説明

二酸化炭素の還元方法及び還元装置

【課題】光触媒の存在下において紫外線又は太陽光線を照射して二酸化炭素を還元させるに際して、二酸化炭素を水に対して高効率で溶解させることができ、その結果、反応効率を高めることが可能である二酸化炭素の還元方法及び還元装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を還元させる二酸化炭素の還元装置であって、水Aを収容する容器2と、容器2の水Aの中に二酸化炭素を微細な気泡Bにして供給する気泡発生器10と、光触媒の存在下において二酸化炭素の微細な気泡Bを含む水Aに紫外線を当てるUVランプ5を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の二酸化炭素を削減する手立ての一つとして期待される二酸化炭素の還元方法及び還元装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素濃度の増大は、海面上昇や異常気象を引き起こす地球温暖化の主要因となっており、二酸化炭素の削減対策を施すことが急務となっている。二酸化炭素を削減する手立てとして、省エネ等の手段により二酸化炭素の大気中への放出自体を制限することや、分離圧縮した二酸化炭素を深海に隔離したり、化学的又は生物化学的に固定化したりして、既に大気中にある二酸化炭素を低減することが考えられる。
【0003】
このうち、光合成と同じく太陽の光エネルギを利用して二酸化炭素を固定化する化学的な手法、即ち、酸化チタンや酸化亜鉛などの光触媒の存在下において二酸化炭素と水に紫外線又は太陽光線を照射して二酸化炭素を還元させる手法が、省エネで且つ無公害な技術であるとして注目を集めており、この二酸化炭素の還元に際しては、反応式(1),(2)に示すように、気相中にメタン、液相中にはメタノールなどの資源が生成される。
【0004】
CO2+2H2O→CH4+2O2 (メタンの生成) 反応式(1)
CO2+2H2O→CH3OH+3/2O2 (メタノールの生成) 反応式(2)
上記した太陽の光エネルギを利用した光化学反応において、光触媒の改善及び各種条件の適正化が進んでいるものの決して反応効率がよいとは言えない。この反応効率を高めるべく、光触媒の存在下で二酸化炭素と水とを反応させるには、両者を効率的に接触させて二酸化炭素を効率的に溶解させる必要がある。
【0005】
そこで、二酸化炭素を水に対して効率的に溶解させる手法として、近年では、エジェクタなどを用いて二酸化炭素を曝気したり、二酸化炭素ガス中に微細な水滴を散布したり、中空糸膜を用いて水を溶解させたり、高圧にして二酸化炭素の溶解度を高めたりする手法が採用されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特許3590837号
【特許文献2】特許3359081号
【特許文献3】特許3186428号
【特許文献4】特許3808616号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の二酸化炭素の還元方法において、いずれも遊離炭酸濃度を十分に高めることができないうえ、装置コストが高くついたり、メンテナンスが煩雑であったり、という問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
本発明は、上述した従来の課題に着目してなされたもので、光触媒の存在下において紫外線又は太陽光線を照射して二酸化炭素を還元させるに際して、二酸化炭素を水に対して高効率で溶解させることができ、その結果、反応効率を高めることが可能である二酸化炭素の還元方法及び還元装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、二酸化炭素を還元させる二酸化炭素の還元方法であって、水中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給し、酸化チタンや酸化亜鉛などの光触媒(半導体触媒)の存在下において前記二酸化炭素の微細な気泡を含む水に紫外線又は太陽光線を当てて前記二酸化炭素を還元させる構成としたことを特徴としており、この二酸化炭素の還元方法の構成を前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る二酸化炭素の還元方法では、二酸化炭素の微細な気泡の直径を100μm以下とする構成としている。
一方、本発明の請求項3に係る発明は、二酸化炭素を還元させる二酸化炭素の還元装置であって、水を収容する容器と、前記容器の水の中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給する気泡発生器と、光触媒の存在下において前記二酸化炭素の微細な気泡を含む水に紫外線又は太陽光線を当てる照射手段を備えた構成としている。
