説明

乾式複合ベルト

【課題】凹凸部の摩耗を抑制し、かつ凸部の強度を確保して、張力帯の発熱抑制効果を維持できる乾式複合ベルトを提供する。
【解決手段】無端状の張力帯10と、張力帯10に長手方向に等ピッチ間隔で係止された多数のブロック1とからなり、ブロックの一主面の上下方向中央部に凸部8が設けられ、他主面の上下方向中央部に隣合うブロックの凸部と嵌合する凹部7が設けられる。凸部8および凹部7が樹脂層のみに形成されており、凸部8を横長な長円柱状とするとともに、凹部7を凸部が嵌合できる横長な長円形状の穴とした。ベルト屈曲時に凹部7が凸部8の直線部に線接触するため、凸部8の摩耗が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ベルト式無段変速機などに用いられる乾式複合ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車用変速機としてVベルト式無段変速機の開発が進められ、一部実用化されている。このうち、乾式の無段変速機に用いられるVベルトは、無端状の張力帯と、張力帯を嵌合する嵌合部を有し、張力帯に長手方向に等ピッチ間隔で係止された多数のブロックとからなる複合ベルトである。ブロックは、金属などよりなる芯材と、芯材の表面を被覆する樹脂層とで構成され、ブロックの左右両側面に設けられるプーリとの摩擦面を樹脂層で形成することで、高負荷伝動に適したVベルトが提案されている。
【0003】
特許文献1には、ブロックの一主面の上下方向中央部に凸部を設け、他主面の上下方向中央部に隣合うブロックの凸部と嵌合する凹部を設け、凸部および凹部を樹脂層のみに形成した乾式複合ベルトが提案されている。上記凹凸部を設けることで、左右一対の張力帯により保持されているブロックのモーメント挙動を前後のブロックの凹凸部が相互に干渉することにより打ち消しており、結果として張力帯の発熱を抑制し、張力帯への熱劣化ダメージを最小限に抑える効果を持つ。
しかしながら、上記構造の場合には、ベルトが屈曲したとき、凹凸部が点接触となり、しかも樹脂層同士の接触になるので、摩耗が激しく、摩耗による凹凸部のガタで張力帯に繰り返し曲げ応力がかかり、張力帯の発熱抑制効果を失うという問題がある。
【0004】
特許文献2には、ブロックの凹部と凸部とをそれぞれ断面円弧状とした乾式複合ベルトが提案されている。
この場合には、凹凸部が円弧面で接触するため、摩耗は比較的少なくて済む。しかしながら、凹凸部を形成するために、樹脂層だけでなく芯材も加工しなければならないため、加工が困難でコスト上昇を招く欠点がある。凹凸部を樹脂層だけに設ける構造も考えられるが、これでは嵌合深さや角度が浅くなるため、凸部が凹部に対して乗り上げる可能性があり、また凸部の強度が低くなって凸部が欠落する可能性があり、張力帯の耐久性が低下する問題がある。
【特許文献1】特開平10−73149号公報
【特許文献2】実開平3−62251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、凹凸部の摩耗を抑制し、かつ凸部の強度を確保して、張力帯の発熱抑制効果を維持できる乾式複合ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、無端状の張力帯と、上記張力帯を嵌合する嵌合部を有し、上記張力帯に長手方向に等ピッチ間隔で係止された多数のブロックとからなり、上記ブロックは、芯材と、芯材の表面を被覆する樹脂層とを備え、上記ブロックの一主面の上下方向中央部に凸部が設けられ、他主面の上下方向中央部に隣合うブロックの凸部と嵌合する凹部が設けられ、上記凸部および凹部が樹脂層に形成された乾式複合ベルトにおいて、上記凸部を上記ブロックの幅方向に延びる長円柱状または長方形角柱状とするとともに、上記凹部を上記凸部が嵌合できる長円形状または長方形状の穴としたことを特徴とする乾式複合ベルトを提供する。
【0007】
ベルトがプーリに巻きついて回転するとき、ベルトは屈曲させられる。このとき、隣合うブロックの凸部と凹部とが嵌合しているため、ブロックの上下方向のずれが抑制され、張力帯にかかる繰り返し曲げ応力を緩和できる。特に、凸部が横長な長円柱状または長方形角柱状とされ、凹部が同じく長円形状または長方形状の穴されているので、ベルトが屈曲したとき、凸部と凹部とが線接触となり、樹脂層のみに凹凸部を設けても凸部の摩耗を低減でき、がたの発生を抑制できる。
