説明

乳頭パック、乳頭保護方法および乳頭パックの塗布方法。

【課題】 パックとしての柔軟性、剥がしやすさ、強度、厚さ等を備えた乳頭パックを提供する。
【解決手段】少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が5000〜150万mPa・sである乳頭パック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の、主として乳牛の乳頭を保護するための、乳頭パック、乳頭保護方法および乳頭パックの塗布方法に関する。
【技術背景】
【0002】
従来から、搾乳を行う際には生乳中への汚れの移行を防ぐため、清拭作業が行われている。清拭作業としては、濡れタオル等で十分に拭った後、乾いたペーパータオルでふき取るなどの作業が一般的である。そして、搾乳後には、抗菌剤などの薬液噴霧等によって乳頭に付着している細菌を殺菌し、搾乳後に乳房炎起因菌が乳頭内へ侵入するのを防止している。この方法では、施用後の皮膜形成力が小さく、横臥休息すると直ちに牛床等の汚れやふん尿等が乳頭に付着する傾向にある。そのため、搾乳前の乳房・乳頭清拭作業を多工程で行う必要があるばかりでなく、生乳中に清拭作業で落としきれなかった汚れの移行や乳頭内への乳房炎起因菌の進入が問題となっている。また、内用薬や注射薬としての抗生物質等により、体内の菌の増加を抑制している。
しかしながら、内用薬や注射薬としての抗生物質の使用は、薬剤の使用中および使用後数日間は搾乳した乳を出荷することができないという問題点がある。
【0003】
そこで、従来から、乳頭を何らかの方法で被覆することが検討されている。例えば、 特許文献1には、乾乳期にある乳牛の乳房炎感染を予防するために、ゴム系の素材を用いた乳頭シール剤を用いて乳頭を閉塞することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載されている乳頭シール剤は、ゴム系の素材を用い、付着時間が2〜9日と長い乾乳期の乳頭を塞ぐものとして作製されているため、例えば、搾乳期にある牛には、12時間毎の搾乳に対応させる必要があるため、使用勝手が悪いという問題がある。
【0004】
一方、特許文献2には、搾乳牛の乳房炎感染を削減するために、ポリビニルアルコールを主成分とするフィルムを乳頭の表面に設けることが記載されている。しかしながら、この方法では、フィルム除去のためフィルムを水に溶解する作業が必要である。
【0005】
【特許文献1】特開2000−41529号公報
【特許文献2】特表平9−500098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、搾乳期にある家畜の乳頭を覆うためのものとしては、容易に剥がすことができるものであることが必要であり、また、皮膜形成力が大きいものが必要であるが、容易に剥がすことができる物質は一般的に、皮膜形成力が劣る傾向にあり、皮膜形成力の大きな物質は一般的に剥がすのが困難である。
さらに、本発明者が検討したところ、乳頭は、通常、家畜の腹部に下向きに垂れた形で存在しているため、組成物を混合して、乳頭の表面に塗布しようとすると、組成物は重力によって下に垂れ落ちてしまい、うまく皮膜を形成できないことがわかった。また、乳頭の表面は非常デリケートであり、高温の組成物は塗布できなかった。
【0007】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであって、清浄環境を維持し、乳房炎起因菌や牛床の汚れやふん尿等から乳頭を保護し、乳房炎起因菌の乳頭内への進入を防御し、搾乳時の清拭作業を改善することができる乳頭パックであって、乳頭の表面に、上手く形成することができ、デリケートな乳頭の表面にも対応可能で、かつ、パックとしての柔軟性、剥がしやすさ、強度、厚さ等を備えた乳頭パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、発明者が鋭意検討した結果、驚くべきことに、水、アルギン酸塩およびカルシウム塩を含む液を採用し、さらに、これらの液の粘度を特定の範囲とすることにより、該課題を解決しうることを見出した。
(1)少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が5000〜150万mPa・sである乳頭パック。
(2)多糖類を含む(1)に記載の乳頭パック。
(3)前記多糖類が、キサンタンガムおよび/またはグアーガムである(1)または(2)に記載の乳頭パック。
