説明

二酸化炭素用ナノ電子センサー

二酸化炭素を検出するための電子システムと方法であって、ナノ構造体を有する検出装置(COセンサー)を使用する使用する該電子システムと方法が提供される。このCOセンサーは基板と該基板上に配設されたナノ構造体から構成される。ナノ構造体はカーボンナノチューブ又はナノチューブのネットワークを具有していてもよい。2個の導電性素子が基板上に配設され、該ナノチューブに電気的に接続される。ゲート電極をナノ構造体に対置させてもよい。二酸化炭素に対して反応性のある機能性材料がCOセンサー上(特にナノチューブ上)に配設される。COセンサーは、センサーの周囲環境中のCO濃度の変化に応答する電気回路に接続させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本願は、米国特許法(U.S.C.)第119(e)条により、米国仮出願第60/502,485号(出願日:2003年9月12日)及び同第60/504,663号(出願日:2003年9月18日)に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の全記載内容も本願明細書の一部を成すものである。
【0002】
本発明は、ナノ構造体(nanostructure)装置、例えば、ナノチューブ(nanotube)センサー及びトランジスター並びにこれらの製造法に関する。
【背景技術】
【0003】
電界効果トランジスター(FET)を含む単壁ナノチューブ(SWNT)は、含鉄触媒のナノ粒子とメタン/水素混合ガスを原料として、シリコン基板又はその他の基板上へ900℃での化学蒸着によって成長させるナノチューブを用いて製造することができる。その他の触媒材料とガス混合物を用いることによって、基板上にナノチューブを成長させることができる。その他の電極材料とナノ構造体の形態は、ガブリエルらによる次の米国特許出願の明細書に記載されており、これらの記載内容全体も本願明細書の一部を成すものである:第10/099,664号(出願日:2002年3月15日)及び第10/177,929号(出願日:2002年6月2日)。現在のところ、実用的なナノ構造体装置を製造するための技術は初期段階にある。ナノチューブ構造体をセンサー装置やトランジスターとして利用することは保証されているが、現段階の技術は多くの点で制限されている。
【0004】
SWNTセンサーの1つの可能な用途は、COの検出である。室内空気中のCOを検出するための従来技術においては、非ナノチューブを利用する比較的大型で、高出力を必要とする赤外線センサーが使用されている。この種のセンサーの用途は、サイズ、コスト及び出力の観点から非常に制限されている。
【0005】
低コストで低出力の小型のCOセンサーの製造が可能となれば、このようなセンサーはより広範囲の分野において使用することができる。例えば、ビル内での空調管理においては、COセンサーの利用度が高ければ高いほど、暖房と換気システムの調整効率が一層高くなり、その結果、エネルギーコストの大幅な節約がもたらされることになる。簡便で使い捨て可能なCOセンサーの別の可能な用途には、医療分野での用途、例えば、集中治療中及び麻酔中の患者の呼気中の二酸化炭素の濃度を測定するカプノグラフィー(capnography)等が含まれる。コストが高くて用途が制約されている現存のCOセンサーは、調整された重要度の高い環境(例えば、外科手術室内の環境)におけるカプノグラフィーの利用を制限している。低コストで使い捨て可能なCOセンッサーは、カプノグラフィーのコストを低減させるだけでなく、融通性のある一時的監視を容易にし、又当該技術の適用範囲を拡大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、当該分野においては、多様な用途に供することができる小型で出力が低く低コストのCOセンサーが要請されており、本発明はこのような要請に応えるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、二酸化炭素を検出するための電子システムと方法であって、ナノ構造体検出装置(COセンサー)を利用する該電子システムと方法を提供する。このCOセンサーは基板及び該基板上に配設されたナノ構造体を具備する。本発明の1つの実施態様においては、ナノ構造体はカーボンナノチューブを具有する。2つの導電性素子が基板上に配設され、ナノチューブに電気的に接続される。二酸化炭素に対して反応性を示す機能性材料(functionalization material)がCOセンサー(特にナノチューブ)上に配設される。COセンサーは、センサーの周囲環境中のCO濃度の変化に応答する電気回路に接続されてもよい。