また、長円柱状または長方形角柱状の凹凸部の接触部が、円柱状に比べて増加するため、上下方向の寸法を従来の円柱状の場合に比べて小さくでき、凸部の高さが同じでも、凹凸の嵌合深さを大きくできる。その結果、ブロックの上下方向の動きを一層抑制でき、張力帯にかかる応力を軽減できる。
【発明の効果】
【0008】
以上の説明で明らかなように、請求項1に係る発明によれば、ブロックの一主面に横長な長円柱状または長方形角柱状の凸部を設け、他主面に凸部が嵌合する長円形状または長方形状の穴を設けたので、ベルトの屈曲時に凸部と凹部とが線で接触し、樹脂層よりなる凸部の摩耗を低減でき、がたの発生を抑制できる。また、凸部が従来の半球状凸部ではないので、凹凸の嵌合深さおよび角度を深くでき、凸部の強度を確保できるとともに、張力帯の発熱抑制効果を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
乾式複合ベルトAは、図1〜図3に示すように、両側部に左右一対の嵌合溝2が形成された複数のブロック1を備えており、これら一対の嵌合溝2にそれぞれ無端状の張力帯10が嵌合され、複数のブロック1が一対の張力帯10によって長手方向に等ピッチで係止されている。張力帯10のゴム部の内部には、複数のエンドレスの芯線11が幅方向に平行に埋め込まれている。
【0011】
ブロック1は、芯材である金属製のコア1aと、このコアの周囲を被覆する耐摩耗性樹脂層1bとで構成されたものであり、少なくともプーリと接触する両側面3は樹脂層1bで被覆されている。嵌合溝2の上下内面には、コグと呼ばれる突起部4,5が嵌合溝2の奥部から開口部に向かって連続的に設けられ、これら突起部4,5が張力帯10の表裏面に形成された凹溝12,13に係合することで、ブロック1はベルト長手方向に等ピッチで係止されている。なお、ここでは上側の突起部4は断面方形であり、下側の突起部5は断面円弧状に形成されている。
【0012】
この実施例のブロック1は、その上下方向中央部が最も厚肉であり、上下両端部にかけて漸次薄肉に形成されている。線6は、ブロック1の幅方向中央部のセンターピラー部に設けられた稜線を示す。ブロック1の一主面の上下方向中央部(センターピラー部)に凹部7が形成され、他主面の上下方向中央部(センターピラー部)に隣合うブロック1の凹部7に対して嵌合する凸部8が形成されている。凹部7および凸部8は樹脂層1bのみに形成されている。凸部8は、ブロック1の幅方向に延びる横長な長円柱状とされており、凹部7も凸部8が嵌合できる長円形状の穴とされている。凸部8の上下方向中央部には、山高な尾根部8aが設けられている。これら凹凸部7,8の嵌合によって、隣合うブロック1同士が上下,左右方向に位置決めされる。
【0013】
ここで、凹部7および凸部8の作用について、図4,図5を参照して説明する。
図4の(a)は、ベルト非屈曲時における凹凸部の嵌合状態を示し、図4の(b)は、ベルト屈曲時における凹凸部の嵌合状態を示す。
ベルトの非屈曲時には、凸部8の尾根部8aが凹部7の底面に当接している。ベルトの屈曲時には、隣合うブロック1同士が相対的に傾斜するので、凹部7の上下一方の縁部7aが凸部8の上下一方の縁部8bに接触する。
【0014】
図5の(a)のように、円柱状の凸部20の場合には、破線で示すように上下の縁部21が凹部に対してほぼ点接触するのに対し、図5の(b)のように横長な長円柱状の凸部8の場合には、破線で示すように上下の縁部(直線部)8bで凹部7の縁部7aに対して線接触する。つまり、接触領域が円柱状の凸部20に比べて長くなるため、ベルトの屈曲が繰り返されても、接触部の摩耗が低減される。
【0015】
図4では、ベルト屈曲時に凹部7の上下一方の縁部7aが凸部8の上下一方の縁部に接触する例について説明したが、凸部8の尾根部8aの頂角がブロック1の稜線6における頂角より大きい場合は、ベルト屈曲時に凸部8の頂面の上下いずれかの縁部が凹部7の底面に接触する。この場合も、凸部8の直線部8bが凹部8の底面に線接触するので、摩耗が低減される。
【実施例2】
【0016】
図6は第1実施例の凸部8と第2実施例の凸部8’とを対比して示したものである。
図6の(a)は図5の(b)に示した第1実施例の長円柱状の凸部8を示し、図6の(b)は上下方向の幅寸法を短くした第2実施例の長円柱状の凸部8’を示す。上下方向の幅寸法をそれぞれW1,W2とし、直線部8bの長さをそれぞれL1,L2とすると、次のように設定されている。なお、両凸部8,8’の突出高さH1,H2は等しい。
W1>W2
