説明

二次元ガスクロマトグラフィーによって分子化合物混合物の定量分析を行うための方法

【課題】二次元ガスクロマトグラフィーによる分子化合物混合物の定量分析方法を提供すること。
【解決手段】二次元ガスクロマトグラフィーを行い、この間にクロマトグラフィーシグナルを記録する。このシグナルから、各クロマトグラフィーピークが各スポットを形成している二次元のクロマトグラムを作成する。これらのスポットを、多角形によって範囲画定する。次いで、各多角形に対して、この多角形とクロマトグラム列との2つの交点間に含まれるクロマトグラフィーシグナルの各部分を抜き出す。これら各部分の中に存在する各クロマトグラフィーピークに対して開始点時間および終了点時間を画定し、これらのクロマトグラフィーピークの開始点時間および終了点時間に応じてその交点をシフトすることによって多角形を調整する。最後に、こうして調整された多角形の面積を計算することによって分子化合物の量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元ガスクロマトグラフィー分析の分野に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、二次元ガスクロマトグラフィーによる石油サンプルの定量分析のための方法を提供する。
【0003】
二次元ガスクロマトグラフィー(2D GC)は、詳細な分子分析を行うための非常に効率的な分離手法である。専門家にはよく知られているこの手法は、例えば、以下の特許:米国特許第5,135,549号および米国特許第5,196,039号に記載されている。これらの文献には、二次元クロマトグラムを得るための2つの異なる分離カラムの連続的なカップリングの原理が述べられている。
【0004】
二次元ガスクロマトグラフィーは、第1のカラムで溶離したすべての化合物を、異なる選択性をもつ第2のカラムで次々に分離に付する分離手法である。この2つのカラムは、装置の重要な構成要素であるモジュレーターによって直列に接続されている。このインターフェイスは、第1のカラムの流出物を化学インパルスの形でサンプリングして、それらを第2のカラムに移す。この操作を行うのに必要とされる時間(モジュレーション時間と呼ばれる)は、一般に、非常に早い(数秒)第2の分離を必要とする。すなわち、第2のカラムの特徴は、このモジュレーション時間の間に各インパルスが分離されるように選ばれる。図1は、2D−GCの原理を模式図的に示している。
【0005】
化合物と固定相の親和性があればあるほど、各カラムを出るのに必要とする時間は長くなるものである。第2のカラムの出口で、化合物は、検出器に出合う。この装置は、ガス状混合物の様々な物理特性を、時間の関数としての強度の形で測定する。このシグナル(クロマトグラフィーシグナルまたは「生1D」シグナルと呼ばれる)は、各構成成分の特性である一連のピークを有し、その形状は、測定される特性の強度によって決まる。各ピークは、「溶離ピーク」または「クロマトグラフィーピーク」と呼ばれる。ピークに相当する最大強度点は、リテンションタイムと呼ばれる。こうして記録されるシグナルは、使用する検出器に依存して、異なる特質のものであり得る。検出器(TCD、FID、SCD、NCD、・・・)は、用途に応じて、当業者によって選択される。
【0006】
いくつかの検出器は、成分の数ppm(百万部あたりの部数)を検出することが可能である。
【0007】
第1のカラムからの溶離ピークは、モジュレーターによって一定間隔ごとにサンプリングされる。各フラクションは集められ、次いで第2のカラムに連続的に注入される。検出されるクロマトグラフィーシグナル、すなわち生1Dシグナルは、したがって、二次元目で行われる一連の分離(シグナル上のピークによって具現される)に相当する。このクロマトグラムをオフセットと組み合わせることで、シグナルを二次元で再構築することが可能である。すなわち、各モジュレーションサイクルの開始点は、化合物の一次元目のリテンションタイムを表し、各ピークの最大点は、二次元目のリテンションタイムを表す。二次元目の保持順序が正しくあるためには、オフセットを導入しなければならない。これにより、縦座標軸のすべてのリテンションタイムが一定値だけシフトされる。この操作は、クロマトグラムの構造を正しく表現するのに有用であり、ここでは化合物の絶対第2のリテンションタイム(すなわちy軸上の)はモジュレーション時間を超える。但し、より少なく保持された化合物と最も保持された化合物とのリテンションタイム差は、モジュレーション時間よりも小さい(すなわち、分離の重なり合いや、包み込みがない)。
【0008】
結果は、軸のうちの2つがそれぞれの分離次元におけるリテンションタイムを表し、3番目の軸がシグナルの強度を表す三次元クロマトグラムの形で出させることができる(図1中の3D)。最も一般的な表現は、二次元(2Dクロマトグラム)であり、分離面の2つの軸が時間座標を表す。次いで、クロマトグラフィーピーク(溶離ピーク)がスポットを形成し、その強度は、カラーグラデーションによって示される。この表現は、サンプルの分子イメージに近い。図1に示されている例では、第1の分離が終わって共溶離した2種の溶質が第2の分離の間に分離される(但し、各カラムをコーティングしている固定相の特質は、それらに適しているものとする)。
【0009】
しかしながら、二次元ガスクロマトグラフィー(2D−GC)から得られる結果は、複雑なデータ分析メソッドとカップリングされなければならない。
【背景技術】
【0010】
通常のGC(ガスクロマトグラフィー)におけると同じように、2D−GCでの溶質の定量化は、溶離ピークの面積を測定することによる検出器の応答の較正によって行われる。2D−GCの特殊なケースでは、クロマトグラムは一般に等応答表面の形で表現され、導入された溶質の量に比例する溶離ピークの体積を得るためにはこれを積分しなければならない。以下の文献に述べられているように、二次元ガスクロマトグラフィー(2D−GC)の定量分析には、3つの知られているタイプがある。これらの方法は、すべて、溶離ピークを表現しているスポットを範囲画定するゾーンを画定することにその基礎を置いている。このゾーンは、専門家により、ブロブ(blob)と呼ばれている。
【0011】
