説明

乾式変圧器

【課題】絶縁強度や耐用年数を考慮しつつ小型化を図ることができ、しかもハンガー形式とすることができる乾式変圧器を提供することである。
【解決手段】外箱11は底部15に外気を採り入れるための冷却穴22を有し、外箱11の内壁と巻線14との間隔を既存の間隔より大きく保って巻線14を外箱の内部に配置し、巻線14の上部に避雷器19を設置し、巻線14の一次巻線28は既存の線径より細い線径で形成され、主絶縁部26の厚さは既存の厚さより大きい厚さとして一次巻線28と二次巻線24との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部30と一次巻線28との間は所定の一次側端部絶縁距離h1を保って鉄心13との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部30と二次巻線24との間は所定の二次側端部絶縁距離h2を保って鉄心13との絶縁距離を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線の電力を需要家に供給する乾式変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線の電力を需要家に供給する変圧器としては、絶縁油を封入した油入変圧器、絶縁樹脂でモールド形成したモールド変圧器あるいは空気を絶縁体とした乾式変圧器がある。
【0003】
油入変圧器やモールド変圧器は、絶縁油や絶縁樹脂で絶縁距離を確保できるので小型化が図れる。そこで、使用される変圧器は、油入変圧器やモールド式変圧器が多い。一方、乾式変圧器は、空気を絶縁体としているので大型となるが、漏油して環境に悪影響を与えることがないので、主に屋内の受電設備の一部に使用されている。
【0004】
乾式変圧器として、変圧器を断面半円弧状の鉄心と該鉄心の外側に巻回されてなる1次コイル及び2次コイルからなる部分体が2個組み合わされたドーナツ形状に構成し、設置時に偏心荷重が電柱にかからず電柱の安定性を向上させたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、積層したコアとその周囲に巻回した一次コイルおよび二次コイルからなるブロックを3相に配置し、そのブロックのコアの積層方向が鉛直方向と直角になるように、同一投影面上に配置して各ブロックを鉛直に積み重ねて小型化を図ったものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−148145号公報
【特許文献2】特開2004−319766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のものは、電柱の安定性は優れているが、柱上変圧器に対する保守作業(昇柱作業、カットアウトによる断路、事故操作(課電式事故操作)や電圧変動対策(タップ変更)が考慮されていない。保守作業を考慮した場合には現行の変圧器にハンガ座を備えたハンガー形式の変圧器が望まれる。また、特許文献2のものは、3相のブロックを同一投影面上に配置して各ブロックを鉛直に積み重ねているので小型化は図れるが、絶縁強度や耐用年数についての考慮がない。
【0008】
乾式変圧器の場合は、油入変圧器やモールド式変圧器に対して大きくなるので、小型化が要請され、しかも柱上変圧器として使用するには、ハンガー形式の変圧器とすることが要請される。
【0009】
本発明の目的は、絶縁強度や耐用年数を考慮しつつ小型化を図ることができ、しかも柱上変圧器として使用する場合にはハンガー形式とすることができる乾式変圧器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の乾式変圧器は、鉄心とこれに巻回された巻線を外箱に収納して形成された乾式変圧器において、前記巻線は、巻芯の端部から所定の二次側端部絶縁距離を保って前記巻芯の幅より短い幅で前記巻芯に巻回された二次巻線と、前記二次巻線の巻回幅と同じ幅で前記二次巻線に巻回された耐熱絶縁材料と、前記耐熱絶縁材料の外側に前記巻芯の幅と同じ幅で既存の厚さより大きい厚さで形成された主絶縁部と、前記主絶縁部の端部から前記二次端部絶縁距離より大きい所定の一次側端部絶縁距離を保って巻回された内側耐熱絶縁材料と、前記内側耐熱絶縁材料に巻回され既存の線径より細い線径の巻線で形成された一次巻線と、前記一次巻線の巻回幅と同じ幅で前記一次巻線に巻回された外側耐熱絶縁材料と、前記鉄心の内側の前記巻芯の端部と前記主絶縁部の端部との間に橋絡して設置され前記鉄心との絶縁距離を保つエンド絶縁部とを備え、前記外箱は底部に外気を採り入れるための冷却穴を有し、前記外箱の内壁と前記巻線との間隔を既存の間隔より大きく保って前記巻線と鉄心を前記外箱の内部に配置し、前記巻線の上部に避雷器を設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、巻線の一次巻線を既存の線径より細い線径の巻線で形成して一次巻線を小型化するとともに、巻線層間の負担電圧を上げて巻線の耐電圧を下げ、巻線の寿命を外箱の耐用年数に合わせたので、巻線の寿命を乾式変圧器全体としての寿命に合わせることができる。
