説明

乾燥装置、記録装置

【課題】 被噴射媒体に噴射された液体を乱すことなく、被噴射媒体上の液体を効率よく乾燥させることができる乾燥装置を提供すること。
【解決手段】 乾燥装置90は、液体(L)が噴射された被噴射媒体(F)に対して第1液体成分(水分)を蒸発させる第1乾燥部(40)と、該第1乾燥部(40)より被噴射媒体(F)の送り方向下流側に設けられ、前記第1液体成分(水分)より高沸点である第2液体成分(有機溶剤)を蒸発させる第2乾燥部(50)と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体が噴射された被噴射媒体の表面の液体を乾燥させる乾燥部を備えた乾燥装置および該乾燥装置を備えた記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンタ、ワイヤドットプリンタ、レーザープリンタ、ラインプリンタ、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、記録装置は、予熱ランプと、送風手段とを有していた。このうち、前記予熱ランプは、駆動ローラを加熱するように設けられていた。そして、該駆動ローラが、媒体が印刷ゾーンを通る前において、媒体を加熱するように構成されていた。一方、前記送風手段は、印刷ゾーンにおいて印刷直後の媒体に対して強い風を与えて加熱するように構成されていた。
【特許文献1】特開平6−126952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、印刷ゾーンでの加熱は、記録ヘッドのノズルの特性に影響を与えない程度にしなければならない。ノズルの詰まり、ノズルにおけるインクの粘度が変化して吐出不良が発生、吐出したインク滴の軌道の変化が生じるからである。従って、媒体を十分に加熱することができず、インクを十分に乾燥させることができない虞がある。
【0004】
また、予熱ランプによって印刷前に予め加熱しているが、徐々に媒体の熱が下がるため、印刷直後において媒体上のインクの粘度を急上昇させるには不十分である。即ち、媒体上のインクの粘度は、比較的低いままである。従って、印刷直後に強い風を与えると、インクが乱れる虞がある。具体的には、媒体上の乾燥する前のインクが、強い風を受けて媒体上を移動することにより、印刷が乱れる虞がある。特に、媒体がインクの成分中の水分等が染み込まないフィルム材である場合、印刷が乱れる虞が大きい。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、被噴射媒体に噴射された液体を乱すことなく、被噴射媒体上の液体を効率よく乾燥させることができる乾燥装置および該乾燥装置を備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の乾燥装置は、液体が噴射された被噴射媒体に対して第1液体成分を蒸発させる第1乾燥部と、該第1乾燥部より被噴射媒体の送り方向下流側に設けられ、前記第1液体成分より高沸点である第2液体成分を蒸発させる第2乾燥部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、前記乾燥装置は、前記第1乾燥部と、前記第2乾燥部とを備えている。従って、液体が噴射された被噴射媒体に対して、先ず、前記第1液体成分として例えば水分を蒸発させることができる。次に、前記第2液体成分として例えば有機溶剤を蒸発させることができる。このとき、先ず、水分を蒸発させて液体の粘度を高くすることができる。そして、粘度が高められた液体を一気に乾燥させることができる。例えば、高温で強風を与えて一気に乾燥させることができる。その結果、効率よく乾燥することができる。このとき、被噴射媒体上の液体が、強風によって乱れる虞がない。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1乾燥部は、熱伝導式であることを特徴とする。