・ファン ミスペラーら、2005「クロマトグラフィアプリケーション(包括的な二次元のガスクロマトグラフィーと多変量解析によって例証される)を分類するための新しいシステム」、ジャーナル オブ クロマトグラフィーA.、1071 (2005)229-237頁(Van Mispelaar V.G. et al., 2005, "Novel system for classifying chromatographic applications, exemplified by comprehensive two dimensional gas chromatography and multivariate analysis ", Journal of Chromatography A., 1071 (2005) pp. 229-237)。
【0012】
1−数種の予め同定された化合物の濃度の決定
化合物を、2つの軸上におけるそのリテンションタイム(すなわち、ゾーンの最大点時間)によって同定する。ゾーンの面積を、較正によって濃度に変換する。この分析では、2つのゾーン同士間でのベースラインへの明白な回帰が仮定されている。ベースラインは、化合物の不存在下で(すなわち、移動相のみの存在下で)記録されるシグナルに相当する。
【0013】
2−ピークグループの濃度の決定
一部の用途に対しては、ピークの数は、強い共溶離を伴って数万になる。したがって、各ピークを個々に同定するのは現実的に不可能である。目標は、共通の化学的または構造的特徴(同じ化学類(構造的同族体)、同じ数の炭素原子、同じ数の二重結合、同じ数の芳香族環、その他)を有する擬成分により、それらを一緒にグループ化することである。
【0014】
3−いくつかの分析同士間の類似点および差異の決定
目標は、化合物の存在および濃度についての差異を自動的に決定することである。イメージ処理および分類手法が、用いられる。この手法は、特に、フォローアップ分析のために、あるいはサンプルスクリーニングのために用いられ、分析の詳細は無視される。
【0015】
このタイプの分析を実施するのには、3種の処理方法がある。
【0016】
モード1−原理は以下のとおりである:
・あるイメージタイプに対して、各構成成分についての輪郭ゾーン(またはブロブ)の汎用マスクを画定する。メタデータ(その成分の名称、その成分の特性)を加えることもある。
・マスクを新規のイメージに適用する。
・(i)実験の不確実性を考慮するために、また(ii)構成成分の濃度と連結している変動を考慮するためにブロブをマニュアルで修正して、新規のイメージ中での各輪郭の正確な位置を決定する。
【0017】
この処理方法は、ソフトウェアGC Image(登録商標)(Zoex,USA)中に提供されている。この処理方式は、適用するのが困難である。すなわち、実際、各ブロブの輪郭ゾーンの画定は、ユーザーに、またイメージ全体から個々のピークが画定される方法にも大きく左右される。それゆえに、この方法は、非常に正確なものではないし、また非常に再現性のあるものでもない。
【0018】
モード2−原理は以下のとおりである:
・イメージのすべてのピークをイメージ解析によって自動的に画定する。
・ピークとブロブを一対一で関連付ける。
・各ブロブに対して化合物をマニュアルで割り当てる。
【0019】
この処理方法は、以下の文献に記載されている。ピークは、直接イメージ中で、流域型アルゴリズムによって決定される。
【0020】
・S.E.ライチェンバッハ、V.コッタパリ、M.ニー、A.ヴィスヴァナサン、2005,化学製品を包括的な二次元のガスクロマトグラフィーと質量分析法で識別するためのコンピューター言語、ジャーナルオブクロマトグラフィー、1071巻、263−269頁(S.E. Reichenbach, V. Kottapalli, M. Ni,A. Visvanathan, 2005, Computer language for identifying chemicals with comprehensive two-dimensional gas chromatography and mass spectrometry, Journal of Chromatography, Vol. 1071, pp. 263-269)。
【0021】
この方法は、ピークの数があまりにも多い(数千)ので、分析タイプ2には適していない。したがって、各ピークに成分を割り当てるのは不可能である。さらには、ブロブとピーク間の一対一の関係が暗黙に仮定されていることも間違っている。なぜなら、ブロブは、多くの場合、数個のピークからなっているからである。
【0022】
モード3−原理は以下のとおりである:
・イメージのすべてのピークを自動的に決定する。
・ピークをルールによって同定する。
【0023】
この処理方法は、以下の文献に記載されている:
・M.ニー、S.E.ライチェンバッハ、A.ヴィスヴァナサン、J.ターマット、E.B.レドフォード、2005、包括的な二次元のガスクロマトグラフィーに関連したピークパターンバリエーション(M. Ni, S.E. Reichenbach, A. Visvanathan, J. TerMaat, E.B. Ledford, 2005, Peak pattern variations related to comprehensive two-dimensional gas chromatography, Journal of Chromatography, Vol. 1086, pp. 165-170)
しかしながら、ルールの設定が難しい。
【0024】
モード4−原理は以下のとおりである:
・イメージに相当する生1Dシグナル(SB)のすべてのピークを通常の積分によって自動的に決定する(1D GC手法)。
・イメージ中のゾーン(ブロブ)をユーザーが画定する。
・ブロブの最終面積は、ブロブに属する生1Dシグナル(SB)のピーク面積の合計に相当する。
【0025】
この処理方法は、ソフトウェアHyperChrom(登録商標)(Thermo,USA)により提供されている。