(4)反応コントロール剤を含む(1)〜(3)のいずれかに記載の乳頭パック。
(5)ゲル化前は、40℃以下の水に少なくともカルシウム塩およびアルギン酸塩が溶解していることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の乳頭パック。
(6)保湿作用を有する物質および/または抗菌作用を有する物質を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の乳頭パック。
【0009】
(7)前記抗菌作用を有する物質が、ヨウ素である(6)に記載の乳頭パック。
(8)前記抗菌作用を有する物質が、金属塩である(6)または(7)に記載の乳頭パック。
(9)搾乳期にある家畜用である(1)〜(8)のいずれかに記載の乳頭パック。
(10)少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が15000〜150万mPa・sである40℃以下の液を、乳頭に塗布した後、40℃以下でゲル化させる工程を含む、乳頭保護方法。
(11)少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が15000〜150万mPa・sである40℃以下の液を、乳頭に塗布した後、40℃以下でゲル化させる工程を含む、乳頭パックの塗布方法。
(12)反応コントロール剤によって、ゲル化時間を調節することを特徴とする(11)に記載の乳頭パックの塗布方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳頭パック、乳頭保護方法、乳頭パックの塗布方法を用いることにより、例えば、以下の効果が得られた。
第1に、本発明の乳頭パックは、乳頭の表面に塗布する際に、垂れ落ちる量が激減したため、乳頭パックの無駄が無くなり、さらに、ゲル化後に、均一かつ強固な乳頭パックとすることが可能になった。
第2に、搾乳期にある乳牛等の乳頭部分を環境要因および菌的要因から、十分に、保護することが可能になった。特に、乳房炎起因菌の乳頭内への進入を防御でき、極めて有意である。さらに、抗菌性の高い乳頭パックを採用することにより、乳頭部分の清浄環境を長時間にわたって維持することが可能になった。この結果、搾乳時の清拭作業の簡易化を図ることが可能になった。
第3に、本発明の乳頭パックは、簡易な操作で作製することができるため、作業効率が高められることとなった。さらに、ゲルで乳頭を被覆するため、乳頭の固有差に併せて、容易に対応することができる。
【0011】
第4に、本発明の乳頭パックは、加熱せずにゲル化することができ、また、安全性の高い物質のみで作製することができるため、乳頭の保護、および、搾乳された乳の安全性という観点からも好ましいものとなった。さらに、反応コントロール剤を採用することにより、ゲルの硬化時間を任意に調整することが可能になった。
第5に、本発明の乳頭パックが有する吸着効果により、該パックの剥離時に皮膚に付着している汚れを吸着除去する事ができ、かかる観点からも、清拭作業の簡易化を図ることができる。
第6に、本発明の乳頭パックは、水や熱に強く、さらに、使用後の剥離も非常に容易であるため、使い勝手が良いものとなった。
第7に、本発明の乳頭パックは、乳頭の皮膚表面への刺激性、不快臭がなく、かつ乳頭の皮膚表面に保湿を与えるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本発明でいう乳頭パックには、特に明記しない限り、ゲル化前のものおよびゲル化後のものの両方を含む趣旨である。
【0013】
本発明でいう乳頭とは、例えば、家畜の乳頭をいい、特に、牛、山羊その他搾乳が行われる家畜(搾乳家畜)をいう。さらに好ましくは、搾乳期にある家畜の乳頭をいう。
本発明の保護方法とは、例えば、乳房炎その他の感染の阻止や、乳頭の怪我・病気・刺激の回避、乳頭の清潔維持等を含む趣旨である。
また、本発明の乳頭パックの各成分の含量は、特に断らない限り、乳頭パックに対する重量比として示している。
【0014】
本発明の乳頭パックは、ゲル化前の粘度が、5000〜150万mPa・sであり、好ましくは、10万〜150万mPa・s、さらに好ましくは30万〜150万mPa・sである。このような範囲とすることにより、乳頭パックを乳頭の表面に塗布したときに、該乳頭パックが重力によって、垂れ落ちてしまわず、かつ、乳頭パックとして十分な皮膜を形成することができる。
【0015】
アルギン酸塩
本発明の乳頭パックに用いることができるアルギン酸塩は、特に定めるものではなく、高い粘度のものも、低い粘度のものも使用することができる。
