説明

井戸構造及び井戸構造の構築方法

【課題】土砂地盤に設けた井戸穴とケーシングとの間へフラクチャリング流体を圧送するための吐出管を配置した井戸構造を提案する。
【解決手段】井戸穴4内に挿入したケーシング6の内部に形成した内部領域Aと、井戸穴とケーシングとの間隙内に埋め戻し材を充填して形成した中間領域Bと、上記中間領域内に、この中間領域の周囲の土砂地盤に分解性を有するフラクチャリング流体を吐出することで土砂地盤を裂いて水みち20を形成したフラクチャー領域Cとからなり、上記フラクチャリング流体に粒状の支持材を混合させることで、水みちに支持材22を充填させるとともに、フラクチャリング流体が分解することで支持材の間に空隙を設けるリチャージ井戸構造であって、上記中間領域内に、側外方に開口するフラクチャリング流体吐出口を有する吐出管12を縦設し、上記支持材を土砂地盤の平均粒径より大径の粗粒材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、井戸構造及び井戸構造、例えばリチャージ井戸構造及びリチャージ井戸構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
井戸の構造として、井戸穴から周囲の地盤へ水を圧入して、地盤を割裂することで水みちをつくることが行われている(特許文献1)。
【0003】
また井戸地層を破砕するために、水の代わりに、粒子状の支持剤を含みかつ支持剤を沈殿させずに懸濁状態で保持できる程度の粘性を有する高粘性破砕液体を用いることが行われている(特許文献2の第3コラム第2〜7行目)。支持剤を用いることにより液体の圧入を停止した後に水みちが閉塞することを防止できる。高粘性流体としては例えばグアーガムを用いることができるとされている(同文献第4コラム第40〜41目)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−269861
【特許文献2】特公昭54−21311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜2では、井戸の回りの地盤がどのような種類のものであるかが必ずしも明確ではないが、地盤の割裂又は破砕という用語を用いているように、この種のフラクチャリング技術は主に固い地盤を割るための技術であり、より柔軟な土砂地盤を対象とする場合の問題点に関してはあまり検討されていない。
【0006】
例えば破砕用のフラクチャリング液体を井戸穴の一か所から柔らかい地盤へ向けて噴射した場合には、液体の一部が土砂を通って井戸穴内へ逆流するおそれがある(本願図5参照)。井戸穴とは別に液体圧送用の吐出管を建て込むこともできるが、それでは余分なコストがかかる。
【0007】
また岩盤を割って水みちを形成する場合と異なり、土砂地盤を対象とするときには、水みちの境界が強固ではなく、水みちに隣接する土砂が水みちの空間内へ崩れてくる可能性が高い。こうした環境内で水みちを支えるためには、周囲の土砂の平均粒径よりも大きな粗粒材を用いることが必要である。
【0008】
他方、岩盤の透水係数が10−5〜10−8cm/sであるのに対して、土砂地盤の透水係数は10−4〜10−2cm/s程度である。故に岩盤を割って水みちを形成するために必要なフラクチャリング流体の吐出圧力に比べて、土砂地盤を断裂させて水みちを形成するために必要な吐出圧力は小さい。吐出圧力が小さいことは圧送ポンプなどの施設の面では有利であるが、地盤への噴入圧力が低下し、他方、流体中の支持材の粒径は相対的に大きくなるので、フラクチャリング流体から支持材が分離する可能性も高まる。こうした不都合が起きないように支持材の粒径やフラクチャリング流体の粘性を選定する必要がある。
【0009】
本発明の第1の目的は、土砂地盤に穿設された井戸穴の内面とケーシングとの間にフラクチャリング流体圧入用の内の吐出管を配置した井戸構造を提案することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、上記井戸構造をフラクチャリング流体の逆流を生ずることなく、構築することが可能な井戸構築方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の手段は、
