説明

二軸延伸フィルム

【課題】イソシアネート化合物を遊離させず、カルボジイミド化合物により、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物の末端が封止された組成物よりなる、湿熱環境下における強度保持性に優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物とを混合した組成物よりなり、特定の破断強度を有する二軸延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボジイミド化合物によって芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物の末端が封止された組成物からなる二軸延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物からなるフィルム、例えば芳香族ポリエステルからなるフィルムに対してカルボジイミド化合物を適用し、加水分解を抑制することは既に提案されている(特許文献1、2)。これらの提案において用いられているカルボジイミド化合物は、線状のカルボジイミド化合物である。
【0003】
線状カルボジイミド化合物を高分子化合物の末端封止剤として用いると、線状カルボジイミド化合物が高分子化合物の末端に結合する反応に伴いイソシアネート基を有する化合物が遊離し、イソシアネート化合物の独特の臭いを発生し、作業環境を悪化させることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−031174号公報
【特許文献2】特開2007−099971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、イソシアネート化合物を遊離させず、カルボジイミド化合物により、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物の末端が封止された組成物よりなる、湿熱環境下における強度保持性に優れた二軸延伸フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、本発明の目的は、
カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物とを混合した組成物よりなり、縦方向および横方向の破断強度がそれぞれ140MPa以上である二軸延伸フィルムにより達成される。
【0007】
また、本願発明には、下記も包含される。
1.環状構造を形成する原子数が8〜50である上記の二軸延伸フィルム。
2.環状構造が、下記式(1)で表される上記の二軸延伸フィルム。
【化1】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
3.Qは、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基である上記の二軸延伸フィルム。
【化2】

(式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。RおよびRは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基またはこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。XおよびXは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。sは0〜10の整数である。kは0〜10の整数である。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。Xは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【0008】
4.環状構造を含む化合物が、下記式(2)で表される上記の二軸延伸フィルム。
【化3】

(式中、Qaは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
5.Qaは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基である上記の二軸延伸フィルム。
【化4】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。)
【0009】
6.環状構造を含む化合物が、下記式(3)で表される上記の二軸延伸フィルム。
【化5】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。)
7.Qは、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基である上記の二軸延伸フィルム。
【化6】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
8.Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである上記の二軸延伸フィルム。
【0010】
9.環状構造を含む化合物が、下記式(4)で表される上記の二軸延伸フィルム。
【化7】

(式中、Qは、脂肪族基、芳香族基、脂環族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。)
10.Qは、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基である上記の二軸延伸フィルム。
【化8】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【0011】
11.ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである上記の二軸延伸フィルム。
12.芳香族ポリエステルが、ブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレートおよびブチレンナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を主たる繰り返し単位として含む芳香族ポリエステルである上記の二軸延伸フィルム。
13. 組成物が下記の3成分からなる上記の二軸延伸フィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(b)芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。
14.組成物が下記の2成分からなる、上記の二軸延伸フィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。
15.組成物が下記の1成分からなる、上記の二軸延伸フィルム。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イソシアネート化合物を遊離させず、カルボジイミド化合物により、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物の末端が封止された組成物よりなる二軸延伸フィルムを提供することができる。その結果、イソシアネート化合物による悪臭の発生を抑制することができ作業環境を向上させることができる。また、湿熱環境下における強度保持性に優れた二軸延伸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
<環状構造>
本発明において、カルボジイミド化合物は環状構造を有する(以下、本カルボジイミド化合物を環状カルボジイミド化合物と略記することがある。)。環状カルボジイミド化合物は、環状構造を複数有していてもよい。
【0014】
環状構造は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有するが、例えば、スピロ環など、分子中に複数の環状構造を有する場合にはスピロ原子に結合するそれぞれの環状構造中に1個のカルボジイミド基を有していれば、化合物として複数のカルボジイミド基を有していてよいことはいうまでもない。環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、特に、10〜15が好ましい。
【0015】
ここで、環状構造中の原子数とは、環構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合があるためである。また反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より環状構造中の原子数は好ましくは、10〜30、より好ましくは10〜20、特に好ましくは10〜15の範囲が選択される。
【0016】
環状構造は、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【化9】

【0017】
式中、Qは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基である。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、Pを指す。この結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価あるいは4価の結合基である場合、単結合、二重結合、原子、原子団を介して、ポリマーあるいは他の環状構造と結合している。
【0018】
結合基は、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基またはこれらの組み合わせであり、上記で規定される環状構造を形成するための必要炭素数を有する結合基が選択される。組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
【0019】
結合基(Q)は、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【化10】

【0020】
式中、ArおよびArは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。
【0021】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0022】
およびRは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。
【0023】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0024】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0025】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0026】
上記式(1−1)、(1−2)においてXおよびXは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0027】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0028】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0029】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0030】
上記式(1−1)、(1−2)においてs、kは0〜10の整数、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜1の整数である。s及びkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0〜3の範囲が選択される。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。
【0031】
上記式(1−3)においてXは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0032】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0033】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0034】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0035】
また、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0036】
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として、以下(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
<環状カルボジイミド化合物(a)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(2)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(a)」ということがある。)を挙げることができる。
【0038】
【化11】

【0039】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、脂肪族基、脂環族基、芳香族基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0040】
【化12】

【0041】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらは全て2価である。
かかる環状カルボジイミド化合物(a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
【化19】

