説明

二重ペン芯構造の万年筆

【課題】二重ペン芯構造の万年筆において、軸筒からのペン体やペン芯の抜け落ちを防ぎ、且つ外芯の変形による筆記不良が生じない構造を得ることにある。
【解決手段】外芯31の後方挿着部3aにおけるインキ溝31cに、インキ溝31cを形成する両内側壁31e間を横架するリブ31fを形成すると共に、リブ31fの上方にインキ溝31cの前部31jと後部31iとを連続させる浅溝31gを形成し、ペン芯3の後方挿着部3aを軸筒4の前方開口部4aに圧入した際に、リブ31fにより外芯3のインキ溝31cの巾を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン芯を外芯と内芯とで構成した二重ペン芯構造の万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な万年筆の構造は、軸筒内部に設けたインキ収容部内のインキが、軸筒の前方に形成した前方開口部に挿着したペン芯によってペン体へ供給され、ペン体の筆記端にて筆記を行うことができる構造になっている。この構造では、ペン芯に設けたインキ流通溝の毛細管力でインキがペン芯の前方へ流動し、インキ流通溝の上方と隣接させたペン体の切り割りの毛細管力によって、インキがペン体の前方にある筆記端まで流動して筆記が可能となる。
【0003】
尚、ペン芯の構造に関しては様々な形態があり、その中でも、実公昭31−6815号公報や特許第2858740号公報にあるように、外芯と内芯とで二重ペン芯を構成する万年筆の構造では、インキの吸入を行うための経路が外芯と内芯との間に設けてあることから、インキ吸入の際に、インキ瓶のインキに対してペン芯の前端部に形成されたインキ流通路および空気通路を浸けることでインキの吸入を行うことが可能であり、一般的なペン芯のように筆記端から軸筒の先端部までインキに浸けて吸入を行う構造に比べて軸筒を汚さないですむことから、インキ吸入の度にインキで汚れた軸筒を拭き取る必要がなく、特にインキ色が沈着しやすい透明や薄い色の軸筒の万年筆において適している。
【0004】
ところで、ペン体およびペン芯を軸筒へ装着する方法としては、特開2001−138685号公報にあるように、ペン体およびペン芯の後方を長く延設した後方挿着部を、ペン体とペン芯と重ねて軸筒の前方開口部に圧入して嵌着するという方法が一般的に知られている。しかしながらこの装着方法は、前述した二重ペン芯構造の万年筆の場合、外芯に内芯を挿着させる貫通孔が軸心方向に延びて形成されていることから、外芯の横断面方向において変形が生じやすく、ペン体およびペン芯を軸筒の前方開口部に圧入して嵌着した際に、外芯に設けてあるインキ溝の巾が狭まり、インキの流出を悪くしてしまい、筆記不良をまねく虞があった。この現象は特に、外芯の下面に突起を設け、軸筒へのペン体およびペン芯の圧入力を強くさせる構造において発生しやすい。尚、軸筒へのペン体およびペン芯の圧入力を弱くして、外芯の変形を防いだ場合には、軸筒からペン体やペン芯が脱落してしまうといった別の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭31−6815号公報
【特許文献2】特許第2858740号公報
【特許文献3】特開2001−138685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、二重ペン芯構造の万年筆において、軸筒からのペン体やペン芯の抜け落ちを防ぎ、且つ外芯の変形による筆記不良が生じない構造を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.ペン芯を外芯と内芯とで構成し、前記外芯に形成した軸心方向に延びる貫通孔へ前記内芯を挿着した状態で、前記外芯のインキ溝と前記内芯のインキ流通路とを連設させると共に、前記ペン体に形成した切り割りと前記外芯のインキ溝とが連設するよう当該ペン体を前記ペン芯に配設し、前記ペン体および前記ペン芯の後方挿着部を軸筒の前方開口部に圧入して嵌着する二重ペン芯構造の万年筆において、前記外芯の後方挿着部におけるインキ溝に、当該インキ溝を形成する両内側壁間を横架するリブを形成すると共に、当該リブの上方に前記インキ溝の前部と後部とを連続させる浅溝を形成し、前記ペン芯の後方挿着部を前記軸筒の前方開口部に圧入した際に、前記リブにより前記外芯のインキ溝の巾を保持させること特徴とした二重ペン芯構造の万年筆。
