説明

二酸化塩素包装体及びその包装材料

【課題】二酸化塩素を安定して収容可能な包装体を提供することを目的とする。
【解決手段】包装体の最内表層の素材として、PE、ポリ乳酸、PTFE、PVDCのいずれか1種以上を使用し、この最内表層に潤滑剤としてのエルカミドを用いず、ペンタエリトリトールジステアラート及び/或いはステアリン酸カルシウムを用いる。こうして得られた包装体内に二酸化塩素水溶液を収容する。これによれば、長期間経過後も二酸化塩素水溶液の殺菌・消毒効果の低下があまり生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素の水溶液等を収容するための二酸化塩素包装体及びその包装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素は殺菌剤の1つであり、人体に対して安全で、水道水の殺菌剤として用いたり、食品を取り扱う際の表面殺菌・消毒剤として用い得ることが知られている。また次亜塩素酸ではノロウイルスに対して殺菌力を示さないが、二酸化塩素は殺菌力を示し、有効な殺菌剤である。加えて二酸化塩素は、トリハロメタン等を生じない点でも有利とされている。
【0003】
特許文献1には、二酸化塩素を入れるための容器が示されており、該容器として、ポリエチレンテレフタレートフィルム/アルミニウム金属箔/直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと言うことがある)フィルムを接着剤により順次接合し、上記LLDPEフィルムを内側として容器状にし、熱融着により容器周縁をシールしたものが提案されている。また合成繊維製の紙(或いは不織布)で容器状とし、周縁を当該合成繊維の熱融着によりシールするか、或いは接着剤により接着したものが提案されている。
【0004】
特許文献2には、次亜塩素酸用の容器についてではあるが、容器内側表面の材料として塩化ビニル樹脂、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂、ポリウレタン等を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3110724号公報
【特許文献2】特開平9−173427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の様に二酸化塩素は様々な利点を有することから、本発明者らは二酸化塩素を収納した個包装の清拭用品を製品化することを思い至った。
【0007】
そこで本発明者らは、特許文献1に示される容器を参考に、LLDPEフィルム製の袋を作製し、これに二酸化塩素水溶液を封入して経過観察したところ、二酸化塩素の分解が速く進み、殺菌・消毒効果が急速に低下することが分かった。
【0008】
特許文献2に示された次亜塩素酸用の素材についても検討してみたが、これらの中には二酸化塩素の殺菌・消毒効果を早期に喪失するものもあることが実験により確認され、参考にできるものではなかった。
【0009】
一般に二酸化塩素は水溶液状態とした場合の分解が速いが、清拭用品としての用途を考えた場合には、或る程度の期間、殺菌・消毒効果を維持できるものでなければならない。
【0010】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、二酸化塩素を安定に保持できて殺菌・消毒効果の低下が生じ難い二酸化塩素包装体、特に水溶液状態で安定に保存できるような包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
二酸化塩素を水溶液状態として例えば清拭用品用包装体とする場合を想定すると、樹脂フィルム容器が最も簡便なものとして思い付く。しかしながら汎用の樹脂フィルム素材を用いた容器では二酸化塩素の分解がかなり早く進行することが分かった。
【0012】
そこで種々試行錯誤を繰り返し実験を重ねていたところ、通常使用されている潤滑剤であるエルカミドが分解を促進していることが分かった。
【0013】
こうして得られた本発明に係る二酸化塩素包装体は、二酸化塩素が収容されている包装体であって、該包装体が、前記二酸化塩素と接触する最内表層を構成する素材樹脂中に、少なくとも潤滑剤としてのエルカミドを用いないことを特徴とする。なお包装体としては、清拭用品(例えばお手拭き)用個包装のような軟包材の他、箱形の容器のような硬質の包装容器等、様々な形態のものが挙げられる。
【0014】
またいずれの潤滑剤も用いていない包装体を作製したところ、二酸化塩素水溶液の安定性が良いことが確認された。しかしながら、包装体が軟包材の場合には、潤滑剤を使用しないと、フィルム状に形成することが難しい上、袋状に形成したときに内壁面同士が付着し易くなることから、二酸化塩素を充填し難い。このため生産性の観点からも潤滑剤を使用した方が良い。
【0015】
