説明

予後予測のための大腸癌組織の検査方法

【課題】大腸癌患者のより正確な予後予測に利用可能な検査方法の提供。
【解決手段】大腸癌組織サンプル中のREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を検出し、大腸癌細胞におけるそれらの検出結果を組み合わせて大腸癌の予後指標とすることを特徴とする、大腸癌組織の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予後予測のための大腸癌組織の検査方法及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の予後を予測する因子として、国際的にはTNM分類が有名である。TNM分類は癌の進行度をグレード化したものであり、予後を予測する上で有用である。TNM分類は患者の臨床病期(ステージ)と対応しており、ステージII及びステージIIIに分類される症例は遠隔転移を認めないものである。しかしステージII及びステージIIIの症例で腫瘍切除手術により外科的には癌組織が完全に切除された場合であっても、長期に生存する例と短期に死亡してしまう例が認められ、予後にばらつきが認められる。このため、術後の患者の予後をより正確に予測可能な予後指標の開発が求められている。
【0003】
最近では、より正確な予後予測を行うため、TNM分類に癌の分子生物学的検索から得られる知見を加え新たな予後指標を確立すべく、その鍵を握る分子の検索が盛んに行われている。例えば、患者の血清中のREG1A又はTIMP1量の増加に基づいて結腸直腸癌の存在を検出する方法が報告されている(特許文献1)。REG1AはREG1A(regenerating islet-derived 1 alpha)遺伝子に由来するタンパク質であり、REG(regenerating gene)ファミリーに属する。REGファミリータンパク質としては他にREG1B、REG3、HIP/PAP、REG4が知られている。REGファミリーの発現は消化器癌の進展や患者生存率とも関連があることが示唆されている(例えば、非特許文献1及び2)。しかしREGファミリータンパク質の発現と生存率との関連が示されても、患者間に予後のばらつきが大きければ、個々の患者の治療方針の策定基準としてそれを使用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−198419号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RCA Macadam et al., Br. J. Cancer (2000) 83, p.188-195
【非特許文献2】Sabin Violette et al., Int. J. Cancer (2003) 103, p.185-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大腸癌患者のより正確な予後予測に利用可能な検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、大腸癌組織中のREG4タンパク質(REG4 ;regenerating islet-derived family, member 4遺伝子に由来)の発現とREG1Aタンパク質(regenerating islet-derived 1 alpha遺伝子に由来)の発現の検出結果を組み合わせることにより、患者の予後をより正確に予測可能にするための予後指標を提供可能にした大腸癌組織の検査方法を開発し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 大腸癌組織サンプル中のREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を検出し、大腸癌細胞におけるそれらの検出結果を組み合わせて大腸癌の予後指標とすることを特徴とする、大腸癌組織の検査方法。
本方法では、REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を、それぞれ抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を用いて検出することが好ましい。
本方法では、大腸癌はUICC-TNM分類でステージII又はステージIIIに分類されるものであることが好ましい。
[2] 抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を含む、予後予測用の大腸癌組織検査キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、大腸癌のより正確な予後指標、とりわけ予後不良な症例を高い確率で選別することが可能な予後指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の検査方法に基づく予後予測モデルを示した図である。
【図2】図2は、本発明によるREG4タンパク質発現評価方法によって分類された生存曲線を示した図である。Logrank検定を行い、統計的有意差を検定した。白丸及び点線は抗REG4抗体でのREG4タンパク質の検出結果が陰性であった患者群を示す。黒丸及び実線は抗REG4抗体でのREG4タンパク質の検出結果が陽性であった患者群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、大腸癌組織サンプルについて、癌細胞におけるREG4タンパク質発現及びREG1Aタンパク質発現を検出し、その陽性又は陰性の検出結果を組み合わせたものを大腸癌の予後指標として得る大腸癌組織の検査方法に関する。この方法で得られる予後指標により、大腸癌患者(特に術後大腸癌患者)のより正確な予後予測が可能になる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
