092】
図7Bの結果から、N−グリコシル化部位3個とO−グリコシル化部位が切断されて最終的に18KDaのEPOを確認することにより後修飾が正常になされたことを確認した。
【0093】
また、本発明のhEPO形質転換マウスの乳汁内EPOの濃度を確認するために、ELISAキット(Human Erythropoietin ELISA,#01630,stem cell technology社製)を用いて定量分析した結果、授乳期1−5日の間に約200,000−400,000IU/mlが発現されることを確認した(表3)。
【0094】
【表3】

【0095】
また、EPOの安定性を確認するために形質転換されたマウスの乳汁から産生されたヒトEPOと腎不全症患者の血液を用いて2D分析を行った。
【0096】
図8に示す2D分析結果から、形質転換マウス由来EPOは電荷とサイズが異種的に現れることが分かる。
【0097】
一般的にタンパク末端にシアル酸などの糖鎖が多いほどPI値が低下するが、図8において形質転換されたライン6と37のマウスの乳汁において組換えされたヒトEPOは対照群と腎不全症患者の血清よりも酸性状態を示し、シアル酸を多量含有していることを確認することができる。これに対し、対照群と腎不全症患者の血液は非シアル状態であることを確認した。
【0098】
シアル酸などの糖鎖はタンパク質の構造と機能に影響を与え、シアル状態のEPOはRBC前駆細胞に作用してタンパク質活性を有し、非シアル状態のEPOは肝受容体と結合して尿として排出されて活性を有さないことが報告されている(Parekh RB, et al. (1989) N-glycosylation and in vitro enzymatic activity of human recombinant tissue plasminogen activator expressed in Chinese hamster ovary cells and a murine cell line. Biochemistry 28: 7670-7679; Tam RC, et al. (1991) Comparisons of human, rat and mouse erythropoietins by isoelectric focusing: differences between serum and urinary erythropoietins. Br J Haematol 79: 504-511)。
【0099】
これより、本願発明のEPO発現形質転換マウスから産生されたhEPOはRBC前駆細胞に作用してhEPOタンパク質活性を有することが理解される。
【0100】
5)形質転換マウスの乳汁からのhEPO分離
先ず、本発明の形質転換マウスの乳汁3mlを10mMトリス緩衝液(pH6.8)20mlに懸濁して膜フィルターに収容し、4℃、10mMトリス緩衝液(pH6.8)1,000mlにて2回一晩中透析した。透析を終えた懸濁液を遠心分離管に移して4,000rpmにて30分間冷蔵遠心分離して沈渣を取り除いた。
【0101】
上清約20mlをpM100膜(Amicon)フィルターにて濾過し、その濾液を10mMトリス緩衝液(pH6.8)300mlに懸濁した後、予め10mMトリス緩衝液(pH6.8)にて十分に平衡化させたDEAE sephadex column(2Φ×15cm,bed volume 40)に3ml/minの流速にて注入した。その後、10mMトリス緩衝液(pH6.8)500mlにてカラムを十分に洗浄した後、0mMから325mMのNaClを含有する10mMトリス緩衝液にてグラジエント溶出(各分画のサイズ:3ml、流速:21ml/h)した。
【0102】
前記溶出された各分画のうちEPOを含有する分画を集めた後、これをpM-10膜にて濾過し、0.15M NaClを含有する10mMトリス緩衝液(pH7.2)にて3回洗浄して3mlに濃縮した。この液を同じ緩衝液にて予め平衡化させたSephadex G−100(2F 100cm)に注入した後に流速24ml/h、分画サイズ3mにて溶出した。
【0103】
前記溶出された各分画のうちEPOを含有する分画をさらに集めてpM-10膜にて濾過した後、0.15M NaClを含有する10mMトリス緩衝液(pH7.5)にて希釈して下記のように免疫精製法を実施した。
【0104】
1.IgGを分離するために、採取した腹水液をProtein-G agarose affinity systemを用いて精製した。