そこで本発明者らは更に実験を進めたところ、潤滑剤としてペンタエリトリトールジステアラートやステアリン酸カルシウムを使用したものであれば、二酸化塩素水溶液が安定で、殺菌・消毒効果を長時間維持し得ることを見出した。
【0016】
即ち本発明の二酸化塩素包装体において、前記二酸化塩素と接触する最内表層を構成する素材樹脂中に、ペンタエリトリトールジステアラート及び/或いはステアリン酸カルシウムを潤滑剤として添加したものであることが好ましい。
【0017】
更に本発明者らは、包装体の素材自体についても検討実験を行い、その結果、エルカミド等の潤滑剤を添加していない場合において、二酸化塩素の殺菌・消毒効果をより維持し易い素材とあまり維持し難い素材に分け得ることを見出した。
【0018】
そこで本発明に係る二酸化塩素包装体においては、前記最内表層を構成する素材樹脂が、ポリエチレン(以下、PEと言うことがある)、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと言うことがある)、ポリ塩化ビニリデン(以下、PVDCと言うことがある)よりなる群から選択される1種以上を主体とすることが好ましい。
【0019】
上記の素材を最内表層に用いれば、二酸化塩素の分解が進み難く、殺菌・消毒効果を持続し得る。なお上記「主体とする」とは、ブレンドまたは共重合体として存在する場合の両方において構成素材の割合が50質量%超を占めることを言う。好ましくは80質量%以上占めているものである。最も好ましくは上記のPE、ポリ乳酸、PTFE、PVDCよりなる群から選択される1種以上のみで最内表層が構成されているものである。
【0020】
これらのうち特にポリ塩化ビニリデンとポリエチレンはヒートシール性を有するので、これらを最内表層に用いた場合に、ヒートシールにより密封することができて好ましい。
【0021】
本発明においては、前記二酸化塩素を溶液状とし、この二酸化塩素溶液をワイパーに含浸させた状態で前記包装体中に収容していることが好ましい。なお二酸化塩素溶液としては二酸化塩素水溶液等が挙げられる。
【0022】
また本発明においては、前記ワイパーの素材がセルロース系繊維を主体とするものであることが好ましい。なお上記「セルロース系繊維を主体とする」とは、ワイパーの50質量%超をセルロース系繊維が占めることを言う。
【0023】
つまり本発明においてワイパーの50質量%超をセルロース系繊維が占めることが好ましい。より好ましくは80質量%以上占めているものである。
【0024】
セルロース系繊維を主体とするワイパーであれば、ワイパー自身の強度劣化があまり生じず、また二酸化塩素が安定で、殺菌・消毒効果を維持し得ることを実験により確認している。
【0025】
更に前記セルロース系繊維が、天然セルロース及び/または再生セルロースであることが好ましい。天然セルロースとしては綿が挙げられ、再生セルロースとしてはビスコースレーヨン、キュプラレーヨン等が挙げられる。
【0026】
また本発明に係る包装材料は、前記二酸化塩素包装体に使用される包装材料である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る二酸化塩素包装体及び包装材料によれば、二酸化塩素を安定して収容することができ、殺菌・消毒効果の低下があまり生じない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】包装材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【図2】包装材素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【図3】添加剤の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである
【図4】二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の、不織布の強度変化を表したグラフであり、(a)は縦方向の強度変化のグラフで、(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【図5】イオン交換水に浸漬した場合の、不織布の強度変化を表したグラフであり、(a)は縦方向の強度変化のグラフで、(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【図6】不織布素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【図7】ワイパー形態の違いによる二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を説明するにあたり、各種行った実験について説明する。
【0030】
1.二酸化塩素に対する包装体の影響についての実験
二酸化塩素の殺菌・消毒効果の低下と包装体との関係を検討するにあたり、包装体を透過するガスの影響を考慮に入れ、まずガスバリア性を有するフィルムを試料として下記の如く試験を行った。
