説明

二次元電気泳動用ゲルカセット及びその製造方法

【課題】二次元電気泳動用ゲルカセットの製造に際して、ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層及び濃縮ゲル層を平易に再現性よく形成できるようにする。
【解決手段】ゲルカセット筐体10の本体部18に剥離可能な粘着性の封止シール36と除去可能な封止部材38とを適用して分離ゲル溶液を充填することで、分離ゲル溶液が充填された第1密閉空間を画成し、その分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成する。この後、ゲルカセット筐体10の本体部18に後付部16を取付ける。更に、後付部16を取付けた本体部18に剥離可能な粘着性の封止シール44または除去可能な封止部材40を適用して濃縮ゲル溶液を充填することで、濃縮ゲル溶液が充填された第2密閉空間を画成し、その濃縮ゲル溶液を重合させて濃縮ゲル層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次元電気泳動用ゲルカセット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動植物の組織や細胞から抽出されたDNA、RNA、タンパク質等の生体高分子をサイズ、性状等の違いに基づいて電気泳動ゲル中で分離する電気泳動技術は、ライフサイエンス分野において非常に重要な技術である。特にタンパク質分子を電気泳動によって分離する場合、タンパク質分子の分子量の違いに基づくSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法と、タンパク質分子の等電点の違いに基づく等電点電気泳動法とを組み合わせた二次元電気泳動法が広く用いられている。
【0003】
二次元電気泳動法は、上述のようにタンパク質分子を等電点と分子量とに基づいて分離することが可能であるため、分子量のみの分離方法であるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法では難しかった、等電点が異なるが分子量が同一のタンパク質の発現差異を比較することも可能である。そのため、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法よりも多くの情報が得られ、プロテオミクス研究などにおいて特に有用である。例えば、健常者と疾患患者のある組織のタンパク質の発現比較を行い、その差異を検出することにより病理診断への応用が可能になる。そのような研究は広く行われており、将来的には、基礎研究の用途にとどまらず、臨床の場で利用されることも期待されている。
【0004】
二次元電気泳動法で用いられる二次元電気泳動用ゲルカセットは、かつては、ガラス基材とスペーサーとを組み合わせてゲルカセット筐体を形成し、そのゲルカセット筐体の一方の末端部分を封止して、他方の末端部分から、調製したゲル層形成用溶液を充填し、その充填した溶液を重合させてゲル層を形成するという手順によって、実験者自身が作製していたが、近年、予めゲルカセット筐体の中にゲル層を形成した、プレキャストゲルと呼ばれるゲルカセットが市販され、広く用いられるようになっている。公知の二次元電気泳動用ゲルカセットには、例えば下記特許文献1に開示されているものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−64848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次元電気泳動用ゲルカセットを製造する際に、ゲルカセット筐体の中にゲル層を形成する方法としては、まず、試料成分を分離展開する分離ゲル層を形成するための分離ゲル溶液をゲルカセット筐体に充填し、その上に水あるいはイソブタノール等を重層させ、そして、その分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成する。次いで、先に重層した水あるいはイソブタノール等を除去し、形成した分離ゲル層の上に、濃縮ゲル層を形成するための濃縮ゲル溶液を重層させて充填し、そして、その濃縮ゲル溶液を重合させることで濃縮ゲル層を形成する。また、このような二段階式の充填方法の他に、分離ゲル溶液の充填後、すぐに濃縮ゲル溶液をその上に慎重に重層させて充填する、連続式の充填方法も行われている。
【0007】
しかしながら、二段階式と連続式とのいずれのゲル溶液充填方法にも課題がある。二段階での充填方法においては、充填したばかりの、未重合の分離ゲル溶液の上に重層させる水あるいはイソブタノールの注ぎ方により、両者間の界面が乱れるおそれがあるため、その重層を慎重に行う必要がある。一方で、連続的な充填方法においては、先に充填した分離ゲル溶液の界面を乱さないよう、且つ、互いのゲル溶液が極力混合しないようにして、濃縮ゲル溶液を慎重に充填しなければならない。