説明

二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物、該組成物からなる二酸化炭素固定化成型体及びその製造方法

【課題】 コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を損なうことなく、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる特性を有する成形体を形成しうる二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物、該コンクリート組成物からなる成型体、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】 水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム微粉末を含有するコンクリート組成物であって、該コンクリート組成物を硬化させることで、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなる成型体が得られることを特徴とする二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の二酸化炭素を効率よく固定する二酸化炭素固定化成型体の形成に有用なコンクリート組成物、それにより得られる二酸化炭素固定化及び該成型体の製造方法に関するものであり、該成型体は土木建築構造物等に有用である。
【背景技術】
【0002】
我国の二酸化炭素排出量は年間約12億5000万トンに達し、世界の約5.1%を占めるに至っている。1997年の京都議定書における我国の二酸化炭素排出量削減の目標値は1990年比6%削減であるが、現行の対策では、7%の増加となることが予想され、内閣に設置された地球温暖化対策推進本部を中心に関係各分野での早急な有効方策の実施が求められている。
一方、二酸化炭素抑制対策の柱の一つに「革新的技術開発の強化」が揚げられており、省エネ、太陽光発電などの技術と並んで、いったん排出された二酸化炭素を貯蔵・固定化する技術の開発が揚げられている。具体的な研究課題として、プランクトンなどの海洋生物や、樹木などの利用技術、電気化学的手法、地中隔離などの技術が提案されているが、二酸化炭素をいかに効率よく、低コストで固定するかが将来的な課題として研究途上である。
【0003】
土木建築構造物に使用されるセメントコンクリートは、硬化後、主要な化学成分である、水酸化カルシウムや、カルシウムシリケート水和物が大気中の二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムを生じる過程で徐々にアルカリ性を失う、いわゆる炭酸化・中性化現象を生じる性質がある。炭酸化・中性化現象は、コンクリート中の鉄筋の発錆につながるため、従来は炭酸化を抑制する技術が多く研究されてきた。本発明は、逆にこの反応を利用することにより、セメントコンクリート成型体に二酸化炭素を積極的に固定する技術を提案するものである。
【0004】
一般のコンクリートの炭酸化反応は、種々のセメント水和物が大気中の二酸化炭素と反応し、CaCO3の生成やカルシウムシリケート水和物の分解などを生じる。セメント水和物中でCO2と最も早く反応するのは、Ca(OH)2であり、硬化したセメント水和物に含まれる水酸化カルシウムが大気中よりコンクリートに浸透した二酸化炭素と反応し炭酸カルシウムを生じる以下の反応式で表すことができる。
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2
上式の反応により、大気中の二酸化炭素が炭酸カルシウムとしてコンクリート中に固定され、大気中の二酸化炭素がコンクリート成型体への固定化により減少することになる。コンクリート中の炭酸カルシウムは安定な反応物として存在し、極めて分解しにくいため、二酸化炭素はそのままコンクリート中に固定される状態が続く。このような反応は、通常、大気中の二酸化炭素が徐々にコンクリート成型体中に浸透、拡散し、セメント水和物中に含まれる水酸化カルシウムと接触することにより生起、進行する。
【0005】
従来、一般的に使用されるコンクリート成型体は、コンクリートの微細構造が緻密であり、気体の拡散係数が小さく、大気中の二酸化炭素の浸透速度は極めて緩慢であるため、上式で表される如き炭酸化の進行速度は極めて緩やかであり、大気中の二酸化炭素を固定化する特性は極めて弱いといえる。例えば、一般の土木建築物のコンクリートでは、表層から20mm程度の深さまで炭酸化反応が進行するには約50年程度の時間を要し、コンクリート中への二酸化炭素の固定量も限定されている。
一方、コンクリート成型体に透水性、通気性を与えたり、爆裂を防止するなどの目的で、種々の多孔質コンクリートが提案されている。
【0006】
例えば、軽量気泡コンクリートいわゆるALCコンクリートのように大量の空気をコンクリート中に連行する方法、空隙形成材料をコンクリート組成物に混入し、硬化後に空隙材料を収縮或いは分解させ空隙を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。この方法では、形成される空隙の体積が大きいため、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など力学特性が大きく損なわれる欠点があり、また、空隙面積が大きいために、二酸化炭素の吸着に有用なコンクリート表面積の増加が十分に得られず、二酸化炭素を効果的に固定化するには至っていなかった。