【0105】
先ず、腹水液を5倍の結合緩衝液(0.1M NaHPO,0.15M NaCl,5mM EDTA,pH7.0)に希釈し、Protein-A agaroseカラムに徐々に流した後、同じ緩衝液にて洗浄した。洗浄が十分に終わった後、溶出緩衝液(0.1Mグリシン/HCl,0.01%アジ化ナトリウム,pH2.7)にて溶出した。溶出物は同量の中性化緩衝液(1M Tris,0.01%アジ化ナトリウム,pH9)入りチューブに溶出した。この一連の過程は12%SDS−PAGEにて行い、クマシブルー染色にて確認した。この抗体溶液は3LのPBS溶液にて透析を3日間6回繰り返し行い、抗体量を定量した後に実験に供試した。
【0106】
2.免疫親和カラムの製造
上記において精製されたIgG 50mgを水素カーボネート緩衝溶液(0.1M NaHCO,0.5M NaCl,pH8. 3)にて4℃において一晩透析した。CNBrにより活性化された3gのSepharose 4B(Pharmacia)を1mM塩酸にて多数回洗浄した。概ね12mlのゲルをカラムに注ぎ込んで水素カーボネート緩衝液にて洗浄して平衡化させた後、IgGを入れて一晩中徐々に攪拌しながら反応させた。その後、1Mエタノールアミン(pH8.8)溶液にて常温において3時間震とうして、反応せずに残留している活性化残基を中和した。最終的に30mlのカーボネート緩衝溶液にて3回、そして30mlの0.1Mグリシン−塩酸(pH2.5)溶液にて1回洗浄した。0.2%NaNを含有するPBS緩衝溶液に入れ替え、使用時まで4℃において保管した。
【0107】
3.免疫精製
準備されたカラムを0.15M NaClを含有する10mMトリス緩衝溶液(pH7.5)にて前処理して平衡を維持した。希釈したサンプル溶液20mlを4℃において一晩中丁寧に攪拌しながらゲルに吸着させ、ゲルをカラムに注ぎ込んだ後、前処理緩衝溶液にて十分に洗浄し、0.1Mアセテート緩衝溶液(pH4.5)を60ml/hの速度にて洗い流した。ゲルに結合したEPOを30mlの0.1Mグリシン−塩酸(pH2.5)溶液にて溶出した。溶出された分画は直ちに1Mトリス溶液(pH9)を加えて早い時間内にpH7.5まで滴定した。その後、pM-10膜(Amicon)をもって溶出された分画を濃縮してhEPOタンパク質を得た。
【0108】
6)EPO分子のオリゴ糖分析
本発明の形質転換マウスの乳汁内hEPOのオリゴ糖構造をHPLCを用いて分析し、グリコタンパク質の対照群としては、ウシ血清フェツイン(bovine serum fetuin,Glycosciences)、商品化されたエリトロポエチンであるエポエチンα(LG生命科学)を使用した。
【0109】
図9の結果中、Aはウシ血清フェツイン、Bは形質転換マウス由来hEPO、Cはエポエチンαを示す。
【0110】
図9に示すように、形質転換マウスの乳汁由来EPOはCHO細胞株由来エポエチンαと比較したときに類似するモノ−、ジ−、トリ−の酸性オリゴ糖を有するものの、添加されたテトラ−酸性オリゴ糖の構造は一層多量に有することを確認した。これは、グリコシル化に関与する酵素による形質転換動物におけるEPOの発現時に翻訳後修飾が正常的になされ、このため、乳腺から産生されたEPOは医薬用に使用し易いということを意味する。
そして、その数値を表4に示す。
【0111】
【表4】

【0112】
7)形質転換マウスの乳汁内hEPOの活性確認
7−A)形質転換マウスの乳汁内hEPOのインビトロ活性確認
本発明の形質転換マウスの乳汁内hEPOのインビトロ活性を確認するために下記の実験を行った。
【0113】
EPOはEPO受容体(EPO receptor,EPOR)と結合して転写因子であるSTAT5を活性化させることが知られている。このため、STAT5が含まれているBCL−XLルシフェラーゼ発現ベクターを構築した後、EPORが発現されるMCF−7細胞株(ヒト乳房癌細胞株)に安定的に発現できるようにBCL−XLルシフェラーゼ発現ベクターを導入した。この細胞(2×10/35mmプレート)に本発明の形質転換マウスのrhEPOを含む乳汁タンパク質をそれぞれ0ng、10ng、100ng、1μgの量にて16時間処理した。
【0114】