2.前記浅溝の深さ寸法を前記インキ溝の巾寸法より大きく形成したことを特徴とした1項に記載の二重ペン芯構造の万年筆。」である。
【0008】
外芯のインキ溝に設けるリブは、インキ溝内における貫通孔に接する位置に設けることで射出成形時の成形性や金型構造が簡素化できる。また、リブの上方に浅溝を形成することで、リブを設けた位置においても、インキ溝から溢れたインキをペン芯の側面に設けた櫛溝に吸入させることができる。本発明におけるリブは、ペン体およびペン芯を軸筒の前方開口部に圧入させる際に、外芯の横断面方向においてインキ溝を狭める方向に力が掛かる箇所に設けることが肝要であり、特に外芯の下面に突起を設ける場合には、軸心方向において突起の位置と同じ位置にリブを設けるものとする。尚、リブの上方に設ける浅溝の深さ寸法を、インキ溝の巾寸法より大きく形成することにより、浅溝における毛細管力が当該浅溝の前後のインキ溝の毛細管力によるインキの流れを妨げない構造となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二重ペン芯構造の万年筆によれば、軸筒からのペン体やペン芯の抜け落ちを防ぎ、且つ外芯の変形による筆記不良が生じない構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の万年筆の要部を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の万年筆の分解図である。
【図3】図3は、ペン体とペン芯とを重ねて軸筒に装着する工程を示す図である。
【図4】図4は、図1の縦断面図である。
【図5】図5は、図4のA−A線断面拡大図である。
【図6】図6は、図4のB−B線断面拡大図である。
【図7】図7は、図4のC−C線断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。
【0012】
図1は本実施例の万年筆における要部の斜視図であり、インキを収容したカートリッジとの関係を示している。図2は図1に示した万年筆の分解図である。図1に示す万年筆1は、ペン体2をペン芯3に重ね、ペン体2の後方を長く延設した後方挿着部2aと、ペン芯3の後方を長く延設した後方挿着部3aとを、後部軸筒(図示せず)と螺合させて軸筒を形成する前部軸筒4の前方開口部4aに圧入して嵌着してある。ペン芯3の後端部には突出した小径部3bを形成して、前部軸筒4の後方開口部4bからインキ収容室5aにインキ(図示せず)を収容したカートリッジ5の開口部5bに挿着するようにしてある。カートリッジ5内のインキは、ペン芯3により前方へ流出し、ペン体2の丸孔2bの前方に形成した切り割り2cの毛細管力により筆記端2dまで達して筆記を可能とする。
【0013】
本実施例のペン芯3は、図2に示すように、外芯31と内芯32とを組み合わせてなる二重ペン芯構造である。外芯31の中心部には軸心方向に延びる貫通孔31aを形成してあり、外芯31の外側面に複数の櫛溝31bを形成し、上方にインキ溝31cを形成し、外側面の中間部の下方に二つの突起31dを設け、該突起31dの上方位置にインキ溝31cの内側壁31e間を横架するリブ31fを形成し、該リブ31fの上方に浅溝31gを形成してある。尚、外芯31のインキ溝31cは、ペン芯3の先端部から小径部3bの前方に形成した鍔部31hの前端手前まで形成してあり、貫通孔31aの上部と連通させており、内芯32を外芯31の貫通孔31aに挿着した状態で、内芯の上方に形成したインキ流通路32aと連設するようにしてある。本実施例の内芯32は、横断面形状を半円形状に形成してあり、外芯31に形成した円形状の貫通孔31aに挿着した状態で、内芯32の下面32bと貫通孔31aとの間で空気が通る空気通路3c(図4参照)が形成される構造としてある。
【0014】