本発明のアルギン酸塩の種類は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではないが、好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸エステルであり、より好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムであり、さらに好ましくは、アルギン酸ナトリウムである。
本発明のアルギン酸塩の含量は、上記ゲル化前の粘度を満たす限り特に定めるものではないが、好ましくは、0.1〜30重量%であり、より好ましくは、0.5〜10重量%である。
アルギン酸塩は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0016】
カルシウム塩
本発明の乳頭パックは、カルシウム塩を含む。アルギン酸塩とカルシウム塩の組み合わせにより、乳頭に過度の刺激を与えることなく、強く、剥がれやすい皮膜を形成することができる。カルシウム塩としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムが好ましい例として挙げられ、硫酸カルシウムがより好ましい。
カルシウム塩は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
カルシウム塩の含量は、0.1〜30重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましい。
【0017】
溶剤
本発明の乳頭パックの各成分は、溶剤に溶解して乳頭に塗布する。ここで用いられる溶剤としては、水を好ましい例として挙げることができる。溶剤の量は、1〜10倍量(質量比、以下同じ)が好ましく、2〜7倍量がより好ましい。すなわち、50〜90重量%であることが好ましく、60〜90重量%であることがより好ましい。また、アルコール水溶液等も溶媒として用いることができ、この場合、50重量%以下の水溶液であることが好ましい。
加えて、本発明の組成物は、純粋なグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコール等の分散用溶媒で乳頭パックの溶剤以外の成分をあらかじめ分散させておき、塗布時に水等の溶剤を添加してもよい。このような手段を採用することにより、水を添加するまで、ゲル化が進行せず、また、撹拌の手間を軽減できるため好ましい。
【0018】
多糖類
本発明の乳頭パックには、多糖類を含めることが好ましい。このような多糖類を採用することにより、乳頭パックがゲル化するまでの間の垂れをより効果的に防止することができる。この結果、より容易に、適度な厚さの、均一、かつ、強固な乳頭パックを作製することができ好ましい。さらに、柔軟性も与えることができる。
多糖類としては、グァーガム、キサンタンガム、タラガム、カシアガム、微小繊維状セルロース、ペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい例として挙げられ、グァーガム、キサンタンガムがより好ましい。
多糖類は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。
多糖類の含量は、0.01〜10.0重量%であることが好ましく、0.1〜5.0重量%であることがより好ましい。
【0019】
反応コントロール剤
本発明の乳頭パックには、反応コントロール剤を含めることが好ましい。反応コントロール剤を用いることにより、ゲル化時間を調節することが容易になる。また、乳頭パックに柔軟性を付与することができ、より使用しやすいものとなる。
本発明で用いることができる反応コントロール剤としては、遅延剤と促進剤があり、遅延剤としてヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩等、リン酸塩を好ましい例として挙げることができる。また、促進剤としては、グルコノデルタラクトン、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸を好ましい例として挙げることができる。
反応コントロール剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