ここで、「熱伝導式」とは、物体の内部を通って高温部から低温部へ熱を伝える方式をいう。即ち、高温の物体が被噴射媒体と接触することにより、被噴射媒体側へ熱を伝導する方式である。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記第1乾燥部は、熱伝導式である。即ち、気体や液体などの流体によって熱を伝える「対流式」ではなく、物体が被噴射媒体と接触することにより熱を伝導する方式である。従って、水分を多く含んだ状態の液体が、気流である風によって、乱れる虞がない。即ち、風を使用せずに熱を伝えて乾燥することができるので、液体の位置を乱さずに粘度を上昇させることができる。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記第2乾燥部は、対流式であることを特徴とする。
ここで、「対流式」とは、前述したように気体や液体などの流体によって熱を伝える方式をいう。
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様と同様の作用効果に加え、前記第2乾燥部は、対流式である。従って、粘度が上昇した液体に対して、強風を送って一気に有機溶剤を蒸発させることができる。その結果、効率よく液体を乾燥させることができる。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記第2乾燥部は、温風を発生させる構成であることを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第3の態様と同様の作用効果に加え、前記第2乾燥部は、温風を発生させる構成である。従って、単なる送風と比較して、効率よく有機溶剤を蒸発させることができる。
【0012】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記第2乾燥部における被噴射媒体を送る第1ローラは、被噴射媒体の裏面と接触する構成であることを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、前記第2乾燥部における被噴射媒体を送る第1ローラは、被噴射媒体の裏面と接触する構成である。ここで、前記第2乾燥部は、熱源を使用して温風を発生させる構成である。従って、前記第1ローラは熱を持つ。
【0013】
ここで、仮に、熱を持ったローラが被噴射媒体の表面の半乾燥状態の液体と接触した場合、前記ローラから液体の乾燥した外層部に熱が伝導される。すると、液体の乾燥した外層部に覆われた未乾燥の内層部の有機溶剤の揮発成分が、前記ローラと前記乾燥した外層部との接触箇所へ移動する。そして、蒸されたような状態となり、前記乾燥した外層部を溶かしてしまう虞がある。所謂、メルト現象である。係る場合、溶けた前記外層部は、前記ローラに付着する。そして、該ローラが回転すると、溶けた前記外層部は、被噴射媒体から剥がれてしまう虞がある。
【0014】
そこで、本態様は、裏面と接触する構成であるので、前記メルト現象を防止することができる。その結果、液体が被噴射媒体から剥がれる虞がない。
また、仮に、前記第2乾燥部における被噴射媒体を送るローラが表面と接触する構成である場合、該ローラが液体の乾燥の邪魔となる。
そこで、本態様は、裏面と接触する構成であるので、液体の乾燥の邪魔となる虞がない。
【0015】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記第2乾燥部より送り方向下流側に設けられ、被噴射媒体の表面と接触する第2ローラと、該第2ローラを冷却する冷却手段と、を備えていることを特徴とする。
本発明の第6の態様によれば、第5の態様と同様の作用効果に加え、前記第2ローラと、前記冷却手段とを備えている。従って、前述したメルト現象を防止することができる。被噴射媒体が一時停止しながら送り方向下流側へ送られる所謂、間欠送りの場合、一時停止した際に、前記ローラから液体の乾燥した外部へ熱が伝導されやすく前述したメルト現象が生じやすい傾向にあるので、係る場合に特に有効である。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1から第6のいずれか一の態様において、前記被噴射媒体は、フィルム材であることを特徴とする。
本発明の第7の態様によれば、第1から第6のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記被噴射媒体は、フィルム材である。係る場合、液体の水分および有機溶剤は、フィルム材に染み込まず吸収されないので、乾燥させる際に液体の乱れが特に生じやすい。係る場合、前記第1乾燥部および前記第2乾燥部を有する構成は、特に有効である。