【0049】
【化20】

【0050】
【化21】

【0051】
【化22】

【0052】
【化23】

【0053】
【化24】

【0054】
【化25】

【0055】
【化26】

【0056】
<環状カルボジイミド化合物(b)>
さらに、本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(3)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(b)」ということがある。)を挙げることができる。
【0057】
【化27】

【0058】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(3)の化合物においては、Qを構成する基の内一つは3価である。
Qbは、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0059】
【化28】

【0060】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(b)としては、下記化合物が挙げられる。
【0061】
【化29】

【0062】
【化30】

【0063】
【化31】

【0064】
【化32】

【0065】
<環状カルボジイミド化合物(c)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(c)」ということがある。)を挙げることができる。
【0066】
【化33】

【0067】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。Z1およびZ2は、環状構造を担持する担体である。ZおよびZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
【0068】
脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、これらの基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0069】
【化34】

【0070】
Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。ZおよびZは結合部であり、複数の環状構造がZおよびZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(c)としては、下記化合物を挙げることができる。
【0071】
【化35】

【0072】
【化36】

【0073】
【化37】

【0074】
<芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物>
本発明において、環状カルボジイミド化合物を適用する芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物(以下、芳香族ポリエステル系高分子化合物と呼称する場合がある。)は酸性基としてカルボキシル基を有する。ここで「主体とする」とは、高分子化合物の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上が芳香族ポリエステルであることを表わす。
【0075】
芳香族ポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体とジオールあるいはそのエステル形成性誘導体を重縮合してなる重合体または共重合体が、好ましくは熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が例示される。
かかる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、成形性などのため、ラジカル生成源、例えばエネルギー活性線、酸化剤などにより処理されてなる架橋構造を含有していてもよい。
【0076】
上記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸単位およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0077】
また、上記ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体としては、炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200〜100,000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ1,3−プロピレングリコール、ポリ1,2−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、芳香族ジオキシ化合物すなわち、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンtert−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0078】
これらの重合体ないしは共重合体の具体例として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる芳香族ポリエステルとしては、芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、好ましくは、テレフタル酸あるいはナフタレン2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が例示される。
【0079】
具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イフタレート)、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンナフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンナフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)等を好ましく挙げることができる。なかでも好ましい芳香族ポリエステルとしては、ブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレート、ブチレンナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を主たる繰り返し単位として含む芳香族ポリエステルであり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートである。
【0080】
さらに全芳香族ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、好ましくは、テレフタル酸あるいはナフタレン2,6−ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体と芳香族多価ヒドロキシ化合物またはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が例示される。
【0081】
具体的には例えば、ポリ(4−オキシフェニレン−2,2−プロピリデン−4−オキシフェニレン−テレフタロイル−co−イソフタロイル)などが例示されるこれらのポリエステル類は、カルボジイミド反応性成分として、分子末端にカルボキシル基およびまたはヒドロキシル基末端を1から50当量/tonを含有する。かかる末端基、とりわけカルボキシル基はポリエステルの安定性を低下させるため、環状カルボジイミド化合物で封止することが好ましい。
【0082】
カルボキシル末端基をカルボジイミド化合物で封止するとき、本発明の環状カルボジイミド化合物を適用することにより、有毒な遊離イソシアネートの生成無く、カルボキシル基を封止できる利点は大きい。