【0009】
また、本発明の請求項4に係る二酸化炭素の還元装置では、前記気泡発生器から供給する二酸化炭素の微細な気泡の直径を100μm以下とする構成としている。
この場合、より効率よく還元反応を起こさせるために、本発明の請求項5に係る二酸化炭素の還元装置では、前記容器内の水の流れを調節する撹拌機や邪魔板などの流れ調節手段を設けた構成とし、本発明の請求項6に係る二酸化炭素の還元装置では、前記照射手段から照射される紫外線又は太陽光線の当たり方を調節する反射板などの当たり方調節手段を設けた構成としている。
【0010】
ここで、図5に純水中における微細気泡のサイズと上昇速度との関係を示すが、水中における二酸化炭素の微細気泡の上昇速度V(m/s)は、式(1)のストークスの式で近似的に求めることができる。
V=(1/18)・gd/ν 式(1)
但し、g(m/s)は重力加速度、d(m)は微細気泡の直径、ν(m/s)は動粘度である。
【0011】
式(1)と図5からもわかるように、直径10μmの気泡は、1分間に3mm程度しか上昇しない(上昇速度約50μm/s)が、直径100μmの気泡では、1分間に30cm(上昇速度約5mm/s)程度上昇するので、気泡の直径が100μmを超えると十分な滞留時間を確保できなくなる。
したがって、上述したように、本発明の請求項2に係る二酸化炭素の還元方法及び請求項4に係る二酸化炭素の還元装置において、二酸化炭素の微細な気泡の直径を100μm以下と規定しており、水中における微細気泡のうちの約90%の微細気泡の直径を30μm以下とすることがより望ましい。
【0012】
気泡の直径が30μm以下であると、図5に示すとおり、気泡直径が30μmのときの気泡上昇速度が約500μm/s(=30mm/分)であるので、容器内で十分な滞留時間を確保できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1,2に係る二酸化炭素の還元方法及び請求項3,4に係る還元装置では、水の中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給するようにしているので、水の中の二酸化炭素の量が増え、これに伴って、二酸化炭素の表面積が増加して光触媒との接触面積が大きくなり、その結果、還元反応の効率がよくなって反応速度が上昇する。
また、水の中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給するので、上述したように、すぐに上昇して消滅する大きな気泡と比べて、浮力が小さくなる分だけ水中における滞留時間が長くなり、その結果、反応効率がより向上する。
【0014】
さらに、本発明に係る二酸化炭素の還元方法及び還元装置では、大気圧雰囲気中で還元反応を起こさせ得るので、高圧環境の下で還元反応を起こさせる場合と比較してコストの低減を実現することができる。
さらにまた、本発明に係る二酸化炭素の還元方法及び還元装置では、微細化した気泡がその表面張力によって収縮して断熱圧縮が起き、このとき気泡内部や気液界面で生じるOHラジカルや過酸化水素水などの様々なラジカルが水中に移動するので、二酸化酸素の還元反応速度がより一層上昇する。
【0015】
上記微細化した気泡が収縮して断熱圧縮が起こる際には、ソノルミネッセンスと同様の発光現象が生じて、二酸化炭素自体からも紫外線が照射されると考えられ、その結果、光触媒を活性化させて反応効率をより高め得る。
そして、本発明の請求項5,6に係る二酸化炭素の還元装置では、上記した構成としているので、より効率よく還元反応を起こさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る二酸化炭素の還元方法及び還元装置を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、本発明に係る二酸化炭素の還元装置の一実施形態を示しており、図1に示すように、この還元装置1は、水Aを収容する容器2と、二酸化炭素供給源3と、この二酸化炭素供給源3とガス管4を介して接続する気泡発生器10と、UVランプ(照射手段)5を複数具備したランプユニット6と、容器2に取水管7を介して接続すると共に気泡発生器10に給水管8を介して接続する循環ポンプ9を備えている。
【0017】
この場合、気泡発生器10は、図2に概略的に示すように、円筒状本体11を有しており、この円筒状本体11の一端(図示左端)にガス管4を接続していると共に、他端(図示右端)を気泡放出口11aとして形成していて、円筒状本体11の中央部分における外周面に給水管8を接線方向(周方向)に接続している。
