説明

乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤

【課題】抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む、乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤の提供。
【解決手段】(a) 黄色ブドウ球菌をタンパク質架橋固定試薬で処理することにより、前記黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質を分子内架橋により固定し、(b) 該タンパク質架橋固定試薬で固定した前記黄色ブドウ球菌を免疫原として動物に投与し、(c) 動物から抗体を得ることにより、作製した、黄色ブドウ球菌の表面に発現するタンパク質分子全体に対する抗体を含む網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体を有効成分として含む、乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を有効成分とする乾癬又はアトピー性皮膚炎の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬及びアトピー性皮膚炎の発症原因は未だ解明されていないが、アレルギー性皮膚疾患であると位置付けられている。アトピー性皮膚炎については様々な遺伝的・環境的要因の複合的かつ複雑な相互作用が発症の中心的な役割を果たすことが知られているが、正確な発症機転についてはほとんど理解されていない(非特許文献1)。発症や進展に関与する可能性のある様々な要因・誘因として、これまで実に多くの因子について研究が行われたが、これらの中にはヒト皮膚常在菌でもある黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を始めとする細菌についての検討も含まれる。しかし、今日までこれら細菌は発症や増悪の要因ではないと結論づけられるに至っている。乾癬の発症機転についてはさらに解明されておらず、治療についても難渋している(非特許文献2)。その結果、現在まで、細菌の繁殖を促進するもののアレルギー機序に作用する副腎皮質ステロイドホルモンがこれらの有用な治療薬として頻用されている。
【0003】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、通性嫌気性のグラム陽性球菌であり、ヒトの皮膚、毛穴、鼻腔内に存在する常在細菌であり、創傷部等からヒト体内に侵入し、各種の化膿性疾患、肺炎、肺血症、髄膜炎等の原因となることが報告されている。また、黄色ブドウ球菌のトキシンは食中毒や毒素性ショック症候群の原因となることが報告されている。
【0004】
細菌菌体、ウイルス等の微生物には数々のタンパク質が発現している。従来はこれらの中から有用と思われる特定の抗原タンパク質分子を選択して、主にモノクローナル抗体を作製し、医療等に応用する試みが行われてきた。しかし、細菌等の表面に発現する単一の抗原分子を認識する抗体によって、細胞そのものを特異的に認識し、標的とすることには限界があった。
【0005】
従来より、細菌、ウイルス等の感染症等の予防や治療には、主として抗生物質が用いられていた。また、弱毒化ウイルスを用いて作製したワクチンを投与して生体内でウイルスに対する抗体を産生させ、ウイルス感染症の予防又は治療に役立てることが行われていた。しかし、抗生物質は細菌により適切な抗生物質を選択する必要があり、また、耐性菌が生じるという問題があった。また、ワクチンはワクチンの安全性を考慮する必要性があり、適用できる感染症は限られていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bieber T, Novak N: Pathogenesis of atopic dermatitis: new developments. Current Allergy and Asthma Reports 2009, 9 291-294
【非特許文献2】Wippel-Slupetzky, K. Stingl, G: Future perspectives in the treatment of psoriasis Current Problems in Dermatology. 2009, 38:172-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗黄色ブドウ球菌抗体、特に黄色ブドウ球菌の表面に発現するタンパク質全体に対する網羅的抗体を有効成分として含む、乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、乾癬及びアトピー性皮膚炎の原因を皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌の皮膚感染及び黄色ブドウ球菌の産生するトキシンによる皮膚掻破部位の糜爛などの皮膚症状である可能性を考え、タンパク質架橋固定試薬で固定した微生物を抗原として用いる網羅的抗表面抗原抗体作成法(特願2008-324257)により抗黄色ブドウ球菌抗体を作製し、該抗黄色ブドウ球菌抗体を用いて乾癬及びアトピー性皮膚炎の治療が可能か否かについて鋭意検討を行った。
【0009】
本発明者らは、黄色ブドウ球菌が産生するトキシンが末梢血中のT細胞を活性化するスーパー抗原であるとの認識の下、まず黄色ブドウ球菌の産生するトキシンが乾癬及びアトピー性皮膚炎の憎悪因子であるとの仮説を立てた。
【0010】