【0008】
カーボンナノチューブ電界効果トランジスター装置(NTFET)を製造してもよく、該装置は、該装置と化学的検体との間の電荷移動によって該化学的検体に応答する装置特性を発揮する。この種の装置は、強い電荷の供与体と受容体の存在に対して一般に最も感度が高いが、弱いルイス酸や塩基(例えば、H,CO及びCH)に対する感度は比較的低い。標的検体と化学反応する認識層(recognition layer)を用いることによって特殊な感度を達成することができ、これによってNTFETの装置特性を、該装置特性が測定できるように変化させることができる。
【0009】
半導電性特性又は導電性特性を有する認識層は非共有結合材料(noncovalent material)、例えば、ポリマー被覆材等から選択してもよい。この種の有機認識層は組合せの多様性をもたらし、又、COに対する感度を化学的に改変することができる。ポリマーは、容易に加工できるという付加的な利点を有しており、加工は、例えば、スピン被覆法、浸漬被覆法、ドロップ注型法及びマイクロスポット法等の方法によっておこなうことができる。マイクロスポット法は、多様に異なる検体に応答するように設計されたセンサーアレー(sensor array)中の多重センサーを製造するためには特に有用である。別の利点は、被覆過程の制御工程中に監視することができるNTFET装置の特性をポリマー被覆層によって改変できる場合が多いという点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
当業者による上記のCOセンサーのより完全な理解並びに該センサーの付加的な利点及び目的の達成は、本発明の好ましい実施態様に関する以下の詳細な説明を考慮することによってもたらされる。
【0011】
最初に、添付図面を簡単に説明する。
図1は、CO2ガスに対して特異的な認識層を具有するナノ構造体装置の模式的断面図である。
図2A及び図2Bは、CO濃度の異なるフローセル(flow cell)内における包装されたナノ構造体装置の試験結果を示すチャートである。
図3は、ナノチューブ電界効果トランジスターセンサー装置内のCO−選択性認識層として適当なポリ(エチレンイミン)(PEI)とデンプンポリマーとの混合物を示す模式図である。
図4は、PEI/デンプンで被覆された最適化ナノチューブネットワーク電界効果トランジスターセンサー装置に対するCOガスの応答を示すグラフである。
【0012】
本発明の実施態様には、二酸化炭素(CO)に対する新規な検出技術であって、ナノ電子成分を使用する該検出技術が包含される。小型で低コストのナノセンサーチップ(nanosensor chip)は次のような効果をもたらす:(i)赤外線技術の性能に匹敵するか、又はこれを凌駕する性能、(ii)ディジタル制御システムとアナログ制御システムの両方を伴うプラグ・アンド・プレイ(plug-and-play )規格を利用できる簡便性、及び(iii)無線集積化に必要な小型サイズと低消費出力。
【0013】
半導性単壁カーボンナノチューブから製造される電界効果トランジスター(NTFET)は、感受性化学センサー用プラットホームとして使用されている。図1は、二酸化炭素(101)を検出するための電子システム(100)であって、ナノ構造体検出装置(102)を具備する該電子システムを示す。該装置(102)は、基板(104)及び該基板上に配設されたナノ構造体(106)を具有する。該ナノ構造体(106)は、図示するように、基板と接触していてもよく、あるいは、介在物質層を介在させるか又は介在させないで、該基板から離反状態で配設させてもよい。
【0014】
本発明の1つの実施態様においては、ナノ構造体(106)はカーボンナノチューブを具有していてもよい。その他の適当なナノ構造体、例えば、ナノワイヤ(nanowire)、ナノファイバー(nanofiber)又はナノロッド(nanorod)等を使用してもよい。さらに、あるいは、ナノ構造体(106)は硼素、窒化硼素、窒化炭素硼素、珪素、ゲルマニウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛、リン化インジウム、モリブデンジスルフィド若しくは銀、あるいはその他の適当な材料を含有していてもよい。
【0015】
別の実施態様においては、ナノ構造体(106)は、より小さなナノ構造体が相互に連結したネットワークを含む。例えば、ナノ構造体(106)は、メッシュ(mesh)を形成する複数のナノチューブを含んでいてもよい。
【0016】