よって、いずれの充填方法を用いた場合にも、平易に再現性よくゲル層を形成することが難しく、手間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層及び濃縮ゲル層を平易に再現性よく形成することのできる二次元電気泳動用ゲルカセット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法は、ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層と濃縮ゲル層とを収容した二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法において、ゲルカセット筐体と、重合させることで分離ゲルを形成する分離ゲル溶液と、重合させることで濃縮ゲルを形成する濃縮ゲル溶液とを用意し、前記ゲルカセット筐体に第1封止手段を適用して前記分離ゲル溶液を充填することにより、前記分離ゲル溶液が充填された第1密閉空間を画成し、該第1密閉空間に充填された前記分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成し、前記ゲルカセット筐体に第2封止手段を適用して前記濃縮ゲル溶液を充填することにより、前記濃縮ゲル溶液が充填された第2密閉空間を画成し、該第2密閉空間に充填された前記濃縮ゲル溶液を重合させて濃縮ゲル層を形成することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、上記方法において、前記ゲルカセット筐体は本体部と該本体部に取付けられる後付部とで構成され、前記第1密閉空間は、前記本体部に前記後付部が取付けられる前に、前記ゲルカセット筐体の前記本体部と前記第1封止手段とで画成され、前記第2密閉空間は、前記本体部に前記後付部が取付けられた後に、前記本体部及び前記後付部と前記第2封止手段とで画成されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、上記方法において、前記ゲルカセット筐体の前記本体部は、互いの間に間隔をおいて互いに平行に延展する一対の壁部を有し、該一対の壁部の間に第1薄層状空間が形成され、該第1薄層状空間を前記第1封止手段で封止することによって前記第1密閉空間が画成され、前記第1封止手段は、前記薄層状空間の一端を封止する剥離可能な粘着性の封止シールと、前記薄層状空間の他端を封止する除去可能な封止部材とから成ることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、上記方法において、前記ゲルカセット筐体の前記本体部と前記後付部との間に第2薄層状空間が形成され、該第2薄層状空間を前記第2封止手段で封止することによって前記第2密閉空間が画成され、前記第2封止手段は、前記ゲルカセット筐体の前記後付部により形成された開口または前記ゲルカセット筐体の前記本体部及び前記後付部により形成された開口を封止する除去可能な封止部材または剥離可能な粘着性の封止シールから成ることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットは、上記方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
分離ゲル溶液及び濃縮ゲル溶液を夫々に密閉空間に充填した状態で重合させるため、それらゲル溶液の界面を常に均一に保つことができ、それによって、ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層及び濃縮ゲル層を平易に再現性よく形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】A及びBは本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットにおけるゲルカセット筐体の第1の具体例を示した図、Cは同具体例の変更例に係るゲルカセット筐体を示した図である。
【図2】A及びBは本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットにおけるゲルカセット筐体の第2の具体例を示した図、Cは同具体例の変更例に係るゲルカセット筐体を示した図である。
【図3】本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造工程の具体例を示した図である。
【図4】図1のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第1の具体例を示した図である。
【図5】図1のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第2の具体例を示した図である。
【図6】図1のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第3の具体例を示した図である。
【図7】図1のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第4の具体例を示した図である。
【図8】図2のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第1の具体例を示した図である。
【図9】図2のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第2の具体例を示した図である。
【図10】図2のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第3の具体例を示した図である。
