説明

二重特異的抗−ErbB−3/抗−c−Met抗体

本発明は、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対する二重特異的抗体類、それらの製造方法、前記抗体を含む医薬組成物類及びそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対する二重特異的抗体類、それらの製造方法、前記抗体を含む医薬組成物類及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ErbBタンパク質ファミリー
ErbBタンパク質ファミリーは、4種のメンバー、すなわちErbB-1(また、上皮成長因子受容体(EGFR)とも呼ばれる)、ErbB-2(また、ヒトにおいてHER2又は齧歯動物においてneuとも呼ばれる)、ErbB-3(HER3とも呼ばれる)、及びErbB-4(また、HER4とも呼ばれる)から成る。
【0003】
ErbB-3及び抗−ErbB-3抗体
ErbB-3(V-erb-b2赤芽球性白血病ウィルス腫瘍遺伝子相同体3(鳥類)、ERBB3、HER3;配列番号:46としても知られている)は、ニューレグリン結合ドメインを有するが、しかし活性キナーゼドメインは有さない膜−結合タンパク質である(Kraus, M.H, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86 (1989) 9193-7; Plowman, G.D., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87 (1999) 4905-9; Katoh, M., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 192 (1993) 1189-97)。従って、それはこのリガンドを結合することができるが、しかしタンパク質リン酸化を通して細胞中にシグナルを運ばない。しかしながら、それは、キナーゼ活性を有する他のEGF受容体ファミリーメンバーと共にヘテロダイマーを形成する。ヘテロダイマー化は、細胞増殖又は分化を導く経路の活性化を導く。
【0004】
この遺伝子の増幅及び/又はそのタンパク質の過剰発現は、種々の癌、例えば前立腺、膀胱及び乳癌において報告されている。異なったイソフォームをコードする他の転写スプライス変異体が特徴づけられている。1つのイソフォームは膜間領域を欠いており、そして細胞外分泌される。このフォームは膜−結合された形の活性を調節するよう作用する(Corfas, G., et al., 7(6) (2004) 575-80)。ERBB3は、活性化される場合、ERBB1、ERBB2及びERBB4によるダイマー化及び続くリン酸化のための基質になると思われる。多くの受容体チロシン−キナーゼのように、ERBB3は細胞外リガンドにより活性化される。ERBB3に結合することが知られているリガンドは、ヘレグリンを包含する。
抗癌治療への使用のための抗−ErbB−3抗体は、例えばWO 97/35885号、WO 2007/077028号又はWO 2008/100624号から知られている。
【0005】
c-Met及び抗−c-Met抗体
MET(間葉−上皮移行因子)は、タンパク質METをコードするプロト−オンコジーン(c−Met;肝細胞増殖因子受容体HGFR;HGF受容体;分散因子受容体;SF受容体;配列番号:45としても知られている)である(Dean, M., et al., Nature 318 (1985) 385-8 (1985); Chan, A.M., et al., Oncogene 1 (1987) 229- 33; Bottaro, D.P., et al., Science 251 (1991) 802-4; Naldini, L., et al., EMBO J. 10 (1991) 2867-78; Maulik, G., et al, Cytokine Growth Factor Rev. 13 (2002) 41-59)。METは、胚成長及び創傷治療のために必須である膜受容体である。肝細胞増殖因子(HGF)はMET受容体の唯一の知られているリガンドである。
【0006】
METは通常、上皮起源の細胞により発現され、そしてHGFの発現は間葉起源の細胞に制限される。HGF刺激に基づいて、METは、侵襲性増殖として知られているプログラムを集団的に引起すいくつかの生物学的応答を誘発する。癌における異常MET活性化は、不良な予後と相互関係し、ここで異常活性METは、腫瘍増殖、腫瘍に栄養物を供給する新規血管の形成(脈管形成)、及び他の器官への癌の広がり(転移)を誘発する。METは、多くのタイプのヒト悪性、例えば腎臓、肝臓、胃、乳及びの脳癌において脱調節される。通常、幹細胞及び前駆体細胞はMETを発現し、胚において新規組織を生成するか、又は成人において損傷細胞を再生するために、それらの細胞の侵襲的増殖を可能にする。しかしながら、癌幹細胞は、正常な幹細胞によりMETを発現する能力を乗っ取り、そして従って、身体における癌存続性及び他の部位への広がりの原因になっていると思われる。
【0007】
プロトオンコジーンMET生成物は、肝細胞増殖因子受容体であり、そしてチロシン−キナーゼをコードする。主要単鎖前駆体タンパク質は、成熟受容体を形成するためにジスルフィド結合される、α及びβサブユニットを生成するために後−翻訳的に分解される。MET遺伝子における種々の突然変異が乳頭状腎細胞癌に関係している。
抗−c-Met抗体は、例えばUS 5686292号、US 7476724号、WO 2004072117号、WO 2004108766号、WO 2005016382号、WO 2005063816号、WO 2006015371号、WO 2006104911号、WO 2007126799号又はWO 2009007427から知られている。
c-Met結合ペプチドは、例えばMatzke, A., et al, Cancer Res 2005; 65: (14) 及びTarn, E.M, et al., J. MoI. Biol. 385 (2009) 79-90から知られている。
【0008】
二重特異的抗体
広範囲の種類の組換え抗体形、例えばIgG抗体形及び単鎖ドメインの融合による四価の二重特異的抗体が最近、開発されて来た(例えば、Coloma, M.J., et al., Nature Biotech 15 (1997) 159-163; WO 2001/077342; 及び Morrison, S.L., Nature Biotech 25 (2007) 1233- 1234を参照のこと)。
【0009】
抗体コアー構造体(IgA, IgD, IgE, IgG又はIgM)、例えば2又はそれ以上の抗原を結合することができる、ジア−、トリア−又はテトラボディー、ミニボディー、いくつかの単鎖形(scF, Bis-scFv)がもはや保持されないいくつかの他の新規形が開発されている(Holliger, P., et al., Nature Biotech 23 (2005) 1 126-1 136; Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14; Shen, J., et al., Journal of Immunological Methods 318 (2007) 65-74; Wu, C, et al., Nature Biotech. 25 (2007) 1290-1297)。
【0010】
すべてのそのような形は、追加の結合タンパク質(例えば、scFv)に抗体コアー(IgA, IgD, IgE, IgG又はIgM)を融合するか、又は例えば2種のFabフラグメント又はscFvsを融合するためにリンカーを用いる(Fischer, N., Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14)。天然に存在する抗体に対する高い程度の類似性を維持することにより、Fc受容体結合を通して介在される、エフェクター機能、例えば補体−依存性細胞毒性(CDC)又は抗体依存性細胞毒性(ADCC)の保持が所望されることを心に留めるべきである。
【0011】
WO2007/024715号においては、構築された多価及び多特異的結合タンパク質として二重可変ドメイン免疫グロブリンが報告されている。生物学的活性抗体ダイマーの調製方法が、US6,897,044号に報告されている。ペプチドリンカーを通してお互い結合される少なくとも4種の可変ドメインを有する多価Fv抗体構造体がUS7,129,330号に報告されている。ニ量体又は多量体の抗原結合構造体がUS2005/00079170号に報告される。そのタンパク質が天然の免疫グロブリンではない、結合構造体によりお互い共有結合される3又は4種のFabフラグメントを含んで成る三又は四価の単一特異的抗原結合タンパク質がUS6,511,663号に報告されている。
【0012】
WO2006/020258号においては、原核及び真核細胞において効果的に発現され得、そして治療及び診断方法において有用である四価の二重特異的抗体が報告されている。2種のタイプのポリペプチドダイマーを含んで成る混合物からの少なくとも1つの鎖間シスルフィド結合を通して結合されない少なくとも1つの鎖間ジスルフィド結合を通して結合されるダイマーの分離又は選択的合成方法がUS2005/0163782号に報告されている。二重特異的四価受容体がUS5,959,083号に報告されている。3又はそれ以上の機能的抗原結合部位を有する構築された抗体がWO2001/077342号に報告されている。
【0013】
多重特異的及び多価の抗原結合ポリペプチドがWO0997/001580号に報告されている。WO1992/004053号は、合成架橋により共有結合される同じ抗原決定基に結合するIgGクラスのモノクローナル抗体から典型的には調製されるホモ接合体を報告する。抗原に対して高い結合活性を有するオリゴマー性モノクローナル抗体がWO1991/06305号に報告されており、それによれば、四価又は五価のIgG分子を形成するために一緒に結合される2又はそれ以上の免疫グリブリンモノマーを有する、典型的にはIgGクラスのオリゴマーが分泌される。インターフェロンγ病原性である疾病を処理するために使用され得る、羊由来の抗体及び構築された抗体構造体がUS6,350,860号に報告されている。
【0014】
US2005/0100543号においては、二重特異的抗体の多価キャリヤーである、すなわち標的可能な構造体の個々の分子が2又はそれ以上の特異的抗体のキャリヤーとして作用することができる、標的可能な構造体が報告されている。遺伝子的に構築された二重特異的四価抗体がWO1995/009917号に報告されている。WO2007/109254号においては、安定化されたscFvから成るか又はそれを含んで成る安定化された結合分子が報告されている。US2007/0274985号は、単鎖Fab(scFab)フラグメントを含んで成る抗体型に関する。
【0015】
WO2009111707(A1)号は、Met及びHERアンタゴニストとの組合せ療法に関する。WO2009111691(A2A3)号は、Met及びEGFRアンタゴニストとの組合せ療法に関する。
WO2008/100624号は、高められたErbB-3受容体インターナリゼーションを有する抗−ErbB-3抗体、及び中でも、第2抗原としてのc-Metを有する二重特異的抗源へのそれらの使用に関する。
【発明の概要】
【0016】
本発明の第1の観点は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体に関し、ここで前記二重特異的抗体は、抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、15%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことを特徴とする。
【0017】
本発明の1つの態様においては、前記抗体は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する1又は2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、二価又は三価の二重特異的抗体である。
【0018】
本発明の1つの態様においては、前記抗体は好ましくは、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第3抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、三価の二重特異的抗体である。
【0019】
本発明の1つの態様においては、前記抗体はヒトErbB-3に対して特異的に結合する1種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、二価の二重特異的抗体である。
【0020】
本発明の1つの観点は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体であり、
i) 前記第1抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:53のCDR3H領域、配列番号:54のCDR2H領域及び配列番号:55のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:56のCDR3L領域、配列番号:57のCDR2L領域、及び配列番号:58のCDR1L領域又は配列番号:59のCDR1L領域を含んで成り;そして
前記第2抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成り;
【0021】
ii) 前記第1抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:60のCDR3H領域、配列番号:61のCDR2H領域及び配列番号:62のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:63のCDR3L領域、配列番号:64のCDR2L領域、及び配列番号:65のCDR1L領域又は配列番号:66のCDR1L領域を含んで成り;そして
前記第2抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成ることを特徴とする。
前記二重特異的抗体は好ましくは、
i)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:47、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:48を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
ii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:50を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iv)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:52を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;又は
v)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:1、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:2を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする。
【0022】
好ましくは、前記二重特異的抗体は、前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする。
【0023】
1つの態様においては、本発明の前記二重特異的抗体は、IgG1又はIgG3サブクラスの不変領域を含んで成ることを特徴とする。
1つの態様においては、本発明の前記二重特異的抗体は、前記抗体がAsn297で糖鎖によりグリコシル化され、それにより前記糖鎖内のフコースの量が65%又はそれ以下であることを特徴とする。
【0024】
本発明のさらなる観点は、前記二重特異的抗体の鎖をコードする核酸分子である。
本発明のさらなる観点は、本発明の二重特異的抗体を含んで成る、癌の処理のための医薬組成物、癌の処理のための薬剤の製造のためへの前記二重特異的抗体の使用、及び癌の処理の必要な患者に前記二重特異的抗体を投与することにより、そのような癌を有する患者の処理方法である。
【0025】
本発明の抗体は、両受容体<ErbB3>及び<c-Met>を発現する癌細胞の増殖阻害、すなわち癌を有する患者のために有益性を引起す抗腫瘍効能のような非常二価値ある性質を示す。本発明の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体は、両受容体<ErbB3>及び<c-Met>を発現する癌細胞に対して、それらの親単一特異的<ErbB3>抗体に比較して、ErbB3/抗体複合体の低められたインターナリゼーションを示す。
【0026】
発明の特定の記載
本発明の第1の観点は、抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、15%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことを特徴とする、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体である。
【0027】
従って、本発明は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体に向けられ、ここで、前記二重特異的抗体は、抗体の不在下でA431細胞に対するErbB-3のインターナリゼーションに比較して、流動細胞計測アッセイにより測定される場合、1時間のA431細胞−抗体インキュベーションの後に測定される場合、15%以下のA431細胞に対するErbB-3のインターナリゼーションの上昇を引起す。
【0028】
1つの態様においては、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する前記二重特異的抗体は、前記二重特異的抗体が、前記二重特異的抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、10%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことにおいて特徴づけられる。
【0029】
1つの態様においては、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する前記二重特異的抗体は、前記二重特異的抗体が、前記二重特異的抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、7%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことにおいて特徴づけられる。
【0030】
1つの態様においては、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する前記二重特異的抗体は、前記二重特異的抗体が、前記二重特異的抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、5%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことにおいて特徴づけられる。
【0031】
用語“ErbB-3のインターナリゼーション”とは、抗体の不在下でErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞(ATCC No. CRL-1555)に対する抗体−誘発されたErbB-3受容体インターナリゼーションを言及する。ErbB-3受容体のそのようなインターナリゼーションは、本発明の二重特異的抗体により誘発され、そして例8に記載されるように、流動細胞計測アッセイ(FACS)において2時間後に測定される。本発明の二重特異的抗体は、抗体の不圧下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、2時間の抗体暴露の後、A431細胞に対して15%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示す。
【0032】
1つの態様においては、前記抗体は、10%以下のErbB-5のインターナリゼーションを示す。1つの態様においては、前記抗体は、7%以下のErbB-5のインターナリゼーションを示す。1つの態様においては、前記抗体は、5%以下のErbB-5のインターナリゼーションを示す。二重特異的ErBb3/cMet抗体がA431細胞に対して2時間後、10%又はそれ以下のErbB-3インターナリぜーションを示すかどうかを決定するために、それが、下記に記載される二重特異的ErbB3/cMet抗体MH_TvAb24と、流動細胞計測アッセイ(FACS)において比較され得る。二重特異的ErBb3/cMet抗体がA431細胞に対して2時間後、5%又はそれ以下のErbB-3インターナリぜーションを示すかどうかを決定するために、それが、下記に記載される二重特異的ErbB3/cMet抗体MH_TvAb29と、流動細胞計測アッセイ(FACS)において比較され得る。
【0033】
本発明のもう1つの観点は、A431細胞(ATcc No. CRL-1555)に対して流動細胞計測アッセイにおいて2時間後に測定される場合、単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されるErbB-3のインターナリゼーションに比較して、50%又はそれ以上(1つの態様においては、60%又はそれ以上;もう1つの態様においては、70%又はそれ以上、1つの態様においては、80%又はそれ以上)、ErbB-3のインターナリゼーションを低めることを特徴とする、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体である。
【0034】
ErbB-3のインターナリゼーションの低減は、次の通りに計算される(A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて2時間後に測定される値を用いる):100×(単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されるErbB3の%インターナリゼーション−二重特異的ErbB-3/cMet抗体により誘発されるErbB3の%インターナリゼーション)/単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されるErbB3の%インターナリゼーション。例えば、a)二重特異的 ErbB-3/cMet抗体MH_TvAb21は1%のErbB−3のインターナリゼーションを示し、そして単一特異的親ErbB-3抗体Mab205は40%のErbB-3のインターナリゼーションを示す。従って、二重特異的ErbB-3/cMet抗体MH_TvAb621は100×(40−1)/40%=97.5%のインターナトゼーションの低下を示し;b)二重特異的ErbB-3/cMet 抗体MH_TvAb25は11%のErb-3のインターナリゼーションを示し、そして単一特異的親ErbB-3抗体Mab205は40%のErb-3のインターナリゼーションを示す。
【0035】
従って、二特異的ErbB-3/cMet 抗体MH_TvAb21は100×(40−11)/40%=72.5%のErbB-3のインターナリゼーションの低減を示し;又はc)二重特異的ErbB-3/cMet抗体HER3/Met_C6は11%のErbB-3のインターナリゼーションを示し、そして単一特異的親ErbB-3抗体HER3clon29は54%のErbB-3のインターナリゼーションを示す。従って、二重特異的ErbB-3/cMet抗体HER3/Met_C6は、100×(54−6)/40%=88.9%のErbB-3のインターナリゼーションの低減を示す(例8におけるA431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおける2時間後に測定されるインターナリゼーション値を参照のこと)。
【0036】
本発明の1つの態様においては、前記抗体は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第3抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、三価の二重特異的抗体である。
【0037】
本発明の1つの態様においては、前記抗体は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、二価の二重特異的抗体である。
【0038】
本発明の1つの態様においては、前記抗体は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する2種の抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する四価の二重特異的抗体であり、ここでヒトc-Metに対して特異的結合する前記抗原−結合部位がc-Metがダイマー化を阻害する(例えば、2009007427号に記載されるような)。
【0039】
本明細書において使用される場合、“抗体”とは、抗原結合部位を含んで成る結合タンパク質を言及する。用語“結合部位”又は“抗原結合部位”とは、本明細書において使用される場合、リガンドが実際結合し、そして抗体に由来する、抗体分子の領域を示す。用語“抗原結合部位”とは、抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体L鎖可変ドメイン(VL)、又はVH/VL対を含み、そして完全な抗体、又は抗体フラグメント、例えば単鎖Fv, VHドメイン及び/又はVLドメイン、Fab又は(Fab)2から誘導され得る。本発明の1つの態様においては、抗原結合部位の個々の抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体L鎖可変ドメイン(VL)を含んで成り、そして好ましくは、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体H鎖可変ドメイン(VH)から成る対により形成される。
【0040】
抗体由来の抗原−結合部位の他に、例えばMatzke, A., et al., Cancer Res 65 2005 (14). July 15, 2005に記載されるような結合ペプチドはまた、抗原(例えば、c-Met)に対して特異的に結合することができる。従って、本発明のさらなる観点は、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する結合ペプチドを含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的結合分子である。従って、本発明のさらなる観点は、ヒトc-Metに対して特異的に結合する抗原−結合部位及びヒトErbB-3に対して特異的に結合する結合ペプチドを含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的結合分子である。
【0041】