この気泡発生器10の円筒状本体11に、ガス管4を介して二酸化炭素が軸線方向に供給されると、供給された二酸化炭素はその勢いによって、水で満たされた円筒状本体11内に略柱状のガス柱Gを形成する。
【0018】
一方、この状態において円筒状本体11に、給水管8を介して加圧水が接線方向に供給されると、加圧水はガス柱Gの回りに旋回流Grを生成する。
そして、この旋回流Grによってガス柱Gの先端が細かく分断されて微細な気泡Bが発生し、この発生した微細な気泡Bは、気泡放出口11aを通じて加圧水とともに円筒状本体11から放出される。
【0019】
つまり、この気泡発生器10では、二酸化炭素供給源3からの二酸化炭素及び循環ポンプ9からの加圧水を用いて、直径が100μm以下、好ましくは、直径が30μm以下の気泡Bを発生させて容器2の水Aの中に供給するようになっており、ランプユニット6は、光触媒の存在下において二酸化炭素の微細な気泡Bを含む水Aに紫外線を当てるものとなっている。
【0020】
また、この二酸化炭素の還元装置1では、より効率よく還元反応を起こさせるために、流れ調節手段としての撹拌機20や邪魔板21及び光の当たり方を調節する手段としての反射板22を容器2内に設置するようにしている。
上記した還元装置1を用いて、二酸化炭素を還元させるに際しては、まず、二酸化炭素供給源3からの二酸化炭素の供給を開始して、気泡発生器10の円筒状本体11に、ガス管4を介して二酸化炭素を軸線方向に供給すると、供給された二酸化炭素はその勢いによって、水で満たされた円筒状本体11内に略柱状のガス柱Gを形成する。
【0021】
これと同時に、循環ポンプ9を作動させて、気泡発生器10の円筒状本体11の中央部分に、給水管8を介して加圧水を接線方向に供給すると、加圧水はガス柱Gの回りに旋回流Grを生成する。
このようにして生じた旋回流Grによって、ガス柱Gの先端が細かく分断されて微細な気泡Bが発生し、この発生した微細な気泡Bが気泡放出口11aを通じて加圧水とともに円筒状本体11から放出され、これにより、直径が100μm以下、好ましくは、直径が30μm以下の気泡Bが容器2の水Aの中に供給されることとなる。
【0022】
次いで、このようにして微細な気泡Bが供給されている容器2内の水Aに酸化チタンや酸化亜鉛などの微粒子状の光触媒を添加して懸濁液と成した後、ランプユニット6の複数のUVランプ5から紫外線を照射して、光触媒存在下における二酸化炭素の微細な気泡Bを含む水Aに当てると、二酸化炭素の還元反応が起きることとなる。
この二酸化炭素の還元に際しては、上記した反応式(1),(2)に示すように、メタンや、メタノールなどの資源が生成される。
【0023】
例えば、メタンを生成させて回収する場合には、還元装置1における容器2の上部分からガスを回収した後、図3に示すように、PSA(Pressure Swing Adsorption)やガス分離膜などのガス濃縮手段25を用いてメタンを回収し、残った二酸化炭素は再度還元装置1の二酸化炭素供給源3に戻す。
一方、例えば、メタノールを生成させて回収する場合には、光触媒として酸化チタンに微量の銅を添加したものを用い、還元装置1における容器2から懸濁液を回収した後、図4に示すように、液体サイクロンやフィルタなどの触媒分離手段26を用いて光触媒と水とを分離するのに続いて、光触媒を分離した水から膜や蒸留装置などの液濃縮手段27によって液状のメタノールを濃縮して回収する。
【0024】
この実施形態の還元方法及び還元装置1では、二酸化炭素を微細な気泡Bにして容器2内の水Aの中に供給するようにしているので、水Aの中の二酸化炭素の量が増えるのに伴って、二酸化炭素と光触媒との接触面積が大きくなり、その結果、還元反応の効率がよくなって反応速度が上昇することとなる。
また、この実施形態の還元方法及び還元装置1では、二酸化炭素を直径が100μm以下、好ましくは、直径が30μm以下の気泡Bにして供給するので、すぐに上昇して消滅する大きな気泡と比べて、浮力が小さくなる分だけ水中における滞留時間が長くなり、その結果、反応効率がより向上することとなる。
【0025】
さらに、この実施形態の還元方法及び還元装置1では、大気圧雰囲気中で還元反応を起こさせ得るので、高圧環境の下で還元反応を起こさせる場合と比較してコストの低減を実現することができる。
さらにまた、この実施形態の還元方法及び還元装置1では、微細化した気泡Bが収縮して断熱圧縮が起きるときに生じるOHラジカルや過酸化水素水などの様々なラジカルが水中に移動するので、二酸化酸素の還元反応速度がより一層上昇することとなり、この際、二酸化炭素自体からも紫外線が照射されると考えられることから、光触媒が活性化して反応効率がより高まることとなる。
