説明

二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法

【課題】2段階の素反応に分離した反応工程を経て、最終的にメタンを合成する技術を提供する。
【解決手段】二酸化炭素と水素を原料とするメタン合成反応は(1)式で示されるが、実際には、(2)式で示される第一反応工程、(3)式で示される第二反応工程の熱平衡関係から成り立っている。CO2+4H2→CH4+2H2OΔH=−39.4kcal/mol(1)、CO2+H2→CO+H2OΔH=+9.8kacl/mol(2)、CO+3H2→CH4+H2OΔH=−49.3kcal/mol(3)。第二反応工程前の組成比に関わらず、1/((3CO+4CO2)/H2)なるパラメータにより反応後の残留CO、CO2濃度を管理できることを見出した。これを利用して、合成メタンの用途に求められるCO、CO2許容度に応じて反応を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化炭素と水素を原料としてメタンを合成する方法に係り、特に、2段階の素反応に分離した反応工程を経て、最終的にメタンを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化問題の解決のために二酸化炭素の固定化を目的として、二酸化炭素と水素を反応させてメタンを合成する技術が種々提案されている(例えば特許文献1乃至5)。
文献1は、触媒としてロジウム(Rh)を用いることを特徴とし、選択的にメタンを合成可能とするものである。この場合の水素と二酸化炭素の反応モル比は、2−4が好ましいとしている。
文献2は、希土類金属を含む金属間化合物を触媒とすることを特徴とし、反応温度及び圧力が比較的低い条件でも有効な収率でメタンを合成可能としている。この場合の水素と二酸化炭素の反応モル比は、特に限定していないが、2−8、好ましくは3−6、特に好ましくは4を推奨している。
【0003】
文献3は、硝酸ニッケル、塩化ナトリウム及び硝酸ジルコニルを含む溶液から、噴霧分解法により調整した担持金属触媒を用いるものであり、水素と二酸化炭素の反応モル比は、0.1−40、好ましくは1.0−20を推奨している。
文献4は、流動床反応器に使用した場合でも磨耗による劣化鉄族遷移元素粉末の表面に金属酸化物の混合酸化物の被覆を設けてなる触媒を用いるものであり、水素と二酸化炭素の反応モル比については記載がないが、実施例中において、CO:20%、CO2:50%、H2:60%の原料ガスを用いて、CO:1%、CO2:65%、H2:2%、CH:32%の生成結果が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−142513号公報
【特許文献2】特開平6−340557号公報
【特許文献3】特開平7−76528号公報
【特許文献4】特開2009−34654号公報
【特許文献5】特開2009−34650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記各文献は、いずれも反応触媒の選択に関し、また、二酸化炭素と水素から直接メタンを合成させる方法(以下、直接合成法という)に関する技術であり、最終的なメタン合成に至る素反応に着目した検討ではない。
二酸化炭素と水素を原料とするメタン合成反応は、実際には、反応平衡特性が全く異なる素反応A(後述(2)式)と素反応B(後述(3)式)の複雑な熱平衡関係により成立している。従来、それぞれ単独には素反応A、Bの最適化に関して多くの開示があるが、メタン合成反応の素反応としての位置づけで最適化を検討した文献等については、今回見出せなかった。
一方、近年、再生可能エネルギーを用いて高純度の水素を生成し、これを原料とするメタン合成が現実的になりつつあるが、このような合成メタンを、例えば都市ガス原料として用いる場合、未反応残留成分(H2、CO2、CO)の分離、回収等のコストを低減化することが必要であり、メタン合成反応における最適反応条件の設定が喫緊の課題となっている。
本願発明者らは、各々の素反応及び反応全体としての最適条件について鋭意検討の結果、反応後における二酸化炭素や一酸化炭素濃度を格段に低減化できる高純度メタン合成方法を完成した。
【0006】
本発明は、以下の内容を要旨とする。すなわち、本発明に係る二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法は、