2つの導電性素子(108,110)を基板上に配設させてナノ構造体(106)と電気的に接続させてもよい。導電性素子(108,110)は、ナノ構造体(106)と直接的に接触する金属電極を具有していてもよい。あるいは、図示されてはいない導電性又は半導性の物質を導電性素子(108,110)とナノ構造体(106)の間に介在させてもよい。二酸化炭素と反応性のある機能性材料(115)をナノ構造体検出装置(102)、特にナノ構造体(106)上に配設される。機能性材料(115)は連続的な認識層として配設させてもよく、あるいは、不連続な認識層として配設させてもよい。適当な認識層は、1種よりも多くの材料及び/又は1層よりも多くの材料層を含んでいてもよい。
【0017】
装置(102)はゲート(112)をさらに具有していてもよい。又、装置(102)は、導電性素子(108,110)と第一のナノ構造体(106)との連結部に隣接する領域を覆う抑制物質層(114)をさらに具有する。抑制物質は少なくとも1種の化学種、例えば、二酸化炭素等に対して不透過性であってもよい。抑制物質は、当該分野において既知の不動態化物質(passivation material)、例えば、二酸化珪素等を含有していてもよい。NTFETにおける抑制物質の使用に関するさらに詳細な説明は、先行する米国特許出願第10/280265号(出願日:2002年10月26日)明細書に記載されており、該記載内容は本明細書の一部を成すものである。
【0018】
さらに、システム(100)は、第一のナノ構造体検出装置(102)のような第二のナノ構造体検出装置(図示せず)をさらに具有していてもよい。この第二の装置には、層(115)中に含まれる物質とは異なる物質を含有する機能性材料層を付与するのが有利である。
【0019】
さらにまた、システム(100)は、ナノ構造体検出装置回路(116)を具備する。該回路(116)は1又は複数の給電源(118)、該給電源(118)と電気的に接続した計器(120)並びに第一ナノ構造体検出装置(102)及び該給電源と計器との間の電気的接続部(122)を具備していてもよい。又、システム(100)は、第一ナノ構造体検出装置回路と連絡する当該分野で既知の信号制御処理ユニット(図示せず)をさらに具備していてもよい。
【0020】
カーボンナノチューブは、検出素子自体として作用するのではなく、感受性の変換器(transducer)として作用する。基本的なプラットホームに関しては多様なデザインが可能である。このようなデザインには、1本又は数本のナノチューブを具有する装置及びナノチューブのネットワークを具有する装置が含まれる。ナノチューブの有用なネットワークは、例えば、ナノチューブの分散物(dispersion)を基板上へ分布させて該ナノチューブを無秩序に平面配向させることによって形成させてもよい。電極アレーの上部又は下部の分散物中へ多数の無秩序配向させたナノチューブを分布させることによって、基板から分離されるべき個々の装置内の均一な電気的特性を保証することができる。この場合、ナノチューブの調整された配置又は成長を達成するための従来技術を利用する場合に比べて、より高い歩留まりとより早い加工が可能となる。有用なナノチューブのネットワーク装置の構造とその製造方法に関するさらに詳細な説明は上述の米国特許出願第10/177929号明細書に記載されている。
【0021】
ナノチューブ変換器は、所望の感度と選択性が得られるように化学的に機能化させることができる。該変換器は、多様な不活性ガスを検知するように製造することができる。機能化方法は、ナノチューブに電子を供与してNTFETのn−ドーピング(doping)をもたらす電子供与特性を有する基本的な無機化合物と有機ポリマー並びに芳香族化合物の機能によって左右される。
【0022】
COに対する感応性は機能化によっても達成することができる。機能化層は次の2つの主要な機能を有する:(1)二酸化炭素分子を選択的に認識し、(2)COと結合すると、カーボンナノチューブ変換器へ伝達される増幅信号を発生する。水の存在下では、二酸化炭素は炭酸を生成する。炭酸は解離して機能化層のpHを変化させるので、電子供与性基がプロトン化され、NTFETのp−型の度合いはより高くなる。
【0023】