・ダニエラ カバグニーノ、パオロ マグニ、ジャシント ジリオーリ、ソリン トレスチアヌ、2003、複雑なマトリックス中で多核芳香族炭化水素類の決定のために大きなサンプル量注入を用いる包括的な二次元のガスクロマトグラフィー、ジャーナルオブクロマトグラフィーA、1019(2003)、211−220(Daniela Cavagnino, Paolo Magni, Giacinto Zilioli, Sorin Trestianu, 2003, Comprehensive two-dimensional gas chromatography using large sample volume injection for the determination of polynuclear aromatic hydrocarbons in complex matrices, Journal of Chromatography A, 1019 (2003) 211-220)。
【0026】
しかしながら、この方法は、以下の欠点を有する:
【0027】
・各新規の分析に対して適用される、数個のブロブを前もって画定するマスク(パターン)を画定することが、可能でない。各新規の分析に対しては、ユーザーは、新規のマスクを画定しなければならず、これは、分析時間の点で犠牲の大きいものであり、またオペレーター依存的でもある。
【0028】
・ブロブは、必ず、前もって画定された四辺形であり、これは、その後、変形してもよい。したがって、一部のブロブは、各溶離ピークを正しく整えるのに正しく配置することができない。ここで、タイプ2によれば、輪郭が非常に曲がりくねったものであり得る数百のピークに相当するゾーンを範囲画定することが可能でなければならない。
【0029】
・共溶離が強い場合は、第2の分離に相当する第2のクロマトグラム中の溶離ピークを正確に画定することが非常に困難なことであり得る。この場合は、提案されている積分は、ブロブから積分されるゾーンがよく画定されていないので、一般的には、誤りがある。ピークの検出がない場合の帰納的な調節がない。
【0030】
・ユーザーは、各ブロブの境界線を実際には目で見ることができない。
【0031】
モード5−原理は以下のとおりである:
・イメージ中でゾーン(ブロブ)のマスクを画定する。
・イメージのすべてのピークを自動的に決定する。
・前に画定されたピークをブロブに統計解析によって割り当てる。
【0032】
この処理方法は、以下の文献に記載されている:
・M.ニー、S.E.ライチェンバッハ、2005、「GC 2Dにおける自動化学同定のためのエッジパターンマッチングの使用」(M Ni, S.E. Reichenbach 2005, Using Edge pattern Matching for Automatic Chemical Identification in GC 2D)、サジャージ著「自動目標認知XIV」(Automatic Target Recognition XIV. Edited by Sadjadi)、フィローズ A.SPIE会報、5425、155−163(2004)(Firooz A. Proceedings of the SPIE, Volume 5426, pp. 155-163 (2004))。
【0033】
イメージ同士間の調整は、ピークごとに行われる。これらの著者らは、ピークの最大点のみを検討することでデータを整理している。しかしながら、彼等は、ピークとブロブ(したがって、化学成分)との間の一対一の関係を暗黙に仮定している。実際には、そうではない。さらには、提供されている方法は、製品の化学組成に大きく左右される。ブロブは、濃度比が変わることがある数個のピークを含み得るので、ブロブの最大点は、非常に変動するものであり得る。
【0034】
簡潔に言うと、二次元ガスクロマトグラフィーは、例えば石油サンプルのようなサンプルの定量分析を行うのに、工業で用いられている非常に効率的な手法である。この手法には、しかしながら、複雑な解析方法が伴う。現在の解析方法は、完全には満足のいくものではない。すなわち:
・ピークの数が非常に多いので、イメージ中のスポットを範囲画定する多角形を画定することが時には困難である。これらのゾーンは、数個のピークを含むこともある。
・ゾーン(ブロブ)の同定、すなわち化合物とゾーンとの関連付けが難しい。炭素原子の数が大きくなればなるほど、異性体の数も大きくなる。したがって、成分とピークとを関連付けるのは難しい。
【0035】
さらには、二次元ガスクロマトグラフィー(2D GC)結果を解析するこれらの方法はマニュアルなので、2つの主な欠点がある。すなわち、それらは長い時間を必要とし、その結果はそれを解釈する人によって左右される。このような解析は、したがって、その不正確さゆえに、実際に用いるのは困難である。多角形の数は一般には150を超えるので、それゆえに、自動化された方法が適用されなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本発明の課題は、上記した問題を克服することを可能とする、二次元ガスクロマトグラフィー結果を解析するための新規な方法を提供することであり、特筆に値するのは一方ではゾーン(ブロブ)を取り囲む多角形の形状を自動的に調整することを可能とし、他方では、多角形を新規のイメージ(2Dクロマトグラム)中で自動的に再較正することによって他の解析に対しては多角形マスクを用いることを可能とする解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、二次元ガスクロマトグラフィーによる分子化合物混合物の定量分析方法に関するもので、該方法は:
・クロマトグラフィーピークを含むクロマトグラフィーシグナル(SB)を記録すること、
・該クロマトグラフィーシグナルの部分に各列が相当し、該クロマトグラフィーピークがスポットを形成している二次元のクロマトグラム(CHR)を作出すること、
・該スポットを多角形を用いて範囲画定すること
を含む。
この方法は、少なくとも1つの多角形に対して、以下のステージを含む:
・多角形とクロマトグラム列との2つの交点間に含まれるクロマトグラフィーシグナルの各部分を同定する、
・該各部分の中に存在する各クロマトグラフィーピークについての開始点時間、終了点時間および最大点を決定する、
・該クロマトグラフィーピークの開始点時間、終了点時間および最大点に応じて、交点をシフトすることによって多角形を調整する、