(1)二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法であって、二酸化炭素と水素を反応させて、一酸化炭素を得る第一反応工程と、第一反応工程により生成した一酸化炭素と水素を反応させて、メタンを得る第二反応工程と、を含むことを特徴とする。
(2)上記発明において、前記第二反応工程において、原料である水素及び一酸化炭素並びに前記第一反応工程において残留する二酸化炭素の組成比(モル換算)につき、組成比パラメータ(Pcr)=1/((3CO+4CO2)/H2) の値が、1.0乃至1.1となるように、原料である水素及び一酸化炭素の供給比と、二酸化炭素水素及び水素の分離・リサイクル比と、を制御する、ことを特徴とする。
(3)上記発明において、前記第二反応工程において、組成比パラメータ(Pcr)=1/((3CO+4CO2)/H2) の値が、1.0乃至1.02となるように、原料である水素及び一酸化炭素の供給比と、二酸化炭素水素及び水素の分離・リサイクル比と、を制御する、ことを特徴とする。
(4)上記各発明において、前記第一反応工程後に二酸化炭素を分離回収することなく水のみを分離する工程と、前記第二反応工程後に水素を分離回収することなく水のみを分離する工程と、をさらに含むことを特徴とする。
(5)上記発明において、前記第一反応工程における反応温度を460-550℃に設定し、前記第二反応工程における反応温度を250−450℃に設定する、ことを特徴とする。
(6)上記各発明において、前記第二反応工程における反応圧力を1.0−5.0MPaに設定することを特徴とする。
【0007】
二酸化炭素と水素を原料とするメタン合成反応は式(1)で示されるが、実際には、式(2)で示される素反応A、式(3)で示される素反応Bの熱平衡関係から成り立っている。
CO2+4H2→CH4+2H2O ΔH=−39.4 kcal/mol (1)
CO2+H2→CO+H2O ΔH=+9.8 kacl/mol (2)
CO+3H2→CH4+H2O ΔH=−49.3 kcal/mol (3)
本発明は、二酸化炭素と水素からメタンを合成するにあたり、素反応Aにより最初に一酸化炭素を合成し(第一反応工程)、しかる後、素反応Bによりメタンを合成する(第二反応工程)、2つの反応工程により構成される。
【0008】
第一反応工程は、一酸化炭素のシフト反応の逆反応である。反応式から明らかなように、反応前後のモル数変化はなく、圧力依存性は殆どない。但し、生成する水及び未反応二酸化炭素の分離や、第二反応工程における加圧条件を考慮すると、後段の第二反応工程に合わせた圧力条件を採用することが望ましい。
原料である水素と二酸化炭素のモル比については、効率的反応進行を促すため化学量論比よりやや大きいH2/CO2≧1.1であればよい。さらに水素量については、第二反応工程のモル比に合わせることができる。
反応温度については、反応速度の面からは高温ほど好ましいことになるが、一酸化炭素による触媒被毒や、温度を上げても二酸化炭素の反応率が顕著に上昇することはないことを考慮すると、460−550℃、より好ましくは500℃付近の温度が適当である。
本反応工程において未反応の二酸化炭素は、第二反応工程の上流側で分離してリサイクルすることができる。また、生成する水は系外に排出することが望ましい。
【0009】
次に、第二反応工程である一酸化炭素と水素によるメタン合成は、工業的にも確立された技術である。本反応において、反応平衡定数の温度依存性は大きく、低温ほど正反応側にシフトすることが知られている(例えば、熊沢英博、ケミカルエンジニアリング、Vol.138,No.2(1993),P22参照)。後述のソフトウエアを用いた反応温度−平衡転化率のシミュレーション結果(図8参照)より、反応圧力1.0 MPaにて、凡そ700K(約427℃)あれば十分である。さらに、200℃以下では反応速度が遅くなることから、反応温度の下限値としては200℃、好ましくは250℃が適当である。
反応圧力は、反応式からも明らかなように高圧ほど有利となる。0.5MPa以下では反応率上昇への効果が小さく、また、7.0MPa以上では昇圧効果が小さいのみならず、メタノール生成等の副反応が併発して好ましくない。これらを考慮すると、0.5−7.0MPa、より好ましくは1.0−5.0MPaに設定することが適当である。
【0010】
次に、第二反応工程における原料供給量の最適制御については、以下の通りである。第二反応工程の前段では、原料となるCOの他にCO2がかなりの濃度で存在する。従って、H2バランスを考える場合、COとCO2をトータルとして取り扱う必要がある。この場合、COのメタネーションに必要な理論H2量は3モルであり、一方、CO2の直接メタネーションに必要な理論H2量は4モルである。化学量論比をベースとして換算すると、COについてはH2/3CO=1.0(H2 :CO=3:1)、CO2についてはH2/4CO2=1.0(H2:CO2=4:1)となる。