基材となる無機化合物(例えば、炭酸ナトリウム等)、pH−感応性ポリマー[例えば、ポリアニリン、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(3−メチルチオフェン)及びポリピロ−ル等]及び芳香族化合物(例えば、ベンジルアミン、ナフタレンメチルアミン、アントラセンアミン、ピレンアミン等)を使用することによって、NTFETをCO検出用に機能化させることができる。機能化層は特定のポリマー材料、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルアルコール)及びポリサッカリド(種々のデンプン並びにこれらの成分であるアミロース及びアミロペクチンを含む)等を使用して調製することができる。機能化層を調製するために適したその他の材料としては、金属、金属酸化物及び金属水酸化物が例示される。さらに、金属製機能化層をポリマー製機能化層と組み合わせてもよい。
【0024】
機能化層中の沈着物質は、被沈着物質の種類に応じて、種々の方法によってNTFET上に沈着させてもよい。金属はセンサーチップ(sensor chip)上に蒸着させることができる。さらに、あるいは、金属は、例えば、先に言及した仮出願第60/504663号明細書に詳述されているようにして、カーボンナノチューブ上へ特異的に電気めっきすることができる。
【0025】
機能化層中の沈着物質は、被沈着物質の種類に応じて、種々の方法によってNTFET上に沈着させてもよい。例えば、炭酸ナトリウムのような無機物質は、低級アルコールを溶剤とする1mM溶液の滴下流延法(drop casting)によって沈着させてもよい。次いで、機能化センサーに窒素又はその他の適当な乾燥剤を吹き付けることによって乾燥処理をおこなう。ポリマー材料は浸漬被覆法によって沈着させてもよい。この一般的な方法には、カーボンナノチューブ装置を具有するチップを10%のポリマー水溶液中に24時間浸漬させた後、水で数回すすぎ、次いで該チップを窒素の吹きつけによって乾燥させる過程を含めてもよい。水に溶解しないポリマーは、有機溶剤を溶媒とする溶液からチップ上へスピン塗装してもよい。この場合、ポリマーの濃度とスピンコーター(spin coater)の回転速度は、使用する各々のポリマーの種類に応じて最適化すればよい。
【0026】
COは比較的反応性が低いために、該ガスに対するセンサーを製造することは比較的困難である。しかしながら、1つの有用な反応は、二酸化炭素が第1アミン及び第2アミンと常温常圧で結合してカーボネートを形成する反応である。この反応を、ポリ(エチレンイミン)(PEI)とデンプンポリマーとの混合物でセンサーのナノチューブ部分を被覆することによってNTFETセンサーを製造する方法に利用してもよい。検出機構には、ポリマー被覆層中へのCOの吸着過程及びその後でおこなわれる水とPEIのアミノ基を含む酸−塩基平衡の達成過程が含まれる。COの吸着はポリマー層全体のpHを低下させて半導性ナノチューブ溝への電荷移動を変化させ、この結果、NTFETの電子的特性の変化がもたらされる。
【0027】
この検出機構は、PEI又はこれに類似する材料(例えば、ガス混合物からCOを吸着すると共に、カーボネート反応を促進するアミノ基を有するポリマー)のポリマー被覆層に基づくものであるが、該検出機構は、該ポリマー被覆層中へ相溶性の吸湿性物質を添加することによって大幅に高めることができる。例えば、適当な反応層は、PEI又はこれに類似するポリマーとデンプンポリマーを併用して形成させてもよい。適当なデンプンとしては、線状成分であるアミロースと分枝状成分であるアミロペクチンとの混合物が例示される。
【0028】
デンプンの存在によって水が誘引され、該水はCOと相互作用し、次いでカーボネートイオンとビカーボネートイオンとの競合的形成に起因して上記平衡を移動させると考えられる。この結果、ポリマー認識層中のCOの局部的な濃度増加によって、PEIのアミノ基のより多くのプロトン化がもたらされ、COに対するより高い感度の応答性がNTFETに付与される。
【0029】
PEI若しくはこれに類似するポリマーを用いた認識層及び本明細書に記載のNTFETを使用することによって、n−型のセンサー装置がもたらされる。この効果は、ポリマー中のアミノ基の電子供与性に起因するかもしれない。カルバメートの形成によって、ポリマーの全体的な電子供与効果は低減し、これによって、電子の除去に対応する装置特性がもたらされる。カルバメートの形成に際しては、ポリマー層中において幾何学的変形が発生し、これによって、ナノチューブ上において散乱サイト(scattering site)がもたらされると共に、正のゲート電圧においてコンダクタンスの低下がもたらされる。
【0030】