陰性対照群としては、一般的な乳汁タンパク質1μgを細胞(2×10/35mmプレート)に処理し、陽性対照群としてのエポエチンαは10IU、100IUにて処理した。処理16時間後、相対的なルシフェラーゼ活性をMicroplate Luminometer(Perkin Elmer)を用いて測定した。その結果を図10に示す。
【0115】
図10の結果から、MCF−7細胞に濃度別に形質転換マウスの乳汁由来EPOを添加した結果、容量依存的な方式によりルシフェラーゼの活性が増大することを確認した。このような増大の度合いはエポエチンα処理時におけるルシフェラーゼ活性度の増大とほとんど同様であるため、本発明の形質転換マウスの乳汁由来hEPOが優れたインビトロ活性を示すことが分かった。
【0116】
7−B)形質転換マウスの乳汁内EPOのインビボの生理活性確認
また、本発明の形質転換マウスの乳汁内EPOのインビボの生理活性を確認するために、形質転換マウスの乳汁由来EPOを対照群マウスに注入した後(200ng/Kg、1回静脈注射)、時間別に血液を採取して成分を分析した。
その結果を図11に示す。
【0117】
図11に示すように、形質転換マウスの乳汁由来EPOを添加した結果、時間依存的な方式により血小板、赤血球、血色素、ヘマトクリットが増大することを確認した。このような増大の度合いはエポエチンα処理時における増大の度合いとほとんど同様であることが分かり、その結果、本発明の形質転換マウスの乳汁由来EPOが優れたインビボ活性を示すことが分かった。
【0118】
[実施例3]本発明のEPO発現ベクターを導入した体細胞を用いた形質転換複製豚の生産製造
【0119】
前記実施例1において製造した本発明の発現ベクターpBC1/hEPO/NEOを導入して体細胞を用いた形質転換複製豚を下記のようにして製造した。
【0120】
A)培養液の準備
卵母細胞の体外成熟に使用した培養液はNCSU 23培養液を基本培養液としてBaxter(Baxter Healthcare Co.,U.S.A.)から水1リットルに製造し、これを0.2μmフィルター(Gelman Sci.,U.S.A.)にて濾過した後、pH7.2〜7.3に調整して50ml組織培養フラスコ(Falcon,U.S.A.)に45mlずつ分注して4℃の冷蔵庫に保管しながら約2週間使用した。
【0121】
体外成熟用培養液はNCSU 23培養液に10%卵胞液、0.1mg/mlシステイン、0.01μg/mlEGF、10IU/mleCG及び10IU/mlhCGを添加して製造した。体外培養液はNCSU 23培養液に0.4% BSAを添加して使用した。
豚卵胞液は2〜7mmサイズの卵胞から卵胞液を採取して1,900×gにて3回遠心分離し、最終的に0.2μmフィルターにて濾過した後、−20℃の冷蔵庫に保管して使用した。
【0122】
B)卵母細胞の採卵
この実施例において使用した卵巣は屠畜場において屠殺直後に卵巣を摘出してフェニシリンG(100units/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)含有生理食塩水(30〜35℃)入り魔法瓶に入れて3〜4時間内に実験室に持ち運び、未成熟卵母細胞を採卵する前に卵巣周りの脂肪と結合組織を除去し、生理食塩水にて3〜4回洗浄した後、18−G針付き20ml注射器を用いて2〜7mmの可視卵胞を吸入して卵母細胞を採卵した。卵母細胞の採取時に使用された培養液としては、0.1mg/ml PVA添加TALP−HEPES(Prather, R. S., et al. 1995. In vitro development of embryos from sinclair miniature pigs: A preliminary report. Theriogenology, 43:1001-1007)を使用した。
【0123】
吸入された卵胞液は5〜10分間静置させた後、沈殿された下部液を5mlのピペットにて吸入して直径60mm培養皿に移して40×倍率の倒立顕微鏡(Olympus Co.,Japan)下で卵母細胞を集めた後、体外成熟用基本培養液NCSU 23にて4〜5回洗浄しながら選抜した。卵母細胞の選抜は卵球細胞の付着度合いと細胞質の充実度に応じて実施し、少なくとも2層以上の卵球細胞層から構成されており、細胞質が均一で且つ充実したものを選抜して下記の実施例に使用した。
【0124】
C)卵母細胞の体外成熟