これより、H2/(3CO+4CO2)又は1/((3CO+4CO2)/H2)なるパラメータ(以下、Pcrと略記することがある)が、上記目的に即した管理指標となりうることが推察される。
【0011】
後述の実施例において示すように、原料供給比(H2/CO2)、CO2、H2のリサイクル比を種々変化させて、組成比パラメータPcrとの関係を検討した結果、第二反応工程前のCO、CO2、CH4、H2、H2Oの組成に関わらず、上記パラメータにより反応後の組成を管理できることを見出した。また、Pcr値が1.0近傍に変曲点が存在し、この値を境にして大きく反応挙動が変化することが分かった。この特性を利用し、第二反応工程前のCO、CO2、H2に関する組成比Pcrを、1.0乃至1.1となるように制御することにより、反応後の二酸化炭素濃度を1000ppm以下にすることができる。
さらに、最終組成中のH2及びCO2濃度を下げてCH4純度を高くするには、該パラメータとしては、1.00−1.02近傍に制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二酸化炭素と水素から直接メタンを合成させる直接合成法と比較して、残存二酸化炭素又は一酸化炭素濃度をより低減化した、高純度メタンを得ることができる。
また、それぞれの素反応に適した触媒は異なるが、本発明によれば、素反応ごとに最適触媒の選択が可能となるため、触媒選択のフレキシビリティーが増し、収率の向上、コストダウンに資する。
また、発熱反応である第二反応工程で発生する熱を、第一反応工程(吸熱反応)に利用できるため、熱収支の改善が可能となる。
また、例えば、砂漠等で太陽光発電により得られる水素を、本発明によるシステムに適用する場合、第一反応工程で分離した水を、他の用途に有効利用できるという効果がある。
また、第一反応工程で生成する水を、第二反応工程前に分離・除去する工程を含む発明にあっては、素反応Aを生成側に推進するため、第一反応工程の収率のさらなる改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第二反応工程における組成比パラメータPcrと反応後のCO2濃度、H2濃度の関係を示す図である(設定条件1−3)。
【図2】第二反応工程における組成比パラメータPcrと反応後のCO濃度、H2濃度の関係を示す図である(設定条件1−3)。
【図3】第一反応工程における原料供給比と第二反応工程後のCO2濃度、H2濃度の関係を示す図である(設定条件2)。
【図4】第一反応工程における原料供給比と第二反応工程後のCO濃度、H2濃度の関係を示す図である(設定条件2)。
【図5】第二反応工程後のCH4濃度、CO2濃度の関係を示す図である(設定条件3)。
【図6】第二反応工程後のCH4濃度、H2濃度の関係を示す図である(設定条件3)。
【図7】素反応Aにおける反応温度と平衡組成比の関係を示す図である。
【図8】素反応Bにおける反応温度と平衡転化率の関係を示す図である。
【図9】第一の実施形態に係るメタン合成装置1を示す図である。
【図10】第二の実施形態に係るメタン合成装置20を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一の実施形態)
以下、図9を参照して、本発明の一実施形態に係るメタン合成装置1について説明する。本実施形態では、後段の第二反応工程におけるH2とCOモル比最適化を考慮し、原料であるH2及びCO2を4.1−4.2のモル比で供給する。原料H2は、例えば、太陽光発電による水の電気分解により得た純粋H2を用いることができる。また、CO2については、例えば都市ガス需要家先で排出されるCO2を回収し、用いることができる。
H2及びCO2をコンプレッサ2a,2bでそれぞれ2.0−5.0MPaに昇圧し、混合させた後に反応器3に導き、第一反応工程である素反応Aを行わせてCO、H2Oを生成させる。昇圧用コンプレッサとしては、軸流式、往復式、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式等のいずれをも用いることができる。
反応触媒としては、アルミナ担体に担持させたZnO、Cr2O3、FeO、CuO 等の金属酸化物を用いることができる。
【0015】
反応温度は、反応器出口温度が約500℃となるよう調整し、中間熱交を設けて断熱反応、又は(断熱+等温)反応により460−550℃に維持するように制御する。また、反応圧力は3.0MPa程度となるよう調整する。