【0007】
また、二酸化炭素を積極的に吸着させ、固定化する技術として、飽和石灰水ないしはpH約9.5以上の濃厚な水酸化カルシウム水溶液を空気に接触させつつ、薄膜状にして循環散水することにより、空気中の二酸化炭素を捕集・吸収する方法が提案されているが(例えば、特許文献2参照。)、強アルカリ水溶液を広い表面積で空気と接触させることを必要としており、解放空間で汎用するには安全性に問題がある。さらに、二酸化炭素又は二酸化炭素含有ガスを、アルカリ金属の酸化物(CaO、Na2O、K2O等)、アルカリ土類金属の酸化物(MgO等)、重金属の酸化物を含む石炭、ごみ、バイオマス等の燃焼灰や建設廃材等と反応させて、二酸化炭素を炭酸化して炭酸塩(CaCO3)として固定化する技術が提案されているが(例えば、特許文献3参照。)、この方法では、加圧や加熱のための燃焼炉が必要であり、必要とする設備やエネルギーを考慮すると効率的な処理方法とは言い難いという問題がある。さらにこの方法においては、二酸化炭素を含むガスを装置内に誘導する必要があり、このため、土木・建築構造物等としての使用条件下では、充分な二酸化炭素固定化機能を発現し得ないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−277164公報
【特許文献2】特開平10−230131号公報
【特許文献3】特開平11−192416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を損なうことなく、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる特性を有する二酸化炭素固定化成型体形成用のコンクリート組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、このような二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物を用いて作製された二酸化炭素固定化成型体、及び、該二酸化炭素固定化成形体を効率よく得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、セメントコンクリート組成物中に、大気中の二酸化炭素を大幅に浸透しやすくするための空隙を形成しうる有機材料と、積極的に二酸化炭素を固定化するための特定微粒子とを含有することで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物は、水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム微粉末を含有するコンクリート組成物であって、該コンクリート組成物を硬化させることで、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなる成型体が得られることを特徴とする。
【0010】
該コンクリート組成物に含まれる酸化カルシウム(CaO)微粉末としては、生石灰微粉末や石灰系膨脹材の微粉末などが挙げられる。このような微粉末としては、CaOを含有し、且つ、ブレーン比表面積が3000cm2/g以上であるものが好ましく挙げられ、このような微粉末を用いる場合には、その含有量が前記セメントの含有量に対して5〜30質量%の範囲であることが好ましい。
このようなコンクリート組成物においては、水とセメント(結合材)の重量比が30%以上70%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の請求項4に係る二酸化炭素固定化成型体は、水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム微粉末を含有するコンクリート組成物を硬化させてなる、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなることを特徴とする。
この二酸化炭素固定化成型体の空隙を有する表層部は、コンクリート成型体の表面からの深さ方向で0〜100mm、即ち、少なくとも表面に露出する領域から深さ100mmの範囲に存在することが好ましい。
また、本発明の請求項6に記載の二酸化炭素固定化成型体の製造方法は、前記本発明の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物のいずれかを混練し、成型、硬化した後、アルカリによりコンクリート組成物中に含まれる樹脂微粒子もしくは樹脂からなる有機繊維が分解して、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表層部が形成されることを特徴とする。
【0012】
セメントモルタル、コンクリートの炭酸化は、セメントの水和反応によってセメント水和物中の細孔中に生じた水酸化カルシウムが大気中よりコンクリート中に浸透した二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる反応によって生じる。炭酸カルシウムは化学的に安定な化合物であり、通常の環境条件のコンクリート中では分解されにくいため、コンクリート中に浸透した二酸化炭素は炭酸カルシウムとしてコンクリート中に固定されることになる。