【0083】
前述のポリエステル類は周知の方法(例えば、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(湯木和男著、日刊工業新聞社(1989年12月22日発行))等に記載)により製造することができる。
【0084】
さらに本発明の芳香族ポリエステルとしては、前記ポリエステルに加え、不飽和多価カルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体を共重合してなる不飽和ポリエステル樹脂、低融点重合体セグメントを含むポリエステルエラストマーが例示される。
【0085】
不飽和多価カルボン酸としては、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水マレイン酸、フマル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水マレイン酸などが例示される。かかる不飽和ポリエステルには、硬化特性を制御するため、各種モノマー類が添加され、熱キュア、ラジカルキュア、光、電子線などの活性エネルギー線によるキュア処理により硬化.成形される。かかる不飽和樹脂は、カルボキシル基の制御はチクソトロピーなどのレオロジー特性、樹脂耐久性等に関して重要な技術的課題であるが、環状カルボジイミド化合物により、有毒な遊離イソシアネートの生成無く、カルボキシル基を封止、制御することができる利点、さらにより有効に分子量を増大させる利点の工業的意義は大きい。
【0086】
さらに本発明において芳香族ポリエステルは、柔軟成分を共重合してなるポリエステルエラストマーでもよい。ポリエステルエラストマーは公知文献、例えば特開平11−92636号公報などに記載のごとく高融点硬ポリエステルセグメントと分子量400〜6,000の低融点重合体セグメントとからなる共重合体であり、高融点ポリエステルセグメント構成成分だけで高重合体を形成した場合の融点が150℃以上であり、ポリアルキレングリコール類また炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10の脂肪族グリコールから製造される脂肪族ポリエステルなどよりなる低融点重合体セグメント構成成分のみで測定した場合の融点ないし軟化点が80℃以下の構成成分からなる熱可塑性ポリエステル型ブロック共重合体である。かかるエラストマーは、加水分解安定性に問題があるが、環状カルボジイミド化合物により、安全上問題なく、カルボキシル基の制御できる意義、分子量低下を抑制あるいは増大できる工業的な意義は大きい。
【0087】
環状カルボジイミド化合物を作用させるこれらの芳香族ポリエステル系高分子化合物には、環状カルボジイミド化合物と反応してその効力を失わない範囲で、公知のあらゆる添加剤、フィラーを添加して用いることができる。添加剤としては例えば、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーや、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン−プロピレン)グリコールなどの脂肪族ポリエーテルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として含有させることができる。さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
これら原料から得られる二軸延伸フィルムは、カルボキシル基末端濃度[COOH]が0〜10eq/tonであることが好ましい。
【0088】
カルボキシル基末端濃度が10eq/tonよりも多い場合には、加水分解の度合いが大きくなる傾向にあり、例えば湿熱処理等によりフィルム強力の著しい低下を招くことがある。強力保持の観点からは、カルボキシル基末端濃度は好ましくは20eq/ton以下、より好ましくは10eq/ton以下、さらに好ましくは6eq/ton以下である。カルボキシル基末端基濃度は低ければ低いほど好ましい。
【0089】
<芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物との混合方法>
本発明においては、環状カルボジイミド化合物はカルボキシル基を有する芳香族ポリエステル系高分子化合物と混合し、反応させることによって、カルボキシル基を封止することができる。環状カルボジイミド化合物を芳香族ポリエステル系高分子化合物に添加、混合する方法は特に限定なく、従来公知の方法により、溶液、融液あるいは適用する高分子のマスターバッチとして添加する方法、あるいは環状カルボジイミド化合物が溶解、分散または溶融している液体に芳香族ポリエステル系高分子化合物の固体を接触させ環状カルボジイミド化合物を浸透させる方法などをとることができる。
【0090】
溶液、融液あるいは適用する高分子のマスターバッチとして添加する方法をとる場合には、従来公知の混練装置を使用して添加する方法ことができる。混練に際しては、溶液状態での混練法あるいは溶融状態での混練法が、均一混練性の観点より好ましい。混練装置としては、とくに限定なく、従来公知の縦型の反応容器、混合槽、混練槽あるいは一軸または多軸の横型混練装置、例えば一軸あるいは多軸のルーダー、ニーダーなどが例示される。芳香族ポリエステル系高分子化合物との混合時間は特に指定はなく、混合装置、混合温度にもよるが、0.1分から2時間、好ましくは0.2分から60分、より好ましくは1分から30分が選択される。
【0091】
溶媒としては、芳香族ポリエステル系高分子化合物および環状カルボジイミド化合物に対し、不活性であるものを用いることができる。特に、両者に親和性を有し、両者を少なくとも部分的に溶解、あるいは両者に少なくとも部分的に溶解より溶媒が好ましい。
【0092】
溶媒としてはたとえば、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、アミド系溶媒などを用いることができる。
炭化水素系溶媒として、ヘキサン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、デカンなどが挙げられる。
ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロへヘキサノン、イソホロンなどが挙げられる。
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、コハク酸エチル、炭酸メチル、安息香酸エチル、ジエチレングリコールジアセテートなどが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。
ハロゲン系溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、1,1’,2,2’−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどをあげることができる。
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
これらの溶媒は単一であるいは所望により混合溶媒として使用することができる。
【0093】
本発明において、溶媒は、芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物の合計、100重量部あたり1〜1,000重量部の範囲で適用される。1重量部より少ないと、溶媒適用に意義がない。また、溶媒使用量の上限値は、特にないが、操作性、反応効率の観点より1,000重量部程度である。
【0094】
