説明

五フッ化ヨウ素による含フッ素有機化合物の製造方法

【課題】ヨウ素化され得る芳香環、特にパラ位が無置換のフェニル基を含む有機化合物のフッ素化において、該芳香環のパラ位のヨウ素置換を抑制し、高い収率で所望の含フッ素有機化合物を製造する。
【解決手段】ヨウ素化され得る少なくとも1つの芳香環と非芳香族炭素原子に結合した1以上の水素原子を有する有機化合物をフッ素化試薬と反応させて、少なくとも1個の前記水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物を製造する方法であって、前記フッ素化試薬がIF5と有機塩基フッ酸塩を含み、IF5と有機塩基フッ酸塩のモル比が1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする、前記芳香環のヨウ素置換を抑制しながらフッ素化された有機化合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IF5と有機塩基フッ酸塩のモル比が、1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする含フッ素有機化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機塩基フッ酸塩共存下にIF5を用いて行う含フッ素有機化合物の合成は、これまでいくつか報告されており、特にIF5およびEt3N-3HFを混合したフッ素化剤がよく研究されており、さまざまな種類の有機化合物をフッ素化できることが知られている(特許文献1〜2,非特許文献1〜4)。しかしながら、非特許文献2に記されているように、パラ位が無置換のフェニル基をもつ基質である場合、下記式のようにフェニル基のパラ位がヨウ素で置換される副反応が高い収率で起こることが問題となっている。
【0003】
【化1】

【特許文献1】WO01/096263
【特許文献2】特開2003−146965
【非特許文献1】N.Yoneda and T.Fukuhara, Chemistry Letters, 2001, 222.
【非特許文献2】S.Ayuba, N.Yoneda, T.Fukuhara, and S.Hara, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2002, 75, 1597.
【非特許文献3】S.Ayuba, T.Fukuhara, and S.Hara, Organic Letters, 2003, 5, 2873.
【非特許文献4】N.Yoneda, J. Fluorine Chem., 2004, 125, 7.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ヨウ素化され得る芳香環、特にパラ位が無置換のフェニル基を含む有機化合物のフッ素化において、該芳香環のパラ位のヨウ素置換を抑制し、高い収率で所望の含フッ素有機化合物を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、IF5と、有機塩基フッ酸塩のモル比が、1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いれば、ヨウ素化され得る芳香環(特にパラ位が無置換のフェニル基)を含む有機化合物のフッ素化において、ヨウ素置換を抑制し、高い収率で所望の含フッ素有機化合物を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の項1〜項8に関する。
項1. ヨウ素化され得る少なくとも1つの芳香環と非芳香族炭素原子に結合した1以上の水素原子を有する有機化合物をフッ素化試薬と反応させて、少なくとも1個の前記水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物を製造する方法であって、前記フッ素化試薬がIF5と有機塩基フッ酸塩を含み、IF5と有機塩基フッ酸塩のモル比が1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする、前記芳香環のヨウ素置換を抑制しながらフッ素化された有機化合物を製造する方法。
項2. 前記芳香環がベンゼン環およびナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の方法。
項3. IF5と、有機塩基フッ酸塩のモル比が、1:2から1:5の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする項1または2に記載の方法。
項4. 有機塩基とフッ酸(HF)のモル比が、1:2.5から1:3.5の範囲となるよう混合された有機塩基フッ酸塩を用いることを特徴とする項1〜3のいずれか記載の方法。
項5. 有機塩基が第三級アミンである項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 有機塩基がトリアルキルアミンである項5記載の方法。
項7. 有機塩基フッ酸塩が(C2H5)3N・3HFである項6記載の方法。
項8. フッ素化される有機化合物が式(1):
R1R2CH−SR3 (1)
(R1、R2は同一かまたは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、複素環基、−CONR(R及びRは、独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す、)、アルキルスルフィニル基、アラルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、シクロアルキルスルフィニル基、ヘテロシクロアルキルスルフィニル基、複素環基の結合したスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シクロアルキルスルホニル基、ヘテロシクロアルキルスルホニル基、複素環基の結合したスルホニル基、シアノ基またはニトロ基であり、いずれの基も置換基を有していてもよい。またR1、R2が、結合して環状構造を成してもよい。R3は、ヨウ素が置換し得る配向上の位置が水素原子であるアリール基であり、その他の位置は置換基を有していてもよい。)
で表されるスルフィド基を有する項1〜7のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフッ素化方法、すなわちIF5と、有機フッ酸塩のモル比が、1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いれば、パラ位が無置換のフェニル基を含む基質のフッ素化において、フェニル基のパラ位のヨウ素置換を抑制し、高い収率で所望の含フッ素有機化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、有機塩基フッ酸塩の構成成分である有機塩基としては、第一、二、三級脂肪族アミン、第二、三級脂環式アミン、第一、二、三級芳香族アミン、複素環式アミンなどが挙げられる。第一、二、三級脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、トリオクチルアミンなどが挙げられる。第二、三級脂環式アミンとしては、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、N-メチルピペラジン、N-メチルピロリジン、5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナン-5-エン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどが挙げられる。第一、二、三級芳香族アミンとしては、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N-エチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N-エチル-N-メチルアニリン、1-フェニルピペリジン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどが挙げられる。複素環式アミンとしては、ピリジン、ピリミジン、ピペラジン、キノリン、イミダゾールなどが挙げられる。さらにポリアニリン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジンなどのポリマー担持アミン化合物が挙げられる。また、これらのアミンを任意に混合して用いてもよい。