土砂地盤中に穿設した井戸穴内に、下部に通水部を有するケーシングを挿入することで、このケーシング内に形成した内部領域と、
井戸穴とケーシングとの間隙内に埋め戻し材を充填して形成した中間領域と、
上記中間領域内に、この中間領域の周囲の土砂地盤に分解性を有するフラクチャリング流体を圧送することで土砂地盤を裂け目を生じさせ、中間領域から側外方へ延びる水みちを形成したフラクチャー領域とからなり、
上記フラクチャリング流体に粒状の支持材を混合させることで、水みちに支持材を充填させるとともに、フラクチャリング流体が分解することで支持材の間に空隙を設ける井戸構造であって、
上記中間領域内に、当該領域の下部で側外方に開口するフラクチャリング流体吐出口を有する吐出管を縦設し、
上記支持材を土砂地盤の平均粒径より大径の粗粒材としている。
【0012】
本手段は、図1に示すようにケーシング内側の内部領域Aとケーシングと井戸穴との間の中間領域と井戸穴の回りの土砂地盤に形成されたフラクチャー領域とで形成される井戸構造において、フラクチャリング流体吐出用の吐出管を中間領域に設けることを提案する。井戸穴と別に吐出管を建て込む場合に比べて施工コストを低減できる。フラクチャー領域の水みち内に適用する支持材は土砂地盤の平均粒径よりも大径の粗粒材とする。岩盤に比べて崩れやすい土砂地盤中の水みちを維持するためである。好適な図示例では、中間領域の下部をフィルター部16とし、このフィルター部の外周部に吐出管を位置させている。その理由は後述する。また、ケーシングの上部を閉塞する封止手段を設けてもよい。粗粒子材の粒径の上限値及び下限値に関しては後述する。
【0013】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ上記粗粒材の径を0.1〜2.8mmとしている。
【0014】
本手段は、土壌地盤に水みちを形成するために好適な粗粒材の粒径を提案している。粒径が過剰に小さいと、土壌地盤中では粒材が土壌と混合して水みちとしての機能が損なわれるから、また粒径が大きすぎると、フラクチャリング流体と粗粒材とが分離するおそれがあるからである。水みちの透水係数は原地盤の2〜10倍とすることが好適であり、こうした透水係数となるように粗粒材の粒径を選択することが好適である。その手順は後述する。具体的には粗粒材の20%粒径を原地盤の20%粒径の1.3〜2.8倍程度にするとよい。これにより粗粒材の透水係数は土砂地盤の透水係数の2〜10倍程度となる。これについては後述する。また粗粒子の20%粒径の上限は、吐出管の吐出口の口径の1/5未満とするとよい。
【0015】
第3の手段は、井戸構造の構築方法であり、
井戸穴の周囲にフラクチャー領域を含む井戸構造を構築する方法であって、
土砂地盤に井戸穴を穿設するとともに、この井戸穴内にケーシングを挿入する段階と、
井戸穴とケーシングとの間隙内に、側外方へ開口するフラクチャリング流体吐出口を有する吐出管を挿入する段階と、
上記井戸穴とケーシングとの間隙内に、埋め戻し材を充填する段階と、
上記ケーシング内に、第1粘性流体を充填する段階と、
上記吐出管から周囲の土砂地盤へ、土砂地盤を裂くために必要な吐出圧力でフラクチャリング流体である第2粘性流体を吐出し、かつ第2粘性流体とともに粗粒材を吐出する段階と、を含み、
第2粘性流体は、1000cp以上の粘性を有し、
第1粘性流体の粘性は、第2粘性流体の粘性よりも小さく、ケーシング内に上記吐出圧力と等しい圧力が加えられたときに土壌に浸透しない程度に大きい値に設定している。
【0016】
本手段は、井戸構造の構築方法であって、土砂地盤に第2粘性流体であるフラクチャリング流体を吐出する前に、ケーシング6内に第1粘性流体Vを吐出することを提案している(図7及び図8参照)。そうしなければ第2粘性流体がケーシング内に逆流するからである。第2粘性流体を吐出する行程の前には、ケーシングの上部を閉塞することが望ましい。本手段は、第1の手段の井戸構造を構築する方法として好適である。
【0017】
第4の手段は、既存の井戸穴を改造して井戸構造を構築する方法であって、
井戸穴の外側の土砂地盤に吐出管を打ち込む段階と、