【0017】
本発明の第8の態様の記録装置は、被記録媒体の表面に対してインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドと対向し、被記録媒体を裏面から支持する媒体支持部と、前記記録ヘッドより被記録媒体の送り方向下流側において、被記録媒体上のインクを乾燥する乾燥部と、を備えた記録装置であって、前記媒体支持部は、副乾燥部として上記第1から第7のいずれか一の態様の前記第1乾燥部を有し、前記乾燥部は、主乾燥部として上記第1から第7のいずれか一の態様の前記第2乾燥部を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の第8の態様によれば、前記媒体支持部は、副乾燥部として上記第1から第7のいずれか一の態様の前記第1乾燥部を有し、前記乾燥部は、主乾燥部として上記第1から第7のいずれか一の態様の前記第2乾燥部を有する。従って、前記記録装置は、上記第1から第7のいずれか一の態様と同様の作用効果を得ることができる。
また、前記媒体支持部の前記第1乾燥部の温度設定を、前記第2乾燥部の温度設定より低温に設けることができる。そして、前記第1乾燥部の温度設定を、前記記録ヘッドの特性に影響を与えない程度に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る「記録装置」或いは「液体噴射装置」の一例としてのインクジェットプリンタ(以下「プリンタ」と言う)1の全体の概略を示す側面図である。
ここで、液体噴射装置とは、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッドから記録紙等の被記録材へインクを噴射して被記録材への記録を実行するインクジェット式記録装置、複写機及びファクシミリ等の記録装置に限らず、インクに代えて特定の用途に対応する液体を前述した記録ヘッドに相当する液体噴射ヘッドから、被記録材に相当する被噴射材に噴射して、液体を被噴射材に付着させる装置を含む意味で用いる。
【0020】
またさらに、液体噴射ヘッドとしては、前述した記録ヘッド以外に、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料を噴射する試料噴射ヘッド等が挙げられる。
【0021】
図1に示す如く、プリンタ1は、給送部10と、搬送部20と、記録部30と、乾燥装置90と、排出部70とを備えている。
このうち、乾燥装置90は、後述する主乾燥部50および副乾燥部40を有する。
また、給送部10は、被噴射媒体および被記録媒体の一例であるロール状のフィルム材Fを搬送部20へ給送することができるように設けられている。
【0022】
具体的には、ロール媒体ホルダ11を有し、ロール媒体ホルダ11がロール状のフィルム材Fを保持している。そして、ロール状のフィルム材Fを回動させることにより、送り方向下流側の搬送部20へフィルム材Fを給送することができるように構成されている。
尚、本実施形態では、被記録媒体の一例としてフィルム材Fを挙げて説明するが、ロール紙でもよいのは勿論である。
【0023】
また、搬送部20は、給送部10から送られたフィルム材Fを記録部30へ搬送することができるように設けられている。具体的には、第1送りローラ21を有し、送られたフィルム材Fをさらに送り方向下流側の記録部30へ搬送することができるように構成されている。
またさらに、記録部30は、搬送部20から送られたフィルム材Fに対して液体の一例であるインクLを吐出して記録を実行することができるように設けられている。
【0024】
具体的には、記録部30は、プラテン34と、キャリッジ31と、記録ヘッド32とを有している。このうち、プラテン34は、フィルム材Fを裏面から支持することができるように設けられている。また、キャリッジ31は、プラテン34と対向し、図示しない第1ガイド軸に案内されながら、図示しないキャリッジモータの動力によって、フィルム材Fの送り方向Yに対する幅方向Xに移動することができるように設けられている。
【0025】