【0013】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定される。本発明のコンクリート組成物によれば、硬化後のアルカリ処理により、モルタル、コンクリートの表層部に多数の微細な空隙が形成され、コンクリート表面から深部への透気性が向上する。
コンクリート中の炭酸ガスの固定化は、前述の如く以下の反応式(1)に従って進行する。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O (1)
ここで、コンクリート組成物に酸化カルシウム微粉末を添加すると、下記反応式(2)で示される如き反応が進行することで、微細な空隙中において、水和反応によりセメント水和物中にCa(OH)2が生成される。従って、上記反応式(1)による炭酸ガスの固定化が促進されるものと推定される。
CaO+H2O → Ca(OH)2+Q (2)
【0014】
コンクリート成形体の表面のみならず、形成された空隙表面にも露出したCaOによりCa(OH)2が生成されることで、本来コンクリートが有するセメント水和物の炭酸化反応による二酸化炭素固定化能がより効率よく行われ、空気中の二酸化炭素を効果的に固定化することができる。
本発明における如き空隙は、個々の空隙の体積が微細であり、コンクリート成型体が本来有する圧縮強度などの力学的特性を大きく低下させる懸念がない。また、このような空隙は、必ずしも成形体の全体に存在しなくても、少なくとも二酸化炭素と接触しやすい成型体の表層部のみに存在すれば本発明の効果を奏するため、表層部のみに空隙を存在させることでより一層の強度低下抑制を図ることができる。
【0015】
本発明の二酸化炭素固定化成形体では、コンクリート中に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔が、表層部におけるコンクリート容積に対して0.05%〜10%設けられており、このような微細な空隙が存在することにより、コンクリート中のセメント量を大きく低下させることなく、またコンクリートの力学特性を損うことなく、二酸化炭素の浸透量及び固定化量を増加させることが可能となった。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を損なうことなく、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる特性を有する二酸化炭素固定化成型体形成用のコンクリート組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記した二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物を用いることで、強度と二酸化炭素固定化能に優れた二酸化炭素固定化成型体を提供することができ、また、本発明の製造方法によれば、前記本発明の二酸化炭素固定化成形体を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物は、水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム(CaO)微粉末を含有することを特徴とする。このようなコンクリート組成物を硬化させることで、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなる成型体が得られる。
【0018】
本発明のコンクリート組成物に用いられるセメントには特に制限はなく、形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとして、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、などが使用できる。
前記混和材料としては特に制限はなく形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント、コンクリート用混和材料から適宜種類、使用量を選択できる。混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどが一般的に使用できる。
また、骨材の種類や量は特に制限はなく、形成される成型体の用途に応じて、骨材の種類及び配合割合を適宜選択することができる。
【0019】
本発明のコンクリート組成物には、以下に詳述するような好適な空隙を形成するために、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維を含有する。微粒子あるいは有機繊維の素材となるアルカリ分解性樹脂としては、アルカリ雰囲気下で分解して減容、或いは消滅する特性を有するものであれば、特に制限はないが、アルカリにより速やかに加水分解する脂肪族ポリエステル、ポリアクリル酸などの生分解性樹脂、アルカリにより加水分解するポリエチレンテレフタレート等が好ましく挙げられる。
なかでも、脂肪族ポリエステルは、コンクリート組成物に混入する前は、繊維強度が十分に高く、良好な取扱い性を有しているが、コンクリート組成物に混入させて、硬化させ、セメント系成型体を形成した場合、アルカリ雰囲気に曝されることで、繊維を構成する樹脂が加水分解して低分子化し、ガス化し、成型体中で良好な空隙を形成するという観点から特に好ましい。
【0020】