上記ケーシング内に、第1粘性流体を充填する段階と、
上記吐出管から周囲の土砂地盤へ、土砂地盤を裂くために必要な吐出圧力でフラクチャリング流体である第2粘性流体を吐出し、かつ第2粘性流体とともに粗粒材を吐出する段階と、を含み、
第2粘性流体は、1000cp以上の粘性を有し、
第1粘性流体の粘性は、第2粘性流体の粘性よりも小さく、ケーシング内に上記吐出圧力と等しい圧力が加えられたときに土壌に浸透しない程度に大きい値に設定している。
【0018】
本手段は、既存の井戸穴を改造して井戸構造を構築する方法であり、図13及び図14に示すように井戸穴の外に吐出管を打ち込む。井戸穴とケーシングとの間には既に埋め戻し材が充填されており、新設の井戸のように井戸穴とケーシングの間に吐出管を挿入した後に埋め戻し材を充填することができないからである。既存の井戸穴の改造方法なので、先の手段のうちの井戸穴の穿設・ケーシングの挿入・吐出管の挿入・埋め戻し材の充填の各段階は省略されている。1000cp以上の粘性は、土砂地盤に裂け目を生じさせるために必要である。
【0019】
第5の手段は、第3の手段又は第4の手段を有し、かつ
上記第2粘性流体の吐出段階において、まず粗粒材を含まない第2粘性流体を吐出し、次に粗粒材を含む第2粘性流体を吐出している。
【0020】
本手段は、支持材とフラクチャリング流体(第2粘性流体)との分離を生じにくい吐出方法を提案している。すなわち最初にフラクチャリング流体を土砂地盤に圧送するときには大きな抵抗があり、流れが吐出管中で停滞するので、支持材が分離し、沈殿するなどの不都合を生じ易い。そこで最初の段階では支持材を含まないフラクチャリング流体Fを吐出し(図9参照)、水みちが形成された後に支持材22を含むフラクチャリング流体Fを吐出するようにしている。
【発明の効果】
【0021】
第1の手段に係る発明によれば、土砂地盤の平均粒径より大径の粗粒材を水みちの支持材としたから、土壌内に水みちと維持しやすく、また吐出口を井戸穴内に形成するから、施工コストを低減できる。
第2の手段に係る発明によれば、少なくとも粗粒材の粒径が0.1〜2.8mmの範囲であれば、フラクチャリング流体の濃度の選定によりフラクチャリング流体により粗粒材を搬送することができる。
第3の手段又は第4の手段に係る発明によれば、土砂地盤に浸透しない程度の粘性を有する第1粘性流体をケーシング内に充填したから、フラクチャリング用の第2粘性流体を吐出管から吐出しても、第2粘性流体がケーシング内に流れ込むことを防止できる。
第4の手段に係る発明によれば、初期吐出段階において、第2粘性流体のみを吐出することで、裂け目発生の時間的遅れによる管内の粗粒材沈降による目詰まりを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る井戸構造の縦断面図である。
【図2】図2に示す構造の一部拡大図である。
【図3】図1の井戸構造であって水みちを形成する前の形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明との比較例として図1の井戸構造が空の状態でフラクチャリング流体を吐出した場合の作用を縦断面図で示す説明図である。
【図5】図4の作用を横断面図で示す説明図である。
【図6】図1の井戸構造のフィルター部の作用を示す横断面図である。
【図7】図1の井戸構造において第1粘性流体の充填方法の一例を示す説明図である。
【図8】図1の井戸構造において第1粘性流体の充填方法の他の一例を示す説明図である。
【図9】図1の井戸構造において、支持材を混入せずにフラクチャリング流体を吐出する行程を示す図である。
【図10】図1において、支持材を混入したフラクチャリング流体を吐出する行程を示す図である。
【図11】支持材の沈降による移動距離と吐出時間との関係を表すグラフである。
【図12】吐出設定時間と吐出する流体の総量との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の第2実施形態に係る井戸構造の横断面図である。
【図14】図13の井戸構造の縦断面図である。
