説明

亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤

【課題】 亜鉛もしくは亜鉛合金製品に低コストで、優れた耐食性を付与しうる表面処理剤を得る。
【解決手段】 本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤はアンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上を含有する。好適には、さらにニッケル塩および/またはマンガン塩を含有し、もっと好適にはタンニン類および/またはチオ尿素類をさらに含有する。これらの表面処理剤を含有する水溶液に浸漬処理された亜鉛もしくは亜鉛合金製品を、それらの亜鉛もしくは亜鉛合金製品の色調に応じて選定された封孔処理剤を含有する水溶液に浸漬してピンホールを封孔するのが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤、ならびにそれを用いた亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛ダイカスト製品、または鉄鋼等に亜鉛めっきした亜鉛めっき製品は、種々の分野で使用されている。そして、これらは耐食性を付与するために表面処理としてクロメート処理が広く用いられていたが、六価クロムの毒性から、各方面で代替法の検討が行われている。しかしながら、低コストで、かつ耐食性の点でクロメート処理と同等以上の表面処理法に対する期待はなお大きい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者は、亜鉛もしくは亜鉛合金製品に低コストで、優れた耐食性を付与しうる表面処理剤を得るために、種々検討を行い本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤;
(2)アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上;ならびにニッケル塩および/またはマンガン塩、を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤;
(3)アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上;ニッケル塩および/またはマンガン塩;ならびにタンニン類および/またはチオ尿素類、を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤;
(4)ニッケル塩およびマンガン塩が硫酸塩、塩化物、硝酸塩およびリン酸塩から選ばれる(2)もしくは(3)記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤;
(5)さらに、無機酸類およびヨウ素化合物から選ばれる無機系添加剤を含有する(1)〜(4)のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤;
(6)さらに、アミノ酸類、でんぷん、セルロース、ゼラチン、松脂およびポリビニルアルコールから選ばれる有機系添加剤を含有する(1)〜(5)のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
(7)(1)〜(6)のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤を含有する水溶液に、亜鉛もしくは亜鉛合金製品を浸漬することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法;
(8)さらに、封孔処理剤を含有する水溶液に亜鉛もしくは亜鉛合金製品を浸漬することを特徴とする(7)記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法;ならびに
(9)封孔処理剤が亜鉛もしくは亜鉛合金製品の色調に応じて選定される(8)記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、亜鉛もしくは亜鉛合金製品に低コストで、優れた耐食性を付与しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤はアンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上を含有する。好適には、さらにニッケル塩および/またはマンガン塩を含有し、もっと好適にはタンニン類および/またはチオ尿素類をさらに含有する。
【0007】
亜鉛もしくは亜鉛合金製品としては、たとえば亜鉛ダイカスト製品、または鉄鋼等に亜鉛めっきした亜鉛めっき製品が挙げられ、少なくともその表面が亜鉛もしくは亜鉛合金であればよい。
【0008】
アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物としては、酸性もしくはアルカリ性下に水溶性であるものを含み、たとえば五塩化アンチモン、五酸化アンチモン、硫酸アンチモン、三臭化アンチモン、三塩化アンチモン、三酸化アンチモン、三硫化アンチモン、安息香酸アンチモン、酒石酸アンチモン、塩化ビスマス、クエン酸ビスマス、フッ化ビスマス、水酸化ビスマス、三ヨウ化ビスマス、硫酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、酢酸ビスマス、安息香酸ビスマス、酒石酸ビスマス、炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、サルチル酸ビスマス、三硫化ビスマス、テルル酸カリ、亜テルル酸カリ、スズ酸カリ、硫酸スズ、等が挙げられる。配合量は、水溶性化合物の種類等によっても異なるが、通常0.5〜50g/L程度、好ましくは1〜20g/L程度である。
【0009】