フローセル内で制御された湿度条件下及びバランス量の空気中における種々のCOガス濃度において試験したパッケージ装置について測定をおこなった。PEI/デンプンで機能化したNTFET装置の二酸化炭素に対する応答性をこの条件下において測定した。図2A及び図2Bに測定例を示す。機能化したNTFET装置は、周囲条件下における空気中のCOガスに対して1000ppmのような低濃度においても信頼性の高い応答性を示した。濃度を100%と0%との間で循環的に変化させたCOに対する機能化NTFETセンサーの応答性を図2Aに示す。図2Bには、濃度を図中に示す順序で0.1%と0%との間、0.5%と0%との間、及び1%と0%との間で循環的に変化させたCOに対する機能化NTFETセンサーの応答性を示す。
【0031】
前述のようなCOセンサーにおける応答性と回復時間は、各暴露に伴って漸進的に遅くなるが、これは、ポリマー/ナノチューブ界面におけるCO飽和に起因すると考えられる。I−V測定間のゲート電圧を掃引(sweeping)することによってこの遅延化を逆転させることが可能である。ゲート電圧の掃引は、ポリマー層中でのCOの結合に際して形成されるBCOBH電荷と干渉し、これによって平衡を元のNTFET特性の方向へ変位させてもよい。
【0032】
化学的センサーとして使用するためのNTFETの製造と配置に関するその他の詳細な事項は米国特許出願第10/656898号明細書(出願日:2003年9月5日)に記載されており、該記載内容も本明細書の一部を成すものである。
【0033】
センサーの特性を改良するために、ポリマーの比率、沈着条件及び得られるポリマー層の厚さを変化させることによって、ポリマー認識層をセンサー性能に関して最適化してもよい。変換器の電子的特性及びCOガスに対する応答性を最適化するために、センサーのプラットホームを改変してもよい。例えば、電極間にナノチューブのネットワークを使用することによって、認識層の沈着の前後における電子的特性をより高い再現性で付与するようにしてもよい。本発明を以下の実施例によってさらに詳述する。
【実施例】
【0034】
図3に模式的に図示するポリ(エチレンイミン)(PEI)とデンプンポリマーとの混合物を使用することによって、ナノチューブ電界効果トランジスター(NTFET)センサー装置及びナノチューブネットワーク電界効果トランジスター(NTNFET)センサー装置において、COを選択的に認識する認識層を形成させた。PEI(第1アミノ基25%、第2アミノ基50%及び第3アミノ基25%を有する分枝度の高いポリマー)は、ガス混合物からCOを効率的に吸着する。CO認識層中にPEIとデンプンポリマーを共存させるのが望ましい。線状成分であるアミロースと分枝状成分であるアミロペクチンとの混合物から成るデンプンはナノチューブと強い相互作用をし、PEIのアミノ基とCOとの反応に影響を及ぼす。
【0035】
必要なセンサー特性を改良するために、ポリマーの比率、沈着条件及び得られるポリマー層の厚さを変化させることによって、センサー性能を最適化させた。変換器の電子的特性とその後のCOガスに対する応答性を最適化させるために、センサーのプラットホームを改変させた。例えば、電極間にナノチューブのネットワークを使用することによって、電界効果トランジスター(FET)の挙動が保持されるだけでなく、認識層の沈着の前後において電子的特性がより高い再現性でもたらされる。図4は、最適化されたPEI/デンプン被覆NTNFETセンサーにおけるCOガスに対する応答性を示す。COガスに対するこの応答性は、低濃度においても迅速で再現性がよく、又、空気中のCOの濃度が500ppmから10%の範囲においては、広い動的範囲を示す。
【0036】
NTFET装置及びNTNFET装置は、既知の方法に従って、100mmウェーハ(wafer)上での標準的な写真印刷法を用いて調製した。NTFET装置は、成長促進剤としての分散された鉄のナノ粒子及びメタン/水素ガス混合物を用いる900℃での化学蒸着(CVD)によって成長させたSWNTを使用して調製した。電気的リード線は、金層(厚さ:120nm)でキャップ化したチタン膜(厚さ:30nm)からナノチューブの上部面上へパターン化させた。装置の特性を確証するための初期の電気的測定をおこなった後、基板を、ポリ(エチレンイミン)(PEI)[平均分子量:約25000;アルドリッチ・ケミカルズ社製] 及びデンプン(平均分子量:10000;アルドリッチ・ケミカルズ社製)の10重量%水溶液中に一夜浸漬させ、次いで水を用いるすすぎ処理に付した。原子顕微鏡観察(atomic force microscopy)によれば、装置はポリマー製薄層(厚さ:<10nm)で被覆されていた。
【0037】
