説明

二次電池の検査方法

【課題】二次電池の内部短絡を高精度に検査すること。
【解決手段】二次電池は、正極材と、負極材と、正極材と負極材との間に配置された絶縁用セパレータとを含む。この検査方法は、(1)二次電池を加圧室に設置し、(2)大気雰囲気中で二次電池の初期電圧V0を測定し、(3)加圧室を加圧し、(4)加圧雰囲気中で温度、圧力を確認し、(5)加圧雰囲気で所定時間保持した後、(6)加圧雰囲気中で二次電池の事後電圧V1を測定し、その後、(7)初期電圧V0に対する事後電圧V1の変化に基づき二次電池の内部短絡を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池の内部短絡を検査する二次電池の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車等の電源に利用される電池としてリチウムイオン二次電池が知られている。この種の二次電池では、正極板と負極板との間に内部短絡が起きることで自己放電が大きくなることが問題となる。特に、製造工程中に混入した導電性異物、あるいは、正極板と負極板との間の絶縁用セパレータにできた傷や孔あきなどの不具合により、内部短絡が起きる懸念があった。
【0003】
そこで、二次電池の内部短絡を検査する検査方法として、例えば、下記の特許文献1に記載される技術が知られている。この技術は、二次電池用電極群を不活性ガス雰囲気中に設置し、その電極群をプレス装置によりプレス加圧しながら、検査用の電圧を印加することにより、電極群の内部短絡に係る欠陥を判定するようにしている。ここで、電極群にプレス加圧を行うことで、正極板、セパレータ及び負極板の隙間をなくすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−032346号公報
【特許文献2】特開2001−236985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の検査方法では、二次電池用電極群をプレス装置によりプレス加圧することから、電極群、プレス装置の板厚のバラツキにより、電極群に対する加圧力が不均一となり、電極群の内部では、正極板と負極板との距離が一様にならなくなるおそれがあった。また、各電極群のそれぞれにプレス装置が必要になることから、検査がコスト高になるという問題もあった。更に、プレス装置によるプレス加圧では、機械的な拘束であり、プレス装置を構成する加圧板にクリープが生じ、応力緩和が発生することもあり、加圧力が検査途中で変化するおそれがあった。そして、このようにプレス装置による機械的な拘束では、形状や寸法のバラツキを排除できず、電極群に対する均一な加圧状態を確保することが難しかった。このため、正極板と負極板との間の距離が他よりも大きい部分では、異物による内部短絡が起き難くなり、内部短絡の検査精度が落ちるおそれがあった。
【0006】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内部短絡を高精度に検査することを可能とした二次電池の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、正極材と、負極材と、正極材と負極材との間に配置された絶縁用セパレータとを含む二次電池の検査方法であって、二次電池の電気的特性を大気雰囲気中で測定し、その後、二次電池の電気的特性を加圧雰囲気中で測定し、大気雰囲気中で測定された電気的特性に対する加圧雰囲気中で測定された電気的特性の変化に基づいて二次電池の内部短絡を検査することを趣旨とする。
【0008】
上記発明の構成によれば、初めに二次電池の電気的特性が大気雰囲気中で測定される。その後、二次電池の電気的特性が加圧雰囲気中で測定される。そして、大気雰囲気中で測定された電気的特性に対する加圧雰囲気中で測定された電気的特性の変化に基づいて二次電池の内部短絡が検査される。ここで、二次電池を加圧雰囲気中に置くのは、二次電池が実際に使用されるときの拘束状態を想定したものであり、二次電池の周囲には、所定の圧力がかかる。そして、二次電池の内部と外部との圧力差により二次電池の周囲が均一に加圧される。これにより、二次電池の正極材と負極材との距離が一様に縮められる。従って、正極材と負極材との間に異物がある場合は、正極材と負極材との間の隙間で異物による内部短絡が一様に起き得る状態となる。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、加圧雰囲気は、0.4〜0.7(Mpa)の範囲の圧力であることを趣旨とする。