【0031】
1−1.実験試料
試料No.1として、ポリアミド/PVDC/低密度ポリエチレン(以下、LDPEと言うことがある)の順に積層接着して厚み80μmのフィルムを作製し、LDPEを内側として袋状に形成した。試料No.2として、ポリアミドとPVDCを積層接着し、PVDC表面に、乳化重合させたラテックスのPVDCをコートして厚み46μmのフィルムを作製し、PVDCコート側を内側として袋状に形成した(なおPVDCコート層はヒートシール性を向上させるためのものである)。試料No.3として、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言うことがある)/PVDC/ポリアミド/ポリプロピレン(以下、PPと言うことがある)の順に積層接着して厚み115μmのフィルムを作製し、PPを内側として袋状に形成した。なお上記試料No.1〜3での袋の大きさはいずれも6cm×12cmである。また上記フィルムの各材料にはいずれも汎用品を用いた。上記試料No.1〜3はいずれもガスバリア性を有する。
【0032】
1−2.二酸化塩素安定性試験方法[1]
上記試料袋に、二酸化塩素水溶液を20ml充填して密封(ヒートシール)し、室温にて遮光保存した。これについて、経過日数毎における二酸化塩素水溶液の濃度を測定した。比較対照として、PET製ボトル(300ml容量)に充填された二酸化塩素水溶液について、上記と同様にして経過日数毎に二酸化塩素濃度を測定した。上記濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0033】
1−3.試験結果
試料No.1〜3に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表1の通りであり、これをグラフに表すと図1(包装材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0034】
【表1】

【0035】
なお二酸化塩素水溶液は本来、淡黄色透明の液体であるが、これが分解して亜塩素酸と塩素酸に変化すると(即ち、二酸化塩素濃度が低下すると)、無色透明の液体になり、殺菌・消毒効果がほぼなくなる。因みに本発明者は、清拭用品用としてワイパーに浸潤させる場合の二酸化塩素水溶液の濃度として、大凡100ppmを想定しており、60ppm以上であれば十分な殺菌・消毒効果を発揮することが期待される。
【0036】
表1や図1から分かるように、試料No.1,3では1週間経過後で二酸化塩素濃度が激減したのに対し、試料No.2では180日経過後においても二酸化塩素濃度が十分に高く、安定性が良好であった。
【0037】
試料No.1と2はガスバリア性の点で同等であるが、上記実験結果から、二酸化塩素の安定性については包装材のガスバリア性に関係がなく、二酸化塩素の減少は包装材の最内表層と二酸化塩素水溶液との接触による分解反応に起因するものであると考えられる。
【0038】
なお上記試料No.1〜3の他、PET/Al/PET/ポリアクリロニトリル(以下、PANと言うことがある)の順に積層接着して作製したフィルムについて、PANを内側として袋状に形成したもの(試料No.4)、PET/エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと言うことがある)を積層接着して作製したフィルムについて、EVOHを内側として袋状に形成したもの(試料No.5)を準備し、この試料袋に二酸化塩素水溶液を充填して密封し、室温にて遮光保存し二酸化塩素安定性試験を行ったところ、試料No.4,5のいずれもは二酸化塩素の濃度が早く低下するという結果を得ている。
【0039】
2.単体の樹脂フィルムに対する二酸化塩素の安定性についての実験
各種樹脂フィルム素材に関し、二酸化塩素水溶液に対する影響について下記試験を行った。
【0040】
2−1.実験試料
PVDC、PET、PP、ポリ塩化ビニル(以下、PVCと言うことがある)、LLDPEについて汎用品の各フィルム(厚み50μm)を準備した。また潤滑剤や可塑剤並びに酸化防止剤を含んでいないLLDPE(以下、無添加LLDPEと言うことがある)のフィルム(厚み50μm)を準備した。
【0041】
2−2.二酸化塩素安定性試験方法[2]
上記各実験試料のフィルムを10mm×10mmに裁断し、これをガラス製容器に入れ、二酸化塩素水溶液を20ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。比較対照として、ガラス製容器に二酸化塩素水溶液20mlのみを充填して密封したものを用いた。これらについて、経過日数毎における二酸化塩素濃度を測定した。上記濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0042】
2−3.試験結果
