説明

二次電池用高分子電解質ゲル組成物

【課題】水を含むにも拘らず、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与え得る二次電池用高分子電解質ゲル組成物を提供すること。
【解決手段】ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含み、前記ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部である二次電池用高分子電解質ゲル組成物であって、前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8である二次電池用高分子電解質ゲル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用高分子電解質ゲル組成物および二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯用コンピューター等のポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。それに伴い、電子機器のポータブル電源として、電池、特に二次電池の開発が活発に進められている。中でも、リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を実現できるものとして注目されており、薄型で折り曲げ可能な形状の自由度が高いものについても多く研究されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池としては、正極、負極および正負極間に介在するセパレータを含んで構成され、当該セパレータに電解質と非水系溶媒を含む液体電解質組成物が含浸したものが知られている。このようなリチウムイオン二次電池は、液体電解質組成物が液状であるため、イオン伝導性すなわち電池性能が高いが、液漏れや短絡事故による火災防止のために、液体電解質組成物を封入したり衝撃による事故を防いだりするための強固なケーシングが必須となり、電池の形状が制限され、薄型化や軽量化が困難であった。
【0004】
これに対し、高分子に電解質塩を溶解させた全固体状の高分子電解質組成物(以後「全固体型高分子電解質組成物」と称すことがある)を用いるリチウムイオン二次電池が知られている。全固体型高分子電解質組成物を用いるリチウムイオン二次電池は、漏出防止のための特別な構造を必要としない。また、全固体型高分子電解質組成物と電極、セパレータ等とを接着することができるので、電池の強度や形状保持性を高めることができる。したがって、電池を薄型化し、電池の形状自由度を高める上で有効である。しかしながら、全固体型高分子電解質組成物のイオン伝導性は液体電解質組成物のイオン伝導性に比較してかなり小さいという問題を有している。
【0005】
上記の問題を解決するものとして、高分子に電解液を保持させたゲル状の高分子電解質組成物(以後「高分子電解質ゲル組成物」と称すことがある)を用いるリチウムイオン二次電池が知られている。高分子電解質ゲル組成物を用いるリチウムイオン二次電池は、高分子電解質ゲル組成物において高分子が電解液を保持しているために全固体型高分子電解質組成物を用いるリチウムイオン二次電池に比べて活物質との接触性およびイオン伝導性に優れており、また、セパレータに液体電解質組成物が含浸されたタイプのリチウムイオン二次電池に比べても漏液が起こりにくいという特徴を有することから注目を浴びている。
【0006】
高分子電解質ゲル組成物では、高分子電解質ゲル組成物中の電解質の含有割合が高いほど優れたイオン伝導性を示すため、使用する高分子のゲル安定性が高いほど電解液ひいては電解質の含有割合を高くすることができ、より優れたイオン伝導性を示す高分子電解質ゲル組成物を得ることが可能となる。また、電解質として使用されるリチウム塩は、通常、電解液中において完全なイオン解離をしておらず、一部のみがリチウムイオンとアニオンに解離し、それが高分子電解質ゲル組成物のイオン伝導性に寄与している。そのため、電解質の含有割合が同じ場合には、リチウム塩の解離度が高いほど、イオンの数が増えて高分子電解質ゲル組成物のイオン伝導性が高くなり、リチウムイオン二次電池としての性能が高くなる。さらに、イオン伝導性に寄与するイオン種の割合は高分子電解質ゲル組成物の種類などによって変化するが、一般に、リチウムイオンの寄与が大きいイオン伝導性を示す高分子電解質ゲル組成物、すなわち、リチウムイオン輸率が高い高分子電解質ゲル組成物を用いた場合、リチウムイオン二次電池としての性能が高いものとなる。
【0007】
高分子電解質ゲル組成物に用いられる高分子として、例えば、ポリエーテル系の高分子をはじめとして、メタクリル酸メチル系重合体、アクリロニトリル系重合体、ポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体等の様々な物質が研究されている。
【0008】
ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドあるいはこれらの誘導体や共重合体などのポリエーテル系の高分子は、エーテル酸素が高い塩基性を持つためにリチウムイオンをトラップすると同時に、それが重合体鎖上に連続的に配列しているために、トラップされたリチウムイオンの効率的なホッピング移動を誘起し、イオン伝導性を向上させることができる。しかし、市販の線形ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドは融点が低いため(70℃程度以下)、高温での耐久性および形状保持性に不安がある。
【0009】
一方、高分子電解質ゲル組成物に用いられる高分子として、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のビニルアセタール系重合体が知られている。例えば、特許文献1〜3には、ビニルアセタール系重合体と電解液とを含む高分子電解質ゲル組成物が記載されている。また、特許文献4では、ポリビニルアセタールに含まれる水酸基を化学修飾してその量を調整することにより、電解液の量を増やすことが検討されている。これらのビニルアセタール系重合体は、上記のポリエーテル系の高分子と同様に、構造中に酸素原子を有する高分子である。ビニルアセタール系重合体は、多くの場合、軟化点(樹脂が軟化を開始する温度)が高いため、上記したポリエーテル系の高分子に比べて、高温での耐久性および形状保持性に優れている。