【0010】
上記発明の構成によれば、加圧雰囲気が0.4〜0.7(Mpa)の範囲の圧力であるので、二次電池を実際に使用するときの二次電池の拘束状態を再現し得る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、二次電池の内部短絡を高精度に検査することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、実際の使用に即した検査を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係り、検査装置を示す概略構成図。
【図2】同実施形態に係り、検査方法の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態に係り、判定器が行う判定処理の内容を示すフローチャート。
【図4】同実施形態に係り、二次電池の電圧変化を示すグラフ。
【図5】同実施形態に係り、二次電池の内部に金属異物がある状態を示す概念図。
【図6】同実施形態に係り、二次電池に金属異物による内部短絡が起きた状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における二次電池の検査方法を具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に、この実施形態の検査方法に使用される検査装置1を概略構成図により示す。この検査装置1は、製造が完了して規定の充電がなされた二次電池の内部短絡を検査するために使用される。検査装置1は、内部を加圧室2とする耐圧容器3を備える。耐圧容器3は、箱体4と蓋体5とを含む。耐圧容器3の加圧室2の中には、複数の二次電池21を収容するようになっている。蓋体5には、各二次電池21に対応した中継コネクタ6が設けられる。加圧室2に収容された二次電池21は、中継コネクタ6を介して電圧測定器7に電気的に接続されるようになっている。電圧測定器7は、判定器8に電気的に接続される。判定器8は、電圧測定器7の測定結果に基づき、各二次電池21の内部短絡をそれぞれ判定し、その判定結果を出力するようになっている。判定器8は、中央処理装置(CPU)、判定処理プログラムを格納したメモリ(ROM)、作業用メモリ(RAM)等を備える。
【0016】
加圧室2を加圧するために、加圧装置9が設けられる。加圧装置9は、加圧源10と、加圧源10から蓋体5へ延びる圧力管11とを備える。加圧源10として、加圧ポンプやボンベ等を使用することができる。圧力管11の途中には、供給圧力を一定に保つレギュレータ12と、気体の逆流を防ぐ逆止弁13と、圧力管11を開閉する開閉弁14とが設けられる。箱体4には、加圧室2を減圧するための減圧管15が設けられる。減圧管15には、開閉弁16が設けられる。また、箱体4には、加圧室2の中の温度を検出するための温度センサ17、加圧室2の中の圧力を検出するための圧力センサ18が設けられる。
【0017】
次に、上記した検査装置1を使用した二次電池の検査方法について説明する。図2に、この検査方法の手順をフローチャートにより示す。
【0018】
先ず、図2(1)に示すように、二次電池21を加圧室2に設置する。すなわち、図1に示すように、複数の二次電池21を耐圧容器3の加圧室2の中に収容し、中継コネクタ6を介して電圧測定器7に電気的に接続する。この状態で、加圧室2の中は、大気圧相当の圧力で密閉されている。すなわち、各二次電池21は、大気雰囲気中に配置されている。
【0019】
次に、図2(2)に示すように、大気雰囲気中で二次電池21の電気的特性である初期電圧V0を測定する。すなわち、後述する加圧雰囲気中での測定に先立って、大気雰囲気中で、各二次電池21の初期電圧(V0)を端子間電圧により、電圧測定器7を使用して測定する。そして、その測定結果を、判定器8のメモリに記憶させる。
【0020】
次に、図2(3)に示すように、加圧室2の中を加圧する。すなわち、開閉弁14を開け、加圧装置9を動作させて加圧室2の中の圧力をレギュレータ12により決定される所定値まで上昇させる。この加圧力として、「800〜1400(kgf)」すなわち
「0.4〜0.7(Mpa)」を想定することができる。例えば、加圧力を「0.5(Mp
a)」に設定することができる。この加圧力は、実際に複数の二次電池21を、HV自動車等の実車に設置し、拘束して使用する際の加圧力に相当する。
【0021】