このようなアルカリ雰囲気下において加水分解性を有する樹脂として、まず、脂肪族ポリエステル樹脂を例に挙げて説明する。
本発明において用いられる脂肪族ポリエステル樹脂は、単独重合樹脂、共重合樹脂のいずれであってもよいが、自己縮重合および/または開環重合によって得られる単独重合樹脂が好ましい。このような単独重合脂肪族ポリエステル樹脂は公知の種々の樹脂を用いることができるが、より具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシブチレートおよびポリカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
前記例示の単独重合脂肪族ポリエステル樹脂は、いずれも生分解性樹脂として知られているが、アルカリ雰囲気下で加水分解して容易に低分子量化するため、本発明に好適に用いられる。
【0021】
また、本発明においては、ポリマー分子内に、前記各樹脂の構成単位を2種以上有する共重合脂肪族ポリエステル樹脂、あるいは前記各樹脂の構成単位とその他の構成単位を有する共重合脂肪族ポリエステル樹脂も用いることができる。
これらの樹脂の中で、経済性や、カーボンニュートラル、効果などの点から、特に発酵法による乳酸を原料とするポリ乳酸が好ましい。
本発明においては、樹脂微粒子、有機繊維の素材として、これらの脂肪族ポリエステル樹脂を、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
空隙を形成する場合、脂肪族ポリエステル樹脂は、乳化重合、造粒、紡糸など公知の方法により繊維状或いは、微粒子状に成形して用いる。有機繊維に成形する場合、その紡糸方法については特に制限はなく、従来、熱可塑性樹脂の紡糸において慣用されている公知の方法の中から、任意の方法を適宜選択して用いることができる。また、紡糸繊維を、必要に応じ公知の方法で延伸処理してもよい。繊維状に成形された樹脂は、コンクリート内部で、細長い連続的な空隙を形成するため、不定形や微粒子状の樹脂に比較して本発明の効果が向上するため好ましい。
また、前記の脂肪族ポリエステル樹脂には、成形性、紡糸性や、繊維にした場合のアルカリ加水分解性以外の物性を向上させるなどのために、本発明の目的が損なわれない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニールアルコール、ポリアセタール、芳香族ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミドなどを併用してもよく、また、可塑剤等の公知の添加剤を適宜添加することもできる。
【0023】
このような素材からなる本発明のセメント系成型体用有機繊維は、アルカリ雰囲気下において加水分解性を有しており、したがって、セメント配合物に混入させて、セメント系成型体を形成した場合、セメント水和物が本来有するアルカリ雰囲気に曝されることで、該繊維を構成する樹脂が加水分解する。例えば、ポリ乳酸繊維を用いた場合、セメント水和物中に一定期間、具体的には、9週間以上おくことにより、減容し、空隙が形成される。
脂肪族ポリエステル樹脂をコンクリート組成物に配合する場合、効果の観点から、微粒子としては、平均粒径が10〜500μmの範囲のものが好ましく、20〜200μmのものがさらに好ましい。
【0024】
有機繊維としては、形状が、直径5〜100μm、長さ50μm〜500mmのものが好ましく、より好ましくは直径10〜50μm、長さ1〜15mmであり、さらに好ましくは長さが5〜10mmの範囲である。
なお、微粒子の粒径、有機繊維の形状は、電子顕微鏡或いは高倍率の光学顕微鏡による映像を用いて常法により測定することができる。
コンクリート組成物中の樹脂微粒子或いは有機繊維の配合量としては、二酸化炭素固定化能や構造体の強度などを考慮すると、コンクリート組成物の全量に対し、0.02〜1.0体積%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5体積%、さらに好ましくは0.1〜0.3体積%である。
【0025】
本発明のコンクリート組成物には、さらに、酸化カルシウム(CaO)微粉末を含有する。
本発明に用いうるCaO微粉末としては、CaOを含有し、且つ、ブレーン比表面積が2000cm2/g以上であるものを用いる。
CaOを主成分とする微粉末は、生石灰や石灰系膨脹材などをブレーン比表面積が2,000cm2/g以上の微粉末状に粉砕したものを用いることができる。このような微粉末は、石灰系混和材と同様に、混和材料としても使用することができる。
微粉末のブレーン比表面積は3000cm2/g以上であることを要し、3000〜4000cm2/gの範囲であることがより好ましい。なお、微粉末のブレーン比表面積は、JIS R 5201 に記載のブレーン法により、或いは、レーザー回析粒度計を用いる方法により、測定することができる。
【0026】
CaO微粉末は、コンクリート組成物中に0.5〜2.0容積%の範囲で含まれることが好ましく、この範囲において優れた二酸化炭素吸着能が発現され、成形体の力学的特性にも優れる。含有量が多すぎる場合、水和反応による生成物の過大な体積増加により、得られたコンクリート成形体にひび割れや変形を生じたり、圧縮強度や弾性係数といった力学特性が低下し,構造物の機能を損う虞がある。
【0027】
