説明

二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池

【課題】 低コストの材料を使用して、高電圧で動作し高い放電エネルギーを有する二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)
Lia(FexMn2-x-y1M1y1)O4-z ・・・・・・・・ (I)
(式中、0.3≦x≦1.1、0<y1<0.5、0≦a≦1、0≦z≦0.1、M1はSi、Ti、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されるスピネル型マンガン複合酸化物を二次電池用正極活物質とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー密度が高いスピネル型マンガン複合酸化物を有する二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池およびリチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン系二次電池と表記)は、小型で大容量であるという特長を有しており、携帯電話、ノート型パソコン等の電源として広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン系二次電池の活物質としては、現在、正極にはLiCoO2が主に利用されているが、充電状態の安全性をさらに高める必要がある上、Co原料の値段が高く、これに代わる新たな活物質の探索が精力的に進められている。
【0004】
LiCoO2と同じ層状の結晶構造を有する材料としてLiNiO2の使用が検討されているが、LiNiO2は高容量であるものの、LiCoO2と比較して電位が低い上、安全性の点でも課題を有している。また、Ni原料も価格が高いという点の課題があった。
【0005】
他の正極活物質として、スピネル構造のLiMn24の使用も盛んに検討されている。Mn原料は比較的安く価格面でのメリットがある。ところが、LiMn24は、サイクルに伴う劣化や高温時の容量低下が発生する。これは3価Mnの不安定性に起因するものであり、Mnイオンの平均価数が3価と4価の間で変化する際に、Jahn−Teller(ヤーン・テラー)歪みが結晶中に生じ、結晶構造の安定性が低下することによってサイクルに伴う性能劣化等が発生するためと考えられている。
【0006】
こうしたことから、これまで、電池の信頼性を高めることを目的として、3価のMnを他元素で置換し構造安定性を向上させる検討が行われてきた。たとえば特許文献1には、こうした正極活物質を備えた二次電池が開示されており、LiMn24に含まれる3価Mnを他の金属で置換した活物質が開示されている。すなわち、同公報の特許請求の範囲には、スピネル構造を有し組成式LiMxMn2-x4(MはAl、B、Cr、Co、Ni、Ti、Fe、Mg、Ba、Zn、Ge、Nbから選ばれる1種以上、0.01≦x≦1)で表されるマンガン複合酸化物を備える二次電池が記載されており、同公報の発明の詳細な説明の欄には、LiMn1.75Al0.254を正極活物質として用いる例が具体的に開示されている。
【0007】
これとは別の方向の技術として、LiMn24のMnの一部をNi、Co、Fe、Cu、Crなどで置換し、充放電電位を高くして、エネルギー密度を増加させるといった検討がなされている。これらはいわゆる5V級の起電力を有するリチウム二次電池を構成する。このうちとくにFeは原料価格が安いというメリットがある。
【0008】
LiFe0.6Mn1.44は充放電に伴い理想的には次のような価数変化を起こす。
Li+Fe3+0.6Mn3+0.4Mn4+12-4
→ 0.4Li++Li0.6Fe3+0.6Mn4+1.42-4 (Liに対する電位が3.7〜4.2Vの領域)
→ Li++Fe4+0.6Mn4+1.42-4 (Liに対する電位が4.5〜5.2Vの領域)
この式からわかるように、LiFe0.6Mn1.44は3価のFeとMnが4価に変化することで放電が起こる。このように、充放電に関与する元素としてFeを使用することで、リチウム金属に対して4.5V以上での高い電位での動作が可能となる。このような材料の開発例として、特許文献2が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2001−176557号公報
【特許文献2】特開2000−90923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが特許文献1において上記のように3価Mnを他元素で置換して減らした場合、放電容量の低下が問題となる。LiMn24に含まれる3価のMnを他の金属で置換した活物質は、いわゆる4V級の起電力を有するリチウムイオン系二次電池を構成する。LiMn24は充放電に伴い次のようなMnの価数変化を起こす。
Li+Mn3+Mn4+2-4 → Li++Mn4+22-4
【0011】
この式からわかるように、LiMn24は3価のMnと4価のMnが含まれており、このうちの3価のMnが4価に変化することで放電が起こる。したがって、3価のMnを他元素に置換すれば、必然的に放電容量の低下をもたらすことになる。すなわち、正極活物質の構造安定性を高めて電池の信頼性を向上させようとしても、放電容量の低下が顕著となり、両者を両立させることは困難である。特に、放電容量値110mAh/g以上で信頼性の高い正極活物質を得ることは非常に困難である。