次に、図2(4)に示すように、加圧雰囲気中の温度、圧力を確認する。すなわち、加圧室2の中の温度を、温度センサ17の検出結果により確認する。また、加圧室2の中の圧力を、圧力センサ18の検出結果により確認する。これにより、加圧室2の中が、一定温度及び一定圧力で保持されているかを確認する。この実施形態では、加圧室2の中の温度を、例えば「25℃」に設定する。上記のように温度と圧力を確認することで、精度良く測定を行うことができる。
【0022】
次に、図2(5)に示すように、上記した加圧雰囲気を所定時間保持する。この場合、所定時間として、例えば「3日〜5日間」を想定することができる。
【0023】
次に、図2(6)に示すように、上記した加圧雰囲気中で二次電池21の電気的特性である事後電圧V1を測定する。すなわち、所定時間経過後の加圧雰囲気中における各二次電池21の事後電圧V1を端子間電圧により、電圧測定器7を使用して測定する。その測定結果を、判定器8のメモリに記憶させる。
【0024】
その後、図2(7)に示すように、内部短絡の判定を行う。この実施形態では、判定器8がこの判定を行う。
【0025】
上記したように、この実施形態では、二次電池21の初期電圧V0を大気雰囲気中で最初に測定し、その後、二次電池21の事後電圧V1を加圧雰囲気中で測定する。特に、この実施形態では、加圧雰囲気を、「0.4〜0.7(Mpa)」の範囲の圧力に設定している。この圧力は、実車で二次電池21を拘束した場合の拘束力を想定している。そして、大気雰囲気中で測定されたで初期電圧V0に対する加圧雰囲気中で測定された事後電圧V1の変化に基づいて二次電池21の内部短絡を検査するようにしている。
【0026】
図3に、判定器8が行う判定処理の内容をフローチャートにより示す。このフローチャートは、各二次電池21の内部短絡の有無を判断するためのものであり、判定器8は、複数の二次電池21のそれぞれにつき、このフローチャートの処理を実行する。
【0027】
図3に示すように、先ず、ステップ100で、判定器8のCPUは、初期電圧V0と事後電圧V1との電圧差ΔVを算出する。
【0028】
次に、ステップ110で、CPUは、算出された電圧差ΔVが所定の規定値αより小さいか否かを判断する。図4に、二次電池21の電圧変化をグラフにより示す。図4に示すように、時刻t0で、検査装置1による加圧を開始すると、所定時間経過後の時刻t1では、初期電圧V0が事後電圧V1まで低下する。このような電圧低下は、二次電池21の自然な自己放電によっても起こり得る。しかし、二次電池21に異物等による内部短絡が起きている場合は、上記した電圧低下が、自然な自己放電よりも大きくなる。
【0029】
図5に、二次電池21の内部に金属異物30が存在する状態を概念図により示す。図6に、二次電池21に金属異物30による内部短絡が起きた状態を概念図により示す。図5に示すように、二次電池21の内部には、互いに対向する正極材26と負極材27と、それら正極材26と負極材27との間に配置されたセパレータ28とが設けられる。これら正極材26と負極材27との間は、大気雰囲気中では、所要の距離が保たれている。従って、図5に示すように、この大気雰囲気中では、仮に、負極材27の側に金属異物30が存在していても、それが原因で内部短絡が起きることはない。しかし、図6に示すように、二次電池21が加圧雰囲気中で加圧されると、正極材26と負極材27との間の距離が縮小する。この結果、負極材27の側の金属異物30がセパレータ28を突き破って正極材26に接触し、内部短絡が起きることがある。この場合、二次電池21の自己放電は、自然な自己放電よりも大きくなる。二次電池21は、HV自動車等において、所定の力で加圧された拘束状態で使用される。従って、二次電池21の内部短絡を判定するには、実車の拘束状態を想定した加圧雰囲気中で判定する必要がある。
【0030】
上記の電圧低下は、二次電池21の自己放電により起こり得るが、この電圧低下、すなわち電圧差ΔVが規定値αより小さい場合は、加圧雰囲気中の二次電池21に内部短絡が起きていない場合と判断することができる。一方、電圧差ΔVが規定値α以上となる場合は、加圧雰囲気中の二次電池21に内部短絡が起きている場合と判断することができる。従って、ステップ110の判断結果が否定となる場合は、CPUは、ステップ150で、内部短絡が起きているものとして、二次電池21が不良品であると判定する。一方、ステップ110の判断結果が肯定となる場合は、CPUは、処理をステップ120へ移行する。
【0031】
ステップ120では、CPUは、複数の二次電池21それぞれの電圧差ΔVに基づいて平均電圧差ΔVmedを算出する。
【0032】