【図15】本発明の実施に用いられる土質試料の粒径加積曲線である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1から図12は、本発明の第1の実施形態に係る井戸構造及びその構築方法を示している。本実施形態では、本発明をリチャージ井戸構造に適用しているが、それ以外の井戸構造に適用しても構わない。図1に井戸構造の完成形態を示している。
【0024】
この井戸構造2は、土砂地盤中に穿設した井戸穴4と、この井戸穴の内面との間に一定の間隔を存して挿入されたケーシング6とを具備する。本明細書において井戸構造とは、ケーシング内に形成した内部領域A、ケーシング6の外面と井戸穴4の内面との間に形成される中間領域Bの他に、土砂地盤のうち井戸穴を囲む部分であって水みちを有するフラクチャー領域Cとを含むものとする。
【0025】
本願明細書において、「土砂地盤」とは少なくとも一定深度において土層、砂層、又は土・砂混合層が存在する地盤をいうものとする。井戸穴4は、それら土層などの深度まで到達するように穿設する。
【0026】
上記ケーシング6は、好ましくは井戸穴4内に同心状に挿入された管体であって、下端部に通水部6aを有し、下端部を除く部分は止水部6bとしている。このケーシング6は、井戸穴の下部まで延びており、またケーシング6の上端には封止手段8である蓋部を設けている。
【0027】
このケーシング6の内側の内部領域A内には、図1に示すように、下端に揚水ポンプを有する揚水管17と、注水管18とを挿入している。これら揚水管及び注水管は、上記蓋部を気密に貫通させている。揚水管及び注水管は、フラクチャリングを行った後に取り付ければよい。
【0028】
井戸穴4の内面とケーシング6の外面との間には、井戸穴下部に吐出口14を有する吐出管12を垂下する。このケーシングの上部は地上に配置した図示しないフラクチャリング流体搬送部に連続している。また、上記吐出口14は、ケーシング6と反対側へ、すなわち井戸穴の側外方へ向いている。
【0029】
図示例では、吐出管12を井戸穴4の内面に沿って配置し、吐出口14付きの吐出管部分が中間領域Bのフィルター部16の外周部に位置するように構成している(図6参照)。すなわち、吐出口14は、フィルター部16を介在させずに直接井戸穴内面に配向されている。仮にフィルター部16の内周部に配置した吐出管12から側外方へフラクチャリング流体を吐出すると、第1に土砂地盤に流体が到達する前にフラクチャリング流体の勢いが低減する、第2にフィルター部を構成する骨材も側外方へ押し流され、フィルター部の機能が阻害される(井戸構造を損傷する)という不都合を生じ得る。本願の場合には、こうした不都合を回避できる。なお、図示例では説明上、吐出管12が一本のみ記載されているが、実施では適宜に複数本を直接井戸穴内面に沿って配向されている。
【0030】
さらに上記井戸穴4の内面とケーシング6の外面との間隙内に埋め戻し材が投入され、これにより中間領域Bが構成される。少なくとも上記間隙の下部は透水性を有するフィルター部16とする。間隙の残りの部分は非通水性の粘土などで埋めることができる。
【0031】
上記井戸穴4の回りの土砂地盤のうちで吐出口14に連続する部分は、フラクチャー領域Cとして形成する。本願明細書において「フラクチャー領域」とは、水みち20を開通することで透水性を向上させた領域をいうものとする。この水みち20の透水係数は原地盤の透水係数の2〜10倍であることが望ましい。
【0032】
上記水みち20内には、粒状の支持材22を充填している。支持材22は、少なくとも周囲の土砂地盤の平均粒径より大きな粗粒材を用いる。支持材22の粒径は、0.1〜2.8mmの範囲で、一般的な土砂地盤の粒径(通常は0.074〜2mm)よりも大きくすることが望ましい。支持材の材質は硅砂などが好適である。
【0033】
上述のように水みちの透水係数を土砂地盤の透水係数の2〜10倍とするためには、粗粒材そのものの透水係数を土砂地盤の透水係数の2〜10倍とすればよい。そのための粗粒材の粒径の選定基準を説明する。まず土砂地盤の20%粒径をD、透水係数をK、粗粒材の20%粒径をD、透水係数をKとした場合、後述するクレーガーの表の近似式から以下の関係が成り立つ。
[数式1]K≧K×2
[数式2]K=αDβ