第一反応工程により生成するガスはCO、H2Oを主成分とし、未反応残留成分としてH2、CO2を含む。このうち、H2Oについてはフラッシュ蒸留塔6a(又は分離膜等)を用いて分離除去する。CO2については、CO2再生ユニット4において分離(分離膜又は化学物資(アミン系、炭酸カリ系)による吸収)を行い、さらに加熱放散により回収して、CO2回収ライン10を介してコンプレッサ2cで昇圧後、再供給する。
【0016】
第一反応工程でCO2、H2Oを除去したH2、COを主成分とするガスを、反応器5に導き、第二反応工程である素反応Bを行わせてCH4を生成させる。反応触媒としては、Ni系触媒を用いることができ、条件によっては、Ru系、Pd−Rh系といった貴金属を用いることもできる。
反応温度条件は、反応器出口温度約250℃となるように熱交換器により調整し、中間熱交を設けて断熱反応、又は(断熱+等温)反応により250−450℃に維持するように制御する。反応圧力は3.0MPa程度に設定する。
反応後のガスはCH4、HOを主成分とし、未反応残留成分としてH2、CO2、COを含む。このうち、H
については第一反応工程と同様にフラッシュ蒸留塔6bにより分離除去する。H2については、PSA(Pressure Swing
Absorption)7により分離回収し、H2回収ライン9を介してコンプレッサ2dで昇圧後、原料ライン8に戻す。
【0017】
以上の工程により、供給ガスライン11には、CH4及び微量のCO2,CO(後述する表5の設定条件1代表例では、CO2:404ppm、CO:0.717ppm)が供給されることになる。CO2,CO除去の要否は、供給用途と除去に要するコストを考慮して定めることができる。都市ガス原料として供給ガスライン11の生成ガスを利用供給する場合には、要求ガス仕様に合わせてモル比を調整することで、生成ガスをそのまま供給することが考えられる。
【0018】
(第二の実施形態)
さらに、図10を参照して、本発明の他の実施形態に係るメタン合成装置20について説明する。本実施形態は、組成比パラメータPcrの管理により第一反応工程後の残留CO2、第二反応工程後の残留H2を、リサイクル不要レベルに制御する形態に係る。
メタン合成装置20の構成が上述のメタン合成装置1と異なる点は、メタン合成装置1が備えているCO2分離のための再生ユニット4、リサイクル用配管10、コンプレッサ2c、及び、H2分離のためのPSA7及びリサイクル用配管9、コンプレッサ2dを備えていないことである。その他の構成はメタン合成装置1と同様であるので重複説明を省略する。
次に、本実施形態におけるメタン合成プロセスについて説明する。第一の実施形態と同様にして昇圧・混合後のH2及びCO2を反応器3に導き、第一反応工程である素反応Aを行わせてCO、H2Oを生成させる。ここに、H2、CO2の供給量は、後述する第二反応工程に導入するガスの組成比が、パラメータ値Pcr=1.00−1.02の範囲内となるように管理されている。その他の反応条件等は第一の実施形態と同様である(以下の各工程においても同様)
第一反応工程により生成するガスはCO、H2Oを主成分とし、未反応残留成分としてH2、CO2を含む。このうち、H2Oのみをフラッシュ蒸留塔6aを用いて分離除去する。CO2については分離を行わず、そのまま第二反応工程に供給される。
【0019】
H2Oが除去されて、H2、COを主成分とし残留CO2を含むガスを、反応器5に導き、第二反応工程である素反応Bを行わせてCH4を生成させる。この場合、上述のようにパラメータ値Pcrが1.00−1.02の範囲内となるように、H2、CO、CO2組成比が制御されている。これにより、反応後のガスはCH4、H2Oを主成分とし、未反応残留成分としてH2、CO2、COを含む。このうち、H2Oのみ第一反応工程と同様にフラッシュ蒸留塔6bにより分離除去される。
【0020】
以上の工程により、供給ガスライン21には、CH4、H2及び微量のCO2,COが供給されることになる(後述する表5の条件3代表例では、CH4:93.6%、H2:5.3%を主成分とし、CO2:952ppmとCO:0.757ppmを含む)。都市ガス原料として供給ガスライン21の生成ガスを利用供給する場合には、要求ガス仕様に合わせてモル比を調整することで、生成ガスをそのまま供給することが考えられる。
【実施例1】
【0021】
以下、プロセス・シミュレータ・ソフトウエア(Aspen Plus(登録商標))を用いて、上述の実施形態のプロセスフローに従い、素反応A、Bの演算を行った結果について説明する。