【0008】
これらの中でも特に、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、トリオクチルアミンなどの第三級脂肪族アミンが好ましい。
【0009】
本発明のフッ素化試薬において、有機塩基フッ酸塩の比率が高くなるほど、ヨウ素置換体の生成は抑えられ、特にIF5と有機塩基フッ酸塩の比が1:10ではまったく検出されないか、著しく低いレベルに抑制される。一方、有機塩基フッ酸塩の比率が高くなるとフッ素化反応が遅くなる。
【0010】
従って、ヨウ素置換の抑制とフッ素化反応速度の向上の点から、IF5と有機塩基フッ酸塩との比は、1:1.25から1:10の範囲がよく、好ましくはIF5と有機塩基フッ酸塩との比は、1:2から1:5、より好ましくは1:2.5から1:3.5であり、特に1:3である。
【0011】
本発明で使用する有機塩基フッ酸塩において、有機塩基に対するフッ酸(HF)の比率は、有機塩基に対し1当量以上5当量未満であればよく、2.5当量から3.5当量であることが好ましく、さらに3当量であることが特に好ましい。有機塩基に対してフッ酸が多すぎるとヨウ素置換が起こりやすくなるので好ましくない。
【0012】
反応溶媒は用いず無溶媒で実施することができるが、下記溶媒を用いることもできる。ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテルなどの脂肪族溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、フルオロトリクロロメタン、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン、2-クロロ-1,2-ジブロモ-1,1,2-トリフルオロエタン、1,2-ジブロモヘキサフルオロプロパン、1,2-ジブロモテトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロテトラクロロエタン、1,2-ジフルオロテトラクロロエタン、ヘプタフルオロ-2,3,3-トリクロロブタン、1,1,1,3-テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,1-トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1,1-トリクロロトリフルオロエタン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのハロゲン化脂肪族溶媒、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボナートなどのエステル溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル溶媒、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ニトロベンゼンなどの芳香族溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ニトロメタン、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、テトラメチルウレア、1,3−ジメチルプロピレンウレア、ヘキサメチルフォスフォルアミド(HMPA)などが挙げられ、単独もしくは任意の2種以上の混合溶媒として用いてもよいが、特にアセトニトリルが好ましい。
【0013】
反応温度は、−20℃から200℃、好ましくは0℃から100℃の範囲で行われ、反応時間は、5分間〜300時間行うことができ、基質となる有機化合物に応じて適宜設定できる。
【0014】
フッ素化される基質は、ヨウ素化され得る芳香環(例えばベンゼン環、ナフタレン環等)をもつ有機化合物であり、ベンゼン環は、フェニル基、フェニレン基などとして有機化合物に含まれ得、ナフタレン環はナフチル基、ナフチレン基などとして有機化合物に含まれ得る。具体的には、フッ素化される基質として、前述した特許文献1〜2,非特許文献1〜4に記載されている化合物のうち、これに該当するものがすべて対象となるが、特に式(1)で表されるスルフィド基を有する基質への適用が好ましい。
【0015】
R1R2CH−SR3 (1)
(R1、R2は同一かまたは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、複素環基、−CONR(R及びRは、独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す、)、アルキルスルフィニル基、アラルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、シクロアルキルスルフィニル基、ヘテロシクロアルキルスルフィニル基、複素環基の結合したスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シクロアルキルスルホニル基、ヘテロシクロアルキルスルホニル基、複素環基の結合したスルホニル基、シアノ基またはニトロ基であり、いずれの基も置換基を有していてもよい。またR1、R2が、結合して環状構造を成してもよい。R3は、ヨウ素が置換し得る配向上の位置が水素原子であるアリール基であり、その他の位置は置換基を有していてもよい。)
本発明の式(1)で示されるスルフィド類において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0016】
アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシルなどの直鎖または分枝を有するC〜C18アルキル基、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの直鎖または分枝を有するC〜Cアルキル基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0017】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのC〜Cシクロアルキル基が挙げられ、C〜Cシクロアルキル基が好ましく、置換基が結合していてもよい。
【0018】
ヘテロシクロアルキル基としては、前記のシクロアルキル基の環状構造を形成する1個若しくはそれ以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などで置換されたものが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0019】
ハロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリクロロエチル基、テトラフルロロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、2−(パーフルオロオクチル)エチル基、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル基、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル基などの、直鎖または分枝を有するC〜C18、好ましくはC〜Cの前記アルキル基において、1個〜全ての水素原子がハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
【0020】
アラルキル基としては、2−フェニルエチル、ベンジル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル等のC〜C20アラルキル基などが挙げられる。
【0021】
アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、クロロフェニル基、メトキシフェニル基、ジフェニル基、ナフチル基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0022】
アルコキシ基としては、O−(アルキル基、アルキル基は前記と同じ)で表される基であり、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどの直鎖または分枝を有するC〜Cアルコキシ基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0023】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、クロロフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0024】
アラルキルオキシ基としては、2−フェニルエチルオキシ、ベンジルオキシ、1−フェニルエチルオキシ、3−フェニルプロピルオキシ、4−フェニルブチルオキシ等のC〜C20アラルキルオキシ基などが挙げられる。
【0025】
アルコキシカルボニル基としては、アルコキシ基が前記に示される基であるCO−(アルコキシ)基が例示され、具体的にはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニルが例示される。
【0026】
アリールオキシカルボニル基としては、アリールオキシ基が前記に示される基であるCO−(アリールオキシ)基が例示され、具体的にはフェノキシカルボニル基、クロロフェノキシカルボニル基、メトキシフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0027】
アラルキルオキシカルボニル基としては、アラルキルオキシ基が前記に示される基であるCO−(アラルキルオキシ)基が例示され、具体的には2−フェニルエチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、1−フェニルエチルオキシカルボニル、3−フェニルプロピルオキシカルボニル、4−フェニルブチルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基などが挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0028】
アシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、n−ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイルなどの直鎖又は分枝を有する炭素数1〜6のアルカノイル基、ベンゾイル及び置換アシル基が挙げられる。
【0029】
置換基を有するアシル基としては、クロロアセチル基、ブロモアセチル基、ジクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基等の置換アセチル基、メトキシアセチル基、エトキシアセチル基等のアルコキシ置換アセチル基、メチルチオアセチル基等のアルキルチオ置換アセチル基、フェノキシアセチル基、フェニルチオアセチル基、2−クロロベンゾイル基、3−クロロベンゾイル基、4−クロロベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、4−t−ブチルベンゾイル基、4−メトキシベンゾイル基、4−シアノベンゾイル基、4−ニトロベンゾイル基等の置換ベンゾイル基などが挙げられる。
【0030】
−CONR(R及びRは、独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す、)としては、カルバモイル基、N-メチルカルバモイル基、N,N-ジメチルカルバモイル基、N-フェニルカルバモイル基、N-クロロフェニルカルバモイル基、N,N-ジエチルカルバモイル基などが挙げられる。
【0031】
複素環基としては、ピペリジル、フリル、チエニル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピロリル、ピロリジニル、トリアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイミダゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、インドリル、ピラゾリル、ピリダジニル、シノリニル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、ピラジニル、ピリジル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、テトラゾリル等が挙げられ、置換基が結合していてもよい。
【0032】
アルキルスルフィニル基(アルキル−SO−)、アラルキルスルフィニル基(アラルキル−SO−)、アリールスルフィニル基(アリール−SO−)、シクロアルキルスルフィニル基(シクロアルキル−SO−)、ヘテロシクロアルキルスルフィニル基(ヘテロシクロアルキル−SO−)、複素環基の結合したスルフィニル基(−SO−)のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、複素環基としては前記のものが例示される。
【0033】
アルキルスルホニル基(アルキル−SO−)、アラルキルスルホニル基(アラルキル−SO−)、アリールスルホニル基(アリール−SO−)、シクロアルキルスルホニル基(シクロアルキル−SO−)、ヘテロシクロアルキルスルホニル基(ヘテロシクロアルキル−SO−)、複素環基の結合したスルホニル基(−SO−)のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、複素環基としては前記のものが例示される。
【0034】
置換基を有するアルキル基、置換基を有するアルコキシ基、置換基を有するアリール基、置換基を有するアリールオキシ基、置換基を有するアラルキルオキシ基、置換基を有するシクロアルキル基、置換基を有するヘテロシクロアルキル基、置換基を有する複素環基の置換基の数は、1〜5個、好ましくは1〜3個が挙げられる。置換基としては、ハロゲン、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、シアノ、ニトロ、アミノ基、水酸基などが挙げられ、ハロゲンを有するアルキル基としては、アルキル基の水素の一部またはすべてがフッ素または/かつ塩素または/かつ臭素または/かつヨウ素に置換したものが挙げられる。