【図11】図2のゲルカセット筐体に適用される第2封止手段の第4の具体例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセット及びその製造方法の具体的な実施の形態について説明する。本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットは、ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層と濃縮ゲル層とを収容して成るものであり、本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法は、ゲルカセット筐体と、重合させることで分離ゲルを形成する分離ゲル溶液と、重合させることで濃縮ゲルを形成する濃縮ゲル溶液とを用意する工程を含むものである。
【0017】
図1及び図2にゲルカセット筐体の具体例を示した。図1の(A)及び(B)に示したように、ゲルカセット筐体10は、ゲルカセットフタ12、ゲルカセット基板14、及び濃縮ゲル表面基材16により構成され、それらはガラス、アクリル樹脂、スチレン共重合体樹脂などの適宜の透明材料で形成される。これらのうち、ゲルカセットフタ12とゲルカセット基板14とは接着、溶着等により一体化されて、ゲルカセット筐体の本体部18を形成する。一方、濃縮ゲル表面基材16は、ゲルカセット筐体の後付部を形成するものであり、従ってゲルカセット筐体10は、本体部18とこの本体部18に取付けられる後付部16とで構成される。本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法では、本体部18に後付部16を取付ける前に、ゲルカセット筐体10の中に分離ゲル層を形成し、続いて本体部18に後付部16を取付け、その後に、ゲルカセット筐体10の中に濃縮ゲル層を形成する。
【0018】
図1の(A)は、ゲルカセットフタ12、ゲルカセット基板14、及び濃縮ゲル表面基材16を、それらが互いに組付けられる前の状態で示した図である。図1の(B)は、ゲルカセットフタ12とゲルカセット基板14とが一体化され、更に濃縮ゲル表面基材16が取付けられて、完成した状態のゲルカセット筐体10を示した図である。図1の(B)に示したように、ゲルカセット筐体10は陰極バッファー槽20と陽極バッファー槽22とを備えており、それらバッファー槽20、22は本体部18に形成されている。本体部18は更に、互いの間に間隔をおいて互いに平行に延展する一対の壁部24、26を有しており、それら一対の壁部24、26の間に第1薄層状空間S1が形成されている。後に説明するように、この第1薄層状空間S1は、その中に分離ゲル溶液が充填されて分離ゲル層が形成される分離ゲル層形成空間であり、この第1薄層状空間S1の一端はスリット状開口28を介して陽極バッファー槽22に連通しており、他端はスリット状開口30を介して陰極バッファー槽20に連通している。また、後付部16は陰極バッファー槽22の中に取付けられ、陰極バッファー槽22の底部には、本体部18と後付部16との間に第2薄層状空間S2が形成されている。この第2薄層状空間S2は、その中に濃縮ゲル溶液が充填されて濃縮ゲル層が形成される濃縮ゲル層形成空間であり、これについても後に説明する。
【0019】
図1の(A)及び(B)に示した具体例では、濃縮ゲル表面基材16は、一対の平行に延在する細長い断面三角形の板状の基材から成り、それら一対の基材が陰極バッファー槽20の中に取付けられたならば、それら一対の基材の間にスリット状開口32が画成される。このスリット状開口32を介して、第2薄層状空間の中に形成された濃縮ゲル層の表面の一部を露出させることができ、一次元目の電気泳動を実施したゲルを陰極バッファー槽20の中に載置したならば、このスリット状開口32の領域においてそのゲルと濃縮ゲル層とを接触させることで、二次元目の電気泳動が実施可能となる。
【0020】
図1の(C)に示したのは、図1の(A)及び(B)に示したゲルカセット筐体10の変更例に相当するゲルカセット筐体10の一部分であり、このゲルカセット筐体10は、図1の(A)及び(B)に示したものとは後付部である濃縮ゲル表面基材16−1の形態だけが異なっている。この濃縮ゲル表面基材16−1は、図1の(A)及び(B)の濃縮ゲル表面基材16を構成している一対の断面三角形の板状の基材の両端を夫々に連結した枠形の部材として形成されており、それによってこの濃縮ゲル表面基材16−1の中央にスリット状開口32−1が画成されている。このスリット状開口32−1の機能は、先に説明した濃縮ゲル表面基材16により画成されるスリット状開口32の機能と異なるところはない。
【0021】
図2の(A)及び(B)に示した具体例のゲルカセット筐体10は、図1の(A)及び(B)に示したゲルカセット筐体10の陰極バッファー槽20の底部に、濃縮ゲル層形成空間の端部を画成するための凸条34を形成すると共に、後付部である濃縮ゲル表面基材16−2を、一対の断面三角形の板状の基材のうちの1本を省略して、ただ1本の断面三角形の板状の基材としたものである。凸条34を設けたことによって、図1の(A)及び(B)のゲルカセット筐体10と比べて、陰極バッファー槽20の底部の濃縮ゲル層形成空間が縮小されており、それによって、濃縮ゲル溶液の所要量が低減されており、また、陰極バッファー20の容量も増加している。尚、濃縮ゲル表面基材16−2と凸条34との間にスリット状開口32−2が画成されており、このスリット状開口32−2の機能は先に説明したスリット状開口32の機能と変わるところはない。