【0012】
また、特許文献2で提示されているこのような活物質を用いても、たしかにリチウムに対して4.5V以上もの起電力を発生させるものの、放電容量が理論値どおりに発現しないことが多く、この点で改善の余地があった。
【0013】
本発明はこうした状況を鑑みなされたものであって、低コストの元素を使用して高い放電エネルギーを有する正極材料を提供することを目的としている。
【0014】
すなわち、本発明の技術的課題は、低コストの材料を使用して、高電圧で動作し高い放電エネルギーを有する二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の二次電池用正極活物質は、下記一般式(I)
Lia(FexMn2-x-y1M1y1)O4-z ・・・・・・・・(I)
(式中、0.3≦x≦1.1、0<y1<0.5、0≦a≦1、0≦z≦0.1、M1はSi、Ti、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されるスピネル型マンガン複合酸化物であり、リチウム金属に対する活物質の電位が3V以上、5.2V以下の領域で充放電を行った場合に、放電平均電圧が4.2V以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明の二次電池用正極活物質は、前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(II)
Lia(FexMn2-x-y2-w1y2M2w1)O4-z ・・・・・(II)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.01≦y2≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M2はSi、Ti、LiおよびMgよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする。
【0017】
本発明の二次電池用正極活物質は、前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(III)
Lia(FexMn2-x-y3-w1Mgy3M3w1)O4-z ・・・・・ (III)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y3≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M3はSi、Ti、LiおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする。
【0018】
本発明の二次電池用正極活物質は、前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(IV)
Lia(FexMn2-x-y4-w1Siy4M4w1)O4-z ・・・・・ (IV)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y4≦0.5、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M4はTi、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする。
【0019】
本発明の二次電池用正極活物質は、前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(V)
Lia(FexMn2-x-y4-w2Tiy4M5w2)O4-z ・・・・・ (V)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y4≦0.5、0≦a≦1、0≦w2<0.3、0≦z≦0.1、M5はSi、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする。
【0020】
本発明の二次電池用正極活物質は、前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式
(VI)
Lia(FexMn2-x-y3-w1Liy3M6w1)O4-z ・・・・(VI)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y3≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M6はSi、Ti、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする。
【0021】
本発明の二次電池は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質を正極に使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低コストの材料を使用して、高電圧で動作し高い放電エネルギーを有する二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
本発明の二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池は一般式(I)〜(VI)に示されるように、Feを含むこと、および、Si、Ti、Li、Mg、Bのうちの少なくとも一種を含むことが特徴の一つとなっている。