本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤は、これらのアンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上を含有するが、特にアンチモンもしくはビスマスは亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面に皮膜を形成した後に、水にぬれても再反応性を有しさらに皮膜を形成するので耐食性の寿命を長くするので好適である。また、アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズの2種類、3種類もしくは4種類を併用することにより、皮膜の密着性、硬さ、平滑性の向上、または色調の調整等をさらに有効に行いうる。このような観点から、併用に際して特に好適な組み合わせは、アンチモンおよび/またはビスマスを含む2種類以上の組み合わせである。色調に関しては、アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズの配合を多くすると、それぞれ黒味、灰黒色味、白味および白味を増す傾向がある。
【0010】
本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤は、これらのアンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上に加えて、さらにニッケル塩およびマンガン塩を含有するのが耐食性補強のために好適である。配合量は、通常1〜20g/L程度、好ましくは5〜10g/L程度である。
【0011】
ニッケル塩およびマンガン塩としては好ましくは硫酸塩、塩化物、硝酸塩およびリン酸塩から選ばれる。これらのニッケル塩およびマンガン塩は、耐食性を補強し得るが、たとえば硫酸マンガンが密着性向上による耐食性を向上させるのに最も好適であり、ニッケル塩、特に硫酸ニッケルの場合には、次亜リン酸塩と併用すると耐食性に加えて硬さの向上に最も好適である。この次亜リン酸塩の配合量は、通常1〜20g/L程度、好ましくは5〜10g/L程度である。
【0012】
また、さらにタンニン酸等のタンニン類および/またはチオ尿素もしくはその塩等のチオ尿素類を含有させることにより、分散性を向上させて耐食性をさらに向上しうるとともに光沢を増し鮮やかな色調を得ることができる。これらの配合量は、通常5〜50g/L程度、好ましくは10〜30g/L程度である。
【0013】
そしてさらに、本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤は、目的に応じてさらに種々の添加剤を添加しうる。たとえば硫酸、塩酸等の硝酸を除く無機酸類ならびにヨウ素、ヨウ化カリウム等のヨウ素化合物から選ばれる無機系添加剤、アミノ酸類、でんぷん、セルロース、ゼラチン、松脂およびポリビニルアルコールから選ばれる有機系添加剤が挙げられる。配合量は、通常0.5〜10g/L程度、好ましくは1〜5g/L程度である。これらの添加剤を含有させることにより、皮膜を緻密化し、硬さを向上させ、耐食性のさらなる長寿命化を達成しうる。
【0014】
本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤は酸性〜アルカリ浴として用いうる。反応速度は酸性側で大きく、アルカリ側で小さい傾向を示すので、適度な反応性を得るために特に好適にはpH4〜5程度で用いられるが、これらに制限されない。
さらに、本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤は目的に応じて上記以外の各種添加剤、たとえば分散剤、分散促進剤、さらには目的とする色調を付与するための配合剤、等を適宜用いることができる。
【0015】
本発明の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤を用いて、亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理を行うに際しては、この表面処理剤を含有する水溶液に、亜鉛もしくは亜鉛合金製品を浸漬して、亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面にアンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上の耐食性皮膜を形成させる。皮膜の厚さは目的により適宜選定しうるが、通常0.5〜2μmである。亜鉛もしくは亜鉛合金製品の浸漬処理に際しては、表面に付着した酸化物を脱脂、酸洗、中和、エッチング等の常法により予め除去するのが好適である。亜鉛もしくは亜鉛合金製品の浸漬処理は、通常15〜40℃、好ましくは20〜30℃で、通常5分間程度以内で行われる。たとえば40℃を超える温度を用いると、皮膜形成速度が一層大きくなるので、一層厳格な品質管理が望まれる。浸漬処理された亜鉛もしくは亜鉛合金製品は、ついで常法により水洗、乾燥される。このようにして亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面に形成された皮膜の色調は、表面処理剤の成分により異なる。
【0016】
本発明においては、上記のように浸漬処理された亜鉛もしくは亜鉛合金製品を、さらに、封孔処理剤を含有する水溶液に浸漬してピンホールを封孔するのが好適である。封孔処理剤は亜鉛もしくは亜鉛合金製品の色調に応じて選定するのが好適であり、たとえば(黄色)ホウ酸、シュウ酸アンモニウム;(黄褐色)マロン酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、リンゴ酸;(白味黄色)コハク酸;(灰黄色)マレイン酸、等が挙げられる。この封孔処理は上記のような封孔処理剤を好適には5〜10g/L程度含有する水溶液に、通常20〜40℃で1〜5分間程度浸漬して行われる。ついで、純水中で50〜60℃で水洗し、速乾するのが好適である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
硫酸スズ2g/L、硫酸マンガン5g/L、ヨウ素2g/L、ヨウ化カリウム5g/Lおよびタンニン酸10g/Lを含有する水溶液(pH3〜5)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を35℃で2分間浸漬処理し緑色系皮膜を得た。