【0010】
ところで、ヘキサフルオロリン酸リチウムやテトラフルオロホウ酸リチウムなどの汎用のリチウム塩を電解質として用いた高分子電解質ゲル組成物の製造や使用にあたっては、高分子電解質ゲル組成物を製造するための原料に水分が存在していたり、あるいは高分子電解質ゲル組成物を製造した後に系外から水分が混入するとリチウム塩が容易に加水分解してフッ化水素などの分解物を生じ、これが電池の正極、負極、電解液中の非水系溶媒などと反応して、電池の容量低下、内部抵抗の増大、サイクル特性の低下等、種々の問題を引き起こす。そのため、リチウムイオン二次電池用の高分子電解質ゲル組成物の製造や使用にあたっては、高分子電解質ゲル組成物中に極力水分が持ち込まれないようにすることが必要であると一般的に考えられていた。
【0011】
しかしながら、ビニルアセタール系重合体はその構造中に親水性の水酸基を有するとともに、通常、その製造において水が使用されるため、汎用のビニルアセタール系重合体は多くの水分を含んでおり、ビニルアセタール系重合体をリチウムイオン二次電池用の高分子電解質ゲル組成物の原料として使用するためには、その水分率を十分に低下させる必要があった。しかしながら、ビニルアセタール系重合体から水分を除去することは比較的困難であってその除去操作が煩雑である上、水分を除去するために高温に加熱するとビニルアセタール系重合体が分解劣化しやすく、一方、真空乾燥等を利用した低温での乾燥は長い乾燥時間を要し工業的な製造方法とは言い難くコスト高に繋がる懸念もあった。しかも、水分率を十分に低下させたとしても、ビニルアセタール系重合体は空気中の水分を容易に吸収するため、より厳密に管理されたドライルームなどの高価な設備が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−43909号公報
【特許文献2】特開平3−43910号公報
【特許文献3】特開2006−253085号公報
【特許文献4】特開2001−200126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、水を含むにも拘らず、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与え得る二次電池用高分子電解質ゲル組成物を提供することを目的とする。また本発明は、原料として、煩雑な水分の除去操作を施さずに含水ビニルアセタール系重合体をそのまま用いた場合であっても、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与え得る二次電池用高分子電解質ゲル組成物を容易に製造することができる、二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、リチウム塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを用いると、含水ビニルアセタール系重合体をそのまま用いて高分子電解質ゲル組成物を製造した場合であっても、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与え得る二次電池用高分子電解質ゲル組成物を容易に製造することができること、および、当該二次電池用高分子電解質ゲル組成物において、リチウム原子のモル数とビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数との比率がイオン伝導度やリチウムイオン輸率に大きな影響を与えることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、
[1]ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含み、前記ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部である二次電池用高分子電解質ゲル組成物であって、
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8である二次電池用高分子電解質ゲル組成物、
[2]前記ビニルアセタール系重合体の含有率が0.5〜15質量%である、上記[1]の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、
[3]前記ビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率が10〜45モル%である、上記[1]または[2]の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、
[4]ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含む二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法であって、
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8であり、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液と、ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部である含水ビニルアセタール系重合体とを接触させる工程を有する製造方法、
[5]前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物におけるビニルアセタール系重合体の含有率が0.5〜15質量%である、上記[4]の製造方法、
[6]前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率が10〜45モル%である、上記[4]または[5]の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物は、水を含むにも拘らず、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与えることができるため、その製造や使用において水の混入を防ぐための特別な装置や操作が不要となる。また、本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法によれば、煩雑な水分の除去操作を施さずに含水ビニルアセタール系重合体をそのまま用いた場合であっても、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与え得る二次電池用高分子電解質ゲル組成物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含む。