また、記録ヘッド32は、キャリッジ31に設けられ、幅方向Xにおいてキャリッジ31と一体に移動することができるように設けられている。さらに、記録ヘッド32は、送り方向Yにおいて、キャリッジ31に対して相対的に移動することができるように構成されている。具体的には、図示しない第2ガイド軸に案内されながら、図示しない記録ヘッドモータの動力によって、送り方向Yに移動することができるように設けられている。即ち、記録ヘッド32は、プラテン34と対向する範囲において、送り方向Yおよび幅方向Xへ移動することができるように構成されている。そして、記録ヘッド32におけるプラテン34と対向する面に設けられたノズル列33からインクLを吐出することにより、フィルム材Fに記録を実行することができる。
【0026】
またさらに、プラテン34には、詳しくは後述するように、フィルム材Fに吐出されたインクLにおけるインク成分中の水分を蒸発させる副乾燥部40が設けられている。
【0027】
また、プラテン34より送り方向下流側には、第2送りローラ43が設けられている。そして、第2送りローラ43は、記録されたフィルム材Fを送り方向下流側である主乾燥部50へ送ることができるように構成されている。
【0028】
またさらに、主乾燥部50は、詳しくは後述するように、フィルム材Fに吐出されたインクLにおけるインク成分中の水分より高沸点である有機溶剤を蒸発させることできるように構成されている。
ここで、有機溶剤とは、インクLに含まれている水分以外の液体をいう。
また、主乾燥部50の出口64近傍には、第3送りローラ65が設けられている。第3送りローラ65は、フィルム材Fの裏面と接触するように配設され、送り方向下流側である排出部70へフィルム材Fを送ることができるように構成されている。
【0029】
またさらに、排出部70は、主乾燥部50から送られたフィルム材Fをさらに送り方向下流側へ送り、プリンタ1の外部へ排出することができるように設けられている。具体的には、排出部70は、第4送りローラ71と、第5送りローラ72と、第6送りローラ73と、第7送りローラ74と、巻き取りローラ75とを有している。このうち、第4送りローラ71および第5送りローラ72は、フィルム材Fの表面と接触するように配設されている。また、第6送りローラ73および第7送りローラ74はローラ対を成すように配設されている。そして、第6送りローラ73および第7送りローラ74によって排出されたフィルム材Fは、巻き取りローラ75によって巻き取られるように設けられている。
【0030】
図2に示すのは、本発明に係るプリンタの記録部の概略を示す側面図である。
図2に示す如く、プラテン34には、副乾燥部40が設けられている。具体的には、副乾燥部40は、熱伝導式加熱手段41の一例である第1ニクロム線42を有している。第1ニクロム線42は、プラテン34全領域の内部に、プラテン34の上面から一定の距離となるように配設されている。そして、通電されることにより、第1ニクロム線42自体が発熱し、プラテン34を介して接触しているプラテン34上のフィルム材Fの裏面へ熱を伝達することができる。
【0031】
ここで、第1ニクロム線42は、プラテン34の全領域に設けられているので、プラテン34の全領域において発熱することができる。そして、プラテン34上は、凹凸のない滑らかな面となっているので、プラテン34の上面は、フィルム材Fと均一に接触することができる。また、第1ニクロム線42からプラテン34の上面までの距離は一定である。従って、プラテン34上のフィルム材Fに対して熱を均一に伝導することができる。即ち、フィルム材Fを均一に温めることができる。
【0032】
本実施形態のフィルム材Fは、プラスチック系フィルムである。
また、本実施形態のインク成分の内訳は、水分量が約70%、有機溶剤が約20%、その他10%である。このうち、水分の沸点は100度である。また、有機溶剤の沸点は150〜250度である。
またさらに、本実施形態のプラテン34上の温度は、40〜50度となるように構成されている。
【0033】
記録部30のプラテン34上に送られたフィルム材Fは、一時停止する。そして、記録ヘッド32がプラテン34の送り方向下流側と対向する位置に位置している状態で、キャリッジ31が幅方向Xへ移動し、インクLが吐出され記録が実行される。次に、記録ヘッド32がキャリッジ31に対して送り方向上流側へノズル列33の長さ分移動する。そして、キャリッジ31が幅方向Xへ移動し、インクLが吐出され記録が実行される。