1.検査対象
本発明の検査方法では、切除された大腸癌組織を検査に用いる。この大腸癌組織は、大腸癌患者から外科的に得られた病変部位に由来するものであることが好ましい。大腸癌組織としては、生検材料であっても外科手術材料であってもよいが、術後患者の予後予測情報を提供する上では、大腸癌組織の外科的切除によって得られる手術材料であることが好ましい。対象となる大腸癌組織は、大腸(盲腸、結腸、直腸に分けられる)の任意の部位に由来するものであってよい。
【0013】
本発明において対象となる大腸癌は、特に限定されないが、腺癌(乳頭腺癌、管状腺癌、粘液癌、印環細胞癌等)であってよい。対象となる大腸癌はまた、低分化型、中分化型、又は高分化型であってよい。
【0014】
検査対象の大腸癌組織が由来する大腸癌患者は、その大腸癌組織の採取時点で、任意の年齢層の患者であってよい。大腸癌患者は、男性であっても女性であってもよい。大腸癌患者は、大腸癌組織の採取時点で、大腸癌の任意の病期に分類される患者であってよいが、予後予測の必要性の点で本発明の検査方法の適用がより好ましいのはステージII又はステージIIIの大腸癌病期に分類される患者である。本発明の方法は、特に腺癌を検査対象とする場合により好適である。本発明では、大腸癌患者は、外科手術により大腸癌病変(好ましくはその全部)の切除に成功した患者であることが好ましい。本発明における大腸癌患者は、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが最も好ましい。
【0015】
本発明において大腸癌の病期(大腸癌の進行度)は、UICC(国際対がん連合)のTNM分類(以下、「UICC-TNM分類」と表記)に従って定めるものとする。UICC-TNM分類では、T分類:原発腫瘍の深達度(TX、T0、Tis、T1-T4)、N分類:所属リンパ節転移の有無(NX、N0-N2)、M分類:遠隔転移の有無(MX、M0、M1)の3つの因子により、癌病変の進展度を分類する。UICC-TNM分類に基づく病期の決定は当業者の通常の知識に従って行うことができる。UICC-TNM分類に基づく病期分類は、Colon and rectum. In: American Joint Committee on Cancer: AJCC Cancer Staging Manual. 6th edition. New York, NY: Springer, 2002, pp 113-124に記載される通りであり、簡単にまとめると以下の通りである。
【0016】
【表1】

【0017】
本発明において、大腸癌のステージIIは、表1中に示したステージIIA及びIIBを含み、ステージIIIは、ステージIIIA、IIIB及びIIICを含むものとする。
【0018】
本発明の検査方法に供する大腸癌組織サンプルは、大腸癌組織から作製された任意の病理サンプルであってよく、通常は常法により作製された病理組織標本(以下、病理標本と記載)である。病理標本の作製方法については、各種教科書、例えば、病理技術研究会編、「病理標本の作り方」(文光堂、東京本郷、1997年)等を参照することができる。一般的には、大腸癌組織を固定した後でパラフィンや樹脂ワックス等で包埋し切片化することにより、あるいは大腸癌組織の未固定凍結切片を作製することにより、病理標本を作製することができる。切片化は通常はミクロトームあるいはクリオスタットを用いて行うことができる。本発明の方法に供する大腸癌組織サンプルとしては、具体的には、例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋材料から得られた薄切切片が挙げられる。このような病理標本の作製は、市販の病理組織包埋用試薬や病理組織標本作製用の自動固定包埋装置を使用して行うこともできる。そのパラフィン包埋されたブロックから作製された3〜5μmの切片を剥がれないようにコーティングされたスライド硝子に貼り付けたものが大腸癌組織サンプルとしてより好ましい。
【0019】
2.REG4及びREG1Aの検出
本発明の検査方法では、上記のようにして作製される病理標本等の大腸癌組織サンプルについて、REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質のそれぞれの検出をin vitroで行う。
【0020】
REG4タンパク質(REG4;regenerating islet-derived family, member 4遺伝子に由来。REGIVと記載することもある)及びREG1Aタンパク質(REG1A;regenerating islet-derived 1 alpha。REGIαと記載することもある)は、いずれもREG(regenerating gene)ファミリータンパク質の一種としてよく知られている。
【0021】
REG4タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は既に報告されている。本発明において検出されるREG4タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードするDNAの塩基配列の典型例は、ヒトREG4では:GenBankアクセッション番号NP_114433(タンパク質)及びNM_032044(タンパク質コード配列であるCDS配列;DNA)、そのホモログとしては、チンパンジーREG4では:同XP_513694(タンパク質)及びXM_513694(CDS配列;DNA)、マウスREG4では:同NP_080604(タンパク質)及びNM_026328(CDS配列;DNA)、ラットREG4では:同NP_001004096(タンパク質)及びNM_001004096(CDS配列;DNA)に開示されたものがあるが、これらの変異体であってもよい。