反応コントロール剤の含量は、遅延剤の場合、0.01〜5重量%であることが好ましく、0.1〜1重量%であることがより好ましい。一方、促進剤の場合、0〜5重量%であることが好ましく、0〜1重量%であることがより好ましい。このような含量とすることにより、ゲル化時間を適宜調節することができ、例えば、1分〜10分とすることができる。
反応コントロール剤は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。
【0020】
基材
本発明の乳頭パックには、基材を含めることが好ましい。基材としては、水に溶解しない物質(好ましくは、粉末)であれば特に定めるものではないが、粘土鉱物、茶葉、ヒノキ粉末、澱粉等を好ましい例として挙げることができ、粘土鉱物がより好ましい。粘土鉱物を含めることにより、乳頭の皮膚への吸着力を活用して乳頭の汚れを取ることができ、また、脱臭、代謝促進、保湿作用といった機能、効能を付与することもできる。
また、茶葉はカテキンが豊富であり、ヒノキ粉末は抗菌性が認められ、澱粉は乳頭パックに柔軟性を与えるため好ましい。
ここで、粘土鉱物としては、珪藻土、カオリン、マグネシア・クリンカー、モンモリロナイト、ベントナイト、パーライト、トルマリン等を好ましい例として挙げることができ、珪藻土、ベントナイト、パーライトがより好ましく、ベントナイト、パーライトがさらに好ましい。
基材は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。
基材の含量は、0〜50重量%であることが好ましく、10〜20重量%がより好ましい。
【0021】
保湿作用を有する物質
本発明の乳頭パックには、保湿作用を有する物質(以下、保湿剤と呼ぶことがある)を含めることが好ましい。保湿剤を採用することにより、乳頭の保湿性が向上し、パック材自体にも柔軟性を与える。
保湿剤としては、グリセリン、プロピレングリコールやキシリトール、ソルビトール、マルチトール、トレハロース等の糖アルコール、および、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸等が好ましい例として挙げられ、ソルビトール、トレハロースがより好ましく、ソルビトールがさらに好ましい。
保湿剤は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。
保湿剤の含量は、糖アルコールの場合、0〜60重量%であることが好ましく、15〜50重量%であることがより好ましい。
一方、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムおよび/またはコンドロイチン硫酸の場合、0〜5重量%であることが好ましく、0.1〜1重量%であることがより好ましい。
【0022】
抗菌作用を有する物質
本発明の乳頭パックには、抗菌作用を有する物質(以下、抗菌剤と呼ぶことがある)を含めることが好ましい。抗菌剤としては、銀、銅、亜鉛等の金属塩、ヨウ素、茶葉粉末、ヒノキ粉末、キトサンを好ましい例として挙げることができ、金属塩および/またはヨウ素がより好ましく、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄およびヨウ素の少なくとも1種がさらに好ましく、酸化亜鉛および/またはヨウ素が最も好ましい。特に、ヨウ素と他の抗菌作用を有する物質を併用することにより、より効果的な抗菌効果が得られる。
抗菌剤は、1種類のみを採用してもよいし、2種類以上を採用してもよい。
抗菌剤の含量は、一般的に、0.1〜20重量%であることが好ましい。
特に、金属塩の場合、1〜10重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましく、3〜7重量%が最も好ましい。
また、ヨウ素を用いる場合、乳頭パックに対し、有効ヨウ素濃度0.01〜0.2重量%であることが好ましい。
【0023】
ここで、本願発明者が検討した結果見出された、より好ましい乳頭パックについて述べる。ここで、(1)、(2)、(3)の順に、後述する「乳頭パックとしての好ましさ」として、好ましいものが得られた。尚、本発明の乳頭パックの組成がこれらに限定されるものでないことは言うまでも無い。
(1)アルギン酸塩、カルシウム塩、水および多糖類を含み、かつ、ゲル化前の粘度が50 00〜150万mPa・sである乳頭パック。
(2)アルギン酸塩、カルシウム塩、水および多糖類を含み、かつ、ゲル化前の粘度が10 万〜150万mPa・sである乳頭パック。
(3)さらに、反応コントロール剤を0.01〜5重量%含む乳頭パック。