【0025】
Mnを他元素に置換する技術は4V級活物質においても採用されているが、これらは正極活物質の結晶構造の安定性を高めることを目的とするのに対し、本発明は容量の増大を目的とする点で相違する。具体的構成についてみると、4V級活物質では充放電に関与する3価のMnが置換されるのに対して、本発明においては、活物質中に、Feが含まれており、Feの価数変化を利用することを特徴としている。
【0026】
Feは、原料コストが安価であって従来からの報告にあるような方法では、十分なエネルギー密度が得られていなかったが、Si、Ti、Li、Mg、Bなどの元素を導入することによって結晶性を高めることでエネルギー密度の改善を図ったものである。なお、本発明の一般式(I)〜(VI)において、充放電によるLiの挿入脱離によって、aの値が変化し、0以上、1以下の範囲で変化することができる。
【0027】
本発明においては、一般式(I)に元素M1を導入することにより結晶性を高めることによって、高エネルギー密度化を図っている。すなわちSi、Ti、Li、Mg、Bのうちの少なくとも一種で置換することにより、高エネルギー密度化が実現される。
【0028】
検討の結果、一般式(I)では、y1>0で高エネルギー密度化の効果があり、y1>0.02の場合に、顕著な効果があった。Li金属に対して4.5V以上の高電位での充放電領域が出現するため、エネルギー密度の点で優れた特性が得られる。y1が0.5以上の場合には、結晶性の低下や、元素配置が変化してしまうために、容量が低下する場合がある。このためy1は0.5より小さいことが好ましい。
【0029】
一般式(II)におけるBは、y2が0.01以上の場合に高エネルギー密度化の効果があった。y2が0.2より大きい場合には、結晶性の低下や、元素配置が変化してしまうために、容量が低下する場合がある。このためy2は0.2以下であることが好ましい。
【0030】
一般式(III)におけるMgおよび一般式(VI)におけるLiは、y3が0.02以上の場合に高エネルギー密度化の効果があった。y3が0.2より大きい場合には、結晶性の低下や、元素配置が変化してしまうために、容量が低下する場合がある。このためy3は0.2以下であることが好ましい。
【0031】
一般式(IV)におけるSiおよび一般式(V)におけるTiは、y4が0.02以上の場合に高エネルギー密度化の効果があった。y4が0.5より大きい場合には、結晶性の低下や、元素配置が変化してしまうために、容量が低下する場合がある。このためy4は0.5以下であることが好ましい。
【0032】
本発明において、一般式(I)において、元素M1はSi、Ti、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでいるが、元素M1には微量成分として他のSi、Ti、Li、MgおよびBよりなる群の元素を含んでいても同等の効果が得られる。高電圧のスピネル型活物質として、LiNi0.5Mn1.54のような化合物も知られているが、この種の化合物に比べ、本発明のようにFeとMnを主体とする化合物を選択する利点は、FeとMnの原料価格が安いことが挙げられる。自動車用や電力貯蔵用の大型電池への適用を考慮したときに、原料コストの大小は、電池の価格に非常に大きな影響があり、特にFeを使用することでコストの低減が図れる。また、一般式(I)の活物質は、従来から使用されてきたLiMn24と比較すると、エネルギー密度の面でも有利である。
【0033】
一般式(II)〜(IV)および(VI)においてw1が0.5以上の場合には、結晶性の低下や、元素配置が変化してしまうために容量が低下する場合がある。このためw1は0.5より小さいことが好ましい。M2、M3、M4およびM6の部分に、Tiを含む場合には、w1が0.5程度まで結晶性を保つことができるため、0.5未満であることが好ましいのに対して、一般式(V)のM5は、Tiを含まない場合であるが、この場合はw2が0.3以上では、同様に結晶性の低下などにより容量低下が起こるために、0.3未満であることが好ましい。
【0034】
一般式(I)〜(VI)のFeの組成比xは0.3≦x≦1.1とすることができる。すなわち、このような組成おいてFeの組成比xが0.3以上、1.1以下であると、高エネルギー密度が得られるため、上記範囲とすることが好ましい。このような範囲とすることで高起電力および高容量を実現することができる。さらに好ましくは、xは0.4以上、0.9以下である。
【0035】
また一般式(I)〜(VI)においてzが0.1よりも大きい場合には、容量低下とともに、サイクル寿命などに悪影響がある場合があるため、zは0.1以下であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明において、一般式(I)〜(VI)中のzに相当する酸素の欠損分があったり、酸素の一部がF、Clなどのハロゲンや、硫黄、セレンなどのカルコゲンで微量に置換されたりした構成でも同様の効果を得ることができる。
【0037】