環状カルボジイミド化合物が溶解、分散または溶融している液体に芳香族ポリエステル系高分子化合物の固体を接触させ環状カルボジイミド化合物を浸透させる方法をとる場合には、上記のごとき溶剤に溶解した環状カルボジイミド化合物に固体の芳香族ポリエステル系高分子化合物を接触させる方法や、環状カルボジイミド化合物のエマルジョン液に固体の芳香族ポリエステル系高分子化合物を接触させる方法などをとることができる。接触させる方法としては、芳香族ポリエステル系高分子化合物を浸漬する方法や、芳香族ポリエステル系高分子化合物に塗布する方法、散布する方法などを好適にとることができる。
【0095】
本発明の環状カルボジイミド化合物による封止反応は、室温(25℃)〜300℃程度の温度で可能であるが、反応効率の観点より、好ましくは50〜250℃、より好ましくは80〜200℃の範囲ではより促進される。芳香族ポリエステル系高分子化合物は、溶融している温度ではより反応が進行しやすいが、環状カルボジイミド化合物の揮散、分解などを抑制するため、300℃より低い温度で反応させることが好ましい。また高分子の溶融温度を低下、攪拌効率を上げるためにも、溶媒を適用することは効果がある。
【0096】
反応は無触媒で十分速やかに進行するが、反応を促進する触媒を使用することもできる。触媒としては、従来の線状カルボジイミド化合物で使用される触媒が適用できる。例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、リン酸エステル、有機酸、ルイス酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物の合計100重量部に対し、0.001〜1重量部が好ましく、また0.01〜0.1重量部がより好ましく、さらには0.02〜0.1重量部が最も好ましい。
【0097】
環状カルボジイミド化合物の適用量は、カルボキシル基1当量あたり、環状カルボジイミド化合物に含まれるカルボジイミド基が0.5から100当量の範囲が選択される。0.5当量より過少に過ぎると、環状カルボジイミド化合物適用の意義がない場合がある。また100当量より過剰に過ぎると、基質の特性が変成する場合がある。かかる観点より、上記基準において、好ましくは0.6〜100当量、より好ましくは0.65〜70当量、さらに好ましくは0.7〜50当量、とりわけ好ましくは0.7〜30当量の範囲が選択される。また、本発明においては、本発明が規定する破断強度を満足すると同時に、環状カルボジイミド化合物の適用量を上記数値範囲とすることで、湿熱環境下における強度保持性の向上効果を高くすることができる。
【0098】
<芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物>
上記の方法によって混合して得られる組成物は、両者の割合、反応時間等によって、基本的に以下の態様を取りうる。
【0099】
(1)組成物が下記の3成分からなる、
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物。
(b)カルボキシル基を有する芳香族ポリエステル系高分子化合物。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル系高分子化合物。
【0100】
(2)組成物が下記の2成分からなる。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル系高分子化合物。
【0101】
(3)組成物が下記の成分からなる、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル系高分子化合物。
ここで、(3)の態様は組成物ではなく、変性された芳香族ポリエステル系高分子化合物であるが、本発明においては便宜的に「組成物」として記載する。
【0102】
いずれの態様も好ましいものであるが、未反応の環状カルボジイミド化合物が組成物中に存在している場合には、溶融成形時、湿熱雰囲気化等、何らかの要因で芳香族ポリエステル系高分子化合物の分子鎖が切断された場合に、未反応の環状カルボジイミド化合物と、切断により生じた分子鎖末端とが反応することにより、カルボキシル基濃度を低いままで保つことができるので、とりわけ好ましい。
【0103】
なお、本発明において、上記の“3成分”、“2成分”、“1成分”の記載は、カルボキシル基を有する芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物とが組成物中においてとりうる態様についてのみを記載しているのであって、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、上述の公知のあらゆる添加剤、フィラーが添加することを除外しているものではないことはいうまでもない。
【0104】
<芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物からなるフィルム>
本発明の二軸延伸フィルムを得るための方法は特に限定されるものではなく、押し出し成形やキャスト成形等により得られた未延伸フィルムを、二軸方向に延伸して得ることができる。なかでも本発明においては、押し出し成形により未延伸フィルムを得て、かかる未延伸フィルムを機械的流れ方向および機械的流れ方向に直交する方向の二軸に延伸する方法が好ましい。
【0105】
以下に、本発明における好ましい製造方法について説明する。
(押出、キャスティング工程)
まず、上述の芳香族ポリエステル系高分子化合物と環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物を、乾燥機を用いて温度120〜200℃で数時間乾燥し、組成物中の水分を十分に除去する。これによって押出機内においてポリエステル系高分子化合物が加水分解するのを抑制することができる。次いで、IダイまたはTダイが装着された押出機を用いて、溶融押出温度250〜330℃で溶融フィルムをダイより押し出し、かかる溶融フィルムを、温度20〜120℃の冷却ドラム上に接地させ、次いで冷却ドラムに密着させて十分に冷却、固化することによって未延伸フィルムを得る。かかる工程における溶融フィルムと冷却ドラムの密着方法については、冷却ドラムの温度を上げて粘着さる技術や、ロールによるニップや静電密着などの技術が使用できる。なかでも静電密着方式を使用することが好ましく、この場合は、フィルムにスルホン酸四級ホスホニウム塩などの静電密着剤を配合し、電極よりフィルム溶融面に非接触的に電荷を容易に印加し、回転する冷却ドラムに溶融フィルムを密着させることにより表面欠陥の少ない未延伸フィルムを得ることができる。
【0106】
(延伸工程)
次いで、上記で得られた未延伸フィルムを、例えば機械的流れ方向(以下、縦方向またはMDと呼称する場合がある)および機械的流れ方向に直交する方向(以下、横方向またはTDと呼称する場合がある。)に二軸延伸する。二軸延伸の方法としては、ロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等を挙げることができる。
本発明においては、特にロール延伸とテンター延伸とによる逐次二軸延伸法が好ましく、安定的に本発明が規定する破断強度を有するフィルムを得ることができる。以下、かかる延伸法における好ましい態様について説明する。
上記で得られた未延伸フィルムを、温度(Tg−40)〜(Tg+30)℃の範囲(但し、Tg:芳香族ポリエステル系高分子化合物のガラス転移温度)に加熱されたロールを通過させる等により予熱し、その後温度(Tg−10)〜(Tg+45)℃、好ましくは(Tg)〜(Tg+30)℃で縦方向に延伸倍率2〜5倍、好ましくは2.5〜4.5倍、さらに好ましくは3.0〜4.0倍に延伸し、一軸延伸フィルムを得る。次いで、得られた一軸延伸フィルムをテンターに導いて、温度(Tg−20)〜(Tg+50)℃の熱風加熱ゾーンを通過させる等により予熱し、その後温度(Tg)〜(Tg+60)℃、好ましくは(Tg+10)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+20)〜(Tg+40)℃で横方向に延伸倍率2〜5倍、好ましくは2.5〜4.5倍、さらに好ましくは3.0〜4.0倍に延伸する。このような延伸温度、および延伸倍率を採用することによって、本発明が規定する破断強度の達成が容易となり、湿熱環境下における強度保持性により優れた二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0107】