また、基材、保湿作用を有する物質および抗菌作用を有する物質についても、上述でより好ましいものとして記載したものを採用することが、それぞれが本来果たすべき役割を、本発明の乳頭パックにおいてより効果的に発揮することが、確認あるいは示唆された。
【0024】
本発明の乳頭パックのゲル強度は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではないが、横臥に耐えうる強度が必要である。
また、本発明の乳頭パックの厚さは、0.1mm〜5mmが好ましく、0.5mm〜3.5mmがより好ましい。このような厚さとすることにより、本発明の効果をより顕著に示す乳頭パックが得られる。
さらにまた、本発明の乳頭パックのゲルは、20時間経過後の乳頭パックがスタート時の30%以上の重量を保持していることが好ましい。このような乳頭パックは、例えば、高い保水率を有することとなり、本発明の効果をより顕著に示す乳頭パックが得られる。
本発明の乳頭パックの調整方法は特に定めるものではないが、例えば、下記のようにして調整することができる。すなわち、アルギン酸塩、カルシウム塩、必要に応じてゲル化時間調節のための反応コントロール剤を含む組成物に、水(溶剤)を混合し、乳頭に塗布し、該組成物をゲル化させることにより行うことができる。組成物の作成に当たり、水(溶剤)以外の成分からなる組成物をあらかじめ混合しておき、使用直前に水を混合する方法が好ましい。このような手段を採用することにより、ゲル化が進行するのを防ぐとともに、保存がきわめて容易となる。
さらに、上記水(溶剤)に混合した状態の組成物は、40℃以下であることが好ましい。下限値としては、5℃以上が好ましい。このように、アルギン酸塩は、加熱しなくても水等の溶剤に溶けるため、乳頭のようなデリケートな部位の表面に塗布する場合も好ましく用いることができる。特に、生体温度に近い、35℃〜40℃の組成物を用いることが好ましい。
【0025】
加えて、本発明の乳頭パックのゲル化に際しては、40℃以下であることが好ましい。下限値としては、5℃以上が好ましい。特に、生体温度に近い、35℃〜40℃でゲル化させることが好ましい。本発明は、高温でなくても、ゲル化できるという観点からもきわめて有用である。
ゲル状を構成する組成物は種々知られているが、一般的に、ゲル化組成物の溶解に際し、加熱を必要とするものが多く、また、ゲル化に際し冷却を必要とするものが多い。このため、乳頭の表面のようにデリケートな部分に用いることが極めて困難なゲルが多かった。
特に、本発明の乳頭パックでは、組成物の溶剤への混合および溶解から、ゲル化までの一連の工程を同じ温度(多少の誤差(例えば、3℃以内)を含む)で行うことができ、乳頭への刺激が少ないという利点がある。
さらに、本発明の乳頭パックは、熱に強く、一度ゲル化すれば、熱による型崩れをしない。
また、本発明の乳頭パックに含まれる粉末成分は、その粒子径が0.01〜500μmのもので構成されていることが好ましい。このような粒子径とすることにより、乳頭の表面により滑らかなパックを形成することができ好ましい。
ゲル化に要する時間は、1〜10分が好ましく、3〜8分がより好ましい。これらのゲル化に要する時間は、反応コントロール剤で調整できるのは上述のとおりである。
【0026】
本発明の乳頭パックを剥がす方法は、特に定めるものではないが、手で剥がす、圧水を付着した乳頭パック上部にあてる等の手段を採用することができる。好ましくは、手で剥がす方法である。
【0027】
本発明の乳頭パックは、乳頭の保護に用いることができる。具体的には、乳房炎感染からの保護、環境性乳房炎からの保護、汚れその他の外的環境因子からの保護のために用いることができる。
さらに、本発明の乳頭パックは、乳頭表面の皮膚の、汚れの除去および/または保湿のためのパックを兼ねる構成とすることができる。すなわち、いわゆる化粧料としてのパックの効果を併せ持たせることができる。このような効果を持たせる観点からも、本発明の乳頭パックは、塗布前はゾル状を呈していることが好ましく、乳頭に塗布した後にゲル化させる方法が極めて好ましい。さらに、使用後は、ゲル状のまま剥ぎ取ることができるものが好ましい。このように、塗布してから一定時間経過後に乳頭表面から、そのまま剥ぎ取ることができるものとすることにより、乳頭パックの剥離時に、上記化粧料としてのパック効果を併せ持たせることができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