次に、本発明に係る正極活物質の作製方法について説明する。正極活物質の作製原料として、Li原料には、Li2CO3、LiOH、Li2O、Li2SO4などを用いることができるが、このうち、特にLi2CO3、LiOHなどが適している。Mn原料としては、電解二酸化マンガン(EMD)・Mn23・Mn34・化学合成二酸化マンガン(CMD)等の種々のMn酸化物、MnCO3、MnSO4などを用いることができる。Fe原料としては、Fe23、Fe34、Fe(OH)2などが使用可能である。Ti原料としてはTiO2などが用いられ、Si原料としてはSiO2、SiOなどが代表的には用いられる。Mg原料としては、Mg(OH)2などを使用することができる。B原料としては、B23などを使用することができる。
【0038】
これらの原料を目的の金属組成比となるように秤量して混合する。混合はボールミル、ジェットミルなどにより粉砕混合する。混合粉を400℃から1200℃の温度で、空気中または酸素中で焼成することによって正極活物質を得る。焼成温度は、それぞれの元素を拡散させるためには高温である方が望ましいが、焼成温度が高すぎると酸素欠損を生じ、電池特性に悪影響を及ぼす場合がある。このことから、焼成温度は400℃から1000℃程度であることが望ましい。
【0039】
得られたリチウム金属複合酸化物の比表面積は、0.01m2/g以上、3m2/g以下とし、好ましくは0.05m2/g以上、1m2/g以下である。比表面積が大きいほど結着剤が多く必要であり、3m2/gを超えると正極の容量密度の点で不利になるからであり、一方比表面積が0.01m2/gより小さいと、電池の充放電レート特性などが低下する恐れがあるからである。
【0040】
二次電池用正極の作製にあたっては、得られた正極活物質を導電性付与剤と混合し、結着剤によって集電体上に形成する。導電性付与剤の例としては、炭素材料の他、Alなどの金属物質、導電性酸化物の粉末などを使用することができる。結着剤としてはポリフッカビニリデンなどが用いられる。集電体としてはAlなどを主体とする金属薄膜を用いることができる。
【0041】
導電性付与剤の添加量は、たとえば1重量%以上、10重量%以下とすることができ、結着剤の添加量は1重量%以上、10重量%以下とすることができる。導電付与剤と結着剤の割合がそれぞれ10重量%を超えると、活物質重量の割合が小さくなり重量当たりの容量が小さくなるからであり、導電付与剤と結着剤の割合がそれぞれ1重量%より小さいと、導電性が保てなくなったり、電極剥離が生じたりの問題が発生するからである。
【0042】
本発明に係る二次電池は、リチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とした正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を持つ負極を主要成分とし、正極と負極の間に電気的接続を起こさないようなセパレータが挟まれ、正極と負極はリチウムイオン伝導性の電解液に浸った状態であり、これらが電池ケースの中に密閉された状態となっている。
【0043】
図1は、本発明に係る二次電池の断面構造を示す図である。正極集電体3上に正極活物質層1が形成され、正極を構成している。また、負極集電体4上に負極活物質層2が形成され、負極を構成している。これらの正極と負極は、電解液に浸漬した状態の多孔質のセパレータ5を介して対向配置されており、正極と負極などが外装ラミネート6によって収容された構成となっている。
【0044】
正極リード端子と負極リード端子に電圧を印加することにより正極活物質層からリチウムイオンが脱離し、セパレータを通って負極活物質層にリチウムイオンが吸蔵され、充電状態となる。また、正極リード端子と負極リード端子の電気的接触を電池外部で起こすことにより、充電時と逆に、負極活物質層からリチウムイオンが放出され、正極活物質層にリチウムイオンが吸蔵されることにより、放電が起こる。
【0045】
本発明に係る二次電池に用いられる電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カーボネート類、フッ素化カルボン酸エステル、その他フッ素化化合物、などの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して使用し、これらの有機溶媒に溶解するリチウム塩を溶解させる。リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC49CO3、LiC(CF3SO22、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類、フッ化ホウ素類、などがあげられる。また、電解液に代えてポリマー電解質を用いてもよい。
【0046】
電解質としては、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、Li(C25SO22N、4級アンモニウム塩類、などを単独もしくは混合して用いることができる。電解質濃度はたとえば0.2mol/l以上、2mol/l以下とすることができる。濃度が2mol/lより高すぎると密度と粘度が増加する恐れがあり、濃度が0.2mol/lより低すぎると電気電導率が低下する恐れがあるからである。
【0047】
負極活物質としてはリチウムを吸蔵放出可能な材料が用いられ、グラファイトまたは非晶質炭素等の炭素材料、Li金属、Si、Sn、Al、Si酸化物、Sn酸化物、Li4Ti512、TiO2などのTi酸化物、V含有酸化物、Sb含有酸化物、Fe含有酸化物、Co含有酸化物などを単独または混合して用いることができる。
【0048】