【0034】
さらに、記録ヘッド32がキャリッジ31に対してさらに送り方向上流側へノズル列33の長さ分移動する。そして、キャリッジ31が幅方向Xへ移動し、インクLが吐出され記録が実行される。これを、記録ヘッド32がプラテン34の送り方向上流側と対向する位置まで移動し、該状態でキャリッジ31が幅方向Xへ移動し、インクLが吐出され記録が実行されるまで、複数回繰り返す。即ち、複数回走査する。
【0035】
その後、フィルム材Fは、プラテン34の送り方向Yの長さ分、即ち、上記複数回の走査によって記録された領域の送り方向Yの長さ分だけ、送り方向下流側へ送られ、再び一時停止する。そして、複数回の走査によってプラテン34上のフィルム材Fに対して記録が実行される。所謂、間欠送りで記録を実行する構成である。
本実施形態において、フィルム材Fがプラテン34上に一時停止する時間は、5〜50秒程である。
【0036】
この一時停止している間に、フィルム材Fの表面に吐出されたインクLの成分中の略全ての水分を蒸発させることができる。プラテン34の温度は、水分の沸点温度より低いが、一時停止する時間の長さと、インク中の水分量との関係で十分に水分を蒸発させることができるように構成されている。言い換えると、水分を蒸発させるための十分な熱エネルギーを加えることができるように構成されている。従って、インクLの粘度を上昇させることができる。
【0037】
尚、副乾燥部40には、有機溶剤を蒸発させる程の乾燥力はないものとする。
ここで、副乾燥部40は、対流式ではなく、熱伝導式である。従って、記録ヘッド32のノズル列33に温風が直に吹付けられる虞がない。その結果、記録ヘッド32のノズル列33の状態に影響を与える虞がない。具体的には、ノズル内のインクLが乾燥することによって粘度が上昇し、吐出不良となる虞がない。また、副乾燥部40は、主乾燥部50と比較して低温である。低温の程度は、記録ヘッド32のノズル列33の状態に影響を与える虞がない程度である。
【0038】
図3に示すのは、本発明に係るプリンタの主乾燥部の内部の概略を示す側面図である。
図3に示す如く、主乾燥部50は、対流式加熱手段51の一例として乾燥炉52を有する。乾燥炉52の内部には、第1区画板59、第2区画板60、第1通口61、第2通口62、媒体支持面53、第2ニクロム線54、クロスフローファン55、第1軸流ファン56、第2軸流ファン57および第3軸流ファン58が設けられている。
【0039】
このうち、第1区画板59および第2区画板60は、空間A、B、Cを区画するように配設されている。また、第1通口61は、空間Aと空間Cとの間で空気が流れるように設けられている。またさらに、第2通口62は、空間Aと空間Bとの間で空気が流れるように設けられている。また、媒体支持面53は、入り口63から乾燥炉52の内部に送られたフィルム材Fを支持するように設けられている。
【0040】
またさらに、第2ニクロム線54は、通電されることにより、第2ニクロム線54自体が発熱し、第1区画板59によって区画された空間Aの空気を加熱することができるように配設されている。具体的には、第1通口61より空間Aに入ってきた空気を加熱する。また、クロスフローファン55は、第2ニクロム線54によって加熱された空気を、空間Aから第2通口62を介して空間Bへ送り出す流れを発生させる。
ここで、クロスフローファンとは、径が比較的小さく横に長いファンをもつものであって、羽根車の一方の半径方向から吸い込み反対側の半径方向から送風するものをいう。横流ファンともいう。
【0041】
また、第1軸流ファン56〜第3軸流ファン58は、第2区画板60に設けられ、空間Bの温風を空間Cの媒体支持面53上のフィルム材Fの表面に略垂直に当てるように設けられている。フィルム材Fに吹付けられた温風は、媒体支持面53の脇を抜けて第1通口61を介して空間Aへと流れるように構成されている。
本実施形態では、媒体支持面53上における第1軸流ファン56〜第3軸流ファン58が吹付ける温風の温度は、60〜100度である。即ち、副乾燥部40より高温である。そして、水分と比較して蒸発しにくい有機溶剤を、高温で比較的強い風力で一気に蒸発させて、インクLを乾燥させるように構成されている。