患者がヒトであれば、本発明の検出対象のREG4タンパク質は、典型的には、REG4 cDNA(GenBankアクセッション番号NM_032044)の完全長CDS(配列番号1)によってコードされる、配列番号2で示される158アミノ酸長のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_114433)でありうる。あるいは本発明で検出対象となるヒトREG4タンパク質は、配列番号2のREG4タンパク質の変異体、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列において突然変異等により1〜数個(例えば3個)のアミノ酸残基の欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるREG4タンパク質(およそ155〜161アミノ酸長、典型的には158アミノ酸長)でありうる。なおGenBankアクセッション番号NM_032044に開示されたREG4 mRNA(REG4 transcript variant 2)については大腸癌特異的発現が報告されている(欧州特許出願公開EP 1 655 382 A2;GenBankアクセッション番号CS288402)。REG4タンパク質をコードする遺伝子のゲノム上の配列も決定されている(ラットREG4:同NW_047627、NC_005101等)。
【0022】
REG1Aタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列も既に報告されている。本発明において検出されるREG1Aタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードするDNAの塩基配列の典型例は、ヒトREG1Aでは:GenBankアクセッション番号NP_002900(タンパク質)及びNM_002909(CDS配列;DNA)、そのホモログとしては、チンパンジーREG1Aでは:同XP_001163699(タンパク質)及びXM_001163699(CDS配列;DNA)、マウスREG1Aについては:同NP_033068(タンパク質)及びNM_009042(CDS配列;DNA)、ラットREG1Aについては:同NP_036773(タンパク質)及びNM_012641(CDS配列;DNA)に開示されたものがあるが、これらの変異体であってもよい。患者がヒトであれば、本発明の検出対象のREG1Aタンパク質は、典型的には、REG1A cDNA(GenBankアクセッション番号NM_002909)のCDS配列(配列番号3)によってコードされる、配列番号4で示される166アミノ酸長のアミノ酸配列(GenBankアクセッション番号NP_002900)でありうる。あるいは本発明で検出対象となるヒトREG1Aタンパク質はまた、配列番号4のREG1Aタンパク質の変異体、例えば配列番号4で示されるアミノ酸配列において1〜数個(例えば3個)のアミノ酸残基の欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるREG1Aタンパク質(およそ163〜169アミノ酸長、典型的には166アミノ酸長)でありうる。REG1Aタンパク質をコードする遺伝子のゲノム上の配列も決定されている(ヒトREG1A:GenBankアクセッション番号JO5412、ラットReg1A:同D26164等)。
【0023】
大腸癌組織サンプルについてのREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出は、病理標本上で各種検出法を用いて行うことができる。典型的には、免疫組織化学的染色法(以下、免疫染色法)を用いてそれらのタンパク質を検出することができる。免疫染色法としては、限定するものではないが、酵素抗体法(直接法又は間接法)、蛍光抗体法等の、抗原抗体法を基にした方法が挙げられる。免疫染色法では、REG4タンパク質に対する抗REG4抗体、及びREG1Aタンパク質に対する抗REG1A抗体を用いて、REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質をそれぞれ検出することができる。さらにそれらタンパク質の検出によって得られた染色像に基づき、癌細胞におけるREG4タンパク質陽性細胞及びREG1Aタンパク質陽性細胞を検出(同定)することが好ましい。本発明において「REG4タンパク質陽性細胞」とは、REG4タンパク質を発現している細胞を意味する。また「REG1Aタンパク質陽性細胞」とは、REG1Aタンパク質を発現している細胞を意味する。本発明の方法で癌細胞におけるREG4タンパク質陽性細胞及びREG1Aタンパク質陽性細胞を的確に検出するためには組織及び細胞の形態観察も行う必要があることから、大腸癌組織サンプルについて免疫染色と併せて細胞核染色を行うことが好ましい。核染色法としては、例えば、ヘマトキシリン、メチルグリーン、ケルンエヒトロート等を用いることができる。
【0024】
本発明の方法では、抗REG4抗体及び抗REG1A抗体をそれぞれ用いた免疫染色法に基づいて、REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を検出することが特に好ましい。病理組織標本の免疫染色法の詳細については、実験医学別冊 免疫染色 & in situ ハイブリダイゼーション 最新プロトコール 野地 澄晴 編 羊土社などを参照することができる。
【0025】
本発明の方法で免疫染色に使用される抗REG4抗体は、抗原となるREG4タンパク質に結合する任意の抗体を含む。同様に本発明で使用される抗REG1A抗体は、抗原となるREG1Aタンパク質に結合する任意の抗体を含む。これらの抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、抗血清として調製したものであってもよい。本発明においてそれらの「抗体」としては、全抗体に加えて、抗原結合性を保持するF(ab')2、F(ab')、Fab、Fv、Fd等の抗体フラグメントも用いることができる。F(ab')2、F(ab')、Fv、Fd等の抗体フラグメントは、全抗体をパパイン、ペプシン、トリプシン等のプロテアーゼで処理することにより、又は遺伝子組換え法を用いることにより、作製したものであってよい。