本発明者は、黄色ブドウ球菌の菌体表面をホルムアルデヒドを用いて固定処理したものをそのまま抗原として用いて動物を免疫することにより、固定された抗原タンパク質分子全体に対しての網羅的なポリクローナル抗体を作製した。
【0011】
そして、病巣部位に抗黄色ブドウ球菌表面抗体を持続的に塗布した。この結果、黄色ブドウ球菌が病巣部位より完全に排除され、乾癬やアトピー性皮膚炎の治療が可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む、乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[2] 抗体黄色ブドウ球菌抗体が、(a) 黄色ブドウ球菌をタンパク質架橋固定試薬で処理することにより、前記黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質を分子内架橋により固定し、(b) 該タンパク質架橋固定試薬で固定した前記黄色ブドウ球菌を免疫原として動物に投与し、(c) 動物から抗体を得ることにより、作製した、黄色ブドウ球菌の表面に発現するタンパク質分子全体に対する抗体を含む網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体である、[1]の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[3] タンパク質架橋固定試薬が、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドからなる群から選択される、[2]の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[4] タンパク質架橋固定試薬が1〜38%(v/v)ホルマリンである、[2]の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[5] タンパク質架橋固定試薬による固定を10分〜48時間行う、[2]〜[4]のいずれの乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[6] 免疫原を投与する動物がニワトリである[2]〜[5]のいずれかの乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
[7] 免疫原を投与したニワトリが産生した鶏卵より抗体を得る、[6]の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【発明の効果】
【0013】
従来、乾癬及びアトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌との直接的な因果関係はないものと考えられてきた。本発明の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤は、抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含み、皮膚の患部の黄色ブドウ球菌を排除し、乾癬又はアトピー性皮膚炎の治療に用いることができる。特に本発明の網羅的抗黄色ブドウ球菌抗体は、黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質をタンパク質分子内架橋試薬を用いて分子内架橋により固定して動物に投与して作製され、黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質全体に対する抗体を含む。この網羅的な抗体を含有する抗体組成物は、従来の抗体作製法では得られなかった、黄色ブドウ球菌に対する高い特異性及び感受性を有している。該抗体を含む医薬組成物は、乾癬及びアトピー性皮膚炎の治療に効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アトピー性皮膚炎患者に対する効果を示す写真である(その1)。
【図2】アトピー性皮膚炎患者に対する効果を示す写真である(その2)。
【図3】アトピー性皮膚炎罹患犬に対する効果を示す写真である(その1)。
【図4】アトピー性皮膚炎罹患犬に対する効果を示す写真である(その2)。
【図5】アトピー性皮膚炎罹患犬に対する効果を示す写真である(その3)。
【図6】乾癬患者に対する効果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤は、抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む。該抗黄色ブドウ球菌抗体は、黄色ブドウ球菌の全部又は部分を用いて公知の方法で作製することができる。本発明の抗黄色ブドウ球菌抗体はポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。抗黄色ブドウ球菌抗体は、完全抗体だけでなく、その機能的断片も含む。抗体の機能的断片とは、抗体の一部分(部分断片)であって、抗体の抗原への作用を1つ以上保持するものを意味し、具体的にはF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられる[D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal Antibodies., 1998 T.J.International Ltd]。
【0016】
また、モノクローナル抗体を用いる場合、1種類のみのモノクローナル抗体を用いてもよいが、認識するエピトープが異なる2種類以上、例えば2種類、3種類、4種類又は5種類のモノクローナル抗体を用いてもよい。さらに、本発明の抗黄色ブドウ球菌抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体をも含む。このような抗体としてはキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が挙げられ、いずれも公知の方法を用いて製造することができる。