COの検出試験をおこなうために、PEI/デンプンポリマーを用いる機能化処理の前に、多重NTFET装置を具有するチップを電線で接続させた後、40−pin CERDIPパッケージ内へ収納した。パッケージ内に収納されてポリマーで機能化された装置は、該装置内へ空気又はCOガス混合物を導入可能なフローセル内で組み立てた。低濃度のCOは、空気及びCOを10%含有する空気を種々の割合で混合することによって調製した。この混合には、「CSSI1010精密ガス希釈器」[カスタム・センサー・ソリューションズ社(ネーパーヴィル、イリノイ)製] を使用した。
【0038】
二酸化炭素用ナノ電子センサーの好ましい実施態様について説明したが、該センサーのシステムにおいて一定の利点が得られたことは当業者にとって明らかな事項である。又、該センサーの種々の修正、改変及び別の実施態様を本発明の範囲と技術的思想の範囲内で実施することが可能なことも当業者には認識できる事項である。例えば、本明細書においては、ナノチューブを用いたセンサーについて例示的に説明したが、上述の発明概念はその他のタイプの電子的応答性ナノ構造体にも同等に適用できることは当業者にとって明らかな事項である。又、例えば、類似の構造体は、NTFETの代わりに、ナノワイヤ又はナノロッドを用いて製造してもよい。
【0039】
さらに、本発明は、異なる装置、材料及び機器を使用して実施することができ、又、本発明の範囲を逸脱することなく、前述の装置及び操作手順に関して種々の修正や改変をおこなうことができる。本発明は、本願の特許請求の範囲によって限定される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】COに対して特異的な認識層を具有するナノ構造体装置の模式的断面図である。
【図2A】CO濃度の異なるフローセル内のナノ構造体装置を用いたCO試験で得られた時間と電流との関係を示すチャートである。
【図2B】CO濃度の異なるフローセル内のナノ構造体装置を用いたCO試験で得られた時間と電流との関係を示すチャートである。
【図3】PEIとデンプンの構造体を示す模式図である。
【図4】PEI/デンプン混合物で被覆されたナノチューブネットワーク電界効果トランジスターセンサー装置を用いたCOガスの応答試験において得られたCO濃度とコンダクタンスの変化率との関係を示すグラフである
【符号の説明】
【0041】
100 電子システム
101 COガス
102 ナノ構造体検出装置
104 基板
106 ナノ構造体
108 導電性素子
110 導電性素子
114 抑制物質層
115 機能性材料
116 ナノ構造体検出回路
118 給電源
120 計器
122 電気的接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を検出するためのナノ構造体センサーであって、
(i)基板、
(ii)該基板上に配設された第一ナノ構造体、
(iii)該第一ナノ構造体と電気的に接続された少なくとも2個の導電性素子、及び
(iv)二酸化炭素と相互作用するように配設されて該第一ナノ構造体と連動して作動する少なくとも1種の認識材料
を具備する該ナノ構造体センサー。
【請求項2】
第一ナノ構造体が、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノファイバー及びナノロッドから成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項3】
ナノ構造体が次の群から選択される少なくとも1種の素子を具有する請求項1記載のナノ構造体センサー:炭素、硼素、窒化硼素、窒化炭素硼素、珪素、ゲルマニウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛、リン化インジウム、モリブデンジスルフィド及び銀。
【請求項4】
第一ナノ構造体が単壁カーボンナノチューブを具有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項5】
導電性素子が金属電極を具有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項6】
導電性素子が第一ナノ構造体と物理的に直接接触する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項7】
少なくとも1種の認識材料が金属カーボネートを含有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項8】
少なくとも1種の認識材料が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸銀から成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項9】