・こうして調整された多角形の面積を計算することによって少なくとも1つの分子化合物の量を決定する。
【0038】
この方法によれば、多角形とクロマトグラム列との各交点に対して、以下のステージを行うことによって多角形を調整することができる:
・交点が、クロマトグラフィーピークの開始点と最大点との間に含まれる場合は、その交点をピーク開始点の方へシフトする、
・交点が、クロマトグラフィーピークの最大点と終了点との間に含まれる場合は、その交点をピーク終了点時間の方へシフトする、
・交点が、クロマトグラフィーピークの開始点時間と終了点時間との間に含まれない場合は、その交点が、多角形の境界線と、ならびにクロマトグラムの境界線と、ならびにクロマトグラフィーピークの開始点および終了点と結合しない範囲で、その交点を、一番近いピークの方へ前記列に沿って垂直にシフトする。
【0039】
多角形の最初の点から始めて且つ最後の点が処理されない範囲で、現在の交点が次の2つの交点と一列に並ぶ場合は、その真ん中の交点を取り除き、且つ一方を2交点分戻らせるか、または一方を次の交点に向かわせることによって、多角形を調整することができる。隣接する頂点同士についての線形補間を用いて、多角形頂点の最終位置を計算することも可能である。
【0040】
本発明によれば、スポットは、多角形を手動で作成することによって、または用いる二次元ガスクロマトグラフィーに適している多角形マスクによって、多角形を形成する各頂点をクロマトグラムの一番近い列の中に配置し直すことにより範囲画定することができる。
【0041】
クロマトグラフィーピークの開始点時間、終了点時間および最大点は、そのクロマトグラフィーシグナルの各部の一次微分、二次微分および三次微分から決定することができる。微分は、ザビッキー・ゴーレイのフィルタリングメッソッド(Savitzky-Golay filtering method)により計算することができる。
【0042】
本発明による方法の他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら、以下の非限定的な実施形態の例の詳細な説明を読めば、明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明による方法は、二次元ガスクロマトグラフィーによって得られたクロマトグラムを解析することによって、石油製品のような分子化合物混合物の定量分析を行うことを可能とするものである。
【0044】
分子組成を決定しようとするサンプルについての二次元ガスクロマトグラフィー(2D−GC)を行った後、本方法は、主に、4つのステージ(図6)を含む:
1−二次元ガスクロマトグラフィー(2D−GC)から二次元にクロマトグラム(CHR)を作成すること;
2−多角形によってクロマトグラムのスポットを範囲画定すること(POL);
3−クロマトグラム中で同定されたスポットに応じて多角形を調整すること(ADJ);
4−多角形を解析することによってサンプルの分子組成を決定すること(COMP)。
【0045】
1−二次元にクロマトグラムを作成
本方法が適用されるイメージは、二次元におけるクロマトグラムである。そのようなクロマトグラムは、以下の要素によって特徴付けられる:
・モジュレーション時間(MC2):すなわち、第1のカラムの流出物を化学インパルスの形でサンプリングして、それを第2のカラムに移すのに必要とされる時間、
・考慮に入れる第1点の時間座標(TS:Time Start):この点は、シグナルの開始点が分からないこともあるので、ユーザーが選び出す、
・第2のカラムのオフセット(OC2)。
【0046】
このクロマトグラムは、以下のようにして作成される(図1):
・二次元ガスクロマトグラフィーの間に、第2のカラムの出口にある検出器によって時間(t)の関数として記録されたシグナルに相当する生1Dシグナル(クロマトグラフィーシグナル)を記録する。そのような生1Dシグナル(SB)を、図2に、時間(t)の関数として示す。これは、一連の点P(t)からなる。
・時間座標がTS+OC2より下にあるこのクロマトグラフィーシグナル(SB)の点をシグナルから取り除く。
・シグナルを、モジュレーション(MOD)に相当する長さMC2の連続する断片に分ける。
・2Dクロマトグラム(CHR)と呼ばれる2Dイメージを形成するよう、これらの断片を垂直に並べてつなぐ(CONC)。列と列同士間のオフセットはOC2である。
【0047】
この2Dクロマトグラムは、最も一般的な表現であり、これは、したがって、並んでつながった一連の生データスライス(幅はモジュレーション時間MC2に等しい)からなる。図3は、中間留分サンプル中に含まれている含窒素化合物の分離に対して得られた2Dクロマトグラムを示している。この分離面の2つの軸は、第1のカラムに対する分離時間座標を横軸として、第2のカラムに対する分離時間座標を縦軸として示している。したがって、クロマトグラフィーピークは、強度がカラーグラデーションによって示されるスポットを形成する。この表現は、サンプルの分子イメージに近い。
【0048】
これらの処理を行うことは、時間座標がTS+OC2を超える生1Dシグナル(SB)の各点P(t)で以下の式を適用することに等しい:
【0049】
【数1】

【0050】
式中:
・ t:生1Dシグナル上の点P(t)の時間位置、
・ x、y:2Dクロマトグラム中での点P(t)の空間座標、
・ floor:アーギュメント(独立変数)以下の最も大きい整数を返す関数、
・ mod:割り算の余りを返す関数。
【0051】
点P(t)の空間座標(x,y)をその時間座標から計算することを可能とする、上記に示されている関係(1)および(2)は、t=x+yと裏返し可能であることを注記しておく。イメージ中の各点の絶対時間(t)と座標(x,y)とを結び付けているこの関係は、生1Dシグナル(SB)から得られたものであれ、多角形の画定から得られたものであれ、このイメージ(2Dクロマトグラム)中に現れる任意の点に対しても守られる。
【0052】
2−多角形によるクロマトグラム中でのスポットの範囲画定