【0026】
さらにまた、この実施形態の還元方法及び還元装置1では、流れ調節手段としての撹拌機20や邪魔板21及び当たり方調節手段としての反射板22を容器2内に設置するようにしているので、より効率よく還元反応を起こさせることができる。
なお、上記した実施形態の還元方法及び還元装置1では、容器2内の水Aに酸化チタンや酸化亜鉛などの微粒子状の光触媒を添加して懸濁液と成すようにしているが、これに限定されるものではなく、他の構成として、例えば、光触媒を容器2の壁面や底壁などに塗布したりプレートなどの容器2への挿入物に担持させたりしてもよい。
【0027】
また、上記した実施形態の還元方法及び還元装置1では、二酸化炭素と加圧水とを気泡発生器10の円筒状本体11内で直接混合するようにしているが、これに限定されるものではなく、二酸化炭素と加圧水とを循環ポンプ9内で混合させたり循環ポンプ9から気泡発生器10の円筒状本体11に至るまでの給水管8内で混合させたりすることも可能である。
【0028】
さらに、上記した実施態様では、気泡発生器10が旋回流式である場合を示したが、撹拌式であってもよい。
さらにまた、容器2内の水Aに、メタノールやエタノールや2−プロパノールなどのアルコールを予め添加して水素の収集率を高めたり、水酸化ナトリウムを添加してpHを調整し得るようにしたりしてもよいほか、水中における遊離炭酸の量を増やすために、水中のカルシウムやマグネシウムなどのイオン量を調節しておくようにしてもよい。
【0029】
さらにまた、上記した実施形態の還元方法及び還元装置1では、照射手段としてUVランプ5を用いた場合を示したが、太陽光線を集めて容器2内の水Aに照射する集光装置を照射手段として採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る二酸化炭素の還元装置の一実施形態を簡略的に示す断面説明図である。
【図2】図1に示した二酸化炭素の還元装置の気泡発生器を簡略的に示す断面説明図(a)及び側面説明図(b)である。
【図3】図1における二酸化炭素の還元装置を用いて気相としてのメタンを生成させて回収する場合の構成を示すブロック図である。
【図4】図1における二酸化炭素の還元装置を用いて液相としてのメタノールを生成させて回収する場合の構成を示すブロック図である。
【図5】純水中における微細気泡のサイズと上昇速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 二酸化炭素の還元装置
2 容器
3 二酸化炭素供給源
5 UVランプ(照射手段)
10 気泡発生器
20 撹拌機(流れ調節手段)
21 邪魔板(流れ調節手段)
22 反射板(当たり方調節手段)
A 水
B 微細な気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元させる二酸化炭素の還元方法であって、
水中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給し、光触媒の存在下において前記二酸化炭素の微細な気泡を含む水に紫外線又は太陽光線を当てて前記二酸化炭素を還元させる
ことを特徴とする二酸化炭素の還元方法。
【請求項2】
二酸化炭素の微細な気泡の直径を100μm以下とする請求項1に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項3】
二酸化炭素を還元させる二酸化炭素の還元装置であって、
水を収容する容器と、
前記容器の水の中に二酸化炭素を微細な気泡にして供給する気泡発生器と、
光触媒の存在下において前記二酸化炭素の微細な気泡を含む水に紫外線又は太陽光線を当てる照射手段を備えた
ことを特徴とする二酸化炭素の還元装置。
【請求項4】
前記気泡発生器から供給する二酸化炭素の微細な気泡の直径を100μm以下とする請求項3に記載の二酸化炭素の還元装置。
【請求項5】
前記容器内の水の流れを調節する流れ調節手段を設けた請求項3又は4に記載の二酸化炭素の還元装置。
【請求項6】
前記照射手段から照射される紫外線又は太陽光線の当たり方を調節する当たり方調節手段を設けた請求項3〜5のいずれか一つの項に記載の二酸化炭素の還元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62321(P2009−62321A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231512(P2007−231512)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】