(熱固定工程)
次いで、(Tm−150)〜(Tm+10)℃の範囲(但し、Tm:芳香族ポリエステル系高分子化合物の融点)、好ましくは(Tm−110)〜(Tm)℃、さらに好ましくは(Tm−70)〜(Tm−10)℃で、1〜180秒、好ましくは3〜60秒の熱処理を施し、フィルムを熱固定することが好ましい。このようにフィルムを熱固定することにより、本発明が規定する破断強度の達成が容易となり、湿熱環境下における強度保持性により優れた二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0108】
(弛緩処理工程)
熱固定の後、さらに90℃〜熱固定温度の温度範囲で、弛緩率0.5〜20%、好ましくは1〜10%で弛緩熱処理を行うことが好ましく、熱収縮率を小さくすることができる。
【0109】
(その他の延伸工程)
本発明においては、上記のごとく二軸延伸をした後に、さらに縦方向および/または横方向に再延伸したり、あるいは多段階に分けて延伸したりするなどの方法も適宜採用することができ、強度をより高くすることもできる。
かくして本発明の二軸延伸フィルムを得る事が出来る。
【0110】
本発明の二軸延伸フィルムとしては、上述の製造方法によって得られた二軸延伸フィルムであることが好ましい。二軸延伸されていることにより、高強度フィルムとすることができるが、特に上述の製造方法によれば、湿熱環境化における強度保持性の向上効果を高くすることができる。また、フィルムの厚み斑、剛性、寸法安定性、平面性、ガスバリア性、表面特性、耐熱性、耐加水分解性などの特性を向上させることができる。
かくして得られた二軸延伸フィルムには、所望により従来公知の方法で、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
【0111】
本発明により得られた耐湿熱性の改善された高強度フィルムは、液晶ディスプレイなどに使用される偏光板保護フィルム、その他光学用フィルム、太陽電池裏面保護膜用フィルム、電気絶縁用フィルム、農業用マルチフィルム、ラベル用フィルム、包装用フィルム、コンデンサー用フィルム(たとえば肉厚3μm以下のフィルム)、プリンターリボン用フィルム(たとえば肉厚5μm程度のフィルム)、感熱孔版印刷用フィルム、磁気記録フィルム(たとえばQICテープ用:コンピューター記録用フィルム1/4インチテープ)、ノングレアフィルム(たとえば肉厚50μm以下のフィル)、反射防止フィルム、反射フィルム、光拡散フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルム、輝度向上フィルム、プロテクトフィルム、リリースフィルム、ガスまたは水蒸気透過防止フィルム、ドライフォトレジスト用フィルム、電子部品用、FPC用、金属ラミネート用、写真用、表面保護フィルム、燃料電池部材用などに有用である。
【0112】
<二軸延伸フィルムの特性>
(破断強度)
本発明の二軸延伸フィルムは、縦方向および横方向の破断強度がそれぞれ140MPa以上である。これにより、高強度を要する用途において好適に用いられる。また、本発明においては、本発明における環状カルボジイミド化合物を用い、かつ破断強度を上記数値範囲とすることにより、湿熱環境下における強度保持性を高くすることができる。このような観点から、縦方向および横方向の破断強度は、それぞれ、好ましくは160MPa以上、より好ましくは180MPa以上、さらに好ましくは210MPa以上である。
また、このようにフィルムが高強度であると、各種の加工工程における作業性、加工特性に優れ、また磁気テープ用などにおける強い張力変化にも切断することなく、長期使用に耐える、などの効果がある。なお、破断強度の上限は特に制限されないが、生産性などの観点から、実質的には400MPa以下、好ましくは350MPa以下である。
【0113】
(破断強度保持率)
湿熱環境下における強度保持性は、破断強度保持率により評価される。本発明においては、温度121℃、圧力2atm、湿度100%RHの湿熱環境下において100時間放置した後の破断強度保持率が50%以上であり、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であれば良好なレベルと判断することができる。破断強度保持率が良好であると、例えば、燃料電池用、固体高分子電解質膜の補強用など、液体に接して使用され、かつ高温で長時間その環境が続く場合などにおいてもフィルムの寿命が長くなるので、それにより燃料電池や固体高分子電解質膜の寿命を長くすることができる。
【0114】
<環状カルボジイミド化合物の製造方法>
本発明の環状カルボジイミド化合物の製造方法は特に限定無く、従来公知の方法により製造することができる。例として、アミン体からイソシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からイソチオシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からトリフェニルホスフィン体を経由して製造する方法、アミン体から尿素体を経由して製造する方法、アミン体からチオ尿素体を経由して製造する方法、カルボン酸体からイソシアネート体を経由して製造する方法、ラクタム体を誘導して製造する方法などが挙げられる。
【0115】
また、本発明の環状カルボジイミド化合物は、以下の文献に記載された方法により製造することができる。
Tetrahedron Letters,Vol.34,No.32,515−5158,1993.
Medium−and Large−Membered Rings from Bis(iminophosphoranes):An Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.61,No.13,4289−4299,1996.
New Models for the Study of the Racemization Mechanism of Carbodiimides.Synthesis and Structure(X−ray Crystallography and 1H NMR) of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.43,No8,1944−1946,1978.
Macrocyclic Ureas as Masked Isocyanates, Henri Ulrich etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.48,No.10,1694−1700,1983.
Synthesis and Reactions of Cyclic Carbodiimides,
R.Richteretal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.59,No.24,7306−7315,1994.
A New and Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides from Bis(iminophosphoranea)and the System BocO/DMAP,Pedro Molina etal.
【0116】
製造する化合物に応じて、適切な製法を採用すればよいが、例えば、(1)下記式(a−1)で表されるニトロフェノール類、下記式(a−2)で表されるニトロフェノール類および下記式(b)で表される化合物を反応させ、下記式(c)で表されるニトロ体を得る工程、
【化38】