こうして作成された2Dクロマトグラムは、その強度が、カラーグラデーションによって表されており、クロマトグラフィーピークを表すスポットを呈示する。このスポットの面積は、明示の分子化合物の量に比例する。スポットは、少なくとも1つの溶離ピークを含む2Dクロマトグラムのゾーンである。このスポットは、専門家により、ブロブと呼ばれる。このスポットは、別の色の背景(ベースラインカラー)から浮き出ている、異なる色(各ピークの色)の小さな空間である。これらのゾーンは、したがって、先ず範囲画定しなければならない。この範囲画定により、多角形、すなわち一本の線の線分(辺)によって範囲限定されおり、各辺が、前にある辺、および次にある辺と共通の末端(頂点)を有している閉鎖幾何学図形が形成される。
【0053】
2つの選択肢が考えられ得る。多角形を、その2Dイメージを解釈する人間がマニュアルで作出するか、または多角形マスク、すなわち、前に決定された一連の多角形を適用するかである。これは、例えば、同じような溶質についての先行の解析から得られたマスクであってよい。
【0054】
二つ目のケースでは、マスクは、進行中の検討に適したものでなければならない。上記段落では、生1Dシグナル(SB)のセグメントの並置からなる2Dイメージ(2Dクロマトグラム)が、どのようにして垂直に描かれるかを示した。イメージの各点を、生1Dシグナル(SB)の各点に結び付けるt=x+yの関係は、列の中心にある点に対してのみ有効である。したがって、それをそのまま適用することはできない。水平的な再較正が必要である。それは、各多角形頂点(12,17)を、ユーザーのマウスで、一番近い列上に配置し直すことにある:
【0055】
【数2】

式中のround:アーギュメントに回されてきた数に最も近い整数を返す関数。
【0056】
第2のカラムの設定されたオフセット(OC2)、考慮する第1点の時間座標(TS)、およびモジュレーション時間(MC2)を用いて、単射t=x+yを画定することができる。これは、任意の時間において、イメージ中で、一連の座標同士を関連付ける。多角形は、こうして、以下のような形で記憶される:
・{tk}:多角形のk頂点の生1Dシグナル(SB)上の時間座標、
・OC2:多角形作成したときの第2のカラムのオフセット、
・TS:多角形作成したときの考慮する第1点の時間座標の値、
・MC2:多角形作成したときのモジュレーション時間。
【0057】
モジュレーション時間の記憶は、多角形が、分析の獲得パラメーター(同じ時間)と理路整然としているどうかを決定することを可能とする。第2のカラムのオフセットとTSの記憶は、イメージ中で、多角形全体が目に見える、少なくとも1つの配置をもたせることを可能とする。この記憶方式により、用いるオフセットが異なっていても、多角形マスクを新規の分析に容易に再適用することが可能となる。したがって、多角形頂点の付加、削除、修正の機能を、容易に実施することができる。すなわち、空間位置が、時間位置に自動的に変換される。したがって、このデータ構成により:
・イメージと生1Dシグナル(SB)間同士の単射関係をもつこと、
・ユーザーが選び出すオフセットとは無関係となること(ある特定のオフセットで画定されている多角形マスクは、たとえオフセットが異なっていても、新規の分析に適用することができる)、
・生1Dシグナル(SB)上の積分に相当する時間を用いて、2Dイメージ中の各点を再較正すること、
が可能となる。
【0058】
3−クロマトグラム中で同定されたスポットに応じた多角形の調整
上記で述べたデータ構成は、多角形マスクを新規の分析に適用することを可能とする(オフセットとは無関係に)。したがって、目標は、多角形を新規の分析で再較正すること、すなわちイメージ列と多角形との交点に相当する1Dシグナル上の溶離ピーク開始点時間および終了点時間についてそれらを較正することである。多角形の調整は、3つの別個のステージに分けられる:
・多角形とイメージ列との交点に相当する1Dシグナル(生1Dシグナル(SB)の断片)を決定すること、
・この1Dシグナル上の溶離ピークを決定すること、
・前に計算されたピーク開始および終了時間に関して多角形を調整すること。
【0059】
3.1−処理されるべきクロマトグラフィーシグナル(SB)部分の決定(図6−EXT)
【0060】
最初の処理は、ゾーンの輪郭を画定する、2Dクロマトグラム中のすべての点、すなわち多角形を決定することである。1Dシグナルの各部分の抜き出しは、各多角形線分に対して、多角形頂点の割り当ての方向に、以下のステージを実施することによって行われる:
・A、Bを、線分の2つの末端とし、tA、tBを、その時間座標とする、
・n=(floor((tB−tA)/MC2)−1)を、線分AB(両末端は除く)によって交差されるイメージ列の数とし、
・列の数が分かると、多角形頂点の時間座標:tk=tA+k*(tB−tA)/(n+1)(式中、kは、lからnまでの範囲)は、多角形の各辺と、各列との交差によって計算される。
【0061】
特殊なケース
1Dシグナルに適用されるこれらの処理は、いったん選別され、得られた点に対して、[TIN;TOUT]で表される対のオルタネーションを必要とし、これは、多角形内に位置しているシグナルの部分を画定するものである。いくつかの特殊な配置を求めなければならない。
【0062】
・多角形が、横方向に向けられた尖った伸張を含む場合は、おそらくは重なっているシグナル点が計算で考慮されるように、頂点は2倍(TIN=TOUT)しなければならず、
・多角形が、横方向に向けられた尖った穴を含む場合は、おそらくは頂点と二度重なっている点を考慮しないように、頂点を切り捨てなければならず、
・多角形が、異なる方向に進んでいる2つの線分によって囲まれる垂直の線分を含む場合は、凹点を画定している線分の末端を、TINOUTオルタネーションが壊れることを防ぐために削除しなければならない。
【0063】
このステージの終わりで、多角形とクロマトグラム列との2つの交点間に含まれるクロマトグラフィーシグナル(SB)が抜き出される。
【0064】
3.2−これらの1Dシグナル部分におけるピークの決定(図6−TDP、TFP、TMP)
前の項では、クロマトグラフィーシグナルの各部分を画定する、検討中の多角形に属するイメージの各列の開始点時間および終了点時間を決定することができた。この項では、このようにして得られた各部分上で各ピークの開始点時間(TDP)、最大点時間(TMP)および終了点時間(TFP)を決定するために開発された方法についてより具体的となる。