【0042】
このとき、フィルム材Fの表面のインクLは、前述したように既に粘度が上昇しているので、一気に強い風を吹付けても、インクLが乱れる虞が殆ど無い。具体的には、インクLが、強く吹かれることによりフィルム材Fの表面上を移動する虞がない。そして、高温で一気に強い風を吹付けることによって、蒸発させにくい有機溶剤を短時間で効率よく蒸発させることができる。
【0043】
また、本実施形態において、フィルム材Fは、前述したように間欠送りされるように構成されている。フィルム材Fが媒体支持面53上に一時停止する時間は、5〜50秒程である。
この一時停止している間に、フィルム材Fの表面に吐出されたインクLの成分中の略全ての有機溶剤を蒸発させることができる。温風の温度は、有機溶剤の沸点温度より低いが、一時停止する時間の長さと、インク中の有機溶剤の量との関係で十分に有機溶剤を蒸発させることができるように構成されている。言い換えると、有機溶剤を蒸発させるための十分な熱エネルギーを加えることができるように構成されている。
【0044】
特に、被記録媒体がインク成分中の水分や有機溶剤が染み込まないフィルム材Fである場合、本実施形態の副乾燥部40および主乾燥部50による二段階の乾燥は有効である。また、被記録媒体が紙である場合でも、効率よくインクLを乾燥させることができるので有効である。またさらに、インクLを通常より多量に吐出する記録方式の場合にも、効率よくインクLを乾燥させることができるので有効である。
尚、クロスフローファン55および第1区画板59は、入り口63から入って出口64から出るフィルム材Fの妨げとならないように、幅方向Xにおいて、フィルム材Fとずれた位置に設けられているものとする。
【0045】
図4に示すのは、本発明に係るプリンタの排出部の概略を示す側面図である。
図4に示す如く、排出部70は、前述したように第4送りローラ71〜第7送りローラ74を有する。さらに、排出部70は、第4送りローラ71および第5送りローラ72を冷却する冷却手段80の一例である第1吸気ファン81および第2吸気ファン82を有している。具体的に、第1吸気ファン81は、比較的冷たい空気を第4送りローラ71に送るように設けられている。そして、第4送りローラ71の温度が所定の温度を超えないようにすることができる。
【0046】
同様に、第2吸気ファン82は、比較的冷たい空気を第5送りローラ72に送るように設けられている。そして、第5送りローラ72の温度が所定の温度を超えないようにすることができる。
また、排出部70は、断熱効果を有する第1仕切り壁83および第2仕切り壁85を有している。具体的に、第1仕切り壁83は、乾燥炉52と第4送りローラ71との間に設けられている。そして、乾燥炉52の熱が第4送りローラ71に伝わりにくくしている。またさらに、第1仕切り壁83は、フィルム材Fを通過させるスリット部84を有している。従って、フィルム材Fが通過する一方で熱が通過しにくくすることができる。
【0047】
同様に、第2仕切り壁85は、乾燥炉52と第5送りローラ72との間に設けられている。そして、乾燥炉52の熱が第5送りローラ72に伝わりにくくしている。
またさらに、乾燥炉52の近傍には、乾燥炉52の周囲の熱をプリンタ1の外部へ排出する排気用ファン66が設けられている。従って、第4送りローラ71および第5送りローラ72に熱が伝わりにくくすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、乾燥炉52の出口64近傍に配設された第3送りローラ65は、近いため乾燥炉52の熱の影響を受けやすく、乾燥炉52の熱によって比較的高温になっている。そして、比較的高温の第3送りローラ65は、フィルム材Fの表面ではなく、裏面と接触するように構成されている。従って、第3送りローラ65によって後述する「メルト現象」が生じる虞がない。
【0049】
またさらに、本実施形態では、乾燥炉52の出口64より送り方向下流側における乾燥炉52の熱の影響を受けやすい範囲において、フィルム材Fの表面と接触する第4送りローラ71および第5送りローラ72は、所定の温度を超えないように構成されている。従って、第4送りローラ71および第5送りローラ72によって後述する「メルト現象」が生じる虞がない。