実施例2
硫酸スズ2g/L、硫酸マンガン5g/L、亜セレン酸1g/L、硫酸8g/Lおよびタンニン酸10g/Lを含有する水溶液(pH5〜6)に、に亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を35℃で2分間浸漬処理し金色系の皮膜を得た。
実施例3
硫酸スズ2g/L、硫酸ニッケル25g/L、次亜リン酸ソーダ20g/L、硫酸アンモニウム30g/Lおよびホウ酸15g/L、グリセリン15g/Lを含有する水溶液(pH約5)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を20℃で2分間浸漬処理しブロンズ調の色の皮膜を得た。
実施例4
酒石酸アンチモン15g/L、硫酸マンガン25g/L、シュウ酸アンモニウム10g/Lおよびチオ尿素5g/Lを含有する水溶液(pH4〜5)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を20℃で2分間浸漬処理し黒色の皮膜を得た。
実施例5
酒石酸アンチモン15g/L、硫酸マンガン25g/L、ピロリン酸2g/L、苛性ソーダ25g/L、チオ尿素5g/Lおよび過マンガン酸カリウム5g/Lを含有する水溶液(pH約10)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を20℃で2分間浸漬処理し黄色系の皮膜を得た。
実施例6
塩化ビスマス3g/L、硫酸マンガン25g/L、苛性ソーダ25g/L、チオ尿素5g/Lおよび過マンガン酸カリウム2g/Lを含有する水溶液(pH約10)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を25℃で2分間浸漬処理し褐色の皮膜を得た。
実施例7
二酸化アンチモン6g/L、硫酸マンガン25g/L、苛性ソーダ30g/L、チオ尿素5g/Lおよび過塩素酸カリウム5g/Lを含有する水溶液(pH約11)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を25℃で3分間浸漬処理しコーヒー色の皮膜を得た。
実施例8
硝酸ビスマス5g/L、硫酸マンガン25g/L、苛性ソーダ30g/L、硝酸亜鉛40g/Lおよびジエチレングリコール50g/Lを含有する水溶液(pH約11)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を40℃で2分間浸漬処理し灰色の皮膜を得た。
実施例9
テルル酸カリ15g/L、硫酸マンガン25g/L、シュウ酸アンモニウム10g/Lおよびチオ尿素5g/Lを含有する水溶液(pH4〜5)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を20℃で2分間浸漬処理し黒色の皮膜を得た。
実施例10
酒石酸アンチモン15g/L、塩化ビスマス5g/L、硫酸マンガン25g/L、シュウ酸アンモニウム10g/Lおよびチオ尿素5g/Lを含有する水溶液(pH4〜5)に、亜鉛めっきした鉄製ボルト(長さ約70mm)を20℃で2分間浸漬処理し黒色の皮膜を得た。
【0018】
上記の実施例1〜10で得られた浸漬処理ボルトに塩水を72時間噴霧し、塩水に対する耐食性を試験したところ、良好な耐食性がみられた。
【0019】
上記の実施例1〜10で得られた浸漬ボルトを、その色調に応じて以下の封孔処理剤5〜10g/L程度含有する水溶液に、通常約30℃で2〜3分間程度浸漬し、ついで純水中で50〜60℃で洗浄し、乾燥したところ、耐食性はさらに向上した。
(緑色)ヨウ素;(金色)亜セレン酸;(ブロンズ色)ホウ酸;(黒色)シュウ酸アンモニウム;(黄色)ピクリン酸;(褐色)過マンガン酸カリ;(コーヒー色)過塩素酸カリ;(灰色)マレイン酸
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、亜鉛もしくは亜鉛合金製品に低コストで、優れた耐食性を付与しうる表面処理剤を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項2】
(1)アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも
1種以上;ならびに(2)ニッケル塩および/またはマンガン塩、を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項3】
(1)アンチモン、ビスマス、テルルもしくはスズを含む水溶性化合物の少なくとも
1種以上;(2)ニッケル塩および/またはマンガン塩;ならびに(3)タンニン類および/またはチオ尿素類、を含有することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項4】
ニッケル塩およびマンガン塩が硫酸塩、塩化物、硝酸塩およびリン酸塩から選ばれる請求項2もしくは3記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項5】
さらに、無機酸類およびヨウ素化合物から選ばれる無機系添加剤を含有する請求項1〜4のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項6】
さらに、アミノ酸類、でんぷん、セルロース、ゼラチン、松脂およびポリビニルアルコールから選ばれる有機系添加剤を含有する請求項1〜5のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品用表面処理剤を含有する水溶液に、亜鉛もしくは亜鉛合金製品を浸漬することを特徴とする亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法。
【請求項8】
さらに、封孔処理剤を含有する水溶液に亜鉛もしくは亜鉛合金製品を浸漬することを特徴とする請求項7記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法。
【請求項9】
封孔処理剤が亜鉛もしくは亜鉛合金製品の色調に応じて選定される請求項8記載の亜鉛もしくは亜鉛合金製品の表面処理方法。