【化39】

(2)得られたニトロ体を還元して下記式(d)で表わされるアミン体を得る工程、
【化40】

(3)得られたアミン体とトリフェニルホスフィンジブロミドを反応させ下記式(e)で表されるトリフェニルホスフィン体を得る工程、および
【化41】

(4)得られたトリフェニルホスフィン体を反応系中でイソシアネート化した後、直接脱炭酸させることによって製造したものは、本願発明に用いる環状カルボジイミド化合物として好適に用いることができる。
【0117】
(上記式中、ArおよびArは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい芳香族基である。EおよびEは各々独立に、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基およびメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−ブロモベンゼンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる基である。Arは、フェニル基である。Xは、下記式(i−1)から(i−3)の結合基である。)
【0118】
【化42】

【化43】

【化44】

【0119】
なお、環状カルボジイミド化合物は、芳香族ポリエステル系高分子化合物のカルボキシル基を有効に封止することができるが、本発明の主旨に反しない範囲において、所望により、例えば、従来公知のポリマーのカルボキシル基封止剤を併用することができる。かかる従来公知のカルボキシル基封止剤としては、特開2005−2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、などが例示される。
【実施例】
【0120】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0121】
A.融点、ガラス転移温度
TAインストルメント社製,TA−2920を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた溶融ピークのピーク温度を融点(Tm)とした。
また、TA−2920を用い、試料を、第一サイクルにおいて、窒素気流下、10℃/分で250℃まで昇温し、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0122】
B.カルボキシル基末端濃度[COOH](eq/ton)
カルボキシル基濃度:試料を精製o−クレゾールに窒素気流下溶解、ブロモクレゾールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定した。
【0123】
C.イソシアネートガス発生テスト
試料を、160℃で5分間加熱し、熱分解GC/MS分析により定性・定量した。尚、定量はイソシアネートで作成した検量線を用いて行った。GC/MSは日本電子(株)製GC/MS Jms Q1000GC K9を使用した。
【0124】
D.破断強度
得られたフィルム試料から、測定方向に150mm長、その直角方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を用いて、エーアンドデー社製引っ張り強度試験機において、JIS L1013試験法に準拠して、チャック間距離100mm、引っ張り速度5cm/分にて引っ張り試験を実施し、7回の測定値より最大値と最小値とを除き、5回の平均値をもって破断強度とした。なお測定は、フィルムの縦方向および横方向について実施した。
【0125】
E.耐加水分解安定性(湿熱環境下における強度保持性評価)
得られたフィルム試料から、縦方向に150mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、121℃・2atm・100%RHに設定した環境試験機内に一定時間(100時間)放置した。その後試料片を取り出し、上記Dと同様の方法にて破断強度を7回測定し、最大値と最小値とを除き、5回の平均値を求めて処理後の破断強度とした。かかる処理後の破断強度の値を、上記で求めた処理前(放置前)の破断強度(縦方向)の値で除した値を破断強度保持率(%)とした。
破断強度保持率(%)=((100時間処理後の破断強度)/(処理前の破断強度))×100
【0126】
F.還元粘度(ηsp/c)の測定
試料1.2mgを〔テトラクロロエタン/フェノール=(6/4)wt%混合溶媒〕100mlに溶解、35℃でウベローデ粘度管を使用して測定し、還元粘度保持率は、試料処理前の還元粘度を100%として求めた。
【0127】
[参考例1]芳香族ポリエステル系高分子化合物:ポリエチレンテレフタレートの製造
ジメチルテレフタレートとエチレングルコールとを、エステル交換触媒として酢酸マンガンを、重合触媒として三酸化アンチモンを、安定剤として亜リン酸を用いて常法により重合し、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.62のポリエチレンテレフタレート(PET、Tg=80℃、Tm=258℃)を得た。カルボキシル基末端濃度は30eq/tonであった。
【0128】
[参考例2]芳香族ポリエステル系高分子化合物:ポリエチレンナフタレートの製造
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行なった。途中反応温度が170℃に達した時点で三酸化アンチモン0.024部を添加し、エステル交換反応終了後、リン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間0.11〜0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加した。その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.61dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN、Tg=121℃、Tm=269℃)を得た。
【0129】
[参考例3]環状カルボジイミド化合物(1)の製造:
o−ニトロフェノール(0.11mol)と1,2−ジブロモエタン(0.05mol)、炭酸カリウム(0.33mol)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)200mlを攪拌装置及び加熱装置を設置した反応装置にN雰囲気下仕込み、130℃で12時間反応後、DMFを減圧により除去し、得られた固形物をジクロロメタン200mlに溶かし、水100mlで3回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、ジクロロメタンを減圧により除去し、中間生成物A(ニトロ体)を得た。
次に中間生成物A(0.1mol)と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(1g)、エタノール/ジクロロメタン(70/30)200mlを、攪拌装置を設置した反応装置に仕込み、水素置換を5回行い、25℃で水素を常に供給した状態で反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了する。Pd/Cを回収し、混合溶媒を除去すると中間生成物B(アミン体)が得られた。
次に攪拌装置及び加熱装置、滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、トリフェニルホスフィンジブロミド(0.11mol)と1,2−ジクロロエタン150mlを仕込み攪拌させる。そこに中間生成物B(0.05mol)とトリエチルアミン(0.25mol)を1,2−ジクロロエタン50mlに溶かした溶液を25℃で徐々に滴下する。滴下終了後、70℃で5時間反応させる。その後、反応溶液をろ過し、ろ液を水100mlで5回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、1,2−ジクロロエタンを減圧により除去し、中間生成物C(トリフェニルホスフィン体)が得られた。
次に、攪拌装置及び滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、ジ−tert-ブチルジカーボネート(0.11mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.055mol)、ジクロロメタン150mlを仕込み攪拌させた。そこに、25℃で中間生成物C(0.05mol)を溶かしたジクロロメタン100mlをゆっくりと滴下させた。滴下後、12時間反応させる。その後、ジクロロメタンを除去し得られた固形物を精製することで、下記構造式にて示される環状カルボジイミド化合物(MW=252)を得た。この構造はNMR、IRにより確認した。
【0130】
【化45】