【0065】
1Dシグナル上のピークの決定は、一般に、微分計算:すなわち、弱い共溶離に対しては一次及び二次微分、そして強い共溶離に対しては一次、二次及び三次微分によって行われる。以下の文献は、用いた方法のいくつかを掲載している:
・G.ヴィボ−ツルヨールズ a、J.R.トレス−ラパジ、A.M.ファン ニーダーカッセル、Y.バンダー ヘイデン、D.L.マッサート、2005,「多重クロマトグラフィ信号のピークの探知と解析のための自動のプログラム」、ジャーナルオブクロマトグラフィーA、1096(2005)、133−145(G. Vivo-Truyols a, J.R. Torres-Lapasi, A.M. van Nederkassel, Y. Vander Heyden, D.L. Massart, 2005, Automatic program for peak detection and deconvolution of multi-overlapped chromatographic signals, Journal of Chromatography A, 1096 (2005) 133-145)
【0066】
しかしながら、上記著者らは、強い共溶離の場合は一次微分を用いることは十分でない(すなわち、2つのピークが非常に近いので、その2つのピークの存在を視覚的に検出するのが非常に困難である)ことを示している。一次微分のゼロへの回帰がないのである。つまり、本発明によれば、ピークの検出方法は、得られた各1Dシグナルの部分に対して以下のステージを含む:
1−1Dシグナルの各部の一次、二次(およびおそらく三次)微分の計算、
2−処理用しきい値の計算(これは、試行錯誤によって決定される。値は、各プロダクトタイプに対して設定される)、
3−各部上のピークの検出。
【0067】
弱い共溶離に対しては:
・一次微分の値は、P(t)でゼロであり、その前で負、その後で正であり、
・点P(t)とその次の点の間の一次微分の値の差は、しきい値seuil3rdより大きい、
・この点P(t)における二次微分の値は負であり、その振幅の値はしきい値seuil2ndより大きい、
・この点P(t)でのシグナルの値は、しきい値ampThresholdより大きい。
【0068】
強い共溶離に対しては、一次微分を三次微分で置き換える、すなわち:
・三次微分の値は、P(t)でゼロであり、前で負、後で正であり、
・点P(t)及びその次の点との間の三次微分の値の間の差は、しきい値seuil3rdより大きい、
・この点P(t)での二次微分の値は負であり、その振幅の値はしきい値seuil2ndより大きい、
・この点P(t)でのシグナルの値は、しきい値ampThresholdより大きい。
【0069】
微分計算は、好ましくはザビッキー・ゴーレイのフィルタリングメッソッド(Savitzky-Golay filtering method)を用いて行うことができるが、他の確立されたフィルタリングメッソッドを用いることもできる。一つのそのような方法は、例えば:
・ザビッキー A,ゴーレイ M.J.E.,「<<簡略化された最小二乗法手順によるデータのスムージングと分化>>」、分析化学、36巻、1627−1639頁,1964(Savitzky A., Golay M. J. E.," << Smoothing and differentiation of data by simplified least squares procedures >>, Anal. Chem., vol. 36, pp. 1627-1639, 1964)に記載されている。
【0070】
これらの条件のすべてが点P(t)で満たされると、溶離ピークがこの点に記録されるか、より正確には、点P(t)にクロマトグラフィーピーク最大点が記録される。新規のピークを検出する前に、二次微分が、「ゼロに近い」ゾーンから十分後退していることを確認するための試験が加えられる。このゾーンは、しきい値、seuilPeakProcheZero3rdの値により範囲画定される。
【0071】
4−確認
・各ピークの開始点および終了点を求める。
【0072】
弱い共溶離に対しては、各ピークに対して:
・一次微分の符号変化を決定する(これは、一次ゼロ交差に相当する)、
・一次微分の絶対値がしきい値seuilStartStopProcheZero3rdより下であるかぎり、新規のゼロ交差を求めない、
・一次微分の新規のゼロ交差を求める。
【0073】
強い共溶離に対しては、アルゴリズムは同じであるが、三次微分を用いる。
・帰納的調節:
・現在のピークと最初のゼロ交差との間にピークがある場合、ピークStop(それにStart)は、現在のピークの値を取る、
・現在のピークと二次ゼロ交差との間にピークがある場合、ピークStop(それにStart)は、一次ゼロ交差の値を取る、
・それ以外では、ピークStop(それにStart)は、二次ゼロ交差の値を取る。
【0074】
5−得られた結果の精緻化
・第1ピークStartの改善。第1ピークStartはその前にあるものとは隣接しないので、シグナル高さが値ampThresholdを超えないところまでそれを配置し直すことができる(処理は列上で行う)。これにより、第1ピークに対してより多くの値を考慮することができる。
【0075】
・可能ならピークStartとピークStopを、および隣接するピーク同士を寄せ集める。2つのピークが隣接するピークである場合は、最もよい解決策は、その前にある隣接点のピークStopとその次の隣接点のピークStartを寄せ集めてもよい。この寄せ集めを行う前に、寄せ集められる2つの点間の最小点に関して次の試験を行う。この値がampThresholdを超える場合は、2つのピークをこの点で寄せ集める。そうでなければ、それらを修正しない。
【0076】
・最終ピークStopの改善。最終ピークStopは次のピークとは隣接しないので、シグナルの高さがもはや値ampThresholdを超すこともなく、シグナルの終了点にそれを配置し直すことができる。これにより、最終ピークに対してより多くの値を考慮することができる。
【0077】