[数式3]K=αDβ
ここで、α=0.3441、β=2.2954(段落0059の近似式を参照)とすると数式1〜3から
[数式4]D≧D×2(1/β)=1.3525×D
となる。つまり粗粒材の20%粒径は原地盤のそれの約1.3倍となる。
【0034】
上記支持材22はフラクチャリング流体により地盤のフラクチャー(裂け目)内へ搬送される。そして搬送後にフラクチャリング流体が分解することで周囲の土砂に比べて透水性の高い水みち20が完成する。フラクチャリング流体は自己分解性流体(グアーガムなど)を用いることができる。
【0035】
上記構成によれば、井戸穴を新設するときに、井戸穴の中間領域B内に吐出管を埋め込むから、別に吐出管を建て込む場合に比べて低コストで井戸構造を構築できる。また吐出管12の吐出口14を側外方へ開口しているから、土砂地盤側へ指向的にフラクチャリング流体を圧入し、水みち20を構成することができる。これにより井戸穴4の周りの透水性が向上し、揚水、及び注水行程を効率的に行うことができる。なお、フラクチャリング流体の吐出は、井戸穴構造の構築後も適宜行い、透水性の維持を図ることが好ましい。
【0036】
また土砂地盤中に形成された水みちは、周囲の土砂が崩れることで閉塞され易いが、周囲の土砂の平均粒径よりも大きい粗粒材により、周囲の土砂の土圧を効果的に支え、水みちを維持する。もちろん粗粒材の粒子同士の間隙にある程度の土砂が進入するであろうが、周囲の土砂に比べると、その間隙は密度が低くかつ空隙が多いので水みちとして十分に機能する。
【0037】
次に井戸構造の構築方法について説明する。
【0038】
第1に、土砂地盤に井戸穴4を穿設するとともに、この井戸穴内に同心状にケーシング6を挿入する。ケーシングの通水部6aは井戸穴の下部に位置させる。
【0039】
第2に、井戸穴4とケーシング6との間隙内に、側外方へ開口するフラクチャリング流体の吐出口14を有する吐出管12を挿入する。吐出口14は、ケーシングの通水部と同じ高さに位置させるとよく、かつケーシングと反対側に配向させるものとする。また吐出管は井戸穴4の内面に沿って配置する。また吐出口14の孔径は、粗粒材の20%粒径の5倍以上とすることが好適である。吐出口が目詰まりを生じないようにするためである。
【0040】
第3に、上記井戸穴4とケーシング6との間隙内に、埋め戻し材を充填する。この間隙の下部には、フィルター部を構成する大径の石や礫などの透水性材料を投入し、下部を除く空間部分は、粘土などの非透水性材料で充填するとよい。埋め戻し材を充填することで、ケーシング6が固定される。
【0041】
ケーシング6が固定された後に、このケーシング内部に挿通管10を挿設するとともに、封止手段8でケーシング上部を密閉する(図1参照)。後述のフラクチャリング流体がケーシング内に逆流しないようにするためである。
【0042】
第4に、上記ケーシング6内に、上記挿通管10を介して第1粘性流体Vを充填する。第1粘性流体Vは、図7に示すように封止手段8で密閉されたケーシング6の内部全部に充填させてもよく、また井戸穴の深さが大きいときには、図8に示すように後述のフラクチャリング流体の吐出圧と釣り合う程度の深さまで第1粘性流体Vを充填しても構わない。
【0043】
上記第1粘性流体Vは、フラクチャリング流体より低粘度であるが、周囲の土砂地盤に浸透しない程度の粘性を有するものとする。フラクチャリング流体を土砂地盤中に吐出したときに、当該流体がケーシング内へ逆流しないようにするためである。ケーシング6内へ充填する第1粘性流体の量は、フラクチャリング流体の逆流を防止できる程度に設定すればよい。第1粘性流体の粘性などについては後述する。
【0044】
ここで土壌に対する通水性の大きさは、K=(ρg/μ)k=(g/ν)kで表わされる(ダルシー則)。但し、Kは透水係数[L/T]、kは透過係数[L],ρ[M/L]は密度、μ[M/LT]は動粘性係数、ν[L/T]は粘性係数である。第1粘性流体Vの粘性係数は土砂地盤の透過係数kに応じて定める。
【0045】
第5に、上記吐出管から周囲の土砂地盤へ、所要の吐出圧力でフラクチャリング流体である第2粘性流体を吐出する。このフラクチャリング流体は後述するように複数のステージに分けて段階的に行うことが好適である。