【0026】
抗REG4抗体は、REG4タンパク質(限定されないが、より好ましくは、ヒトREG4タンパク質)、又はそのタンパク質の部分断片であるペプチドを抗原として用いて常法により作製することができる。同様に抗REG1A抗体は、REG1Aタンパク質(限定されないが、より好ましくは、ヒトREG1Aタンパク質)、又はそのタンパク質の部分断片であるペプチドを抗原として用いて常法により作製することができる。
【0027】
本発明において抗REG4抗体の作製のために用いる抗原は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるヒトREG4タンパク質の全体又はその断片であってよい。あるいは抗REG4抗体作製に用いる抗原は、配列番号2のヒトREG4タンパク質からの変異体、例えば配列番号2のアミノ酸配列において1〜数個(例えば3個)のアミノ酸残基の欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるREG4タンパク質(およそ155〜161アミノ酸長、典型的には158アミノ酸長)又はその断片であってもよい。あるいは抗REG4抗体作製に用いる抗原は、そのようなヒトREG4タンパク質に対するヒト以外の生物種(好ましくは哺乳動物)由来ホモログであるREG4タンパク質又はその断片であってもよい。REG4タンパク質はその大部分の領域の配列が種間種内でよく保存されている。従って、例えば本発明に係るヒト由来大腸癌組織の検査においては、抗REG4抗体として、ヒトREG4タンパク質を抗原として用いて作製した抗体の他、ヒト以外のREG4タンパク質を抗原として作製した抗体も、ヒトREG4タンパク質に対する特異的結合反応を示すことが確認される限り使用することができる。抗原として用いられるREG4タンパク質の断片は、以下に限定するものではないが、例えば6〜100アミノ酸長、場合により6〜50アミノ酸長、例えば9〜20アミノ酸長のペプチドであってよい。
【0028】
本発明において抗REG1A抗体の作製のために用いる抗原は、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるヒトREG1Aタンパク質の全体又はその断片であってよい。あるいは抗REG1A抗体作製に用いる抗原は、配列番号4のヒトREG1Aタンパク質からの変異体、例えば配列番号4のアミノ酸配列において1〜数個(例えば3個)のアミノ酸残基の欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるREG1Aタンパク質(およそ163〜169アミノ酸長、典型的には166アミノ酸長)又はその断片であってもよい。あるいは抗REG1A抗体作製に用いる抗原は、そのようなヒトREG1Aタンパク質に対するヒト以外の生物種(好ましくは哺乳動物)由来ホモログであるREG1Aタンパク質又はその断片であってもよい。REG1Aタンパク質もその大部分の領域の配列が種間種内でよく保存されている。従って、例えば本発明に係るヒト由来大腸癌組織の検査においては、抗REG1A抗体として、ヒトREG1Aタンパク質を抗原として用いて作製した抗体の他、ヒト以外のREG1Aタンパク質を抗原として作製した抗体も、ヒトREG1Aタンパク質に対する特異的結合反応を示すことが確認される限り使用することができる。抗原として用いられるREG1Aタンパク質の断片は、以下に限定するものではないが、例えば6〜100アミノ酸長、場合により6〜50アミノ酸長、例えば9〜20アミノ酸長のペプチドであってよい。
【0029】
例えば、それらの抗体は、上記抗原を典型的にはアジュバントと共に血中、皮下又は腹腔内等に投与して宿主動物を免疫した後、その動物から採取した抗血清又は腹水として得ることができる。免疫は一般的には所定の間隔を空けて複数回(例えば、初回免疫及び最終免疫)行う。免疫に用いる宿主動物としては、限定するものではないが、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ等の非ヒト哺乳動物が挙げられる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウムゲル等が挙げられるがこれに限定されるものではない。モノクローナル抗体を作製する場合には、例えば、上記のようにして免疫した宿主動物から脾臓を摘出し、その脾細胞(抗体産生細胞)と骨髄腫細胞を融合させてハイブリドーマ細胞を作製すればよい。融合細胞の培養培地としては、目的の融合細胞のみを選択的に得られる選択培地を用いることが好ましい。培養後、培養上清の一部を採取し、目的の抗原抗体反応が示された細胞を選択することにより、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を取得することができる。あるいは抗REG4抗体及び抗REG1A抗体は、遺伝子組換え法を用いて非免疫学的に作製することもできるし、市販品を用いてもよい。
【0030】
本発明の方法では、抗REG4抗体及び抗REG1A抗体として、検査対象の大腸癌組織が由来する生物種のREG4タンパク質又はREG1Aタンパク質と特異的結合を示す抗体を、免疫染色に用いることがより好ましい。ヒトの大腸癌組織を検査する場合には、抗ヒトREG4抗体及び抗ヒトREG1A抗体を用いるのが便利である。しかし場合により、検査対象の大腸癌組織が由来する生物種とは異なる生物種のREG4タンパク質又はREG1Aタンパク質と特異的結合を示す抗体を、その交差反応を利用して免疫染色に用いてもよい。
【0031】
抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を用いた免疫染色法によるREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出の具体的手順は、後述の実施例にも詳述されている。簡単に説明すると、例えば免疫染色法として酵素抗体法(間接法)を用いる場合では、まず、病理標本等の大腸癌組織サンプル中に抗REG4抗体又は抗REG1A抗体(一次抗体)を反応させた後、酵素標識した二次抗体を加えて反応させ、さらに添加した発色基質と二次抗体のもつ標識酵素との反応によって発色反応を起こさせることにより、抗原であるREG4タンパク質又はREG1Aタンパク質の局在を可視化(検出)することができる。次いで免疫染色後のサンプルをヘマトキシリン染色液等により細胞核染色した後、適宜処理しサンプルを顕微鏡等で観察するか又はイメージングアナライザー等により画像解析することにより、REG4タンパク質の発現が認められる細胞又はREG1Aタンパク質の発現が認められる細胞(すなわち、REG4タンパク質陽性細胞、REG1Aタンパク質陽性細胞)の検出を行うことができる。
【0032】
この大腸癌組織サンプル中のREG4タンパク質陽性細胞及びREG1Aタンパク質陽性細胞の検出(同定)は、癌細胞について行うことが好ましい。サンプル中の癌細胞は、病理組織診断学分野等における通常の知識に基づいて容易に識別することができる。より精度の高い分析を行うためには、この検出は、サンプル中の癌浸潤先端部の癌細胞について行うことが好ましい。病理標本に存在する癌の浸潤先端部は、当業者であれば、通常のヘマトキシリン・エオジン染色像等から容易に確認することができる。この癌の浸潤先端部は、観察する病理標本上における癌の浸潤の最前線に位置する領域である。陽性細胞の検出に基づき、大腸癌組織サンプル中に認められる大腸癌の浸潤先端部に位置する癌細胞のうち、REG4タンパク質陽性細胞又はREG1Aタンパク質陽性細胞として検出される癌細胞がどれだけの割合で存在するかを確認することができる。
【0033】
上記の結果、REG4タンパク質陽性細胞又はREG1Aタンパク質陽性細胞が大腸癌組織サンプル中の癌細胞について有意に検出された場合には、その大腸癌組織サンプルに関して、大腸癌細胞におけるREG4タンパク質又はREG1Aタンパク質の検出結果をそれぞれ「陽性」と判定し、有意に検出されなかった場合にはそれぞれ「陰性」と判定することができる。具体的には、例えば、サンプル中の浸潤先端部に位置する癌細胞総数に対してREG4タンパク質陽性細胞又はREG1Aタンパク質陽性細胞が一定の割合以上、好ましくは10%以上存在する場合に、その大腸癌組織サンプルにおいて、REG4タンパク質陽性細胞又はREG1Aタンパク質陽性細胞が有意に検出されたものと判断し、当該サンプルの大腸癌細胞におけるREG4タンパク質又はREG1Aタンパク質の検出結果を「陽性」とすることができる。
【0034】
なお本発明の検査方法は、大腸癌組織サンプルについてREG4タンパク質陽性細胞及びREG1Aタンパク質陽性細胞を検出し、それらの検出結果を組み合わせて大腸癌の予後指標とすることによる方法としても提供されうる。この方法でもREG4タンパク質陽性細胞及びREG1Aタンパク質陽性細胞は、それぞれ抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を用いて検出すればよい。
【0035】
3.検出結果に基づく予後指標
本発明の方法では、上記で得た、大腸癌組織サンプルについての大腸癌細胞におけるREG4タンパク質の検出結果(陽性又は陰性)とREG1Aタンパク質の検出結果(陽性又は陰性)を組み合わせて、それを大腸癌の予後指標として提供することができる。具体的には、本発明の方法で得られるそれらの検査結果の組み合わせは、以下の基準で、検査した大腸癌組織サンプルの由来する大腸癌患者における特に外科的切除後の予後を予測するための指標となる。
【0036】
(1)REG4タンパク質の当該検出結果が陰性であり、REG1Aタンパク質の当該検出結果が陰性又は陽性である場合は、予後良好である可能性が高い。本患者群では、REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の当該検出結果に基づいて分類される他の患者群(REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出結果がそれぞれ:陽性(+)陽性(+)の群、及び陽性(+)陰性(−)の群)と比較して、例えば5年生存率は顕著に高い。
【0037】
(2)REG4タンパク質の当該検出結果が陽性であり、REG1Aタンパク質の当該検出結果が陽性である場合には、予後不良となる可能性がある。上記(1)の患者群(REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出結果が:陰性(−)かつ陽性(+)又は陰性(−)の群)と比較して、例えば5年生存率は大幅に低下する。
【0038】
(3)REG4タンパク質の当該検出結果が陽性であり、REG1Aタンパク質の当該検出結果が陰性である場合には、予後不良となる可能性が極めて高い。REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の当該検出結果に基づいて分類される患者群(REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出結果がそれぞれ:陰性(−)かつ陽性(+)又は陰性(−)の群、陽性(+)陽性(+)の群、及び陽性(+)陰性(−)の群)の中でも、最も強く予後不良が示唆され、例えば5年生存率も最も低くなる。
【0039】
本発明において、「予後良好」とは、大腸癌組織切除手術時から5年以上の生存が認められることを意味する。本発明において「予後不良」とは、大腸癌組織切除手術時から5年以内に再発転移を生じ死亡してしまうことを意味する。本発明において「予後不良となる可能性が高い」とは、大腸癌組織切除手術時からの5年生存率が50%以下であることを意味する。本発明において「予後不良となる可能性が極めて高い」とは、大腸癌組織切除手術時からの5年生存率が25%未満であることを意味する。本発明において「生存率」とは、累積生存率を意味する。