【0018】
本発明において使用されるビニルアセタール系重合体としては、ビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)と、2つのビニルアルコール単位が有する2つの水酸基がアセタール化された構造に相当するアセタール単位とを繰り返し単位として少なくとも有する重合体を使用することができる。ビニルアセタール系重合体は、ビニルエステル単位を繰り返し単位としてさらに有していてもよい。またビニルアセタール系重合体は、ビニルエーテル単位等の、上記したビニルアルコール単位、アセタール単位およびビニルエステル単位以外の他の単位を繰り返し単位としてさらに有していてもよい。上記アセタール単位、ビニルエステル単位および他の単位のそれぞれは、ビニルアセタール系重合体において、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、ビニルアセタール系重合体において、各繰り返し単位の配列順序は特に限定されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよい。
【0019】
上記のアセタール単位としては、例えば、式(1)に示したものを挙げることができる。
【0020】
【化1】

【0021】
[式(1)中、Qは、水素原子、ハロゲン原子、または1個以上の炭素原子を有する置換基である。]
【0022】
上記式(1)においてQが表す1個以上の炭素原子を有する置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、1−エチルペンチル基等の炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基などが挙げられる。
【0023】
上記式(1)におけるQとしては、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基がより好ましく、水素原子、メチル基、n−プロピル基、フェニル基がさらに好ましく、n−プロピル基が特に好ましい。
【0024】
上記のビニルエステル単位としては、例えば、式(2)に示したものを挙げることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
[式(2)中、Qは、水素原子、ハロゲン原子、または1個以上の炭素原子を有する置換基である。]
【0027】
上記式(2)においてQが表す1個以上の炭素原子を有する置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、1−エチルペンチル基等の炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基などが挙げられる。
【0028】
上記式(2)におけるQとしては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0029】
上記のビニルアセタール系重合体は、例えば、ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより製造することができる。
【0030】
上記のビニルアルコール系重合体としては、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルおよび必要に応じてさらにビニルエステルと共重合可能な他の単量体を重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより得られるものを使用することができ、酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られるポリビニルアルコールを好ましく使用することができる。ビニルエステル系重合体を製造するための重合条件に特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。また、ビニルエステル系重合体をけん化してビニルアルコール系重合体を製造するためのけん化条件にも特に制限はなく、例えば、通常のビニルエステル系重合体をアルカリ、酸等によりけん化する場合の条件を採用することができる。
【0031】
上記のビニルアルコール系重合体の重合度は、JIS K6726−1994に規定されるポリビニルアルコール試験方法に準じて測定される平均重合度として、好ましくは100〜5000の範囲内であり、より好ましくは150〜3500の範囲内であり、さらに好ましくは200〜2500の範囲内である。
【0032】
また、上記のビニルアルコール系重合体のけん化度は、好ましくは80〜99.99モル%の範囲内であり、より好ましくは85〜99.95モル%の範囲内であり、さらに好ましくは90〜99.9モル%の範囲内である。
【0033】
ビニルアルコール系重合体のアセタール化に用いられる化合物としては、例えば、各種アルデヒド、各種アルデヒドの完全アセタール化物、各種アルデヒドのヘミアセタール化物、各種ビニルエステル、各種ビニルエーテルなどが挙げられ、Q−CHO、Q−CH(OR)、Q−CH(OH)(OR)を好ましく用いることができ、Q−CHOをより好ましく用いることができる。ここで、Qは、上記式(1)におけるQと同義であり、Rは1個以上の炭素原子を有する置換基である。
当該Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基;ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基などが挙げられる。なお分子中にRを複数有する場合にはRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