本発明のコンクリート組成物には、上記必須成分の他、通常セメント系組成物に配合されている各種添加剤、例えば減水剤、空気連行剤、消泡剤などを、適宜配合することができる。
コンクリート組成物中の水とセメントの重量比は、形成されるコンクリート組成物からなる成型体の用途に応じて適宜選択することができるが、大気中の二酸化炭素との炭酸化反応を促進するためには、水と結合材の重量比は30%以上70%以下が好ましく、より好ましくは40%以上65%以下である。
【0028】
次に、本発明の二酸化炭素固定化成形体について説明する。
本発明のコンクリート組成物を硬化させて得られる成型体は、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を、0.05容積%〜10容積%の範囲で有する。この空隙は、コンクリート組成物に含有するアルカリ分解性樹脂の微粒子や該樹脂からなる有機繊維を、コンクリート硬化後、アルカリ雰囲気下に晒すなどの手段により、これらの樹脂を分解、減容させて形成することができる。空隙のサイズや密度(存在量)は、含有させる樹脂微粒子或いは樹脂からなる有機繊維のサイズ、添加量などにより容易に調整することができる。
【0029】
本発明の効果は、表層部における空隙、空洞孔の存在及びコンクリート組成物に含まれる二酸化炭素の吸着物質の存在により達成される。本発明でいう表層部とは、コンクリート成型体の断面において表面からの深さ方向で0〜100mm程度の範囲を指し、この領域に前記の如き空隙、空洞孔を有することで本発明の効果を達成しうる。空隙は、成型体のさらなる深部まで均一に存在していてもよいが、表層部以外の深部に存在する空隙は炭酸ガスの固定化には関与し難いため、表層部以外に存在する空隙による二酸化炭素の固定化向上効果は小さいものとなる。
【0030】
本発明の二酸化炭素固定化成型体は、前述の本発明のコンクリート組成物を硬化させて得られる成型体である。
前記セメント成型体としては、水、セメント、混和材料、骨材、化学混和剤よりなるコンクリート組成物であり、形成されるセメント系成型体の用途に応じて各種材料の、重量比を適宜調整することができる。
【0031】
本発明の二酸化炭素固定化成型体は、前記した空隙形成用の分解性樹脂からなる微粒子或いは有機繊維を含有する二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物を混練し、成型、硬化した後、アルカリ処理によりコンクリート組成物中に含まれる樹脂微粒子もしくは樹脂からなる有機繊維を分解させ、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表層部を形成することにより製造することができる。
アルカリ雰囲気下に暴露した場合には、アルカリに接触した成形体の表面領域から徐々に樹脂が分解(/減容)し、空隙が形成される。アルカリ雰囲気の特性やアルカリ雰囲気への接触条件を制御することにより、コンクリート成型体の表層部のみに空隙を形成することができる。また、空隙形成用の分解性樹脂を含まないコンクリート組成物による成型体の表面に空隙形成用の分解性樹脂を含んだコンクリートを打設、硬化して空隙を形成させることにより、表層部のみに空隙を有する成型体を形成することもできる。
このように、空隙は少なくとも二酸化炭素の固定化に関与する表層部に形成されていればよいが、コンクリートのさらなる深部まで均一に形成されていてもかまわない。しかしながら、前述のように、深部に存在する空隙は二酸化炭素の固定化の観点からは有用性は低い。
【0032】
このような空隙を有する表層部において空隙の開口部から徐々に二酸化炭素が浸透し、コンクリート組成物中においてセメントの水和反応の反応生成物である水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムを形成し、二酸化炭素の固定化がなされる。このとき、コンクリート組成物中に含まれるCaO微粉末の機能により、成形体表面、或いは、そこに形成された微細な空隙の表面において、この二酸化炭素の固定化が促進され、効率のより二酸化炭素の固定化が達成される。
【0033】
表層部に形成された空隙のサイズや形状は、成型体断面を電子顕微鏡で観察することにより、検知できる。また、空隙率は水銀圧入ポロシメータなどにより測定することができる。
本発明のコンクリート組成物からなる二酸化炭素固定化成形体は、従来のセメントコンクリート組成物からなる成形体に比較して大気中の二酸化炭素による炭酸化反応が促進され、セメント成型体中に二酸化炭素が効率よく固定され、固定化量が増大する効果を持つとともに、その力学特性は従来のコンクリート組成物からなる成形体と同程度に維持することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
(実験例:コンクリート組成物の配合)
普通ポルトランドセメントと水、砂(骨材)を含有するセメント組成物100質量部中に、下記表1に示す量の分解性樹脂からなる有機繊維及び酸化カルシウム微粉末を配合して、水/セメント組成物比(W/C 比)が50%、セメント組成物と砂の比率が1/3のモルタルを調製してコンクリート組成物を調製した。
【0035】
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)比重3.15
水:水道水
砂:木更津産山砂、表乾密度2.65g/cm3、吸水率0.46%、実積率60.4%、粗粒率6.70