ErbB-3(V-erb-b2赤芽球性白血病ウィルス腫瘍遺伝子相同体3(鳥類)、ERBB3、HER3;配列番号:46としても知られている)は、ニューレグリン結合ドメインを有するが、しかし活性キナーゼドメインは有さない膜−結合タンパク質である(Kraus, M.H, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86 (1989) 9193-7; Plowman, G.D., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87 (1999) 4905-9; Katoh, M., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 192 (1993) 1189-97)。従って、それはこのリガンドを結合することができるが、しかしタンパク質リン酸化を通して細胞中にシグナルを運ばない。しかしながら、それは、キナーゼ活性を有する他のEGF受容体ファミリーメンバーと共にヘテロダイマーを形成する。ヘテロダイマー化は、細胞増殖又は分化を導く経路の活性化を導く。
【0042】
この遺伝子の増幅及び/又はそのタンパク質の過剰発現は、種々の癌、例えば前立腺、膀胱及び乳癌において報告されている。異なったイソフォームをコードする他の転写スプライス変異体が特徴づけられている。1つのイソフォームは膜間領域を欠いており、そして細胞外分泌される。このフォームは膜−結合された形の活性を調節するよう作用する(Corfas, G., et al., 7(6) (2004) 575-80)。ERBB3は、活性化される場合、ERBB1、ERBB2及びERBB4によるダイマー化及び続くリン酸化のための基質になると思われる。多くの受容体チロシン−キナーゼのように、ERBB3は細胞外リガンドにより活性化される。ERBB3に結合することが知られているリガンドは、ヘレグリンを包含する。
【0043】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する、抗原結合部位、及び特にH鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体L鎖可変ドメイン(VL)は、a)既知の抗−ErbB-3抗体(例えば、WO 97/35885号、WO 2007/077028号、又はWO 2008/100624号からの)、又はb)中でも、ヒトErbB-3Fタンパク質又は核酸、又はそのフラグメントを用いるデノボ免疫化方法により、又はファージ表示により得られる新規抗−ErbB-3抗体から誘導され得る。
【0044】
MET(間葉−上皮移行因子)は、タンパク質METをコードするプロト−オンコジーン(c−Met;肝細胞増殖因子受容体HGFR;HGF受容体;分散因子受容体;SF受容体;配列番号:45としても知られている)である(Dean, M., et al., Nature 318 (1985) 385-8 (1985); Chan, A.M., et al., Oncogene 1 (1987) 229- 33; Bottaro, D.P., et al., Science 251 (1991) 802-4; Naldini, L., et al., EMBO J. 10 (1991) 2867-78; Maulik, G., et al, Cytokine Growth Factor Rev. 13 (2002) 41-59)。METは、胚成長及び創傷治療のために必須である膜受容体である。肝細胞増殖因子(HGF)はMET受容体の唯一の知られているリガンドである。METは通常、上皮起源の細胞により発現され、そしてHGFの発現は間葉起源の細胞に制限される。
【0045】
HGF刺激に基づいて、METは、侵襲性増殖として知られているプログラムを集団的に引起すいくつかの生物学的応答を誘発する。癌における異常MET活性化は、不良な予後と相互関係し、ここで異常活性METは、腫瘍増殖、腫瘍に栄養物を供給する新規血管の形成(脈管形成)、及び他の器官への癌の広がり(転移)を誘発する。METは、多くのタイプのヒト悪性、例えば腎臓、肝臓、胃、乳及びの脳癌において脱調節される。通常、幹細胞及び前駆体細胞はMETを発現し、胚において新規組織を生成するか、又は成人において損傷細胞を再生するために、それらの細胞の侵襲的増殖を可能にする。しかしながら、癌幹細胞は、正常な幹細胞によりMETを発現する能力を乗っ取り、そして従って、身体における癌存続性及び他の部位への広がりの原因になっていると思われる。
【0046】
抗原結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、特にH鎖可変ドメイン(VH)及び/又は抗体鎖可変ドメイン(VL)は、a)既知抗体−c-Met抗体(例えば、US 5686292号、US 7476724号、WO 2004072117号、WO 2004108766号、WO 2005016382号、WO 2005063816号、 WO 2006015371号、WO 2006104911号、WO 2007126799号、又はWO 2009007427号に記載される);又はb)中でも、ヒトc-Metタンパク質又は核酸、又はそのフラグメントを用いるデノボ免疫化方法により、又はファージ表示により得られる新規抗−c-Met抗体から誘導され得る。
【0047】
本発明のもう1つの観点は、
a)抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、流動細胞測定アッセイ(FACS)において、2時間後、二重特異的抗−ErbB-3/抗−c-Met抗体により誘発されたA431細胞(ATTCC No. CRL-1555)に対するErbB-3のインターナリゼーションを測定し、
b)抗体の不在下で流動細胞決定アッセイ(FACS)においてA431細胞(ATCC No. CRL-1555)に対するErbB-3のインターナリゼーションを測定し、
c)抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、2時間の抗体暴露の後、A431細胞に対して15%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示す二重特異的抗体を選択する段階を含んで成る、本発明の二重特異的抗体の選択方法である。
【0048】
1つの態様においては、10%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示す二重特異的抗体が選択される。1つの態様においては、7%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示す二重特異的抗体が選択される。1つの態様においては、5%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示す二重特異的抗体が選択される。
【0049】
本発明のもう1つの観点は、
a)抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、流動細胞測定アッセイ(FACS)において、2時間後、二重特異的抗−ErbB-3/抗−c-Met抗体により誘発されたA431細胞(ATTCC No. CRL-1555)に対するErbB-3のインターナリゼーションを測定し、
b)流動細胞測定アッセイ(FACS)において2時間後、その対応する単一特異的抗−ErbB-3抗体により誘発されたA431細胞(ATCC No. CRL-1555)に対するErbB-3のインターナリゼーションを測定し、
c)前記対応する単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されたErbB-3のインターナリゼーションに比較して、ErbB-3のインターナリゼーションを、50%又はそれ以上(2時間後、A431細部に対して)低める二重特異的抗体を選択する段階を含んで成る、本発明の二重特異的抗体の選択方法である。
【0050】
1つの態様においては、ErbB-3のインターナリゼーションを、その対応する単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されたErbB-3のインターナリゼーションに比較して、60%又はそれ以上、低める二重特異的抗体が選択される。1つの態様においては、ErbB-3のインターナリゼーションを、その対応する単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されたErbB-3のインターナリゼーションに比較して、70%又はそれ以上、低める二重特異的抗体が選択される。1つの態様においては、ErbB-3のインターナリゼーションを、その対応する単一特異的親ErbB-3抗体により誘発されたErbB-3のインターナリゼーションに比較して、80%又はそれ以上、低める二重特異的抗体が選択される。
【0051】
本発明のもう1つの観点は、
i) 前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:53のCDR3H領域、配列番号:54のCDR2H領域及び配列番号55のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:56のCDR3L領域、配列番号:57のCDR2L領域、及び配列番号:58のCDR1L領域又は配列番号:59のCDR1L領域を含んで成り;そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域又は配列を含んで成り;
ii) 前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:60のCDR3H領域、配列番号:61のCDR2H領域及び配列番号62のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:63のCDR3L領域、配列番号:64のCDR2L領域、及び配列番号:65のCDR1L領域又は配列番号:66のCDR1L領域を含んで成り;そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成ることを特徴とする、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体である。
【0052】
本発明のもう1つの観点は、
前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:53のCDR3H領域、配列番号:54のCDR2H領域及び配列番号55のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:56のCDR3L領域、配列番号:57のCDR2L領域、及び配列番号:58のCDR1L領域又は配列番号:59のCDR1L領域を含んで成り;そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成ることを特徴とする、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体である。
【0053】
本発明のもう1つの観点は、
前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:60のCDR3H領域、配列番号:61のCDR2H領域及び配列番号62のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:63のCDR3L領域、配列番号:64のCDR2L領域、及び配列番号:65のCDR1L領域又は配列番号:66のCDR1L領域を含んで成り;そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成ることを特徴とする、ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体である。
【0054】
前記二重特異的抗体は好ましくは、
i)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:47、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:48を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
ii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:50を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iv)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:52を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;又は
v)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:1、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:2を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする。
【0055】
好ましくは、前記二重特異的抗体は、
前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする。
【0056】
抗体特異性は、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を言及する。例えば、天然の抗体は、単一特異的である。本発明の“二重特異的抗体”は、2種の異なった抗原結合特異性を有する抗体である。抗体が1つよりも多くの特異性を有する場合、その認識されるエピトープは、単一の抗原又は1つよりも多くの抗原により結合され得る。本発明の抗体は、2種の異なった抗原、すなわち第1の抗原としてのErbB-3及び第2の抗原としてのc−Metに対して特異的である。
【0057】
用語“単一特異的”抗体とは、本明細書において使用される場合、同じ抗原の同じエピトープにそれぞれ結合する、1又は複数の結合部位を有する抗体を示す。
用語“価”とは、本出願内で使用される場合、抗体分子における特定数の結合部位の存在を示す。用語、“二価”、“四価”及び“六価”は、抗体分子において、それぞれ2個の結合部位、4個の結合部位及び6個の結合部位の存在を示す。本発明の二重特異的抗体は、少なくとも“二価”であり、そして“三価”又は“多価”(例えば、“四価”又は“六価”)であり得る。
【0058】
本発明の抗体の抗原結合部位は、抗原のための結合部位の親和性に種々の程度、寄与する6個の相補性決定領域(CDR)を含むことができる。3種のH鎖可変ドメインCDR(CDRH1, CDRH2及びCDRH3)及び3種のL鎖可変ドメインCDR(CDRL1, CDRL2及びCDRL3)が存在する。CDR及び骨格領域(FR)の程度は、それらの領域が配列間の変動性に従って定義されたアミノ酸配列の編集されたデータベースへの比較により決定される。少数のCDRから成る機能的抗原結合部位(すなわち、ここで結合特異性が3,4又は5個のCDRにより決定される)は、本発明の範囲内にまた包含される。例えば、完全な組以下の6個のCDRが結合のために十分であり得る。ある場合、VH又はVLドメインが十分であろう。
【0059】
免疫グロブリン不変領域を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対するIgG様二重特異的二価抗体は、例えばヨーロッパ特許出願番号 07024867.9号、EP Appl.No.07024864.6号、EP Appl. No.07024865.3号 又は Ridgway, J.B., Protein Eng. 9 (1996) 617-621; WO 96/027011号; Merchant, A.M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. MoI. Biol. 270 (1997) 26-35 及びEP l 870 459Al号に記載のようにして使用され得る。
用語“モノクローナル抗体”又は“モノクローナル抗体組成物”とは、本明細書において使用される場合、単一のアミノ酸組成の抗体分子の調製物を言及する。
【0060】
用語“キメラ抗体”とは、通常組換えDNA技法により調製される、可変領域、すなわち1つの源又は種からの結合領域、及び異なった源又は種に由来する不変領域の少なくとも一部を含んで成る抗体を言及する。ネズミ可変領域及びヒト不変領域を含んで成るキメラ抗体が好ましい。本発明により包含される他の形の“キメラ抗体”は、不変領域が、特にC1q結合及び/又はFc受容体(FcR)結合に関して、本発明の性質を生成するために、修飾されているか、又は元の抗体のその領域から変更されているそれらの抗体である。そのようなキメラ抗体はまた、“クラス−スイッチ抗体”としても言及される。
【0061】
キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメント、及び免疫グロブリン不変領域をコードするDNAセグメントを含んで成る、発現された免疫グロブリン遺伝子の生成物である。キメラ抗体を生成するための方法は、当業界において現在良く知られている、従来の組換えDNA及び遺伝子トランスフェクション技法を包含する。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; アメリカ特許第5,202,238号 及びアメリカ特許第5,204,244号を参照のこと。
【0062】
用語“ヒト型化抗体”とは、その骨格又は“相補性決定領域”(CDR)が、親イムノグロブリンのCDRに比較して、異なった特異性の免疫グロブリンのCDRを含んで成るよう修飾されている抗体を言及する。好ましい態様においては、ネズミCDRは、“ヒト型化抗体”を調製するために、ヒト抗体の骨格領域中に移植される。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327; and Neuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照のこと。特に好ましいCDRは、キメラ抗体に関して上記に示される抗原を認識する配列を表すそれらに対応する。本発明により包含される他の形の“ヒト型化抗体”とは、不変領域が、特にC1q結合及び/又はFc受容体(FcR)結合に関して、本発明の性質を生成するために、さらに修飾されているか、又は元の抗体のその領域から変更されているそれらの抗体である。
【0063】
用語“ヒト抗体”とは、本明細書において使用される場合、ヒト生殖系免疫グロブリン配列に由来する可変及び不変領域を有する抗体を包含することを意図する。ヒト抗体は技術的に良く知られている(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J. G., Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体はまた、免疫化に基づいて、内因性免疫グロブリン生成の不在下で十分なレパートリー又は選択のヒト抗体を生成できるトランスジェニック動物(例えば、マウス)においても生成され得る。そのような生殖系変異体マウスにおけるヒト生殖系免疫グロブリン遺伝子アレイのトランスファーは、抗原攻撃に基づくヒト抗体の生成をもたらすであろう(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258; Bruggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照のこと)。
【0064】
ヒト抗体はまた、ファージ表示ライブラリーにおいても生成され得る(Hoogenboom, H. R., and Winter, G., J. MoI. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D., et al., J. MoI. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole, など., 及びBoerner, など.の技法はまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のためにも利用できる(Cole, et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985); 及び Boerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991)86-95)。本発明のキメラ及びヒト型化抗体についてすでに言及されたように、用語“ヒト抗体”とは、本明細書において使用される場合、また、特にC1q結合及び/又はFcR結合に関して、例えばFc部分の“クラススイッチ”、すなわち変更又は突然変異誘発(IgG1からIgG4への及び/又はIgG1/IgG4突然変異)により、本発明の性質を生成するために不変領域において修飾されているそのような抗体も含んで成る。
【0065】
用語“組換えヒト抗体”とは、本明細書において使用される場合、組換え手段により調製され、発現され、創造され、又は単離されるすべてのヒト抗体、例えば宿主細胞、例えばNSO又はCHO細胞から又はヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスゲニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体、又は宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体を意味する。そのような組換えヒト抗体は、転位された形で、可変及び不変領域を有する。本発明の組換えヒト抗体は、インビボ体細胞超突然変異にゆだねられている。従って、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系VH及びVL領域に由来し、そしてその配列に関連しているが、天然においては、ヒト抗体生殖系レパートリー内にインビボで存在することができない配列である。
【0066】
“可変ドメイン”(L鎖の可変領域(VL)、H鎖の可変領域(VH))は、本明細書において使用される場合、抗原への抗体の結合において直接関与するL鎖及びH鎖の対の個々を示す。ヒト可変L及びH鎖のドメインは、同じ一般構造を有し、そして個々のドメインは4個の骨格(FR)領域を含んで成り、それらの配列は広く保存され、3個の“超可変領域”(又は相補性決定領域、CDR)により結合される。骨格領域は、β−シートコンホメーションを採用し、そしてCDRはβ−シート構造体を結合するループを形成することができる。個々の鎖におけるCDRは、骨格領域によりそれらの立体構造を保持され、そして他の鎖からのCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体H及びL鎖CDR3領域は、本発明の抗体の結合特異性/親和性において特二重要な役割を演じ、そして従って、本発明のさらなる目的を提供する。
【0067】
用語“超可変領域”又は“抗体の抗原−結合部分又は抗原結合部位”とは、本明細書において使用される場合、抗原結合を担当できる抗体のアミノ酸残基を言及する。超可変領域は“相補性決定領域”又は“CDR”からのアミノ酸残基を含んで成る。“骨格”又は“FR”領域は、本明細書において定義されるように超可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン領域である。従って、抗体のL鎖及びH鎖は、N−末端からC−末端の方に、ドメインFRl、 CDRl、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含んで成る。個々の鎖上のCDRはそのような骨格アミノ酸により分離される。特に、H鎖のCDR3は、ほとんど抗原結合に寄与する領域である。CDR及びFR領域は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed.Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. ( 1991)の標準の定義に従って決定される。
【0068】
本明細書において使用される場合、用語“結合する”又は“特異的に結合する”とは、精製された野生型抗原を用いて、インビトロアッセイ、好ましくはプラスモン共鳴アッセイ(BIAcore, GE- Healthcare Uppsala, Sweden)(例2)において、抗原のエピトープ(ヒトVEGF又はヒトANG-2)への抗体の結合を言及する。結合の親和性は、用語ka(抗体/抗原複合体からの抗体の結合についての速度定数)、kD(解離定数)及びKD(kD/ka)により定義される。
【0069】
結合又は特異的結合とは、10-8モル/l又はそれ以下、好ましくは10-9M〜10-13モル/lの結合親和性(KD)を意味する。従って、本発明の二重特異的<ErbB-3-C-Met>抗体は、10-8モル/l又はそれ以下、好ましくは10-9M〜10-13モル/lの結合親和性(KD)を伴って、それが特異的である個々の抗原に対して特異的に結合する。FcγRIII への抗体の結合が、BIAcore アッセイ(GE-Healthcare Uppsala, Sweden)により調べられ得る。結合の親和性は、用語ka(抗体/抗原複合体からの抗体の結合についての速度定数)、kD(解離定数)及びKD(kD/ka)により定義される。
【0070】
用語“エピトープ”は、抗体に対して特異的に結合できるいずれかのポリペプチド決定因子を包含する。ある態様においては、エピトープ決定因子は、分子の化学的活性表面基、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリン又はスルホニルを包含し、そしてある態様においては、特定の立体構造特徴及び/又は特定の電荷特徴を有することができる。エピトープは抗体により結合される抗原の領域である。
ある態様においては、抗体は、それがタンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物においてその標的抗原を選択的に認識する場合、抗原を特異的に結合するといわれる。
【0071】
用語“不変領域”とは、本出願内で使用される場合、可変領域以外の抗体のドメインの合計を示す。不変領域は、抗原の結合に直接的には関与しないが、しかし種々のエフェクター機能を示す。それらのH鎖の不変領域のアミノ酸配列に依存して、抗体は次のクラスに分割され:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、そしてそれらのいくつかはさらに、サブクラス、例えばIgGl、IgG2、IgG3及びIgG4、IgAl及びIgA2に分割され得る。異なったクラスの抗体に対応する鎖不変領域は、それぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。すべての5種の抗体クラスにおいて見出され得るL鎖不変領域は、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0072】
用語“ヒト起源由来の不変領域”とは、本出現において使用される場合、サブクラスIgGl、IgG2、gG3又はIgG4のヒト抗体の不変H鎖領域及び/又は不変L鎖κ又はλ領域を示す。そのような不変領域は、当業界においては良く知られており、そして例えば、Kabat, E.A., (例えば、Johnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218; Kabat, E.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975) 2785- 2788を参照のこと)により記載される。
【0073】
1つの態様においては、本発明の二重特異的抗体は、好ましくはヒト起源に由来する、IgG1又はIgG3サブクラス(好ましくは、IgG1サブクラス)の不変領域を含んで成る。1つの態様においては、本発明の二重特異的抗体は、好ましくはヒト起源に由来する、IgG1又はIgG3サブクラス(好ましくは、IgG1サブクラス)のFc部分を含んで成る。
【0074】