アセタール化する際の条件としては、例えば、ビニルアルコール系重合体の水溶液と上記のアセタール化に用いられる化合物(各種アルデヒド等)とを、酸触媒の存在下にアセタール化反応させて重合体の粒子を析出させる水媒法;ビニルアルコール系重合体を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下に上記のアセタール化に用いられる化合物(各種アルデヒド等)とアセタール化反応させ、この反応液から、得られるビニルアセタール系重合体に対する貧溶媒(水等)により重合体を析出させる溶媒法などが挙げられる。これらの方法のうちで水媒法が好ましい。また、酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、炭酸等の無機酸;酢酸、プロピオン酸等の有機酸などを用いることができる。このうち特に塩酸、硝酸が好ましく用いられる。
【0035】
本発明においては、1種のビニルアセタール系重合体を単独で使用しても、2種以上のビニルアセタール系重合体を併用してもよい。
【0036】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体のアセタール化度は、好ましくは50〜95モル%の範囲内であり、より好ましくは55〜90モル%の範囲内であり、さらに好ましくは60〜85モル%の範囲内である。ビニルアセタール系重合体のアセタール化度が上記範囲にあることにより非水系溶媒との親和性を向上させることができる。なお本明細書において「アセタール化度」とは、アセタール単位を構成する構成単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対する、アセタール単位を構成する構成単位のモル数の割合を意味する。ここで、1つのアセタール単位は2つの構成単位から形成されると考えられることから、アセタール単位を構成する構成単位のモル数は、通常、アセタール単位のモル数の2倍になる。具体的には、ビニルアセタール系重合体が、上記式(1)に示したアセタール単位:nモル、ビニルアルコール単位:nIIモル、および上記式(2)に示したビニルエステル単位:nIIIモルから形成される場合には、アセタール化度は以下の式(3)により求めることができる。
アセタール化度(モル%)=100×[n×2]/[n×2 + nII + nIII] (3)
また本明細書においては、アセタール化度のうち、ブチルアルデヒドのアセタールに相当するアセタール単位に基づくものを「ブチラール化度」と特に称することとする。
【0037】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体のビニルエステル単位の含有率は、好ましくは0.01〜20モル%の範囲内であり、より好ましくは0.05〜15モル%の範囲内であり、さらに好ましくは0.1〜10モル%の範囲内である。ビニルアセタール系重合体のビニルエステル単位の含有率が上記範囲にあることによりリチウムイオン二次電池として使用した際のビニルアセタール系重合体の酸化雰囲気下における安定性が良好となる。なお、本明細書において、ビニルエステル単位の含有率はビニルアセタール系重合体を構成する全構成単位(但し、2つの構成単位から構成される1つのアセタール単位は2つの構成単位と考えるものとする)のモル数に占めるビニルエステル単位のモル数の割合を意味する。また、ビニルエステル単位の含有率のうち、酢酸ビニル単位に基づくものを「酢酸ビニル単位の含有率」と特に称することとする。
【0038】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率は、10〜45モル%の範囲内であることが好ましく、15〜40モル%の範囲内であることがより好ましい。ビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率が上記範囲にあることによりビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムとの相互作用がより効果的に発揮され、イオン伝導性により優れる二次電池用高分子電解質ゲル組成物が得られる。なお、本明細書において、ビニルアルコール単位の含有率はビニルアセタール系重合体を構成する全構成単位(但し、2つの構成単位から構成される1つのアセタール単位は2つの構成単位と考えるものとする)のモル数に占めるビニルアルコール単位のモル数の割合を意味する。
【0039】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物が含む電解液は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)および非水系溶媒を含む。電解液、ひいては二次電池用高分子電解質ゲル組成物がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを含むことにより、当該ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムが電解質として機能することができる。リチウム塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CFSOLi)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SOCF)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SO)など、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム以外の他のリチウム塩も知られているが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの使用が効果的である。上記電解液はリチウム塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムのみを含むことが好ましいが、本発明の効果が奏される限り、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムと共に、上記した他のリチウム塩を少量(例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに対して10モル%以下)含んでいてもよい。また、電解液には、必要に応じてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム等のリチウム塩および非水系溶媒以外の他の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0040】