【0012】
また、主絶縁部の厚さを既存の厚さより大きい厚さで形成して一次巻線と二次巻線との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部と一次巻線との間は所定の一次側端部絶縁距離を保って鉄心との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部と二次巻線との間は所定の二次側端部絶縁距離を保って鉄心との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部と一次巻線との一次側端部絶縁距離及びエンド絶縁部と二次巻線との二次側端部絶縁距離を確保したので、絶縁強度を保ちつつ巻線の大型化を抑えている。
【0013】
また、外箱の内壁と巻線との間隔を既存の間隔より大きく保って外箱の内壁と巻線との絶縁距離を確保したので、絶縁強度を確保して外箱にコンパクトに巻線を収納できる。さらに、外箱の底部には外気を採り入れるための冷却穴を設けたので巻線の冷却も行え、外箱内に避雷器を収納可能としてハンガー形式の柱上変圧器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の構成図。
【図2】本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の底部の平面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の二次巻線本体の形成過程の説明図。
【図4】本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の二次巻線本体に一次巻線を形成する過程の説明図。
【図5】本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の巻線を鉄心に装着した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の乾式変圧器の工夫点について説明する。本発明においては、絶縁強度や耐用年数を考慮しつつ小型化を図り、しかもハンガー形式の柱上変圧器としても使用可能とするために、以下の工夫を施した。
【0016】
(1)変圧器の劣化については、通常外箱の内部の劣化より外箱自体の劣化進展が早い。つまり、巻線の耐用年数が外箱の耐用年数より長いことから、巻線の導体の耐電圧を下げて寿命を筐体の耐用年数に合わせることとした。そのために、巻線の導体の線径を既存の線径より細く形成し軽量化及び小型化を図った。これは、変圧器のほとんどは、負荷率100%以下で使用されており、機器の利用率が低いので、耐熱クラスよりかなり低い温度上昇となっていることから、巻線を細くしても問題がないことを確認した。
【0017】
(2)油入変圧器やモールド変圧器と比較して一次巻線と二次巻線との間隔を大きくし、油入変圧器やモールド変圧器と同等の絶縁強度を得られるようにした。そのために一次巻線と二次巻線との間の主絶縁部の厚さを大きくした。
【0018】
(3)エンド絶縁部と一次巻線との間は所定の一次側端部絶縁距離を保って鉄心との絶縁距離を確保し、エンド絶縁部と二次巻線との間は所定の二次側端部絶縁距離を保って鉄心との絶縁距離を確保した。これにより、鉄心と一次巻線及び二次巻線との間の絶縁強度の強化を図り小型化を図った。
【0019】
(4)外箱の内壁と巻線との絶縁強度の強化を図るべく、外箱の内壁と巻線との間隔を油入変圧器やモールド変圧器の場合の間隔より大きく保って、外箱の内壁と巻線との絶縁距離を確保した。
【0020】
(5)巻線の導線を細くしたので低負荷率でも導線温度が高くなることから、外箱の底部には外気を採り入れるための冷却穴を設け、巻線の冷却を行う構造とした。これにより、巻線の耐用年数の短縮を補償させることとした。
【0021】