【0017】
好ましくは以下の網羅的表面抗体であるポリクローナル抗体である。
網羅的表面抗体は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌体表面をホルムアルデヒドを用いて固定処理したものをそのまま抗原として用いて作製する。黄色ブドウ球菌の菌体表面をホルムアルデヒドを用いて固定処理したものをそのまま抗原として用いて抗体を作製することにより、黄色ブドウ球菌に対して網羅的に抗体を作製することができる。ここで、黄色ブドウ球菌に対して網羅的に抗体を作製するとは、黄色ブドウ球菌の表面に発現する多数の抗原タンパク質分子全体に対して一度に抗体を作製することをいい、得られた抗体を網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体と呼ぶ。網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体は黄色ブドウ球菌の表面に発現する多数の抗原タンパク質に対する個々の抗体を含むポリクローナル抗体である。本発明の方法によれば、固定した黄色ブドウ球菌を動物に投与するだけで、表面タンパク質分子の全体に対する抗体を含む網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体を得ることができる。ここで、表面タンパク質分子の全体に対する抗体とは、黄色ブドウ球菌の表面に発現している全てのタンパク質に対する抗体を含むことまでは要求されないが、表面タンパク質のうち、存在量が多いもののほとんどに対する抗体を含むことが望ましい。
【0018】
網羅的抗黄色ブドウ球菌抗体は以下の方法で作製することができる。
最初に、黄色ブドウ球菌をタンパク質分子内架橋固定試薬を用いて固定する。タンパク質分子内架橋固定試薬としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒドの35〜38%、好ましくは37%水溶液であるホルマリンを用いて行う。
【0019】
これらのタンパク質分子内架橋固定試薬を固定試薬として用いた場合、試薬は黄色ブドウ球菌細胞中に浸透し、分子中のアルデヒド基が黄色ブドウ球菌表面のタンパク質のアミノ基(α-アミノ基やリジン残基のε-アミノ基)やSH基に結合して分子間架橋を形成し、タンパク質は凝固変性する。架橋により、タンパク質の立体構造が損なわれ、酵素活性、輸送、分泌などの様々な生物活性が阻害される。タンパク質分子内架橋固定試薬の作用はタンパク質分子の架橋反応であるため、脂質などの物質に対しては固定作用は働かず、脂質等は流出してしまう。
【0020】
市販の35〜38%ホルムアルデヒド水溶液であるホルマリンを用いる場合、固定化は1〜38%(v/v)ホルマリン、好ましくは2〜20%(v/v)ホルマリン、さらに好ましくは5〜10%(v/v)ホルマリンを用いて行なえばよい。用いるホルマリンは、蒸留水、生理食塩水、緩衝液等を用いて調製すればよい。
【0021】
黄色ブドウ球菌をホモジナイズし、該ホモジナイズのペレット1gに対して、ホルマリンを5〜20ml添加する。固定は、黄色ブドウ球菌ホモジナイズにホルマリンを添加した後、攪拌し、4〜30℃で30分〜48時間以上静置することにより行う。生きた黄色ブドウ球菌は、短時間のホルマリン処理で不活化されるが、本発明の方法においては、黄色ブドウ球菌を不活化するのみでは足りず、黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質分子が分子内架橋を生じる程度のホルマリン処理が必要である。
【0022】
固定化した黄色ブドウ球菌ホモジナイズを必要に応じて生理食塩水や緩衝液で希釈、懸濁し公知のアジュバントと混合し、免疫原として動物に投与すればよい。用いる動物としては、マウス、ラット、ヌートリア、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等の哺乳動物、ニワトリ、ダチョウ等の鳥類が挙げられる。この中でも、IgY抗体を含有した鶏卵を得ることができるニワトリ等の鳥類が好ましい。
【0023】
免疫原による動物の免疫は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、一般的方法として、免疫原を動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。免疫は1回でもよいが、2〜10日毎に数回投与するのが望ましい。また、初回投与後5〜10日毎に数回、追加免疫を行なってもよい。
【0024】
黄色ブドウ球菌の免疫原調製方法を以下に挙げる。以下の方法は、一例であり、これらの方法に限定されない。
黄色ブドウ球菌を遠心分離により集め、ペレット状にし、該ペレットをホルマリンに入れ、攪拌により分散させ、30分間静置する。次いで、荒目の濾紙を用いて濾過し、残渣を除去する。濾液を回収し、遠心分離を行い、ペレットにリン酸バッファーを添加し、これを免疫原として用いる。
【0025】
本発明の網羅的抗表面抗体組成物は免疫を行った動物の血清から得ることができる。また、免疫する動物がニワトリの場合、ニワトリが産む鶏卵より得ることができる。最終免疫後、約3カ月で高い抗体価の抗体を含有する鶏卵が得られる。鶏卵の卵黄にはIgYが含まれ、卵白にはIgA及びIgMが含まれる。抗体を全卵から回収した場合、網羅的抗体組成物中にはIgY、IgA及びIgMが含まれ、卵黄から回収した場合、IgYが含まれる。鶏卵を用いて本発明の抗体組成物を調製する場合、全卵を用いてもよいし、卵黄のみを用いてもよい。