続いて、「メルト現象」について説明する。
【0050】
図5(A)(B)に示すのは、インクのメルト現象の原理を示す図である。このうち、図5(A)は本願の構成である表面の第4送りローラが所定の温度を超えない低温の場合である。一方、図5(B)は表面のロールが所定の温度を超えた高温の場合である。尚、理解を容易にするため、インクを大きく図示している。
図5(A)(B)に示す如く、フィルム材Fの表面にはインクLが着弾している。そして、着弾したインクLは、前述した副乾燥部40によりインク成分中の略全ての水分が蒸発している。また、前述した主乾燥部50によりインク成分中の略全ての有機溶剤が蒸発している。
【0051】
ところが、温風を当てる対流式であるので、インクLは外側である外層部L1から固まる。そして、内側である内層部L2には、若干の有機溶剤が蒸発せずに残っている場合がある。
仮に、図5(B)に示す如く、乾燥炉52の熱によって高温となったロール100がフィルム材Fの表面と接触した場合を考えるとする。ここで、熱は比較的高温の箇所から比較的低温の箇所へ伝導する性質を有する。
【0052】
従って、ロール100の熱は、インクLの外層部L1を介して内層部L2へ伝導する(図5(B)の黒矢印参照)。このとき、インクLの内層部L2における有機溶剤の蒸発しようとする成分(揮発成分)が、熱の伝導方向上流側へ移動する(図5(B)の白矢印参照)。すると、ロール100とインクLの外層部L1とが接触する箇所の近傍の範囲Dが、僅かではあるが蒸された状態となる。そして、インクLの固まった外層部L1が、徐々に軟化し溶け始める。これが前述した所謂、「メルト現象」である。
【0053】
「メルト現象」が生じると、インクLの溶けた外層部L1がロール100に付着する。そして、ロール100が回転したとき、インクLがフィルム材Fから剥がれる虞がある。特に、フィルム材Fを間欠送りする構成である場合、フィルム材Fにおける表面の特定の箇所が、所定時間の間、高温のロール100と接触するので、「メルト現象」が生じやすい。また、ロール紙の種類が、インクが染み込みにくい種類である場合も同様である。
【0054】
そこで、図5(A)に示す如く、乾燥炉52より送り方向下流側であって、乾燥炉52の熱の影響を受ける虞がある第4送りローラ71(第5送りローラ72も同様)は、前述したように冷却手段80によって比較的低温に保たれている。従って、フィルム材Fを間欠送りする構成であっても、第4送りローラ71からインクLの外層部L1へ熱は殆ど伝導しない。その結果、前述した「メルト現象」が生じる虞がなく、インクLがフィルム材Fの表面から剥がれる虞もない。
【0055】
本実施形態の乾燥装置90は、液体の一例であるインクLが噴射された被噴射媒体の一例であるフィルム材Fに対してインク成分の第1液体成分としての水分を蒸発させる第1乾燥部としての副乾燥部40と、副乾燥部40よりフィルム材Fの送り方向下流側に設けられ、インク成分の水分より高沸点である第2液体成分としての有機溶剤を蒸発させる第2乾燥部としての主乾燥部50と、を備えていることを特徴とする。
【0056】
また、本実施形態において、副乾燥部40は、熱伝導式である熱伝導式加熱手段41を有することを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、主乾燥部50は、対流式である対流式加熱手段51を有することを特徴とする。
また、本実施形態において、主乾燥部50は、第2ニクロム線54によって温風を発生させる構成であることを特徴とする。
【0057】
またさらに、本実施形態において、主乾燥部50におけるフィルム材Fを送る第1ローラとしての第3送りローラ65は、フィルム材Fの裏面と接触する構成であることを特徴とする。
また、本実施形態において、主乾燥部50より送り方向下流側に設けられ、フィルム材Fの表面と接触する第2ローラとしての第4送りローラ71および第5送りローラ72と、第4送りローラ71および第5送りローラ72を冷却する冷却手段80と、を備えていることを特徴とする。
具体的には、冷却手段80としての第1吸気ファン81が、第4送りローラ71を冷却し、冷却手段80としての第2吸気ファン82が、第5送りローラ72を冷却する構成である。