(6)また、外箱内の巻線の上部に避雷器を収納できるように巻線を配置し、外箱の外面に吊り金具を取り付けてハンガー形式とした。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態に係る乾式変圧器の構成図である。図1ではハンガー形式の乾式変圧器の場合の外箱11の内部構造を示している。外箱11の上部外面には吊り金具12が設けられ、ハンガー形式の乾式変圧器を構成している。
【0023】
外箱11には鉄心13に巻回された巻線14が収納されており、巻線14の下部は外箱11の底部15の鉄心搭載板16に載置されている。巻線14は、後述するように二次巻線の外側に一次巻線が巻回されて構成されている。そして、高圧配電線からの一次ケーブル17は一次ブッシング18を介して外箱11の内部に導入され、巻線14の上部に設置された避雷器19と、巻線14の一次巻線に接続されている。また、低圧配電線からの二次ケーブル20は二次ブッシング21を介して外箱11の内部に導入され、巻線14の二次導体に接続されている。巻線14には、鉄心13との絶縁距離を保つエンド絶縁部30が設けられている。
【0024】
外箱14の内壁と巻線14との間隔dは、外箱11の内壁と巻線14との絶縁強度の強化を図るべく、既存の油入変圧器やモールド変圧器の場合の間隔より大きく保って、巻線14は配置されている。外箱11の底部15には、図2に示すように、巻線14の下部を載置するための鉄心搭載板16が設けられており、この鉄心搭載板16の周囲には、外箱11の内部に外気を採り入れるための複数の冷却穴22が設けられている。これにより、巻線14からの発熱を外箱11の外部に放熱できるようにしている。
【0025】
次に、巻線14の構造について説明する。図3は二次巻線本体の形成過程の説明図である。図3(a)は二次巻線を巻回するための巻芯23の断面図であり、巻芯23は絶縁材料で形成され筒状に形成されている。そして、図3(b)に示すように、この巻芯23に平角導体を多層に巻回して二次巻線24を形成する。この場合、二次巻線24の平角導体は、巻芯23の幅Aより短い幅Bで巻芯23に巻回される。これにより、巻芯23の端部から所定の二次側端部絶縁距離h2を確保するようにしている。所定の二次側端部絶縁距離h2を確保するのは、鉄心と二次巻線24との間の絶縁強度の強化を図るためである。その後に、図3(c)に示すように、二次巻線24の表面に耐熱絶縁紙25を巻回する。耐熱絶縁紙25は二次巻線24の巻回幅Bと同じ幅で巻回される。これにより、二次巻線本体が形成される。
【0026】
図4は、二次巻線本体に一次巻線を形成する過程の説明図である。図4(a)に示すように、図3(c)に示す二次巻線本体の耐熱絶縁材料25の表面に主絶縁部26を形成する。主絶縁部26は、耐熱絶縁材料25の外側に巻芯23の幅Aと同じ幅Aで形成される。主絶縁部26の厚さCは、油入変圧器やモールド変圧器の主絶縁部の厚さより大きい厚さで形成されている。
【0027】
そして、図4(b)に示すように、主絶縁部26に内側耐熱絶縁材料27を巻回する。内側耐熱絶縁材料27は、二次巻線24の巻回幅Bより短い幅Dで主絶縁部26に巻回され、その内側耐熱絶縁材料27の幅Dに一次巻線28が巻回される。一次巻線28は、線径の細い丸線導体を多層に巻回して形成される。その後に、一次巻線28の表面に内側耐熱絶縁材料27の幅Dと同じ幅で外側耐熱絶縁材料29を巻回する。これにより、巻線14が形成される。
【0028】
ここで、一次巻線28の導体の線径を既存の線径より細く形成したのは、軽量化及び小型化を図るとともに、一次巻線28の劣化進展を外箱11の劣化進展に合わせるためである。また、二次巻線24の巻回幅Bより短い幅Dの内側耐熱レジン紙27に一次巻線28を巻回するのは、主絶縁部26の端部から所定の一次側端部絶縁距離h1を確保し、鉄心と一次巻線28との間の絶縁強度の強化を図るためである。二次巻線24の巻回幅Bより短い幅Dの内側耐熱絶縁材料27に一次巻線28を巻回するので、所定の一次側端部絶縁距離h1は所定の二次側端部絶縁距離h2より大きくなる。
【0029】
また、主絶縁部26の厚さCを、油入変圧器やモールド変圧器の主絶縁部の厚さより大きい厚さで形成するのは、一次巻線18と二次巻線24との間の距離を大きくし、油入変圧器やモールド変圧器と同等の絶縁強度を得られるようにするためである。
【0030】
図5は、巻線14を鉄心に装着した状態を示す断面図である。巻線14には、鉄心13の内側の巻芯23の端部と主絶縁部26の端部との間にエンド絶縁部30が橋絡して設置されている。エンド絶縁部30は鉄心13と巻線14との絶縁距離を保つものである。
【0031】