【0026】
得られた鶏卵は、割卵し、卵黄及び卵白を一緒に、あるいは卵黄のみを攪拌し、粉末化する。この際、抗体はタンパク質である為に熱に弱く70℃を超えるとその活性を失うので、好ましくは60℃以下で行う。好適には、凍結乾燥、スプレードライ又は温風乾燥により60℃以下で乾燥し粉末化すればよい。粉末化した鶏卵は、必要ならば、さらに粉砕機にかけ細粒粉末とする。この方法で得られた粉末には卵黄の油成分が含まれているので、粉末は湿り気がある。超低温臨界法により完全脱脂することにより、脂分を除いてもよい。
鶏卵から得られた網羅的抗表面抗体組成物を鶏卵抗体と呼ぶことがある。
【0027】
得られた抗体の抗体価は、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光抗体法等を用いて測定することができる。抗体価は、動物から採取した血清を用いて測定すればよい。また、鶏卵を用いる場合、鶏卵より抗体を抽出して抽出物中の抗体価を測定すればよい。
【0028】
本発明の黄色ブドウ球菌に対する網羅的抗体は、乾癬及びアトピー性皮膚炎の予防又は治療に用いることができる。本発明の網羅的抗黄色ブドウ球菌抗体は、黄色ブドウ球菌の表面に発現するタンパク質分子全体に対する抗体を含むため、黄色ブドウ球菌に対する攻撃力が強く、黄色ブドウ球菌を死滅させ、排除・防除することができる。
【0029】
網羅的抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む乾癬、アトピー性皮膚炎の予防又は治療剤は、例えば、動物に投与して用いる。該抗体組成物は、経口ルート、鼻腔ルート、並びに静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内の注射又は非経腸的ルートで投与することができる。特に、軟膏等の塗布剤の形態で皮膚の患部に塗布又は液剤の噴霧により局所投与され得る。該軟膏は、キャリアとして、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、プラスティベース、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グルコール類、高級アルコール、グリセリン、水若しくは乳化剤、懸濁化剤を含む。本発明の医薬組成物の投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg〜10000mgであり、これらを1回、又は数回に分けて投与することができる。
【0030】
乾癬、アトピー性皮膚炎の予防又は治療用抗体組成物は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含んでいてもよい。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。
【0031】
本発明の乾癬又はアトピー性皮膚炎の治療剤は、乾癬又はアトピー性皮膚炎に罹患し得る動物に対して適用することができ、ヒトやサル、イヌ、ネコ等の愛玩動物などに適用することができる。
【0032】
本発明の抗黄色ブドウ球菌抗体を含む治療剤を用いることにより、乾癬及びアトピー性皮膚炎の患部から黄色ブドウ球菌を排除することができ、黄色ブドウ球菌のトキシンによる皮膚掻破部位の糜爛等の皮膚症状の憎悪を抑制することができる。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
実施例1 黄色ブドウ球菌を抗原とする網羅的抗体作製
(1)抗原の調製
黄色ブドウ球菌の種菌を培養し、黄色ブドウ球菌の冷凍ペレットを作製した。黄色ブドウ球菌の種菌は、MicroBiologics社のものを用いた(関東化学株式会社より入手)。
用量15mlの栓付試験管に解凍した黄色ブドウ球菌のペレット約3mgを入れ、そこに5%ホルマリン溶液を5ml加え、栓をし密封した。
試験管ミキサーで数回ミキシングし(トータル約10分間)均等に拡散溶解した。5%ホルマリン溶液にペレットを完全に溶解させて、黄色ブドウ球菌の表面抗原を固定化した。インキュベーションを行いインキュベーション終了後30分間清置した。
【0035】
ペレットを溶解させた5%ホルマリン溶液を遠心分離機にかけ、遠心分離した溶液の沈渣を含む下部溶液1.5mlをピペットを用いて吸引した。
荒めのメッシュのろ紙又はフィルターを用いて自然ろ過又は吸引ろ過した後、遠心分離を行い、上清を捨て、ホルマリン濃度を低下させた。
沈殿を生理食塩水に溶解させ、これを投与抗原として用いた。
エマルジョンポンプに上記抗原1mlとホワイトオイルを徐々に混和し、エマルジョン(乳化液)を作製し、このエマルジョンを動物に投与した。
【0036】
(2)免疫
(1)で作製したエマルジョン0.5mlを、5週齢のオスのニワトリの鼡径部皮下に投与した。この際、ニワトリへの侵襲を少なくする為に、投与抗原組成物をニワトリの体温である37℃に加温しておいた。
【0037】
初回投与後7日毎に2回同量のエマルジョンを用いて追加免疫を行った。
免疫したニワトリが産んだ鶏卵の全卵を割卵し攪拌した。ヤマト科学製スプレードライヤーGA22型、温風乾燥機及び粉砕機を用いて乾燥した鶏卵粉末を製造した。スプレードライヤーの温度設定は60℃以下とした。
抗体価の測定はELISAにて行った。
【0038】
実施例2 ヒトアトピー性皮膚炎の治療
実施例1に記載の方法で作製した鶏卵抗体について、閾値を測定した。ポリクローナル抗体を重量比1〜5%でプロペト軟膏に混和し、治療用軟膏剤を作製し、アトピー性皮膚炎患者の患部に塗布した。
閾値測定の結果、何れの濃度においても黄色ブドウ球菌トキシン(SAトキシン)による強い掻痒感及び発赤が抑えられた。