抗体の不変領域は、直接的に、ADCC(抗体−依存性細胞−介在細胞毒性)及びCDC(補体−依存性細胞毒性)に包含される。補体活性化(CDC)は、ほとんどのIgG抗体サブクラスの不変領域への補体因子CIqの結合により開始される。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位での定義されたタンパク質−タンパク質相互作用により引起される。そのような不変領域結合部位は、当業界において知られており、そして例えばLukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse, R. and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344; Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184; Hezareh, M., et al., J. Virol. 75 (2001) 12161-12168; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324; 及びEP 0 307 434号により記載される。そのような不変領域結合部位は、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、320、K322、P331及びP329(番号付けは、KabatのEUインデックスに常に従う)により特徴づけられる。
【0075】
用語“抗体−依存性細胞毒性(ADCC)”とは、エフェクター細胞の存在下で本発明の抗体による標的細胞の溶菌を言及する。ADCCは好ましくは、エフェクター細胞、例えば新しく単離されたPBMC又は白血球層からの精製されたエフェクター細胞、例えば単球又はナチュラルキラー(NK)細胞又は永久的に増殖するNK細胞系の存在下での本発明の抗体によるErbB3及びc-Met発現細胞の調製物の処理により測定される。用語“補体−依存性細胞毒性(CDC)”とは、ほとんどのIgG抗体サブクラスのFc部分への補体因子C1qの結合により開始される工程を示す。
【0076】
抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位での定義されるタンパク質−タンパク質相互作用により引起される。そのようなFc部分結合部位は、当業界において知られている(上記参照のこと)。そのようなFc部分結合部位は例えば、アミノ酸(L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331及びP329(番号付けは、KabatのEUインデックスに常に従う))により特徴づけられる。サブクラスIgG1、IgG2及びIgG3の抗体は通常、C1q及びC3結合を包含する補体活性化を示し、ところがIqG4はその補体システムを活性化せず、そしてC1q及びC3を結合しない。
【0077】
モノクローナル抗体の細胞−介在性エフェクト−機能は、Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180, and US 6,602,684に記載のように、それらのオリゴ糖成分を構築することにより増強され得る。IgG1型抗体、すなわち最も通常に使用される治療抗体は、個々のCH2ドメインにおいてAsn297で保存されたN−結合されたグリコシル化部位を有する糖タンパク質である。Asn297に結合される2種の複合二分岐オリゴ糖は、CH2ドメイン間に埋没され、ポリペプチド主鎖との広範な接触が形成され、そしてそれらの存在は、エフェクター機能、例えば抗体依存性細胞毒性(ADCC)の抗体による介在のためには必須である(Lifely, M. R., et al., Glycobiology 5 (1995) 813-822; Jefferis, R., et al., Immunol. Rev. 163 (1998) 59-76; Wright, A., and Morrison, S. L., Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32)。
【0078】
Umana, P., et al. Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180 及び WO 99/54342号は、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII (“GnTIII )、すなわち2分されたオリゴ糖の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼのチャイニースハムスター卵巣(CHO)細胞における過剰発現が抗体のインビトロADCC活性を有意に高めることを示した。Asn297炭水化物の組成の変更又はその除去はまた、FcγR及びC1qへの結合に影響を及ぼす(Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17 (1999) 176- 180; Davies, J., et al., Biotechnol. Bioeng. 74 (2001) 288-294; Mimura, Y., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 45539-45547; Radaev, S., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 16478-16483; Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604; Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 277 (2002) 26733-26740; Simmons, L.C., et al., J. Immunol. Methods 263 (2002) 133-147)。
【0079】
フコースの量を低めることによるモノクローナル抗体の細胞−介在性エフェクター機能を増強する方法は、例えばWO 2005/018572号、WO 2006/116260号、WO 2006/114700号、WO 2004/065540号、WO 2005/011735号、WO 2005/027966号、WO 1997/028267号、US 2006/0134709号、US 2005/0054048号、US 2005/0152894号、O 2003/035835号、WO 2000/061739号、 Niwa, R., et al., J.Immunol. Methods 306 (2005) 151-160; Shinkawa, T., et al, J Biol Chem, 278 (2003) 3466-3473; WO 03/055993号、又はUS 2005/0249722号に記載されている。
【0080】
驚くべきことには、本発明の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体は、それらの親<ErbB3>及び/又は<c−Met>抗体に比較して、ErbB-3受容体のインターナリゼーションの強い低減を示す(図は、例8及び表を参照のこと)。従って、本発明の1つの好ましい態様においては、二重特異的抗体は、Asn297での糖鎖によりグリコシル化され(IgG1又はIgG3サブクラス)、それにより、前記糖鎖内のフコースの量は65%又はそれ以下である(Kabatに従っての番号付け)。もう1つの態様においては、前記糖鎖内のフコースの量は、5%〜65%、好ましくは20%〜40%である。本発明の“Asn297”とは、Fc領域におけるほぼ位置297に位置するアミノ酸アスパラギンを意味する。抗体のマイナーな配列変動に基づけば、Asn297はまた、位置297の上流又は下流のいくつかのアミノ酸(通常、±3以下のアミノ酸)、すなわち位置294〜300にも位置することができる。そのような糖構築された抗体はまた、本明細書においてアフォウシル化された(afousilated)抗体としても言及される。
【0081】
ヒトIgG1又はIgG3のグリコシル化は、2個までのGal残基で終結するコアーフコシル化された2分岐複合オリゴ糖グリコシル化としてAsn297で生じる。IgG1又はIgG3サブクラスのヒト不変H鎖領域は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991),及び Briiggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361; Love, T.W., et al., Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527により詳細に報告されている。
【0082】
それらの構造は、末端Gal残基の量に依存して、G0、G1(α−1,6−、又はα−1,3−)又はG2グリカン残基として企画される(Raju, T.S., Bioprocess hit. 1 (2003) 44-53)。抗体Fc部分のCHO型グリコシル化は、例えばRoutier, F. H., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207により記載されている。非−糖修飾されたCHO宿主細胞において組換え的に発現される抗体は、少なくとも85%の量で、Asn297でフコシル化される。完全な長さの親抗体の修飾されたオリゴ糖は、ハイブリッド又は複合体であり得る。好ましくは、分割され、還元され/フコシル化されていないオリゴ糖は複合体である。
【0083】
本発明によれば、“フコースの量”とは、MALDI-TOF質量分光法により測定され、そして平均値として計算される、Asn297に結合されるすべての糖構造体(例えば、複合体、ハイブリッド及び高マンノース構造体)の合計に関連する、Asn297での糖鎖内の前記糖の量を意味する。フコースの相対的量は、MALDI-TOFにより、N−グリコシダーゼF処理されたサンプルにおいて同定されるすべての糖構造体(例えば、それぞれ複合体、ハイブリッド及びオリゴ−及び高−マンノース構造体)に関連するフコース−含有構造体の%である(フコースの量を決定するための詳細な方法については、例14を参照のこと)。
【0084】
本発明のアフコシル化された(afucosylated)二重特異的抗体は、Fc領域におけるオリゴ糖を部分的にフコシル化するのに十分な量で、GnTIII 活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸を発現するよう構築された、糖修飾された宿主細胞において発現され得る。1つの態様においては、GnTIII 活性を有するポリペプチドは、融合ポリペプチドである。他方では、宿主細胞のα1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性は、糖修飾された宿主細胞を生成するために、アメリカ特許第6,946,292号に従って低められるか又は除去され得る。抗体フコシル化の量は、例えば発酵条件(例えば、発酵時間)又は少なくとも2種の抗体と異なったフコシル化量との組合せにより見積もられ得る。
【0085】
そのようなアフコシル化された抗体、及びそれぞれの糖構築方法は、WO 2005/044859号、WO 2004/065540号、WO2007/031875号、Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180、WO 99/154342号、WO 2005/018572号、WO 2006/116260号、WO 2006/114700号、WO 2005/011735号、WO 2005/027966号、WO 97/028267号、US 2006/0134709号、US 2005/0054048号、US 2005/0152894号、WO 2003/035835号、WO 2000/061739に記載される。そのような糖構築された抗体は、高められたADCCを有する。本発明のアフコシル化された抗体を生成する他の糖構築方法は、例えばNiwa, R., et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160; Shinkawa, T., et al, J Biol Chem, 278 (2003) 3466-3473; WO 03/055993 号、又はUS 2005/0249722号に記載される。
【0086】
1つの態様は、Asn297での糖鎖によりグリコシル化される、IgG1又はIgG3サブクラスの二重特異的抗体の調製方法であり、それにより、前記糖鎖内のフコースの量は、WO 2005/044859号、WO 2004/065540号、WO 2007/031875号、Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17 (1999) 176-180、WO 99/154342号、WO 2005/018572号、WO 2006/116260号、 WO 2006/114700号、 WO 2005/011735号、WO 2005/027966号、WO 97/028267号、US 2006/0134709号、US 2005/0054048号、US 2005/0152894号、WO 2003/035835号、又はWO 2000/061739号に記載される方法を用いてれば、65%又はそれ以下である。
【0087】
1つの態様は、Asn297での糖鎖によりグリコシル化される、IgG1又はIgG3サブクラスの二重特異的抗体の調製方法であり、それにより、前記糖鎖内のフコースの量は、Niwa, R., et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160; Shinkawa, T., et al, J Biol Chem, 278 (2003) 3466-3473; WO 03/055993 or US 2005/0249722に記載される方法を用いてれば、65%又はそれ以下である。
【0088】
1つの態様においては、本発明の抗体は、A549細胞におけるHGF−誘発されたc-Met受容体リン酸化を阻害する(例2に記載のように)。
1つの態様においては、本発明の抗体は、1μg/mlの濃度で(例3に記載されるような)、少なくとも70%(対照としてのHRGに比較して)、MCF7細胞におけるHRG(Herregulin)−誘発されたHer3受容体リン酸化を阻害する。
1つの態様においては、本発明の抗体は、12.5μg/mlの濃度で(例4に記載されるような)、少なくとも40%(対照としてのHGFに比較して)、HUVEC細胞のHGF−誘発された増殖を阻害する。
【0089】
二重特異的抗体型
本発明の抗体は、2又はそれ以上の結合部位を有し、そして二重特異性である。すなわち、この抗体は、2つ以上の結合部位(すなわち、抗体は三価又は多価である)が存在する場合でさえ、二重特異的であり得る。本発明の二重特異的抗体は例えば、多価の単鎖抗体、ジアボディー及びトリアボディー、並びにさらなる抗原結合部位(例えば、単鎖Fv, VHドメイン及び/又はVLドメイン、Fab, 又は(Fab)2)が1又は複数のペプチド−リンカーを通して結合されている、十分な長さの抗体の不変ドメインを有する抗体を包含する。抗体は、単一の種からの十分な長さであり得、又はキメラ化か又はヒト適合され得る。2つ以上の抗原結合部位を有する抗体に関して、いくつかの結合部位は、タンパク質が2つの異なった抗原のための結合部位を有する限り、同一であり得る。すなわち、第1の結合部位はVEGFに対して特異的であり、第2の結合部位はANG-2に対して特異的であり、そして逆もまた同様である。
【0090】
好ましい態様においては、本発明のヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体は、抗体のFc領域を含んで成る。そのような抗体は、1つの態様においては、十分な長さを意味する性質を保持する。
【0091】
二重特異的型
免疫グロブリン不変領域を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対する二重特異的二価抗体は、例えばWO 2009/080251号、WO 2009/080252号、WO 2009/080253 又は Ridgway, J.B., Protein Eng. 9 (1996) 617-621; WO 96/027011号; Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681; Atwell, S., et al., J. MoI. Biol. 270 (1997) 26-35 及び EP 1 870 459Alに記載のようにして使用され得る。
【0092】
従って、本発明の1つの態様においては、本発明の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖を含んで成る、二価の二重特異的抗体であり、ここで不変ドメインCL及びCH1、及び/又は可変ドメインVL及びVHがお互い置換されている。
【0093】
本発明のもう1つの態様においては、本発明の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体は、
a)ヒトc-Metに対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖;及び
b)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖を含んで成る、二価の二重特異的抗体であり、ここで不変ドメインCL及びCH1、及び/又は可変ドメインVL及びVHがお互い置換されている。
下記に記載のような“ノブ−イントゥ−ホールズ(kneb-into-holes)”技法による典型的な図解構造に関しては、図2a-cを参照のこと。
【0094】
そのようなヘテロダイマーの二価の二重特異的抗−ErbB-3/抗-c-Met抗体の収率を改良するために、前記十分な長さの抗体のCH3ドメインが、例えばWO 96/027011、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng 9 (1996) 617-621;及び Merchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16 (1998) 677-681において、いくつかの例を伴って詳細に記載される“ノブ−イントゥ−ホールズ”により変更され得る。この方法においては、2種のCH3ドメインの相互作用表面が、それらの2種のCH3ドメインを含む両H鎖のヘテロダイマー化を高めるために変更される。2種のCH3ドメイン(2種のH鎖の)の個々は、“ノブ(knob)”であり得、そして他は“ホール(hole)”である。ジスルフィド橋の導入は、ヘテロダイマーを安定化し(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681 ; Atwell, S., et al. J. MoI. Biol. 270 (1997) 26-35)、そして収率を高める。
【0095】
従って、本発明の1つの観点においては、前記二価の二重特異的抗体はさらに、
1つのH鎖のCH3ドメイン及び他のH鎖のCH3ドメインが、抗体CH3ドメイン間にオリジナル界面を含んで成る表面でそれぞれ対合することを特徴とし;
ここで前記界面は、前記二価の二重特異的抗体の形成を促進するために変更され、ここで前記変更が、
a)1つのH鎖のCH3ドメインが変更され、
その結果、二価の二重特異的抗体内の他のH鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と対合する、1つのH鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基がより大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基により置換され、それにより、他のH鎖のCH3ドメインの界面内の腔に位置することができる1つのH鎖のCH3ドメインの界面内に突起が生成され;そして
b)他のH鎖のCH3ドメインが変更され、
その結果、二価の二重特異的抗体内の第1CH3ドメインのオリジナル界面と対合する、第2CH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基がより小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基により置換され、それにより、第1CH3ドメインの界面内の突起が位置することができる第2CH3ドメインの界面内に腔が生成される;ことを特徴とする。
【0096】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトフォン(W)から成る群から選択される。
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)から成る群から選択される。
【0097】
本発明の1つの観点においては、両CH3ドメインはさらに、それらの両CH3ドメイン間にジスルフィド橋が形成され得るよう、個々のCH3ドメインのその対応する位置においてアミノ酸としてのシステイン(C)の導入により変更される。
【0098】
好ましい態様においては、前記二価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにT366W突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る。CH3ドメイン間の追加の鎖間ジスルフィド橋がまた、“ノブ鎖”のCH3ドメイン中にY349C突然変異及び“ホール鎖”のCH3ドメイン中にE356C突然変異又はS354C突然変異を導入することにより使用される(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。
【0099】
従って、もう1つの好ましい態様においては、前記二価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにE356C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成り、又は前記二価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る(1つのCH3ドメインにおける追加のY349C突然変異及び他のCH3ドメインにおける追加のE356C又はS354C突然変異が鎖間スルフィド橋を形成する)(番号付けは常に、KabatのEU指標に従う)。しかしまた、EP1870459A1号により記載されるような他のノブ−イントゥ−ホール技法が、他方では又さらに使用され得る。前記二価の二重特異的抗体についての好ましい例は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにおけるR409D;K370E突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにおけるD397K;E357K突然変異である(番号付けはKabatのEU指標に従う)。
【0100】
もう1つの好ましい態様においては、前記二価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにT366W突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異、及びさらに、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0101】
もう1つの好ましい態様においては、前記二価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成るか、又は前記二価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異、及びさらに、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0102】
発現され、そして精製される、表5及び図7に記載される型での二価の二重特異的抗体の例は、下記例に記載される(例えば、表5及び図7を参照のこと)。
三価の二重特異的型
本発明のもう1つの好ましい観点は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fabフラグメントを含んで成る三価の二重特異的抗体であり、ここでb)下での前記単鎖Fabフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して、a)下での前記十分な長さの抗体に融合される。
【0103】
下記に記載されるような“ノブ−イントゥ−ホールズ”技法による典型的な図解構造については、図5aを参照のこと。
本発明のもう1つの好ましい観点は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fvフラグメントを含んで成る三価の二重特異的抗体であり、ここでb)下での前記単鎖Fvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して、a)下での前記十分な長さの抗体に融合される。
【0104】
下記に記載されるような“ノブ−イントゥ−ホールズ”技法による典型的な図解構造については、図5bを参照のこと。
従って、表1におけるscFv-Ab−命名法によるその対応する三価の二重特異的抗体が発現され、そして精製された(下記例を参照のこと)。
1つの好ましい態様においては、ヒトc-Metを結合する前記単鎖Fab又はFvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH鎖のC-末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
【0105】
本発明のもう1つの好ましい観点は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;
b)ba)抗体H鎖可変ドメイン(VH);又は
bb)抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体不変ドメイン1(CH1)から成るポリペプチド、ここで前記ポリペプチドは前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の1つのC−末端にペプチドコネクターを通してVHドメインのN−末端により融合され;
c)ca) 抗体L鎖可変ドメイン(VL);又は
cb)抗体L鎖可変ドメイン(Vl)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)から成るポリペプチド、ここで前記ポリペプチドは前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の他の1つのC−末端にペプチドコネクターを通してVLドメインのN−末端により融合される;を含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下でのポリペプチドの抗体H鎖可変ドメイン(VH)及びc)下でのポリペプチドの抗体L鎖可変ドメイン(VL)は、ヒトc-Metに対して特異的に結合する抗原−結合部位を一緒に形成する。
【0106】
好ましくは、b)及びc)下での前記ペプチドコネクターは、同一であり、そして少なくとも25個のアミノ酸、好ましくは30〜50個のアミノ酸のペプチドである。
典型的な図解構造については、図3a-cを参照のこと。
従って、表4におけるVHVL−Ab−命名法によるその対応する三価の二重特異的抗体が発現され、そして精製された(下記例及び図3cを参照のこと)。
【0107】
任意には、b)下でのポリペプチドの抗体H鎖可変ドメイン(VH)及びc)下でのポリペプチドの抗体L鎖可変ドメイン(VL)は、次の位置間へのジスルフィド結合の導入による鎖間ジスルフィド結合を通して結合され、そして安定化される:
i)H鎖ドメイン位置44〜L鎖可変ドメイン位置100、