本発明において使用される非水系溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル;1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;アセトニトリル等のニトリル;スルホラン系化合物;リン酸類;リン酸エステル;ピロリドン類などが挙げられる。これらの非水系溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ラクトン、炭酸エステルが好ましく、γ−ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルが特に好ましい。また、炭酸エステルを使用する場合には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの解離の促進とリチウムイオンの易動度の両立の観点から、環状の炭酸エステルと鎖状の炭酸エステルとを併用するのが好ましい。
【0041】
電解液におけるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの濃度は、好ましくは0.1〜10ミリモル/gの範囲内であり、より好ましくは0.2〜5ミリモル/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.5〜2ミリモル/gの範囲内である。
【0042】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物においては、当該二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれる全てのリチウム原子のモル数(MLi)に対する、当該二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体に含まれる全ビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8の範囲内であることが必要である。当該割合が0.1未満であるとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの電離度が低下する。一方、当該割合が0.8を超えるとイオン伝導度やリチウムイオン輸率が低下する。これは、電気陰性度の高い水酸基の酸素原子がリチウムイオンと強く相互作用するためと考えられる。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの電離度、イオン伝導度およびリチウムイオン輸率の観点から、上記割合は0.2〜0.75の範囲内であることが好ましく、0.3〜0.7の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物におけるビニルアセタール系重合体の含有率は、あまりに高いとイオン伝導性が損なわれる傾向があり、逆にあまりに低いと液漏れが生じて安全性が損なわれる傾向があるため、イオン伝導性および電解液保持性の両立の観点から、0.5〜15質量%の範囲内であることが好ましく、1〜12質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜8質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物、および、本発明の製造方法により製造される二次電池用高分子電解質ゲル組成物は、上記した電解液、ビニルアセタール系重合体および後述する水のみから構成されていてもよいが、これら以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、充填材、架橋促進剤やその反応生成物などが挙げられる。二次電池用高分子電解質ゲル組成物に占める、電解液、ビニルアセタール系重合体および水の合計の質量割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物におけるビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量は0.5〜5質量部の範囲内である。当該含水量が0.5質量部未満の二次電池用高分子電解質ゲル組成物を調製するためには、水の混入を防ぐための特別な装置や操作が必要になる。一方、当該含水量が5質量部を超えると、得られるリチウムイオン二次電池が劣化しやすくなる。上記含水量は、二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造時や使用時において水の混入を防止するための管理を厳密に行う必要性を解消することができるとともに得られる二次電池の劣化をより効果的に防止することができることから、0.6〜4質量部の範囲内であることが好ましく、0.7〜3質量部の範囲内であることがより好ましい。
なお、二次電池用高分子電解質ゲル組成物における含水量はカールフィッシャー法により測定される水分率から容易に算出することができる。
【0046】
本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液と、ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部の範囲内、好ましくは0.6〜4質量部の範囲内、より好ましくは0.7〜3質量部の範囲内にある含水ビニルアセタール系重合体とを接触させる工程を有する。ここで含水ビニルアセタール系重合体とは、ビニルアセタール系重合体と水とを少なくとも含む組成物を意味する。本発明の製造方法において使用される含水ビニルアセタール系重合体としては、ビニルアセタール系重合体の工業的な製造過程において、乾燥せずにまたは比較的弱い条件での乾燥によって得られた含水量が上記範囲内にある含水ビニルアセタール系重合体を煩雑な水分の除去操作を施さずにそのまま使用することができる。また、含水ビニルアセタール系重合体は、ビニルアセタール系重合体および水以外に有機溶媒などの成分をさらに含んでいてもよい。電解液と含水ビニルアセタール系重合体とを接触させるにあたっては、割合(MOH/MLi)が上記した範囲内になるように両成分の配合割合を適宜調整すればよい。上記製造方法によって、ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部の範囲内、好ましくは0.6〜4質量部の範囲内、より好ましくは0.7〜3質量部の範囲内にある本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物を容易に製造することができる。