(a)シミュレーションモデル
演算に際し使用したシミュレーションモデルは以下の通りである。
組成成分については、チッソ、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、水とした。各成分の物性値は、純物質はAspen Plus(登録商標)のデータベースDBを用いた。また、熱平衡モデルは'PSRK'(Predictive Redlich-Kwrong-SoaveEOS)状態方程式等を利用した。二酸化炭素と水素の反応は圧力下で行われるため、特に圧力下で高い精度を示す'PSRK'が適当と判断した。
【0022】
(b)反応条件の検討
(b-1)素反応Aにおける反応平衡組成の温度依存性
図75に原料CO2:H2=1:1としたときの、反応後における各成分の組成比(%)を示す。反応温度が上がるにつれて、CO、H2Oの組成比は上昇していくが、顕著な上昇ではないことが分かる。さらに、温度上昇による一酸化炭素による触媒被毒の問題をも考慮すると、460−550℃、好ましくは500℃近傍が適当であると判断できる。
(b-2)素反応Bにおける反応平衡組成の温度依存性
図86は、原料CO:H2=1:3で供給したときの、反応後におけるCO転嫁率の温度依存性を示す図である。同図より、反応圧力1.0MPaの場合、約700K(427℃)までは転化率100%を維持できることが分かった。
吸熱反応の特性及び反応速度との関係を考慮して、上述のように反応温度の下限値としては200℃、好ましくは250℃を選定すべきである。
【実施例2】
【0023】
実施例1と同一のソフトウエアを用いて、原料H2/CO2モル比変化、又は各反応工程後のリサイクル比を変化させたときの、第二反応工程完了後の各成分濃度を演算し、変曲点の有無、及び、CO2濃度1000ppm以下となるポイントを見出すための検討を行った。なお、プロセスフローは上述の実施形態に準じている。
【0024】
(原料供給条件設定)
原料供給比及びリサイクル比について(a)−(c)のように設定し、第一反応工程および第二反応工程における物質収支・熱収支計算を行い、第二反応工程後のCO2、CO及びH2濃度の挙動を検討した。
(a)設定条件1
CO2およびH2供給量をほぼ一定(H2/4CO2=0.85〜1.01)とし、第一反応工程後のCO2、および第二反応工程後のH2のそれぞれのリサイクル比を変化させた。
(b)設定条件2
第一反応工程後のCO2、および第二反応工程後のH2のそれぞれのリサイクル比をほぼ一定(約90%)とし、供給するCO2/H2モル比を変化させた。
(c)設定条件3
上記設定条件2において特に、第一反応工程後のCO2及び第二反応工程後のH2のそれぞれの反応系へのリサイクル比を特にゼロ、CO2及びH2のパージ量を0.1%、H2供給量を一定としてCO2供給量の変化の幅をより大きくして
(H2/4CO2=0.85〜1.018)、第二反応工程反応後および供給ラインにおけるメタン中のCO2、CO及びH2濃度の挙動を検討した。
以上をまとめると表1の通りとなる。
【表1】

【0025】
また、設定条件1−3について、原料供給比及びCO2・H2リサイクル比と組成比パラメータPcr変化の関係を表2乃至表4に示す。なお、反応条件はすべて第一反応:500℃、第二反応:300℃、反応圧力:3MPaである(但し、表4のCase37のみ第二反応:282℃)。
【0026】
(設定条件1)
【表2】

(設定条件2)
【表3】

(設定条件3)
【表4】

【0027】
(シミュレーション結果)
図1に、横軸を第二反応工程前のPcr(=1/((3CO+4CO2+)/H2)とし、縦軸を反応後のCO2濃度及びH2濃度とした設定条件1、設定条件2および設定条件3の結果を示す。図2には、同じく縦軸をCO濃度及びH2濃度とした結果を示す。
図1、2より、いずれの設定条件においても第二反応工程前のPcrの変化に対して、第二反応工程後のCO2濃度およびCO濃度がPcr≒1.0近傍で急激に減少し、対数軸に対して変曲点をもつことが明らである。
【0028】
(変曲点近傍におけるガス組成等の代表例)
表5に変曲点近傍におけるガス組成代表例を示す。
【表5】

【0029】
(原料供給比と各成分濃度の関係)
設定条件2について、図3に第二反応工程後のCO2濃度とH2濃度の関係を、図4にCO濃度とH2濃度の関係を、それぞれ示した。これらの図から、化学量論比H2/CO2=4を基軸として、大幅なCO2及びCOの減少と残存H2の増加が認められることが分かる。
【0030】