ii)H鎖可変ドメイン位置105〜L鎖可変ドメイン位置43、又は
iii)H鎖可変ドメイン位置101〜L鎖可変ドメイン位置100(番号付けは、KabatのEU指標に常に従う)。
【0108】
安定化のために不自然なジスルフィド橋を導入するその技法は、例えばWO 94/029350号、 Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. (1997) 1453-59; Kobayashi, H., et al; Nuclear Medicine & Biology, Vol. 25, (1998) 387-393; 又はSchmidt, M., et al., Oncogene (1999) 18, 1711-1721に記載されている。1つの態様においては、b)及びc)下でのポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、H鎖可変ドメイン位置44〜L鎖ドメイン位置100間にある。1つの態様においては、b)及びc)下でのポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、H鎖可変ドメイン位置105〜L鎖ドメイン位置43間にある(番号付けは、KabatのEU指標に常に従う)。1つの態様においては、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVH及びVL間の任意のジスルフィド安定化を有さない三価の二重特異的抗体が好ましい。
【0109】
H鎖の1つへの単鎖Fab, Fvフラグメントの融合により(図5a又は5b)、又は十分な長さの抗体の両H鎖への異なったペプチドの融合により(図3a-c)、ヘテロダイマーの三価の二重特異的抗体が得られる。そのようなヘテロダイマーの三価の二重特異的抗−ErbB-3/抗-c-Met抗体の収率を改良するために、前記十分な長さの抗体のCH3ドメインが、例えばWO 96/027011、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng 9 (1996) 617-621;及び Merchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16 (1998) 677-681において、いくつかの例を伴って詳細に記載される“ノブ−イントゥ−ホールズ”により変更され得る。この方法においては、2種のCH3ドメインの相互作用表面が、それらの2種のCH3ドメインを含む両H鎖のヘテロダイマー化を高めるために変更される。2種のCH3ドメイン(2種のH鎖の)の個々は、“ノブ(knob)”であり得、そして他は“ホール(hole)”である。ジスルフィド橋の導入は、ヘテロダイマーを安定化し(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681 ; Atwell, S., et al. J. MoI. Biol. 270 (1997) 26-35)、そして収率を高める。
【0110】
従って、本発明の1つの観点においては、前記三価の二重特異的抗体はさらに、
十分な長さの抗体の1つのH鎖のCH3ドメイン及び十分な長さの抗体の他のH鎖のCH3ドメインが、抗体CH3ドメイン間にオリジナル界面を含んで成る表面でそれぞれ対合することを特徴とし;
ここで前記界面は、前記二価の二重特異的抗体の形成を促進するために変更され、ここで前記変更が、
a)1つのH鎖のCH3ドメインが変更され、
その結果、二価の二重特異的抗体内の他のH鎖のCH3ドメインのオリジナル界面と対合する、1つのH鎖のCH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基がより大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基により置換され、それにより、他のH鎖のCH3ドメインの界面内の腔に位置することができる1つのH鎖のCH3ドメインの界面内に突起が生成され;そして
b)他のH鎖のCH3ドメインが変更され、
その結果、三価の二重特異的抗体内の第1CH3ドメインのオリジナル界面と対合する、第2CH3ドメインのオリジナル界面内で、アミノ酸残基がより小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基により置換され、それにより、第1CH3ドメインの界面内の突起が位置することができる第2CH3ドメインの界面内に腔が生成される;ことを特徴とする。
【0111】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトフォン(W)から成る群から選択される。
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)から成る群から選択される。
本発明の1つの観点においては、両CH3ドメインはさらに、それらの両CH3ドメイン間にジスルフィド橋が形成され得るよう、個々のCH3ドメインのその対応する位置においてアミノ酸としてのシステイン(C)の導入により変更される。
【0112】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにT366W突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る。CH3ドメイン間の追加の鎖間ジスルフィド橋がまた、“ノブ鎖”のCH3ドメイン中にY349C突然変異及び“ホール鎖”のCH3ドメイン中にE356C突然変異又はS354C突然変異を導入することにより使用される(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681)。
【0113】
従って、もう1つの好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにE356C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成り、又は前記三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る(1つのCH3ドメインにおける追加のY349C突然変異及び他のCH3ドメインにおける追加のE356C又はS354C突然変異が鎖間スルフィド橋を形成する)(番号付けは常に、KabatのEU指標に従う)。しかしまた、EP1870459A1号により記載されるような他のノブ−イントゥ−ホール技法が、他方では又さらに使用され得る。前記三価の二重特異的抗体についての好ましい例は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにおけるR409D;K370E突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにおけるD397K;E357K突然変異である(番号付けはKabatのEU指標に従う)。
【0114】
もう1つの好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにT366W突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにT366S、L368A、Y407V突然変異、及びさらに、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0115】
もう1つの好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成るか、又は前記二価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異、及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C、T366S、L368A、Y407V突然変異、及びさらに、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0116】
本発明のもう1つの態様は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして
aa) N−末端からC−末端方向にある、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)から成る2つの抗体H鎖から成る2つの抗体H鎖;及び
ab) N−末端からC−末端方向にある、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)(VL-CL)から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fabフラグメントを含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここで前記単鎖Fabフラグメントは抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体不変ドメイン1(CH1)、抗体L鎖可変ドメイン(VL)、抗体L鎖不変ドメイン(CL)及びリンカーから成り、そして前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N−末端からC−末端方向にある次の順序の1つを有し:
ba) VH-CH1−リンカー−VL-CL、又はbb)VL-CL−リンカー−VH-CH1;
ここで前記リンカーは少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32〜50個のアミノ酸のペプチドであり;そして
b)下での前記単鎖Fabフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端で(好ましくは、H鎖のC−末端で)、ペプチドコネクターを通してa)下での前記十分な長さの抗体に融合され;
ここで前記ペプチドコネクターは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは10〜50個のアミノ酸のペプチドである。
【0117】
この態様内で、好ましくは三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにT366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにT366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成り、そしてより好ましくは、三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C (又はE356C)、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る。任意には、前記態様においては、三価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0118】
本発明のもう1つの態様は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして
aa) N−末端からC−末端方向にある、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)から成る2つの抗体H鎖から成る2つの抗体H鎖;及び
ab) N−末端からC−末端方向にある、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)(VL-CL)から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fvフラグメントを含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下での前記単鎖Fvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端で(好ましくは、H鎖のC−末端で)ペプチドコネクターを通してa)下での前記十分な長さの抗体に融合され;そして
前記ペプチドコネクターは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは10〜50個のアミノ酸のペプチドである。
【0119】
この態様内で、好ましくは三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにT366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにT366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成り、そしてより好ましくは、三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C (又はE356C)、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る。任意には、前記態様においては、三価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0120】
従って、好ましい態様は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして
aa) N−末端からC−末端方向にある、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)から成る2つの抗体H鎖から成る2つの抗体H鎖;及び
ab) N−末端からC−末端方向にある、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)(VL-CL)から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fvフラグメントを含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下での前記単鎖Fvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH鎖のC−末端でペプチドコネクターを通してa)下での前記十分な長さの抗体に融合され(2つの抗体H鎖-単鎖Fv融合ペプチドをもたらす);そして
前記ペプチドコネクターは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは10〜50個のアミノ酸のペプチドである。
【0121】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、第1抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:26のポリペプチド、及び第2抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:27のペプチド、及び配列番号:28の2つの抗体L鎖を含んで成る。
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、第1抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:29のポリペプチド、及び第2抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:30のペプチド、及び配列番号:31の2つの抗体L鎖を含んで成る。
【0122】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、第1抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:32のポリペプチド、及び第2抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:33のペプチド、及び配列番号:34の2つの抗体L鎖を含んで成る。
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、第1抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:35のポリペプチド、及び第2抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:36のペプチド、及び配列番号:37の2つの抗体L鎖を含んで成る。
【0123】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、第1抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:38のポリペプチド、及び第2抗体H鎖−単鎖Fv融合ペプチドとして、配列番号:39のペプチド、及び配列番号:40の2つの抗体L鎖を含んで成る。
本発明のもう1つの態様は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして
aa) N−末端からC−末端方向にある、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)から成る2つの抗体H鎖から成る2つの抗体H鎖;及び
ab) N−末端からC−末端方向にある、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)から成る十分な長さの抗体;及び
b)ba)抗体H鎖可変ドメイン(VH);又は
bb)抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体不変ドメイン1(CH1)から成るポリペプチド、
ここで前記ポリペプチドは、前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の1つのC−末端にペプチドコネクターを通して、VHドメインのN−末端により融合され(抗体H鎖−VH融合ペプチドをもたらし)、ここで前記ペプチドコネクターは少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは25〜50個のアミノ酸のペプチドであり;
c)ca) 抗体L鎖可変ドメイン(VL)、又は
cb)抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)から成るポリペプチド、
ここで前記ポリペプチドは、前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の他の1つのC−末端にペプチドコネクターを通して、VLドメインのN−末端により融合され(抗体H鎖−VL融合ペプチドをもたらし)、ここで前記ペプチドコネクターはb)下でのペプチドコネクターと同一である;を含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下でのポリペプチドの抗体H鎖可変ドメイン(VH)及びc)下でのポリペプチドの抗体L鎖可変ドメイン(VL)は、ヒトc-Metに対して特異的に結合する抗原−結合部位を一緒に形成する。
【0124】
この態様内で、好ましくは三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにT366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにT366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成り、そしてより好ましくは、三価の二重特異的抗体は、2つのCH3ドメインの1つにY349C、T366W突然変異及び2つのCH3ドメインの他の1つにS354C (又はE356C)、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る。任意には、前記態様においては、三価の二重特異的抗体は、“ノブ鎖”のCH3ドメインにR409D;K370E突然変異、及び“ホール鎖”のCH3ドメインにD399K;E357K突然変異を含んで成る。
【0125】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、抗体H鎖−VH融合ペプチドとして配列番号:11のポリペプチド、抗体H鎖−VL融合ペプチドとして配列番号:12のポリペプチド、及び配列番号:13の2種の抗体L鎖を含んで成る。
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、抗体H鎖−VH融合ペプチドとして配列番号:14のポリペプチド、抗体H鎖−VL融合ペプチドとして配列番号:15のポリペプチド、及び配列番号:16の2種の抗体L鎖を含んで成る。
【0126】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、抗体H鎖−VH融合ペプチドとして配列番号:17のポリペプチド、抗体H鎖−VL融合ペプチドとして配列番号:18のポリペプチド、及び配列番号:19の2種の抗体L鎖を含んで成る。
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、抗体H鎖−VH融合ペプチドとして配列番号:20のポリペプチド、抗体H鎖−VL融合ペプチドとして配列番号:21のポリペプチド、及び配列番号:22の2種の抗体L鎖を含んで成る。
【0127】
好ましい態様においては、前記三価の二重特異的抗体は、抗体H鎖−VH融合ペプチドとして配列番号:23のポリペプチド、抗体H鎖−VL融合ペプチドとして配列番号:24のポリペプチド、及び配列番号:25の2種の抗体L鎖を含んで成る。
【0128】
本発明のもう1つの観点においては、本発明の三価の二重特異的抗体は、
a)2つの抗体H鎖VH-CH1-HR-CH2-CH3及び2つの抗体L鎖VL-CLから成るヒトErbB-3に対して結合する十分な長さの抗体、
(ここで、好ましくは、2つのCH3ドメインの1つはY349C、T366W突然変異を含んで成り、そして2つのCH3ドメインの他の1つはS354C (又は E356C)、T366S、L368A、Y407V突然変異を含んで成る);
b)ba)抗体H鎖可変ドメイン(VH);又は
bb)抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体不変ドメイン1(CH1)から成るポリペプチド、
ここで前記ポリペプチドは、前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の1つのC−末端にペプチドコネクターを通して、VHドメインのN−末端により融合され;
c)ca) 抗体L鎖可変ドメイン(VL)、又は
cb)抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)から成るポリペプチド;
ここで前記ポリペプチドは、前記十分な長さの抗体の2つのH鎖の他の1つのC−末端にペプチドコネクターを通して、VLドメインのN−末端により融合される;を含んで成る三価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下でのポリペプチドの抗体H鎖可変ドメイン(VH)及びc)下でのポリペプチドの抗体L鎖可変ドメイン(VL)は、ヒトc-Metに対して特異的に結合する抗原−結合部位を一緒に形成する。
【0129】
四価の二重特異的型
1つの態様においては、本発明の二重特異的抗体は四価であり、ここでヒトc-Metに対して特異的に結合する抗原−結合部位がc-Metダイマー化を阻害する(例えば、WO2009/007427号に記載のように)。
【0130】
従って、本発明のもう1つの観点は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する、2つの同一の単鎖Fabフラグメントを含んで成る四価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下の前記単鎖Fabフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
従って、本発明のもう1つの観点は、
a)ヒトc-Metに対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する、2つの同一の単鎖Fabフラグメントを含んで成る四価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下の前記単鎖Fabフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
典型的な図解構造に関しては、図6aを参照のこと。
【0131】
従って、本発明のもう1つの観点は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する、2つの同一の単鎖Fvフラグメントを含んで成る四価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下の前記単鎖Fvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
従って、本発明のもう1つの観点は、
a)ヒトc-Metに対して特異的に結合し、そして2つの抗体H鎖及び2つの抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する、2つの同一の単鎖Fvフラグメントを含んで成る四価の二重特異的抗体であり、
ここでb)下の前記単鎖Fvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
典型的な図解構造に関しては、図6bを参照のこと。
1つの好ましい態様においては、ヒトc-Met又はヒトErbB-3を結合する前記単鎖Fab又はFvフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH鎖のC−末端でペプチドコネクターを通して前記十分な長さの抗体に融合される。
【0132】
本発明のもう1つの態様は、
a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合し、そして
aa) N−末端からC−末端方向にある、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)から成る2つの同一の抗体H鎖;及び
ab) N−末端からC−末端方向にある、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)(VL-CL)から成る2つの同一の抗体L鎖から成る十分な長さの抗体;及び
b)ヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの単鎖Fabフラグメントを含んで成る四価の二重特異的抗体であり、
ここで前記単鎖Fabフラグメントは抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体不変ドメイン1(CH1)、抗体L鎖可変ドメイン(VL)、抗体L鎖不変ドメイン(CL)及びリンカーから成り、そして前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N−末端からC−末端方向にある次の順序の1つを有し:
ba) VH-CH1−リンカー−VL-CL、又はbb)VL-CL−リンカー−VH-CH1;
ここで前記リンカーは少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32〜50個のアミノ酸のペプチドであり;そして
b)下での前記単鎖Fabフラグメントは、前記十分な長さの抗体のH又はL鎖のC−又はN−末端で、ペプチドコネクターを通してa)下での前記十分な長さの抗体に融合され;
ここで前記ペプチドコネクターは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは10〜50個のアミノ酸のペプチドである。
【0133】