【0040】
なお、本発明の検査方法においては、REG4タンパク質の検出工程とREG1Aタンパク質の検出工程を同時又は並行して進めてもよいが、それらの工程を連続的に行ってもよいし工程間の間隔を空けて行ってもよい。本発明の方法では、REG4タンパク質の検出工程の後に、REG1Aタンパク質の検出工程を行うことがより好ましい。なお、本発明の検査方法を個々の大腸癌組織サンプルへ適用する際には、必ずしもREG4タンパク質の検出工程とREG1Aタンパク質の検出工程の両方を行わなくてもよい。例えば、先に行ったREG4タンパク質の検出工程で陰性の検出結果が得られた個々の症例では、上記の通り、REG1Aタンパク質の検出結果が陽性であれ陰性であれ「予後良好の可能性が高い」と判断されるため、その場合はREG1Aタンパク質の検出工程を省略することもできる。
【0041】
上記のようにして本発明の検査方法によって得られる予後指標を用いれば、大腸癌組織の外科的切除後の大腸癌患者の予後をより高い確率で予測することが可能になる。特に、REG4タンパク質の検出結果が陽性であってREG1Aタンパク質の検出結果が陰性であることを指標として選別を行えば、大腸癌組織が外科的に完全に切除されているにもかかわらず予後不良となる可能性が極めて高い患者を早期に選別することができる。このため本発明の検査方法で得られた予後指標を利用することにより、大腸癌患者の予後予測をより正確に行うことができる。
【0042】
4.本発明の検査方法に基づく予後予測モデル
本発明の検査方法によって得られる予後指標に基づき、大腸癌患者の予後予測を行う予後予測モデルを図1に示す。
【0043】
一例として、大腸癌の外科手術後の大腸癌患者の予後予測及び治療計画の決定を、以下の手順に従って行うことができる。
1)大腸癌組織から作製した病理標本について、免疫染色法で抗REG4抗体によるREG4タンパク質の検出を行い、陽性か陰性かを決定する。
2)その結果が陰性の場合には、予後良好となる可能性が高いと予測されることから、従来の判断基準に従い、適宜補助療法などの治療を行い経過観察する。
3)抗REG4抗体による検出結果が陽性で尚且つ同様に行う抗REG1A抗体による検出結果が陽性の場合には、予後不良の可能性が高いと予測されることから、術後の補助療法や経過の観察に注意が必要となる。
4)抗REG4抗体による検出結果が陽性の場合であって、かつ抗REG1A抗体による検出結果が陰性の場合には、予後不良の可能性が極めて高いと予測されるため、さらに術後補助療法及び経過について厳重な観察が必要になる。
【0044】
このような予後予測モデルは、大腸癌患者に対する効果的な治療を実現する上で非常に有利に利用できる。
【0045】
現在の医療現場では、大腸癌の治療におけるステージIIの患者に術後補助療法を施すことは、判断に迷うとされている。しかし、この予後予測モデルにおいて予後不良と予測される「抗REG4抗体陽性」の症例では、積極的に補助療法を行うべきである。一方、「抗REG4抗体陽性かつ抗REG1A抗体陰性」の症例については、術後補助療法を行っても再発や転移を引き起こし、最悪の転帰をとる可能性がある。すなわち、病理組織検査において、腫瘍が取りきれたとされた症例でも、腫瘍細胞がリンパ行性あるいは血行性に体内を巡っている可能性は高く、術後補助療法によってもそれらの腫瘍細胞の生存や増殖を抑制できないことが考えられる。そのような患者に対してより効果的な治療法の開発が必要であるが、本発明の検査方法は、効果的な治療法の開発においても対象となる患者の選択に関する情報が提供可能である。本発明の検査法によれば、そのような画期的な治療法あるいは治療薬が開発された後にも、適用患者の選択が可能となり効果的なつまりは患者個々に適した治療に直結する非常に重要な情報を提供することが可能になる。
【0046】
5.検査キット
本発明は、本発明の検査方法において好適に使用可能である、抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を含む、好ましくは予後予測用の、大腸癌組織検査キットも提供する。本発明の検査は大腸癌患者の予後予測の際に非常に有利に使用できるため、本発明の検査キットも大腸癌患者の予後予測用に好適である。このような本発明の検査キットは、さらに検査試薬等の各種試薬、例えば免疫染色試薬(発色基質、二次抗体等)、抗原賦活液、ブロッキング試薬、洗浄バッファー、細胞染色試薬(ヘマトキシリン等)などを含んでもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
本実施例では、大腸癌患者由来の外科手術材料から作製した病理標本について、抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を用いた免疫染色を行ってREG4及びREG1Aタンパク質を検出し、それらの大腸癌細胞における発現を調べた。
【0049】
1.検査対象
UICC-TNM分類に基づきステージII(n=18)又はステージIII(n=10)に分類された33歳〜83歳までの男女の大腸癌患者から外科手術により切除した大腸癌組織を、検査対象のサンプルとした。それら大腸癌組織は、管状腺癌,高分化型、管状腺癌,中分化型、粘液癌のいずれかの組織型に分類された。なおいずれも、遠隔転移を認めず、外科切除された材料について通常の病理組織学的検索を行った範囲内では、癌組織の完全な外科的切除に成功した症例であった。調べた患者全体の生存率は68%であった。なお本実施例でいう生存率は、手術時から死亡(大腸癌による癌死)するまでの期間(生存している場合には手術時から観察期間終了時点までの期間)を生存期間とし、全観察期間にわたる生存割合として算出した累積生存率である。なお生存症例については手術後10年程度で生存確認を行っている。
【0050】
2.抗体