【0046】
フラクチャリング流体は、自己分解性を有する粘性流体、例えばグアーガムとすることができる。支持材22を含むフラクチャリング流体を土砂地盤中に圧送すると、この地盤の弱い部分を流路として当該流体が流れ込み、上記圧送後数日間のうちに自己分解性流体が分解して、水と同じ程度の粘性となり、支持材22を通路に残して流失する。これにより通水性の高い水みち22が完成する。
【0047】
本実施形態では、この行程の第1ステージ(図9参照)で支持材を含まないフラクチャリング流体を吐出し、第2ステージ(図10参照)以降で支持材を含むフラクチャリング流体を吐出する。第1のステージである程度の水みち20を作り、第2のステージで支持材22を含むフラクチャリング流体を吐出するので、当該流体の吐出がスムーズとなり、フラクチャリング流体から支持材が分離、沈殿することを防止するためである。なお、分離率が10%を超えるとポンプ圧送による配管内で材料分離を生じ、地盤中への吐出が不可能となる。
【0048】
第2ステージ以降では、フラクチャリング流体に対する支持材22の配合量を徐々に増加させることが好適である。これにより土砂地盤内での支持材22による早期の目詰まりを防止し、改良範囲を向上させつつ、フラクチャー領域C全体に支持材22を充填させることができる。
【0049】
フラクチャリング流体の粘性は、土砂地盤を裂くのに吐出口付近の動水勾配を大きくするため、1000cp以上とする。またフラクチャリング流体の粘性は支持材22の早期の沈降による目詰まりを抑制するためにも1000cp以上とする。
【0050】
施工サイクルは、支持材(粗粒材)の粒径と、流体の粘性の沈降速度をストークス式により算定し、施工に用いる吐出管12の径、施工機械の突出量から吐出の1サイクルにおける吐出材料の量を設定する。
【0051】
すなわち、ストークス式によれば、粘性率ηの流体中を半径aの球が速度Uで動くときに、その球にはD=6πηaUの大きさの抵抗が働く。球の質量をmとして重力mgを抵抗と等しいとおくと、沈降速度はU=mg/(6πηa)となる。
【0052】
図示していないが吐出管12のうち地上に配置された部分では、支持材が沈降して詰まる可能性がある。図11のグラフは、沈降による支持材の移動距離と設定吐出時間との関係を表わしている。この関係は一次関数となり、その傾きは前述の沈降速度によって決定される。移動距離として吐出管の水平部分の管径を入力すると、支持材の粒子が管径分の長さを移動することに要する時間が決定される。この時間が、一度のサイクルで吐出が可能な時間、すなわち設定吐出時間である。図12は、設定吐出時間と吐出装置の性能による圧送可能な流体(フラクチャリング流体及び支持材の混合流体)の総量である。設定吐出時間を代入して、圧送可能な流体の総量を求める。
【0053】
図13及び図14は、本発明の第2実施形態に係る井戸構造及び構築方法を示している。本実施形態では、既存の井戸構造を改造して井戸構造を構築するものである。この場合には、ケーシング6と井戸穴4との間には既に埋め戻し材で充填されているので、井戸穴4の外の土砂地盤に吐出管12を埋め込むものとする。
【0054】
上記吐出管12は井戸穴4の近傍に縦設するものとし、また好適な図示例では、吐出口14は吐出管12のうち井戸穴と反対側に穿設されている。これによりフラクチャリング流体が井戸穴4側へ向かう圧力を小さくすることができる。
【0055】
井戸構造の構築方法においては、第1実施形態と同様にフラクチャリング流体を吐出する前に、井戸穴4とケーシング6との間に第1粘性流体を吐出することが重要なポイントである。吐出管12を設置した後の手順に関しては、第1実施形態で記載したことを援用する。
【実施例】
【0056】
粗粒材の最小粒径の選定の手順の具体例を説明する。図15は、原地盤の粒度分布の状態を、通過質量百分率を縦軸に算術目盛で、粒径を横軸に対数目盛で表した曲線(粒径加積曲線)である。この例では、図15によれば20%粒径は0.25mmである。
【0057】
原地盤の透水試験を行い、例えば原地盤の透水係数が1.40×10−2cm/secとなったとする。吐出材料の透水係数を原地盤の透水係数の2倍とすると、吐出材料の透水係数は2.80×10−2cm/secとなる。