【0022】
図2の(C)に示したのは、図2の(A)及び(B)に示したゲルカセット筐体10の変更例に相当するゲルカセット筐体10の一部分であり、このゲルカセット筐体10は、図2の(A)及び(B)に示したものとは後付部である濃縮ゲル表面基材16−3の形態だけが異なっている。この濃縮ゲル表面基材16−3は、図2の(A)及び(B)の濃縮ゲル表面基材16―2における1本の断面三角形の板状の基材の両端に夫々短い屈曲部を付加した、U字形の部材として形成されており、それによってこの濃縮ゲル表面基材16−3を陰極バッファー槽20の中に取付けやすくしている。尚、濃縮ゲル表面基材16−3と凸条34との間にスリット状開口32−3が画成されており、このスリット状開口32−3の機能は先に説明したスリット状開口32の機能と変わるところはない。
【0023】
以下に、本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法の実施の形態について説明する。図3は、本発明の二次元電気泳動用ゲルカセットの製造工程の具体例を示した図である。図3の(A)に示したのは、後付部16が取付けられる前のゲルカセット筐体の本体部18であり、この本体部18の一対の壁部24、26の間に第1薄層状空間S1(分離ゲル層形成空間)が形成されている。この第1薄層状空間の一端の(陽極バッファー槽22側の)スリット状開口28を、剥離可能な粘着性の封止シール36で封止する。
【0024】
封止シール36の材質は、分離ゲル及び濃縮ゲルの主成分であるアクリルアミドの重合を阻害しない材質であればよく、例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどを用いることができる。加えて、ゲルカセット筐体に接着させるための、この封止シール36の粘着層を形成する粘着剤は、公知の、一般強粘と呼ばれているタイプの粘着剤、あるいは、強粘と呼ばれているタイプの粘着剤を用いることができる。ただし、ゲル層を内部に形成したゲルカセットは一般的に4℃で保存されるため、低温下で粘着力が低下してしまわないような低温耐性があるものがより好ましい。
【0025】
次に、図3の(B)に示したように、第1薄層状空間の他端の(陰極バッファー槽20側の)スリット状開口30から第1薄層状空間の中へ分離ゲル溶液を充填する。続いて、図3の(C)に示したように、封止部材38を陰極バッファー槽20の中に嵌合し、第1薄層状空間S1の陰極バッファー槽20側のスリット状開口30をこの封止部材38で封止する。この封止部材38は除去可能である。
【0026】
封止部材38の材質は、ゲルカセット筐体と同一の材質であってもよく、分離ゲル及び濃縮ゲルの主成分であるアクリルアミドの重合を阻害しないものを用いる。また、封止部材38の大きさは、少なくともスリット状開口30を覆う大きさがあればよいが、密閉性を高めるために、陰極バッファー槽20と同じ大きさとするのもよい。
【0027】
この後、ゲルカセット筐体10を静置して、充填した分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成する。ここまでの手順において、封止シール36及び封止部材38は、ゲルカセット筐体10に適用される第1封止手段である。そして、ゲルカセット筐体10にこの第1封止手段を適用して分離ゲル溶液を充填することにより、分離ゲル溶液が充填された第1密閉空間を画成しており、この第1密閉空間に充填された分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成している。また、この第1密閉空間は、ゲルカセット筐体10の本体部18に後付部16が取付けられる前に、本体部18の一対の壁部の間に形成された第1薄層状空間S1が第1封止手段36、38で封止されることによって、それら本体部18と第1封止手段36、38とで画成されるものである。
【0028】
次に、図3の(D)に示したように封止部材38を陰極バッファー槽20から抜去し、図3の(E)に示したように陰極バッファー槽20底部に濃縮ゲル溶液を充填する。続いて、図3の(F)に示したように、充填した濃縮ゲル溶液に気泡が混入しないように注意しつつ、濃縮ゲル溶液の表面を覆うようにして濃縮ゲル表面基材16をゲルカセット筐体10の本体部18に取付ける。更に、図3の(G)及び(H)に示したように、陰極バッファー槽20の中に封止部材40を嵌合し、この封止部材40によって上で説明したスリット状開口32を封止する。
【0029】
この後、ゲルカセット筐体10を静置して、充填した濃縮ゲル溶液を重合させて濃縮ゲル層を形成する。ここまでの手順において、封止部材40は、ゲルカセット筐体10に適用される第2封止手段である。そして、ゲルカセット筐体10にこの第2封止手段を適用して濃縮ゲル溶液を充填することにより、濃縮ゲル溶液が充填された第2密閉空間を画成しており、この第2密閉空間に充填された濃縮ゲル溶液を重合させて、濃縮ゲル層を形成している。また、この第2密閉空間は、ゲルカセット筐体10の本体部18に後付部16が取付けられた後に、本体部18と後付部16との間に形成された第2薄層状空間S2が第2封止手段40で封止されることによって、それら本体部18、後付部16、及び第2封止手段40で画成されるものである。