アルギン酸ナトリウム(株式会社紀文フードケミファ社製、品番:ダックアルギンNSPH、以下、実施例2〜6について同じ)7.0重量%、硫酸カルシウム8.0重量%、ベントナイト42.0重量%、ソルビトール42.0重量%、ピロリン酸カリウム0.8重量%、トリポリリン酸カリウム0.2重量%の割合となるようにこれらを充分に混合し、この組成物に、水を重量比で3倍量加え、30秒間撹拌した(乳頭パック1)。撹拌後、容器に移し、図1の右に示す乳頭の模型(以下、模擬乳頭という)を浸漬して、乳頭模型の表面に塗布した。
また、前記乳頭パック組成物1を、ラップを張った直径15cmの刺繍枠に30g入れ一様に伸ばしゲル化させた。経時的にパックの付着状態、ゲルの保水率を観察した。
【0030】
乳頭パック1の温度が25℃のときゲル化時間は3分30秒であった。図2は、スタート時および22時間後のゲルの状態を観察したものである。図2の上から順に、上記ラップを張った直径15cmもの、模擬乳頭に塗布したものの、ゲルの状態を撮影したものである。写真から明らかな通り、22時間経過しても柔軟性およびその形状を維持していた。加えて、ゲルの保湿性も十分に認められた。さらに、乳頭の表面への付着性がよく、ゲルの形状に変化は認められなかった。特に、22時間経過後の重量保持率が43%であり、高い保水率を有していることが示唆された。
さらに、本実施例の乳頭パックは、手で少しひねることにより、簡単に剥離できた。図1の左側は、本実施例で作製した乳頭パックの剥離後のものを示している。剥離したゲルは乳頭1本当り7〜10gで厚さは1〜3mmであった。重力の関係で乳頭の先端は周りよりも厚くなっていた。
【0031】
実施例2
アルギン酸ナトリウム8.0重量%、硫酸カルシウム12.3重量%、グァーガム1.2重量%、珪藻土36.0重量%、ベントナイト23.0重量%、ソルビトール18.0重量%、ピロリン酸カリウム1.3重量%、トリポリリン酸カリウム0.2重量%を十分に混合し、この組成物に、水を重量比で5倍量加えたもの(乳頭パック2)、および、さらに有効ヨウ素2重量%の製剤を最終濃度が1%重量となるように配合したもの(ヨウ素含乳頭パック2)を30秒間撹拌した。撹拌後、9cmシャーレに約20gづつ入れ、へらで広げて表面を平らにしゲル化させた。そして、該ゲルの表面に106オーダーの大腸菌(JH109)を1mL塗布し、スタンプスプレード(栄研器材社製)で表面に塗布し37℃で保管した。添加直後(0時間経過、以下同じ)、1、2、6および12時間経過後に、ぺたんチェック(SCD 表面積25cm2栄研器材社製)で表面をスタンプし37℃で培養した。24時間後に、生菌数を数えた。
【0032】
乳頭パック2およびヨウ素含有乳頭パック2の温度が25℃のとき、ゲル化時間は5分30秒前後であった。表1は、上記乳頭パック2およびヨウ素含有乳頭パック2の、乳頭パック表面の大腸菌数を示したものである。
【0033】
【表1】

【0034】
ここで、NDは検出できなかったことを示す(以下、同じ)。表1に示すとおり、ヨウ素を配合しなかった乳頭パック2の菌数は12時間後には2倍近くまで増加していた。一方、ヨウ素含有乳頭パック2は、菌を接種した直後から認められず12時間経っても菌の存在は認められなかった。さらに、ヨウ素を添加した乳頭パックについても、ゲル化、付着状態および剥離状況に問題は無く、抗菌剤を配合することによって効果的に菌による乳頭の汚染を防止する事ができることが認められた。
【0035】
実施例3
アルギン酸ナトリウム8.0重量%、硫酸カルシウム12.3重量%、酸化亜鉛6.0重量%、グァーガム1.2重量%、パーライト30.0重量%、ベントナイト23.0重量%、ソルビトール18.0重量%、ピロリン酸カリウム1.3重量%、トリポリリン酸カリウム0.2重量%を十分に混合し、この組成物に、水を重量比で5倍量加えたもの(乳頭パック3)、およびこれに有効ヨウ素2重量%の製剤を最終濃度が1重量%となるように配合したもの(ヨウ素含乳頭パック3)を30秒間撹拌した。撹拌後、9cmシャーレに20gづつ入れ、へらで広げて表面を平らにしてゲル化させた。そして、該ゲルの表面に104オーダーの大腸菌(JH109)を1mL塗布し、スタンプブレードで表面に塗布し、37℃で保管した。添加直後、1、7、15時間経過後にぺたんチェック(SCD 表面積25cm2栄研器材社製)で表面をスタンプし37℃で培養した。24時間後に、生菌数を数えた。表2に結果を示す。
【0036】
【表2】

【0037】
酸化亜鉛で抗菌効果を持たせた乳頭パック3は、時間の経過に伴い菌を抑止する効果が認められた。さらに、ヨウ素含有乳頭パック3では、菌を接種した直後から菌の存在が認められず、15時間経ってもかわらなかった。さらに、これらの乳頭パックについても、ゲル化、付着状態および剥離状況に問題は無く、抗菌剤を配合することによって効果的に菌による乳頭の汚染を防止する事ができることが認められた。