なお、含水ビニルアセタール系重合体における含水量はカールフィッシャー法により測定される水分率から容易に算出することができる。
【0047】
電解液と含水ビニルアセタール系重合体とを接触させる方法としては、例えば、電解液とビニルアセタール系重合体とを混合する方法;含水ビニルアセタール系重合体に対し電解液を含浸させる方法などが挙げられる。これらの中でもより均一な二次電池用高分子電解質ゲル組成物が得られることから、電解液とビニルアセタール系重合体とを混合する方法が好ましい。本発明の二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法の具体例としては、例えば、以下に示すような第1〜第3の方法が挙げられる。
【0048】
第1の方法は、電解液とビニルアセタール系重合体が有機溶媒に溶解し且つ含水状態にあるもの(含水ビニルアセタール系重合体)とを混合した後、成形加工の前または後に有機溶媒を蒸発させて取り除く方法である。有機溶媒としては、ビニルアセタール系重合体を溶解することのできるものであれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;メチレンクロライド、クロロホルム等の塩素化炭化水素;トルエン、キシレン、スチレン、ピリジン等の芳香族炭化水素;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;酢酸等のカルボン酸などが挙げられる。
【0049】
第2の方法は、電解液と有機溶媒を含まない含水ビニルアセタール系重合体とを混合して得られた混合物を、所定の形状に成形加工する方法である。
【0050】
第3の方法は、含水ビニルアセタール系重合体をキャスト製膜、溶融押出製膜等により製膜してフィルムを作製し、このフィルム中に電解液を含浸させる方法である。
【0051】
上記の二次電池用高分子電解質ゲル組成物を用いたリチウムイオン二次電池の構成に特に制限はなく、例えば、一対の電極、セパレータおよび各電極とセパレータの間に配設された上記二次電池用高分子電解質ゲル組成物を有するものが挙げられる。各電極には、通常、活物質が含まれる。リチウムイオン二次電池における上記二次電池用高分子電解質ゲル組成物の形状は、目的とするリチウムイオン二次電池の形状やその製造方法等にもよるが、例えば、厚さ1〜500μmの薄膜状や、あるいは、一対の電極とその間に配設されたセパレータにおける各隙間やこれらの周囲に溶融状態の二次電池用高分子電解質ゲル組成物が連続的に入り込んだ後に固化して形成される形状などが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された、高分子電解質ゲル組成物の酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率の各測定または算出方法を以下に示す。
【0053】
酸性度
pH測定領域が1〜11のスリーバンドpH試験紙を用いて高分子電解質ゲル組成物の酸性度を測定した。具体的には作製した高分子電解質ゲル組成物の一部をpH試験紙に接触させて、色の変化からpHを読み取った。
【0054】
イオン伝導度
2032型コインセルを作製して評価した。すなわち、正極ケース内側にガスケットを置き、「テフロン(登録商標)」製のリング状スペーサー(内径14mm、厚み1mm)を置き、高分子電解質ゲル組成物をその中にいれ、さらにステンレス製電極板(φ16mm、厚み0.5mm)をかぶせて、金属製ワッシャをのせ、負極ケースをかぶせ、かしめ機でかしめてコインセルを作製した。このコインセルを電池ホルダーにセットし、リード線で周波数応答アナライザー(Solartron社製1250型)につなぎ、交流インピーダンス法により、25℃にて、交流50mV、1〜65kHzの範囲で、インピーダンスを測定した。コインセル中の高分子電解質ゲル組成物の面積S[cm]、厚みd[cm]、得られたインピーダンスR[Ω]から、以下の式(4)により、イオン伝導度σ[S/cm]を算出した。
【0055】
【数1】

【0056】
電離度
日本電子株式会社製のJNM−ECP300W(7.04T)を用いて、25℃にて磁場勾配NMR法により高分子電解質ゲル組成物の測定を行った。得られたエコー強度Mより、以下の式(5)により、Li、19Fおよび炭酸ジメチル由来のHの各拡散係数を求めた。
【0057】
【数2】

【0058】
[式(5)中、Mはパルスシークエンスの最初のRFパルス印加直後に測定されるエコーデータ、γは核スピンの磁気回転比、δは勾配磁場パルスの時間幅、gは勾配磁場パルスの強度、Δは勾配磁場パルスの時間間隔、DはLi、19Fおよび炭酸ジメチル由来のHのそれぞれについての拡散係数を表す。]
【0059】
得られた各拡散係数と上記で算出したイオン伝導度σ[S/cm]とから、以下の式(6)〜(9)を満足する電離度xを算出した。
【0060】
obs(Li) = xDcation + (1−x)Dpair (6)
obs(F) = xDanion + (1−x)Dpair (7)
σ = exN(Dcation + Danion) / kT (8)
pair = 0.666 × Dobs(H) (9)
【0061】
[式(6)〜(9)中、Dobs(Li)は上記で求めたLiの拡散係数[cm/s]を表し、Dobs(F)は上記で求めた19Fの拡散係数[cm/s]を表し、Dobs(H)は上記で求めた炭酸ジメチル由来のHの拡散係数[cm/s]を表す。eは電気素量、kはボルツマン定数、Tは温度[K]、Nは高分子電解質ゲル組成物中のリチウム塩濃度[個/cm]、Dcationはリチウムイオンの拡散係数[cm/s]、Danionはカウンターアニオンの拡散係数[cm/s]、Dpairは電離していないリチウム塩の拡散係数[cm/s]を表す。]
【0062】
リチウムイオン輸率
上記式(6)〜(9)により求められるDcationおよびDanionから、以下の式(10)により、リチウムイオン輸率tLiを算出した。