用語“十分な長さの抗体”とは、三価又は四価のいずれかにおいて使用される場合、2つの“十分な長さの抗体H鎖”及び2つの“十分な長さの抗体L鎖”から成る抗体を示す(図1を参照のこと)。“十分な長さの抗体H鎖”は、N末端からC末端方向に、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変H鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体H鎖不変ドメイン2(CH2)、及び抗体H鎖不変ドメイン3(CH3)(VH-CH1-HR-CH2-CH3);及び任意には、サブクラスIgEの抗体の場合、抗体H鎖不変ドメイン4(CH4)から成るポリペプチドである。好ましくは、“十分な長さの抗体H鎖”は、N末端からのC末端方向に、VH, CH1, HR, CH2及びCH3から成るポリペプチドである。“十分な長さの抗体L鎖”は、N末端からC末端方向に、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び抗体L鎖不変ドメイン(CL)(VL-CLと略される)から成るポリペプチドである。
【0134】
抗体L鎖不変ドメイン(CL)は、κ(カッパ)又はλ(ラムダ)であり得る。それらの2種の十分な長さの抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間及び十分な長さの抗体H鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を通して一緒に結合される。典型的な十分な長さの抗体の例は、天然の抗体、例えばIgG (例えばIgG 1 及び IgG2)、IgM、IgA、IgD及びIgEである。本発明の十分な長さの抗体は、単一の種、例えばヒトからであり得、又はそれらはキメラ化された又はヒト型化抗体であり得る。本発明の十分な長さの抗体は、同じ抗体に対して特異的に結合する、VH及びVL対により個々に形成される2種の抗原結合部位を含んで成る。前記十分な長さの抗体のH鎖又はL鎖のC−末端は、前記H鎖又はL鎖のC−末端での最後のアミノ酸を示す。前記十分な長さの抗体のH鎖又はL鎖のN−末端は、前記H鎖又はL鎖のN−末端での最後のアミノ酸を示す。
【0135】
用語“ペプチドコネクター”とは、本発明内で使用される場合、好ましくは合成起源のものである、アミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明のそれらのペプチドコネクターは、本発明の多重特異的抗体を形成するために十分な長さの抗体のC−又はN−末端に単鎖Fabフラグメントを融合するために使用される。好ましくは、b)下の前記ペプチドコネクターは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは5〜100個、より好ましくは10〜50個のアミノ酸を有するアミノ酸配列のペプチドである。1つの態様においては、前記ペプチドコネクターは、(GxS)n又は(GxS)nGmであり、ここでG=グリシン、S=セリン、及び(x=3、n=3,4,5又は6、及びm=0,1,2又は3)、又は(x=4、n=2,3,4又は5、及びm=0,1,2又は3)、好ましくは、x=4及びn=2又は3、より好ましくは、x=4、n=2。
【0136】
好ましくは、VH又はVH-CH1ポリペプチド及びVL又はVL-CLポリペプチド(図7a-c)が十分な長さの抗体のC−末端に、2つの同一のペプチドコネクターを通して融合されている、三価の二重特異的抗体においては、前記ペプチドコネクターは、少なくとも25個のアミノ酸のペプチド、好ましくは30〜50個のアミノ酸のペプチドであり、そしてより好ましくは、前記ペプチドコネクターは(GxS)n又は(GxS)nGmであり、ここでGはグリシンであり、Sはセリンであり、そして(x = 3, n= 6, 7 又は 8, 及び m= 0, 1, 2 又は3) 又は(x = 4,n= 5, 6, 又は 7 及びm= 0, 1, 2 又は3)、好ましくはX=4及びn=5,6,7。
【0137】
単鎖Fabフラグメント”(図2aを参照のこと)は、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体不変ドメイン1(CH1)、抗体L鎖可変ドメイン(VL)、抗体L鎖不変ドメイン(CL)及びリンカーから成るポリペプチドであり、ここで前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N−末端からC−末端方向に、次のオーダーの1つを有する:a)VH−CH1−リンカー−VL-CL、b)VL-CL-リンカー−VH-CH1、c)VH-CL-リンカー−VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー−VH-CL;そしてここで前記リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32〜50個のアミノ酸のポリペプチドである。前記単鎖Fabフラグメントa)VH−CH1−リンカー−VL-CL、b)VL-CL-リンカー−VH-CH1、c)VH-CL-リンカー−VL-CH1、及びd)VL-CH1-リンカー−VH-CLは、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を通して安定化される。用語“N−末端”とは、N−末端の最後のアミノ酸を示す。用語“C−末端”とは、C−末端の最後のアミノ酸を示す。
【0138】
用語“リンカー”は、単鎖Fabフラグメントに関して、本発明内で使用され、そして好ましくは合成起源のものである、アミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明のそれらのペプチドは、本発明の次の単鎖Fabフラグメントを形成するために、a) VH-CH1〜VL-CL、b) VL-CL 〜VH-CH1、c) VH-CL〜VL-CH1 又はd) VL-CH1〜VH-CLを連結するために使用される:a) VH-CH1 -リンカー- VL-CL、 b) VL-CL-リンカー- VH-CHl、c) VH-CL-リンカー-VL-CHl 又は d) VL-CH1 -リンカー- VH-CL。単鎖Fabフラグメント内の前記リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32〜50個のアミノ酸を有するアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0139】
1つの態様においては、前記リンカーは、(GxS)nであり、ここでG=グリシン、S=セリン、(x=3、n=8,9又は10、及びm=0,1,2又は3)又は(x=4及びn=6,7又は8、及びm=0,1,2又は3)、好ましくは、x=4、n=6又は7、及びm=0,1,2又は3、より好ましくは、x=4、n=6及びm=2。1つの態様においては、前記リンカーは(G4S)6G2である。
【0140】
好ましい態様においては、前記単鎖Fabフラグメントにおける前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N−末端からC−末端方向に、次のオーダーの1つを有する:
a)VH-CH1−リンカー−VL-CL、又はb)VL-CL−リンカー−VH-CH1、より好ましくはVL-CL−リンカー−VH-CH1。
もう1つの好ましい態様においては、前記単鎖Fabフラグメントにおける前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N−末端からC−末端方向に、次のオーダーの1つを有する:
a)VH-CH−リンカー−VL-CH1又はb)VL-CH1−リンカー−VH-CL。
【0141】
任意には、前記単鎖Fabフラグメントにおいては、CL−ドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合の他に、また抗体H鎖可変ドメイン(VH)及び抗体L鎖可変ドメイン(VL)が、次の位置間へのジスルフィド結合の導入によりジスルフィド安定化される:
i)H鎖可変ドメイン位置44〜L鎖可変ドメイン位置100、
ii)H鎖可変ドメイン位置105〜L鎖可変ドメイン位置43、又は
iii)H鎖可変ドメイン位置101〜L鎖可変ドメイン位置100(番号付けは、KabatのEUインデックスに常に従う)。
【0142】
単鎖Fabフラグメントのそのようなさらなるジスルフィド安定化が、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVH及びVL間へのジスルフィド結合の導入により達成される。単鎖Fvについての安定化のために不自然なジスルフィド橋を導入するための技法は、例えばWO 94/029350号, Rajagopal, V., et al, Prot. Engin. (1997) 1453-59; Kobayashi, H., et al; Nuclear Medicine & Biology, Vol. 25, (1998) 387-393;又はSchmidt, M, et al , Oncogene (1999) 18, 171 1 -1721に記載されている。1つの態様においては、本発明の抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意なジスルフィド結合は、H鎖可変ドメイン位置44とL鎖可変ドメイン位置100との間に存在する。1つの態様においては、本発明の抗体に含まれる単鎖Fabフラグメントの可変ドメイン間の任意なジスルフィド結合は、H鎖可変ドメイン位置105とL鎖可変ドメイン位置43との間に存在する(番号付けは、KabatのEUインデックスに常に従う)。
【0143】
1つの態様においては、単鎖Fabフラグメントの可変ドメインVH及びVL間の前記ジスルフィド安定化を伴わない単鎖Fabフラグメントが好ましい。
【0144】
単鎖Fvフラグメント”(図2bを参照このこと)は、抗体H鎖可変ドメイン(VH)、抗体L鎖可変ドメイン(VL)及び単鎖−Fv−リンカーから成るポリペプチドであり、ここで前記抗体ドメイン及び前記単鎖−Fv−リンカーは、N−末端からC−末端の方向に次のオーダーの1つを有し:a)VH−単鎖−Fv−リンカー−VL、b)VL−単鎖−Fv−リンカー−VH;好ましくはa)VH−単鎖−Fv−リンカー−VL、そして前記単鎖−Fv−リンカーは、少なくとも15個のアミノ酸の長さ、1つの態様においていは、少なくとも20個のアミノ酸の長さのアミノ酸配列を有するポリペプチドである。用語“N−末端”とは、N−末端の最後のアミノ酸を示す。用語“C−末端”とは、C−末端の最後のアミノ酸を示す。
【0145】
用語“単鎖−Fv−リンカー”とは、単鎖Fvフラグメント内で使用される場合、好ましくは合成起源のものである、アミノ酸配列を有するペプチドを示す。前記単鎖−Fv−リンカーは、少なくとも15個のアミノ酸の長さ、1つの態様においては、少なくとも20個のアミノ酸の長さ、及び好ましくは15〜30個のアミノ酸の長さを有するアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様においては、前記単鎖−リンカーは、(GxS)nであり、ここでG=グリシン、S=セリン、(x=3及びn=4,5又は6)、又は(x=4及びn=3,4,5又は6)、好ましくはx=4、n=3,4又は5、より好ましくはx=4、n=3又は4である。1つの態様においては、前記単鎖−Fvリンカーは、(G4S)3又は(G4S)4である。
【0146】
さらに、前記単鎖Fvフラグメントは好ましくは、ジスルフィド安定化される。そのような単鎖抗体の追加のジスルフィド安定化は、単鎖抗体の可変ドメイン間へのジスルフィド結合の導入により達成され、そして例えばWO 94/029350号、Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10 (12) (1997) 1453-59; Kobayashi, H., et al., Nuclear Medicine & Biology 25 (1998) 387-393; 又はSchmidt, M, et al., Oncogene 18 (1999) 171 1-1721に記載される。
【0147】
ジスルフィド安定化された単鎖Fvフラグメントの1つの態様においては、本発明の抗体に含まれる単鎖Fvフラグメントの可変ドメイン間のジスルフィド結合は、下記から選択された個々の単鎖Fvフラグメントに関しては無関係である:
i)H鎖可変ドメイン位置44〜L鎖可変ドメイン位置100、
ii)H鎖可変ドメイン位置105〜L鎖可変ドメイン位置43、又は
iii)H鎖可変ドメイン位置101〜L鎖可変ドメイン位置100。
【0148】
1つの態様において、本発明の抗体に含まれる単鎖Fvフラグメントの可変ドメイン間のジスルフィド結合は、H鎖可変ドメイン位置44とL鎖可変ドメイン位置100との間に存在する。
【0149】
本発明の抗体は、組換え手段により生成される。従って、本発明の1つの観点は、本発明の抗体をコードする核酸であり、そしてさらなる観点は、本発明の抗体をコードする前記核酸を含んで成る細胞である。組換え生成方法は当業界において広く知られており、そして原核及び真核細胞におけるタンパク質発現、抗体の続く単離及び通常、医薬的に許容できる純度への精製を包含する。宿主細胞における前述のような抗体の発現のためには、それぞれの修飾されたL鎖及びコードする核酸が標準方法により発現ベクター中に挿入される。
【0150】
発現は、適切な原核宿主細胞、例えばCHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母又はE.コリ細胞において実施され、そして抗体は細胞(溶菌後の上清液又は細胞)から回収される。抗体の組換え生成のための一般方法は、当業界において良く知られており、そして例えばMakrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271 -282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161 ; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の再考文献に記載されている。
【0151】
二重特異的抗体は、従来の免疫グロブリン精製方法、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性クロマトグラフィーにより、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNA及びRNAは、従来の方法を用いて、容易に単離され、そして配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNA及びRNAの源として作用することができる。単離されると、DNAは発現ベクター中に挿入され、次に宿主細胞、例えば免疫グロブリンタンパク質を生成しない、HEK293細胞、CHO細胞又は骨髄腫細胞中にトランスフェクトされ、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成が得られる。
【0152】
二価の二重特異的抗体のアミノ酸配列変異体は、適切なヌクレオチド配列変化を抗体DNA中に導入することにより、又はヌクレオチド合成により調製される。しかしながら、そのような修飾は、例えば上記のように、非常に制限された範囲でのみ、実施され得、例えば、修飾は、上記抗体特性、例えばIgGイソタイプ及び抗原結合を変更しないが、しかし組換え生成の収率、タンパク質安定性を改良するか、又は精製を促進する。
【0153】
用語“宿主細胞”とは、本出願において使用される場合、本発明の抗体を生成するよう構築され得るいずれかの種類の細胞システムを示す。1つの態様においては、HEK293細胞及びCHO細胞が宿主細胞として使用される。本明細書において使用される場合、用語“細胞”、“細胞系”及び“細胞培養物”とは、交換可能的に使用され、そしてすべてのそのような名称は子孫を包含する。従って、用語“形質転換体”及び“形質転換された細胞”とは、主要な対象細胞、及びトランスファーの数に関係なく、それに由来する培養物を包含する。すべての子孫は、故意の又は偶然な突然変異のために、DNA含有率において正確には同一でないことがまた理解される。元の形質転換された細胞についてスクリーンされる場合、同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫が包含される。
【0154】
NSO細胞における発現が、例えばBarnes, L.M., et al., Cyto techno logy 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261 -270により記載される。過渡的発現が、例えばDurocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9により記載される。可変ドメインのクローニングが、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;及びNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87により記載される。好ましい過渡的発現システム(HEK293)が、Schlaeger, E.-J., and Christensen, ., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83 、及びSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199により記載される。
【0155】
原核生物のために適切である制御配列は、プロモーター、任意にはオペレーター配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー及びポリアデニル化シグナルを使用することが知られている。
【0156】
核酸は、それがもう1つの核酸配列と機能的関係下に配置される場合、“操作可能的に結合される”。例えば、プレ−配列又は分泌リーダーのためのDNA、それがポリペプチドの分泌において関与するプレ−タンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに操作可能的に結合され;プロモーター又はエンハンサーは、それがその配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に操作可能的に結合され;又はリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するために配置される場合、コード配列に操作可能的に結合される。一般的に、“操作可能的に結合される”とは、結合されているDNA配列が隣接し、そして分泌リーダーの場合、隣接し、そして読み取り枠下に存在する。しかしながら、エンハンサーは、隣接すべきではない。結合は、従来の制限部位での連結により達成される。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーは、従来の実施に従って使用される。
【0157】
抗体の精製は、細胞成分又は他の汚染物、例えば他の細胞核酸又はタンパク質を排除するために、標準技法、例えばアルカリ/SDS処理、CsCl結合、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動及び当業界において良く知られている他の技法により実施される。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照のこと。
【0158】
次の異なった方法がタンパク質精製のために十分に確立され、そして広く使用されている:微生物タンパク質を用いての親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインA又はプロテインG親和性クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)及び混合されたモードの交換)、チオフィリック(thiophilic)吸着(例えば、β−メルカプトエタノール及び他のSHリガンドによる)、疎水性相互作用又は芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂又はm−アミノフェニル硼素酸による)、金属キレート親和性クロマトグラフィー(例えば、Ni(II)−及びCu(II)―親和性材料による)、サイズ排除クロマトグラフィー及び電気泳動方法(例えば、電気泳動、毛細管電気泳動)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0159】
本明細書において使用される場合、用語“細胞”、“細胞系”、及び“細胞培地”とは、交換可能的に使用され、そしてすべてのそのような名称は子孫も包含する。従って、用語“形質転換体”及び“形質転換された細胞”とは、トランスファーの数に関係なく、それらに由来する一次対象細胞及び培養物を包含する。すべての子孫は、故意の又は偶然な突然変異のために、DNA含有において正確には同一でないこともまた理解されている。元の形質転換された細胞についてスクリーンされる場合、同じ機能的又は生物学的活性を有する変異体子孫が包含される。異なった命名法が意図される場合、その内容から明白であろう。
【0160】
用語“形質転換”とは、本明細書において使用される場合、宿主細胞中へのベクター/核酸のトランスファー工程を言及する。強い細胞壁バリヤーを有さない細胞が宿主細胞として使用される場合、トランスフェクションが、例えばGraham and Van der Eh, Virology 52 (1978) 546ffにより記載されるようなリン酸カルシウム沈殿方法により実施される。しかしながら、核注入又はプロトプラスト融合による細胞中へのDNAの導入のための他の方法がまた使用され得る。原核細胞、又は実質的な細胞壁構成を含む細胞が使用される場合、1つのトランスフェクション方法は、Cohen, F.N., et al, PNAS. 69 (1972) 71lOffにより記載されるような、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理法である。
【0161】
本明細書において使用される場合、“発現”とは、核酸がmRNAに転換される方法、及び/又は転写されたmRNA(また、転写体としても言及される)がペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に連続的に翻訳される方法を言及する。転写体及びコードされるポリペプチドは、集合的には、遺伝子生成物として言及される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを包含する。
【0162】
ベクター”とは、挿入される核酸分子を、宿主細胞中に及び/又は宿主細胞間にトランスファーする、核酸分子、特に自己複製する核酸分子である。この用語は、DNAの細胞中への挿入(例えば、染色体組込み)のために主に機能するベクター、DNA又はRNAの複製のために主に機能するベクターの複製、及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクターを包含する。1つよりも多くの記載されるような機能を提供するベクターもまた包含される。
【0163】
発現ベクター”とは、適切な宿主細胞中に導入される場合、転写され、そしてポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドである。“発現システム”とは、所望する発現生成物を生成するために機能することができる発現ベクターから構成される適切な宿主細胞を通常言及する。
【0164】
医薬組成物
本発明の1つの観点は、本発明の抗体を含んで成る医薬組成物である。本発明のもう1つの観点は、医薬組成物の製造のためへの本発明の抗体の使用である。本発明のさらなる観点は、本発明の抗体を含んで成る医薬組成物の製造方法である。もう1つの観点においては、本発明は、医薬キャリヤーと一緒に配合される、本発明の抗体を含む、組成物、例えば医薬組成物を供給する。
【0165】
本発明の1つの態様は、癌の処理のための本発明の二重特異的抗体である。
本発明のもう1つの観点は、癌の処理のための前記医薬組成物である。
本発明のもう1つの観点は、癌の処理のための薬剤の製造のためへの本発明の抗体の使用である。
本発明のもう1つの観点は、癌を有する患者に、本発明の抗体と投与することによる、そのような処理の必要な患者の処理方法である。
【0166】
本明細書において使用される場合、“医薬キャリヤー”とは、いずれかの及びすべての溶媒、分散媒体、被膜、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤、及び生理学的に適合できる同様のものを包含する。好ましくは、キャリヤーは、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与(例えば、注射又は注入による)のために適切である。
【0167】
本発明の組成物は、当業界において知られている種々の方法により投与され得る。当業者により理解されるように、投与の経路及び/又はモードは、所望する結果に依存して、変化するであろう。一定の投与路により本発明の化合物を投与するためには、化合物の不活性化を妨げるための材料により化合物を被覆するか、又は同時投与する必要がある。例えば、化合物は、適切なキャリヤー、例えばリポソーム又は希釈剤において対象に投与され得る。医薬的に許容できる希釈剤は、塩溶液及び緩衝水溶液を包含する。医薬キャリヤーは、無菌の注射用溶液又は分散液の即興的調製のために無菌の水溶液又は分散液及び無菌の粉末を含む。医薬的活性物質のためへのそのような媒体及び剤の使用は、当業界において知られている。
【0168】
用語“非経口投与”及び“非経口投与される”とは、本明細書において使用される場合、腸及び局部投与以外の投与モード、通常注射による投与のモードを意味し、そして筋肉内、動脈内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、関節内、皮膜下、クモ膜下、随腔内、硬膜外注射及び注入を包含するが、但しそれらだけには限定されない。
【0169】
用語“”とは、本明細書において使用される場合、増殖性疾患、例えばリンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)の癌腫、細気管支肺胞上皮癌、 骨癌、膵臓癌、 皮膚癌、頭部又は首の癌、皮膚又は眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、肛門癌、肛門部の癌、胃潰瘍、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜の腫瘍、頸部の腫瘍、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌腫、甲状腺癌、副甲状線の癌、副腎の癌、軟組織の肉腫、尿道の癌腫、陰茎の癌腫、前立腺癌、膀胱癌、腎臓か輸尿管の癌、腎細胞腫、腎盂の腫瘍、中皮腫、 肝細胞癌、胆管癌、中枢神経系の腫瘍(CNS)、 脊髄軸腫瘍、脳幹膠腫、多形膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、 ependymonas、髄芽腫、髄腹腫、扁平上皮癌、脳下垂体腺腫及びEwings肉腫、 例えば上記癌の治りにくい癌、 又は 1又は複数の上記癌の組合せを言及する。
【0170】
本発明のもう1つの観点は、抗−脈管形成剤としての本発明の二重特異的抗体又は前記医薬組成物である。そのような抗−脈管形成剤は、癌、特に固形腫瘍及び他の血管疾患の処理のために使用され得る。
本発明の1つの態様は、血管疾患の処理のための本発明の二重特異的抗体である。
【0171】
本発明のもう1つの観点は、血管疾患の処理のための薬剤の製造のためへの本発明の抗体の使用である。