【0030】
封止部材40は除去可能であり、この二次元電気泳動用ゲルカセットを使用するときには取外される。封止部材40の材質は、上で説明した封止部材38と同様の様々な材質とすることができる。
【0031】
尚、濃縮ゲル層を形成する上記手順では、図3の(E)及び(F)に示したように、先に濃縮ゲル溶液の充填を行い、その後に後付部である濃縮ゲル表面基材16の取付けを行っているが、濃縮ゲル溶液の充填に際して溶液中に気泡を混入させてしまうおそれがないのであれば、これとは逆に、先に濃縮ゲル表面基材16の取付けを行い、その後に濃縮ゲル溶液の充填を行う手順としてもよい。
【0032】
図4は、図3の(H)の一部分を拡大して封止部材40を詳細に示した図であり、この拡大図は、二次元電気泳動用ゲルカセットの濃縮ゲル層形成領域である陰極バッファー槽20付近を示したものである。封止部材40は、図1のゲルカセット筐体10に適用される第2封止手段の第1の具体例である。図示の如く、封止部材40は摘み部42を備えており、この二次元電気泳動用ゲルカセットを使用するときには、この摘み部42を摘んで封止部材40を取外して使用する。図4の(A)は装着する前の封止部材40を、図4の(B)は装着後の封止部材40を示しており、装着された封止部材40は濃縮ゲル表面基材16の上面に密着している。
【0033】
図5、図6、図7は、図1のゲルカセット筐体10に適用される第2封止手段の第2、第3、第4の具体例を示した図であり、図4と同様に陰極バッファー槽20付近を示している。図5に示した封止部材40−1は、図4に示した封止部材40を大型化して、陰極バッファー槽20の内側面の広い領域に係合するようにした除去可能な封止部材であり、摘み部42−1を備えている。この大型化によって、ゲルカセット筐体10に対する密着性が向上してより外れにくくなり、安定性に優れたものとなっている。尚、陰極バッファー槽20の長手方向両端の壁面と封止部材の長手方向両端の端面との係合だけでも十分な密着性が得られる場合には、これとは逆に、封止部材を細身のものとして、上で説明したスリット状開口32だけを覆うものとすることも可能である。
【0034】
図6及び図7に示した具体例は、除去可能な封止部材に代えて第1封止手段の封止シール36と同様の剥離可能な粘着性の封止シール44、44−1をもって第2封止手段としたものである。それら封止シール44、44−1は摘み部46、46−1を備えており、この二次元電気泳動用ゲルカセットを使用するときにはこの摘み部46、46−1を摘むことで封止シール44、44−1を容易に剥がすことができる。図6の封止シール44は濃縮ゲル表面基材16ばかりでなく陰極バッファー槽20の内側面の一部にも粘着させるようにしたものであり、大きな密着性を有する。一方、図7の封止シール44−1は濃縮ゲル表面基材16のみに粘着させるようにしたものであり、封止シールの貼着作業が容易である。図6の(A)は装着する前の封止シール44を、図6の(B)は装着後の封止シール44を示しており、装着された封止シール44は濃縮ゲル表面基材16の上面に密着している。
【0035】
図8、図9、図10、図11は、図2のゲルカセット筐体10に適用される第2封止手段の第1、第2、第3、第4の具体例を示した図であり、図4〜図7と同様に陰極バッファー槽20付近を示している。図8及び図9の第2封止手段は、図4及び図5の封止部材40、40−1と同様の除去可能な封止部材40−2、40−3から成り、摘み部42−2、42−3を備えている。図8の封止部材40−2は、陰極バッファー槽20の底面のうち濃縮ゲル表面基材16−2から凸条34までの領域を覆うようにしたものである。一方、図9の封止部材40−3は、陰極バッファー槽20の底面の全域を覆うようにしたものである。図8の(A)は装着する前の封止部材40−2を、図8の(B)は装着後の封止部材40−2を示しており、装着された封止部材40−2は濃縮ゲル表面基材16−2の上面に密着している。
【0036】
図10及び図11に示した具体例は、図6及び図7の具体例と同様に剥離可能な粘着性の封止シール44−2、44−3をもって第2封止手段としたものである。それら封止シール44−2、44−3は摘み部46−2、46−3を備えており、この二次元電気泳動用ゲルカセットを使用するときにはこの摘み部46−2、46−3を摘むことで封止シール44−2、44−3を容易に剥がすことができる。図10の封止シール44−2は陰極バッファー槽20の底面の略々全域に加えて内側面の一部にも粘着させるようにしたものであり、大きな密着性を有する。一方、図11の封止シール44−3は濃縮ゲル表面基材16−2から凸条34までの領域だけを覆ってそれらにだけ粘着させるようにしたものであり、封止シールの貼着作業が容易である。図10の(A)は装着する前の封止シール44―2を、図10の(B)は装着後の封止シール44―2を示しており、装着された封止シール44−2は濃縮ゲル表面基材16−2の上面に密着している。
【0037】