Li = Dcation / (Dcation + Danion) (10)
【0063】
[製造例1]
ポリビニルブチラール(重合体A)を含む含水ポリビニルブチラールの製造
還流冷却器、温度計、イカリ型撹拌翼を備えた2リットルガラス製容器に、イオン交換水1350g、ポリビニルアルコール(重合度:1000、けん化度:98モル%、株式会社クラレ製)110gを仕込み、120rpmで撹拌しながら、95℃で60分かけてポリビニルアルコールを完全に溶解した(ポリビニルアルコールの濃度:7.5質量%)。この水溶液を120rpmで撹拌下、40℃まで冷却した後、n−ブチルアルデヒド69g(0.96モル)を添加した。さらに12℃まで冷却した後、20質量%の塩酸82mLを12分かけて添加し、10分間攪拌した。その後、116分かけて73℃まで昇温し、120分間攪拌後、室温まで冷却した。析出した樹脂をろ過してイオン交換水で洗浄後、0.3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和し、ろ過後、イオン交換水で再度洗浄し、乾燥して、ポリビニルブチラール(重合体A)と水のみから実質的になる含水ポリビニルブチラールを得た。
得られた重合体Aのブチラール化度は80モル%、酢酸ビニル単位の含有率は2モル%、ビニルアルコール単位の含有率は18モル%であった。また、得られた含水ポリビニルブチラールの重合体A100質量部に対する含水量をカールフィッシャー水分計を使用して求めたところ2.5質量部であった。
【0064】
[製造例2]
ポリビニルブチラール(重合体B)を含む含水ポリビニルブチラールの製造
製造例1において、n−ブチルアルデヒドの使用量を69g(0.96モル)から63g(0.87モル)に変えたこと以外は、製造例1と同様の方法により、ポリビニルブチラール(重合体B)と水のみから実質的になる含水ポリビニルブチラールを得た。
得られた重合体Bのブチラール化度は73モル%、酢酸ビニル単位の含有率は2モル%、ビニルアルコール単位の含有率は25モル%であった。また、得られた含水ポリビニルブチラールの重合体B100質量部に対する含水量をカールフィッシャー水分計を使用して求めたところ2.5質量部であった。
【0065】
[製造例3]
ポリビニルブチラール(重合体C)を含む含水ポリビニルブチラールの製造
製造例1において、n−ブチルアルデヒドの使用量を69g(0.96モル)から54g(0.75モル)に変えたこと以外は、製造例1と同様の方法により、ポリビニルブチラール(重合体C)と水のみから実質的になる含水ポリビニルブチラールを得た。
得られた重合体Cのブチラール化度は63モル%、酢酸ビニル単位の含有率は2モル%、ビニルアルコール単位の含有率は35モル%であった。また、得られた含水ポリビニルブチラールの重合体C100質量部に対する含水量をカールフィッシャー水分計を使用して求めたところ2.5質量部であった。
【0066】
[実施例1]
炭酸エチレンと炭酸ジメチルとを炭酸エチレン:炭酸ジメチル=3:7の質量比で混合してなる非水系溶媒に、電解質としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを0.79ミリモル/gの濃度で溶解した電解液を調製した。なお、電解液の調製に使用した上記各原料は十分に乾燥されたものを用いた。次いで、調製した電解液と重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールとを[電解液の質量]/[重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールの質量]=95/5となる割合で混合し、50℃で加熱しながら撹拌し、充分均一になった後に室温まで冷却して高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0067】
[実施例2]
実施例1において、重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールの代わりに重合体Bを含む含水ポリビニルブチラールを使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0068】
[実施例3]
実施例1において、重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールの代わりに重合体Cを含む含水ポリビニルブチラールを使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0069】
[実施例4]
実施例1において、電解液と重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールとを[電解液の質量]/[重合体Aを含む含水ポリビニルブチラールの質量]=90/10となる割合で混合したこと以外は実施例1と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0070】
[実施例5]
実施例2において、電解液と重合体Bを含む含水ポリビニルブチラールとを[電解液の質量]/[重合体Bを含む含水ポリビニルブチラールの質量]=90/10となる割合で混合したこと以外は実施例2と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0071】
[実施例6]
実施例3において、電解液と重合体Cを含む含水ポリビニルブチラールとを[電解液の質量]/[重合体Cを含む含水ポリビニルブチラールの質量]=90/10となる割合で混合したこと以外は実施例3と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの代わりにヘキサフルオロリン酸リチウムを使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物は、作製後に全体が黒褐色化して分離・固化し、異臭を放つ状態になり、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出することができなかったため、酸性度のみ測定した。結果を表1に示した。
【0073】
[比較例2]