【0131】
[参考例4]環状カルボジイミド化合物(2)の製造:
o−ニトロフェノール(0.11mol)とペンタエリトリチルテトラブロミド(0.025mol)、炭酸カリウム(0.33mol)、N,N−ジメチルホルムアミド200mlを攪拌装置及び加熱装置を設置した反応装置にN雰囲気下仕込み、130℃で12時間反応後、DMFを減圧により除去し、得られた固形物をジクロロメタン200mlに溶かし、水100mlで3回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、ジクロロメタンを減圧により除去し、中間生成物D(ニトロ体)を得た。
次に中間生成物D(0.1mol)と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(2g)、エタノール/ジクロロメタン(70/30)400mlを、攪拌装置を設置した反応装置に仕込み、水素置換を5回行い、25℃で水素を常に供給した状態で反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを回収し、混合溶媒を除去すると中間生成物E(アミン体)が得られた。
次に攪拌装置及び加熱装置、滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、トリフェニルホスフィンジブロミド(0.11mol)と1,2−ジクロロエタン150mlを仕込み攪拌させた。そこに中間生成物E(0.025mol)とトリエチルアミン(0.25mol)を1,2−ジクロロエタン50mlに溶かした溶液を25℃で徐々に滴下した。滴下終了後、70℃で5時間反応させる。その後、反応溶液をろ過し、ろ液を水100mlで5回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、1,2−ジクロロエタンを減圧により除去し、中間生成物F(トリフェニルホスフィン体)が得られた。
次に、攪拌装置及び滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、ジ−tert−ブチルジカーボネート(0.11mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.055mol)、ジクロロメタン150mlを仕込み攪拌させる。そこに、25℃で中間生成物F(0.025mol)を溶かしたジクロロメタン100mlをゆっくりと滴下させた。滴下後、12時間反応させる。その後、ジクロロメタンを除去し得られた固形物を、精製することで、下記構造式に示す化合物(MW=516)を得た。構造はNMR、IRにより確認した。
【0132】
【化46】