このように、本発明に係る二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法を用いることにより、濃縮ゲル層及び分離ゲル層を均一に再現性よく形成することが可能となる。上述した従来のゲルカセット製造方法のように、分離ゲル溶液の充填後、水またはイソブタノールを重層させる必要はない。また、分離ゲル溶液と濃縮ゲル溶液とを連続的に充填する操作を行わないため、ゲル溶液の界面を乱さないように注意しながら充填操作を行う必要もなく、ゲル溶液の充填を平易に行うことが可能となる。
【0038】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明を用いれば、特にプロテオミクス等のタンパク質の二次元電気泳動において、再現性のよい均質な二次元電気泳動用ゲルカセットを提供することが可能になり、よって、再現性に優れた電気泳動像を得ることが可能になる。また、従来のゲルカセットと遜色なく、より平易にゲル溶液を充填することが可能であるので、量産も容易である。さらに、DNA、RNA、タンパク質等の生体高分子の研究をより発展させることによって、特に医学、生物学、化学分野の産業の発展に貢献し得る。
【符号の説明】
【0040】
10 ゲルカセット筐体
12 ゲルカセットフタ
14 ゲルカセット基板
16 濃縮ゲル表面基材(ゲルカセット筐体の後付部)
18 ゲルカセット筐体の本体部
20 陰極バッファー槽
22 陽極バッファー槽
24 (ゲルカセットフタ)壁部
26 (ゲルカセット基板)壁部
28 スリット状開口
30 スリット状開口
32 スリット状開口
34 凸条
36 封止シール(第1封止手段)
38 封止部材(第1封止手段)
40 封止部材(第2封止手段)
42 摘み部
44 封止シール(第2封止手段)
46 (シール)摘み部
S1 第1薄層状空間
S2 第2薄層状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルカセット筐体の中に分離ゲル層と濃縮ゲル層とを収容した二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法において、
ゲルカセット筐体と、重合させることで分離ゲルを形成する分離ゲル溶液と、重合させることで濃縮ゲルを形成する濃縮ゲル溶液とを用意し、
前記ゲルカセット筐体に第1封止手段を適用して前記分離ゲル溶液を充填することにより、前記分離ゲル溶液が充填された第1密閉空間を画成し、該第1密閉空間に充填された前記分離ゲル溶液を重合させて分離ゲル層を形成し、
前記ゲルカセット筐体に第2封止手段を適用して前記濃縮ゲル溶液を充填することにより、前記濃縮ゲル溶液が充填された第2密閉空間を画成し、該第2密閉空間に充填された前記濃縮ゲル溶液を重合させて濃縮ゲル層を形成する、
ことを特徴とする二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法。
【請求項2】
前記ゲルカセット筐体は本体部と該本体部に取付けられる後付部とで構成され、
前記第1密閉空間は、前記本体部に前記後付部が取付けられる前に、前記ゲルカセット筐体の前記本体部と前記第1封止手段とで画成され、
前記第2密閉空間は、前記本体部に前記後付部が取付けられた後に、前記本体部及び前記後付部と前記第2封止手段とで画成される、
ことを特徴とする請求項1記載の二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法。
【請求項3】
前記ゲルカセット筐体の前記本体部は、互いの間に間隔をおいて互いに平行に延展する一対の壁部を有し、該一対の壁部の間に第1薄層状空間が形成され、該第1薄層状空間を前記第1封止手段で封止することによって前記第1密閉空間が画成され、
前記第1封止手段は、前記薄層状空間の一端を封止する剥離可能な粘着性の封止シールと、前記薄層状空間の他端を封止する除去可能な封止部材とから成る、
ことを特徴とする請求項2記載の二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法。
【請求項4】
前記ゲルカセット筐体の前記本体部と前記後付部との間に第2薄層状空間が形成され、該第2薄層状空間を前記第2封止手段で封止することによって前記第2密閉空間が画成され、
前記第2封止手段は、前記ゲルカセット筐体の前記後付部により形成された開口または前記ゲルカセット筐体の前記本体部及び前記後付部により形成された開口を封止する除去可能な封止部材または剥離可能な粘着性の封止シールから成る、
ことを特徴とする請求項3記載の二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の二次元電気泳動用ゲルカセットの製造方法により製造されたことを特徴とする二次元電気泳動用ゲルカセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−73123(P2012−73123A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218360(P2010−218360)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)