【0058】
次の表1はクレーガーの表といって、特定の%粒径(この場合には20%粒径)と透水係数との関係を表す公知の表である(出展:「掘削のポイント」土質工学会)。この表によれば2.8×10−2cm/secという透水係数に対応する20%粒径は0.33mmである。
【0059】
【表1】

【0060】
なお、クレーガーの表に代えて適当な近似式(例えばK=0.3441D202.2954)をたてて利用しても構わない。
【0061】
なお、上記各実施形態及び実施例は、好適な一例であり、本発明の技術的意義に反しない限り本願の特許請求の範囲から導かれる他の実施態様を除外するものではない。
【符号の説明】
【0062】
2…井戸構造 4…井戸穴 6…ケーシング 6a…通水部
6b…止水部 8…封止手段 10…挿通管 12…吐出管 14…吐出口
16…フィルター部 18…注水管 20…水みち 22…支持材
A…内部領域 B…中間領域 C…フラクチャー領域 F…第2粘性流体
V…第1粘性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂地盤中に穿設した井戸穴内に、下部に通水部を有するケーシングを挿入することで、このケーシング内に形成した内部領域と、
井戸穴とケーシングとの間隙内に埋め戻し材を充填して形成した中間領域と、
上記中間領域内に、この中間領域の周囲の土砂地盤に分解性を有するフラクチャリング流体を吐出することで土砂地盤を裂け目を生じさせ、中間領域から側外方へ延びる水みちを形成したフラクチャー領域とからなり、
上記フラクチャリング流体に粒状の支持材を混合させることで、水みちに支持材を充填させるとともに、フラクチャリング流体が分解することで支持材の間に空隙を設ける井戸構造であって、
上記中間領域内に、当該領域の下部で側外方に開口するフラクチャリング流体吐出口を有する吐出管を縦設し、
上記支持材を土砂地盤の平均粒径より大径の粗粒材としたことを特徴とする、井戸構造。
【請求項2】
上記粗粒材の径を0.1〜2.8mmとしたことを特徴とする、請求項1記載の井戸構造。
【請求項3】
井戸穴の周囲にフラクチャー領域を含む井戸構造を構築する方法であって、
土砂地盤に井戸穴を穿設するとともに、この井戸穴内にケーシングを挿入する段階と、
井戸穴とケーシングとの間隙内に、側外方へ開口するフラクチャリング流体吐出口を有する吐出管を挿入する段階と、
上記井戸穴とケーシングとの間隙内に、埋め戻し材を充填する段階と、
上記ケーシング内に、第1粘性流体を充填する段階と、
上記吐出管から周囲の土砂地盤へ、土砂地盤を裂くために必要な吐出圧力でフラクチャリング流体である第2粘性流体を吐出し、かつ第2粘性流体とともに粗粒材を吐出する段階と、を含み、
第2粘性流体は、1000cp以上の粘性を有し、
第1粘性流体の粘性は、第2粘性流体の粘性よりも小さく、ケーシング内に上記吐出圧力と等しい圧力が加えられたときに土壌に浸透しない程度に大きい値に設定したことを特徴とする、井戸構造の構築方法。
【請求項4】
既存の井戸穴を改造して井戸構造を構築する方法であって、
井戸穴の外側の土砂地盤に吐出管を打ち込む段階と、
上記ケーシング内に、第1粘性流体を充填する段階と、
上記吐出管から周囲の土砂地盤へ、土砂地盤を裂くために必要な吐出圧力でフラクチャリング流体である第2粘性流体を吐出し、かつ第2粘性流体とともに粗粒材を吐出する段階と、を含み、
第2粘性流体は、1000cp以上の粘性を有し、
第1粘性流体の粘性は、第2粘性流体の粘性よりも小さく、ケーシング内に上記吐出圧力と等しい圧力が加えられたときに土壌に浸透しない程度に大きい値に設定したことを特徴とする、井戸構造の構築方法。
【請求項5】
上記第2粘性流体の吐出段階において、まず粗粒材を含まない第2粘性流体を吐出し、次に粗粒材を含む第2粘性流体を吐出したことを特徴とする、請求項3又は請求項4記載の井戸構造の構築方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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