【0038】
実施例4
アルギン酸ナトリウム11.1重量%、硫酸カルシウム18.4重量%、珪藻土63.0重量%、酸化亜鉛5.0重量%、流動パラフィン0.3重量%、ピロリン酸カリウム2.2重量%を十分に混合し、この組成物に、水を重量比で4倍量加えたもの(乳頭パック4)、およびこれに有効ヨウ素量2重量%の製剤を最終濃度が1重量%となるように配合したもの(ヨウ素含有乳頭パック4)を、30秒間撹拌した。撹拌後、15cmシャーレに60gづつ入れ、へらで広げ表面を平らにしゲル化させた。これらの、乳頭パック組成物は7〜8分でゲル化した。その表面に2×104オーダーの大腸菌(K12株)を3mL塗布し、37℃で保管した。接種直後、1、2、6、12時間経過後に表面を拭取り検査し、培養後菌数を測定した。その結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
金属塩で抗菌効果を持たせた乳頭パック4は、1時間経過後には菌の検出は無く12時間経っても菌は検出されなかった。さらに、ヨウ素含有乳頭パック4はいずれも菌を接種した直後から菌の存在が認められず12時間経っても変わらなかった。
【0041】
実施例5
アルギン酸ナトリウム7.2重量%、硫酸カルシウム8.1重量%、キサンタンガム0.8重量%、ベントナイト40.0重量%、ソルビトール43重量%、ピロリン酸カリウム0.9重量%を十分に混合し、この組成物に、水をその3倍量加えたもの(乳頭パック5)、および有効ヨウ素2重量%の製剤を最終濃度がそれぞれ5および7重量%となるように配合したもの(ヨウ素含乳頭パック5−1、5−2)を30秒間撹拌した。撹拌後、容器に移し、十分に濡れタオルで清拭した搾乳牛の乳頭に浸漬方式で塗布した。
測定は、乳頭に乳頭パックを塗布する前(温水清拭ふき取り作業後)および乳頭パック塗布2時間経過にパックを除去したものの乳頭表面の生菌数について行った。具体的には、乳頭表面を綿棒でふき取り、生理食塩水で希釈した後、SCD寒天培地に塗布し37℃で24時間培養した後、生菌数を測定した。さらに、比較として無被覆のものも同様に拭取り検査を行った。結果を、表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
ここで、nは調査乳頭数を示す(以下、同じ)。
表4に示すとおり、例えば、乳頭パック5−1を2時間用いた場合、菌数は1桁減少した。一方、無被覆の場合は、菌数の減少が認められなかった。
【0044】
図3は、ヨウ素含有乳頭パック5−1の塗布直後(図3(a))、および、乳頭パック5−1塗布後3時間経過後(図3(b))の乳頭の様子を写真撮影したものである。写真からも認められるとおり、適度な締め付けによる剥離防止効果もあり、柔軟性及び形成を維持していた。尚、ゲルの厚さは1〜3mmであった。
【0045】
実施例6
アルギン酸ナトリウム7.0重量%、硫酸カルシウム8.0重量%、ベントナイト42.0重量%、ソルビトール42.0重量%、ピロリン酸カリウム0.8重量%、トリポリリン酸カリウム0.2重量%を十分に混合し、この組成物に水を重量比で3倍量加えたもの(乳頭パック6)、および有効ヨウ素2重量%の製剤を最終濃度がそれぞれ3、5、7%添加になるように配合したもの(ヨウ素含有乳頭パック6−1、6−2、6−3)を30秒間撹拌した。これらの乳頭パックは3〜4分でゲル化した。撹拌後、容器に移し、実施例5と同様の方法により生菌数を測定した。その結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
本発明の乳頭パック組成物を用いた場合、無被覆の場合に比べて、全体的に優位な抗菌効果が得られた。
【0048】
さらに、上記実施例5および実施例6の結果から、温水清拭ふき取り作業後の生菌数は、3.6±0.6(n=14)log cfu/cm2であり、本発明の乳頭パックを塗布後、2〜5時間経過したものの生菌数は、2.8±0.7(n=12)log cfu/cm2であり、無被覆のものの2〜5時間経過したものの生菌数は、4.0±0.5(n=8)log cfu/cm2であった。この結果を有意差検定すると、温水清拭ふき取り作業後の生菌数と乳頭パックを塗布した後、2〜5時間経過したものの生菌数の間には1%水準で優位差が認められた。
【0049】
実施例7