実施例1において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの代わりにテトラフルオロホウ酸リチウムを使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物は、作製後に全体が黒褐色化して分離・固化し、異臭を放つ状態になり、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出することができなかったため、酸性度のみ測定した。結果を表1に示した。
【0074】
[比較例3]
実施例2において、電解液と重合体Bを含む含水ポリビニルブチラールとを[電解液の質量]/[重合体Bを含む含水ポリビニルブチラールの質量]=85/15となる割合で混合したこと以外は実施例2と同様の方法により、高分子電解質ゲル組成物を作製した。
得られた高分子電解質ゲル組成物を用いて、上記した方法により酸性度、イオン伝導度、電離度およびリチウムイオン輸率を測定または算出した。結果を表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1の結果からも明らかなように、実施例1〜6では原料として含水ポリビニルアセタール系重合体を用いていて、得られる二次電池用高分子電解質ゲル組成物は水を含むにも拘らず、リチウムイオン二次電池において致命的な酸の発生に由来する酸性度の異常を引き起こすことなく、イオン伝導度が高く、電離度が高くてリチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与えることができる二次電池用高分子電解質ゲル組成物が得られた。特に実施例1〜6では、当該二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれる全てのリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれる全ビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8の範囲内であるために、いずれの実施例においても、電離度xが0.7以上であって良好な範囲にあり、また、リチウムイオン輸率tLiも0.4以上であって良好な範囲にあった。これは、ビニルアセタール系重合体に含まれる酸素原子が電解液中のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの電離を促進し、かつリチウムイオンの動きを抑制しすぎないためと推測される。
【0077】
一方、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの代わりにヘキサフルオロリン酸リチウムやテトラフルオロホウ酸リチウムを含む場合(比較例1および2)では、pHがそれぞれ1および3まで低下し、リチウムイオン二次電池において致命的な酸の発生がみられた。これは、水分によりアニオンが分解してフッ化水素を生じたためと考えられる。
【0078】
また、上記割合(MOH/MLi)が0.8を超える場合(比較例3)では、電離度xは0.7以上の高い値を示したが、リチウムイオン輸率tLiは0.4未満と低く、イオン伝導度σも低くて、二次電池にした際に充放電特性に劣ることが示唆された。これは、ビニルアルコール単位のモル数がリチウム原子のモル数に対して多く、酸素原子とリチウムイオンが相互作用して相対的なリチウムイオンの動きが抑制されたためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、水を含むにも拘らず、イオン伝導度が高く、リチウム塩の解離性に優れ、リチウムイオン輸率も高くて、充放電特性に優れた二次電池を与えることができるため、その製造や使用において水の混入を防ぐための特別な装置や操作が不要となり、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含み、前記ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部である二次電池用高分子電解質ゲル組成物であって、
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8である二次電池用高分子電解質ゲル組成物。
【請求項2】
前記ビニルアセタール系重合体の含有率が0.5〜15質量%である、請求項1に記載の二次電池用高分子電解質ゲル組成物。
【請求項3】
前記ビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率が10〜45モル%である、請求項1または2に記載の二次電池用高分子電解質ゲル組成物。
【請求項4】
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液とビニルアセタール系重合体とを含む二次電池用高分子電解質ゲル組成物の製造方法であって、
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるリチウム原子のモル数(MLi)に対する前記ビニルアセタール系重合体に含まれるビニルアルコール単位のモル数(MOH)の割合(MOH/MLi)が0.1〜0.8であり、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよび非水系溶媒を含む電解液と、ビニルアセタール系重合体100質量部に対する含水量が0.5〜5質量部である含水ビニルアセタール系重合体とを接触させる工程を有する製造方法。
【請求項5】
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物におけるビニルアセタール系重合体の含有率が0.5〜15質量%である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記二次電池用高分子電解質ゲル組成物に含まれるビニルアセタール系重合体のビニルアルコール単位の含有率が10〜45モル%である、請求項4または5に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−113849(P2012−113849A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259687(P2010−259687)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】