L1<L2
H1=H2
【0017】
図7は、上記2種類の凸部8,8’において、凹部7,7’との嵌合状態を示す。
幅寸法W1が広い凸部8の場合は、図7の(a)に示すように、凹部7との嵌合深さD1が浅いのに対し、幅寸法W2を狭くした凸部8’では、凹部7’との嵌合深さD2が深くなる。
D1<D2
このように、凸部の突出高さH1,H2は等しくても、上下方向の幅寸法W2を狭くすることで、凹部7との嵌合深さD2を深くでき、かつ直線部L2を長くできる。そのため、ブロック1の上下方向の動きをさらに効果的に抑制できる。
なお、凸部8’の場合、幅寸法W2が狭い分だけ凸部8に比べて強度が低くなるが、円柱形凸部(図5の(a)参照)に比べて横方向の長さが長いので、凸部8’が折損する恐れがない。
【実施例3】
【0018】
図8は第1実施例の凸部8と第3実施例の凸部8''とを対比して示したものである。
第1,第2実施例では、凸部および凹部を横長な長円柱状としたが、上下に直線部を持つ形状であれば、図8の(b)に示すような略長方形柱状であってもよい。略長方形柱状の凸部8''の場合、幅寸法W1,W3が同じでも、直線部8bの長さL3が長円柱状の凸部8に比べて長くなるため、単位長さ当たりの接触圧が小さくなり、摩耗をさらに抑制できる。
【0019】
本発明は上記実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、凸部8の中央部に尾根部8aを有する例について説明したが、凸部8が尾根部を有しないもの、つまり頂面が平坦なものでもよい。ベルト屈曲時に尾根部を有しない凸部の場合には、凸部8の頂面の上下一方の縁部が凹部7の底面に接触する。この場合も、上記と同様に凸部8の直線部8bが凹部8の底面に線接触するので、摩耗が低減される。
また、ブロック1の上下方向中央部が最も厚肉な構造を持つ例について説明したが、これは例えば特許第3267596号公報,特許第3290647号公報に記載のようなベルトの外側からテンションローラで押圧してベルト張力を得る方式の無段変速機に適した構造である。すなわち、プーリに沿って屈曲する方向と、テンションローラに沿って屈曲する方向とが逆向きの場合に適した構造である。一方、テンションローラで外側から押圧しない方式の無段変速機に用いられる複合ベルトの場合には、上半分に比べて下半分の厚みが薄くなるような形状のブロックを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる乾式複合ベルトの一部の斜視図である。
【図2】本発明にかかるブロックの正面図、背面図および側面図である。
【図3】ベルト屈曲時における本発明にかかるブロックの断面図である。
【図4】ベルトの非屈曲時と屈曲時の凹凸部の拡大断面図である。
【図5】従来の円柱形凸部と本発明にかかる長円柱形凸部とを対比して示す正面図である。
【図6】本発明にかかる凸部の第1実施例と第2実施例とを対比して示す正面図である。
【図7】図6に示す2つの凸部が凹部と嵌合した状態の断面図である。
【図8】本発明にかかる凸部の第1実施例と第3実施例とを対比して示す正面図である。
【符号の説明】
【0021】
A 乾式複合ベルト
1 ブロック
1a コア
1b 樹脂層
2 嵌合溝
7 凹部
8 凸部
8a 尾根部
8b 直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の張力帯と、上記張力帯を嵌合する嵌合部を有し、上記張力帯に長手方向に等ピッチ間隔で係止された多数のブロックとからなり、
上記ブロックは、芯材と、芯材の表面を被覆する樹脂層とを備え、
上記ブロックの一主面の上下方向中央部に凸部が設けられ、他主面の上下方向中央部に隣合うブロックの凸部と嵌合する凹部が設けられ、上記凸部および凹部が樹脂層に形成された乾式複合ベルトにおいて、
上記凸部を上記ブロックの幅方向に延びる長円柱状または長方形角柱状とするとともに、上記凹部を上記凸部が嵌合できる長円形状または長方形状の穴としたことを特徴とする乾式複合ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−183800(P2006−183800A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378856(P2004−378856)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)