病理標本中のREG4タンパク質の検出には抗REG4抗体を、REG1Aタンパク質の検出には抗REG1A抗体を使用した。使用した抗REG4抗体は、ヒトREG4タンパク質(配列番号2;GenBankアクセッション番号NM_032044の全長CDS配列に対応)の部分断片を抗原として用いて作製されたものである。抗REG1A抗体は、ヒトREG1Aタンパク質(配列番号4;GenBankアクセッション番号NM_002909の全長CDS配列に対応)の部分断片を抗原として用いて作製されたものである。これらの抗体については、それぞれ、ヒトREG4タンパク質(配列番号2)、ヒトREG1Aタンパク質(配列番号4)に対する特異性をウェスタンブロット解析により確認し、さらにホルマリン固定パラフィン包埋ブロックから作製した標本でもその特異的反応性が保持されていることを予め確認した。
【0051】
3.試薬の調製
抗原賦活液は、1m M EDTAを含有する10m M Tris緩衝液(pH9.0)を蒸留水で10倍に希釈し油浴等で95〜98℃に温めたものを下記で使用した。
【0052】
TBSTは、1M Tris bufferと3M NaClを等量ずつ混ぜ、1%になるようにTween 20を加え、蒸留水で10倍に希釈したものを下記で使用した。
【0053】
4.病理標本の作製及び免疫染色
各大腸癌患者より外科的に切除された結腸及び直腸組織から、常法によりホルマリン固定パラフィンブロックを作製した。ホルマリン固定パラフィンブロックから常法によりヘマトキシリン・エオジン標本を作製し、観察の結果その症例を代表するブロック(優勢の組織型を含み一番深達度の進んだブロック)を選択した。選択したブロックからミクロトームにて3〜5μmの切片を薄切し、それをコーティングスライドに貼り付けて乾燥させることにより、大腸癌組織の病理標本を作製した。
【0054】
病理標本は、抗REG4抗体及び抗REG1A抗体をそれぞれ用いて免疫染色した。具体的には、まず、キシレンを用いた脱パラフィン処理を5分間ずつ4回行った後、純エタノールにてキシレンを洗い流し(5分間×3回)、さらに95%エタノールで1回、70%エタノールで1回洗浄した。これを水洗し、蒸留水にて洗浄した後、上記で調製した抗原賦活液(98℃)中で40分加熱した。次いで室温にて放置(20分)し、水洗、蒸留水にて洗浄した後、イムノブロック(DSファーマバイオメディカル株式会社;Cat. No.KN001A)の蒸留水での20倍希釈液に入れて、室温にて30分浸した。その標本をさらにTBSTで洗浄(3分間×2回)し、3%過酸化水素水で5分処理し、再度TBSTで洗浄(3分間×2回)した。このように調製した標本に、抗REG1A抗体又は抗REG4抗体を一次抗体として添加し室温で30分間反応させた後、TBSTで洗浄(3分間×2回)した。続いてその標本に二次抗体(ChemMate ENVISION kit/HRP polymer試薬 DAKO Code No. K5027)を加えて室温で30分間反応させた後、TBSTで洗浄(3分間×2回)した。発色のため、DAB(基質緩衝液[過酸化水素含有イミダゾール塩酸緩衝液]1mlに対し発色基質[3,3’-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド]1〜2滴)を添加した反応液を室温にて5分反応させ、水洗(5分間)し、蒸留水にて洗浄し、さらにマイヤーヘマトキシリンにて核染色を行った。そして水洗(5分)、蒸留水による色出しを行い、エタノールによる脱水、キシレンによる透徹を行った後、封入剤を用いて封入し、免疫染色及び細胞染色された病理標本を完成させた。
【0055】
5.病理標本の検査
上記のようにして作製した、免疫染色標本と同一のパラフィンブロックから作製済みのヘマトキシリン・エオジン染色標本で確認した癌の浸潤先端部を観察した。細胞質が(具体的には貯留粘液や粗顆粒状に部分的あるいは全体的に)染色された癌細胞を陽性細胞(用いた抗体に応じ、REG4タンパク質陽性細胞又はREG1Aタンパク質陽性細胞である)として計数した。抗REG4抗体を用いて検出されたREG4タンパク質陽性細胞が、浸潤先端部に位置する癌細胞総数(例として腺管あるいは集簇を形成している、細胞総数)に対して10%以上存在する病理標本については、この病理標本の大腸癌細胞におけるREG4タンパク質の検出結果は「陽性(+)」であるとして、一方その陽性細胞が10%未満の病理標本についてはREG4タンパク質の当該検出結果は「陰性(−)」であるとして評価した。同様に、抗REG1A抗体を用いて検出されたREG1Aタンパク質陽性細胞が、浸潤先端部の癌細胞総数の10%以上存在する病理標本については、この病理標本の大腸癌細胞におけるREG1Aタンパク質の検出結果は「陽性(+)」であるとして、一方その陽性細胞が10%未満の病理標本についてはREG1Aタンパク質の当該検出結果は「陰性(−)」であるとして評価した。この10%の基準は、免疫染色法において陽性細胞の存在が有意に認められることを示す評価基準としてしばしば用いられ、例えば乳がんにおける分子標的治療薬ハーセプチンの適用について病理組織標本で免疫染色によるHER2タンパクの過剰発現の有無を検討する場合の判定基準として陽性癌細胞が10%以上とする基準が確立されているのと同様である。
【0056】
さらに、それぞれの検出結果が陽性の患者群と陰性の患者群に分け、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法による生存分析を行った。得られた生存曲線を図2に示した。Log rank検定の結果はP=0.0024であった。
【0057】
また、以上の検出結果により分類した各群の全観察期間を通じた生存率を表2にまとめた。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示されるように、抗REG4抗体を用いたREG4タンパク質の検出結果が陰性(−)の場合には、抗REG1A抗体を用いたREG1Aタンパク質の検出結果が陽性と陰性のいずれであっても、生存率は高いことが示された。この結果は、サンプル中の大腸癌細胞についてREG4タンパク質の検出結果が陰性(−)である場合、REG1Aタンパク質の検出結果が陽性と陰性のいずれであっても、「予後良好」の可能性が高いことを示している。