負極活物質は導電性付与剤と結着剤によって集電体上に形成させる。導電性付与剤の例としては、炭素材料の他、導電性酸化物の粉末などを使用することができる。結着剤としてはポリフッカビニリデンなどが用いられる。集電体としてはAl、Cuなどを主体とする金属薄膜を用いることができる。
【0049】
作製された正極と負極はセパレータによって電気的接触がない状態で対向させる。セパレータとしてはポリエチレン、ポリプロピレンなどからなる微多孔質膜を用いることができる。
【0050】
この正極と負極がセパレータを挟んで対向したものを、円筒状、または積層上に形成する。これらを電池ケースに収納し、正極活物質、負極活物質の両方が電解液に接するような状態となるように電解液に浸す。正極、負極それぞれと電気的接触を保った電極端子を接続し、その電極端子を電極ケース外部に通ずるように接続しておき、電池ケースを密閉してリチウムイオン系二次電池が完成する。
【0051】
本発明は電池形状には制限がなく、セパレータを挟んで対向した正極、負極を巻回型、積層型などの形態を取ることが可能であり、セル形状は、コイン型、ラミネートパック、角型セル、円筒型セルを用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例を詳述する。
【0053】
原料MnO2、Fe23、Li2CO3、TiO2、SiO2、B23、Li2CO3、Mg(OH)2、Al(OH)3を目的の金属組成比になるように秤量し、粉砕混合した。原料混合後の粉末を800℃で8時間、酸素中で焼成し、正極活物質として、表1に示す試料を作製した。
【0054】
作製した正極活物質と導電性付与剤である炭素を混合し、N−メチルピロリドンにポリフッカビニリデン(PVDF)を溶かしたものに分散させスラリー状態とした。正極活物質、導電性付与剤、結着剤の重量比は92/4/4とした。Al集電体上にスラリーを塗布した後、真空中で12時間乾燥させて、電極材料とした。電極は縦20mm、横20mmに切り出した。その後、3t/cm2で加圧成形した。負極はLi金属箔を縦25mm横25mmに切り出したものを使用した。
【0055】
セパレータにはPPのフィルムを使用し、正極と負極を対向配置させ、ラミネート内に配置し、電解液を満たして密閉して、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液は、溶媒EC(エチレンカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)=30/70(vol%)に電解質LiPF6を1mol/l溶解させたものを使用した。
【0056】
図2は、本発明に係る試料LiFe0.6Mn1.390.014のX線回折パターン図である。これは、一例として試料21(LiFe0.6Mn1.390.014)のX線回折パターンを示したものである。X線回折評価によって、得られた全てのピークがスピネル構造に帰属できたことから、結晶構造が、全ての条件でほぼ単相のスピネル構造であることを確認した。
【0057】
電池特性の評価は0.1Cの充電レートで5.2Vまで充電を行い、0.1Cのレートで3Vまで放電を行った。
【0058】
図3は、本発明に係る試料LiFe0.6Mn1.390.014の放電曲線である。これは、一例として試料21(LiFe0.6Mn1.390.014)の放電曲線を示したものである。この放電曲線から放電容量が128mAh/gであることがわかった。また、この放電曲線の範囲で積分値を計算することによって、放電エネルギーは552mWh/gであることがわかった。さらに、放電エネルギーを放電容量で除することによって放電平均電圧4.31Vを求めることができた。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に、放電容量、リチウム金属に対する放電平均電圧およびリチウム金属電位に対する正極活物質重量あたりの放電エネルギーを示す。
【0061】
試料1〜6に示すように、LiMn24のMnをFeで置換することにより、比較例1〜2と比べて放電平均電圧が増加した。比較例1〜2と比較して、試料1〜44では、放電エネルギーが改善したことを確認できた。一方、試料1〜6のFe置換量と放電エネルギーの結果から、一般式(I)のxは、0.3以上、1.1以下が好ましく、さらに好ましくは、0.4以上、0.9以下であることがわかった。
【0062】
試料7〜44にSi、Ti、Li、Mg、Bで置換した場合の放電容量の結果を示しているが、これを元素ごとに説明する。
【0063】
試料7〜11に示すように、一般式(IV)において、置換量y4が、0.02以上、0.5以下で高い放電エネルギーが得られた。試料31、34、36に示すように、Siと他元素が同時に導入された場合にも高い放電エネルギーが得られた。また、試料39、40のように、Fe組成を変えた場合でも同様の効果が得られた。
【0064】
試料12〜16に示すように一般式(V)において、置換量y4が0.02以上、0.5以下で高い放電エネルギーが得られた。試料32、35、36に示すように、Tiと他元素が同時に導入された場合にも高い放電エネルギーが得られた。また、試料41、42、43、44のように、Fe組成を変えた場合でも効果が得られた。
【0065】
試料17〜20に示すように一般式(III)において、置換量y3が0.02以上、0.2以下で高い放電エネルギーが得られた。試料30、33に示すように、Mgと他元素が同時に導入された場合にも高い放電エネルギーが得られた。