上記各フィルムに対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表2及び図2(包装材素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)に示す通りとなる。
【0043】
【表2】

【0044】
上記表2や図2から分かるように、PP、PVC、LLDPE(汎用品のもの)では時間の経過により二酸化塩素濃度が非常に低下したのに対し、PVDCやPET、無添加LLDPEでは二酸化塩素濃度の低下が少ない。従ってPVDC、PET、無添加LLDPEを包装体の最内表層に用いた場合、二酸化塩素が比較的安定で、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0045】
上記実験の他に、ポリ乳酸、PTFE、汎用品のLDPE(エルカミドを含んでいると推察される)、汎用品の高密度ポリエチレン(エルカミドを含んでいると推察される)についても試験を行ったところ、これらのうちポリ乳酸、PTFEについては、二酸化塩素濃度の低下が少なく、二酸化塩素が安定であるという実験結果を得ている。一方、汎用品のLDPE、汎用品の高密度ポリエチレン(HDPE)は二酸化塩素の濃度が早く低下するという結果を得ている。
【0046】
なお上記「1.」の実験から分かるように、PAN、EVOHについても二酸化塩素の濃度が早く低下するという結果を得ている。
【0047】
3.フィルムの添加剤に対する二酸化塩素の安定性についての実験
フィルムに使用されている添加剤による二酸化塩素水溶液に対する影響について、下記試験を行った。
【0048】
3−1.実験試料
フィルムの製造工程で汎用されている潤滑剤としてエルカミド、ペンタエリトリトールジステアラート、ステアリン酸カルシウムを準備した。
【0049】
3−2.二酸化塩素安定性試験方法[3]
実験試料0.1gをガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を20ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。比較対照として、ガラス製容器に二酸化塩素水溶液20mlのみを充填して密封したものを用いた。これらについて、経過日数毎における二酸化塩素の濃度を測定した。上記濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0050】
3−3.試験結果
上記各潤滑剤に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表3の通りであり、これをグラフに表すと図3(添加剤の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0051】
【表3】

【0052】
二酸化塩素水溶液は酸化性が非常に強いことから、フィルムに含有されている添加剤と反応して二酸化塩素の分解が生じることが考えられた。この点につき、上記試験結果が示すように、エルカミドの場合は二酸化塩素の濃度が激減しているものの、ペンタエリトリトールジステアラートやステアリン酸カルシウムでは二酸化塩素の濃度にあまり低下が見られず、これらの添加剤であれば、二酸化塩素が安定であり、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0053】
4.二酸化塩素水溶液に対するワイパー素材の安定性についての試験
二酸化塩素水溶液をワイパーに含浸させて清拭用品に用いる場合を想定し、不織布製ワイパーが二酸化塩素水溶液により劣化を生じるかどうかについて、下記の如く試験を行った。
【0054】
4−1.実験試料
PP、PET、ポリアミド、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿を素材とした不織布を準備した。なおPP、PET、ポリアミド、キュプラレーヨンについてはスパンボンド法により不織布とし、ビスコースレーヨン、綿については水流交絡法により不織布とした。
【0055】
4−2.強度試験方法
上記試料の不織布を縦方向(製造流れ方向)及び横方向(製造流れ方向と直交する方向)についてそれぞれ2.5cm×20cmに裁断したものを3枚ずつ準備した。この裁断した不織布をガラス製容器に入れ、140ppmの二酸化塩素水溶液を25ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。これらの試料について、経過日数毎に引張試験(JIS L 1912(但し試験片は上記の通り2.5cm×20cmとする))を行い、引張強度を測定した。なお引張試験にあたり試料3枚について測定し、この平均を引張強度とした。比較対照として、上記二酸化塩素水溶液に代えてイオン交換水を用い、同様に試験を行った。
【0056】
4−3.試験結果