本発明のもう1つの観点は、血管疾患を有する患者への本発明の抗体の投与による、そのような処理の必要な患者の処理方法である。
【0172】
用語“血管疾患”とは、癌、炎症性疾患、アテローム性動脈硬化症、虚血症、外傷、敗血症、 COPD、喘息、糖尿病、 AMD、網膜障害、脳卒中、肥満症、急性肺障害、出血、脈管漏出、例えば誘発されたサイトカイン、 アレルギー、 Graves'病、 Hashimoto's自己免疫性甲状腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、側頭動脈炎、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、狼瘡腎炎、クローン病、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、 特に固形腫瘍、 眼内新生血管 症候群、例えば増殖性網膜症又は加齢性網膜黄斑部変性(AMD)、慢性関節リウマチ、及び乾癬を包含する(Folkman, J., and Shing, Y., et al., J. Biol. Chem. 267 (1992) 10931- 10934; Klagsbrun, M., et al., Annu. Rev. Physiol. 53 (1991) 217-239; and Garner, A., Vascular diseases, In: Pathobiology of ocular disease, A dynamic approach, Garner, A., and Klintworth, G.K., (eds.), 2nd edition, Marcel Dekker, New York (1994), pp 1625-1710)。
【0173】
それらの組成物はまた、アジュベント、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤を含むことができる。微生物の存在の阻止は、前記殺菌方法により、及び種々の殺菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸及び同様のものの注入により確保され得る。組成物中に等張剤、例えば糖、塩化ナトリウム及び同様のものを含むことがまた所望される。さらに、注射できる医薬形の延長された吸収が、吸収を遅延する剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの包含によりもたらされ得る。
【0174】
選択される投与路に関係なく、適切な水和化された形で使用され得る本発明の化合物及び/又は本発明の医薬組成物は、当業者に知られている従来の方法により、医薬的に許容できる投与形に配合される。
【0175】
本発明の医薬組成物における活性成分の実際の投与量レベルは、特定の患者のための所望する治療応答を達成するために効果的である活性成分の量、組成及び投与路を、患者に対しての毒性を伴わないで得るために変更され得る。選択される投与量レベルは、種々の薬力学的因子、例えば使用される本発明の特定の組成物の活性、投与路、投与時間、使用される特定化合物の排泄速度、処理の持続期間、他の薬物、使用される特定組成物と組合して使用される化合物及び/又は材料、処理される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康及び従来の病歴、及び当業界において良く知られている同様の因子に依存するであろう。
【0176】
組成物は、それが注射により供給される程度まで、無菌であり、且つ流体であるべきである。水の他に、キャリヤーは好ましくは、等張緩衝溶液である。
適切な流動性が、被膜、例えばレシチンの使用により、分散液の場合、必要とされる粒度の維持により、及び界面活性剤の使用により維持され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール又はソルビトール、及び塩化ナトリウムを組成物に含むことが好ましい。
【0177】
本発明のヒトErbB-3及びヒトc-Metに対する二重特異的抗体が価値ある特徴、例えば生物学的又は薬理学的活性、薬物力学的性質を有することが現在、見出された。本発明の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体は、それらの親<ErbB3>及び/又は<c-Met>抗体に比較して、低められたインターナリゼーションを示す。
【0178】
次の例、配列の列挙及び図は、本発明、すなわち付随する請求項に示される真の範囲の理解を助けるために供給される。修飾が本発明の範囲内で、示される方法に行われ得るこ理解される。
【0179】
アミノ酸配列の説明
配列番号:1 :H鎖可変ドメイン <ErbB3 > HER3 クローン 29
配列番号:2 :L鎖可変ドメイン < ErbB3> HER3 クローン 29
配列番号:3 :H鎖可変ドメイン <c-Met> Mab 5D5
配列番号:4 :L鎖可変ドメイン <c-Met> Mab 5D5
配列番号:5 :H鎖 <ErbB3> HER3 クローン 29
配列番号:6 :L鎖 <ErbB3> HER3 クローン 29
配列番号:7 :H鎖 <c-Met> Mab 5D5
配列番号:8 :L鎖 <c-Met> Mab 5D5
配列番号:9 :H鎖 <c-Met> Fab 5D5
配列番号:1O :L鎖 <c-Met> Fab 5D5
配列番号:11 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_KHSS
配列番号:12 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_KHSS
配列番号:13 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_KHSS
配列番号:14 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKH
配列番号:15 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKH
配列番号:16 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKH
配列番号:17 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKHSS
配列番号:18 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKHSS
配列番号:19 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_SSKHSS
配列番号:20 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_lC
【0180】
配列番号:21 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_l C
配列番号:22 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_l C
配列番号:23 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_6C
配列番号:24 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_6C
配列番号:25 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_6C
配列番号:26 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvSSKHSS
配列番号:27 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvSSKHSS
配列番号:28 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvSSKHSS
配列番号:29 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvSSKH
配列番号:30 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvSSKH
配列番号:31 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvSSKH
配列番号:32 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKH
配列番号:33 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKH
配列番号:34 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKH
配列番号:35 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKHSB
配列番号:36 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKHSB
配列番号:37 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Me_scFvKHSB
配列番号:38 :H鎖 1 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvKHSBSS
配列番号:39 :H鎖 2 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvKHSBSS
配列番号:40 :L鎖 <ErbB3-c-Met> Her3/Met_scFvKHSBSS
【0181】
配列番号:41 :ヒト IgGlのH鎖不変領域
配列番号:42 :ヒト IgG3のH鎖不変領域
配列番号:43 ヒト :L鎖 κ 不変領域
配列番号:44 ヒト :L鎖 λ不変領域
配列番号:45 ヒト c-Met
配列番号:46 ヒト ErbB-3
配列番号:47 :H鎖可変ドメイン VH, <ErbB3 > Mab 205 (ネズミ)
配列番号:48 :L鎖可変ドメイン VL, <ErbB3 >Mab 205 (ネズミ)
配列番号:49 :H鎖可変ドメイン VH, <ErbB3 > Mab 205.10 (ヒト型化)
配列番号:50 :L鎖可変ドメイン VL, <ErbB3 > Mab 205.10.1 (ヒト型化)
配列番号:51 :L鎖可変ドメイン VL, <ErbB3 > Mab 205.10.2 (ヒト型化)
配列番号:52 :L鎖可変ドメイン VL, <ErbB3 > Mab 205.10.3 (ヒト型化)
配列番号:53 :H鎖 CDR3H, <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:54 :H鎖 CDR2H, <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:55 :H鎖 CDRlH, <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:56 :L鎖 CDR3L, <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:57 :L鎖 CDR2L, <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:58 :L鎖 CDRlL (変異体 1), <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:59 :L鎖 CDRlL (変異体 2), <ErbB3 > Mab 205.10
配列番号:60 :H鎖 CDR3H, < ErbB3 > HER3 クローン 29
【0182】
配列番号:61 :H鎖 CDR2H, < ErbB3 > HER3 クローン 29
配列番号:62 :H鎖 CDRlH, < ErbB3 > HER3 クローン 29
配列番号:63 :L鎖 CDR3L, < ErbB3 > HER3 クローン 29
配列番号:64 :L鎖 CDR2L, <ErbB3> HER3 クローン 29
配列番号:65 :L鎖 CDRlL <ErbB3> HER3 クローン 29
配列番号:66 :H鎖 CDR3H, <c-Met> Mab 5D5
配列番号:67 :H鎖 CDR2H, <c-Met> Mab 5D5
配列番号:68 :H鎖 CDRlH, <c-Met> Mab 5D5
配列番号:69 :L鎖 CDR3L, <c-Met> Mab 5D5
配列番号:70 :L鎖 CDR2L, <c-Met> Mab 5D5
配列番号:71 :L鎖 CDRlL <c-Met> Mab 5D5。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、典型的な順序で可変及び不変ドメインを含んで成る2対のH及びL鎖を有する第1抗原1に対して特異的に結合するCH4ドメインを有さない十分な長さの抗体の図解構造を示す。
【0184】
【図2a】図2aは、a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖;及びb)ヒトc-Metに対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖を含んで成る二価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解構造を示し、ここで前記不変ドメインCL及びCH1、及び/又は可変ドメインVL及びVHはお互いにより置換され、それらはノブ−イントゥ−ホール技法により修飾される。
【0185】
【図2b】図2bは、a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖;及びb)ヒトc-Metに対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖を含んで成る二価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解構造を示し、ここで前記不変ドメインCL及びCH1、及び/又は可変ドメインVL及びVHはお互いにより置換され、それらはノブ−イントゥ−ホール技法により修飾される。
【0186】
【図2c】図2cは、a)ヒトErbB-3に対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖;及びb)ヒトc-Metに対して特異的に結合する十分な長さの抗体のL鎖及びH鎖を含んで成る二価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解構造を示し、ここで前記不変ドメインCL及びCH1、及び/又は可変ドメインVL及びVHはお互いにより置換され、それらはノブ−イントゥ−ホール技法により修飾される。
【0187】
【図3a】図3aは、第1抗原1に対して特異的に結合する十分な長さの抗体を含んで成る、本発明の三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解を示し、前記第1抗原1に、2つのポリペプチドVH及びVLが融合される(VH及びVLドメインの両者は第2抗原2に対して特異的に結合する抗原結合部位を一緒に形成する)。
【0188】
【図3b】図3bは、第1抗原1に対して特異的に結合する十分な長さの抗体を含んで成る、本発明の三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解を示し、前記第1抗原1に、2つのポリペプチドVH-CH1及びVL-CLが“ノブ及びホールズ”により融合される(VH及びVLドメインの両者は第2抗原2に対して特異的に結合する抗原結合部位を一緒に形成する)。
【0189】
【図3c】図3cは、2つのポリペプチドVH及びVLが融合される(VH及びVLドメインの両者は第2抗原2に対して特異的に結合する抗原結合部位を一緒に形成する)、第1抗原に対して特異的に結合する十分な長さの抗体を含んで成る、本発明の三価の二重特異的抗体(ノブ及びホールを有する)の図解を示す。
【0190】
【図3d】図3dは、2つのポリペプチドVH及びVLが“ノブ及びホールズにより融合される(VH及びVLドメインの両者が第2抗原2に対して特異的に結合する抗原結合部位を一緒に形成し、ここでそれらのVH及びVLドメインは位置VH44とVL100との間の鎖間ジスルフィド橋を含んで成る)、第1抗原1に対して特異的に結合する十分な長さの抗体を含んで成る本発明の三価の二重特異的抗体の図解を示す。
【0191】
【図4a】図4aは、4種の可能性ある単鎖Fabフラグメントの図解構造を示す。
【図4b】図4bは、2種の単鎖Fvフラグメントの図解構造を示す。
【図5a】図5aは、十分な長さの抗体、及び1つの単鎖Fabフラグメントを含んで成る三価の二重特異的<ErbB3−c-Met>抗体(ノブ及びホールによる三価の二重特異的例)の図解構造を示す。
【0192】
【図5b】図5bは、1つの単鎖Fvフラグメントを含んで成る三価の二重特異的<ErbB3−c-Met>抗体(ノブ及びホールによる三価の二重特異的例)の図解構造を示す。
【0193】
【図6a】図6aは、十分な長さの抗体、及び2つの単鎖Fabフラグメントを含んで成る四価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体(c-Met結合部位は、c-Metダイマー化阻害抗体に由来する)の図解構造を示す。
【0194】
【図6b】図6bは、2つの単鎖Fvフラグメントを含んで成る四価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体(c-Met結合部位は、c-Metダイマー化阻害抗体に由来する)の図解構造を示す。
【図7】図7は、1つのFabアームがscFabフラグメントにより置換されている二価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の図解構造を示す。
【0195】
【図8】図8は、癌細胞の細胞表面に対する二重特異的抗体の結合を示す。
【図9a】図9aは、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたc-Met受容体リン酸化の阻害を示す。
【0196】
【図9b】図9bは、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたc-Met受容体リン酸化の阻害を示す。
【図9c】図9cは、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたc-Met受容体リン酸化の阻害を示す。
【図10a】図10aは、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHRG−誘発されたHer3受容体リン酸化の阻害を示す。
【0197】
【図10b】図10bは、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHRG−誘発されたHer3受容体リン酸化の阻害を示す。
【0198】
【図11】図11は、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたHUVEC増殖の阻害を示す。
【図12】図12は、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたHUVEC増殖の阻害を示す。
【図13】図13は、二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたHUVEC増殖の阻害を示す。
【図14】図14は、二重特異的Her3/c-Met抗体型による癌細胞系A431における増殖の阻害を示す。
【0199】
【図15】図15は、二重特異的Her3/c−Met抗体型による癌細胞系A431におけるHGF−誘発された細胞−細胞拡散(散乱)の阻害の分析を示す。
【図16】図16は、二重特異的Her3/c−Met抗体型による癌細胞系A431におけるHGF−誘発された細胞−細胞拡散(散乱)の阻害の分析を示す。
【図17】図17は、4種の異なった癌細胞系におけるHer3及びc-Met細胞表面発現の分析を示す。
【図18】図18は、癌細胞系A431、A549及びDU145における抗体−介在性受容体インターナリゼーションの分析を示す。
【0200】
【図19】図19は、A431細胞のHGF−誘発された細胞移動の分析を示す。A:A431癌細胞の移動は上昇する用量の二重特異的抗体MH_TvAb18の存在下でのインピーダンスの関数として測定された。24時間後のエンドポイント読み取りが表示される。B:対照としての非特異的ヒトIgG対照が、二重特異的抗体と類似する濃度範囲で添加された。
【0201】
【図20a】図20aは、HT29細胞における二重特異的Her3/c-Met_scFv_SSKH抗体による細胞−細胞架橋の分析(PKH26&PKH67(SIGMA)による染色)を示す。
【0202】
【図20b】図20bは、HT29細胞における二重特異的Her3/c-Met_scFv_SSKH抗体による細胞−細胞架橋の分析(PKH26&PKH67(SIGMA)による染色)を示す。
【図21】図21は、二重特異的Her3/c-Met抗体Her3/Met_scFvSS_KH(左側)及びHer3/Met_scFv_KH(右側)のSDS−PAGEを示す。
【図22a】図22aは、二重特異的Her3/c-Met抗体Her3/Met_scFvSSKHのHP SEC分析(精製されたタンパク質)を示す。
【0203】
【図22b】図22bは、二重特異的Her3/MetscFv_KHのHP SEC分析(精製されたタンパク質)を示す。
【実施例】
【0204】
材料及び方法:
組換えDNA技法
標準方法が、Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されるように、DNAを操作するために使用された。分子生物学的試薬が、その製造業者の指示に従って使用された。
【0205】
DNA及びタンパク質配列分析及び配列データ管理
ヒト免疫グロブリンL及びH鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は、Kabat, E.A. et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242に与えられている。抗体鎖のアミノ酸はEU番号付けに従って、番号付けされる(Edelman, G.M., et al., PNAS 63 (1969) 78-85; Kabat, E.A., et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242)。GCG's (Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)ソフトウェアパッケージバージョン10.2及びInfomax's Vector NTl Advance suiteバージョン8.0を、配列創造、マッピング、分析、注釈及び例解のために使用した。
【0206】
DNA配列決定
DNA配列を、Sequiserve (Vaterstetten, Germany)及びGeneart AG (Regensburg, Germany)で実施される二本鎖配列決定により決定した。
【0207】
遺伝子合成
所望する遺伝子セグメントを、自動遺伝子合成による合成オリゴヌクレオチド及びPCR生成物からGeneart AG (Regensburg, Germany)により調製した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位を端に有する遺伝子セグメントを、pGA18(ampR)プラスミド中にクローン化した。プラスミドDNAを、形質転換された細菌から精製し、そして濃度をUV分光計により決定した。サブクローン化された遺伝子フラグメントのDNA配列を、DNA配列決定により確かめた。(G4S)nペプチドコネクターにより結合されるC−末端5D5 VH領域と共にCH3ドメインにT366W突然変異を担持する“ノブ−イントゥ−ホール”Her3(クローン29)抗体H鎖、及び(G4S)nペプチドコネクターにより結合されるC−末端5D5 VL領域と共にT366S、 L368A及びY407V突然変異を担持する“ノブ−イントゥ−ホール”Her3 (クローン29)抗体H鎖をコードする遺伝子セグメント(5’−BamHI及び3’−XbaI制限部位を有する)を合成した。
【0208】
類似する態様において、((G4S)nペプチドコネクターにより結合されるC−末端5D5 VH領域と共にCH3ドメインにS354C及びT366W突然変異を担持する“ノブ−イントゥ−ホール”Her3(クローン29)抗体H鎖、及び(G4S)nペプチドコネクターにより結合されるC−末端5D5 VL領域と共に、Y349C、T366S、L368A及びY407Vを担持する“ノブ−イントゥ−ホール”Her3(クローン29)抗体H鎖をコードするDNA配列(BamHI及びXbaI制限部位を端に有する)を、遺伝子合成により調製した。最終的に、Her3 (クローン29)及び5D5抗体の修飾されていないH及びL鎖をコードするDNA配列(Bam HI及びXbaI制限部位を端に有する)を合成した。真核細胞における分泌のためのタンパク質を標的化するリーダーペプチド(MGWSCIILFLV ATATGVHS)をコードする5’−末端DNA配列を有するすべての構造体を企画した。下記の他の二重特異的抗体についての遺伝子合成を、可変及び不変領域のそれぞれの要素を用いて、類似して実施した(例えば、下記企画セクション及び表1〜5に特定される)。
【0209】
発現プラスミドの構成
Roche発現ベクターを、すべてのH及びL鎖scFv融合タンパク質コードの発現プラスミドの構成のために使用した。前記ベクターは、次の要素から構成される:
−選択マーカーとしてのヒグロマイシン耐性遺伝子、
−Epstein-Barrウィルス(EBV)の複製の起点、oriP、
−E.コリにおけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製の起点、
−E.コリにおいてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子、
−ヒトサイトメガロウィルス(HCMV)からの即時初期エンハンサー及びプロモーター、
−ヒト1−免疫グロブリンポリアデニル化(“ポリA”)シグナル配列、及び
−ユニークBamHI及びXbaI制限部位。
【0210】
H又はL鎖構造体及びC末端VH及びVLドメインを有する“ノブ−イントウ−ホール”構造体を含んで成る免疫グロブリン融合遺伝子を、遺伝子合成により調製し、そして記載のようにして、pGA18(ampR)プラスミド中にクローン化した。合成されたDNAセグメント及びRoche発現ベクターを担持するpG18(ampR)プラスミドを、BamHI及びXbaI制限酵素(Roche Molecular Biochemicals)により消化し、そしてアガロースゲル電気泳動にゆだねた。次に、精製されたH及びL鎖コードのDNAセグメントを、単離されたRoche発現ベクターBamHI/XbaIフラグメントに連結し、最終発現ベクターをもたらした。その最終発現ベクターを用いて、E. コリ細胞を形質転換し、発現プラスミドDNAを単離し(Miniprep)、そして制限酵素分析及びDNA配列決定にゆだねた。正しいクローンを、150mlのLB−Amp培地において増殖し、再びプラスミドDNAを単離し(Maxiprep)、そして配列完全性をDNA配列決定により確かめた。
【0211】
HEK293細胞における免疫グロブリン変異体の一過性発現