卵母細胞の体外成熟は体外成熟用培養液を4−ウェルディッシュ(Nunc,Denmark)に500μlずつ分注して18時間以上前培養を実施して平衡を誘導した後、体外成熟用培養液に卵球細胞が2層以上であり、且つ、細胞質が充実した100〜150個の卵母細胞を入れ、5%CO、98〜99%湿度、39℃のCOインキュベーターにおいて20〜22時間ホルモンが添加された体外成熟用培養液において培養した。次いで、次の20〜22時間はホルモン未添加の培養液において培養して合計40〜44時間培養した。
【0125】
D)ヒトエリトロポエチン(hEPO)を発現する遺伝子の導入及び的中のためのベクターの製造
前記実施例1に記載の方法に従いヒトエリトロポエチン(hEPO)を発現するpBC1/hEPO/NEO発現ベクターを製作した。
【0126】
E)供与体細胞の採取、培養及び細胞株の確立
この実験に供試された供与体細胞は妊娠30日齢の豚胎児の組織を採取して利用した。
採取した胎児の頭、四枝及び内臓を除く残りの全体組織を細切して0.05%トリプシン(Gibco,USA)とEDTA(Sigma,USA)が添加されたD−PBSに入れて3分間処理した後、遠心分離を実施してトリプシンとEDTAを除去した。
【0127】
分離された細胞には10%FBSが添加されたDMEMを加え、25cm3フラスコ(Falcon,USA)に分注してCOインキュベーターにおいて培養し、培養12時間後に底面に付着できなかった細胞は除去し、10%FBSが添加された新鮮なDMEMに交替しながら3〜5日間培養した。継代培養は、供与細胞がフラスコに80%以上生長したとき、0.05%トリプシンとEDTAを処理して浮遊させた後、1/3〜1/4ずつ分けて10回以上継代して培養した。
【0128】
継代培養した供与細胞は10%DMSOが添加されたDMEM培養液において凍結保存しておき、核移殖に使用するときには38〜39℃の温水に融解して凍結保護剤を除去した後、10%FBSが添加された新鮮なDMEM培養液により1回継代培養した後に細胞が培養皿に単層を十分に形成して密集状態で2〜3日程度培養することにより細胞周期上のG0やG1段階に誘導した後に供与細胞として使用した。
【0129】
F)確立された体細胞への外来遺伝子の導入
前記実施例1において製造して−20℃において保管したpBC1/hEPO/NEO DNAを取り出して溶かした後、使用直前に冷蔵保管したEffectene(Qiagen社製)を用いてそれぞれ混ざらないように注意してE-チューブにDNA濃度が2μg/mlになるように入れて表示した後、Qiagen kit内のエンハンサー8μlをそれぞれチューブに徐々に入れた。
【0130】
DNA+エンハンサー+バッファECの量が合計150μlになるように計算してバッファーECを入れ、これを1秒間ボルテックスした後、RTにおいて2〜5分間放置した。ここにEffectene25μlをそれぞれ入れた後にピペッティングしてRTにおいて5〜10分間放置した。
【0131】
また、前記E)において準備された、培養皿に50〜80%敷かれた繊維芽細胞はD−PBSにて約2〜3回10分間洗浄した後、FBS未添加DMEM培地を4mlずつそれぞれ入れた後にインキュベーターに入れておいた。
【0132】
10分後にそれぞれE−チューブにFBS未添加DMEMを1mlまで充填してピペッティングしてよく混ぜ、繊維芽細胞及びDMEMが4ml入れられている皿に入れて遺伝子細胞内に導入した後、インキュベーターにおいてさらに12〜18時間放置した。12〜18時間後にD−PBSにて洗浄した後にさらにFBSが10%添加されたDMEMに交替した。
【0133】
G)EPOが導入された体細胞ラインの選別、継代培養及び凍結保存
前記F)において遺伝子細胞内に導入した日から72時間後から濃度約600〜800μg/mlのG418を用いて約2週間ネオマイシン抵抗性を有する細胞を選別した。このようにして選別された繊維芽細胞は普通3〜5日程度であれば敷かれるようにして継代培養した。
【0134】
詳しくは、分離する細胞の培養容器から培養培地を除去し、その培養容器にトリプシン+EDTA0.25%を約1.5ml入れてインキュベーターに約3〜5分間入れておいた。顕微鏡にて観察して約70%ほど細胞が離れている状態であるときにインキュベーターから取り出して、全容ピペットを用いて予め準備しておいたD−PBSが約10mlほど入れられている15mlチューブに入れて1500RPMにて約3分間遠心分離した。上清除去後に下のペレットに10%FBS+DMEM+G418を約3mlほど入れて十分にペレットを分散させた後、培養容器に入れてインキュベーターにおいて培養した。