表6の割合となるように、乳頭パックの水以外の各成分をそれぞれ十分に混合し、これに表7で示したような割合で水を加えて30秒間攪拌した。ここで、アルギン酸ナトリウムの高粘度は、株式会社紀文フードケミファ社製ダックアルギンNSPHを、低粘度は、株式会社紀文フードケミファ社製ダックアルギンFF−SL−10を用いた。攪拌後、容器に移し、図1右に示す乳頭の模型を浸漬して乳頭模型の表面に塗布した。カップに余ったゲルはゲルする化前に粘度を測定した。20分後にゲルの付着状態を観察し、剥がして付着していたゲルの厚さおよび重量、垂れ落ちたゲル重量を測定した。その結果を表7に示す。表7中、○は、皮膜形成が上手くいったものを、△は、皮膜形成が一部上手くいかなかったものを、×は、まったく皮膜形成ができなかったものをそれぞれ示している。
サンプル1〜9に示すように、本発明の粘度の範囲内のものは、皮膜形成が上手くいったが、本発明の粘度範囲外のものは上手くいかなかった。
尚、サンプル4では、ゲル化前の乳頭パックの粘度が高く、いわゆる垂れるという状態にならなかったため、落下量は0であった。
【0050】
さらに、サンプル10〜16に示されるとおり、多糖類である、グァーガムやキサンタンガムを配合することにより、ゲル化前の乳頭パックの落下量が激減し、結果として、乳頭パックの無駄を防止し、作業性もスムーズになった。さらに、より、均一、かつ、強固な乳頭パックを作製できることが認められた。
また、ソルビトールをトレハロースに置換えても同様の効果が得られた。
【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本願実施例で採用する乳頭模型(右)および実施例1で作製した乳頭パックの剥離後のもの(左)を示す。
【図2】本願実施例1における、乳頭パック等のスタート時および22時間後の状態を示す。
【図3】本願実施例5における、乳頭パックの塗布直後(a)および3時間後(b)の状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が5000〜150万mPa・sである乳頭パック。
【請求項2】
多糖類を含む請求項1に記載の乳頭パック。
【請求項3】
前記多糖類が、キサンタンガムおよび/またはグアーガムである請求項1または2に記載の乳頭パック。
【請求項4】
反応コントロール剤を含む請求項1〜3のいずれかに記載の乳頭パック。
【請求項5】
ゲル化前は、40℃以下の水に少なくともカルシウム塩およびアルギン酸塩が溶解していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乳頭パック。
【請求項6】
保湿作用を有する物質および/または抗菌作用を有する物質を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の乳頭パック。
【請求項7】
前記抗菌作用を有する物質が、ヨウ素である請求項6に記載の乳頭パック。
【請求項8】
前記抗菌作用を有する物質が、金属塩である請求項6または7に記載の乳頭パック。
【請求項9】
搾乳期にある家畜用である請求項1〜8のいずれかに記載の乳頭パック。
【請求項10】
少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が15000〜150万mPa・sである40℃以下の液を、乳頭に塗布した後、40℃以下でゲル化させる工程を含む、乳頭保護方法。
【請求項11】
少なくとも、水、カルシウム塩およびアルギン酸塩を含み、かつ、ゲル化前の粘度が15000〜150万mPa・sである40℃以下の液を、乳頭に塗布した後、40℃以下でゲル化させる工程を含む、乳頭パックの塗布方法。
【請求項12】
反応コントロール剤によって、ゲル化時間を調節することを特徴とする請求項11に記載の乳頭パックの塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−50911(P2006−50911A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233496(P2004−233496)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月13日 食品総合研究所主催の「食品総合プロ“微生物等制御技術の高度化”推進会議」において文書をもって発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(000141510)株式会社紀文フードケミファ (9)
【Fターム(参考)】