【0060】
一方、抗REG4抗体を用いたREG4タンパク質の検出結果が陽性(+)の場合、生存率は同検出結果が陰性(−)の症例と比較して大きく低下し、22%であった。しかし抗REG4抗体による検出で陽性(+)とされた症例のうち、抗REG1A抗体による検出結果が陽性(+)の場合は生存率が50%であったのに対し、その結果が陰性(−)の場合は生存率が0%(生存患者なし)であり、REG1Aタンパク質の検出結果が生存率に大きく影響した。これらの結果は、サンプル中の大腸癌細胞についてREG4タンパク質の検出結果が陽性(+)であり、かつREG1Aタンパク質の検出結果が陰性(−)である場合、「予後不良」の可能性が極めて高いことを示している。
【0061】
従って、大腸癌細胞におけるREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質の検出結果を組み合わせることにより、その陽性又は陰性のパターンから、由来患者の予後良好又は予後不良の可能性をより高い精度で予測できることが示された。なお、抗REG4抗体でREG4タンパク質陽性(+)かつ抗REG1A抗体でREG1Aタンパク質陰性(−)と予測された病理標本の組織型としては、管状腺癌 中分化型(tub2)が3例であり、管状腺癌 高分化型(tub1)及び粘液癌(muc)も1例ずつ認められ、1つの腫瘍組織型に限定されていなかった。
【0062】
大腸癌組織サンプル中の大腸癌細胞についてREG4タンパク質の検出結果が陽性(+)のとき、REG1Aタンパク質の検出結果は陽性(+)の場合よりもむしろ陰性(−)である場合の方が予後不良となる確率が非常に高かったという上記結果は、REG1Aの存在が消化器癌の予後不良を示すマーカーであるという従来の知見(非特許文献1など)からは全く予想外のものであった。実際、表2でも、REG1Aタンパク質の検出結果だけをみれば、陽性の場合の方が陰性の場合よりも生存率が低くなっていた。
検討症例(28症例)の詳細なデータを表3にまとめた。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示す通り、抗REG4抗体(+)かつ抗REG1A抗体(−)の分類群では、全例の死亡が確認され、特に、tub1という病理組織学的には高分化で低悪性度に分類される組織型でしかもリンパ節転移の認められなかったステージIIの症例でさえ、死亡が確認された。
【0065】
一方、抗REG4抗体(+)かつ抗REG1A抗体(+)の分類群では、組織型tub1でステージIIの症例は生存しており、さらに、病理組織学的にも低分化で悪性度の高い組織型mucであっても生存症例が認められた。
【0066】
これらの結果は、抗REG4抗体と抗REG1A抗体による陽性又は陰性の検出結果に基づく4つの分類群(抗REG4抗体及び抗REG1A抗体による検出結果がそれぞれ:(+)(+)群、(+)(−)群、(−)(+)群、(−)(−)群)のうち、抗REG4抗体(+)かつ抗REG1A抗体(−)の分類群では、病理組織学的な組織型にかかわらず生存率が極端に低下し、予後不良となる可能性が最も高いことを示している。
【0067】
本実施例により、大腸癌組織サンプル中の大腸癌細胞におけるREG4タンパク質とREG1Aタンパク質の陽性又は陰性の検出結果を組み合わせて、大腸癌の予後指標、特に予後不良症例を高確率で予測可能な予後指標として用いることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の検査方法は、大腸癌のより正確な予後指標をもたらすことから、大腸癌患者の予後を改善する治療法を確立する上で非常に重要な手法となる。免疫染色は病理組織診断において重要な診断上の補助手段であり、組織所見とタンパク発現を同一標本上で観察することのできる唯一の方法である。本発明の方法では免疫染色を用いて大腸癌患者の予後予測を可能にすることができ、そのことは、病理組織診断上、的確な治療方針の決定に有用な情報を提供できるため非常に意義がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸癌組織サンプル中のREG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を検出し、大腸癌細胞におけるそれらの検出結果を組み合わせて大腸癌の予後指標とすることを特徴とする、大腸癌組織の検査方法。
【請求項2】
REG4タンパク質及びREG1Aタンパク質を、それぞれ抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を用いて検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
大腸癌がUICC-TNM分類でステージII又はステージIIIに分類されるものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗REG4抗体及び抗REG1A抗体を含む、予後予測用の大腸癌組織検査キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−33495(P2011−33495A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180528(P2009−180528)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(502135967)株式会社江東微生物研究所 (1)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】