細胞の凍結保存のためには前記遠心分離後に得られたペレットにDMSOを約1mlほど入れて十分にペレットを分散させた後、クライオチューブに入れて−70℃の極低温槽(ディープフリーザー)において24時間保管後に−196℃の液体窒素タンクに入れて保管した。
【0135】
このような本発明のpBC1/hEPO/NEOが導入された豚体細胞は2007年7月26日付けにて韓国生命工学研究院に寄託番号KCTC 11160BPで寄託された。
【0136】
H)核移殖に供与される凍結体細胞の融解及び準備
1.融解:解凍する細胞を貯蔵庫から取り出して37℃の水槽において解凍した。予め準備しておいたD−PBSが約10mlほど入れられている15mlチューブに入れて1500RPMにて約3分間遠心分離した。上清除去後にペレットに10%FBS+DMEM+G418を約3mlほど入れて十分にペレットを分散させた後にこれを培養容器に入れ、これをさらにインキュベーターに入れて培養した。
【0137】
2.供与核の準備:普通、供与細胞の準備は4−ウェルディッシュにおいて行うが、分離する細胞の培養培地を除去し、皿にトリプシン+EDTAを約200μlほど入れてインキュベーターに約3〜5分間放置しておいた。顕微鏡にて観察して約70%ほど細胞が離れている状態であるときにインキュベーターから取り出して200μlピペットにより細胞を分離して供与細胞準備用培養培地が約3mlほど入れられている皿に入れて細胞を分散させた後、使用時までインキュベーターに入れておいた。
【0138】
I)核移殖
核移殖に使用されたピペットは直径が1mmである毛細管(Narishige,Japan)を用いて補正用、脱核用及び注入用ピペットをそれぞれ製作した。補正用ピペットの外径は150〜180μm、脱核用及び注入用ピペットは外径を30〜40μmに調節した。製作が完了したピペットはPVPにてコーティング処理した後に使用した。体外成熟された受核卵子を0.1%ヒアルロニダーゼ(Sigma,USA)が添加されたD−PBSに入れて卵球細胞を除去し、PVA−TALP−HEPESにて3回〜4回洗浄した後、0.05Mスクロース(Sigma,USA)及び0.4%BSAが添加された培養液において細胞質が良好であり且つ第1極体がはっきりと見える卵子だけを選別して使用した。
【0139】
核移殖はNCSU−23に0.4%BSAが添加された培養液小滴に7.5μg/mlのサイトカラシンB(Sigma,USA)と0.05Mスクロースを添加して約30%程度の細胞質を吸入することにより核を除去した。
【0140】
上記において脱核した卵子は細胞質が除去された空間にG0期やG1期に誘導した供与細胞をロードして細胞質と付着しないようにして注入した。供与細胞が注入された卵子は電気融合をするまでNCSU−23に0.4%BSAが添加されたIVC培養液にて処理した。
【0141】
J)核移殖受精卵の融合及び活性化
核移殖が完了した卵子の供与細胞と細胞質の融合は電気細胞融合装置(BTX,USA)により実施した。このとき、電気融合培養液としては、0.1mM CaCl(Sigma,USA)及び0.1mM MgCl(Sigma,USA)が添加された0.28Mマンニトール(Sigma,USA)溶液を使用し、この培養液中において2〜3分間平衡を実施した後、核移殖卵を電気融合用チャンバーに移して両電極の間に一列に注入し、核は電極の陽極(+)側に向かわせ、細胞質は陰極(−)側に向かわせて電気刺激を加えた。電気融合及び活性化は150V、50μsec、2パルスを与えて、受精卵の融合と電気活性化を同時処理した。
【0142】
核移殖受精卵の融合と活性化を誘導した後、サイトカラシンBに4時間処理後、0.4%BSAが添加された培養液において体外培養を実施した。
【0143】
K)受卵豚の準備
複製受精卵を移殖するために妊娠30〜40日目の受卵豚にPGF2αを筋肉注射して流産を誘導した後、24時間が経過したときにPGF2αとPMSGを同時に注射した。その後、72時間が経過したときにhCGを筋肉注射して過排卵を実施した。48時間後に複製受精卵を移殖した。
【0144】
L)受精卵の移殖及び妊娠診断