6−以下の判断基準を満たさないピークを取り除くことによる帰納的解析
・ユーザーが設定するしきい値より小さいピーク高さ、
・ユーザーが設定するしきい値より小さいピーク幅、
・ユーザーが設定するしきい値より小さいピーク面積。
【0078】
つまり以下の処理用しきい値が用いられる(これらは、各製品種別に応じて試行錯誤で設定される)。値は、非限定的な例として与えられている。
【0079】
seuil2nd :5
ampThreshold :200
seuil3rd :2
seuilPeakProcheZero3rd :5
seuilStartStopProcheZero3rd :1
【0080】
このように、このステージの終了点では、シグナルの各部分上に存在する各クロマトグラフィーピークの開始点時間(ピークStart)、最大点時間(P(t))および終了点時間(ピークStop)が分かる。
【0081】
3.3−ピークの開始点および終了点時間上での多角形の調整
上記方法により、イメージの各列上の各ピークの開始点時間および終了点時間を決定することが可能となった。これらの時間を、この後、多角形を自動的に調整するのに用いる。空間座標とその時間座標間の一対一の関係を用いる。この方法は、以下のステージに従う。
【0082】
多角形とイメージ列との各交点に対して:
・交点が、ピーク上にない(すなわち、ピークStartとピークStopとの間にそれが含まれていない)場合は、その交点が、多角形の境界線に、ならびにイメージの境界線に、ならびにピーク開始点および終了点に等しくない範囲で、交点を一番近いピーク(ピークの開始点時間または終了点時間)の方へ垂直にシフトする。
・交点がピーク開始点と最大点との間に含まれる場合は、交点をピークの開始点の方へシフトする。
・交点がピーク最大点とピーク終了点との間に含まれる場合は、その交点をピークの終了点の方へシフトする。
【0083】
一部のケースでは、互いに垂直に離れていた2つの頂点が、1ピクセル以下の距離だけ離れるようになる。その時は、それらを結合させる。したがって、以下の頂点が削除される。
【0084】
・多角形の水平末端上に集められた頂点、
・水平に隣接する頂点と一列に並ぶ(したがって、輪郭の記憶保存にとって無用)頂点。
【0085】
このアルゴリズムは、多角形同士の結合を保証するものである。したがって、シグナルの一部が失われることはない。
【0086】
実施形態によれば、多角形を単純化する追加のステージが加えられる。実際、前の処理は、多角形のいくつかの縁が2つ以上の点を含む多角形を作り出すことがある。したがって、修正がマウスによってなされる場合のハンドリングをより容易にするためにも、それらを単純化することができることは、有用である。以下の方法を用いる。輪郭の最初の点から始めて、最後の点が処理されない範囲で:
・現在の点が次の2つと一列に並ぶ場合は、
・その真ん中からその点を取り除き、
・2点戻らせ、
・そうでなければ、次の点に行かせる。
・輪郭の帰納的解析を行う[点の変動が大きすぎる(部分の長さに比較して)場合は、点の最終位置を、その隣接同士についての線形補間として計算する。最終的な輪郭を、こうして得る。]。
【0087】
4−サンプルの分子組成の決定
2Dクロマトグラムのスポットは、一連のクロマトグラフィーピークを表す。このスポットの面積は、特定の分子化合物の量に比例している。
【0088】
もしイメージ列で多角形を画定している多角形の交点のすべての時間座標が分かっており、且つ上記の項で述べた原理に従って再処理されているなら、面積は、単純に、以下のアルゴリズムにより計算することができる:
・時間座標を大きくなる順序にソートすること(切片は、任意のkに対して[t2k−1 t2k]によって画定されることになる)、
・イメージの縁の交差線に2倍の点を加えること、
・切片上のシグナルの値を列ごとに加えること、及びその累積合計。
【0089】
この処理は、各多角形に対して、現在のモジュレーション時間が多角形中に記憶されている時間と同じ場合にのみ行う。この面積計算は、すべて、多角形がイメージの中心にあるようにと計算されるオフセットを用いて行われる。これにより、各解析に対して、第2のカラムのオフセットとは無関係の結果ファイルを得ることが可能となる。結果ファイル中に存在する各多角形の最大点の幾何座標のみが、この結果、第2のカラムのオフセットに依存する。
【0090】
実施形態によれば、多角形を表示することもできる。マスクを新規の解析に割り当てるためには、オフセットは異なり得るという事実を考慮することが必須である。さらには、どのような多角形が検討されようとも、第2のカラムのオフセットには、多角形を十分イメージの上または下の方へシフトし、その結果、多角形が結局はその縁を横切るであろう、つまり部分的に目に見えなくなる値が存在する。
【0091】
多角形が完全に見えるようにするためには、3つの連続するステージが必要である:
・最初の配置(第2のカラムのオフセット、TSおよび作出モジュレーション時間)での多角形頂点の座標の計算:
[x0,y0]=f(t,OC2,TS,MC2)
・現在の第2のカラムのオフセットへのシフト:
[x1,y1]=[x0,y0]+[OC2−OC20−OC2+OC20]
・以下のシフトを介して「上」および「下」に位置する多角形の計算及び表示:
[x2,y2]=[x1,y1]+[MC2−MC2]
[x3,y3]=[x1,y1]+[−MC2 MC2]
【0092】
すべての点がt=x+yを満足するようにして得られた3つの多角形を描く。つまり、中心にある多角形は全体が見えているか、またはイメージの一方の縁を越えて延びており、そして、そのイメージを越えて延びている部分を表している「上」か「下」の多角形の一方が出現し、そしてそのイメージのもう一方の縁にそれは再出現する。
【0093】
得られた結果
図4A、図4Bは、絞り込む前(図4A)と、絞り込んだ後(図4B)の多角形(P1、P2およびP3)を示している。横軸は、第1のカラム(t1)による分離時間を表し、縦軸は、第2のカラム(t2)による分離時間を表す。多角形P2についての図5A(絞り込む前)および図5B(絞り込んだ後)によって図示されるように、多角形の下方境界線および上方境界線は、ピークの開始点および終了点に相当する。多角形と1Dシグナルとの交点は、IP1およびIP2で示されている。