上記各種不織布についての強度試験の結果は表4,5の通りであり、表4が二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の引張強度、表5がイオン交換水に浸漬した場合の引張強度である。これらの結果について、二酸化塩素水溶液やイオン交換水に浸漬する前の試料不織布の強度を100%とし、これに対する強度変化の割合を表したのが、表6,7と図4,5(不織布の強度変化を表したグラフ)である。このうち表6、図4が二酸化塩素水溶液の場合で、表7、図5がイオン交換水の場合である。なお図4,5のそれぞれ(a)は試料不織布の縦方向の強度変化のグラフで、それぞれ(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
上記結果から分かるように、PP、PET、ポリアミドはイオン交換水に浸漬した場合に比べて二酸化塩素水溶液に浸漬した場合に強度低下が見られた。特にポリアミドは二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の強度低下が大きく、3ヶ月経過後には触るだけで崩れる程に劣化していた。一方ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿は二酸化塩素水溶液に浸漬しても、他のPP、PET、ポリアミドに比べて強度低下があまり見られず、レーヨンや綿といったセルロース系繊維は二酸化塩素水溶液に対して安定であることが分かる。なお水流交絡により形成された不織布において、イオン交換水に浸漬した場合に強度低下を生じる原因は、不織布の繊維が膨潤して繊維間の交絡強度が低下することによると考えられる。
【0062】
5.各種ワイパー素材に対する二酸化塩素の安定性についての試験
各種ワイパー素材に二酸化塩素水溶液を含浸させた場合における二酸化塩素の安定性について、下記の如く試験を行った。
【0063】
5−1.実験試料
上記「4.」での試験と同じく、PP、PET、ポリアミド、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿を素材とした不織布を準備した。
【0064】
5−2.二酸化塩素安定性試験方法[4]
上記試料の不織布を2.5cm×20cmに裁断した。この裁断した不織布6枚をガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を25ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。これについて、経過日数毎における二酸化塩素の濃度を測定した。濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0065】
5−3.試験結果
各不織布に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表8の通りであり、これをグラフに表すと図6(不織布素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0066】
【表8】

【0067】
上記の結果から分かるように、PPやポリアミドは二酸化塩素濃度が非常に低下するのに対し、PETは濃度低下が少なく、更にビスコースレーヨンやキュプラレーヨン、綿は二酸化塩素の濃度低下が殆ど見られなかった。これらからレーヨンや綿といったセルロース系繊維に対して二酸化塩素は安定で、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0068】
6.ワイパーの形態の違いによる二酸化塩素の安定性についての試験
上記「5.」の試験では、二酸化塩素水溶液を含浸させるワイパーの形態として不織布を用いたが、他の形態により二酸化塩素の安定性に差異が生じるかどうかについて、下記の如く試験を行った。
【0069】
6−1.実験試料
試験材料として綿ガーゼと脱脂綿を準備した。
【0070】
6−2.二酸化塩素安定性試験方法[5]
上記綿ガーゼ1gをガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を10ml充填して密封した。また上記脱脂綿1gをガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を20ml充填して密封した。これらを室温にて遮光保存した。比較対照として、ガラス製容器に二酸化塩素水溶液20mlのみを充填して密封したものを用いた。これらについて、経過日数毎における二酸化塩素の濃度を測定した。濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0071】
6−3.試験結果
各試料に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表9の通りであり、これをグラフに表すと図7(ワイパー形態の違いによる二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0072】