次に、ステップ130で、CPUは、今回算出された電圧差ΔVと平均電圧差ΔVmedとの差が、所定の規定値βより小さいか否かを判断する。すなわち、今回算出された電圧差ΔVの平均電圧差ΔVmedに対する偏差が、規定値βより小さいか否かを判断する。そして、この判断結果が否定となる場合は、CPUは、ステップ150で、内部短絡が起きているものとして、二次電池21が不良品であると判定する。一方、ステップ130の判断結果が肯定となる場合は、CPUは、ステップ140で、内部短絡が起きていないものとして、二次電池21が良品であると判定する。
【0033】
以上説明したこの実施形態の二次電池の検査方法によれば、二次電池21の初期電圧V0が大気雰囲気中で測定される。その後、二次電池21の事後電圧V1が加圧雰囲気中で測定される。そして、大気雰囲気中で測定された初期電圧V0に対する加圧雰囲気中で測定された事後電圧V1の変化に基づいて二次電池21の内部短絡が検査される。
【0034】
ここで、二次電池21を加圧雰囲気中に置くのは、二次電池21が実際に使用されるときの拘束状態を想定したものであり、二次電池21の周囲には、所定の圧力が加わる。そして、二次電池21の内部と外部との圧力差により二次電池21の周囲が均一に加圧されることとなる。これにより、図6に示すように、二次電池21を構成する正極材26と負極材27との距離が一様に縮められる。従って、正極材26と負極材27との間に金属異物30が存在する場合は、正極材26と負極材27との間の隙間で金属異物30による内部短絡が一様に起き得る状態となる。この結果、二次電池21の内部短絡を、従来技術のプレス装置等により加圧する場合に比べ、高精度に検査することができる。
【0035】
また、この実施形態では、複数の二次電池21のそれぞれを耐圧容器3の中で機械的なプレス装置を使うことなく、同じ様に加圧することができるので、複数の二次電池21のそれぞれにプレス装置を設ける必要がない。このため、従来技術の検査に対し、検査に要するコストを低減することができる。また、この実施形態では、各二次電池21に対する加圧するために、各二次電池21をプレス装置等により機械的に拘束する必要がないので、加圧板の応力緩和が発生することもなく、加圧雰囲気の圧力を一定に保つ限りは、二次電池21に対する加圧力が検査途中で変化することもない。この意味でも、加圧後の事後電圧V1を正確に測定することができ、内部短絡の検査精度を向上させることができる。
【0036】
この実施形態では、二次電池21の加圧雰囲気が「0.4〜0.7(Mpa)」の範囲の圧力であることから、二次電池21を実際に使用するときの二次電池21の拘束状態を再現することができる。このため、実際の使用に即した検査を実現することができる。
【0037】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することもできる。
【0038】
例えば、前記実施形態では、電気的特性として、二次電池21の電圧を測定するようにしたが、電気的特性として二次電池の抵抗を測定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の内部短絡の検査に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
21 二次電池
26 正極材
27 負極材
28 セパレータ
30 金属異物
V0 初期電圧
V1 事後電圧
ΔV 電圧差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材と、負極材と、前記正極材と前記負極材との間に配置された絶縁用セパレータとを含む二次電池の検査方法であって、
前記二次電池の電気的特性を大気雰囲気中で測定し、その後、前記二次電池の電気的特性を加圧雰囲気中で測定し、前記大気雰囲気中で測定された電気的特性に対する前記加圧雰囲気中で測定された電気的特性の変化に基づいて前記二次電池の内部短絡を検査することを特徴とする二次電池の検査方法。
【請求項2】
前記加圧雰囲気は、0.4〜0.7(Mpa)の範囲の圧力であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−104276(P2012−104276A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249963(P2010−249963)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】