【0094】
表1および表2は、再現性の検討の結果を示している。同じサンプルを5回解析した。99%の誤差レベルに対する分散誤差を、スチューデント(Student)の検定によって計算する。誤差は、25.6%である。絞り込んだ後は、誤差は、16.2%である。これは、特筆に値する再現性の改善に相当する。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
最後に、表3は、石油製品の構成成分濃度の予測で得られた改善を示している。
【0098】
【表3】

【0099】
利点
各多角形の自動的な絞り込みは、物理的な判断基準に基づいている。すなわち、各イメージ列は、第2のカラムからの二次元ガスクロマトグラフィーシグナルに相当している。多角形の下方(それに上方)境界線は、したがって、1Dシグナル上の溶離ピークの開始点(それに終了点)に相当するはずである。
【0100】
これらの処理により、一方では処理時間を最小限に抑えること(マスクの適用と自動的絞り込みによって)が可能となり、他方では再現性と精度を改善すること(自動的絞り込みによって)が可能となる。
【0101】
本発明による方法は、したがって、化学または石油工業製品の炭化水素および他の構成成分の質量組成を決定するのに適用することができる。これにより、分析の精度と再現性を改善することが可能となる。
【0102】
本発明の特筆すべき利用可能性は、化学または石油工業製品の定量分析である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、2D−GCクロマトグラムの作成原理を図示する。
【図2】図2は、第2のカラムの出口にある検出器によって時間(t)の関数として記録された生1Dシグナル(SB)を図示する。
【図3】図3は、中間留分サンプル中に含まれている含窒素化合物の分離に対して得られた2Dクロマトグラムを示す。
【図4】図4A及び図4Bは、クロマトグラフィーピーク上で多角形を絞り込む前(図4A)と後(図4B)の3つの多角形(P1、P2およびP3)を示す図である。
【図5】図5A及び図5Bは、クロマトグラフィーピーク上で絞り込む前(図5A)と後(図5B)の多角形を示す。
【図6】図6は、本発明による方法の各ステージを図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元ガスクロマトグラフィーによる分子化合物混合物の定量分析方法であって、二次元のクロマトグラム(CHR)が、クロマトグラフィーシグナル(SB)から作出され、各クロマトグラフィーピークが、多角形を用いて選択される方法において、少なくとも1つの多角形に対して、以下のステージを含むことを特徴とする、前記方法:
A−少なくとも1つの多角形を以下のステージを実行することによって調整すること;
・前記多角形の中に含まれる前記クロマトグラフィーシグナルの各部分を同定すること、
・前記各部分の中に存在する各クロマトグラフィーピークについての開始点時間、終了点時間および最大点を決定すること、
・前記各クロマトグラフィーピークの前記開始点時間、前記終了点時間および前記最大点に応じて、前記多角形と前記各部分との交点をシフトすることによって前記多角形を調整すること、及び
B−このように調整された前記多角形の面積を計算することによって、少なくとも1つの分子化合物の量を決定すること。
【請求項2】
各交点に対して、以下のステージを実施することによって前記多角形を調整する、請求項1に記載の方法:
・前記交点が、クロマトグラフィーピークの開始点と最大点との間に含まれる場合は、その交点をピークの開始点の方へシフトする、
・前記交点が、クロマトグラフィーピークの最大点と終了点との間に含まれる場合は、その交点をピークの終了点時間の方へシフトする、
・前記交点が、クロマトグラフィーピークの開始点時間と終了点時間との間に含まれない場合は、前記交点が、前記多角形の境界線と、ならびにクロマトグラムの境界線と、ならびにクロマトグラフィーピークの開始点および終了点と結合しない範囲で、前記交点を、一番近いピークの方へシグナルの各部分に沿って垂直にシフトする。
【請求項3】
最初の交点から始めて且つ最後の交点が処理されない範囲で、現在の交点が次の2つの交点と一列に並ぶ場合はその真ん中の交点を取り除き、且つ一方を2交点分戻らせるか、または一方を次の交点に向かわせることによって前記多角形を調整する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
隣接する頂点同士に関して線形補間を用いて前記多角形の頂点の最終位置を計算することによって、前記多角形を調整する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
多角形を手動で作成することによって、スポットを範囲画定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
用いる二次元ガスクロマトグラフィーに適している多角形マスクにより、前記多角形を形成している各頂点を前記シグナルの一番近い部分上に配置し直すことによって、クロマトグラフィーピークが選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
クロマトグラフィーピークの開始点時間、終了点時間および最大点が、前記クロマトグラフィーシグナルの前記各部分の一次微分、二次微分、三次微分から決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
微分が、ザビッキー・ゴーレイのフィルタリングメソッド(Savitzky-Golay filtering method)により計算される、請求項6に記載の方法。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−185586(P2008−185586A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−15765(P2008−15765)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)