【0035】
たとえば、下記の化合物が例示されるが、これに限定されるわけではない。
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、フッ素化され得る水素原子を「−H」として示す。1つの構造式中に2以上の水素原子を有する場合、1個の水素原子のみが置換されてもよく、2以上のフッ素原子が同時に置換されてもよい。)
上記の12種の化合物は、フッ素化される水素原子を示すためのものであり、上記の骨格またはそれに類似する骨格を部分構造として有するより複雑な化合物についても同様にフッ素化の対象となる基質(有機化合物)であり得る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれによって何ら限定されるものではない。
実施例1
【0039】
【化3】

【0040】
20mlのフッ素樹脂容器に化合物1を1.14g(5.0mmol)、IF5を3.9g(17.5mmol)、Et3N-3HFを3.5g(21.9mmol)加え、室温で18時間、80℃で1.5時間攪拌した。化合物1の消失を確認後、反応液を氷浴下、KOH/K2SO3水溶液に加え、酢酸エチル20mlで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後、内部標準としてフルオロベンゼン481mg(5mmol)を添加し、19F-NMRにて収率を求めた。
実施例2〜12、比較例1〜2
表1に記載した反応条件を用いて、実施例1と同様に実施した。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例13
20mlのフッ素樹脂容器に化合物1を1.14g(5.0mmol)、アセトニトリル(0.83ml)、IF5を6.6g(30mmol)、Et3N-3HFを9.6g(60mmol)加え、75℃で4時間攪拌した。化合物1の消失を確認後、反応液を氷浴下、KOH/K2SO3水溶液に加え、酢酸エチル20mlで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後、内部標準としてフルオロベンゼン481mg(5mmol)を添加し、19F-NMRにて収率を求めた。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例14
表2に記載した反応条件を用いて、実施例13と同様に実施した。
比較例3
20mlのフッ素樹脂容器に化合物1を1.14g(5.0mmol)、IF5を1.4g(6.5mmol)、Et3N-5HFを2.6g(13mmol)加え、室温で18時間、80℃で2時間攪拌した。化合物1の消失を確認後、反応液を氷浴下、KOH/K2SO3水溶液に加え、酢酸エチル20mlで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後、内部標準としてフルオロベンゼン481mg(5mmol)を添加し、19F-NMRにて収率を求めた。
比較例4
表3に記載した反応条件を用いて、比較例3と同様に実施した。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例15
20mlのフッ素樹脂容器に化合物4を392.6g(2.0mmol)、IF5を799mg(3.6mmol)、Et3N-3HFを726mg(4.5mmol)加え、室温で18時間、80℃で5時間攪拌した。化合物4の消失を確認後、反応液を氷浴下、KOH/K2SO3水溶液に加え、酢酸エチル20mlで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後、内部標準としてフルオロベンゼン96.1mg(1mmol)を添加し、19F-NMRにて収率を求めた。
【0047】
【化4】

【0048】
実施例16〜19、比較例5
表4に記載した反応条件を用いて、実施例15と同様に実施した。
【0049】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素化され得る少なくとも1つの芳香環と非芳香族炭素原子に結合した1以上の水素原子を有する有機化合物をフッ素化試薬と反応させて、少なくとも1個の前記水素原子がフッ素原子で置換された有機化合物を製造する方法であって、前記フッ素化試薬がIF5と有機塩基フッ酸塩を含み、IF5と有機塩基フッ酸塩のモル比が1:1.25から1:10の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする、前記芳香環のヨウ素置換を抑制しながらフッ素化された有機化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記芳香環がベンゼン環およびナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IF5と、有機塩基フッ酸塩のモル比が、1:2から1:5の範囲となるよう混合されたフッ素化試薬を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機塩基とフッ酸(HF)のモル比が、1:2.5から1:3.5の範囲となるよう混合された有機塩基フッ酸塩を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
有機塩基が第三級アミンである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
有機塩基がトリアルキルアミンである請求項5記載の方法。
【請求項7】
有機塩基フッ酸塩が(C2H5)3N・3HFである請求項6記載の方法。
【請求項8】
フッ素化される有機化合物が式(1):
R1R2CH−SR3 (1)
(R1、R2は同一かまたは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アシル基、複素環基、−CONR(R及びRは、独立して水素原子、アルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す、)、アルキルスルフィニル基、アラルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、シクロアルキルスルフィニル基、ヘテロシクロアルキルスルフィニル基、複素環基の結合したスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シクロアルキルスルホニル基、ヘテロシクロアルキルスルホニル基、複素環基の結合したスルホニル基、シアノ基またはニトロ基であり、いずれの基も置換基を有していてもよい。またR1、R2が、結合して環状構造を成してもよい。R3は、ヨウ素が置換し得る配向上の位置が水素原子であるアリール基であり、その他の位置は置換基を有していてもよい。)
で表されるスルフィド基を有する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−151894(P2006−151894A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346524(P2004−346524)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】