組換え免疫グロブリン変異体を、FreeStyleTM 293 Expression Systemを用いて、その製造業者の説明書(Invitrogen, USA)に従って、ヒト胚腎臓293−F細胞の一過性トランスフェクションにより発現した。手短には、懸濁FreeStyleTM 293-F細胞を、FreeStyleTM 293-F発現培地において37℃/8%CO2下で培養し、そして細胞を、トランスフェクションの日、1〜2×106生存細胞/mlの密度で、新鮮培地に接種した。DNA-293 fectinTM複合体を、325mlの293fectinTM (Invitrogen, Germany)、及び250mlの最終トランスフェクション体積のために1:1のモル比での250μgのH鎖及びL鎖プラスミドDNAを用いて、Opti-MEM(商標)I 培地(Invitrogen, USA)において調製した。
【0212】
“ノブ−イントゥ−ホール”(nobs-into-hole)DNA−293fectin複合体を、325μlの293fectinTM (Invitrogen, Germany)、及び250mlの最終トランスフェクション体積のために1:1:2のモル比での250μgの“ノブ−イントゥ−ホール”H鎖1及び2及びL鎖プラスミドDNAを用いて、Opti-MEM(商標)I培地 (Invitrogen, USA)において調製した。抗体含有細胞培養上清液を、14000gでの30分間の遠心分離により、トランスフェクションの7日後、収穫し、そして無菌フィルター(0.22μm)を通して濾過した。上清液を、精製まで、-20℃で貯蔵した。
【0213】
二重特異的及び対照抗体の精製
二重特異的及び対照抗体を、Protein A-SepharoseTM (GE Healthcare, Sweden)を用いての親和性クロマトグラフィー及びSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーにより、細胞培養上清液から精製した。手短には、無菌濾過された細胞培養上清液を、PBS緩衝液(10 mMのNa2HPO4、1 mMのKH2PO4、137 mMのNaCl 及び2.7 mM KCl、pH 7.4)により平衡化されたHiTrap ProteinA HP(5ml)カラム上に通用した。未結合タンパク質を、平衡化緩衝液により洗浄した。抗体及び抗体変異体を、0.1Mのクエン酸緩衝液(pH2.8)により溶離し、そしてタンパク質含有画分を、0.1mlの1Mのトリス(pH8.5)により中和した。
【0214】
次に、溶離されたタンパク質画分をプールし、Amicon Ultra遠心分離フィルター装置(MWCO:30K、Millipore)により3mlの体積まで濃縮し、そして20mMのヒスチジン、140mMのNaCl(pH6.0)により平衡化されたSuperdex 200 HiLoadの120mlの16/60ゲル濾過カラム(GE Healthcare, Sweden)上に負荷した。5%以下の高分子量凝集物を有する、精製された二重特異的及び対照抗体を含む画分をプールし、そして-80℃で、1.0mg/mlのアリコートとして貯蔵した。Fabフラグメントを、精製された5D5モノクローナル抗体のパパイン消化及びプロティンAクロマトグラフィーによる汚染性Fcドメインの続く除去により精製した。さらに、未結合Fabフラグメントを、20mMのヒスチジン、140mMのNaCl(pH6.0)により平衡化されたSuperdex 200 HiLoadの120mlの16/60ゲル濾過カラム(GE Healthcare, Sweden)上で精製し、プールし、そして1.0mg/mlのアリコートとして-80℃で貯蔵した。
【0215】
精製されたタンパク質の分析
精製されたタンパク質サンプルのタンパク質濃度を、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、280nmで光学密度(OD)を測定することにより決定した。二重特異的及び対照抗体の純度及び分子量を還元剤(5mMの1,4−ジチオトレイトールの存在及び不在下のSDS-PAGE、及びクーマシーブリリアントブルーによる染色により分析した(二重特異的Her3/c-Met 抗体Her3/MetscFvSS_KH (左側) 及び Her3/MetscFv_KH (右側)については、典型的な図21、SDS-PAGEを参照このこと)。NuPAGE(商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen, USA)を、その製造業者の説明書に従って使用した(4〜20%のトリス−グリシンゲル)。
【0216】
二重特異的及び対照抗体サンプルの凝集物含有率を、25℃で200 mM のKH2PO4、250 mMのKCl、pH 7.0 ランニング緩衝液におけるSuperdex200分析用サイズ−排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を用いて高性能SECにより分析した。25μgのタンパク質を、0.5ml/分の流速でカラム上に注入し、そして50分以上、定組成溶離した。安定性の分析のために、1mg/mlの濃度の精製されたタンパク質を、4℃及び40℃で7日間インキュベートし、そして次に、高性能SEC(例えば、二重特異的Her3/c-Met抗体Her3/MetscFvSS_KH (図22a)及び Her3/MetscFv_KH (図22b)のHP SEC分析(精製されたタンパク質))により評価した。還元された二重特異的抗体L及びH鎖のアミノ酸主鎖の統合は、ペプチド−N−グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)による酵素処理によるN−グリカンの除去の後、NanoElectrospray Q-TOF質量分光計により確かめられた。収率は例えば、二重特異的Her3/c-Met抗体Her3/MetscFvSS_KHについて、28.8mg/l(プロテインA及びSEC)、及びHer3/MetscFv_KHについて、12.3mg/l(プロテインA及びSEC)であった。
【0217】
c-Metリン酸化アッセイ
5×105個のA549細胞を、0.5%FCS(ウシ胎児血清)を含むRPMIにおけるHGF刺激の前日、6−ウェルプレートのウェルに接種した。次の日、増殖培地を、0.2%のBSA(ウシ血清アルブミン)を含むRPMIにより1時間にわたって交換した。次に、5μg/mlの二重特異的抗体を前記培地に添加し、そして細胞を10分間インキュベートし、その後、HGFを、50ng/mlの最終濃度で、さらに10分間にわたって添加した。細胞を、1mMのバナジウム酸ナトリウムを含む氷冷却PBSにより1度洗浄し、その後、それらを氷上に置き、そして100μlの溶菌緩衝液(50 mMのトリス-Cl pH7.5、150 mMのNaCl、1 % NP40、0.5 % DOC、 アプロチニン、0.5 mM のPMSF、1 mMのバナジウム酸ナトリウム)を含む細胞培養プレートに溶解した。
【0218】
細胞溶解物を、エペンドルフ管に移し、そして溶解を氷上で30分間、進行せしめた。タンパク質濃度を、BCA方法(Pierce)を用いて決定した。30〜50μgの溶解物を、4-12 % Bis-Tris NuPage ゲル(Invitrogen)上で分離し、そしてゲル上のタンパク質をニトロセルロース膜に移した。膜を5%BSAを含むTBS-Tにより1時間ブロックし、そしてY1230、1234、1235 (44-888、 Biosource)に対して方向づけられたリン酸化部位−特異的c-Met抗体により、その製造業者の説明書に従って進行せしめた。イムノブロットを、リン酸化されていないc-Met(AF276、 R&D)に結合する抗体により再プローブした。
【0219】
Her3 (ErbB3)リン酸化アッセイ
2×105個のMCF7細胞を、完全増殖培地(RPMI1640、10%FCS)において、12ウェルプレートのウェル当たりに接種した。細胞は、2日以内に90%集密性まで増殖した。次に、培地を、0.5%FCSを含む飢餓培地により交換した。次の日、それぞれの抗体を、500ng/mlのHeregulin (R&D)の添加の1時間前、示される濃度で供給した。Heregulinの添加の後、細胞をさらに10分間、培養し、その後、細胞を収穫し、そして溶解した。タンパク質濃度を、BCA方法(Pierce)を用いて決定した。30〜50μgの溶解物を、4-12 % Bis-Tris NuPage ゲル(Invitrogen)上で分離し、そしてゲル上のタンパク質をニトロセルロース膜に移した。膜を5%BSAを含むTBS-Tにより1時間ブロックし、そしてTyrl289 (4791, Cell Signaling)を特異的に認識するリン酸化部位−特異的Her3/ErbB3抗体により進行せしめた。
【0220】
散乱アッセイ
A549(ウェル当たり4000個の細胞)又はA431(ウェル当たり8000個の細胞)を、0.5%FCSを有するRPMIを含む96−ウェルE−プレート(Roche, 05232368001)において、200μlの合計体積で、化合物処理の前日、接種した。付着及び細胞増殖を、インピーダンスをモニターしながら、15分ごとのスイープを伴って、即時細胞分析機械により一晩モニターした。次の日、細胞を、5分ごとのスイープを伴って、PBS中、5μlのそれぞれの抗体希釈溶液と共にプレインキュベートした。30分後、20ng/mlの最終濃度を生成するHGF溶液2.5μlを添加し、そして実験をさらに72時間、進めた。即時の変化を、180分間、1分ごとのスイープ、続いて残りの時間、15分ごとのスイープを伴って、モニターした。
【0221】
移動アッセイ
移動アッセイを、即時細胞分析機技法(Roche)に基づいて実施した。このために、8μmlの孔を有するCIM装置の下方チャンバーを、160μlのHGF−ならし培地(50ng/ml)により満たした。その装置をアセンブルし、そして150μlの合計体積での100000個のA431細胞を、上方チャンバーに接種した。これに、二重特異的抗体又は対照抗体を添加した。移動を、15分ごとの規則的スイープを伴って、24時間、進行せしめた。データをエキスポートし、そして24時間後、エンドポイント読み取りとして表す。
【0222】
流動細胞計測アッセイ(FACS)
a)細胞表面受容体状態の相対的定量化:
細胞を対数増殖期に維持した。亜集密性細胞をアキュターゼ(Sigma)により分離し、回転沈降し(1500rpm, 4℃、5分)、そして続いて、2%FCSを含むPBSにより1度、洗浄した。他の細胞系に比較しての相対的受容体状態を決定するために、1×105個の細胞を、5μg/mlのHer3又はc-Met特異的一次抗体と共に30分間、氷上でインキュベートした。特異性対照として、非特異的IgG(イソタイプ対照)を使用した。
【0223】
示される時間の後、細胞を、2%FCSを含むPBSにより1度、洗浄し、続いて蛍光体がカップリングされた二次抗体と共に30分間、氷上でインキュベートした。細胞を記載のようにして洗浄し、そして7−AAD(BD Biosciences)を含む、適切な体積のBD CellFix溶液(BD Biosciences)に再懸濁し、生存及び脂肪細胞を分けた。細胞の平均蛍光強度(mfi)を、流動細胞計測計(FACS Canto, BD)により決定した。Mfiを、少なくとも2度の2つの独立した染色下で決定した。流動細胞計測スペクトルをさらに、FlowJoソフトウェア(TreeStar)を用いて処理した。
【0224】
a)結合アッセイ
A431を分離し、そして数えた。1.5×105個の細胞を、円錐状96−ウェルプレートの個々のウェルに接種した。細胞を回転沈降し(1500rpm、4℃、5分)、そして2%FCS(ウシ胎児血清)を有するPBS中、それぞれの二重特異的抗体の一連の希釈溶液50μlにおいて、氷上で30分間インキュベートした。細胞を再び回転沈降し、そして2%FCSを含むPBS200μlにより1度、洗浄し、続いて、2%FCSを含むPBSに希釈されたヒトFcに対して向けられたフィコリエリトリン−カップリングされた抗体と共に30分間、2回目のインキュベーションを行った(Jackson Immunoresearch, 109116098)。
【0225】
細胞を回転沈降し、2%FCSを含むPBS200μlにより2度、洗浄し、BD CellFix 溶液 (BD Biosciences)に再懸濁し、そして氷上で少なくとも10分間インキュベートした。細胞の平均蛍光強度(mfi)を、流動細胞計測計(FACS Canto, BD)により決定した。Mfiを、少なくとも2度の2つの独立した染色下で決定した。流動細胞計測スペクトルをさらに、FlowJoソフトウェア(TreeStar)を用いて処理した。最大の半分の結合を、XLFit 4.0 (IDBS)及び用量応答ワンサイトモデル205を用いて決定した。
【0226】
b)インターナリゼーションアッセイ
細胞を分離し、そして数えた。5×105個の細胞を、エッペンドルフ管における50μlの完全培地に配置し、そして5μg/mlのそれぞれの二重特異的抗体と共に37℃でインキュベートした。示される時点の後、細胞を、その時間が完結するまで、氷上で貯蔵した。その後、細胞をFACS管に移し、回転沈降し(1500rpm, 4℃、5分)、PBS+2%FCSにより洗浄し、そして2%FCSを含むPBSに希釈されたヒトFcに対して向けられたフィコエリトリン−カップリングされた二次抗体50μlにおいて30分間インキュベートした(Jackson Immunoresearch, 109116098)。細胞を再び回転沈降し、PBS+2%FCSにより洗浄し、そして蛍光強度を流動細胞計測器(FACS Canto, BD)により決定した。
【0227】
c)架橋実験
HT29細胞を分離計数し、そしてPKH26及びPKH67(Sigma)により、その製造業者の説明書に従って、個々に染色された2種の集団に分けた。染色された個々の集団のうち、5×105個の細胞を取り、組合し、そして完全培地において、10μg/mlのそれぞれの二重特異的抗体と共に30及び60分間インキュベートした。示される時点の後、細胞を、その時間の完結されるまで、氷上で貯蔵した。細胞を回転沈降し(1500rpm, 4℃、5分)、PBS+2%FCSにより洗浄し、そして蛍光強度を流動細胞計測器(FACS Canto, BD)により決定した。
【0228】
細胞力価成長アッセイ
細胞生存性及び増殖性を、細胞力価成長アッセイ(Promega)を用いて定量化した。このアッセイは、その製造業者の説明書に従って実施された。手短には、細胞を、100μlの合計体積で96−ウェルプレートにおいて所望する期間、培養した。増殖アッセイに関しては、細胞をインキュベーターから除き、そして室温で30分間、静置した。100μlの細胞力価成長試薬を添加し、そして多−ウェルプレートをオービタルシェーカー上に2分間、置いた。発光を、マイクロプレートリーダー(Tecan)上で15分後、定量化した。
【0229】
Wst-1アッセイ
Wst-1生存性及び細胞増殖アッセイを、エンドポイント分析として実施し、代謝性活性細胞の数を検出した。手短には、20μlのWst-1試薬(Roche, 11644807001)を、200μlの培養培地に添加した。さらに、96−ウェルプレートを、色素の強い進行まで、30分〜1時間インキュベートした。染色強度を、450nmの波長で、マイクロプレートリーダー(Tecan)上で定量化した。
【0230】
表面プラスモン共鳴
結合親和性を、25℃で標準の結合アッセイ、例えば表面プラスモン共鳴技法(BIAcore(商標), GE-Healthcare Uppsala, Sweden)により決定した。親和性測定のために、30μg/mlの抗Fcγ抗体(ヤギからの、Jackson Immuno Research)を、SPR測定器(Biacore T100)上での標準のアミン−カップリング及びブロッキング化学によりCM-5センサーチップの表面にカップリングした。接合の後、単一又は二重特異的Her3/c-Met抗体を、5μl/分の流速で25℃で注入し、続いて30μl/分でヒトHER3又はc-Met ECDの一連の希釈溶液(OnM〜1000nM)を添加した。結合実験のためのランニング緩衝液として、PBS/0.1%BSAを使用した。次に、チップを、10mMのグリシン-HCl(pH2.0)の溶液の60秒のパルスにより再生した。
【0231】
発現され、そして精製された二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体の企画
次の発現され、そして精製された二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体のすべては、不変領域、又は少なくともIgG1サブクラスのFc部分(配列番号:11のヒト不変IgG1領域)(結果的に、下記に示されるように修飾される)を含んで成る。
表1:免疫化(ヒトHER3-ECDにより免疫化されたNMRIマウス)を通して得られる十分な長さのErbB-3抗体(HER3 クローン29)、及び表1に示されるそれぞれの特徴を有するc-Met抗体(cMet-5D5)からの1つの単鎖Fvフラグメント(基本的構造のスキームについては、図5を参照のこと;結果的に、表に言及されるすべての特徴がその図に含まれるものではないが)に基づく三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体を、上記一般方法に従って発現し、そして精製した。HER3 クローン29及びcMet 5D5のその対応するVH及びVLは配列の列挙に与えられる。
【0232】
【表1】

【0233】
表2:十分な長さのErbB-3抗体(免疫化(ヒトHER3-ECDにより免疫化されたNMRIマウス)を通して得られるMab 205)、及び表2に示されるそれぞれの特徴を有するc-Met抗体(cMet-5D5)からの1つの単鎖Fv又はscFabフラグメント(基本的構造のスキームについては、図5b及びaを参照のこと;詳細な構造については、表を参照のこと)に基づく三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体を、上記一般方法に従って発現し、そして精製した。Mab205及びcMet 5D5のその対応するVH及びVLは配列の列挙に与えられる。
【0234】
【表2】

【0235】
表3:十分な長さのErbB-3抗体(免疫化(ヒトHER3-ECDにより免疫化されたNMRIマウス)及び続くヒト適合化を通して得られるMab 205.10.2)、及び表3に示されるそれぞれの特徴を有するc-Met抗体(cMet-5D5)からの1つのscFabフラグメント(基本的構造のスキームについては、図5aを参照のこと)に基づく三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体を、上記一般方法に従って発現し、そして精製した。Mab 205.10.2及びcMet 5D5のその対応するVH及びVLは配列の列挙に与えられる。
【0236】
【表3】

【0237】
表4:十分な長さのErbB-3抗体(HER3 クローン29)、及び表4に示されるそれぞれの特徴を有するc-Met抗体(cMet-5D5)からのVH及びVLドメイン(基本的構造のスキームについては、図3a、3c及び3dを参照のこと;結果的に、表に言及されるすべての特徴がその図に含まれるものではないが)に基づく三価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体を、上記一般方法に従って発現し、そして精製した。HER3 クローン29及びcMet 5D5のその対応するVH及びVLは配列の列挙に与えられる。
【0238】
【表4】

【0239】
表5:二価の二重特異的<ErbB3-c-Met>抗体(ここで、1つの結合アームは十分な長さのErbB-3抗体(HER3 Mab 205 又はヒト型化バーションMab 205.10.1、Mab 205.10.2 又は Mab 205.10.2)に基づかれ、そして他の結合アームは表5(基本的構造スキームについては、図7を参照のこと)に示されるそれぞれの特徴を有する、c-Met抗体(cMet 5D5)からのscFabフラグメントに基づかれる)が、上記一般方法に従って発現され、そして精製された。HER3 Mab205及びcMet 5D5のその対応するVH及びVLは、配列列挙に与えられる。
【0240】
【表5】

【0241】
例1(図8)癌細胞の細胞表面への二重特異的抗体の結合
二重特異的抗体の細胞表面上のそれらのそれぞれの受容体への結合性質を、流動細胞計測法に基づかれるアッセイにより、A431癌細胞に対して分析した。細胞を、単一又は二重特異的一次抗体と共にインキュベートし、そしてそれらの抗体のそれらの同起源の受容体への結合を、一次抗体のFcに対して特異的に結合する蛍光体にカップリングされる二次抗体により検出した。一次抗体の一連の希釈溶液の平均蛍光強度を、抗体の濃度に対してプロットし、S状結合曲線を得た。c-Met及びHer3の細胞表面発現を、二価の5D5及びHer3クローン29抗体のみとのインキュベーションにより実証した。Her3/c-Met_KHSS抗体は、A431の細胞表面に容易に結合する。それらの実験設定下で、抗体はそのHer3部分を通して結合することができ、そして従って、その平均蛍光強度はHer3クローン29のみについての染色を越えない。
【0242】
例2(図9)二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたc-Met受容体リン酸化の阻害
二重特異的抗体におけるc-Met部分の官能性を確かめるために、c-Metリン酸化アッセイを実施した。この実験においては、A549肺癌細胞又はHT29結腸直腸癌細胞を、HGFへの暴露の前、二重特異的抗体又は対照抗体により処理した。次に、細胞を溶解し、c-Met受容体のリン酸化を試験した。両細胞系を、イムノブロットにおけるリン−c-Met特異的バンドの発生により観察され得るように、HGFにより刺激することができる。scHv抗体又は5D5 Fabフラグメントの添加が、c-Met ScFv成分の官能性を示す受容体リン酸化を阻害する。
【0243】
例3(図10)二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHRG−誘発されたHer3受容体リン酸化の阻害
二重特異的抗体におけるHer3部分の官能性を確かめるために、Her3リン酸化アッセイを実施した。この実験においては、MCF7細胞を、HRG(Heregulin)への暴露の前、二重特異的抗体又は対照抗体により処理した。次に、細胞を溶解し、Her3受容体のリン酸化を試験した。Her3/c-Met_scFV_SSKH 及び Her3/c-Met_KHSSは、親Her3クローン29と同じ程度にHer3受容体リン酸化を阻害し、このことは、抗体のHer3結合及び官能性が三価の抗体型により処理されないことを示唆する。
【0244】
例4(図11, 12, 13)二重特異的Her3/c-Met抗体型によるHGF−誘発されたHUVEC増殖の阻害
HUVEC増殖アッセイを実施し、HGFのミトーゲン効果を示した。HUVECへのHGFの添加は、増殖における2倍の上昇を導く。二重特異的抗体と同じ濃度範囲でのヒトIgG対照抗体の添加は、細胞増殖に対して影響を有さず、ところが5D5 Fabフラグメントは、HGF−誘発された増殖を阻害する。同じ濃度で使用される場合、Her3/c-Met_scFv_SSKH抗体は、Fabフラグメントと同じほど増殖を阻害する(図11)。
【0245】
ヘレグリン(HRG)のみの添加(データは示されていない)又はHGFと組合してのその添加は、増殖のさらなる上昇をもたらさない(図12)。これは、この読み取りが、Her3成分の阻害を伴わないで、二重特異的抗体型におけるc-Met成分の機能的分析を可能にすることを確かめる。Her3/c-Met_KHSSの滴定は、抗体の弱い阻害効果を示す(図13)。この効果は、Her3/Met-6C抗体に関してより明白であり、このことは、より長いコネクターが抗体の効能を改善することを示唆する。3種のことなったscFv抗体(Her3/c-Met_scFv_SSKH、Her3/c-Met_scFv_KH、Her3/c-Met_scFv_KHSB)は、同じ程度の増殖阻害を示す。これは、三価の抗体型におけるc-Met成分の官能性を示す。
【0246】
例5(図14)二重特異的Her3/c-Met抗体型による癌細胞系A431の増殖の阻害
A431が血清を低められた培地に接種される場合、HGFの添加は、弱いミトーゲン効果を、拡散は別として誘発する。これは、HGF処理されたA431増殖に対するHer3/c-Met_scFv_SSKH 及びHer3/c-Met_KHSSの効果を分析するために利用された。実際、二重特異的抗体は、増殖のHGF−誘発された上昇を非常に阻害できる(15%)。Her3/c-Met_scFv_SSKHは5D5 Fabフラグメントと同じほど良好であり、そしてHer3/c-Met_KHSSは類似する効果を得るために、より高い用量を必要とする(6.25μg/mlに比較して12.5μg/ml)。対照ヒトIgG1抗体は、HGFにより促進されたA431細胞増殖に対して影響を有さない。
【0247】
例6(図15, 16)二重特異的Her3/c-Met抗体型による癌細胞系A431におけるHGF−誘発された細胞−細胞拡張(拡散)の阻害の分析
HGF−誘発された拡散は、細胞の丸み化、糸状偽足のような突起、紡錘体のような構造及び細胞の一定の運動性をもたらす、細胞の形態学的変化を包含する。即時細胞分析器(Roche)は、所定の細胞培養物のインピーダンスを測定し、そして従って、細胞型態学及び増殖における変化を間接的にモニターすることができる。A431及びA549細胞へのHGFの添加は、時間の関数としてモニターされ得るインピーダンスの変化をもたらす。
【0248】
Her3/c-Met_KHSS 及び Her3/Met-6Cは、HGF−誘発された拡散を阻害し、そしてHer3/Met-6Cはより効果的である(20.7%及び43.7%の拡散阻害)(図15)。3種の異なったscFv抗体(Her3/c-Met_scFv_SSKH、Her3/c- Met_scFv_KH、 Her3/c-Met_scFv_KHSB)は、未処理の対照の曲線に近い曲線の減じられた傾斜により観察され得るように、HGF−誘発された拡散の抑制において中位の効果を示す(29%、51.9%及び49.7%の拡散阻害)(図16)。12.5μg/mlの同じ濃度で使用される場合、Her3/c- Met_scFv_KH 抗体及び Her3/c-Met_scFv_KHSBは同等に十分に実施する。
【0249】
例7(図17)癌細胞系T47D、A549、A431及びH441におけるHer3及びc-Met受容体の細胞表面発現の分析
異なった比率の細胞表面Her3及びc-Metを有する細胞系を同定するために、FACSに基づくアッセイを行った。T47Dは、この細胞系においてmRNAレベルに従って存在する、c-Met細胞表面発現を示さなかった(データは示されていない)。A431及びA549は類似するレベルのc-Metを示し、そしてH441、すなわちc-Metを過剰発現する細胞系は非常に高いc-Metレベルを有する。逆もまた同様であり、すなわちT47Dは高いレベルのHer3を有し、そしてA549は単に低い細胞表面発現を示す。
【0250】
例8(図18及び下記表)癌細胞系A431、A549及びDU145における抗体−介在性受容体インターナリゼーションの分析(流動細胞測定アッセイ(FACS)により測定される)
Her3又はc-Metに対して特異的に結合する抗体と細胞のインキュベーションは、受容体のインターナリゼーションを誘発することが示されている。二重特異的抗体のインターナリゼーション能力を評価するために、実験設定を企画し、抗体−誘発された受容体インターナリゼーションを研究した。このために、細胞を、37℃でそれぞれの一次抗体と共に、異なった期間(0, 30, 60及び120分間(=0時、1/2時、1時及び2時間))インキュベートした。
【0251】