【0133】
[参考例5]高分子化合物と環状カルボジイミド化合物との組成物(1):
参考例1の操作において得られたポリエチレンテレフタレート100重量部を、150℃、3時間で真空乾燥した後、2軸混練機の第一供給口より、シリンダー温度270℃でベント圧13.3Paで真空排気しながら溶融混練後、参考例3の操作で得た環状カルボジイミド化合物(1)1重量部を第二供給口より供給しシリンダー温度270℃で溶融混練し、水槽中にストランド押し出し、チップカッターにてペレット化した。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0134】
[参考例6]高分子化合物と環状カルボジイミド化合物との組成物(2):
参考例5の操作において、環状カルボジイミド化合物を参考例4の操作で得たものを用いること以外は同様の操作を行った。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0135】
[参考例7]高分子化合物と環状カルボジイミド化合物との組成物(3):
参考例2の操作において得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート100重量部を、170℃、3時間で真空乾燥した後、2軸混練機の第一供給口より、シリンダー温度290℃で溶融混練後、参考例3の操作で得た環状カルボジイミド化合物(1)1重量部を第二供給口より供給しシリンダー温度290℃で溶融混練し、水槽中にストランド押し出し、チップカッターにてペレット化した。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0136】
[参考例8]高分子化合物と環状カルボジイミド化合物との組成物(4):
参考例7の操作において、環状カルボジイミド化合物として、参考例4の操作で得たものを用いること以外は同様の操作を行って組成物を得た。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0137】
[実施例1]
参考例5で得られたポリエチレンテレフタレート(カルボキシル基末端濃度0eq/ton)のペレットを、160℃に設定した真空乾燥器で4時間乾燥した。乾燥したペレットを、押し出し機に供給し、溶融温度290℃にて溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度45℃のキャスティングロール上で冷却固化させて未延伸フィルムを得た。この押し出しの途中でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。
この未延伸フィルムを、ロール温度80〜110℃の予熱ロールに接触させて予熱し、120℃で縦方向に3.3倍延伸した。その後、得られた一軸延伸フィルムをステンターに導き、90〜110℃の余予熱ゾーンを通過させることにより余予熱し、130℃で横方向に3.5倍延伸し、さらに225℃で15秒の条件で熱固定処理し、次いで175℃で横方向に3%弛緩処理を行い、厚み38μmの二軸延伸フィルムを得た。なお、製膜、延伸、熱固定の過程でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。
実施例1で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: イソシアネートは検出されなかった。
破断強度(処理前): MD:220MPa、TD:230MPa
破断強度(処理後): MD:160MPa、TD:175MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD73%、TD:76%
【0138】
[実施例2]
参考例6で得られたポリエチレンテレフタレート(カルボキシル基末端濃度5eq/ton)のペレットを用い、縦延伸倍率を3.5倍、横延伸倍率を3.8倍とする以外は実施例1と同様に厚み38μmの二軸延伸フィルムを得た。
実施例2で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: イソシアネートは検出されなかった。
破断強度(処理前): MD:240MPa、TD:255MPa
破断強度(処理後): MD:180MPa、TD:197MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD:75%、TD:77%
【0139】
[実施例3]
参考例7で得られたポリエチレンナフタレート(カルボキシル基末端濃度0eq/ton)のペレットを、170℃に設定した真空乾燥器で5時間乾燥した。乾燥したペレットを押し出し機に供給し、溶融温度290℃にて溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃のキャスティングロール上で冷却固化させて未延伸フィルムを得た。この押し出しの途中でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。
この未延伸フィルムを、ロール温度90〜120℃の余予熱ロールに接触させて余予熱し、130℃で縦方向に3.2倍延伸した。その後、得られた一軸延伸フィルムをステンターに導き、100〜130℃の予熱ゾーンを通過させることにより余予熱し、140℃で横方向に3.4倍延伸し、さらに235℃で15秒の条件で熱固定処理し、次いで180℃で横方向に3%弛緩処理を行い、厚み38μmの二軸延伸フィルムを得た。
実施例3で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: イソシアネートは検出されなかった。
破断強度(処理前): MD:235MPa、TD:245MPa
破断強度(処理後): MD:225MPa、TD:230MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD:96%、TD:94%
【0140】
[実施例4]
参考例8で得られたポリエチレンナフタレート(カルボキシル基末端濃度5eq/ton)のペレットを用い、縦延伸倍率を3.4倍、横延伸倍率を3.6倍とする以外は実施例3と同様に厚み38μmの二軸延伸フィルムを得た。
実施例4で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: イソシアネートは検出されなかった。
破断強度(処理前): MD:255MPa、TD:270MPa
破断強度(処理後): MD:240MPa、TD:260MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD:94%、TD:96%
【0141】
[比較例1]
参考例1で製造したPET樹脂に市販の直鎖状ポリカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト」LA−1)を1重量%、二軸押出機を用いて290℃にて混練して得たペレット(カルボキシル基末端濃度7eq/ton)を、実施例1と同様にして厚さ約38μmの二軸延伸フィルムとした。比較例1においては、製膜の過程でイソシアネート由来の刺激臭がした。
比較例1で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: 39ppmのイソシアネートガスが検出された。
破断強度(処理前): MD:220MPa、TD:230MPa
破断強度(処理後): MD:155MPa、TD:170MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD:70%、TD:74%
【0142】
[比較例2]
参考例2で製造したPEN樹脂に市販の直鎖状ポリカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト」LA−1)を1重量%、二軸押出機を用いて290℃にて混練して得たペレット(カルボキシル基末端濃度7eq/ton)を、実施例3と同様にして厚さ約38μmの二軸延伸フィルムとした。比較例2においては、製膜の過程でイソシアネート由来の刺激臭がした。
比較例2で得られた二軸延伸フィルムの評価結果は以下の通りであった。
イソシアネートガス発生テスト: 12ppmのイソシアネートガスが検出された。
破断強度(処理前): MD:235MPa、TD:245MPa
破断強度(処理後): MD:217MPa、TD:228MPa
耐加水分解安定性(破断強度保持率): MD:92%、TD:93%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物とを混合した組成物よりなり、縦方向および横方向の破断強度がそれぞれ140MPa以上である二軸延伸フィルム。
【請求項2】
環状構造を形成する原子数が8〜50である請求項1記載の二軸延伸フィルム。
【請求項3】
環状構造が、下記式(1)で表される請求項1記載の二軸延伸フィルム。
【化1】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項4】
Qは、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基である請求項3記載の二軸延伸フィルム。
【化2】

(式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。RおよびRは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基またはこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。XおよびXは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。sは0〜10の整数である。kは0〜10の整数である。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。Xは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項5】
環状構造を含む化合物が、下記式(2)で表される請求項1記載の二軸延伸フィルム。
【化3】

(式中、Qaは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項6】
Qaは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基である請求項5記載の二軸延伸フィルム。
【化4】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。)
【請求項7】
環状構造を含む化合物が、下記式(3)で表される請求項1記載の二軸延伸フィルム。
【化5】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項8】
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基である請求項7記載の二軸延伸フィルム。
【化6】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
【請求項9】
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項7記載の二軸延伸フィルム。
【請求項10】
環状構造を含む化合物が、下記式(4)で表される請求項1記載の二軸延伸フィルム。
【化7】

(式中、Qは、脂肪族基、芳香族基、脂環族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項11】
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基である請求項10記載の二軸延伸フィルム。
【化8】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項12】
およびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項10記載の二軸延伸フィルム。
【請求項13】
芳香族ポリエステルが、ブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレート、ブチレンナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を主たる繰り返し単位として含む芳香族ポリエステルである請求項1に記載の二軸延伸フィルム。
【請求項14】
組成物が下記の3成分からなる、請求項1記載の二軸延伸フィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(b)芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。
【請求項15】
組成物が下記の2成分からなる、請求項1記載の二軸延伸フィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。
【請求項16】
組成物が下記の1成分からなる、請求項1記載の二軸延伸フィルム。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステルを主体とする高分子化合物。

【公開番号】特開2011−225640(P2011−225640A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94050(P2010−94050)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】