【表9】

【0073】
綿ガーゼ、脱脂綿のいずれについても濃度変化はあまり見られなかった。上記「5.」の試験で用いた不織布形態の他、織物やワタの形態であっても、綿素材に対し二酸化塩素は安定で、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0074】
7.実施形態
次に本発明の一実施形態について説明する。
【0075】
ポリアミド/PVDCを積層融着し、PVDCの表面に、乳化重合させたラテックスのPVDCをコートし、厚み50μmのフィルムを作製する。このとき上記PVDCのコート層における潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを用いる。尚このPVDCコート層にはエルカミドは含まれていない。この積層フィルムを用い、PVDCコート層を最内表層としつつ7cm×12cmの袋状に形成する。他方、キュプラレーヨン製の不織布(スパンボンド法絡による。5cm×20cm)を折り畳んで(或いは棒状に丸め)5cm×10cmのサイズにし、これに100ppm二酸化塩素水溶液を含浸させる(含浸液量10ml)。この二酸化塩素水溶液を含浸したキュプラレーヨン製不織布を、上記袋内に入れてヒートシールにて密封する。なお上記袋の最内層がPVDCであるので、ヒートシールが可能である。
【0076】
得られた包装物を個包装清拭用品用として利用に供する。該包装物に収納した不織布(ワイパー)は、3ヶ月後も十分に強度を保たれ、また含浸させた二酸化塩素水溶液の二酸化塩素濃度も140ppm程度以上に保たれており、十分に清拭用品用としての殺菌・消毒効果を発揮しうる。
【0077】
上述の様に、例を挙げて本発明をより具体的に説明したが、本発明はもとより上記例によって制限を受けるものではなく、前記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0078】
例えば上記実施形態では、包装体として、積層フィルムによる軟包材を示したが、箱形の硬質の容器等であっても良い。なお上記実施形態では個包装清拭用品用として利用することを示したが、本発明の包装体の利用形態としてはこれに限るものではない。
【0079】
また上記実施形態では、包装に用いるフィルムとして、PVDCを最内表層とする積層体を示したが、これに限らず、ポリ乳酸やPE、PTFEを最内表層の素材として用いても良い。更に最内表層の素材樹脂中に用いる添加剤としてペンタエリトリトールジステアラートを用いても良く、或いは潤滑剤としての添加剤を用いないようにしても良い。
【0080】
上記実施形態では二酸化塩素の水溶液を包装した場合を示したが、この他、消毒用アルコールに二酸化塩素を溶存させたもの等であっても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化塩素が収容されている包装体であって、
該包装体は、前記二酸化塩素と接触する最内表層を構成する素材樹脂中に、少なくとも潤滑剤としてのエルカミドを用いないことを特徴とする二酸化塩素包装体。
【請求項2】
前記最内表層を構成する素材樹脂中に、ペンタエリトリトールジステアラート及び/或いはステアリン酸カルシウムを潤滑剤として添加したものである請求項1に記載の二酸化塩素包装体。
【請求項3】
前記最内表層を構成する素材樹脂が、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデンよりなる群から選択される1種以上を主体とする請求項1または2に記載の二酸化塩素包装体。
【請求項4】
前記二酸化塩素を溶液状としてワイパーに含浸された状態で前記包装体中に収容されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の二酸化塩素包装体。
【請求項5】
前記ワイパーの素材がセルロース系繊維を主体とするものである請求項4に記載の二酸化塩素包装体。
【請求項6】
前記セルロース系繊維が、天然セルロース及び/または再生セルロースである請求項5に記載の二酸化塩素包装体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の二酸化塩素包装体に使用される包装材であることを特徴とする包装材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−184837(P2010−184837A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30322(P2009−30322)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(593148804)川本産業株式会社 (22)
【出願人】(391003392)大幸薬品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】