豚の複製受精卵を移殖して産子を産生する目的で外科的な方法により受精卵移殖を行った。先ず、ホルモン処理された受卵豚はケタミンとロムプンを耳静脈に注入して全身麻酔を実施した。麻酔された受卵豚の正中線を中心に広範に剃刀を用いて毛を除去し、消毒を行った。その後、正中線に沿って約10〜15cmを切開して子宮を露出させた後、卵巣表面の出血体もしくは卵胞状態を確認し、次いで、複製された受精卵を卵管膨大部に注入した。一部の受卵豚は複製受精卵の体内発達有無を確認するために移殖後7日目に外科的な方法により開腹して移殖された受精卵の発達率を調べてみた。なお、受卵豚の妊娠有無は受精卵移殖後27〜30日目に超音波診断器を用いて確認した。
【0145】
生産された子豚においてPCRとゲノムサザンブロットにより確認して、乳腺特異的にEPOを発現する形質転換豚が生産されることを確認した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳腺特異的プロモーターであるβ-カゼインプロモーターDNA配列、その3´側に ヒトエリトロポエチン(hEPO)をコードするDNA配列及びhEPO遺伝子の3´側にウッドチャック肝炎ウイルス由来の転写後調節領域(WPRE)DNA配列を含むpBC1−hEPO−WPREベクター。
【請求項2】
前記hEPOをコードするDNA配列は、配列番号1のDNA配列である請求項1に記載のpBC1−hEPO−WPREベクター。
【請求項3】
前記β-カゼインプロモーターDNA配列は、配列番号2のDNA配列である請求項1に記載のpBC1−hEPO−WPREベクター。
【請求項4】
前記WPRE DNA配列は、配列番号3のDNA配列である請求項1に記載のpBC1−hEPO−WPREベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のベクターに選択的標識遺伝子としてネオマイシン抵抗性遺伝子をさらに含むpBC1/hEPO/NEOベクター。
【請求項6】
前記ネオマイシン抵抗性遺伝子のDNA配列は、配列番号4のDNA配列である請求項5に記載のpBC1/hEPO/NEOベクター。
【請求項7】
寄託番号KCTC 11159BPで寄託されたものである請求項6に記載のpBC1/hEPO/NEOベクター。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の発現ベクターを導入して形質転換させたヒトを除く動物の体細胞。
【請求項9】
寄託番号KCTC 11160BPで寄託されたものであるpBC1/hEPO/NEOが導入された請求項8に記載の豚の体細胞。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入して形質転換させたヒトを除く動物の体細胞を脱核されたヒトを除く動物の卵子に核移殖して製造された受精卵。
【請求項11】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入して形質転換させたヒトを除く形質転換動物。
【請求項12】
前記形質転換動物は、豚、マウス、牛、山羊、羊、馬及び犬よりなる群から選ばれるいずれか1種である請求項11に記載の形質転換動物。
【請求項13】
請求項11に記載の形質転換動物から産生された乳汁中に発現されたエリトロポエチンを分離・精製する段階を含むヒトエリトロポエチンの産生方法。
【請求項14】
前記形質転換動物は、豚、マウス、牛、山羊、羊、馬及び犬よりなる群から選ばれるいずれか1種である請求項13に記載のヒトエリトロポエチンの産生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7A】
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【図7B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−535496(P2010−535496A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519843(P2010−519843)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003808
【国際公開番号】WO2009/020252
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(510035783)チョ−エー・ファーム・カンパニー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】