【0039】
さらに、重量比5%でポリクローナル抗体をプロペト軟膏に混和し、検討を続けた。
10名のアトピー性皮膚炎患者に対して軟膏を塗布した。毎日、1〜2回塗布した。2週間程度で効果が現れ始め、2〜3ヶ月で著効を示した。
【0040】
表1に効果確認試験の結果を示す。表1に示すように、改善以上の症例が90%であり、非常に高い有効率を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
改善以上の効果が認められた症例は90%(有効率)であり、著効と判断されたものが60%、有効と判断されたものが10%、改善例が20%、効果がなかったものは10%であった。
【0043】
また、図1及び2はアトピー性皮膚炎患者に対する効果を示す写真である。図1A及び図2Aは本発明の治療剤を用いて治療する前のアトピー性皮膚炎患者の患部を示し、図1B及び図2Bは本発明の治療剤を用いて治療した後の患部を示す。図に示すように、本発明の治療剤を用いることにより、アトピー性皮膚炎患者の患部の症状が消失又は緩和された。
【0044】
実施例3 イヌアトピー性皮膚炎の治療
約10数年の寿命を有するイヌは、5歳を過ぎると高い確率でアトピー性皮膚炎を発症する。本実施例では、本発明の治療剤のイヌのアトピー性皮膚炎に対する効果を確認した。
【0045】
実施例1に記載の方法で作製した抗黄色ブドウ球菌抗体を含む軟膏を実施例2に記載の方法で作製し、7頭のアトピー性皮膚炎に罹患しているイヌの患部に塗布した。塗布は1日1回で連日行った。
【0046】
表2に効果確認試験の結果を示す。表2に示すように多くの症例でアトピー性皮膚炎の改善が認められた。
【0047】
【表2】

【0048】
改善以上の効果が認められた症例は57%(有効率)であり、著効と判断されたものが29%、有効と判断されたものが29%、改善例が0%、効果がなかったものは42%であった。
【0049】
また、図3から5はアトピー性皮膚炎罹患犬に対する効果を示す写真である。図3A、図4A及び図5Aは本発明の治療剤を用いて治療する前のアトピー性皮膚炎罹患犬の患部を示し、図3B、図4B及び図5Bは本発明の治療剤を用いて治療した後の患部を示す。図に示すように、本発明の治療剤を用いることにより、アトピー性皮膚炎罹患犬の患部の症状が消失又は緩和された。実施例2のヒトの結果と比べると効果はやや低く、10歳以上の老犬ほど効果の発現が遅かった。
【0050】
実施例4 ヒト乾癬の治療
実施例1に記載の方法で作製した抗黄色ブドウ球菌抗体を含む軟膏を実施例2に記載の方法で作製し、乾癬患者の患部に塗布した。塗布は、毎日1〜2回行った。2週間程度で効果が現れ始め、2〜3ヶ月で著効を示した。塗布開始後、一定期間患部を観察した。
【0051】
図6に乾癬患者に対する効果を示す写真を示す。図6A、図6B及び図6Cは、それぞれ塗布開始後、15日目、30日目及び90日目の患部の様子を示す。図に示すように、塗布を続けることにより、症状の緩和が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む組成物は、乾癬又はアトピー性皮膚炎の治療に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗黄色ブドウ球菌抗体を有効成分として含む、乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項2】
抗黄色ブドウ球菌抗体が、(a) 黄色ブドウ球菌をタンパク質架橋固定試薬で処理することにより、前記黄色ブドウ球菌の表面に発現しているタンパク質を分子内架橋により固定し、(b) 該タンパク質架橋固定試薬で固定した前記黄色ブドウ球菌を免疫原として動物に投与し、(c) 動物から抗体を得ることにより、作製した、黄色ブドウ球菌の表面に発現するタンパク質分子全体に対する抗体を含む網羅的抗黄色ブドウ球菌表面抗体である、請求項1記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項3】
タンパク質架橋固定試薬が、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドからなる群から選択される、請求項2記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項4】
タンパク質架橋固定試薬が1〜38%(v/v)ホルマリンである、請求項2記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項5】
タンパク質架橋固定試薬による固定を10分〜48時間行う、請求項2〜4のいずれか1項に記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項6】
免疫原を投与する動物がニワトリである請求項2〜5のいずれか1項に記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。
【請求項7】
免疫原を投与したニワトリが産生した鶏卵より抗体を得る、請求項6記載の乾癬又はアトピー性皮膚炎治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−105614(P2011−105614A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260031(P2009−260031)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(508374483)株式会社 さいわいメディックス (1)
【Fターム(参考)】