少なくとも1種の認識材料がpH−感知性ポリマーである請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項10】
少なくとも1種の認識材料が、ポリアニリン、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(o-フェニレンジアン)、ポリ(3-メチルチオフェン)及びポリピロールから成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項11】
少なくとも1種の認識材料が芳香族化合物を含有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項12】
少なくとも1種の認識材料が、ベンジルアミン、ナフタレンメチルアミン、アントラセンアミン及びピレンアミンから成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項13】
少なくとも1種の認識材料がポリマー材料を含有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項14】
少なくとも1種の認識材料がポリエチレングリコール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリサッカリド及びデンプンから成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項15】
少なくとも1種の認識材料が、ナノ構造体上に実質上連続的な層を含む請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項16】
少なくとも1種の認識材料が複数種の異種材料を含有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項17】
ナノ構造体に近接したゲート電極をさらに具備する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項18】
導電性素子間の結線に隣接するセンサーの領域を被覆する抑制材料層をさらに具有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項19】
ナノ構造体が、2個の導電性素子間の基板上に配設された2次元的ナノ構造体ネットワークをさらに具有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項20】
ナノ構造体ネットワークが、無秩序配向された複数のカーボンナノチューブを具有する請求項19記載のナノ構造体センサー。
【請求項21】
少なくとも1種の認識材料が、金属、金属酸化物及び金属水酸化物から成る群から選択される請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項22】
少なくとも1種の認識材料が、第一ナノ構造体に隣接して配設された金属層を具有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項23】
認識材料が、金属層に隣接して配設されたポリマー材料層を具有する請求項22記載のナノ構造体センサー。
【請求項24】
少なくとも1種の認識材料が、ゲート電極に隣接して配設された金属層を具有する請求項17記載のナノ構造体センサー。
【請求項25】
認識材料が、金属層に隣接して配設されたポリマー材料層を具有する請求項24記載のナノ構造体センサー。
【請求項26】
認識材料がデンプンと混合したポリ(エチレンイミン)を含有する請求項1記載のナノ構造体センサー。
【請求項27】
デンプンが少なくとも1種のアミロース及びアミロペクチンを含有する請求項26記載のナノ構造体センサー。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−505323(P2007−505323A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526418(P2006−526418)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/030136
【国際公開番号】WO2005/026694
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(504468470)ナノミックス・インコーポレーテッド (12)