(リサイクルなしの場合における組成比パラメータ値の最適値)
設定条件3(リサイクル比:0)について、図5に第二反応工程後の供給ラインにおけるCO2濃度とH2濃度の関係を、図6に同じくCO濃度とH2濃度の関係を、それぞれ示した。各濃度はそれぞれH2O除去後の値である。反応器温度条件は300℃である(一部、282℃条件の値も付記してある)。
図5、図6より、第二反応工程前の組成比パラメータPcr値=1.00近傍でメタン純度が最大値(約94%)を示し、1.00以上では純度が低下する。その理由は、図6から明らかなように、Pcrが1.00以上において残存H2濃度が極めて大きくなることにある。一方、残存CO2濃度は、Pcrの増加に伴い著しく低下し、特に1.00以上では顕著である。
以上の結果より、供給ラインにおけるH2及びCO2濃度を下げ、メタン純度を高くするには、Pcr=1.00−1.02が最適であると判断される。
なお、図5、図6には、第二反応工程の温度条件を282℃に下げた結果を示した(白抜き記号で表示)。本検討条件は、表4においてCase37に該当し、温度条件以外はCase35と同一である。これより、供給ラインにおけるメタン純度(93.0 vol%→93.6vol%)、不純物としてのCO2(2,229 molppm→952 molppm)やH2(58,262 molppm→53,342 molppm)の絶対濃度が改良される方向を示している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により合成されるメタンは、都市ガス供給用途のみならず、発電用燃料、NGV(天然ガス自動車)等、高純度のメタン供給が要求される用途、分野に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・・メタン合成装置
2a−2d・・・・コンプレッサ
3、5・・・・反応器
4・・・・CO2再生ユニット
6a、6b・・・・フラッシュ蒸留塔
7・・・・PSA
8・・・・原料ライン
9・・・・H2回収ライン
10・・・・CO2回収ライン
11、21・・・供給ガスライン
12a、12b、22a、22b・・・H2O除去ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法であって、
二酸化炭素と水素を反応させて、一酸化炭素を得る第一反応工程と、
第一反応工程により生成した一酸化炭素と水素を反応させて、メタンを得る第二反応工程と、
を含むことを特徴とする二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。
【請求項2】
前記第二反応工程において、原料である水素及び一酸化炭素並びに前記第一反応工程において残留する二酸化炭素の組成比(モル換算)につき、
組成比パラメータ(Pcr)=1/((3CO+4CO2)/H2) の値が、1.0乃至1.1となるように、原料である水素及び一酸化炭素の供給比と、二酸化炭素水素及び水素の分離・リサイクル比と、を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。
【請求項3】
前記パラメータ値を、1.00乃至1.02に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。
【請求項4】
前記第一反応工程後に、二酸化炭素を分離することなく、水のみを分離する工程と、
前記第二反応工程後に、水素を分離することなく水のみを分離する工程と、
を、さらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。
【請求項5】
前記第一反応工程における反応温度を460-550℃に設定し、
前記第二反応工程における反応温度を250−450℃に設定する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。
【請求項6】
前記第二反応工程における反応圧力を1.0−5.0MPaに設定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の二酸化炭素と水素からメタンを合成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−140382(P2012−140382A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−451(P2011−451)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】