AE減水剤:チューポールEX20(竹本油脂社製)
消泡剤:AFK−2(竹本油脂社製)
【0036】
有機繊維:ポリ乳酸短繊維、繊維径48μm、長さ10.0mm
酸化カルシウム微粉末:石灰系膨脹材(太平洋セメント社製、エキスパン:主成分がCaOである、ブレーン比表面積が約3500cm2/gの微粉末:表1中には「CaO微粉末」と記載)
【0037】
[コンクリート組成物の配合]
表1にコンクリート組成物の配合を示す。表中で使用した各材料の詳細は上記の通りである。なお、下記表1中、W/Cは、水/結合材比を表す。
【0038】
【表1】

【0039】
[セメント成型体の製造方法]
前記表1に記載のコンクリート組成物について、水、セメント、砂および有機繊維または樹脂微粒子を所定量ミキサ(ホバート社製 SK−30Sミキサ、容量30L)に投入し、3分間練り混ぜた。この際、練りあがったモルタルの空気量が一定の値(5.0容量%)と成るよう、AE減水剤および消泡剤を適量添加し調整した。練り混ぜ後、型枠内に成型し、硬化し、二酸化炭素固定化成型体を得た。これらの成型体について、以下に示す各試験行った。これらの結果を下記表2に示す。なお、ポリ乳酸繊維は、セメント水和物中に一定期間、具体的には、9週間以上おくことにより、減容し、空隙が形成される。
【0040】
[成型体の評価方法]
1.圧縮強度
JIS R 5201に準じて圧縮強度を測定した。
2.中性化深さ
材齢9週まで20℃水中養生を施した後、20℃・相対湿度60%・炭酸ガス濃度5%の環境で4週間静置して促進中性化を行った。促進中性化後、モルタル断面にフェノールフタレイン1%アルコール溶液を塗布して中性化深さを確認した。中性化深さが深いほど多くの二酸化炭素が中性化により固定化されたことになり好ましい。
3.炭酸化量
中性化深さ試験と同様に材齢9週まで20℃水中養生を施した後、20℃・相対湿度60%・炭酸ガス濃度5%の環境で4週間静置して促進中性化を行った。静置後、試験体をボールミルで粉砕し,#200ふるいを通過するものをスクリーニングし,全炭素量分析計(島津製作所社製TOC−SSM5000A)を用いて粉末試料中の炭素質量を測定し、炭素質量から二酸化炭素質量に換算し、試料の全容積に対する二酸化炭素質量として、CO2固定化量を求めた。数値が大きいほど、多くの二酸化炭素が固定化されたことになり、好ましい。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、本発明の実施例1〜4の成型体は空隙を有しない比較例1に対して、炭酸化反応によって固定化された二酸化炭素含有量が概ね5〜15倍程度と大きく、また、空隙のみを有する比較例2に対しても1.1〜1.6倍となっており、セメント成型体の炭酸化反応と二酸化炭素の吸着が効率よく進行し、多くの二酸化炭素が固定化されたことがわかる。また、圧縮強度は比較例1に対して95%以上の値となっており、空隙を有する表層部を有していても、繊維未添加の比較例1とほぼ同等の強度が得られていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム微粉末を含有するコンクリート組成物であって、該コンクリート組成物を硬化させることで、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなる成型体が得られることを特徴とする二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
【請求項2】
前記酸化カルシウム微粉末が、酸化カルシウムを含有し、且つ、ブレーン比表面積が3000cm2/g以上の微粉末であり、該微粉末の含有量が0.5〜2.0容積%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記水とセメントとの質量比が30%以上70%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
水、セメント、混和材料、骨材、アルカリ分解性樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維、及び、酸化カルシウム微粉末を含有するコンクリート組成物を硬化させてなる、表層部に、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなることを特徴とする二酸化炭素固定化成型体。
【請求項5】
前記二酸化炭素固定化成型体の空隙を有する表層部が、コンクリート成型体の表面からの深さ方向で0〜100mmに存在する請求項4に記載の二酸化炭素固定化成型体。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物を混練し、成型、硬化した後、アルカリによりコンクリート組成物中に含まれる樹脂微粒子もしくは樹脂からなる有機繊維が分解して、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表層部が形成されることを特徴とする二酸化炭素固定化成型体の製造方法。

【公開番号】特開2007−8748(P2007−8748A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190372(P2005−190372)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】