次に図3を用いて、ペン体2およびペン芯3を前部軸筒4に挿着する工程について説明を行う。本実施例では、ペン芯3にペン体2を重ねて、後方挿着部2aおよび後方挿着部3aを一緒にして前部軸筒4の前方開口部4aへ挿着させるが、ペン芯3には突起31dが設けられていることから、突起31dを設けた位置が前部軸筒4の内側壁4cに対して最も強く当接して、図1に示した状態に組み上がる。また、本実施例におけるペン体2の後方挿着部2aは、図3に示すL1の区間であり、ペン芯3の後方挿着部3aは図3に示すL2の区間であり、したがって突起31dはペン芯3の後方挿着部3aに設けられており、前部軸筒4内に挿着される。
【0015】
次に、図1の縦断面図である図4およびその横断面図である図5,図6,図7を用いて、インキの流れについて説明を行う。ペン芯3の小径部3bに装着したカートリッジ5に収容したインキ(図示せず)は、内芯32のインキ流通路32aを通り、外芯31のインキ溝31cまた内芯32のインキ流通路32aを通って筆記端2まで供給される。また、本実施例では、図6に示すように、浅溝31gの深さ寸法Hをインキ溝31cの巾寸法Wより大きく形成してあることから、インキ溝31cを通過するインキは、インキ溝31cに形成したリブ31fの前後で後部インキ溝31iから浅溝31gに、浅溝31gから前部インキ溝31jに至るまで、毛細管力が途切れることなくスムーズに流れることができた。尚、ペン体2の後方挿着部2aおよびペン芯3の後方挿着部3aを前部軸筒4の前方開口部4aに圧入した際に、外芯31における横断面において突起31dを設けた位置にインキ溝31cの巾を狭める方向の力が働くが、本実施例では、外芯31の軸心方向において突起31dの位置と同じ位置にリブ31fを設けてあることから、インキ溝31cの巾が狭まることはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、二重ペン芯構造の万年筆において好適であり、また二重ペン芯でない一般的なペン芯の万年筆にも利用可能である。
【符号の説明】
【0017】
1…万年筆、
2…ペン体、2a…後方挿着部、2b…丸孔、2c…切り割り、2d…筆記端、
3…ペン芯、3a…後方挿着部、3b…小径部、3c…空気通路、
31…外芯、31a…貫通孔、31b…櫛溝、31c…インキ溝、31d…突起、
31e…内側壁、31f…リブ、31g…浅溝、31h…鍔部、
31i…後部インキ溝、31j…前部インキ溝、
32…内芯、32a…インキ流通路、
4…前部軸筒、4a…前方開口部、4b…後方開口部、4c…内側壁、
5…カートリッジ、5a…インキ収容室、5b…開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン芯を外芯と内芯とで構成し、前記外芯に形成した軸心方向に延びる貫通孔へ前記内芯を挿着した状態で、前記外芯のインキ溝と前記内芯のインキ流通路とを連設させると共に、前記ペン体に形成した切り割りと前記外芯のインキ溝とが連設するよう当該ペン体を前記ペン芯に配設し、前記ペン体および前記ペン芯の後方挿着部を軸筒の前方開口部に圧入して嵌着する二重ペン芯構造の万年筆において、前記外芯の後方挿着部におけるインキ溝に、当該インキ溝を形成する両内側壁間を横架するリブを形成すると共に、当該リブの上方に前記インキ溝の前部と後部とを連続させる浅溝を形成し、前記ペン芯の後方挿着部を前記軸筒の前方開口部に圧入した際に、前記リブにより前記外芯のインキ溝の巾を保持させること特徴とした二重ペン芯構造の万年筆。
【請求項2】
前記浅溝の深さ寸法を前記インキ溝の巾寸法より大きく形成したことを特徴とした請求項1に記載の二重ペン芯構造の万年筆。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218228(P2012−218228A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84143(P2011−84143)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】