細胞進行を、その細胞を4℃に急冷することにより停止した。一次抗体のFcに対して特異的に結合する二次蛍光体−カップリングされた抗体を用いて、細胞表面に結合される抗体を検出した。抗体−受容体複合体のインターナリゼーションは、細胞表面上の抗体−受容体複合体を消耗し、そして低められた平均蛍光強度をもたらす。インターナリゼーションを、3種の異なった細胞系(A431、A549、DU145)において研究した。Her3クローン29とのインキュベーションは、この抗体がA431及びDU145において受容体インターナリゼーションを誘発し、そしてその効果はそれらの細胞表面上にほとんど受容体を有さないA549においては低い。
【0252】
5D5とのインキュベーションは、A549、 DU145において良好な受容体インターナリゼーションを導き、そしてA431においては低い。Her3/c-Met_scFv_SSKHは、A549及びDU145においてはインターナリゼーションをほとんど示さず、そしてA431においてはわずかに控えめなインターナリゼーションを示す(2時間後、11%)。要約すると、scFv抗体型は、非常に控えめな受容体インターナリゼーションを導き、このことは、二重特異的抗体が単一特異的成分よりも異なって作用することを示唆し、細胞表面上の抗体を捕獲する両受容体に対して二重特異的scFv抗体の同時結合を示唆する。結果は、図18及び下記表に示される。
【0253】
表6:A431細胞に対する2時間後のFACSアッセイにより測定される親単一特異的HER3及びcMet抗体に比較しての二重特異的Her3/cMet抗体によるErbB受容体のインターナリゼーション。0時で測定される細胞表面上のErbB3受容体の測定%は、細胞表面上のErbB3受容体の100%として設定される。(単一特異的二価<c-Met>親抗体Mab 5D5に関しては、c-Metの%インターナリゼーションは同様にして計算される(下記B)における表示を参照のこと):
【0254】
【表6】

【0255】
例10(図19)癌細胞系A431におけるHGF−介在性移動の抗体−依存性阻害の分析
活性c-Metシグナル化の1つの重要な観点は、移動性及び侵襲性プログラムの誘発である。c-Met阻害抗体の効能を、HGF−誘発された細胞移動の阻害を測定することにより決定することができる。このために、HGF−誘発性癌細胞系A431を、二重特異的抗体又はIgG対照抗体の不在又は存在下でHGFにより処理し、そして8μmの孔を通して移動する細胞の数を、インピーダンス読み取りを備えたCIM−プレートを用いて、Acea Real Time細胞分析器上で時間−依存性態様で測定した。独立して、細胞の移動を、その移動した細胞を染色することにより定量的に可視化した(データは示されていない)。例は、HGF−誘発された細胞移動の用量−依存性阻害を示す。
【0256】
例11(下記表)二重特異的抗体への組換えHer3、cMet及びFcgamma III 受容体の連続的同時結合の分析
Her3及びc-Metに結合する二重特異的抗体の作用の態様を、より理解するために、受容体結合状態を、表面プラスモン共鳴測定(Biacore)の助けにより決定した。異なった実験設定を用いて、組換えHer3又は組換えc-Met外部ドメイン(ECD)のいずれかへの又は同時に両者への二重特異的抗体の結合を評価した。試験された二重特異的抗体のすべては、Her3及びc-Met ECDに同時に結合することができた。さらに、抗体:Her3:cMet-ECDの複合体への組換えFcgamma III タンパク質の結合を決定した。抗体のすべては、NK−依存性エフェクター機能を増強するために二重特異的抗体の糖構築のために強い理論的基礎を提供する両外部ドメインの存在下でさえFcgamma III 受容体に結合できた。
【0257】
【表7】

【0258】
例12(図20)HT29細胞における二重特異的Her3/c-Met_scFv_SSKH抗体による細胞−細胞架橋の分析
二重特異的抗体型の多価性のために、細胞−細胞架橋は、低められた受容体インターナリゼーションをまた説明する可能性ある作用の態様である。この現象をより詳細に研究するために、この問題を取り組み実験設定を企画した。このためには、それらの細胞表面上でHer3及びc-Metを発現するHT29細胞を、2種の集団に分けた。1つは、PKH26(SIGMA)により染色され、他はPKH67(Sigma)により染色され、2種の膜色素に関しては、前者が緑色、後者が赤色である。染色された細胞を混合し、そしてHer3/c-Met_scFv_SSKHと共にインキュベートした。流動細胞計測に基づくアッセイにおいては、細胞の集中的架橋が上方右側の四分区画において二重陽性(緑+/赤+)細胞の集団の上昇を導く。この実験に基づけば、細胞−細胞架橋の上昇は所定の設定下で観察されなかった。
【0259】
例13糖構築された二重特異的Her3/c-Met抗体の調製
二重特異的Her3/c-Met抗体MH_TvAbl8、MH_TvAb21 MH_TvAb 22及びMH_TvAb 30のDNA配列を、MPSVプロモーターの制御下での及び合成ポリA部位の上流の哺乳類発現ベクター(EBV Orip配列をそれぞれ担持する)中にサブクローン化した。
【0260】
二重特異的抗体を、リン酸カルシウムトランスフェクションアプローチを用いて、哺乳類二重特異的抗体発現ベクターによりHEK293−EBNA細胞を同時トランスフェクトすることにより生成した。指数的に増殖するHEK293-EBNA細胞を、リン酸カルシウム方法によりトランスフェクトした。糖構築された抗体の生成のために、細胞を、それぞれ4:4:1:1の比で2種の追加のプラスミド、融合GnTIII ポリペプチド発現のためのプラスミド(GnT-III 発現プラスミド)、及びマンノシダーゼII発現のためのベクター(ゴルジマンノシダーゼII発現ベクター)により同時−トランスフェクトした。細胞を、10%FCSにより補充されたDMEM培養培地を用いて、Tフラスコにおいて付着性単層培養物として増殖し、そしてそれらが50〜80%の集密性に達した場合、トランスフェクトした。
【0261】
T150フラスコのトランスフェクションのために、15×106個の細胞を接種し、24時間後、FCS(10%v/v最終)により補充されたDMEM培養培地25mlにトランスフェクトし、そして細胞を、5%CO2雰囲気下で一晩、インキュベーターに37℃で配置した。トランスフェクトされるべき個々のT150フラスコのために、DNA、CaCl2及び水の溶液を、L及びH鎖発現ベクター間に平均に分割された全プラスミドベクターDNA94μg、469μlの最終体積までの水、及び1MのCaCl2溶液469μlを混合することにより調製した。この溶液に、938μlの50mMのHEPES、280mMのNaCl、1.5mMのNa2HPO4溶液(pH7.05)を添加し、すぐに10秒間、混合し、そして20秒間、室温で静置した。
【0262】
この懸濁液を、2%FCSにより補充されたDMEM10mlにより希釈し、そして存在する培地の代わりにT150に添加した。次に、追加の13mlのトランスフェクション培地を添加した。細胞を37℃で、5%CO2下で約17〜20時間インキュベートし、次に培地を10%FCSを含むDMEM25mlにより置換した。ならし培養培地を、トランスフェクションの7日後、210xgでの15分間の遠心分離により収穫し、その溶液を無菌濾過し(0.22μmのフィルター)、そして0.01%w/vの最終濃度でのアジ化ナトリウムを添加し、そして4℃で維持した。
【0263】
分泌された二重特異的アフォクシル化され(afocusylated)、糖構築された抗体を、プロテインA親和性クロマトグラフィー、続いてカチオン交換クロマトグラフィー、及び緩衝液を25mMのリン酸カリウム、125mMの塩化ナトリウム、100mMのグリシン溶液(pH6.7)に交換し、そして純粋なモノマーIgG1抗体を集めるSuperdex200カラム(Amershan Pharmacia)上での最終サイズ排除のクロマトグラフィー段階により精製した。抗体濃度を、280nmでの吸光度から分光計を用いて評価した。
【0264】
抗体のFc領域に結合されるオリゴ糖を、下記に記載のようにしてMALDI/TOF-MSにより分析した(例14)。オリゴ糖を、PNGaseF消化により抗体から酵素的に開放し、そして抗体をPVDF膜上に又は溶液に固定した。開放されたオリゴ糖を含む、その得られる消化物を、MALDI/TOF-MS分析のために直接調製するか、又はMALDI/TOF-MS分析のために、サンプル調製の前、EndoHグリコシダーゼによりさらに消化した。
【0265】
例14二重特異的Her3/c-Met抗体の糖構造の分析
フコース−及び非−フコース(a−フコース)含有オリゴ糖構造の相対的比率の決定のために、精製された抗体材料の開放されたグリカンを、MALDI-Tof−質量分光計により分析した。このためには、抗体のサンプル(約50μg)を、タンパク質主鎖からオリゴ糖を開放するために、0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中、5mUのN−オリコシダーゼF(Prozyme # GKE-5010B)と共に37℃で一晩インキュベートした。続いて、開放されたグリカン構造体を単離し、そしてNuTip−炭素ピペット端(Glygenから入手される:NuTip1-10μl、カタログNr#NT1CAR)を用いて脱塩した。第1段階として、NuTip−炭素ピペット端を、それらを3μlの1MのNaOH、続いて20μlの純粋水(例えば、BakerからのHPLC−グラジエント級、#4218)、3μlの30%(v/v)酢酸及び再び20μlの純粋水により洗浄することにより、オリゴ糖の結合のために調製した。
【0266】
このためには、それぞれの溶液を、NuTip−炭素ピペット端におけるクロマトグラフィー材料の端上に負荷し、そしてそれを通して圧縮した。その後、10μgの抗体に対応するグリカン構造体を、上記N−グリコシダーゼF消化物を、4〜5度、吸い上げたり又は戻すことにより、NuTip−炭素ピペット端における材料に結合する。NuTi−炭素ピペット端における材料に結合されたグリカンを、上記手段で、20μlの純粋水により洗浄し、そしてそれぞれ、0.5μlの10%及び2.0μlの20%アセトニトリルにより段階的に溶出する。この段階のために、溶離溶液を0.5mlの反応バイアルに満たし、そしてそれぞれ4〜5度、吸い上げたり又は戻す。MALDI-Tof質量分光計による分析のために、両溶出物を組合す。
【0267】
この測定のために、0.4μlの組合わされた溶出物を、MALDI標的物上で、1.6μlのSDHBマトリックス溶液(20%エタノール/5mMのNaClに5mg/mlで溶解された2,5−ジヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸[Bruker Daltonics #209813])と共に混合し、そして適切に調節されたBruker Ultraflex TOF/TOF装置により分析する。通常、50〜300のショットを記録し、そして単一の実験に合計する。
【0268】
得られるスペクトルを、フレックス分析ソフトウェア(Bruker Daltonics)により評価し、そして質量を検出される個々のピークについて決定する。続いて、ピークを、計算された質量及びそれぞれの構造体(例えば、それぞれフコースを有する、及び有さない複合体、ハイブリッド及びオリゴ−又は高−マンノース)について理論的に予測される質量を比較することにより、グリコール構造体を含むフコース又はa−フコース(非−フコース)について割り当てる。
【0269】
ハイブリッド構造体の比率の決定のために、抗体サンプルをN-グリコシダーゼF及び
エンド−グリコシダーゼHにより消化し、ここでN-グリコシダーゼFはタンパク質主鎖からすべてのN−結合されたグリカン構造体(複合体、ハイブリッド及びオリゴ−及び高−マンノース構造体)を開放し、そしてエンド−グリコシダーゼHはグリカンの還元端で2つのGleNAc-残基間のすべてのハイブリッド型グリカンを、さらに分解する。この消化物を、続いて、N−グリコシダーゼF消化されたサンプルについての上記と同じ手段で処理し、そしてMALDI-Tof質量分光計により分析する。N−グリコシダーゼF消化物及び組合わされたN−グリコシダーゼF/エンドH消化物からのパターンを比較することにより、特定の糖構造体のシグナルの低減の程度を用いて、ハイブリッド構造体の相対的含有率を評価する。
【0270】
個々の糖構造体の相対的量を、個々のグリコール構造体のピークの高さ及び検出されるすべての糖構造体のピークの高さの合計の比率から計算する。フコースの量は、N−グリコシダーゼF処理のサンプルにおいて同定されるすべての糖構造体(例えば、複合体、ハイブリッド、及びオリゴ−及び高−マンノース構造体)に関連するフコース含有構造体の%である。アフコシル化の量は、N−グリコシダーゼF処理されたサンプルにおいて同定されるすべての糖構造体(例えば、複合体、ハイブリッド及びオリゴ−及び高−マンノース構造体)に関連するフコース欠失構造体の%である。
【0271】
例15二重特異的Her3/c-Met抗体のインビトロADCC
本発明のHer3/c-Met二重特異的抗体は、両受容体を発現する細胞に対する低められたインターナリゼーションを示す。低められたインターナリゼーションは、細胞表面上の抗体−受容体複合体の延長された暴露がNk細胞により一層有望に認識されるので、それらの抗体を糖構築するための原理を強く支持する。低められたインターナリゼーション及び糖構築は、親抗体に比較して、増強される抗体依存性細胞毒性(ADCC)に移行する。それらの効果を示すためにインビトロ実験設定を、細胞表面上でHer3及びc-Metの両者を発現する癌細胞、例えばA431、及びNk細胞系又はPBMCのようなエフェクター細胞を用いて企画することができる。腫瘍細胞を、親単一特異的抗体又は二重特異的抗体と共に24時間までインキュベートし、続いてエフェクター細胞系を添加する。細胞溶解を定量化し、そして単一及び二重特異的抗体の識別を可能にする。
【0272】
標的細胞、例えばA431等(RPMI1640+2mMのL−グルタミン+10%FCSにおける培養)(Her3及びc-Metの両者を発現する)を、指数増殖期においてトリプシン/EDTA(Gibco#25300-054)により集めた。洗浄段階及び細胞数及び生存性の調査の後、必要とされるアリコートを、カルセインを含む細胞インキュベーターにおいて37℃で30分間ラベルした(Invitrogen #C3100MP;1つのバイアルが5mlの培地中、5Mio細胞について50μlのDMSOに再懸濁された)。その後、細胞をAIM-V培地により3度、洗浄し、細胞数及び生存性を調べ、そして細胞数を0.3Mio/mlに調節した。
【0273】
他方では、エフェクター細胞としてのPBMCを、密度勾配遠心分離(Histopaque-1077, Sigma # H8889)により、その製造業者のプロトコール(400gで1回、及び350gで2回、それぞれ10分の洗浄段階)に従って調製した。細胞数及び生存性を調べ、そして細胞数を15Mio/mlに調節した。
【0274】
100μlのカルセイン−染色された標的細胞を、丸底96−ウェルプレートにプレートし、50μlの希釈された抗体を添加し、そして50μlのエフェクター細胞を添加した。いくつかの実験においては、標的細胞を、Redimune(商標)NF Liquid (ZLB Behring)と共に、10mg/mlのRedimuneの濃度で混合した。
【0275】
対照として、標的細胞及びエフェクター細胞を、抗体を伴わないで同時−培養することにより決定される自発的溶解、及び標的細胞のみの1%Triton X-100溶解により決定される最大溶解が作用した。プレートを、保湿された細胞インキュベーターにおいて37℃で4時間インキュベートした。
【0276】
標的細胞の殺害を、細胞毒性検出キット (LDH Detection Kit, Roche # 1 644 793)を用いて、その製造業者の説明書に従って、損傷された細胞からのLDH開放を測定することによって評価した。手短には、個々のウェルからの100μlの上清液を、透明な平底96ウェルプレートにおいて、キットからの100μlの基質と共に混合した。基質の色彩反応のVmax値を、490nmでELISAリーダーにより少なくとも10分間、決定した。特異的抗体−介在性殺害の%を次の通りにして計算した((A - SR)/(MR - SR))xl00、ここでAは特異的抗体の濃度でのVmaxの平均であり、SRは自発的開放のVmaxの平均であり、そしてMRは最大開放のVmaxの平均である。
【0277】
例16オートクリンHGFループを有する皮下異種移植片モデルにおける二重特異的Her3/c-Met抗体のインビボ効能
皮下U87MG神経グリア芽細胞腫モデルは、オートクリンHGFループを有し、そして細胞表面上にHer3及びc-Metを表示する。両受容体は、溶解され、そしてイムノブロット分析にゆだねられる腫瘍外植片においてリン酸化される(データは示されていない)。U87MG細胞を、対数増殖期において標準の細胞培養条件下で維持した。1×107個の細胞を、SCID beigeマウスに移植した。腫瘍が確立され、そして100〜150mm3のサイズに達した後、処理を開始する。マウスを、20mg/kg(抗体/マウス)の用量により、及び次に、10mg/kg(抗体/マウス)の用量により週1度、処理する。腫瘍体積を週2度、測定し、そして動物重量を同時にモニターした。1回の処理及び単一抗体の組合せを、二重特異的抗体による治療に比較する。
【0278】
例17パラクリンHGFループを有する皮下異種移植片モデルにおける二重特異的Her3/c-Met抗体のインビボ効能
Mrc-5細胞により同時注入される皮下BxPc-3モデルは、c-Metについてのパラクリン活性化ループを模倣する。BxPc-3は、細胞表面上にc-Met及びHer3を発現する。BxPc-3及びMrc-5細胞を、対数増殖期において標準の細胞培養条件下で維持する。BxPc-3及びMrc-5細胞に、1×107個のBxPc-3細胞及び1×106個のMrc-5(10:1の比)を注入する。細胞を、SCID beigeマウスに移植する。腫瘍が確立され、そして100〜150mm3のサイズに達した後、処理を開始する。マウスを、20mg/kg(抗体/マウス)の用量により、及び次に、10mg/kg(抗体/マウス)の用量により週1度、処理する。腫瘍体積を週2度、測定し、そして動物重量を同時にモニターした。1回の処理及び単一抗体の組合せを、二重特異的抗体による治療に比較する。
【0279】
例18パラクリンHGFループを有する皮下異種移植片モデルにおける二重特異的Her3/c-Met抗体のインビボ効能
ヒトHGFに対してトランスゲニックの免疫無防備状態にされたマウスは、全身性HGFのための源として作用する。そのようなマウスは、文献に説明されており、そしてVan Andel Instituteから入手できる。細胞表面上で両受容体を発現する癌細胞系、例えばBxPc-3又はA549の皮下注入を用いて、Her3及びc-Metを標的化する二重特異的抗体の効能を研究することができる。細胞を、対数増殖期において標準細胞培養条件下で維持する。1×107個の細胞を、HGFのためのトランスジーンを維持するSCID beigeマウスに移植する。腫瘍が確立され、そして100〜150mm3のサイズに達した後、処理を開始する。マウスを、20mg/kg(抗体/マウス)の用量により、及び次に、10mg/kg(抗体/マウス)の用量により週1度、処理する。腫瘍体積を週2度、測定し、そして動物重量を同時にモニターした。1回の処理及び単一抗体の組合せを、二重特異的抗体による治療に比較する。
【0280】
例19パラクリンHGFループを有する同所性異種移植片モデルにおける二重特異的Her3/c-Met抗体のインビボ効能
A549癌細胞は、細胞表面上でHer3及びc-Metを発現する。A549細胞を、対数増殖期において標準細胞培養条件下で維持する。1×107個の細胞を、SCID beigeマウスに移植する。腫瘍が確立され、そして100〜150mm3のサイズに達した後、処理を開始する。マウスを、20mg/kg(抗体/マウス)の用量により、及び次に、10mg/kg(抗体/マウス)の用量により週1度、処理する。腫瘍体積を週2度、測定し、そして動物重量を同時にモニターした。1回の処理及び単一抗体の組合せを、二重特異的抗体による治療に比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体であって、抗体の不在下でのErbB-3のインターナリゼーションに比較して、A431細胞に対する流動細胞計測アッセイにおいて、2時間後に測定される場合、15%以下のErbB-3のインターナリゼーションを示すことを特徴とする二重特異的抗体。
【請求項2】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する1又は2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する1つの抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、二価又は三価の二重特異的抗体であることを特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する2種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第3抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、三価の二重特異的抗体であることを特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する1種の抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する、二価の二重特異的抗体であることを特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
ヒトErbB-3に対して特異的に結合する第1抗原−結合部位、及びヒトc-Metに対して特異的に結合する第2抗原−結合部位を含んで成る、ヒトErbB-3及びヒトc-Metに対して特異的に結合する二重特異的抗体であって、
i) 前記第1抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:53のCDR3H領域、配列番号:54のCDR2H領域及び配列番号:55のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:56のCDR3L領域、配列番号:57のCDR2L領域、及び配列番号:58のCDR1L領域又は配列番号:59のCDR1L領域を含んで成り;そして
前記第2抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成り;
ii) 前記第1抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:60のCDR3H領域、配列番号:61のCDR2H領域及び配列番号:62のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:63のCDR3L領域、配列番号:64のCDR2L領域、及び配列番号:65のCDR1L領域又は配列番号:66のCDR1L領域を含んで成り;そして
前記第2抗原−結合部位は、H鎖可変ドメインに、配列番号:66のCDR3H領域、配列番号:67のCDR2H領域及び配列番号68のCDR1H領域、及びL鎖可変ドメインに、配列番号:69のCDR3L領域、配列番号:70のCDR2L領域、及び配列番号:71のCDR1L領域を含んで成ることを特徴とする二重特異的抗体。
【請求項6】
i)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:47、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:48を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
ii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:50を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iii)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;
iv)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:52を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成り;又は
v)前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:1、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:2を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする、請求項5記載の二重特異的抗体。
【請求項7】
前記第1抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:49、及びL鎖可変ドメインとして配列番号:51を含んで成り、そして前記第2抗原−結合部位が、H鎖可変ドメインとして配列番号:3及びL鎖可変ドメインとして配列番号:4を含んで成ることを特徴とする、請求項5記載の二重特異的抗体。
【請求項8】
IgG1又はIgG3サブクラスの不変領域を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の二重特異的抗体。
【請求項9】
前記抗体がAsn297で糖鎖によりグリコシル化され、それにより前記糖鎖内のフコースの量が65%又はそれ以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の二重特異的抗体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の二重特異的抗体をコードする核酸。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載の二重特異的抗体を含んで成る医薬組成物。
【請求項12】
癌の処理のための請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
癌の処理のための請求項1〜9のいずれか1項記載の二重特異的抗体。
【請求項14】
癌の処理のための薬物の製造のためへの請求項1〜9のいずれか1項記載の二重特異的抗体の使用。
【請求項15】
癌を有する患者に請求項1〜9のいずれか1項記載の二重特異的抗体を投与することによる、そのような処理の必要な患者の処理方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20a】
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【図20b】
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【図21】
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【図22a】
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【図22b】
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【公表番号】特表2012−522524(P2012−522524A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503896(P2012−503896)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002005
【国際公開番号】WO2010/115552
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】