主絶縁部26の端部にはエンド絶縁部30が設けられ、しかも主絶縁部26の端部から所定の一次側端部絶縁距離h1を確保して一次巻線28を形成しているので、鉄心13と一次巻線28との間の絶縁強度の強化を図ることができる。同様に、巻芯23の端部にはエンド絶縁部30が設けられ、しかも巻芯23の端部から所定の二次側端部絶縁距離h2を確保して二次巻線24を形成しているので、鉄心13と二次巻線24との間の絶縁強度の強化を図ることができる。なお、一次側端部絶縁距離h1を二次側端部絶縁距離h2より大きくしているのは、一次側電圧が二次側電圧より大きいからである。
【0032】
なお、外箱11内に吸湿材を入れて運転前の湿気を除去し、運転前に吸湿材を除去するようにしてもよい。運転後は外箱11の内部が高温となるため湿気が一部除去される可能性があることによる。
【0033】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、巻線14の一次巻線28を既存の線径より細い線径の巻線で形成し、巻線14の劣化進展と外箱11の劣化進展用とを合わせるようにしたので、乾式変圧器の小型軽量化を図ることができ、また乾式変圧器全体としての劣化進展がバランスの良い劣化進展となる。
【0034】
また、主絶縁部26の厚さを油入変圧器やモールド変圧器の主絶縁部の厚さより大きい厚さで形成して一次巻線28と二次巻線24との絶縁距離を確保したので、空気を絶縁体とする乾式変圧器であっても絶縁強度を保つことができる。
【0035】
エンド絶縁部30と一次巻線28との間は所定の一次側端部絶縁距離h1を保って鉄心13との絶縁距離を確保し、また、エンド絶縁部30と二次巻線24との間は所定の二次側端部絶縁距離h2を保って鉄心13との絶縁距離を確保するので、空気を絶縁体とする乾式変圧器であっても絶縁強度を保ちつつ巻線14を小型化できる。
【0036】
また、外箱11の内壁と巻線14との間隔を既存の間隔より大きく保って外箱11の内壁と巻線14との絶縁距離を確保したので、絶縁強度を確保して外箱11にコンパクトに巻線14を収納できる。さらに、外箱11の底部15には外気を採り入れるための冷却穴22を設けたので、一次巻線28を細くしたことに伴う一次巻線28の発熱を外部に放熱することができる。さらに、外箱11内に避雷器19を収納可能としたのでハンガー形式とすることができる。
【0037】
これにより、A種絶縁材料を乾式で使用しても、絶縁油入りの油入変圧器と大きさが同等で安価な乾式変圧器を提供でき、しかも、油入変圧器ではないので漏油がなく環境に優しい変圧器を提供できる。
【符号の説明】
【0038】
11…外箱、12…吊り金具、13…鉄心、14…巻線、15…底部、16…巻線搭載板、17…一次ケーブル、18…一次ブッシング、19…避雷器、20…二次ケーブル、21…二次ブッシング、22…冷却穴、23…巻芯、24…二次巻線、25…耐熱絶縁紙、26…主絶縁部、27…内側耐熱レジン紙、28…一次巻線、29…外側耐熱レジン紙、30…エンド絶縁部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心に巻回された巻線を外箱に収納して形成された乾式変圧器において、前記巻線は、巻芯の端部から所定の二次側端部絶縁距離を保って前記巻芯の幅より短い幅で前記巻芯に巻回された二次巻線と、前記二次巻線の巻回幅と同じ幅で前記二次巻線に巻回された耐熱絶縁材料と、前記耐熱絶縁材料の外側に前記巻芯の幅と同じ幅で既存の厚さより大きい厚さで形成された主絶縁部と、前記主絶縁部の端部から前記二次端部絶縁距離より大きい所定の一次側端部絶縁距離を保って巻回された内側耐熱絶縁材料と、前記内側耐熱絶縁材料に巻回され既存の線径より細い線径の巻線で形成された一次巻線と、前記一次巻線の巻回幅と同じ幅で前記一次巻線に巻回された外側耐熱絶縁材料と、前記鉄心の内側の前記巻芯の端部と前記主絶縁部の端部との間に橋絡して設置され前記鉄心との絶縁距離を保つエンド絶縁部とを備え、前記外箱は底部に外気を採り入れるための冷却穴を有し、前記外箱の内壁と前記巻線との間隔を既存の間隔より大きく保って前記巻線を前記外箱の内部に配置し、前記巻線の上部に避雷器を設置したことを特徴とする乾式変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−199143(P2011−199143A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66295(P2010−66295)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】