【0066】
試料21〜24に示すように一般式(II)において、置換量y2が0.01以上、0.2以下で高い放電エネルギーが得られた。試料29、30、31、32に示すように、Bと他元素が同時に導入された場合にも高い放電エネルギーが得られた。
【0067】
試料25〜28に示すように一般式(VI)において、置換量y3が0.02以上、0.2以下で高い放電エネルギーが得られた。試料29、33、34、35に示すように、Liと他元素が同時に導入された場合にも高い放電エネルギーが得られた。
【0068】
これらSi、Ti、Li、Mg、Bの元素を添加することで、結晶性が高まったことにより放電エネルギーが改善したことがわかった。
【0069】
また、多くの正極活物質を使用して試料を作製したが、正極活物質中にSi、Ti、Li、Mg、Bのうち少なくとも一種を含めることにより放電容量がほぼ理論値どおりに発現することが確認された。
【0070】
実施例の結果を総合して考慮すれば、低コストの材料を使用して、高電圧で動作し高い放電エネルギーを有する二次電池用正極活物質およびそれを使用した二次電池が得られることがわかった。
【0071】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る二次電池の断面構造を示す図。
【図2】本発明に係る試料LiFe0.6Mn1.390.014のX線回折パターン図。
【図3】本発明に係る試料LiFe0.6Mn1.390.014の放電曲線。
【符号の説明】
【0073】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 正極集電体
4 負極集電体
5 セパレータ
6 外装ラミネート
7 負極リード端子
8 正極リード端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
Lia(FexMn2-x-y1M1y1)O4-z ・・・・・・・・ (I)
(式中、0.3≦x≦1.1、0<y1<0.5、0≦a≦1、0≦z≦0.1、M1はSi、Ti、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されるスピネル型マンガン複合酸化物であり、リチウム金属に対する活物質の電位が3V以上、5.2V以下の領域で充放電を行った場合に、放電平均電圧が4.2V以上であることを特徴とする二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(II)
Lia(FexMn2-x-y2-w1y2M2w1)O4-z ・・・・・(II)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.01≦y2≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M2はSi、Ti、LiおよびMgよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(III)
Lia(FexMn2-x-y3-w1Mgy3M3w1)O4-z ・・・・・ (III)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y3≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M3はSi、Ti、LiおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(IV)
Lia(FexMn2-x-y4-w1Siy4M4w1)O4-z ・・・・・ (IV)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y4≦0.5、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M4はTi、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(V)
Lia(FexMn2-x-y4-w2Tiy4M5w2)O4-z ・・・・・ (V)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y4≦0.5、0≦a≦1、0≦w2<0.3、0≦z≦0.1、M5はSi、Li、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記スピネル型マンガン複合酸化物が、下記一般式(VI)
Lia(FexMn2-x-y3-w1Liy3M6w1)O4-z ・・・・(VI)
(式中、0.3≦x≦1.1、0.02≦y3≦0.2、0≦a≦1、0≦w1<0.5、0≦z≦0.1、M6はSi、Ti、MgおよびBよりなる群から選ばれる一種を少なくとも含む)で表されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質を正極に使用することを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−97845(P2010−97845A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268446(P2008−268446)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】