【0058】
本実施形態の記録装置としてのプリンタ1は、被記録媒体の一例であるフィルム材Fの表面に対してインクLを吐出する記録ヘッド32と、記録ヘッド32と対向し、フィルム材Fを裏面から支持する媒体支持部としてのプラテン34と、記録ヘッド32よりフィルム材Fの送り方向下流側において、フィルム材F上のインクLを乾燥する乾燥部としての主乾燥部50と、を備え、プラテン34は、副乾燥部40を有することを特徴とする。
【0059】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るプリンタの全体の概略を示す側面図。
【図2】本発明に係るプリンタの記録部の概略を示す側面図。
【図3】本発明に係るプリンタの主乾燥部の内部の概略を示す側面図。
【図4】本発明に係るプリンタの排出部の概略を示す側面図。
【図5】(A)(B)はインクのメルト現象の原理を示す図。
【符号の説明】
【0061】
1 インクジェットプリンタ、10 給送部、11 ロール媒体ホルダ、20 搬送部、
21 第1送りローラ、30 記録部、31 キャリッジ、32 記録ヘッド、
33 ノズル列、34 プラテン、40 副乾燥部、41 熱伝導式加熱手段、
42 第1ニクロム線、43 第2送りローラ、50 主乾燥部、
51 対流式加熱手段、52 乾燥炉、53 媒体支持面、54 第2ニクロム線、
55 クロスフローファン、56 第1軸流ファン、57 第2軸流ファン、
58 第3軸流ファン、59 第1区画板、60 第2区画板、61 第1通口、
62 第2通口、63 入り口、64 出口、65 第3送りローラ、
66 排気用ファン、70 排出部、71 第4送りローラ、72 第5送りローラ、
73 第6送りローラ、74 第7送りローラ、75 巻き取りローラ、
80 冷却手段、81 第1吸気ファン、82 第2吸気ファン、83 第1仕切り壁、
84 スリット部、85 第2仕切り壁、90 乾燥装置、100 ロール、
F フィルム材、L インク、L1 外層部、L2 内層部、X 幅方向、Y 送り方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が噴射された被噴射媒体に対して第1液体成分を蒸発させる第1乾燥部と、
該第1乾燥部より被噴射媒体の送り方向下流側に設けられ、前記第1液体成分より高沸点である第2液体成分を蒸発させる第2乾燥部と、を備えた乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乾燥装置において、前記第1乾燥部は、熱伝導式である乾燥装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乾燥装置において、前記第2乾燥部は、対流式である乾燥装置。
【請求項4】
請求項3に記載の乾燥装置において、前記第2乾燥部は、温風を発生させる構成である乾燥装置。
【請求項5】
請求項4に記載の乾燥装置において、前記第2乾燥部における被噴射媒体を送る第1ローラは、被噴射媒体の裏面と接触する構成である乾燥装置。
【請求項6】
請求項5に記載の乾燥装置において、前記第2乾燥部より送り方向下流側に設けられ、被噴射媒体の表面と接触する第2ローラと、
該第2ローラを冷却する冷却手段と、を備える乾燥装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乾燥装置において、前記被噴射媒体は、フィルム材である乾燥装置。
【請求項8】
被記録媒体の表面に対してインクを吐出する記録ヘッドと、
該記録ヘッドと対向し、被記録媒体を裏面から支持する媒体支持部と、
前記記録ヘッドより被記録媒体の送り方向下流側において、被記録媒体上のインクを乾燥する乾燥部と、を備えた記録装置であって、
前記媒体支持部は、副乾燥部として請求項1乃至7のいずれか1項に記載の前記第1乾燥部を有し、
前記乾燥部は、主乾燥部として請求項1乃至7のいずれか1項に記載の前記第2乾燥部を有する記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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